俺の親友は前世は男だったけど、今は幼女になった 作:ボルメテウスさん
第二〇三航空魔導大隊
それは、日々悪化する戦況へ即応するために実験的に帝国参謀本部直轄で創設された航空魔導増強大隊である。
その隊長を務める事になったターニャだが、本人は部隊を作る事に対して積極的ではなかった。
なので、彼女が考えた作戦としては、自分が考えられる中でも最も過酷な訓練を行う事だった。
そんな訓練の一つである雪山歩行は兵士達に対しては効果絶大だった。
常に敵がどこにいるのか分からない雪山の中で、空を飛ぶ事を許されない中で、雪崩というハプニングが起きてしまう。
だが、それでもターニャは至って冷静な判断で見つめていた。
「ふむ、さっさと準備を始める」
先程の雪山からすぐに起き上がった者達を除き、自力での脱出が不可能な人物達を救出し終えると、ターニャはすぐに兵士達に指示を出す。
「何を言っているんですか!!
あの雪崩で、何名かが意識が戻っていません、早く応急手当を「なに、安心しろ、既に手配している。もうそろそろ医者が来るはずだ」えっ?」
「呼んでいるとは一体」
彼女にとって、雪崩が起きた場合、多くの負傷兵は勿論応急手当が必要な者が出るのは分かり切っていたことだ。
だからこそ彼女は、自身が知る中でも最高の医者を用意していた。
そして、そんな彼女の言葉に応えるように、雪山の彼方から誰かがゆっくりと近づく音が聞こえる。
既に何十時間という訓練を行っている兵士達はその音を聞いた瞬間に警戒の為に身構えるが、ターニャはそのまま腕を伸ばし、その行動を止めた。
「ようやく到着したか。
すまないな、ここまで歩きで」
「別に構わない。
仕事では、こういう所によく来るからな」
その言葉と共にそれまでまるで姿が見えなかった人物がその姿を現す。
全身を白いローブで身に纏っており、口元には黒いマスクを着けている余りにも現代離れしているその人物に多くの兵士は困惑しかなかった。
「あっ、もしかして医者って、アスクさんでしたか」
「セレブリャコーフ少尉はあのアスク殿を知っているのですか?」
「えぇ、とても腕が良い医者ですよ」
「・・・とりあえず、患者はどこだ」
周りの困惑を他所にアスクはふと雪山の中に埋まっているグランツを発見し、持ち上げる。
「グランツ少尉!!」
「ふむ」
何も反応を示さないグランツを見つめる。
「おい、息をしていないぞ、早くなんとか」
グランツの異変に気づき、急いで対応しようとする兵士を他所にアスクはすぐに座るように固定させると、そのまま背中を叩く。
突然の事で反応できなかったが、アスクはそのまま叩き続けると、グランツの口からすぐに雪が吐き出される。
「がはぁ」
「グランツ!!」
「雪崩時の応急処置としては、まずは心臓マッサージよりも喉の中にある雪を取り除け。
気道の確保後、体温などはないかどうか、確認しろ」
「はっはい!?」
アスクはそのまま他に怪我人はいないかどうか、確認するように睨み付ける。
「なんというか凄まじい方だ。
少佐殿とはまるで正反対だ」
「終わったか、では手を出せ。
これ以上は貴様の疲労がかかる」
「・・あぁ了解した」
その後、全員の診察を手早く終わらせると、ターニャはすぐにアスクを回収するように飛び去った。
「まさか、あの噂は本当だったのか」
「噂とは一体?」
「知らないのですか?
銀翼が神を捕らえたという噂」
「神って、まさかアスク殿が?」
「あっ、本人は否定をしておりましたが、確かに巷では神の医者と呼ばれていましたよ」
「なに!?」
詳細が未だに広がっていない中で、アスクの事について知ると僅かながら驚きで満ちていた。
そんな中で、グランツだけは震えていた。
「どっどうなさいましたか、グランツ少尉?」
「なんか恐ろしい物でも見たのか」
「あっいや、なんでもない」
そう言いながらも顔を震えながら、グランツはそのまま移動を行う為の準備を行っていた。
何が起きたのか、その場にいた全員は疑問に思う。
だが先程の雪崩に巻き込まれ、死にかけた事を恐怖したんだろうと思い、すぐに準備する。
(あんな、あんな恐ろしい光景があるなんてっ!!)
だが、この時、グランツの脳内にあったのはこれまでにない光景だった。
雪崩に巻き込まれ、自分を助けてくれた存在を見た時には、人とは思えない雰囲気の中でもある優しい目を見て、天使だと思ってしまった。
だが、その後ろを見ると、まるでグランツを射殺すばかりの目を見開きながら見つめる悪魔がいた事に思わず恐怖してしまう。
しばらくの間、動けずにいたが、天使のような存在はそのまま悪魔に連れ去られるようにして、その場を去っていった。
(天使と悪魔って、まさかあんな感じだよな、性別逆だけど)
次に死にかけた時には、あの悪魔のような少佐によって殺される可能性がある為、グランツは死に物狂いで生き残る為に動き出した。
そんな彼らを遠くから見つめるように、ターニャとアスクは座っていた。
「それにしても、凄い気力だ。
現代の人間では難しいかもしれないな」
「まぁな、現代社会とは違い、魔力などを使えるのもそうだが、そもそも運動量が違うのだ。
これぐらいは当たり前だろ。
だが、どうすれば良いのやら」
元々、部隊の編制については積極的ではないターニャは彼らを、どう脱落させるのか考えるように頭を抱える。
「それにしても、本当にこんな事をするのか?」
「あぁ、見守りとはいえ、この方法が一番だからな」
「まぁ確かに」
そう言った彼らの現在の姿は支給された毛布で身をくるんで、アスクの腕の中にターニャが抱き着いている状態である。
(先程の新兵を救助しているしろがねを見て、思わず睨んでしまった。
まぁ、今はこうして雪山の寒さから守るという名目で行えるから、まぁ良いだろう)
(先程の新兵、なぜか俺を去る際にこちらを怖がっていたけど、やはりこの時代からしたら異質な方法だったんだろうか)
各々が、互いの反応に対しての思いとは裏腹に、訓練は順調に進んでいった。