俺の親友は前世は男だったけど、今は幼女になった   作:ボルメテウスさん

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ご都合主義な無血

ターニャSide

 

その日の任務は本来だったら行われる戦場ではなく、ここからそう離れていないアレーヌ市での任務が行われる。

 

現在、このアレーヌ市で行われている蜂起の鎮圧任務だった。

 

元々は共和国であった為か、その可能性があったが、現在はそれが起きている。

 

このままでは補給も乏しい為に危険な事も考えての任務だが

 

「はっきり言う。

今回の任務はあくまでもここから敵が味方を撃った時のみに護衛の為の発砲のみだ」

 

「護衛?

それは一体」

 

「今回は、奴が解決する」

 

何を言っているのか分からない顔をしているが、私自身ですら、困惑している。

 

「本当にできるのか」

 

そう言いながらも見つめる先に全員が見つめて、驚きの顔をしている。

 

「なっ無茶です!!

こんな事はっ!!」

 

「無茶でも、奴はこれを実行すると言って意固地になっていた。

もしも反抗の意思があれば、自身を殺しても良いとすら言っていたからな」

 

「ですが、あの街の中でしろがねさん一人で行くなんて」

 

「無理ですっ、しろがねさんが危険です!!

 

そう、今回のアレーヌ市奪還において名乗り出たのは他でもないしろがねだ。

 

それも護衛を一人も連れずにだ。

 

上層部は脱走の可能性も考えていたが、怪しい動きを一つでもしたら、私の手元にあるスイッチで爆発させるという処置もあり、行っている。

 

「貴様は裏切り者っ!!」

 

「辞めろっ、この人がそんな事をした訳じゃない」

 

「そうだ、あの結婚だって、帝国の罠かもしれないし」

 

しろがねの姿を確認するなり、手に持っている銃をしろがねに向ける市民だが、他の市民がそれを取り押さえながら、しろがねへとリーダー格が近づく。

 

「神の医者と呼ばれる方がなぜこちらに」

 

「この街で軍人が怪我をしたという知らせを聞いてな。

その軍人を治療しに来た」

 

「それですか、ですがそれは必要ありません」

 

「なぜだ、死んだのか?」

 

「いいえ、奴らには死よりも苦しい思いをさせるつもりです」

 

「・・・」

 

そう言った奴らの目からは次々と怒りの炎をこみ上げるように言葉を発していた。

 

「あなたも共和国の国民ならば分かるはずです!!

帝国は敵です。

なのに、なぜあなたはその敵をも助けるのですか!!」

 

「そんなの簡単だ。

目の前で苦しんでいるならば、助ける。

そして、こんな下らない事をしている貴様達を止める為だ」

 

「とっ止める?」

 

しろがねの言葉に動揺を隠せない様子の市民がしろがねを見つめる。

 

「何を言っているのですか、これのどこが下らない事ですか!!

奴らは神の敵!!

ならば、殺さなければ」

 

「それは、お前達の大切な人達を殺してまで行う事なのか」

 

「殺して?」

 

「なるほどなぁ」

 

しろがねが行おうとしている事は結構単純な言葉だ。

 

「なっ何を言っているんですか」

 

「お前達は忘れているかもしれないが、ここは既に帝国の敷地に入ってしまっている。

その中でお前達が帝国の軍人に対して発砲、それも殺してしまうという事がどのように恐ろしい事が分かっているのか?」

 

「えっ?」

 

しろがねの言葉で見覚えがあるように幾人ものの市民は固まっているようだが、それでも止まらず、しろがねは続く。

 

「帝国はすぐにでも内部の不安材料を排除するだろう。

その為に、この街は焼かれてしまう」

 

「それは覚悟の「覚悟?軽い覚悟をするなよ」っ!!」

 

「ここはお前達が生まれ育った場所だろ。

生まれて、ここまで生きてきた間、嬉しかった事、楽しかった事もある思い出もある場所だろ。

それを帝国に支配されたから、国の為に反撃する?

馬鹿を言うな」

 

そう叫んだ瞬間、近くにある壁を殴る。

 

その音を聞き、しろがねの周りにいた市民は怯え始めた。

 

「お前達が行おうとしているのは、この場所を消え去るだけじゃない。

ここでお前達と一緒に住んでいる人も一緒に焼かれる事だぞ。

分かっているのか、お前達が殺した軍人の苦しみがそのままお前達の愛した人に対して降り掛かる姿を」

 

「あっあぁ」

 

その言葉を言いながら、しろがねはすっと歩き出し、近くに倒れているのは帝国の兵士だったか。

 

しろがねはその兵士の眼を閉ざし、祈りをささげた。

 

「お前達が殺したこの兵士の姿。

それが、このまま続けたお前達とその家族の末路、いやこれ以上かもしれない」

 

しろがねの言葉に対して、徐々にだが、市民共は震え始め、中には武器を手放している奴がいる。

 

「これって一体」

 

「この戦場だからこそかもな」

 

ここの奴らは帝国に対して怒りを持っているが、それは同時に帝国の恐ろしさも知っている。

 

しろがねはその痛みを受けるのは自身ではなく、家族へと標的された場合の恐怖を自覚させた。

 

たったそれだけだが、混乱している奴らの頭にはすんなりと入っている。

 

これも、英雄視されているしろがねのカリスマもあっての行動だ。

 

「お前達が帝国を憎む気持ちも分かる。

だがな、その感情で故郷を、大切な人達を失うな」

 

「お医者様」

 

「ここを出て行かなければならないかもしれない。

けど、仲間や家族がいれば生きていける。

そしてその生きた先で、またこの地に帰ってこれるかもしれない」

 

「俺達は」

 

未だに迷い続ける市民の銃をしろがねは銃口の自身の胸元へと押し付ける。

 

慌てて、銃を取ろうとしているが、私はすぐに止めさせた。

 

「それでも、地獄を望むならば、俺の心臓を打ち抜け」

 

「ぁっ」

 

その一言が全てが終わり、全ての者達が武器を落としていった。

 

同時にその様子を見ていたと思われる共和国の兵士が一斉に逃げ出した。

 

「少佐!!」

 

「追うな、今、追って戦えば全てが水の泡だ」

 

敵を目の前にみすみす逃がすのは問題だが、この状況では、市民の説得ができた方た大きな得がある。

 

上層部に対しての説得には十分なぐらいだ。

 

「案内しろ、俺の患者の元へ」

 

「はい」

 

その一言と共にしろがねを案内するように市民は歩いていく。

 

「さて、我々も行うとするか。

これならば、残るのは軍人のみだろうがな」

 

「それにしても凄い。

武器を使わず、言葉だけでここまでになるとは」

 

正直言って、現実味もない、三流芝居のような流だったがな。

 

だが、我々が育った日本は戦争に対しては徹底的な嫌悪を示しており、その戦争の無惨な結果などは記録している。

 

戦争の愚かしさを知っている私としろがねだからこそ理解できる事だ。

 

「そういう意味では、しろがねの説得は上手くいくもんだ」

 

未だに戦争の行方がどのようになるか分からない奴らにとって、しろがねの言葉は妄言かもしれないが、実際に行ってきた事を冷静に振り返れば、理解はできるだろ。

 

「説得方法は単純だが、それを実行する度胸は本当に恐ろしいよしろがね」

 

さて、しろがねがここまでしたんだ。

 

今回は疲れずに仕事を終えれそうだ。

 

ヴィーシャSide

 

アレーヌ市を無血での解決をしてから翌日。

 

私達は、その功績もあって、戦線へ戻るまで1日だけですが休みを貰いました。

 

アレーヌ市では、大尉としろがねさんの功績もあってか、元々住んでいる住人達は捕虜として丁重に扱っています。

 

その事もあって、この街は互いに不可侵領域となっています。

 

このような事を起こしたという事もあって、しろがねさんはある意味私達よりもとんでもない偉業をしていますが

 

「コーヒー用意しました。

上層部からのお礼らしいです」

 

「おぉ、これは!!」

 

「はいっ!!

今回の功績もあって、代用コーヒーではなく、正規のコーヒーです」

 

それを聞いて、笑みを浮かべている大尉を見ているとほっこりとします。

 

普段は冷徹なイメージな大尉ですが、時折見せる笑顔はとても可愛らしいです。

 

「しろがねさんの分もありますから」

 

「あっ俺もか?

でも良いのかな?」

 

「何を言っているんですか!!

今回はしろがねさんのおかげで解決した問題ですよ、上層部も喜んでいましたよ」

 

「そうなのか?

だったら」

 

そう言い、しろがねさんはゆっくりと出されたコーヒーを味わっています。

 

しろがねさんの姿を見ても、手錠をしている以外にも髪の色が珍しく白髪で目も銀色という変わった特徴を持っていますが、それでも美少年と言っても間違いはないでしょう。

 

「そう言えば、しろがねさんは年齢は幾つなんですか?」

 

「んっ、俺は18歳だよ」

 

「えっ!!」

 

想像以上の歳だった。

 

「それほどか」

 

「いえ」

 

そう考えると結構複雑ですが、コーヒーを飲んでいるしろがねさんと大尉を見比べる。

 

「なんだ、私の顔になにか付いていたのか?」

 

「いえ、なんというか、お二人は反対なのに、そんなに仲が良いかと思って」

 

「俺とターニャがか?」

 

「えぇ」

 

お二人ははっきり言うと温水と冷水ぐらいに違いがあります。

 

デグレチャフ大尉は敵味方にも厳しく、冷静な判断を持っており、常日頃から恐ろしく感じていますが、頼れる人です。

 

反対にしろがねさんは敵味方だろうと命を救う優しさを持っており、感情的になりやすく、頼れる人です。

 

「あっこうして考えると、反対な所もありますが、お二人が頼もしいのは共通していますね」

 

「そうなのか?

私はできる限りしているし、しろがねも同じだ」

 

「あぁ俺は治す事しかできないし、それが戦争の解決には繋がらないからな」

 

そう言って、お二人は紅茶を飲んでいますが、その姿はとても微笑ましいです。

 

「そういえば、お二人の好物はなんですか?」

 

「「えっ」」

 

その言葉を聞いた瞬間、お二人とも固まりましたがどうしたんでしょうか?

 

(私の好物?

好物と言ったら、素直に言ってコーヒーと言えば良いが、しろがね、お前は確か)

 

(納豆に卵かけご飯だな)

 

(あぁ覚えている。

お前が旨そうに食べていたから、つい食べたが、その後下痢になってしまったからな。

だが、今はそこではない、この世界でのお前の好物は何にする!!)

 

お二人共、私の言葉を聞いた瞬間に、互いを見つめ合っているけど、まさかっ!!

 

お二人とも好きなのはお互いで、書物で書いておりましたが、「好物はお前さ」と言っていた所があったはず。

 

だとしたら?!

 

「だっ駄目ですよっ、しろがねさん!!

大尉が好きなのは分かりますが、そっそういうのはっ!!」

 

「えっなになに!?」

 

幾ら戦場に身を置いても、大尉はまだ子供。

 

そういうのはきちんとしなければ、あれ?

 

そう言えばそもそも結婚したのは確か、しろがねさんと大尉が行ったからこうなった訳だけど、それは確か大尉から行ったという事?

 

だとしたら、大尉はむしろ積極的で

 

「おい、おいヴィーシャ中尉」

 

「大尉!!

大尉はもっと年相応の考えが必要ですっ!!」

 

「貴官は私達が黙っている間に、どのような結論に至ったんだ?

あぁ、しろがねの好物は確か、豆だ」

 

「豆ですか?」

 

「あっあぁ聞いた話だと、遠い国で作られた特殊な方法で作った豆でな、私も聞いた話だけど、それが珍味だったらしい。

なっしろがね」

 

「あっあぁ、そうだな。

確かにこの国にも、俺の故郷にもなかったからな、なんとなくの記憶で、豆だったかなぁ程度だったから。

それ以来、豆は好きなんだ」

 

「なっなんだ、そうだったんですか」

 

珍しい物好きだったから、それが可笑しいと思ったから緊張していたんだ。

 

でもなぜでしょう、お二人の笑みは微妙に固まっていますが

 

「すいません、私、とんだ勘違いをしていて」

 

「何を勘違いをしていたのか分からないが、謝る必要はない。

私達はそれだけ沈黙していたからな」

 

「そうだよ、ほら、コーヒーでも飲んで」

 

「はいっ」

 

良かった。

 

それにしても、やっぱりこの二人は仲が良いです。

 

((危ない所だった))

 


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