パーティーから追放されてからの成り上がりが流行っているらしいので俺も乗っかってみることにした   作:みずがめ

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後輩視点です(唐突)


おまけ編 先輩を見つめる後輩

 本日はパーティーの女性三人で飲みに行くことになりました。

 

「レイラさんが元気になってよかったです。迷宮でも順調でしたし、今度はまた深い階層に行けそうですね」

「フフン、任せなさいよ。あたしだって油断さえしなければどんな敵でも魔法で一発なんだからね」

「……何を注文するか。それが問題」

 

 席に着いてメニューを注文します。まだお酒を飲んでいないのにレイラさんはとても上機嫌でした。

 レイラさんが退院してから、すでに二週間が経ちました。

 その間にも迷宮で魔物と戦いました。レイラさんはリハビリが必要ないほどの動きを見せて、魔法の威力も絶好調そのものでした。

 それを見たパーティーリーダーのエリックさんが次に迷宮に行く時はもっと深い階層に行くと言ってくれたのです。

 嬉しかったのでしょう。今回の飲み会はレイラさん主催で行われることになりました。

 

「それにしても私達だけでよかったのですか? 飲み会なら先輩達を呼んでもよかったのでは?」

「いいのいいの。とくにシュミットなんかがいたら酔った勢いで何をしでかすかわかったもんじゃないんだから」

「それもそうですね!」

「な、なんか力強かったわね……。まさかシュミットと何かあったの?」

「いいえ何も。先輩には何も言わせはしませんから!」

「……あのバカまた何かやらかしたのね」

 

 あの夜のことを思い出す。

 いつになく弱った態度の先輩。悪い夢を見たと言っていましたが、それでも私を頼ってくれたことは嬉しかった。

 …………嬉しかったのに!

 

「美味しそう。いただきます。もぐもぐ……」

「あっ! ちょっとディーナ! みんなで乾杯しようとか、気遣いってもんがないの!」

 

 料理が運ばれてくると同時にディーナさんが早速食べ始めました。いつもながらマイペースな人ですね。

 最初はレイラさんも注意しましたが、すぐに諦めたようにため息をつきました。それから私にグラスを向けてきます。

 

「あたし達だけでも乾杯しましょうか」

「レイラさん完全復活に乾杯です」

 

 カチャンとグラスをぶつけて二人でお酒を飲みました。ディーナさんは食べるのが忙しいようです。一心不乱に料理を口に詰め込んでいました。

 

「まったく、ディーナも食い気ばかりじゃモテないわよ」

「問題ない。いざとなったらシュミットが養ってくれるから」

 

 レイラさんがピシリと固まりました。

 

「ディーナ? ちょっと今のどういう意味かしら?」

 

 レイラさん、笑顔が怖いです。その隙に私も料理を口に運びます。

 

「シュミットは優しい。アタシのためにしょっちゅうおごってくれる」

「なんですって?」

 

 それはディーナさんが強引におごらせているだけでは?

 この前も話があると呼び出されたと行ってみたら、喫茶店でおごらされたと泣いて帰ってきましたっけ。先輩の無駄遣いは私のお財布にもダメージがあるのでやめてほしいのですが。

 そう言おうとしましたが、あいにく口の中は食べ物がいっぱいで声になりませんでした。

 

「シュミット……。あいつあたしには食事にすら誘ってこないくせに……」

「それは残念」

「は? ケンカ売ってんの?」

 

 レイラさんの体が魔力で満たされていくのを感じます。それに反応してディーナさんもいつでも動けるようにと筋肉が膨らみます。

 普段この二人が険悪になるなんてまずないことなのですが……。なぜか先輩が絡むとちょっとした言葉の行き違いから臨戦態勢に入ってしまうんですよね。

 私はごくりと料理を飲み込みます。お酒を一口、唇を湿らせることも忘れません。

 

「待ってくださいレイラさん」

「何よネル。あんたまさかディーナの味方する気じゃないでしょうね?」

「敵とか味方ではないです。ただ、先輩と食事したければレイラさんから誘えばいいのではないでしょうか」

「え? あ、あたしが誘うの?」

 

 魔力が急激に萎んでいきます。脅威は去ったと判断したのでしょう。ディーナさんは食事へと戻りました。

 

「先輩は仲間から食事に誘われて無下にするような人ではないです。それに、ディーナさんだって先輩から誘われたことなんてないんですから。いつだって誘うのはディーナさんからです」

 

 一瞬、ディーナさんの食事の手が止まりました。

 それを無視して続けます。

 

「待っているだけでは何も変わりませんよ。なのにディーナさんを腹立たしく思うだなんて、お門違いってやつです」

「うっ……」

 

 レイラさんが黙りました。

 落ち着いたと判断してグラスを呷ります。はぁ、お酒が美味しいですね。

 

「で、でも……どうやって誘えばいいのか……わからなくて……」

「とにかく飲んでください。話はそれからです」

「うん」

 

 レイラさんがぐいっとお酒を呷りました。とても良い飲みっぷりです。

 

「ぷはーっ! シュミットのやつバカで鈍いから遠回しに言ったところであたしの気持ちなんか気づきもしないのよ!」

「そうです。先輩はバカで鈍いんです」

 

 私とレイラさんは再びグラスを合わせます。さっきよりも大きな音が響きました。

 

「終わったら介抱してあげるから。二人は思う存分飲むといい」

 

 ディーナさんは食べることばかりです。あなたはもっと飲むべきだと思いますよ。

 

「そもそも先輩は女性の胸ばかりしか見ていなくてですね、それで私がどれほど苦労したことか」

「く、苦労しているのかしら?」

「ええ。先輩の素行不良に対しての苦情は私にばかり集まっているんですよ。こんなの後輩の仕事じゃないですよ」

「ネルも大変なのね」

 

 優しい表情でレイラさんが慰めてくれます。どうやら私の苦労を彼女は理解してくれたのでしょう。

 感極まった私はレイラさんの胸の中へと飛び込みました。彼女はがっしりと私を抱きしめてくれます。

 

「先輩の奇行に私がどれほど恥をかいたことか。ちゃんとしている私まで変な目で見られるんですよ。もう耐えられません」

「うんうん」

「先輩が女性にちょっかいをかける度に私まで注意されて。私は先輩の母親でもなんでもないのに。管理責任は私にはないんです」

「うんうん」

「……柔らかくない」

「うんう……え?」

 

 私はレイラさんの胸から顔を離しました。

 

「ありがとうございます。もう落ち着きました」

「え、ええ。それならよかったわ」

 

 レイラさんの胸に頭を預けてみて、わかりました。わかってしまったのです。

 ……彼女の胸は決して大きいものではないと。

 

「……」

 

 でも、と。私は自分の胸を見ます。

 レイラさん以上に小さいのが自分でもわかってしまいます。これでは先輩にぺったんこと言われても文句なんて口にできません。

 

「うぅ……ぐすんっ……ふええええん」

「えっ、ここで号泣!?」

 

 涙が止めどなく流れます。涙が涸れる頃には、私は意識を失っていました。

 

 

  ◇

 

 

「ネルはあんまり酒強くないんだから。年長者のディーナがちゃんと気をつけてくれよ」

「ごめん。顔色変わらないから気づかなかった。あと面白かったから」

「おいディーナさんや。最後本音が漏れてんぞ」

 

 誰かの声で意識が覚醒します。

 どうやら先輩とディーナさんのようでした。目を閉じたまま二人の会話を聞くに、酔い潰れてしまった私をディーナさんが先輩のもとへ送り届けてくれたようでした。

 

「レイラの方は大丈夫なのか?」

「エリックとブライアンがいるから問題ない」

「さすがはお嬢様。男を顎で使ってやがる」

「からかうとまた怒られる。シュミットならいいか」

「いやよくはねえよ」

 

 仲が良さそうですね……。

 レイラさんじゃありませんが、ちょっとモヤモヤします。いえ、先輩もディーナさんもそういう気がないというのはわかってはいますが。

 

「ネルを送り届けてくれてありがとな。ディーナも一応女なんだから帰りは気をつけろよ」

「うん、わかった。またねシュミット」

 

 ドアが閉まる音。そして運ばれているのがわかります。

 あれ、私……先輩に抱っこされていますか?

 ようやく気付いた自分の状況のせいで、恥ずかしさから目を開くに開けなくなりました。

 指先一つ動かすことができないほど固まっていると、ゆっくり体が降ろされました。感触からベッドに寝かせてくれたとわかります。

 

「はぁ……。ったく、手のかかる後輩だな」

 

 酔い潰れてしまっただけに、反論のしようがありませんでした。先輩に呆れられてしまうとは……一生の不覚です。

 肩まで布団をかけられます。それから頭を撫でられました。

 って、え……?

 

「先輩を心配させんじゃねえよ。いけない後輩め」

 

 言葉とは裏腹に優しい声色。心が安心してくれるのがわかります。

 頭を撫でられていると思い出す……。教会で先輩が私の教育係として面倒を見てくれていた日々のことを。

 私にたくさんのことを教えてくれた。それだけじゃなくて、ずっといっしょにいてくれて……ここまで連れ出してくれた。

 うとうととして、眠気に襲われます。夢見心地みたいに気持ちいいです。

 

「……先輩」

「うおっ!? お、起きてたのかよ」

「いつもありがとうございます。私がここにいるのも全部先輩のおかげですよ」

「お、おう? なんか気持ち悪いな」

 

 何か失礼なことを言われた気がしますが、もう睡魔には勝てそうにありません。

 最後に一つ反論をして、私は眠りに落ちました。

 

「好きですよ先輩……」

「え? は、おまっ、ちょっ……」

 

 この後、ものすごい叫び声が聞こえた気がしましたが、私が目を覚ますまでには至りませんでした。

 

 

  ◇

 

 

 次の日の朝。

 

「ネネネ、ネルさんや。おは、おはようございまざますよ?」

「どうしましたか先輩? 朝から変なものでも食べましたか? とても気持ち悪いです」

「クッソー! やっぱり意味のないただの寝言だったのかよっ! んなこったろうとは思ったけどな!」

 

 せっかく目覚めはスッキリでしたのに、先輩の無駄に大きな声で台無しになりました。

 こういうところが女性に距離を取られる原因なのでしょうね。自覚がないようですし、教える必要もないでしょう。

 先輩のそういうところは私しかわかってあげられませんからね。まったく、仕方のない先輩がいると後輩の苦労が絶えませんよ。

 今日も手のかかる先輩のお世話をしなければいけませんね。少しだけ口元が緩むのを自覚しながら、私はベッドから降りるのでした。

 

 

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