絆レベル10のカルデア   作:ヒラガナ

4 / 18
頭キュケオーンして書いたら一万文字超えました。
それはともかくこれで二話完結です。


第二話:藤丸立香とキュケえもんと名探偵(後編)

藤丸立香はフリルな衣装に袖を通し、ヒラヒラのスカートを腰に巻いて、ピンクで大きなリボンを胸元に装着した。どれも二十年弱の人生において初めての経験である。

 

この前のロンドンで知り合い、当たり前のように同行(ストーキング)し、果てはカルデアまでやって来た英霊ナーサリー・ライム。彼女が好みそうなアリスめいた服装だ。

到底自分に似合うものではない。げんなりとする立香とは対照的に――

 

「いいわ! いいわよ! 素敵以外のナニモノでもないわ!!」

 

メルヘン服飾家のメディアは大層興奮していらっしゃる。カルデアのマスコット・フォウのお株を奪う勢いで「FOOOOO!!」と絶叫もしているし。

血走った目と、血迸る鼻と、血沸き過ぎて逆に青白くなった頬。女装立香を刮目した直後、彼女はキャスターからバーサーカーに鞍替えした。

彼女の中のモデラー魂も沸き立っているらしい。女装立香をフィギュア化すべくペンを走らせデッサンに励んでいる。

 

何てことはない。これは対価だ。

 

 

 

立香のタンスに施されたセキュリティ魔術は、変態レアリティ星5サーヴァントによって破壊された。

三日前にキュケえもんたちがセコムしてくれて、ようやく下着泥棒問題から解放される――と思った矢先のトラブルだ。立香の落ち込みは大きなものだった。けれど、対策を諦めればカルデアは『性犯罪者の巣窟』という汚名を永遠に払拭出来ない。

 

立香はキュケえもんとメディミちゃんを頼った。

下着事件の一部始終を聞いた魔女二人は、変態バイザーに今度会ったらヤキ入れると決意表明しつつ、立香の護身に協力する姿勢を見せた。

 

 

そういうわけで注文する。

 

「妨害系礼装の影響を受けない弱体耐性無効化の性能を持ち、なおかつ魔力EXランクのサーヴァントだろうと解除出来ない魔術ロックを設置してください」

 

魔術に疎い立香でも、これが相当難しい依頼だと分かっている。しかし、世界史に名を残す数多くの英霊(へんたい)に対抗するには神話級の礼装を持ち出さなくてはならない。

 

 

「他ならぬ立香君の願いだ! 応えなくては大魔女の名が廃るってもんさ! 私が一肌脱ごう!」

「ありがとうございます! あ、でも本当に脱がなくていいですよ。服に掛けた手を放してください」

 

キュケえもんの方は快諾したが、メディアは難色を示した。

 

「叔母様、安請け合いはしないでください。理論上は可能ですが、現環境下で素材や触媒を確保出来るのか判断付いていませんし、効果発動に要求される魔力量を計算しないと」

 

「さすがに無茶な要求だとは承知しています。俺に協力できる事があれば何でも……とは言えませんが、抜き挿し関係を除いて善処します」

 

「早速ですがマスターこちらに着替えてください説明は時間の都合上割愛しますがマスターがこの格好で応援することによって礼装作成効率が当私比で2.2の高倍率になりますから一秒でも早く着替えしてください迷っている時間なんてありませんのであしからず」

 

立香の『条件付き何でも』によってメディアは手のひらを華麗に返した。

 

息継ぎも無しでまくし立てる姿は高速神言スキル持ちの面目躍如。

アキレウス並の速度でフリルなお手製衣装を持ち出し、グイグイと立香に押し付けてくる。キャスターは接近戦に弱い、という概念を打ち消す速攻だ。

 

意外なことだが、メディアの持ち味は接近戦にこそある。彼女の持つ宝具『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』は、相手に直接ぶっ刺さなければ付与魔術解除の効果が発動しない超近接武器だ。故に彼女は相手の間合いに入る技術を鍛えに鍛え、たとえ肉弾戦に持ち込まれても殴り勝てるように、愛と勇気と若気の至りが込められた『キルケ―敗北拳』を会得している。

 

このメディアが某第五次聖杯戦争に参加していれば、愛しの高校教師を前線に出さず、ムカつく男サーヴァントたちを自らの拳でボコボコにしただろう。

 

 

それはさておき、立香はメディアの着せ替え人形になる事を承諾した。

何かを得るためには同等の何かが必要。等価交換の法則を思い返してみれば、神話級礼装と自分の女装が同価値と見なされたのである。安い取引だ、と自己暗示に励む。

 

自室で顔をしかめながら着替え、渡された数多くのウィッグからマシなものを選んで頭に被せ、準備が出来たところで魔女と大魔女を部屋に招いて――冒頭の惨事へと繋がった。

 

 

 

 

パシャパシャとフラッシュがたかれる。撮影しているのはメディアでもキュケえもんでもなく、竜退治で知られる聖人・ゲオルギウスだ。

 

召喚直後に立香からカメラをもらったゲオル先生。その嬉しさが暴走して、いつしか押しも押されもせぬカメラマンとなった。どこで入手したのか高性能ミラーレス一眼カメラを常時携え、肩に『撮影班』の腕章を付けるプロの風格といったらどうだ。

 

今回、「マスターが少女物の服を手にして自室に入った」とのタレコミを受けたゲオル先生の動きは迅速だった。撮影機材をハサンたちに持たせて連絡の一分後には馳せ参じたのである。さすがはカルデア公認の藤丸立香専属カメラマン。

 

「マスターの一部始終を撮ることが、私の使命ですから」

 

その言葉に偽りなくゲオル先生は立香の行く所ならどこにでも出没する。無論、レイシフト中でも例外ではない。

レイシフトは魔力や電力の関係上、数体のサーヴァントしか同行出来ないようになっている。その貴重枠に後輩盾サーヴァントを差し置き、ゲオル先生は『撮影班』として固定メンバー入りしているのだ。

 

フランスでワイバーンに怯えながらも立ち向かう立香。

ローマでの行軍に疲れ、簡易テントの中で眠る立香。

オケアノスの無人島で波にたわむれる立香。

ロンドンの街灯に照らされ大人びて見える立香。

 

カルデアに居るだけでは分からない藤丸立香の魅力を、ゲオル先生は一枚の写真上で見事に表現してみせる。

先生が優遇されているのは、その卓逸した技術を多くのサーヴァントに認められた事に他ならない。

 

先生は聖人と謡われる人格者。サーヴァント界における至宝を独占せず、焼き増しして全サーヴァントに行き届くよう配布する。

サーヴァントたちの部屋にお邪魔してみれば、壁中に貼られた藤丸立香の写真(撮:ゲオルギウス)と対面できるだろう。

サーヴァントたちの性活に欠かせないネタ――それを提供してくれる先生はまさに性人と言える。

 

なお、真面目一辺倒な先生であるが、撮影に集中するあまりに敵の動きに気付かずピンチに陥る――といったお茶目な面もある。

そういった時は他サーヴァントが駆け付け、か弱い先生を守るのが常だった。

 

あれ、ゲオル先生って敵の攻撃から味方を守る事に特化していなかったっけ? と考えてはいけない。先生が被害を受ければ撮影機材が台無しになるからね、是非もないネ。

 

 

「いっきゃああああ! そのまま動かずに、そうよ! もっと脇から腰にかけてのラインを見せて!」

 

「マスター! 表情が固いですよ。少女のようにピチピチの笑顔で目線くださーい!」

 

魔女と聖人に囲まれ、立香の心は確実に削られていった――

 

 

 

 

 

「ご協力ありがとうございます。また一つ、マスターの新しい面を撮ることが出来ました。それにしても女装したマスター……ふむ、サーヴァントたちの趣向を開拓すること請け合いですな。ともあれ今後ともご贔屓に」

 

先生が退室する。これから現像作業で忙しいだろうに、その顔は達成感に溢れていた。

 

 

「ふっふふふ~ん。あっ、ごめんなさいマスター。ちょっと制作に没頭したいから自分の部屋に戻るわね」

 

女装立香を堪能したメディアも上機嫌に出て行った。制作に没頭したいと言っているが、果たして魔術礼装のことを指しているのか、それとも女装立香のフィギュアのことを指しているのか。疲労困憊の立香には尋ねる気力がなかった。

 

召喚した直後はフードで目元を隠し、冷たい微笑と声質で立香にプレッシャーを与えたメディア。キュケえもんによって汚染されていたキャスターのイメージ修復に多大な貢献を果たした彼女が、あんな姿になるなんて見とうなかった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

自室のベッドに腰かけて休んでいると。

「立香君」

これまで静かにしていたキュケえもんが近付いてきた。

 

 

「メディアは可哀そうな子なんだ」

 

「えっ? 頭が?」

 

「そ、それもあるけど、あの子は軽薄な男に酷い目に合わされてきてね、立香君のような安心して付き合える男性は初めてなんだよ。だから、気を許してちょっと羽目を外してしまうんだろう」

 

あれがちょっと? そうツッコミたいが、メディアの生前を想えば、仕方ないことかもしれない。

 

「意外です、キュケえもんがフォローに回るなんて」

いつもならハッチャけるのがキュケえもんで、諫めるのがメディアなのに。

 

「おいおい、私はあの子の姉弟子だよ。たまには目上の度量を示さないとね」

軽い口調で言うキュケえもんだったが、優し気な瞳から受ける印象は年長者のソレだった。普段の性格や幼女体型から忘れそうになるが、キュケえもんは酸いも甘いも噛みしめてきたロリ〇バア。決める時は決めるのである。

 

「それじゃあ、そろそろ私のお願いも聞いてくれるかな?」

「うっ……そうでした」

 

一度吐いた唾は呑み込めない。立香は安易に『条件付きで何でもする』と言った己を恨んだ。

 

「警戒しなくていいさ。私の願いは――これなんだから」

 

キュケえもんの手にはいつの間にか麦粥(キュケオーン)の皿が載せられていた。作ったばかりのようで湯気が立っている。

 

「やっぱりですか――んっ、それって?」

 

いつものヤツかと思ったら違う。

以前、「キュケオーンって地味じゃない。ぶっちゃけ味気ない」と口さがない者から批判されたキュケえもん。酷く気にした彼女は、オリジナルキュケオーン作りに熱を上げた。

キュケオーンフラペチーノガーリックソーダスペシャルやキュケオーンクラシックエキストラソイミートキャラメルなどなど。

 

奇々怪々なキュケオーンが開発され、立香は味見係を強要されてきたのだ。

しかし、いま目の前にあるのは何ら変哲のないキュケオーンだった。地味で味気ない見た目をしている。

 

「覚えているかい? 私たちが初めて会った時のことを」

「冬木の、ことですか?」

「初めての人理と命を賭けた戦いで、君は怯え嘆き涙していた」

 

ああ、そうだった――あの頃は貞操を心配することもなく、純粋に命だけを気にすれば良かった。今、思えば(ぬる)い事にアタフタしていたものだ。

 

 

「そんな時に私が取り出したのが――」

「思い出しました。このキュケオーンでしたね」

 

 

炎上する冬木を駆け抜けるのは、ザコメンタルでロクなスキルを持っていない立香にとって辛いものであった。

 

余裕のない彼に「元気がないのはお腹が減っているからじゃないか? ほーら、極上のキュケオーンさ。これを食べれば嫌な事もへっちゃらだよ。お食べ!」とキュケえもんが振舞ったのが眼前のこれだ。

 

初めて食べる料理。しかも料理技術が未熟だった神話時代のものだ。現代料理で舌の肥えた立香には物足りなく感じた。

けれど温かい。キュケオーンの熱と、右も左も分からない未熟なマスターを応援するキュケえもんの心が、じんわりと立香を温めてくれた。

 

もし、キュケオーンが無ければ、藤丸立香のグランドオーダーは冬木の街で終わっていたかもしれない。

 

なお、初めて食べたキュケオーンだけが豚化の効果を宿していなかった。召喚時のキュケえもんはまだ絆レベルが低く、『マスターをピグレットにして愛でたい』という欲求を抑え『戦場でマスターをピグレットにしたら危ない』という常識を持っていた(過去形)。

 

 

「でも、今になってなんでノーマルキュケオーンを?」

「まあ、なんだ。私たちの原点だし、今の立香君を癒すのに一番相応しいかなって」

 

キュケえもんが唇を尖らせ、恥ずかしそうに言う。神話級恋愛敗北者は恋愛の大一番でヘタレるものだ。

とは言え、キュケえもんの不器用な優しさが立香には心地よい。

 

思えば、最近の自分は精神的に追い詰められていた。医療部門のロマンに相談しようにも、絆レベル6の人間に心を開くのは怖いし。

カルデアに居るよりレイシフト中の方が羽を伸ばせるくらいで、オートマタ―やゴーストや殺人鬼が蠢くロンドン特異点を観光地気分で旅した程だ。

 

なるほど、客観的に見て自分は危険な状態だな。

立香は己の異常を認識した。

 

「調理法と味はシンプルだけど、材料にはこだわった。栄養は保障するさ。はい、あ~んして」

スプーンでキュケオーンをすくい、立香の口へと持っていくキュケえもん。まるで恋人同士のやり取りだ。それを自覚しているのか「あ~ん」と言うキュケえもんの顔は赤い。

 

据え膳喰わぬは男の恥。ここまでされたらキュケオーンを食べるしかない。

でも、大丈夫なのか? ラブコメな空気に流されそうになっているけど、相手はあのキュケえもんなんだぞ。敵も味方もピグレットにして愛でる大魔女なんだぞ。

 

立香の懸念は表情に出たようだ。

 

「食べてもピグレットにはならないよ――と、言っても普段の行いからして君は信じないかな? だったら」

キュケえもんはスプーンを動かし、パクッと自分の口に入れた。 

 

「あっ……」

「もぐもぐもぐ――ほら、どうだい? なんともないだろ」

 

きちんと咀嚼し呑み込み、安全性を実証するキュケえもん。豚化は大型エネミーや魔神柱を除けば耐魔力に関係なく発動する。ならこのキュケオーンは問題ないのか、初めて食べたあのキュケオーンのように。

 

立香はキュケえもんからスプーンを譲り受け、キュケオーンをすくい、慎重に食べた。

口の中に味気ない味が広がっていく。でも、美味しくて……何より温かい。

 

「あ、あ、よく考えてみれば、間接キスじゃないか、これは」

 

彼女の妹弟子が見れば「歳を考えろ」と言うだろう。少女のように恥ずかしがり鷹の羽をバタバタ揺らすキュケえもんは、その仕草だけ見れば可愛らしいものだった。

 

立香の身体に異変はない。ちゃんと人間のままだ。

安全だとハッキリすれば何だか腹が減ってくる。立香はあっという間に皿を空にした。

 

「ふぅ、ごちそうさまでした」

「見ていて気持ちのいい食べっぷりだったね。作った甲斐があるってものさ。あっ、もうお腹いっぱいかい? ほ~ら、まだまだキュケオーンはあるよ」

 

空間転移を用いているのか、またキュケオーン入りの皿がキュケえもんの手に載せられている。

 

「じゃあ、お言葉に甘えます」

 

せっかくのご厚意だ、無下には出来ない。立香は注意することなく、おかわりのキュケオーンを口に入れようとした――と、その時。

 

 

 

大きな塊が扉をぶっ壊しダイナミック入室した。それは速度を緩めず立香たちへと襲い掛かる。

 

「いぃっ!?」

避ける暇なんてない。立香は頭と顔を守るよう反射的に防御の姿勢を取った。

ガシャン、とキュケオーンの皿が床に落ちる。緊急事態とは言え、食べ物を粗末にしてしまった事実が立香の勿体ない精神を僅かに突いた。

 

 

数秒経つ。が、大きな塊はこちらへ危害を加えてはこない。

なんで……立香が戸惑っていると。

 

 

「心理学において『一貫性の原理』というものがある。マスターはご存知かな?」

 

「ほ、ホームズさん!?」

午前中お世話になった名探偵が入室してきた。黒いコートを羽織り、パイプとステッキを持った英国紳士の出で立ちだ。

 

「人間は社会的生物。他者を視線を気にせずに生きていけない難儀な業を背負っている。故に社会的評価を得るため己の行動、信念、態度に一貫性を持たせたくなるのが人間だ。マスターがそこの麦粥を躊躇なくおかわりしたように。いや、思慮不足と責めているのではない。この場合は鷹の魔女の狡猾さを評価すべきだろう」

 

「――えと、つまり、おかわりのキュケオーンには……豚化の呪いが」

 

「初歩的だが有効なトリックだよ。勉強になったかい、マスター」

 

「あだだだっだだだっだあああだああああ!!」

 

立香とホームズのやり取りをかき消すように、キュケえもんの悲鳴が室内に木霊(こだま)した。

かの大魔女の頭には牙が突き立てられている。それも狼王・ロボの偉大なる牙が。

 

「紹介しよう。今後、マスターの食事のサポートをする首無し騎士のヘシアン氏と狼王のロボ氏だ」

 

ヘシアン・ロボ。多くの変化球サーヴァントが住むカルデアの中でも、変わり種なのが彼らである。

なにしろ英霊には届かない霊基の首無し騎士と狼の幻霊を融合させて、無理やり英霊まで格上げしたのだから。

 

「ガウガウッ!!」

「いだだいだだ!! 牙を立てないでくれぇ!! しょーがないだろぉぉ! 美味しいキュケオーンを作るなら豚化の調味料が一番なんだからぁぁぁ!!」

 

立香がキュケオーンを食べようとした瞬間、現れた大きな塊はヘシアン・ロボだった。

彼らは悪の元凶であるキュケえもんを背後から襲撃し、その頭に噛り付いたのである。ロボの体長は三メートルを超えており、口のサイズは人間の頭がスッポリと収まるほどだ。

キュケえもんの頭はロボの口内にあり、シュールな光景が広がっている。

 

「ロボ氏の嗅覚は人間の百万倍、さらに英霊になったことで魔力感知にも長けている。鷹の魔女が証明してくれたように、悪意を食事に盛り込む輩から君を守ってくれるだろう」

 

「これが、ホームズさんの言っていた『マスターの負担を軽減する』対策……?」

 

「その一つと思ってくれたまえ。君の安全事情をヘシアン氏とロボ氏に説明したところ、快く協力してくれたよ」

 

「ガウガウヴォォォ!!」

 

「あばばば! ああっ、身体から光の粒子がぁぁ! 還っちゃう! 座に還っちゃうからやめてぇぇぇ!?」

 

顔のないヘシアンの感情は分からないが、キュケえもんを噛みながらロボは「任せろっ!」と言わんばかりに唸る。

 

初対面の時は、立香を食い殺そうとしていた復讐者が随分懐いたものである。

速攻で絆レベルを上げ変態化するサーヴァントの中でも、ヘシアン・ロボはチョロくなかった。立香を食べようとしても性的に食べようとはしなかった。そのツンぶりが立香には好ましかった。

 

それに悩みの種だった食事を手助けしてくれるのは、本当に有難い。

立香の服は多くのデバフを無効化するよう作られている。そんな彼を攻略するなら、服ではどうしようもない食べ物から攻めるのが常道だ。

 

事実、先日刑に服したフランス組もお菓子に媚薬効果のある薬を混入させていた。

おそらくアレは『愛の霊薬』を使っていたのだろう。名の示す通り、食べた者を愛の虜にする恐ろしい効果を持ち、なおかつ比較的簡単に入手できる礼装である。

魅了スキルを持たないサーヴァント御用達で、何度あの霊薬に狙われたか分からない。

 

他にも立香の食事事情には大敵がいた。

暗殺教団の教主「山の翁」を務めた歴代ハサン・サッバーハの一人、静謐のハサンである。

 

彼女は毒のエキスパートであり、触れた物を毒死させる特異体質を持っている。

幸運か不運なのか、立香は毒無効の体質に目覚めていた。

そして、召喚仕立ての静謐のハサンの能力を知らずに、「よろしくっ」と朗らかに笑いながら握手してしまったのである。あの頃の立香はまだ擦れておらず、サーヴァントと良好な関係を築こうと無駄な努力をしていた。

 

生前から触れるモノを殺すしかなかった静謐のハサン。その生涯は孤独に包まれていたと言う。彼女が英霊になってまで聖杯に願いたかったのが「自分に触れても死なず、微笑みを浮かべてくれる誰かと出会えること」――それをあろう事か、藤丸立香は召喚直後に叶えてしまった。

 

サーヴァント特攻(ハート)スキル持ちによるピンポイント攻撃。そらもうマスターラブ勢一直線ですよ。

静謐のハサンは出会って10秒で『絆レベル10』になった。現在でも破られていない最速レコードである。

 

本来、絆レベル5の時点でベッドに忍び込み「貴方は私が触れても死なない人」と悦びに浸る静謐のハサン……それが絆レベル10になるとエグイことをやり出す。

その一手法が食事に自分の体液(意味深)を混ぜることだ。

触れるだけで死ぬ彼女の体液……青酸カリが裸足で逃げ出すほどの猛毒だ。毒の効かない立香でなければ、ステラさん以外のどんな英霊でも一舐めで即死するだろう。

 

「貴方は私が触れても死なない人。私の××を食べても死なない人……」

 

毒の効かない立香の様子が自分を受け入れてくれる証明となり、言葉にならない快楽を呼び起こす。静謐のハサンの性癖はマスターラブ勢の中でも歪んでいた。

 

愛の霊薬と違って悪影響がないとは言え、食後に「今のご飯には、私の××を混ぜていました。はぁはぁ、やはり貴方こそ私が永遠に仕えるお方」と毎度犯行声明を出される立香の心境は筆舌に尽くし難し。吐き気を催すのはもちろん、壮絶な胃もたれが起こり食欲減退に繋がるのだ。

 

 

媚薬や体液漬けな悪夢の食事から解放される!

立香は心から喜んだ。ヘシアンとロボに抱き着き「ありがとうございます! ありがとうございます!」と涙目で感謝するほどに。

 

「…………」

「アウ゛ォォォォン!!」

声を出せないヘシアンの分までロボは吠える。立香の期待に応えてやる、とヤル気を見せる。

 

ロボは狼だし、ヘシアンは首がないし、自分を性的に襲うことはないだろう。一匹と一人に抱擁しながら、立香の冷静な部分がそう計算した。

 

だが、ちょっと待ってほしい。

ロボは狼だがオスである。ヘシアンも首から上はないが下半身は健在である。よって、一人と一匹は立香の敵になる要素をちゃんと持っていた。

100体ものサーヴァントの襲われ対象でありながら、立香はまだまだ甘い。この世には獣〇を始めとしたアブノーマルな世界がある。どんなに目を覆いたくなるファックな世界でも背けてはいけないのだ。

 

なお、ロボが雄たけびを上げた関係上、キュケえもんの額から牙が抜けた。大魔女は昇天ギリギリのところで倒れ伏し「ちくしょう……次こそは……」と諦めの悪い呟きを残すのであった。

 

 

ちなみにメディアは女装立香のフィギア作りで自室に閉じこもり、キュケえもんはシミュレーター送りになった都合で、立香の依頼したセキュリティ礼装の件は大いに遅れることになった。

立香の受難はまだまだ終わる兆しすら見えない、南無南無。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

~おまけの怪文書~

 

 

 

やあメディア!

3日ぶりだね。元気にしていたかい?

 

なんだい、死人を見る目をして。

まあ、分かるさ。さすがに大魔女たる私も死を覚悟したよ。

 

なにしろ『ライダークラスはびこるワイバーンの森行き』の刑だったからね。

あの竜モドキ共、何度も人の羽を突いてくるわ、突風起こすわで大変ったらないさ。

極めつけはファヴニールっていう悪竜。

おいおい、君の相手はどっかの大英雄だろ、こっち来んな! って最初は逃げるのが精一杯だったよ。

 

でも、ふと気付いたんだ。私は立香君の初めてのサーヴァント。運命の魔女が近くにいないんじゃ、立香君が寂しがる。

立香君を不安にするくらいなら、ワイバーンの恐怖なんてアイアイエー島の砂粒よりちっぽけだ。

 

奮起した私に敵はいない!

どいつもこいつもキュケオーン漬けにしてワイバーンの森をピグレットの森に変えてやった。

もちろん図体のデカい悪竜もね。

キュケオーンは大型エネミーに効かない? うるさい、知ったことか! って気合でピグレットにしてやったさ、どんなもんだい!

 

 

そんな感じで帰還した私だけど、今回の刑罰で色々思うことがあったよ。

立香君の気持ちを無視して、ピグレットにするのは悪い事だ。そう反省した。

 

……ん、なんだい? 何を今更って顔をして。

私と立香君が気の置けない仲なのは周知の事実だけど、まだピグレットする仲までは深まっていない。それは認めよう。

だから、私はもっと立香君との距離を詰めようと思うわけだよ。

 

手段として考えているのは『聖拝戦争』に勝ち抜き、立香君を起こして二人で朝キュケすることだね。好感度上がること間違いなしさ!

ワイバーンの森から帰ってきた私なら十分に聖拝戦争を勝利出来るからね……ある一つの危険要素を取り除けば。

 

メディアも知っていると思うけど、聖拝戦争でやたら私を狙ってくる奴がいるじゃないか。

そうそう、真っ黒なドレスを着たアーサー王。

あいつったら戦争に勝つより私を落とすことに全力を尽くすんだぜ。冬木でピグレットの丸焼きにしたのを、座に戻ったくせに何となく覚えているみたいだ。あーやだやだ、オルタな連中の陰気さはどうにかならないかな。

 

とは言えだ。私は大魔女、器の大きさを示そうじゃないか。

これから黒いアーサー王の部屋に行って、詫びキュケしてくるよ。それで関係改善さ。

 

えっ? 詫びキュケに使うキュケオーンに豚化の呪いは入っていないか、だって?

あははは。もちろん()()()()()()

 

――なんだい? 頭バーサーカーを見る目をして。

しょーがないだろ。美味しいキュケオーンを作ろうとしたら、なぜだか豚化の呪いがくっ付いてくるんだ。不思議だね。

 

まあ、ちゃんと対策は考えているよ。

どうして私がメディアの部屋に来たと思う……ふっふふ。さすがは妹弟子、察しが良いじゃないか。

君の『ルールブレイカー』をちょっと貸しておくれよ。

 

陰気なアーサー王だって美味しいキュケオーンを堪能し、豚になってもすぐ元に戻せば今までのいざこざを流してくれるだろう。

うん、我ながら完璧な作戦じゃないか!

 

……えっ? 豚にされた挙句に短刀で突かれようとしたら、きっと怒る?

 

メディアは心配性だな。大丈夫、大魔女とは思えない付き合い易さが私のアピールポイントだからね。

笑顔でキュケオーンを勧め、笑顔でルールブレイカ―すれば、何の問題もない。

 

そういうことで、君の宝具を貸しておくれ……うん、ありがとう!

 

って、おいおい、別れを惜しむ目は止めてくれないか。今生ってワケじゃないんだからさ。

すぐに事を終えて帰って来るよ。

 

じゃあね、メディア―――

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。

一話と二話は、藤丸立香の現状を説明するための導入回なので退屈だったかもしれません。

三話からはギアを上げて、派手に盛り上げていきます!


と、いうことで。

第三話『藤丸立香と人類悪とデンジャラス・ビースト』へ続く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。