俺は魔王の女王で魔王の妹は俺の女王で婚約者   作:黒幻

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この情勢下で仕事、プライベート共に色々とあり、気付けば一年近く更新出来ませんでした。
待っててくれてる方が居るかは分かりませんが楽しんで頂けたら幸いです。
これからも完全不定期ですが、よろしくお願いします。


【14歳】無価値と無能 ③

レイ「サイラオーグ・バアル、お前は実に下らない」

 

サイラオーグ「⋯何故⋯そう思うのか!」

 

何故だと?そんなの決まってるだろ。

 

レイ「ならば問おうサイラオーグ・バアル。

お前は今の台詞⋯それは今の冥界の、悪魔のあり方を否定しているのと同じだ。

それをお前は、今の冥界で好き勝手してる奴等に対しても正面から言い切れるのか?」

 

サイラオーグ「!、⋯⋯⋯」

 

俺の言葉にサイラオーグは目に見えて動揺した。

当然だな、今の冥界でそんな事を声を大にして言えば、自分勝手な権力者共が必ず裏で動くから、そしてこいつもそれを分かっているからだ。

 

レイ「ああ⋯その想いだけは認めてはやるよ、とても立派だ、今の冥界ではそう在ろうとする者の方が少ないだろう。

けどな⋯"無能"と呼ばれたお前一人で変えられるのならば、とっくに変わってる。

それでも、変わる事無く現状があるのは、誰もがそいつらの前では黙るからだ。

超越者たるサーゼクス・ルシファー、アジュカ・ベルゼブブ、この二人だってそうだ、転生悪魔に理解は示し、下にも目を向けてはいる。

だが、上の老害共に勝手を許し、大々的に調査もせず、決定的な証拠が無ければ罪も問わない、どころか動くことすらない。

結局は、純血同士での戦いはしたくないんだ、だから⋯見て見ぬふりをしている」

 

転生悪魔は元々種の数を増やすのを目的として考えられ、作られた物が悪魔の駒だ。

だから、それが火種になり純血で争い、数を減らす事を純血は良しとしない、だから黙る。

黙って⋯何もしない。

あの老害連中は自分の権力が侵されるならば純血だろうと殺そうとすると言うのに⋯。

 

サイラオーグ「⋯それは⋯」

 

レイ「だからこそ、俺みたいな奴が現れるんだ、俺はお前とは真逆の男だよ。

例えそれが無辜の民であろうと、無関係の連中を助ける気は無いし、どうでも良い。

そして⋯俺は俺の、セラフォルー様の、シトリーの、家族の敵となるのならば⋯誰だろうと殺すこの手で一切の容赦も慈悲もなく殺し尽くす。

純血、転生、人間、神であろうと、種族も性別も年齢も立場も関係無い、俺の大切な者に手を出す奴は皆殺しにする。

そして、こんな俺を作ったのは、今の冥界であり⋯先程言った老害共だ。

俺が気に入らない、ただそれだけで吹っ掛けて来る様な馬鹿共。

俺を利用しようと近付きあしらわれ逆恨みする馬鹿共だ。

分かるか?俺の苦労が⋯魔王と言い貴族と言い、どいつもこいつも甘過ぎるんだよ!!

過去の栄光に縋る事しか出来ねぇ癖に、自分が偉いと勘違いしてふんぞり返るしか脳のねぇ老害。

金と権力と少しの力さえ持っていれば何をしても許されると思ってる糞貴族共。

こんなどうしようもねぇクズ共なんざ一人残らず殺しちまえば良いんだ!!!!」

 

体面もくそも無い、俺は怒鳴り散らしていた。

 

なんなんだ⋯この感覚は⋯。

 

サイラオーグ「ッ!、⋯⋯⋯」

 

俺の言葉に、サイラオーグは歯を食い縛るだけで何も言わない。

 

ああ⋯そうか⋯なんとなく分かってきた⋯この感覚は⋯。

 

レイ「お前もだ⋯お前が俺の知らぬ所で理想を語るのも、魔王を目指すのも勝手だ、けどな⋯。

己が理想を声を大にして言えない様な奴が、圧力や権力を恐れて縮こまる様な奴が!俺の前で理想を語るな!!

 

俺はサイラオーグに対して殺気を出し、声を荒げ言った。

本当に不愉快で堪らない、こいつの様に少しの逆境を味わっただけで理想を語り、それが真理だと信じて止まない様な奴は―――

 

サイラオーグ「⋯⋯⋯」

 

レイ「はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯ああ、そうだな⋯漸く理解したよ⋯サイラオーグ。

俺はお前が―――大嫌いだ」

 

心底嫌いだ。

 

セバス「⋯⋯⋯」

 

見なくても解る、俺の叫びにセバスの目付きが変わった⋯いつでもコイツ等を殺れる様に。

 

レイ「断言してやるよ、今の冥界には上のクソみたいな連中の為の秩序は存在しても、その逆はあり得ない。

決して⋯下の者の為の秩序や正義なんて物は存在しない」

 

サイラオーグ「ッ⋯⋯⋯」

 

サイラオーグは今にも血が出そうな程に手を強く握り締めている。

 

レイ「話しは終わりだ、疾く失せろ」

 

俺は殺気を静め、落ち着いたと同時にそう言った。

これで話しは終わった⋯そう思ったが。

 

サイラオーグ「⋯⋯⋯」

 

サイラオーグは動かなかった。

 

レイ「⋯セバス」

 

セバス「はい」

 

レイ「車を回してこい」

 

セバス「すぐに」

 

「あ、あの⋯」

 

レイ「⋯⋯⋯どけ」

 

「!、⋯失礼致しました⋯」

 

俺が静かに、だが確かに殺気を込め言うと、執事は汗を垂らしながら道を開けた。

そして、俺は部屋を出る直前。

 

レイ「⋯⋯⋯何を思うかは自由だ、俺を殺したければ殺しに来れば良い。

それと⋯さっさと帰れ、シトリーの者達の邪魔になる」

 

俺はそう言って部屋を出た。

すると。

 

「随分と手厳しかったですね⋯」

 

レイ「立ち聞きとは良い趣味してるな。

それに、俺をこんな風に育てた内の一人が良く言うぜ」

 

「ふむ⋯私は君をそう育てた覚えは無いのですがね⋯。

それと、あれだけ大声で叫んでいれば、嫌でも聞こえて来ますよ」

 

レイ「⋯そうかよ、でも⋯もう諦めなよ、他人に感化される時期はとっくに過ぎた。

俺の生き方はもう⋯変わることなんて無い、それは⋯貴方も良く知っているだろう?」

 

「そうですね⋯」

 

レイ「それに、あいつには何もかもが足りてない」

 

「まあ⋯確かに、聞いていた限りでは、彼からは覚悟も決意もその程度と言えるほどにしか感じませんでしたね」

 

レイ「甘いんだよ、上部だけの悲劇を見て、それが全てだと思ってる。

だから、その更に奥深くの部分には気付けてすらいない」

 

「曲がりなりにも大王家の者ですからね、あの正義感の持ち主の耳に入れば面倒でしょうから。

そもそも入らない様に操作されているでしょうしね」

 

レイ「それでもだ、大王家の権限で調べれば直ぐに解ることだろ?

その時点で、あいつが怠ってる証拠だし。

俺が言った言葉も、所詮は上部の⋯自分が見ている"だけ"の部分に怒ってるとでも思ってるんだろうよ」

 

「⋯⋯⋯」

 

レイ「チッ⋯悪いな、セバスを待たせてるんだ」

 

「ええ、お気を付けて下さいね」

 

レイ「⋯うん」

 

「はぁ~⋯全く、相変わらず手の掛かる子ですね。

ですが、確かにその通り⋯彼をあんな風にしたのは冥界の汚さですからね⋯。

セラフォルー様とソーナお嬢様、どちらか片方でもいなければ⋯彼は間違いなく悪魔の敵になっていたんでしょうね⋯。

⋯仕方ありませんね、フォローくらいはしてあげますかね⋯」

 

 

 

次の日・・・時刻は昼過ぎ。

 

レイ「くぁ~⋯」

 

俺は休日と言う事もあり、昼過ぎまで寝ていた。

まあ普段はもっと早く起きているのだが⋯。

 

セバス「おはようございます、レイ様」

 

レイ「⋯ああ⋯ヴァーリは?」

 

セバス「ヴァーリ様はまだ就寝中です、流石に起こすのは酷かと思いまして⋯」

 

レイ「ああ⋯そうだな⋯そのまま寝かせてやってくれ、昨日のあれは100%俺が悪い」

 

セバス「はっ⋯」

 

昨日の俺は機嫌が悪く、家に帰った後⋯

ヴァーリを呼び出して軽く、いや⋯結構本気でやりあった。

そして、気付けばそのまま数時間が立った頃、ヴァーリが死んだ様にぶっ倒れ、俺も冷静になった。

ヴァーリには八つ当たりなんて悪い事をしたと思ったのだが、その戦闘を見ていた者達は口を揃えて「ヴァーリは終始笑ってた」と言っていたので別に良いだろう。

 

「レイ様」

 

レイ「ん?どうした?」

 

「なんかお客様が来てますけど」

 

レイ「誰だ?」

 

「えっと⋯サイラオーグ・バアルって名乗ってますが」

 

レイ「⋯⋯⋯」

 

「レイ様?」

 

レイ「⋯放っとけ」

 

「良いんですか?」

 

レイ「ああ」

 

「分かりました、皆様にもそう言っておきます」

 

レイ「頼む」

 

「はい」

 

――――――――――――――――――――

 

ヴァーリside

 

昼過ぎ

 

ヴァーリ「あ~まだ身体中痛てぇ⋯」

 

昨日は兄さんに鍛えて貰う筈だったんだけど⋯なんでかは知らないけど帰って来た兄さんは物凄く機嫌が悪く、鍛えると言うよりは殺し合いに近い事をした。

 

ヴァーリ「でも⋯久々に兄さんの本気の殺気を感じれたし、なにより楽しかった。

兄さんを怒らせた奴には感謝だな!お陰で倒れるまで兄さんとやりあえた⋯⋯⋯ん?

 

 

誰だ?アイツは⋯」

 

家の前に1人突っ立ってる男が見えた。

ここはシトリー領の中心地だ、だから家の前に誰かが突っ立てるなんて普通はあり得ない、シトリー領の者ならば迷わず門を叩くし、外からの客はまずこんな観光名所も何も無いところには入って来ない。

だからそういう奴は大抵が観光客を装った敵⋯兄さんに害を為す為に少しでも情報を持ち帰ろうとしている害虫だ。

 

セバス「ヴァーリ様」

 

ヴァーリ「ん?あぁ⋯セバスか」

 

セバス「はい」

 

どうするか⋯と考えながら窓からそいつを見ているとセバスが話し掛けてきた。

 

ヴァーリ「なんなのアイツは?」

 

セバス「昨日も申しましたが、彼は昨日レイ様に弟子入りしに来たのですが、レイ様の怒りを買い断られたのです。

名はサイラオーグ・バアルと言っていました。

何故今日もいらしているのかは解りませんが⋯レイ様からは放っとけとのご命令ですので、誰も相手にする事はありません」

 

セバスからそいつの名前がサイラオーグだと聞いて、俺は昨日のセバスからの報告を思い出した。

俺は普段兄さんが何をしていたのかなんて事は殆ど聞かないのだが、昨日は流石に聞いた。

なんせ昨日帰って来た時の兄さんは家の連中達でさえ怯える程の怒気を孕んでいた。

多少の殺気では眉一つ動かさないで笑ってられる家の連中が⋯だ。

だから俺は、聞くべきか聞かないでおくべきかと迷ってる周りを代表してセバスに聞いた「何があったのか」と、そして返って来た答えがコイツが兄さんを怒らせたと言うことだった。

その後に俺はすぐに兄さんに呼ばれて殺し合いとも言える修行が始まって、終わってからはついさっきまで寝てた、だから"アイツが兄さんを怒らせた"それ以上の事は何も知らない。

俺は一瞬、依頼を受けなかった兄さんに報復に来たのかと疑ったが、それにしては余りにも堂々としすぎてる。

 

ヴァーリ「ふぅん⋯良く来る気になったな?兄さんはもうアイツに会う気も、興味も無いんだろ?」

 

セバス「そうですね⋯」

 

俺の言葉に、セバスは頷いた。

 

ヴァーリ「⋯それで?アイツ⋯なにしたんだ?

いくら兄さんでも、平然と門前払いなんて普段なら言わないと思うんだけど」

 

セバス「サイラオーグ殿は⋯」

 

俺の質問に、セバスは昨日あった事の話し始めた。

 

 

 

ヴァーリ「あ~⋯成程な⋯それはキレるな」

 

セバス「はい」

 

ヴァーリ「よりにもよってそんな事をほざくとか⋯馬鹿じゃないのか?あいつ。

兄さんの前でそんな綺麗事を言って、兄さんが笑顔で受け入れ、支持し、手を貸すのなんてセラフォルー義姉さんとソーナ義姉さんだけだ」

 

セバス「そうですね」

 

ヴァーリ「あの二人に関してはどんな理想や夢物語を語ろうとも、兄さんにとっては愛しさしか感じないだろうからな。

現にソーナ義姉さんが掲げた目標も形は違えどサイラオーグと少し似てて、今の冥界では綺麗事って言われるだろうけど⋯」

 

セバス「はい、レイ様は全力でその夢を支えると笑顔で仰っておりました。

既に計画も考えられているとか⋯」

 

ヴァーリ「フッ⋯ハハハハッ!!だろうな、兄さんはあの二人にだけはどこまでも甘いからな」

 

セバス「はい」

 

ヴァーリ「まあ⋯さっきは兄さんの前で、とか言ったけど⋯結局は言葉の内容じゃなくて、誰が言ってるかが重要なんだよなぁ。

なにせ、あの二人がやることなら兄さんは全て、例外なく肯定する。

例えば、二人があいつと同じ内容を言ったなら、兄さんは意見を180°変えて、これまた笑顔で受け入れて全力で応援して支援するだろうな。

兄さんにとって二人の言葉は響く響かないなんて安い物じゃない、二人が望むなら全力を持って叶えるべき"絶対"であり"確定事項"だ」

 

セバス「そうですね」

 

ヴァーリ「そして、ソーナ義姉さんの夢が叶うのは約束されてるからな」

 

セバス「レイ様が支援なさるからですか?」

 

ヴァーリ「そう、そして⋯それを邪魔する奴が居るなら、兄さんは間違いなく戦争を始める。

ま、その戦争も半日足らずで終わるだろうけどな」

 

セバス「レイ様の勝利でですか?」

 

ヴァーリ「当然!!ただ⋯問題も無くはないけどな」

 

セバス「⋯それは?」

 

ヴァーリ「サーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブの二人だ」

 

セバス「超越者⋯ですね」

 

ヴァーリ「ああ、セラフォルー義姉さんは兄さんの敵には回らないからともかく、もう一人のファルビウム・アスモデウスは論外、他の連中からすれば強者でも、兄さんと比べれば⋯ただの雑魚だ」

 

セバス「では⋯お二人は?」

 

ヴァーリ「今の状態なら二人を相手にしても兄さんが勝つ!!確実に、けど⋯」

 

セバス「今の⋯とは?」

 

ヴァーリ「そのままの意味だ、だが⋯ここから先は俺も分からない。

なんせ⋯俺は三人の全戦力を、見た事すら無いからな」

 

セバス「なるほど⋯圧倒的なまでの滅びの魔力をもつサーゼクス殿と圧倒的な頭脳を持つアジュカ殿。

確かに、噂意外では見た事もありませんね」

 

ヴァーリ「そう⋯三人が全力でぶつかったらどうなるのか⋯正直見てみたいってのはある」

 

セバス「ですが⋯」

 

ヴァーリ「ああ、そうなったら⋯間違いなく、冥界の八~九割は消し飛ぶだろうな」

 

セバス「そうでしょうね」

 

ヴァーリ「まあ⋯でも、結局の所兄さんがキレた一番の理由はそこじゃないんだよなぁ。

その事に兄さん本人も気付いてないみたいだけどな」

 

セバス「と、仰いますと?」

 

ヴァーリ「兄さんがアイツを突き放したのはその甘い戯れ言じゃないって事だよ」

 

セバス「では⋯いったい?」

 

ヴァーリ「兄さんは単純に⋯アイツが嫌いなんだよ」

 

セバス「私の知る限りお二人に接点は無いように記憶してますが⋯」

 

ヴァーリ「ああ、接点は無いよ、ただ⋯兄さんの過去が⋯無意識にアイツを嫌ってるんだ」

 

セバス「無意識に⋯ですか?何故⋯?」

 

ヴァーリ「俺は義姉さん達の次に兄さんの事を良く知ってる。

でも、セバスや他の奴等は知らない⋯兄さんの昔の姿を、思いを。

そもそもだ、綺麗事は響かない?それは全然違う!兄さんにだって綺麗事は響くさ!ただ、その相手が義姉さん達二人に限定されてるってだけでな。

なにせ、兄さんも昔は⋯ほんの欠片程度の想いとは言え、連中に自分の事を認めさせようとしてたんだよ、アイツと同じ様に⋯」

 

セバス「!、そうなのですか?」

 

俺の言葉にセバスは眼を見開いて驚いた。

そう、兄さんは少なからず取り繕っていた。

 

ヴァーリ「ああ、でも⋯連中が認める事は決して無かった⋯。

兄さんがどれだけ努力をしても、それは下等な転生悪魔がする⋯無意味な努力として切り捨てた。

そうして数年が経って⋯ある戦いがあって⋯兄さんが負けて⋯結果⋯連中はほくそ笑んだ⋯。

ほら見た事か⋯転生が純血に勝てる訳が無い⋯と」

 

セバス「⋯⋯⋯それが、サーゼクス様とセラフォルー様が企画したと言う戦いですね?」

 

ヴァーリ「そ、二人は兄さんが負けることを前提でその戦いを仕組んだ、実際はそれで兄さんは凄いんだって事を周りに知らしめる為にやったことだけど⋯連中は戦いの内容じゃなくて、兄さんが負けたって言う結果だけを重視した。

そして、その後すぐに⋯兄さんは姿を消した⋯」

 

セバス「我々が修行に出ていたと聞かされた物ですね?」

 

ヴァーリ「ああ⋯兄さんは修行に行ってたって言ってるけど、俺には分かる⋯兄さんはあのまま帰る気なんて無かった筈だ。

でも⋯ある日突然、兄さんが帰って来た。

俺はその時本当に嬉しかった、帰って来ないんだろうなって⋯思ってたから。

でも⋯帰って来てから数日、兄さんと接してて⋯違和感に気付いた⋯」

 

セバス「違和感ですか?」

 

ヴァーリ「ああ、兄さんは⋯変わってたんだ⋯それまでの兄さんはさっき言ったように上の連中にも自分を認めさせようと、少なからず努力をしてた。

けど⋯帰って来てからの兄さんは認めさせるんじゃなく、潰すことを決めていた。

今まではセラフォルー義姉さんの女王として、どれだけ蔑まれても、罵倒されても、取り繕ってきた笑顔と態度⋯。

それを⋯帰って来てからはやめたんだよ、連中との関わりを最低限に抑えて、どうしても関わらなきゃいけない時も笑顔で対応する事と下手にでる態度をやめた」

 

セバス「それは我々が知っているレイ様ですね」

 

ヴァーリ「そ、今の兄さんだな。

そうやって兄さんと暮らしていく内に気付いた、兄さんは⋯諦めたんだって」

 

セバス「諦め⋯ですか?」

 

ヴァーリ「そう⋯諦めたんだ⋯認めさせる事を、認めて貰う事を⋯連中との良好な仲を⋯兄さんは―――諦めた。

でも、俺はそれで良かったと思ってる。

それ以降の兄さんは今までと違って自由に生きてるからな。

正直⋯それまでの兄さんは見ててキツかった、毎日ボロボロになるまで修行して、セラフォルー義姉さんの付き添いで仕事に行けばほぼ必ず殺意を剥き出しで帰って来てたからな。

今は何て言うか⋯そう、まるでコートでも羽織るように当たり前の様に殺気を纏ってるだけで済んでる。

だからこそ⋯兄さんはアイツ⋯サイラオーグ・バアルの事を、無意識の内に嫌ってるんだ」

 

セバス「⋯⋯⋯」

 

ヴァーリ「ハハハッ!!まあ⋯分からないよな、当然だ分かる訳が無い。

何せ、義姉さん達ですら⋯その事に気付いてないんだから。

かつて"無価値"と呼ばれた兄さんが連中を正そうとして、兄さんはそれが決して出来ない事として⋯諦めた。

それを今、"無能"と呼ばれたアイツが⋯蔑まれ、罵倒され、冷遇されても⋯アイツは口にしたんだ⋯兄さんが⋯自分が諦めた未来を。

だから、兄さんはアイツを認めたくないんだ自分が無理だと、諦めた未来を⋯同じ様に下に見られてる今もなお、それを口にしたサイラオーグ・バアルを兄さんは決して⋯認めたくないんだ。

つまり、アイツはもう一つの未来を歩んだ兄さんなんだよ、だから⋯それを認めるって事は⋯自分が切り捨てたもう一人の⋯"無価値"の自分を認めなきゃならないって事だから」

 

セバス「それはつまり⋯」

 

ヴァーリ「ああ、兄さんは自分が間違っていたって事を認めたくないんだよ、連中を改めさせる事⋯それは決して出来ない事なんだって⋯思ってるんだ。

そして、"無価値"の自分に出来ない事を⋯"無能"のアイツが出来る訳が無いって⋯な。

一言で言えば、子供が駄々を捏ねてる様な物だ、まあ⋯その事に兄さん本人はまだ気付いてないみたいだけどな」

 

セバス「では⋯レイ様がそこに気付いたのなら⋯」

 

ヴァーリ「アイツを弟子に取るだろうな、まず間違いなく。

そして⋯それはもうちょっとしたら⋯必ず来る未来だな、兄さんは自分の弱さを見て見ぬ振りするような弱い人じゃないから」

 

セバス「そうですね⋯レイ様ならば必ずや向き合い、理解し、受け入れる事でしょう」

 

ヴァーリ「当然だ!!俺の兄さんだからな!!」

 

ヴァーリsideout

 

――――――――――――――――――――

 

セバス「そういえば⋯まもなくあれが完成するそうですよ?」

 

ヴァーリ「ん?⋯ああ⋯セラフォルー義姉さんの⋯えっと、確か魔法少女?の⋯だっけ?」

 

セバス「魔法少女ミルキーの衣装ですね、先日「ようやく出来上がるってレイ君が言ってたんだぁ~☆」とセラフォルー様が嬉しそうに仰っていました」

 

ヴァーリ「セラフォルー義姉さんが兄さんに頼み込んで作ってもらってるってやつだよな?

細かい所のデザインや彩飾が大変そうだって服飾師が言ってたっけな⋯

まあ⋯兄さんは嬉しそうにしながら自分で作る気満々だったけど⋯でも、いくら兄さんが自分で作るって言ったって、結構掛かったよな?」

 

セバス「セラフォルー様の採寸、生地選び、裁縫に至るまでレイ様一人で行っておりますので⋯ですが⋯。

実は⋯ソーナ様の分も内緒で作っている様でして⋯」

 

ヴァーリ「⋯は?⋯⋯⋯それ⋯ソーナ義姉さんにバレたら⋯」

 

セバス「間違いなく怒られますね⋯お二人共」

 

ヴァーリ「あ~⋯今のは俺、聞かなかった事にするからな!とばっちりで怒られるのはゴメンだ!!

俺には何も話してない、俺も何も聞いてない、良いな!セバス!!」

 

セバス「畏まりました」

 

ヴァーリ「て言うか兄さんはどうやってソーナ義姉さんの採寸したんだ?

セラフォルー義姉さんなら喜んで測らせるんだろうけど、ソーナ義姉さんは絶対恥ずかしがるだろ」

 

セバス「椿姫殿から学校の健康診断の記録を貰ったとか⋯」

 

ヴァーリ「⋯⋯⋯取り敢えずそれも聞かなかった事にしよう」

 

セバス「畏まりました」

 

 

――――――――――――――――――――

 

サイラオーグside

 

あれから1週間程が経つが、進展は何もない。

それでも、俺は今一度レイ殿と話したくて、毎日通い続けていた。

 

そんなある日⋯

 

ヴァーリ「おい!」

 

サイラオーグ「ッ!なんでしょう」

 

俺は白髪の少年に声を掛けられた。

 

ヴァーリ「いつまでそうしてるつもりだ?」

 

サイラオーグ「せめてもう一度⋯レイ殿に会うまでは⋯」

 

少年の問いに、俺はそう答えた。

 

ヴァーリ「ふ~ん⋯毎日毎日良く飽きないな⋯他の連中はその無駄に高いプライドをちょっと傷付けてやればすぐに帰って行くのに」

 

サイラオーグ「そうですか⋯ですが⋯俺は⋯魔王になり⋯必ず―――「へぇ~」」

 

少年は呆れた様にそう言った。

そんな少年に俺はそうじゃないと、理想を口にしようとすると。

 

ヴァーリ「現時点で何も出来てないのにか?」

 

サイラオーグ「ッ!!⋯⋯⋯」

 

少年は冷めた目でこちらを見て、そう言った。

その言葉は俺の胸に突き刺さった、事実⋯その通りだから⋯。

 

ヴァーリ「ああ⋯うん、俺も兄さんと同意見だ、その思想は立派だし、お前の産まれやら生い立ちやらも聞いた、少なからず同情だってしてやるよ。

でも⋯冥界を変えようって言うお前が、身内すら変えられていないお前が何を言ってるんだ?」

 

サイラオーグ「それは⋯」

 

少年の残酷なまでの正論に、俺は何も言えなかった。

事実、俺は俺を疎む父と、弟相手に何も出来ていない。

 

ヴァーリ「はぁ⋯、サイラオーグ⋯お前は下らないな」

 

サイラオーグ「!、⋯下らない⋯それはレイ殿にも言われました⋯」

 

ヴァーリ「当然だな、俺の言葉の大半は兄さんの受け売りだし、生き方の根幹だって兄さんの影響を受けてるからな。

兄さんにとってセラフォルー義姉さんとソーナ義姉さんが絶対のように、俺達には兄さんが絶対だ。

だからこそ、俺達にとって兄さんの命令は魔王なんかの命令よりも重い」

 

サイラオーグ「⋯⋯⋯」

 

少年のその言葉には、確かなる決意があった。

本気で、魔王様よりも上だと認識しているのが分かる。

 

ヴァーリ「兄さんは失敗を許されなかった、少しでも失敗すれば、それを表に出す馬鹿がいた。

でも、いや⋯だからこそ!兄さんは止まらなかった!!

どんな壁に当たろうとも、止まらなかった!倒れなかった!!

だからこそ!!今の兄さんは最強の女王と呼ばれているんだ!!!

だからこそ、その程度の事を逆境だなんて思って悲劇のヒーローぶってるお前の下らない妄言なんざ兄さんには届かない。

そしてそれは俺達もだ、さっきも言った様に兄さんにとってセラフォルー義姉さんとソーナ義姉さんが絶対のように、俺達には兄さんが絶対だ。

兄さんは二人の為ならば全てを切り捨てる、例え友好を持ってるルシファーやベルゼブブだって例外じゃない。

誰かがお前を殺しに掛かる前にさっさと帰るんだな」

 

彼は最後にそう言って踵を返した。

 

だが、俺の脳裏には未だに少年の眼が映っていた。

あれは、決意を、そして覚悟を、決めた者の眼。

決して揺らぐ事のない、絶対を持っている者の眼だった。

彼に取って、そして⋯この家の者達にとってのそれは、レイ殿なのだろう。

 

そして、俺に足りないのは⋯理想に掛ける覚悟と揺らぐ事の無い絶対の決意なのだと―――そう気付かされた。

 

サイラオーグsideout

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