タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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056 カレリア地峡紛争-5

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 ジョフレの大破炎上(※1)は、フランス国内の世論に火を点けた。

 新鋭でありブリテンやアメリカの持つ正規空母群と比較しても劣る所の無い、戦艦に次ぐフランス海軍の誇りと竣工の時より宣伝されていたフネなのだ。

 その反応も当然であった。

 議会ではソ連との関係の深い平和派が声高に、政府がフィンランドに肩入れをした結果であると叫んだ。

 混乱するフランスの政局。

 だが、世論調査に於いて平和派に対する支持はそれ程に高まっては居なかった。

 フランスの誇りを傷つけられた事への怒りの方が強かった。

 それ故に、フランス政府はこの状況を攻勢的に活用する事を決断する。

 後に平穏の為の平和の否定(レッド・パージ)と呼ばれる政治的排斥行動である。

 ジョフレを傷つけたものはソ連かソ連に与する国であると断じ、国民に対してソ連とドイツの枢軸国家との対峙を叫んだのだ。

 当然ながらも平和派は反発し、中でも過激な者達は武力を伴った街頭デモを行った。

 それこそがフランス政府の狙いであった。

 かの如く主張を武力で掲げる者は民主主義の敵であると断じ、国家警察による武力鎮圧を開始する。

 フランスの治安は悪化する事となるが、最終的に世論の集約には成功する事となる。

 

 

――アメリカ

 ジョフレの損害の衝撃はフランスも大きかったが、ある意味でアメリカにも大きな衝撃を与えていた。

 ジョフレの設計には、アメリカ海軍がグアム共和国(在日米軍)の協力の下で行っていた次世代空母設計計画(※2)の成果が反映されており、にも関わらず2発の魚雷で実質廃艦状態まで追い詰められたのだ。

 俄には信じ難い話であった。

 この為、グアム共和国(在日米軍)とアメリカの海軍の合同調査チームが編成され、フランスに派遣される事となった。

 調査の末に判明したのは、ジョフレが余りにも可燃物を積み過ぎていたという事実であった。

 軍需物資を満載した上で内装に木を多用していた為、用意されていた消火設備では対応しきれなかったと言う現実である。

 この為、アメリカはグアム共和国(在日米軍)と日本海上自衛隊の勧めもあって、艦の不燃化に取り組んでいく事となる。

 

 

――日本

 ジョフレの事件を受け、敵性潜水艦の存在を把握した日本であったが、第391任務部隊(TF-391)を後退させると言う選択肢は取らなかった。

 ソ連が戦争を望むのであれば、それを全力で正面から対峙して組み伏せるべしという判断であった。

 同時に、TF-391として派遣されている艦と乗組員への全幅の信頼あればこそでもあった。

 日本は即日に国際連盟に於いて記者会見を行った。

 フランスにジョフレの遭遇した境遇への哀悼を示すと共に、卑劣な行為を行った不明の国家への非難を行う。

 その上で、周辺諸国に対して宣告(・・)を行った。

 人道的目的で活動するTF-391の航路、その公海上で潜航する潜水艦を発見した場合、音響爆雷による警告を1度は行うが、万が一浮上しなかった場合には所属不明の不逞潜水艦(・・・・・・・・・・)と判断し撃沈する、と。

 この極めて攻撃的な日本の宣言に対し国際世論は衝撃を受ける事となる。

 日本のマスコミの中には、余りにも平和主義からかけ離れた攻撃的な宣言であり、侵略的な内容は憲法違反であると叫ぶ人間も居た。

 だが日本政府は、この宣言は自衛の範疇であり、人道目的の完遂の為に必要な処置であると反論した。

 日本の世論はフィンランドに対して同情的であり、同時に、ジョフレが受けた卑劣な攻撃に対して反感を持っていた為、マスコミの扇動が上手く行く事は無かった。

 

 

――ソ連

 日本の宣言にソ連は歓喜した。

 盛ったと言って良いジョフレへの攻撃によって、ソ連はTF-391が撤退すると考えていたが、それが否定されたのである。

 展開中の潜水艦部隊に、万難を排して大型巡洋艦アドミラル・エヴァルトと空母ずいかく、戦艦むさしを撃沈する様に命じた。

 その上で、日本の哨戒機の活動を邪魔する様にソ連航空部隊に命令した。

 哨戒機への妨害は、日本の帝国主義的宣言に対するソ連人民の抵抗であるとした。

 とは言え、ソ連の領空まで哨戒機が接近して来ない為、戦闘機部隊に出来る事は無かった。

 では爆撃機などの大型機はどうかと言えば、此方も不可能に近かった。

 ソ連はシベリア独立戦争の戦訓から航空機開発に関して迎撃機に傾注していた為、碌な大型機を保有していなかったのだ。

 とは言え、ソ連政府の厳命である為、妨害活動と称して輸送機を派遣していた。

 

 

――バルト海

 政治からの命令により虎口に飛び込む事となったTF-391であったが、そこに100年の技術差による慢心、或は驕りというものは無かった。

 P-1哨戒機による丁寧な先行飛行と、ひゅうがを旗艦とする第391.2任務部隊(TF-391.2)の先遣部隊による制圧。

 世界中の耳目が集まる中、TF-391は一路フィンランドを目指す。

 最初の戦闘は、サウンド海峡であった。

 デンマークとスウェーデンとの間にある隘路(チョークポイント)だ。

 ソ連は3隻の潜水艦を配置し、虎視眈々と襲撃の機会を狙っていた。

 攻撃の指示に関しては、ソ連がTF-391に随伴させている貨物船に偽装した監視船が行うものとしていた。

 監視船の無線指示によってソ連潜水艦部隊は行動するのだ。

 無線指示に従い、聴音探知に引っかからぬ様に機関を停止し、ひっそりと待っていたソ連潜水艦部隊であったが、状況を把握する為に使用した潜望鏡が潜望鏡探知レーダーに捉えられ、所在が把握される事となった。

 探知しだい即座に、SH-60L哨戒ヘリによって行われた音響爆雷による警告。

 だが、ソ連潜水艦部隊は共産党の命令の為、浮上する事は出来なかった。

 退避を図るソ連潜水艦3隻であったがその様な事をTF-391が許す筈も無く、尽くが音速よりも早く放り込まれる垂直発射型対潜ミサイル(VLA)によって殲滅された。

 その様を間近で見た監視船は、報告書に“その様相は戦闘では無く処理(・・)であった”と記載する程であった。

 その後も、バルト海に入って以降2度、襲撃を行おうとしたが、都度都度毎に処理されていた。

 この状況に、監視船に乗っていたソ連潜水艦部隊指揮官は、何としても帝国主義的暴虐象徴であるTF-391に一矢報いんと図る。

 超遠距離からの一斉水雷攻撃だ。

 無線で事前の海域を指定し、有効射程のギリギリからの雷撃 ―― これであればソ連上層部から出された優先襲撃目標は狙う事は出来ずとも、TF-391に一撃を与える事は出来るだろうとの判断であった。

 場所は、ゴトランド島東方海域だ。

 潜望鏡も使用せずに行う一斉射は、周辺の一般民間船舶や監視船までも被害を受ける危険性はあったが、ソ連潜水艦部隊の意地を見せてやるとの一念であった。

 とは言え事前にTF-391に探知される事無く集結出来たソ連潜水艦は3隻だけであった。

 他に2隻、参加しようとしていたのだが、洋上航行中をP-1哨戒機に発見され、退避行動を余儀なくされていたのだ。

 この為、発射出来たのは12発に留まっていた。

 内、正常に作動したのは10発。

 これがTF-391を襲った。

 対するTF-391は、10発の魚雷を探知した時点で対魚雷用魚雷(ATT)を使用した。

 ソ連監視船が見たのはTF-391が打ち上げたATT、そして10個の水中爆発であった。

 その衝撃が冷めやらぬ内にVLAが放たれ、3つ、海の藻屑が生み出された。

 

 

――ソ連

 TF-391監視船より報告された、ソ連潜水艦部隊の被害に、ソ連海軍上層部はスターリンに対して作戦の中止を上申した。

 今現在ソ連が装備する潜水艦では自殺的攻撃ですらなく、只の自殺でしかないとの内容であった。

 捲土重来、臥薪嘗胆。

 未来の為に今は耐えるべきと訴えたのだ。

 粛清すら覚悟して上申したソ連海軍潜水艦部隊指揮官であったが、スターリンの反応は平穏なものであった。

 周りの人間が恐怖を覚える程に平坦な声で、上申を了承した。

 又、潜水艦部隊に対して、新型潜水艦と新型魚雷の開発を行う様に命じた。

 今は勝てずとも、10年後には勝てる潜水艦部隊の育成を命じた。

 

 その夜、スターリンは痛飲した。

 

 

 

 

 

(※1)

 喫水線から上が炎上したジョフレであったが、平時であり回収作業に時間を掛けられたお蔭で廃艦処分は免れる事となる。

 これ程の被害を受けてしまえば、修復には新しく艦を建造するのにも匹敵する程の手間暇が掛かる事になる為、廃艦処分が妥当となるのだが、フランス海軍は今回の被害を精査、解体と修復を行う事で、被害に強い艦船建造に向けた知見の蓄積を行うべきであると判断したのだ。

 設計に協力したアメリカも、この作業に参加する事となる。

 

 

(※2)

 グアム共和国(在日米軍)の保有する原子力空母を調査し、その運用実績を基にアメリカ海軍が今必要とする正規空母はどの様なものかを探求する計画であった。

 この計画の成果が33000t級将来空母計画案(FCVTP)として纏まる事になる。

 特徴としては、艦様を一変させる事となったアングルド・デッキの採用があった。

 その他の特徴は、甲板を装甲化し蒸気カタパルトや先進着艦システムを採用し、エレベーターは側舷(デッキサイド)式に2基にするなど多岐に亘っている。

 そして、この成果を基にアメリカ海軍はヨークタウン級2番艦エンタープライズを改装し、実験する事となった。

 流石に飛行甲板の装甲化までは十分に行う事は出来なかったが、それでも従来のアメリカ空母とは一線を画す防御力を誇る事となった。

 尚、この実験的改装の実施に関しては、アメリカの技術的な熟成の問題があり、グアム共和国(在日米軍)を介して日本も支援を行った。

 エンタープライズの運用実績が、アメリカの次世代空母、37000t級大型空母エセックス級に繋がる事となる。

 

 尚、ジョフレ級の設計時点ではFCVYPは纏まっておらず、採用されたのは飛行甲板の装甲化とアングルド・デッキ等に限られていた。

 格納庫を効率的に運用できるデッキサイドエレベーターが採用されなかったのは、ジョフレが主として運用される北海海域が荒れやすい海である為、構造上の弱点となる開口部を作る事をフランス海軍が嫌がった事が理由であった。

 だが、この開口部が存在しなかった事が、格納庫内の物資が炎上した際に洋上投棄が出来ないと言う事に繋がる。

 この為、調査後に行われたジョフレの修復の際には開口部を兼ねたサイドエレベーターが採用された。

 

 

 

 

 

 




2019/10/09 文章修正
2019/11/15 題名変更

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