10年以上も前に創作した作品であるため、現在との書き方とは随分変わっていますが、楽しんでいただければ幸いです。
また、タイトルからして性的な描写がありそうですが、内容はあくまでも一般的なものになっています。
このため、題材となった作品こそ、成人向けになっていますが、この作品は全年齢向けにしています。
後書きも当時のものを投稿させていただきます。
但し、現在に合わせて、一部改変を施してあります。
――とある水曜日の夜の朝霧家。キッチンでは、ミアと麻衣とさやかが夕飯の支度をしていた。水曜日はトラットリア左門が定休日なので、朝霧家の面々は久々に我が家で食事をすることになっているのだ。
「あの、こんな感じでよろしいでしょうか?」
右手に包丁を握り締めたミアは、まな板の上に置かれた“ある物”を見つめながら尋ねる。その表情には少し怯えが感じ取れた。
「うんうん、そんな感じ!」
「ミアちゃん、上出来よ」
麻衣とさやかはとても満足げな様子だ。
それから、麻衣とさやかは菜箸でミアが切り分けたものをお皿に盛り付けていく。その間、ミアは付け合せの大根を針のように切っていった。
「ただいまー!」
「ただいま帰りました」
達哉とフィーナが学院から帰ってきた。
「お兄ちゃん、お帰り」
「お帰りなさい」
「お帰りなさいませ、姫様」
キッチンから出てきた、麻衣・さやか・ミアは達哉とフィーナを出迎えた。
「麻衣、今日の夕飯は?」
「うん、腕によりをかけたから、楽しみにしてね」
そんなやり取りを交わす達哉と麻衣。2人は微かに頷き合う。まるで、何かを企んでいる……そんな様子だ。
達哉とフィーナは着替えるために、それぞれの部屋の中に入っていった。
しばらくして、着替えた2人がダイニングにやって来る。そんな2人を麻衣、さやか、ミアが待っていた。
「今日の料理は一体どんな感じだ?」
ダイニングのテーブルを眺めながら達哉は言う。テーブルの上は様々な料理で彩られている。白米の御飯、お吸い物、野菜のおひたし、いずれも伝統的な日本料理だ。
「おっ、これは……!」
そして、何より達哉の目を惹く料理があった。それは……。
そんな時だった。
「きゃあっ!!」
女性の甲高い悲鳴がダイニングに響き渡る。声の主はフィーナだった。
「な、何ですか?これは!?」
身体を恐怖で震わせながらフィーナが言う。フィーナの視線の先にあるもの、それは鮮やかな色をした新鮮な肉の切り身だった。
「お刺身だよ」
何てことはないといった様子で達哉は言ってみせる。
新鮮なハマチの刺身……それが本日の夕食のメインである。お刺身の付け合せとして、隣には大根の千切りが添えてある。
「オ、オサシミ……?」
「うん、新鮮な魚をそのまま頂く料理さ。日本ではよく食べる料理だよ」
魚そのもの自体を見る機会が少ない月では、魚を刺身にして食べる機会は少ないが、魚が豊富に撮れる日本では魚の刺身はポピュラーな料理である。
そして、達哉はある事実をフィーナに告げる。
「実はさ、今日の夕飯にこのお刺身を食べてもらおうと思ったんだ」
そう、達哉はフィーナにお刺身を食べてもらおうために、麻衣・さやか・ミアと協力して、今日のお刺身を作ってもらったのだ。余談だが、今日のお吸い物はさばいたハマチの骨からダシを取っている。
「ゴメンね、フィーナさん。驚かせてしまって……。でも、私達がどんなものを食べているのか知って欲しかったの」
「フィーナさん、ごめんなさい」
「ううん、麻衣やさやかが謝ることはないわ。それに地球の文化を知るために、私はホームステイにやって来たのですから」
そう言いながらフィーナは椅子に腰を落ち着かせる。
「このお刺身はミアちゃんが作ったんです」
さやかはミアの頭を撫でながら言った。突然、さやかに頭を撫でられたので、ミアは少々戸惑い気味の様子だ。
「そうなの?ミア?」
「はっ、はい!」
今日のお刺身はミアがさばいたものだった。当初はミアもあまり馴染みのない魚に戸惑っていたが、フィーナにお刺身を食べてもらうために、勇気を振り絞って魚をさばいたのだ。
さやかの話を聞いたフィーナは、ますます刺身を食べないわけにはいかなくなった。せっかく、ミアが自分のために刺身を作ったのだから、その行為を無下にするわけにはいかない。
しかし、どうやって食べたらいいのか、フィーナには分からなかった。
そんなフィーナに達哉はお刺身の食べ方を教える。
「お刺身の上にワサビを少し乗せて、それから、お醤油にちょっとつけて食べればいいよ」
達哉のアドバイスを受けたフィーナは、摩り下ろした鮮やかな緑色の物体を刺身の上に乗せ、それを黒い液体に少しつけてから口の中へと運んだ。
初めて食べる料理のためか、箸を持つフィーナの手が微かに震えている。
そして、フィーナは目を閉じて刺身の味をゆっくりと味わう。
「美味しいっ!!」
目を開けるとフィーナは驚きと感動が折り重なった表情で言った。その途端、周囲の雰囲気が一気に明るくなる。
「本当かい?」
「ええ!お醤油がお刺身の繊細な味を引き立てていて、それにこのワサビの香りが何とも言えないわ……。こんなに美味しいものを食べているなんて、地球は何て豊かな食文化を持っているのでしょう!」
未だに信じられない様子の達哉に対して、フィーナはうっとりとした表情で言ってみせた。
「皆さんも一緒に食べましょう」
フィーナに言われて、達哉・麻衣・ミア・さやかもテーブルの椅子に座る。
「いただきます!!」
改めて、フィーナとミアを加えた朝霧家の面々は、両手を合わせながら食事の挨拶の「いただきます」を言った。
和やかなムードが漂う朝霧家の食卓。その様子は紛れもなく、家族が織り成す食卓であった。
フィーナにお刺身の美味しさも分かってもらえたし、地球の食文化も理解してもらえたし、今日の夕飯は本当に素晴らしい夕飯だと、達哉はお刺身を食べながら思うのだった。
了
皆様、お世話になります。疾風のナイトです。
今回は以前、私が創作した「夜明け前より瑠璃色な」の短編小説を投稿させて頂きました。
さて、今回の話ですが、フィーナが生の魚料理が苦手と言う設定から思いつきました。
今回はずばり一撃必殺の直球勝負で挑んでみました。
そのため、フィーナの魚嫌いを治すための料理として、我等、日本人が世界に誇れる料理・お刺身を使わせて頂いています。
普段、我々が食べ慣れているお刺身こそ、新鮮な魚を最も美味しく食べる料理法なのではないでしょうか。
皆様がこの小説を楽しんで頂けたら、私としても幸いです。