俺の親友は前世は男だったけど、今は幼女になった 作:ボルメテウスさん
あの時の興奮が家でも見れるとは。
これからも、よろしくお願いします。
夢を見る。
平和だった、あの頃の夢を。
その日、家のキッチンで父さんが気合を入れて作ったケーキを零してしまったあの日。
「大丈夫、メアリー!?」
そんな私を心配して、優しく声をかけてくれる母さん。
だけど、意地を張って、失敗してしまった自分が情けなく、お父さんの大切なケーキを台無しにした自分がとても情けなかった。
そんな私を見て、心配そうな母さんの横から兄さんが入ってきた。
白髪の身体に合っていないコートを着た無表情の兄さんは、そのまま怪我をした私の足を見つめる。
「兄さん?」
「これぐらいの怪我で良かった」
そう言ったお兄様は不格好なぐらいの大きいコートから取り出した包帯と消毒液で私の膝の瘡蓋を治してくれた。
「でもっ、私、お父さんのケーキを」
「親父は別にそんな事を気にしない。
それよりもメアリーが大怪我しなかった方が嬉しいに決まっている」
それを聞くと、涙が溜まっていた目はそのままお父さんとお母さんに向けると
「その通りだ、ケーキなんて、また作れば良いんだ」
「それよりもメアリーが怪我をしてなくて、本当に良かったわ」
そう言って、私を心配してくれる二人を見て、安心したように笑みを浮かべた。
「それにしてもお前は何時の間にこんなのを覚えたんだ」
「そうよ、コートの中でハサミは危ないわよ」
「ふむっ、確かに。
この体格だと危険な可能性もあるな。
事前に適切な大きさに包帯を切っておいた方が良いかもしれないな」
「まったく、お前は医学に関しては本当に馬鹿になるな」
そう言いながら、お父さんは兄さんの頭を撫でていた。
お母さんもそんな兄さんを見ながら、ゆっくりと私の頭を撫でてくれた。
家族で過ごした何気ない日常の中で兄さんの表情が変わる事はあまりありませんでした。
ですけど、私達と一緒に過ごしていた時、確かに笑っていたような気がしていた。
なのに
「兄さん」
そんな日常はもう過ごす事ができないのを知った。
あの幸せな日々から幾年の年月が経ち、兄さんは若くして旅に出た。
自分の医学で軍だけではなく、多くの人を助ける為に旅に出ました。
戦乱の時代、軍人ではない一般市民が旅に出るのがどれだけ危険で恐ろしい事は子供の私でも分かっていました。
それでも兄さんは、小さい時から着慣れた白いコートと医療用のバックを持って、家から出ました。
出ていった最初の日は寂しく泣いており、一週間後には神様に兄さんの無事を祈り続けていました。
そして数ヶ月後の出来事でした。
「おい、見てくれ、この新聞を!!」
父さんがいつもの日課である新聞を手にして驚いた表情で見ていました。
私達も気になり、見てみるとそこには旅に出ていた兄さんの姿が写真に収められていました。
内容は熱もない低体温になり、皮膚がが乾燥し、老人のような姿になる感染症がありました。
原因は不明で、治療方法も分からない病気でした。
だが、その病気の治療法は、なんと塩水を飲ませるという方法でした。
なぜ、そのような事で治療できたのか分かりませんが、感染した場合は死亡が確定だと思われた感染症は一週間程度で簡単に直せる病気へと変わりました。
これまでの常識を覆すような事を行い、この事実を知った新聞記者は兄さんの事を「神の医者」と書かれていました。
「まさか、本当にやるとはな」
「あの子が無事で本当に良かった」
「兄さん!!」
その事を知り、家族皆でお祝いをしました。
今は遠く、誰かの為にその腕を振るう兄さんは私達にとっては誇りでした。
それでも寂しいのは変わりないので、家に帰ってきたら沢山甘えよう。
そう思っていました。
「えっ?」
それは私にとっては衝撃しかありませんでした。
あの感染症の事件から次々と偉業を成し遂げる兄さんの新聞に書かれた内容がとても信じられなかった。
「メアリー」
そんな私を心配そうに抱いてくれる母さんの胸の中で私は大声で泣いてしまった。
「嘘、嘘だよ。
兄さんが、兄さんがぁ」
そう、子供の我儘だと思えるように叫びながら、気持ちが同じだとばかりに抱きしめる母さんに甘えるように強く抱きしめる。
新聞に書かれていた内容が理解できず、分かる範囲で、簡潔に私の中にそれは刻み込まれた。
「銀翼が兄さんを奪ったっ!!」
敵国である帝国へと捕らわれた兄さんはどのような目に合っているのか。
その技術を悪用されていないのか。
これから、もう兄さんに会う事ができないのか。
そんな不安だけが私の中に募り、やがて兄さんと共に写っている少女を見つめる。
帝国での銀翼の称号を受けている彼女が兄さんを奪い取った。
「取り返すっ、絶対にっ!!」
愛する兄さんを奪われた私は、この時から、、銀翼を狙う事への執着が生まれた。
コレラ
代表的な経口感染症の一つ。
汚染された水や食物を摂取する事により発症する。
経口摂取後、
胃の酢性環境で死滅しなかった箘が、小腸下部に達し、定着・増殖し、感染局所で菌が産生したコレラ毒素が病状を引き起こす。
その後、下痢や嘔吐を繰り返し、全身の水分が抜け、皮だけのような状態になり、死亡する。
過去に7回に渡って記録されている。
適切な処置として「下痢、嘔吐で失われた水分と電解質を補う」事である。
今回の事件において、物資が少ない中で個人で持っていた資金で清潔な水と必要なブドウ糖などでコレラの治療を図ったのがしろがねの行動である。
あまり専門的な事は詳しくは調べていませんが、恐ろしい感染症対策の一つとして、今回はあげさせてもらいました。