マシュファンの方、誠に申し訳ありません。
人類悪。それは人類史の淀みであり汚点。人類の自殺機構とも称される災害である。
尊大な名に誇張はない。単独で人類を滅ぼし、世界を終わらせる最強最悪の獣だ。
そんな獣が、カルデアに紛れ込んでいる事をほとんどの者は知らなかった……
「……フォウ……フォォォウ」
カルデアの無機質な廊下。小動物が曲がり角から顔だけ出している。
真っ白な毛並みに小さな身体。見る者によって犬とも猫ともリスとも呼ばれる、摩訶不思議な生物だ。
世話人のマシュが「何となく頭に浮かびました」で付けた名前は『フォウ』。
だが、本当の名は『キャスパリーグ』、人類悪の一体『比較』の理を持つビーストⅣ『キャスパリーグ』である。
キャスパリーグことフォウは人間の悪い感情に感化されて、姿を大きく変える。
嫉妬、愛憎、嫌悪。誰もが持つネガティブな心が、フォウを危険な生物へと変えていく。
一つの村でフォウを生活させれば、多くの時を待たず醜悪な獣によって村は滅ぶだろう。
仮にだ――どこかの並行世界に、普通の『藤丸立香』と彼を健気にも守る『マシュ・キリエライト』がいた、とする。彼と彼女は王道的な物語を歩んで最終的に魔術王を打倒した、とする。
きっとその冒険譚は美しく清々しい軌跡を描くことだろう。
醜い姿に変わり果てる筈だったフォウが、変わることなくいられるほどに。
しかし、それはあくまで仮の話。
サーヴァント特攻(ハート)さんが猛威を奮うカルデアにおいて『美しい』や『清々しい』は全て遠き理想郷となっている。
フォウの変化を止められるモノはない。
かと言って、テクニシャンで知られるサーヴァント特攻(ハート)さんが安易にフォウを人類悪へと導くだろうか。
――否である。
『変わらないまま』か、あるいは『醜悪な人類悪へと変わる』。
二者択一の未来しか持たない、と思い込んでいたフォウの中で第三のナニかが生まれようとしていた。
「……フォウ……フォォォウ」
フォウは廊下の陰からじっと見ている。
「子イヌ~! 待ちなさいよぉ!」
「だから無理ですって!」
エリザベート×3が追い、藤丸立香が逃げる。彼女たちと彼の攻防をフォウは観察していた。
「フォウ……」
最近のフォウの頭は藤丸立香一色になっている。正確には、『立香がサーヴァントたちに襲われる』――それを鑑賞することに夢中となっている。
「フォフォウ? フォフォォ?」
何だろうか、この静かでありながら熱い高揚は。
自分でも分からない感情にフォウはドハマりしていた。それこそ立香のレイ〇未遂現場を一日三回は目撃しないと、欲求不満が溜まって眠れなくなるほどに。
フォウは雑食である。様々なジャンルを食わず嫌いすることなく腹に収める。
たとえば――
「マスター! 一に筋肉、二に筋肉! 人理修復の鍵を握るのは鍛え抜かれた身体なのです! 私の計算に間違いありません! さあ、服を脱ぎ去って共にトレーニングです!」
暑苦しいスパルタ王との筋トレ。無論ただのトレーニングでは済まず、スパルタ王は「サポートしますぞ!」との名目で肌と肌との触れ合いを強要してくる。セクハラってレベルじゃねぇぞ!
対して立香は話術と体術を駆使し、回避に全力を尽くす。二人の身体的・頭脳的攻防戦は見応えしかない。
「護衛の褒美ですか……? しかし、僕は任務を全うしたまでで……はぁ、主殿がそこまでおっしゃるなら茶器を所望します。先日、信長殿の収集物を目にする機会がありまして、僕も集めてみようかと。いえいえ、曜変天目茶碗のような高価な物は望みません。今、主殿が手にしている湯飲みを頂戴したく存じます。ああ! 洗わずとも結構。飲み残しがあれば尚よろしいです」
スパルタ王のような直球も良いが、風魔忍者のような変化球も好物だ。震える手で自分のコップを手渡す立香、何物にも勝る忠義の証を受け取り光悦に浸る忍者。素晴らしい主従関係にフォウの身体が歓喜で疼く。
「ねえ、おかあさん。わたしたちね、おかあさんの中に帰りたいの。でも、それよりおかあさんになりたくなっちゃった。おかあさんの種をもらって、わたしたちもおかあさんになる」
立香に関する事ならサイコ物だって大歓迎である。
闇しかない言葉をロンドンの切り裂き魔から受け取った際の立香の反応ときたらどうだ。内股になって股間を守りつつ後退する挙動は、四足歩行を無理やり二足に変えてスタンディングオベーションを取りたくなる。
どのやり取りも
「フォ、フォフォォォウ!! (特別意訳:人間って
立香を狙うサーヴァントたちの肉食めいた表情が、顔面を恐怖で染めながらも逃げ惑う立香のへっぴり腰が、フォウには新鮮だった。
『美しいか、醜いか』の二択でしか物事を見られなかったフォウに、藤丸立香の周辺で起こるイベントは第三の感覚を呼び起こす。
フォウは日に日に増していく名状しがたい感情を持て余していた。
立香がマシュの助けによって、エリザベート×3の追跡を撒いた。残念、今回はここまでかとフォウが溜息をついたところで。
「ほう、獣
「フォゥゥピカッチュ! フォフォウ! (特別意訳:金ピカッ!? 突然出てきて目に悪いんだよ!)」
いつの間にかこちらを見下ろすように英雄王・ギルガメッシュが立っていた。金色に逆立つ髪と金色の甲冑。ゴージャスな装いが、古代バビロニアの宝物庫の主である事を物語っている。
「己が役割を放棄し、引きこもっていた獣だからこそ至ったのかもしれんな。人類悪とはすなわち『人類【が】滅ぼす悪』、見方を変えれば人理を守ろうとする願いそのもの。なるほど、『人類愛』に通ず獣なら、辿り着くべくして辿り着いた感情よ」
「フォフォウ! フォビロニア! (特別意訳:毎度意味深な口を叩きやがって! 面倒くさいんだよ、バビロニア野郎!)」
「ふん、美醜の物差ししか持たぬ獣では分からんか。
「フォェツ? (特別意訳:ゆえつ?)」
愉悦。聞き慣れない人間の言葉。しかしながら、スッと腑に落ちる。
そうか、この高鳴りは愉悦なのか……
コクコクと首を縦に振って、言葉を咀嚼するフォウ。ビーストが意図せぬ進化へ舵を切ったことに、カルデア三大部活動の一つ『愉悦部』の部長ギルガメッシュは口元をニヤリと歪めた。
「だが……所詮は獣よ。真なる愉悦までは届いておらん」
「フォォ?」
「今の貴様は天に向け口を開き、いつか降ってくる愉悦を待っているに過ぎん。随分な阿呆面ではないか、物乞いも同然よな」
「フォフォゥゥ! フォヌゥマエリフォ! (特別意訳:万年慢心敗北者が……っ! 取り消せよ、今の言葉!)
「怒りに駆られる程度の覇気があるなら、家畜ではないと証明してみせよ。真なる愉悦を得るには――」
ギルガメッシュ部長による熱血指導。これによってフォウは新たな階段を昇り出し、ついでに『愉悦部』は部のマスコットを獲得するのであった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
立香が慎重に辺りを確認し、身を隠していたマシュの部屋から出てくる。二人は短い言葉を交わして別れた。
去っていく立香の背中を廊下に出て見送るマシュ。表情は寂しそうであり、どこか苦悩が垣間見える。
この隙を狙い、フォウは開いたドアからマシュの部屋に侵入した。
――想像通り。
部屋は主の性格を反映してか質素なものだ。物は少なく、片付いている。
これが他のサーヴァントの部屋なら、立香の写真やグッズやティッシュで埋め尽くされているだろうに……
「フォ~~。フォフォフォフフ (特別意訳:いけないなぁ~立香君の正式サーヴァントでありながら、彼色に染まっていないなんて)」
だが、だからこそ育て甲斐がある。
ギルガメッシュ部長の教えによると、真なる愉悦は『己の台本に合わせて獲物を動かし、罠にハメる』こと。成し遂げた
これには目から鱗である。
普通の愉悦だけでも大歓喜なのに、自分でプロデュースした罠に立香が引っかかったとしたら……
「フォルルル」想像しただけで悦びが全身を回り痺れてしまう。
立香を罠に掛けよう。それも最高の罠がいい。どんな罠が良いだろうか……?
フォウは小さな頭で頑張って考えた。
そして――「フォティン! (特別意訳:ティンときた!)」
立香が最も信頼する者を襲撃者に変貌させるのはどうだろうか?
まさに悪魔的、いや人類悪的思考である。
思い立ったら即行動。フォウは準備を整えると、マシュの部屋に忍び込んだ。
部屋の様子を見るに、マシュはまだ性犯罪者化していない。
しかし、彼女はデミ・サーヴァント。サーヴァントの因子を宿す限り、必ず立香のスキルの影響を受けているはずだ。
「あっ、フォウさん?」
マシュが自室に戻ってくる。先ほどまでいなかったフォウがベッドの上にちょこんと載っている事に、彼女は小さく驚いた。
「フォフォフォウ」
フォウはマシュに突っ込んで、器用に彼女の肩へと身を移す。
「どうしたんですか、フォウさん? 何やらご機嫌なようですが?」
「フォフォフォ~? フォディオフォ (特別意訳:そりゃ今から君を堕とすと思うと、最高にハイッてやつだ)」
「もしかして私を慰めてくれるんですか? ありがとうございます」
マシュは小動物相手にも丁寧に接する。誠に人間の出来た少女だ――故に堕落した後に想いを馳せるとワクワクが止まらない。
「私、先輩のお役に立っているのでしょうか……?」
フォウを載せたまま、マシュは力なくベッドに腰かけ悩みを打ち明けた。言葉が伝わっているとは思っていないだろうに、それでも誰かに聞いてほしくて彼女は胸の内を吐露する。
「私なんかいなくても先輩には力強いサーヴァントの皆さんがいます。宝具もまともに使えないデミ・サーヴァントは足手まといになるだけで、逆に先輩を危険に晒すのでは……そう思ってしまうんです」
マシュが自身の存在価値を見失ったのは、ここ一カ月の出来事が原因だった。
小特異点修復の際にレイシフトメンバーから外されたのがまず一点。あの時は「マシュもたまには休んだ方がいい」と立香に言われての事だった。ショックだったが自分の身を案じての提案だと、疑いの心を何とか押し込めて納得した。
だが、第四特異点ロンドンでの最終決戦。ついに現れた七十二柱の魔神を統べる魔術王との戦いで、マシュのアイデンティティは崩壊した。
魔術王はソロモンと名乗り、ラスボス特有の大仰な台詞回しで目的を語り、力を示してみせた。
「助けを請え! 苦悶の海で溺れる時だ! はっはははははは!!」
四柱の魔神を従えたソロモンは圧倒的だった。
「イイゾ! イイゾ!」と馬鹿にしたような声で防御力低下のスキルを発動し、マシュが唯一拠り所にする『守りの力』を削いでいく。
さらに全体範囲の魔術を連発し、ロンドンで出会ったサーヴァントたちを瞬く間に一掃した。
金時や玉藻の前は出会ったばかりなのに即退場である。扱い方が雑過ぎやしませんかねぇ?
「そら見た事か。ただの英霊が私と同じ地平に立てば、必然、このような結果になる」
「っ……こうなったら……せめて、先輩だけでも――」
ソロモンの影響で力場が不安定となり、レイシフトが出来ない状況。マシュは立香の盾として
「大丈夫さ、マシュ。思ったより大したこと無い。初見は手を抜いてくれるなんて、大ボスの鑑ってやつだな」
立香は平然としていた。やせ我慢ではない、見慣れたヒエッ顔ではない涼しい面持ちだ。
「あ? 何? 今の全力――じゃないみたいでホッとしたぜ。俺の槍が英霊髄一だって所を坊主に見せねぇといけねえからよ」
「ふっ、オリジナルの癖に早々屈するとは玉藻地獄に堕とすまでもない。ご主人、派生作がオリジナルを超えていく様をポップコーン片手に見守るが良い」
「奇天烈な君の発言の中で、今のは珍しく同意だ。派生だろうが贋作だろうが、研ぎ澄ませば本物を超えることもある。さて、英雄譚なら一度手痛い敗北を味わうのがセオリーだが。別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「み、皆さん……」
マシュは改めて周りを見回した。やられたのはロンドンで会ったサーヴァントのみでカルデア所属の者たちはまったく
「なにぃ、格の低い英霊の分際でその余裕。さらに劣る人間が私を『大したこと無い』だと――人類最高峰の馬鹿か、貴様」
立香たちを『見るに値しないモノ』と認識していたソロモンの目が初めて明確な感情を持つ。侮蔑に対する怒りという感情を。
「あっ、すみません。悪気はないんですけど……あなたを前にしてもカルデアで生活するほどの危機感を持てないんで。だから、ちょっと安心しました」
せ、先輩!? 果てしなく相手を侮辱してますよ! とマシュが突っ込むより早く。
「死ね、人間」
魔術王の攻撃が立香に向けられた。魔力で刃を形成し放ったのだ。
速いッ! 間に合わない! 先ほどの全体攻撃でマシュは負傷していた。立香の矢面に立ち、盾を構えねばならないのに足が鈍い……
「せ、せんぱぁぁぁい!?」
叫んでどうにかなるものではない。それでもマシュは声の限り叫んでいた。
「っと――」
「えっ?」
叫びは次の瞬間、マヌケな声に変わる。人間が魔術王の攻撃を当然のようにバックステップで避けたのだからそんな声も出る。もちろん、魔術王の刃は肉眼で捉えきれぬスピードだ。普通なら撃たれたことも分からず絶命するはずなのに。
「仕切り直しだ! エミヤは柱に向けて遠距離攻撃。キャットはソロモンに肉薄して本能重視で暴れれば良い。アニキは中間距離から嫌らしく牽制を。スキルと宝具のタイミングは追って指示を出す! 勝てる戦いだ、気楽に行こう」
魔術王からのダイレクトアタックに特別な感慨を抱くこともせず、立香は矢継ぎ早に指令を出し始めた。サーヴァントたちは忠実な動きで獅子奮迅に活躍し、ソロモン王へ確かな脅威を与えていく。
「なんだお前たちは……ヨクナイゾ! ヨクナイゾ!」
霊基フル強化のサーヴァントによる疾風怒濤の一斉攻撃。さすがのグランド・キャスターであろうと防戦一方となる。また、的確な場面で立香の指示が飛び、ソロモンのデバフやチャージ攻撃を潰していく。
追い詰められた魔術王は当初四柱だけ出していた魔神柱を二倍、三倍に増やし抵抗するも焼け石に水。鍛え抜かれたガチ勢の勢いはまったく緩まない。
最終的に――
「私はおまえたちなどどうでもいい。ここで殺すも生かすもどうでもいい。わかるか? 私はおまえたちを見逃すのではない。おまえたちなど、はじめから見るに値しないのだ(震え声)」
大層な捨て台詞を吐いて、ソロモンは尻尾を巻いて逃げて行った。
「お疲れ様、みんな――あっ、マシュもお疲れ」
激戦を制した立香がサーヴァントやマシュに労いの言葉を掛けていく。
お疲れ……いえ、私は何も出来なかった。先輩を守ることも、戦いに参加することも……
自分と他のサーヴァントの間に越えられない溝があるのは承知していた。しかし、これほど広く深い溝だったとは……
マシュは盾の後ろに隠れ、無力さに耐えられず悔しさの涙を流した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「他のサーヴァントの方とは違い、私の霊基は訓練をしても強化されません。こんな私に存在価値なんてあるのでしょうか……?」
思い出すと、また涙が溢れてくる。
どうして自分はこんなに中途半端なのだろうか。このままでは人理修復の大任から外されてしまう。いや、それよりも立香の正式サーヴァントである事が名ばかりになってしまう。
なんと
――だがしかし。
「フォ~~。フォフォフォーー! フォフォフォベェ (特別意訳:泣かないで、存在価値はあるって。ほら、ボクと契約して肉食サーヴァントになってよ)」
少女のセンチメンタルな心なんぞ人類悪のフォウさんには関係ない。
格別の愉悦を味わうため! フォウさんの野望が、ここより始まるのだ!
初手は軽めのジャブから。
フォウさんはマシュの膝に一枚の写真を置いた。
「――えっ? これは?」
マシュの目が大きく開く。写真には立香の水着姿が鮮明に映っていた。地味な海パンが大事な部分を覆っているが、他の部分は瑞々しくも洗練された地肌が光り輝く。オケアノスの某島で撮られた星4レアな一品だ。
「フォフォ。フゥフゥ~」
フォウさん、人語の理解出来ない畜生ムーブでマシュの質問をスルー。
「どこから持ってきたのか分かりませんが、こんな写真があるなんて……」
写真はフォウさんがゲオル先生の部屋からくすねた物だ。聖人の先生は後から召喚されるサーヴァント用に同じ写真を何枚もストックしている。なお、マシュには刺激が強いという事で写真の多くは配布されていなかった。
「せ、せんぱいの……はだか。こんなにお腹を割ってたくましい……はぁふぅ」
「フォ~~ウ、フォウ(特別意訳:良い目をしている。将来性を感じる目だ)」
やはり見立ては間違っていなかった。
人類悪アイの分析によると、マシュの中に感情制御のためのストッパーが存在している。おそらく彼女と融合したサーヴァントが施した措置なのだろう。
ここだけの話だが――
レフによるカルデア爆破の際、マシュは瓦礫に挟まれ最期の時を迎えようとしていた。彼女を助けようと一生懸命な立香だが、(この時は)ただの人間にどうにか出来るものではない。
マシュが落命しようとした、まさにその時。
盾のサーヴァントが彼女の命を救うべく融合を試みた――と、傍らにいる少年を見て盾のサーヴァントは恐れ慄いた。
あ、この子、アカン奴や!?
少年がヤベェスキルを所持している。このままの流れだと、少女のマスターはこの少年になるだろう。
えっ? ダメでしょ? 今の今まで普通の人間だった少女が、ヤベェスキルの影響を受ければ狂ってしまうぞ。シールダーを秒で卒業してバーサーカーになるぞ。
盾のサーヴァントは一考し、スキルの影響を受けないようマシュの中に壁を作った。
性感を遮断するように立ちはだかる壁は、マシュを一種の不感症にしたものの、絆の過剰投与から心と頭を守った。
まあ、劇的な刺激を受けた場合には壁に亀裂が入り、僅かばかり絆の流入を許してしまうが……
「フォフォウ」
目下、フォウさんがやるべきは盾のサーヴァントの置き土産をぶち壊すことだ。そうすればダム決壊の如く、溜まっていた絆が
「フォフルル~。フォッフォフォ~ウンゥ (特別意訳:お客様、次の品でございます)」
マシュには性欲直撃のオカズをどんどん与え、反応を観よう。
続いてフォウさんが持ち出したのは、立香の寝顔写真だった。行軍疲れで深い眠りに入った彼を、ゲオル先生が激写した星5レアな物だ。
ただの寝顔なら高レアまでは行かないが、この写真の美点は立香の表情にあった。
偶然にも立香が口を尖らせ寝息を吐いている。しかもドアップで、寝顔のため目は閉じている――すると、まるで『キス待ちの表情』に見えるではないか。これはポイント高いですね!
「せんぱいが、私をさそっています! 一大事です!」
さっきまで力不足に嘆いていた少女の面影はどこへやら。マシュは過呼吸気味で写真を注視する。絆レベル3とは思えない喰い付きっぷりからして、もう壁に亀裂が入っていそうだ。
壁を壊すだけなら、アンダーグラウンドで流行りの『立香本』を持って来ればいい。しかし、アレは18禁である。どんな時代に行こうと頑なに禁酒するマシュには些かハードルが高い。
「フォフォッフォフォ~! フォッフォフリュル~ (特別意訳:大きくなぁれ、大きくなぁれ、でも焦らなくていいんだよ)」
短期間での強烈な刺激は壁以外の部分まで壊し、精神崩壊に繋がる恐れがある。故に最初は刺激の弱いものから始めて、マシュを慣らさなければならない。
名将フォウ、期待の新人に対して長期的視野の育成プランを取る構え。獣とは思えないクールな判断に、千里眼や隠しカメラで様子を窺う愉悦部の面々もニッコリである。
「先輩! お許しください!」
意を決したマシュが寝顔写真に顔面から突撃した。写真相手にキス、マスターガチ勢なら誰しもが通る道だ。
「フォフォ」
フォウさんは少女が女に変わっていく様を温かく見守った――と。
「――くっ!? う、う、ああああああっ!? かはぁああ!!」
「ファッ!?」
突然、マシュが苦しみ出した。あまりに
「いいやあああああああ!? せぇぇんぱいいいいいっ!?」
この狂乱、尋常ではない。マシュに何があったんだ――あっ!?
オロオロするフォウさんの頭に、一つの可能性が浮かび上がった。
フォウさんは人類悪なる厄災の獣であるが、今は四足歩行の小動物スタイルを取っている。そんなフォウさんが写真を持ち運ぶとなったら、どのようにするだろうか?
そう、口にくわえるしかない。必然、フォウさんの唾液が写真に付いてしまう。
マシュは不運にも唾液部分にキスしてしまったのだ。人類悪の因子が含まれる唾液に――
「あああああああああっっ!?」
人間とサーヴァントが融合したの彼女の身体に、「邪魔するで~」と人類悪の……ビーストの因子が侵入してしまった。マシュの身体にかつてない反応が起こる。
「フォウフォ! (特別意訳:やっちゃったぜ☆)」
迷将フォウさん、冬木市の管理人ばりのうっかりを発動。やっぱり畜生ですわ、こいつ。
「あぁああああっ!? こ、こわれます! わたしの中がこわれるぅぅ!?」
こうして藤丸立香の安全地帯ことマシュは、ビースト因子を体内に取り込み、デンジャラス・ビーストへと変化していくのであった。
【愉悦部】
カルデア三大部活の一つ。残り二つは『溶岩水泳部』と、ほとんどのサーヴァントが関与する某部(第四話で登場予定)がある。
活動内容は、藤丸立香の貞操危機一髪を鑑賞すること。並びに勇名をはせた英霊たちが性犯罪に手を染める姿を嘲笑すること。
部員が仕掛け人になって襲撃を影から操ることもある。
なお、立香が本当にレ〇プされるのは部員一同本意ではないので、ギリギリの所で助ける心積もり。具体的に言うと、立香が押し倒された際にはどこからともなく英雄王の財宝が飛んでくる。
また、傍観者然としているが、立香に隙があれば部員たちも襲撃者になったりする。
【部長】英雄王
【部員】扇動好きのローマ皇帝
ファウストの悪魔
ルネサンス期の錬金術師
魔術王の父
大江山の客将
【マスコット】フォウ
【入部予定】犯罪界のナポレオン
レジスタンスの船長
砂漠の商人女王
世界最古の毒殺女帝
(*部員構成への異論は認める)