パーティーから追放されてからの成り上がりが流行っているらしいので俺も乗っかってみることにした   作:みずがめ

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追放される理由

 パーティーから追放される理由とはなんだろうか? 人から聞いた話ばかりでその辺自分で考えてなかった気がする。

 その理由をじっくり考える必要がある。

 そう、俺がパーティーから追放されて大成するためにな!

 

「先輩、その変顔やめてください。不愉快になります」

「へ、変顔って……。俺そんな顔してたか?」

 

 後輩から感情を見せない目で頷かれた。ショック。

 

「最近拍車をかけて変ですよ。何か悪いものでも食べましたか?」

「お前の中で俺はどういう見方をされてんだよ。……ちょっと考え事をしてるだけだっての」

 

 けっこう重要なこと考えてんだから邪魔しないでくれよ。

 だが、そんな俺の願いは通じないらしい。

 

「考え事ってなんです?」

 

 後輩が食いついてしまった。

 うーむ、あんまり知られたくはないんだがな。というかパーティーから追い出されたいとか言ったらそれこそ頭のおかしい奴である。

 でも相談してみるのもありかもしれん。円滑にことを進めるためには一つでも多く案がほしい。

 

「なあネルさんや」

「なんでさん付けで呼ぶんですか」

 

 そりゃ雰囲気づくりだよ。下手に出ればいい案を思いついてくれるかもしれんからな。

 

「冒険者パーティーから追放されるのってどんな奴だと思う?」

「それは……素行に問題がある人とか、ですかね」

 

 そりゃそうだ。

 パーティーの一員である以上、個人の問題だけじゃなくなってくる。誰かが犯罪をやらかせばそれは少なからずパーティー全員の責任となる。それが集団でいるところの厄介な部分だろう。

 常識的に考えてそんな奴はパーティーに置いておけないだろう。誰も好き好んで不利益を被りたくはないからな。

 

「その点で考えれば先輩は危ないですよね」

「え」

 

 まるで俺の素行が悪いみたいな言い方ではないか。

 これでも俺は僧侶だ。聖職者が素行が悪いだなんて、そんなわけないだろ。

 なのに後輩はジト目を向けてきていた。

 

「意外そうな反応していますけど、もう少し自覚してもらいたいものですね。胸の大きな女性を見てはいやらしい目を向けられるとたくさんの人から苦情を受けているんですが」

「え、マジで?」

「マジです。だからちゃんと自覚してください。先輩のせいで私も恥ずかしいんですからね」

 

 後輩に怒られてしまった。

 というかそんなに見つめていたのか。巨乳を見たらホーミングしちゃうのは男の性だろうに。断じて俺のせいじゃないぞ。

 

「トラブルが起こったら先輩追放ですからね」

「う、うーむ……」

 

 追放されるのは望むところだ。けれどその理由じゃあなぁ……。

 俺が悪者になって追放されたんじゃあ意味がない。もっとこう、不当な理由じゃないとダメなのだ。

 本当に悪者になってしまったら、正当な評価を受けて成り上がるという俺の計画から外れてしまうではないか。

 というわけで素行不良で追放されるという案は却下だ。別にネルは案を出したつもりはないんだろうけどな。

 やはりパーティーメンバーの誰かから俺を追放させなければならないな。

 

 

  ◇

 

 

 今のパーティーの中で俺を嫌っている者は誰かと考えてみる。

 リーダーのエリックはいい奴だからな。俺を追い出すどころかものすごい高評価だった。こいつから追放宣言させるのは無理だ。

 ネルの評価も妥当だろう。というか後輩として先輩である俺の背中を見続けてきたのだ。俺が足手まといだなんて思っていないんだろうな。ああ、自分の優秀さが恨めしい。

 六人パーティーの中であとは残り三人か。

 ひとまずその中で一番俺を嫌っていそうな奴のところに行ってみた。

 

「何か用?」

「また不機嫌だなレイラ。何かあったか?」

 

「別に」と機嫌悪く答えたのは俺達パーティーの後衛アタッカー。魔法使いのレイラである。

 確かどこぞの伯爵の娘だったか。だからなのかわがままで短気。パーティー内で一番不満を爆発させている。

 その性格のせいで色気のある話を聞かない。せっかくウェーブがかった金髪が似合う美少女なのにな。勿体ないことだ。

 とはいえ今はこいつのわがままに頼るしかない。

 

「なあレイラ」

「何よ?」

 

 素っ気ないのはいつものこと。俺は気にせずに続けた。

 

「お前、俺のこと嫌いだよな」

「はあ?」

 

 レイラは怪訝な顔をした。なんかネルと重なる。最近同じ反応をされたからかな。

 

「いや、俺のことよく睨んでるだろ」

「に、睨んでなんかないわよ」

「隠したって無駄だ。俺はきっちりお前の視線に気づいているんだからな」

「なっ!?」

 

 レイラの顔がみるみる赤くなる。怒ったか? こいつ短気だからな。よくわからん理由で爆発したりするし。

 だが怒ってくれるなら好都合だ。

 

「でだ、レイラは俺にパーティーから抜けてほしいと思ってるんじゃないかと考えてだな」

「へ?」

 

 レイラの目がパチクリと瞬く。ちょっとかわいいぞ。

 

「だから俺にパーティーから抜けてほしいんだったらエリックに言うといいぞ。俺は甘んじて受ける覚悟はできている」

「は……、ば、バッカじゃないの!」

 

 バカ扱いされてしまった。まあ口が悪いのはいつものことだから気にならないけどな。本当だぜ。

 

「誰がそんなこと言うもんですか! あたしがシュミットを嫌ってるわけないでしょ!」

「え? 俺嫌われてないの?」

「あ……」

 

 レイラはしまったという感じで手で口を隠した。

 迷宮に入ってもよく俺を睨んでたからてっきり嫌われているもんだと思ってたよ。なんだ、勘違いか。

 

「じゃあなんで俺のこと睨んでるんだよ」

「そ、それは……。ていうかあたし睨んでないわよ」

 

 いやいや、いっつもきつい目で俺を見てるじゃないか。あれを睨んでないってなったらレイラの目つきが悪いってことだぞ。

 もちろんレイラはそこまで目つきが悪いわけじゃない。ちょっと吊り目気味だけどな。

 彼女を見つめていたら目を逸らされた。勝った。何にかは知らんが。

 

「あ、あんたが」

「ん?」

「あんたの連携が悪いと思ってたのよ! 回復のタイミングがまるでダメね!」

「お、おお?」

 

 お、これはいい反応ではなかろうか。

 どうやら彼女は俺に不満があるらしい。これを引き出せばパーティーから追放してくれるかもしれない。

 俺は平静な態度でレイラの不満を引き出すことにした。

 

「そうかそうか、俺の連携がダメなのか」

「ええそうよ。ネルに比べると回復量もタイミングも悪いわ。それでよく彼女の先輩だなんて言えたものね。恥ずかしくないの? ネルだってあんたみたいなダメダメな男が先輩で恥ずかしいでしょうねっ」

「ぐ……」

 

 望んでいたこととはいえダメダメ言われるのは気分が悪いな。

 なるほど。罵倒されてからの追放。そこから成り上がってからのざまぁ展開は確かにカタルシスを感じる。妄想しただけでなんだかすっきりしてくるぞ。

 

「な、何笑ってるのよ」

 

 おっと、妄想してたのが顔に出てしまったらしい。レイラが引いている。

 俺は咳払いしながら表情筋を調整した。

 

「レイラの言い分はわかった。だったら俺をパーティーから追放するなりなんなり好きにしてくれ」

「え」

 

 そして俺は成り上がってレイラの鼻を明かしてやるのだ。覚悟しやがれよ。俺は女だろうが巨乳じゃなければ容赦しない男だぜ!

 またにやにやしてきたので見られないように背中を向ける。

 

「じゃあな」

 

 そう言い残して去ることにした。

 あとはレイラがエリックに俺に対する不満をぶつけるのを待つだけか。いや、ここは俺から伝えた方がいいか? どうせ追放処分になるのなら早い方がいいし。

 そんなことを考えながら足を進めていると、その足が止まった。

 あれ? と思っていたら背中から服を掴まれていることに気づく。

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

 振り返れば大きい声を出すわりに弱々しく眉毛を下げるレイラがいた。何その無駄に器用な態度。

 

「なんでそうなるのよ……」

「え?」

「誰も出ていけなんて言ってないでしょうが! あんたはこのパーティーにいなきゃダメなの! わかるでしょ」

 

 いやわかんねえよ。

 そんな気持ちが顔に出ていたのかレイラはさらに続ける。

 

「あ、あんたがダメな部分はあたしがフォローしてあげるわよ。だから勝手にへそ曲げるんじゃないわよ。わかった?」

「は、はあ……」

 

 何それ追放してくれないの?

 俺が戸惑っているとレイラの目が吊り上がった。

 

「返事するならちゃんとしなさい!」

「は、はい!」

 

 俺の大きな返事を聞いてレイラは満足げに頷く。

 

「わかればよろしい。……せっかくだからその連携について話し合いましょう。まだ迷宮に行くまでに時間はあるでしょ?」

「時間はあるけど……」

「もしかして、これから用事でもあるの……?」

 

 なんで寂しそうな顔をするかな。なんか俺が悪いみたいじゃないかよ。

 

「いや、別に何もないぞ」

「じゃあ」

「集合時間まで話すか」

「うんっ」

 

 どうやらレイラは俺自身に不満をぶちまけたかったらしい。事実、話し合いという俺の罵倒が始まるのであった。

 だからそんなに不満があるんだったら俺を追放してくれよ~。そんな心の声が彼女に聞こえるはずもなく、俺は彼女の罵倒を甘んじて受けるのであった。

 

 


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