タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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076 アメリカの帝国主義-4

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 ベネズエラの軍事クーデターに纏わる経緯をドイツから入手したチャイナは、アメリカに恐怖した。

 思いだしたのだ。

 G4を筆頭とした列強の持つ傲慢さと狂暴さを。

 理屈を超えて振り回されるソレ(・・)に国家を寸断され、蹂躙されて来た過去と現在を思いだしたのだ。

 

 

――チャイナとドイツ

 ドイツに対して更なる軍備の売却を要請しようとするが、困難な問題に直面する事となる。

 財政 ―― 財源だ。

 打ち続く戦乱によりチャイナの経済は堅調な成長を行えない状態が続いており、税収は常に下降傾向にあった。

 この為、通常の予算で対価を用意するのが困難になりつつあったのだ。

 チャイナ政府は国家防衛の為であるとして重税を課してはいたのだが、それでも追いつかなくなっていたのだ。

 資源や権益での支払いは、チャイナ国内で価値のあるめぼしいモノが少なくなっており難しい。

 軍備向けの国債を発行すると言う選択肢もあったが、そもそも纏まった規模の国債購入が可能な裕福国がアメリカを筆頭としたG4陣営とその影響下にある為、全く期待できない。

 八方塞となったチャイナ政府は、禁断の資源に手を出す事となる。

 人間(・・)だ。

 労働人口の不足しているドイツに対し、チャイナ人を提供しようと言うのだ。

 この提案にドイツは最初は困惑し、そして最後に歓喜した。

 ドイツはユダヤ人の追放と再軍備を行って以降、慢性的に労働力の不足に苦しんでいたのだから。

 ドイツ政府は、このチャイナ人労働者を管理(※1)し、ドイツ国内の企業に斡旋する事で対価を得る事となる。

 事実上の奴隷貿易の復活であった。

 

 

――国際連盟安全保障理事会

 イタリア人調査団が、チャイナでの状況をつぶさに調査した内容を纏め、報告書として安全保障理事会に提出した。

 その内容は概ね、アメリカの主張を肯定するものであった。

 イタリア人の目から見てチャイナの現状は、治安は麻の如く乱れ、各地で馬賊が跳梁していた。

 地方の軍は軍閥と化しており、チャイナ政府の統治は届いていない。

 チャイナ人の一般大衆は戦乱に喘いでいる ―― 報告書はそう纏められていた。

 この報告書を確認したチャイナは帝国主義国家(ジャパン・アングロ)による謀略であると声高に主張した。

 とは言え、国際連盟の安全保障理事会には参加が許されなかった為、主張したのは国際連盟総会であったが。

 だが総会に於ける反応は芳しく無かった。

 世界経済に於いて過半数どころでは無い経済規模を誇る強者連合(G4)に、敵対してもいないのに面と向かって批判できる国家などある筈も無いのだから。

 安全保障理事会ではドイツがチャイナへの弁護を行っていたが、その主張はチャイナの主張をまる飲みした無理筋のモノであった為、ドイツの友邦であるソ連以外の安全保障理事会参加国 ―― イタリアやブラジルの賛同を得る事は出来なかった。

 アメリカはドイツの非理論的な主張を無視し、報告書を基に粛々と議事を進行させてチャイナを紛争当事国に認定する様に安全保障理事会の議長に要求する。

 議長(国)であるフランスは、これを嬉々として受け入れてチャイナの紛争国認定に関する決議を行った。

 議決は賛成6、反対1、棄権1、と言う結果となった。

 反対票を投じたのはドイツであったが、拒否権を持たぬ非常任理事国である為、その意味は無かった。

 この結果にチャイナは激怒し、国際連盟の脱退を宣言する事となる。

 

 

――ドイツ

 安全保障理事会にて行われたチャイナの紛争国認定と、それに伴った武器売却の制限は国際連盟加盟国であるドイツを縛る事と成った。

 とは言えチャイナはドイツに対して契約/支払い済みの軍備の引き渡しを強く要求した。

 ドイツ側としても製造済みのチャイナ向け軍備の代金を得る事は重要であった。

 又、チャイナが約束した魅力的な対価 ―― 労働力の提供も、早期の取得をドイツ産業界がドイツ政府に対して要求していた。

 この状況に苦慮したドイツ政府は、最終的な決断を下した。

 ドイツの国際連盟脱退である。

 ドイツ代表は国際連盟総会の場にて、痛烈に覇権主義国家集団(ジャパン・アングロ)を批判し、民族自決の誇りの為に脱退すると宣言した(※2)。

 

 

――アメリカ

 チャイナの紛争国認定が、チャイナとドイツの国際連盟脱退によって事実上無効化された事に関して、アメリカは余り気にしていなかった。

 チャイナを締め上げる事が直接出来なくは成ったが、であれば間接的に絞り上げれば良いからだ。

 反対勢力の消滅した安全保障理事会にて、チャイナへの武器流入を阻止する為に、チャイナへの武器供給国への経済制裁を提唱する。

 この提案に対して反対したのはソ連だけであった。

 国際連盟加盟国に対して自制を要求するのではなく、非国際連盟加盟国への干渉を行う議決を行う事は国際連盟加盟国を安全保障理事会の徒として帝国主義的に運用する行為であると言うのが、その主張内容であった。

 対してアメリカは、チャイナ国内で活動する国際連盟加盟国国民の安全確保とチャイナ周辺の国際連盟加盟国への難民の流出を阻止する事が目的であり、これは国際連盟加盟国の共通利益であると主張したのだ。

 とは言えソ連の主張にも見るべき点があった為、ブラジルが安全保障理事会ではなく国際連盟総会で決議を行う事を提案した。

 安全保障理事会は国際連盟加盟国の為の組織である。

 その上の行動として、国際連盟が非国際連盟加盟国に対し行動するのであれば国際連盟総会が相応しいと言うのが主張であった。

 ブラジルの思わぬ主張ではあったが、アメリカはそれを受け入れた。

 G4の連絡会に於いて日本、ブリテン、フランスの支持を取り付けている為、国際連盟総会に於いても否決される事は無いと言うのがアメリカの票読みであったのだから。

 国際連盟総会は初めての議題 ―― 非加盟国への強制力を伴った議決に紛糾した。

 異を唱える意見の多くは、国際連盟の強権発動は慎重であるべきと言う内容であった。

 とは言え、強くアメリカへ反対の声を上げうる国家が居る筈も無く、議論は3日で終息し議決となる。

 議決は、国際連盟加盟国の過半数がアメリカの主張に賛同し、ここに国際連盟史上初の非国際連盟加盟国への制裁が行われる事が決定した。

 この議決によって、国際連盟は連盟加盟国間の利害調整と安全保障のみならず世界への干渉 ―― 平和と人権に基づく行動を行う組織へと変貌する事となった(※3)。

 

 

 

 

 

(※1)

 ドイツ国内にチャイナ人が生活する共同生活施設(コンツェントラツィオンス・ラーガー)が設けられる事となり、仕事に行く際の管理は治安維持に力を振るう必要性もあってドイツ保安警察が担当した。

 ドイツに渡ったチャイナ人は、3食と週末の休暇こそ与えられたが、過酷な労働と給与も娯楽も無い生活を強いられる事となった。

 ドイツに派遣された(売られた)チャイナ人は、故郷へ戻れる事だけを夢見て働いた。

 とは言え、無事に帰郷出来たのは半数にも満たなかった。

 食事は3食提供されるとは言え粗末なモノである為、栄養失調で倒れる者も多かった。

 過酷な待遇故に共同生活施設や労働現場で脱走を図るチャイナ人も少なからず居たが、成功をする事は先ず無かった。

 脱走出来たとしても、この頃のドイツでアジア(チャイナ)人は目立つ為、ドイツ保安警察によって簡単に捕縛、射殺される事が多かった。

 又、奇跡的にドイツ保安警察に発見されなくても、ドイツ人の日本への反発と憎悪のはけ口として消費(・・)されると言う末路があった。

 この他にも様々な過酷な出来事がドイツに渡ったチャイナ人の身に降りかかった。

 この為、後の時代に人権問題となってチャイナとドイツの関係に禍根を残す事となる。

 

 尚、この事を世界(G4)は重視しなかった。

 人権意識と言う意味では先進的である筈の日本も。

 一部の人権団体が非難声明を発表するが、日本政府が動く事は無かった。

 日本政府にとってチャイナ人の人権問題よりも、日本と日本連邦の繁栄こそが重要であり、それ以外の問題に首を突っ込む(世界の警察を気取る)予算も動機も無いのだから。

 

 

(※2)

 尚、日本ではドイツ人による自殺的ジョークだと理解された。

 人権弾圧国家がチャイナ人の人権を口にした時点で失笑ものである、と。

 但し、日本の政府関係者は戦争の足音が近くなった事を理解した。

 

 

(※3)

 非G4派国際連盟加盟国の筆頭にあったソ連は、国際連盟総会での議決に恐怖した。

 G4の絶大な影響力と国力は、世界の敵を作り出せる(・・・・・)のだと。

 ソ連はドイツとチャイナの行動の是非を冷静に分析し、アメリカの行動も止む無しと認識はしたが、それでも目の前で世界の敵を定めると言う行為には恐怖を感じるしか無かった。

 今現在のソ連の国力はG4の最下位国であるフランスの足元にも及ばず、更にはシベリア共和国の分離独立もあって経済の発展も良好とは言い難かった。

 この状況で積極的なG4との対立を選択するほどにスターリンも呑気では無かった。

 ソ連外交部に対し、G4とは消極的中立関係を維持する様に指示を出す事となる。

 その夜、スターリンは痛飲した。

 

 

 

 

 

 


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