最古の闇は幻想へ   作:リヴィ(Live)

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今回は転生者ちゃんルーミア視点の大雑把な回想、ゆかりん視点から見たルーミアとの温度差を意識しました。
こんな感じの温度差が続きます。
時系列は読めばわかりますが、吸血鬼異変開始直前です。

追記
ルーミアちゃん視点でゆかりんと初遭遇時に泣いてるはずなのに、ゆかりん視点だと思いっきり威嚇しているというとんでもない矛盾があったので、威嚇してる方向で修正しました。あたいったらおっちょこちょいね。


一話 ルーミアという(転生者)

 ◆❖◇◇❖◆

 

【ルーミア】

 

 私の名前は無い。というか覚えていない。

 明確には、本来の名前は覚えていない。私が何者で、誰なのか。それさえも分からなかった。

 でも、記憶は意外とはっきりしていた。普通に学校通って寝てご飯食べて寝た。それだけである。あとは、どこにでも居るちょっと度の過ぎたオタクだったくらい。

 そして、目が覚めたらこの姿。名前も何故か思い出せない。

 でも、新たなこの身体の名前が刻まれていたのを覚えている。

 ──ルーミア。

 それが、私に与えられた第二の名前。

 そして、そこで私はあることに気がついた。

 

 ──これ、『東方の世界じゃね?』

 

 っと、そこに君。東方とはなんぞや?という顔をしているな?

 説明しようっ!東方とは、前世でオタク達がよく知るジャンルのことで、正式名は『東方Project』。

 製作者は、博麗神主ことZUN氏。龍神と呼ばれることもしばしば。

 彼はこの東方という大きなジャンルを生み出した偉大な人物であり、『上海アリス幻樂団』というサークルを中心に活動し、東方の弾幕ゲームを1からつくりあげてきた人物だ。

 東方の魅力はなんと言ってもキャラクターの個性と彼女達の持つテーマ曲。そして、作品ごとに異なるキャラクターの個性が現れた美しい弾幕。

 これが大ヒットし、テレビでも取り上げられたこともある。かく言う私も前世は東方の大ファンだった。もちろん今でも東方は大好き!

 だからこそ気がつけた。このルーミアという少女は──この東方のキャラクターである。

 見れば見るほどその見た目は原作のルーミアそのまんまで、私がルーミアとして生まれ変わった?ということが分かる。

 で、そこで呑気に暮らしていたんだけど、何かと原作の時間が来ないことに気がついた。

 そう、私が生まれたばかりの世界は、東方の舞台となる『幻想郷』が存在しなかった。だから、当初は『私ルーミアの姿になって東方とは違った世界にきたんじゃね?』って思ってたよ。

 でもところがどっこい。私はそこである人物に出会ってしまったのだよ。

 

 そう、幼少期の八意永琳だ!あの、月の頭脳で元最強の八意永琳!

 いやぁ、東方の世界だって安心した瞬間涙出ちゃってね…永琳に不気味がられながら慰められたの覚えてるよ。

 ここで私は、原作から数億年離れた時間軸なんだなってわかったよ。あと幼少期の綿月姉妹にも会った。今はいざこざがあって名前も出したくないけど。

 で、そこから何やかんや(・・・・・)あって…。

 

 この世界における私の立ち位置がようやく分かったのは永琳達が月に行って数百年くらいかな。

 私はこの世界の闇を担う存在ってことにようやく気がついた。

 え?何言ってるか分からない?私も当初は何言ってるか分からないよポルナレ〇状態だったよ。

 でも、生きる中で戦ったり知恵を身につけてるうちに理解してきた。どうやら私は闇そのものみたいだから死なないみたい。というか死ねないみたい。これも月連中(・・・)との(・・)いざこざ(・・・・)が原因だと思うけどね。

 多分仮説だけど…私が消えても、多分概念的な人の心の闇とかの定義が、私の存在を逆説的に証明しちゃうとか…?どこぞのメソポタミアの人類悪みたいですね(白目)

 これの仮説を立てて思ったのは、やっぱり二次創作設定だった。

 東方は二次創作の規則とかがかなり緩くて、当時は二次創作物が豊富だった。オリジナル主人公とかの小説も多々あったけど、中でもルーミアのはとても厨二心をくすぐるものだった。

 そう、原作ルーミアの能力である『闇を操る程度の能力』…1面ボスとは思えない禍々しくていかにも強そうな能力から、ルーミアは相当強い妖怪だったんじゃないか?みたいな説があった。

 そのルーミアの姿はまさにルーミアを大人にしたような姿をしており、カリスマは紅魔館当主を上回るやらなんやらで、『EXルーミア』と呼ばれるようになった。

 多分私ルーミアはEXルーミアの設定とか色濃く継いでいたりとかしているのだろうか。それにしては姿が原作に近いが。

 

 で、そんなチート的存在となった私に敵無しなわけで。聖徳太子とかと遊びながらしばらく俺TUEEEEならぬ私TUEEEEしてたら、幼少期八雲紫と出会った。

 どうやら彼女は私を普通の人間の子供と勘違いしたらしく、目の前に堂々と現れて『貴女を食べに来た』とかドヤってきた。ちょっとイラついたんで木に叩きつけちゃった。あの後にゆかりんってことに気がついた。

 そこで紫は、私に『人と妖怪が手を取り合って生きる理想郷』を作りたいと言ってきた。これがのちの幻想郷に繋がるんだなって思ったよ。

 でも、普通に考えたらそんなことは無理。長年生きてきた勘もあったけど、妖怪と人は絶対に相容れない存在。共存なんてできるはずがない。

 でもゆかりんの目が本当に夢見る少女のそれで…手伝いたくなっちゃったの。乙女の力ってすごい()

 当初弱かったゆかりんを鍛えつつ旅をして、その道中でかぐや姫救った時に暴走(・・)したり四季のフラワーマスターこと風見幽香に会ったりしてびっくり仰天のをした。天狗の住む妖怪の山に修行ついでに喧嘩売りに行ったのはいい思い出。

 そして、幻想郷が出来上がって今に至るって感じかな。

 後、ゆかりんは私の力が強大すぎるから封印させてもらうって感じで力を預けてる。このリボンがその証拠ね。

 私としても自身の力で幻想郷を壊したくないし、仕方ないと言った感じだったけど。まぁ死なないし無限コンテニュー出来るから問題ないね()

 まだ原作は始まってはいないけど、いずれ弾幕ごっこの戦いになるだろうから死ぬ心配もない。それに死なないとしても痛みは感じるから嫌だし。

 

「どうしたのかしら?そんなに空を見上げて」

 

 っと、そんな感じに過去に浸っていたら我が心の友こと八雲ゆかりんが。

 やっぱり神出鬼没という設定はそのままみたい。どこからともなく現れてなにか見透かしてる感じがして…。胡散臭いとかよく言われるけど、これがゆかりんの魅力だと思う。

 どうしてだろーね?胡散臭くした覚えはないんだけどなぁ(目逸らし)

 

「回想してた。以上」

「あらそう。あなたも過去に浸ることもあるのね」

「私も普通の人間と変わらないし」

「いやどこがよ…」

 

 失敬な!確かに一億年近く生きてるけど心は永遠のピッチピチの十代よ!

 だからそんなにお前のどこが人なんだとか見るのやめてくださいその目結構メンタルに響くんでやめてゆかりん私死んじゃう(涙)

 ふと、思うのだけれど、人と妖怪は相容れない存在とは言ったけども。似通った部分はあると思う。

 それに人の形をしている以上、精神構造は人と同じ。生き方が過酷なだけで精神自体は普通の人間と変わらないハズ。あくまで経験則だけどね。

 

「それで、なにか目的があってきたんじゃないの?」

「!流石ね」

 

 あ、すいませんこれ勘と経験則ですのでそんな『流石ルーミア…』みたいな目で見ないでそんな深読みしてないから(())

 というか、ゆかりんは少なからず相手と話す時は何らかの目的がある。それを遠回しに聞いたりするからよく暇なヤツと言われるが、そんなことは無い。ゆかりんの頭脳はまさに超人的。その計算と計画がズレるような無意味な行動を取ることはない。

 

「近々、新たなお客さんが来るわ。熱くお・も・て・な・しをしようと思うのだけれど」

「あ、終わったな来客」

 

 そう言えば……そろそろ、吸血鬼異変が起こる時期か。

 吸血鬼異変とは、Wed版東方の原作の時間の前に起きた異変。資料によればその戦力は幻想郷側がやや押されていたと言う。

 この世界における悪魔や吸血鬼の類は強力だ。吸血鬼ならば月下における不死性と再生能力は桁外れ。さらには鬼としての怪力を誇る。そこに魔法が加わるわけだからまぁめんどくさいったらありゃしない。

 多分、ゆかりんのいう来客は吸血鬼異変の首謀者だろう。ゆかりんに喧嘩売るとあとが怖いぞ~?

 そういえば吸血鬼異変の首謀者って、やっぱり紅魔郷のレミリアとフランの肉親なのかな?そこら辺はよくわからないんだけど…。

 

「私はどうする?」

「…貴方は出なくていいわ。私達のみでやる」

 

 え、私いらない子なの?泣くよ?ほんとに泣くよ?(())

 それに私が出れば幻想郷への被害も少なく住むだろうし、パパパッと殺って終わりなわけだけども。それとも、私が出る幕がないほどの戦力があるのか。

 どちらにせよ、そのゆかりんの瞳は自信に溢れたものであった。うれしいよ、あんなに小さかったゆかりんがこんなに立派になって…うぅ。

 

「そう。でも、もしもの時は力になるよ」

「…ありがとう、ルーミア」

 

 でも、全てが全てゆかりんの思い通りになるとは限らないだろう。

 いくらゆかりんが超人的な頭脳を持つとはいえ、その計画が狂いなく進むなんてことはありえない。ゆかりんにも教えたけど、計画を立てる時はもしものことも考えなくてはならない。

 計画外が起きた時に私が動かなければ幻想郷が危ない。この土地を守るためには力を尽くす。これは私とて同じだ。もしもの時は全開放も惜しまない。

 でも、ゆかりんがそう言うならば、出来るだけ手を出さないようにしよう。せっかくの計画を私という存在が邪魔をしては意味が無い。

 あくまでもしも。予定上はゆかりんの圧勝で終わりだろう。それが無理ならゆかりん保護して相手を完膚無きまでにボコるのみ。

 

 大丈夫よゆかりん、貴女ならきっと勝てる。私は信じてるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

【八雲紫】

 

 ──今から2000年以上も前、私は彼女と出会った。

 私がまだ幼くて力も無く、下級妖怪すら倒せなかった雑魚中の雑魚だった頃。ある日、いつものように人間に奇襲を仕掛けて食事を取ろうとした時に、彼女に出会った。

 当初は、人間の子供がこんな所で何をしているんだと思っていた。こんな森の奥で子供が火をたいて魚を焼いている光景など、誰が思い浮かぶか。それをいい事に、私は真正面から彼女に話しかけた。

 

「こんにちは」

「こんにちは、こんな所で何をしているの?」

貴女(・・)()食べに来た(・・・・・)の」

 

 思い出す度に笑いたくなる。それと同時に当初の自分を殴りたくなる。いくら相手が子供だとはいえ、真正面から『こんにちは死ね』『貴女食べます』など舐めた行動を取ったものだ。

 でもあの頃は、本当にそれで食事をすませることが出来ると思っていた。あの頃は本当に弱かったし、相手を見る目もなかった故に仕方ないこととは思いたいが。

 

「そう」

「それじゃ、頂きま──」

 

 そして、何事も無かったかのように頷いた子供に、口を開けて襲いかかった。あの日は相当腹が空いていたのだろうか。油断し過ぎだと我ながら思う。

 でも、私の口が子供の体に触れることは無かった。それどころか、一瞬にして体が激しい痛みに襲われた。

 

「相手はちゃんと見た方がいいと思うよ?」

「かっ…は…」

 

 ゾ ゾ ゾ ゾ ───

 

 例えるならば、そんな音だった。私は口を開けた瞬間、彼女の足元からなにかドロドロした黒い沼のようなものから赤黒いものが飛び出て、木々に叩きつけられた。その赤黒い何かは人間より数倍も大きく禍々しい手をしており、叩きつけられたと同時にその握力で締め付けられる痛みに襲われた。

 そこで、私は2つのことに気がついた。

 一つは、彼女が妖怪であるということ。よく良く考えれば、こんな夜中で森の奥に人間の子供がいるという事態はありえない。その時点でその子供が妖怪であると気づくべきだった。さらに言えば、妖怪は長寿故に身体の成長も伴って遅い。見た目だけが全てではないし、妖怪のみが持つ妖力を持っていればそれは妖怪だ。彼女も妖力を持っていることに叩きつけられてから気がついた。

 一つは、格上の相手であること。貴方を食べると言ってあんなにも冷静な声で返事をし、一瞬で木々に叩きつけられた。この時点で私と彼女の実力差は歴然と言ったところだった。それに彼女の匂いは血にも近い生々しいものだった。相当の数の妖怪や人間を殺戮し修羅場を潜り抜けてきた歴戦の妖怪であったことに気が付かなかった。

 

「ぐぅ…ぅ…!」

「…あ、貴女ひょっとして噂のスキマ妖怪さん?」

 

 と、私の異名のような何かを言った瞬間、その黒い手の締め付ける力が緩まった。そこでようやく思考が再開し、私がこくんと必死に頷くと、黒い手に込められた力は完全に解かれて私は重力に従い地面に倒れた。

 当時は都や人混みなどに混ざることは全くなかった為、人々の間ではやっている遊びや流行、噂などにはあまり詳しくなかったが、自分の異名…『スキマ妖怪』というのは知っていた。正式名称は『神出鬼没のスキマ妖怪』らしい。異名で知られるくらいには有名だったんだなとあの時は嬉しかった。

 

「ごめんなさい、私こそ相手をよく見ていなかったわ」

「はぁ…はぁ…」

 

 本当にごめんなさい、と頭を下げる彼女に、私は理解が追いつかなかった。

 何故、彼女ほどの強力な妖怪が雑魚同然の私を探しているのか、訳が分からなかった。そう思っていると彼女は──

 

「単にどんな人か気になっただけだよ。まぁ、実際興味深い人ではあったけどね」

「私が…興味深い…?」

「そう、妖怪のくせしてそんな優しい目(・・・・・)。最初は人間かと思ったよ」

 

 最初は、妖怪としての私を侮辱しているのかと思った。妖怪は無慈悲に人間を糧としか考えない。それがたとえ幼い妖怪であってもそう教えこまれる。

 だから、あの時は妖怪として生きるのに向いていないと言われたような気がした。でもよく良く考えれば、あの時彼女は私という人格を見抜いていたのだろう。今でも考えればゾッとする。まるで考えを見透かされているみたいで。

 

「優しい心の持ち主、というのは分かった。だからこうして私は殺してないし、殺す気もない。善人を殺す勇気は今はない(・・・・)から」

「私が優しい…」

「そんなにも優しいのなら、なにか目的があるんじゃない?現に、貴女は強力な能力を持ちながら未熟な人間…子供しか襲っていない」

 

 まさにこの時がそうだった。何もかもが見透かされているような感覚に、私は本能的な恐怖を覚えた。どこまで見透かしているのだ彼女はと。

 たしかに私の能力─『境界を操る程度の能力』はたかが子供の妖怪が持つには強すぎる能力。あらゆる物には境界が存在し、それを敷いたり断ち切ったりすることで、論理的な破壊と創造を可能とするこの能力は、当時の私には扱いきれない強力すぎる能力だった。

 だとしても、この力を使えば中級妖怪レベルならば屠れる。成人した人間は愚か、だ。なら何故、脆弱な子供の人間を襲っていたのか。そこで、彼女が言い当てた私の『目的』に繋がる。

 だから、彼女には嘘は通じないと確信した。それに気分を害するような嘘をいえば、確実に私は殺されるだろう。彼女はそれほどまでの覇気と風格を宿している。

 だから、私はその目的を話した。共感や協力を頼むという事ではなく、ただ、聞いて欲しかった。

 

「…『妖怪と人々が手を取り合って生きる世界』を…作りたいです」

「へぇ~…面白い夢だねぇそれ」

 

 彼女は私の目的を聞くと、ニヤリと三日月のような笑みを浮かべた。その笑顔は狂ったような戦闘狂にも近いものだった。

 

「夢見てるねぇ、無理に決まってるじゃんそんなの。相容れない存在を共存?夢を見るのも大概になさい」

「っ…」

「現に、数億年前に人は妖怪を徹底的に追い詰めて月へと逃げ去った。私はその生き残りよ。現存する最古の人食い妖怪。貴女はその数億年前の惨劇を二度と起こさせないと誓える?」

 

 ──人食い妖怪。

 今存在する妖怪の大半の先祖であり、人食い妖怪の『人を糧とする』性質は今も尚妖怪に色濃く受け継がれている。かくいう私もその一人。先祖と同じ種族である彼女は、きっと目の前で肉親や同族が皆殺しにされていく様を見たのだろう。

 だからこそ、彼女は私に問うたのだ。かつての惨劇を起こさずにその理想を達成出来るか、と。

 私は即座に頷くことが出来なかった。当時どれほどの惨劇が起きたかは見てはいないのでわからなかったが、彼女の目はその目だけで人を殺せそうなほど憎悪がこもっていた。それが怖くて、とても頷くことが出来なかった。それと同時に、彼女にそれほどまでの憎悪を刻んだ惨劇の酷さと規模は並大抵のものでは無いのだとわかった。

 

「…わかりません。でも…」

「でも?」

 

 確信はない。妖怪と人が共存できる世界をつくる力は無い。そもそもその世界へ繋がる礎を築ける自信が無い。世界を作るということはそこに住まう民の命を背負うこと同意義。並大抵の努力では決して成しえないことだ。ましてや『相容れない存在との共存』を目標とする世界など、私一人では到底出来はしないだろう。

 けれど──

 

「きっといつか、その共存の道は拓けると思います」

「…それが、これまでにない茨の道だとしても?」

「はい」

 

 諦めなければきっと、その道は拓けると信じている。

 この夢を抱いた時から、これまでになく過酷で険しい茨の道を進むことになるのは承知の上だった。だからこそ、その覚悟を試すときが今だと思った。

 彼女に協力などは思っていない。ただ、私の決意表明を聞いて欲しかった。

 

「…そう。それほどの覚悟があるなら大丈夫そうね」

「え?」

「気が変わった。貴女がどこまで行けるか見たくなったわ」

 

 彼女は私の言葉を聞いた瞬間、目を見開いて驚いたような顔をしていた。思ったより彼女から見た私の評価はそれなりだったのだろうか。

 だが、この決意表明で一瞬でも目を逸らせば見捨てられるか、殺されるかの二択だっただろう。

 だからこそ…予想外の選択肢に、私は驚かざるを得なかった。

 

「それはどういう…」

「つまりその夢、手伝ってあげるってことよ」

「…ぇぇええええ!?」

 

 そう、彼女が私の夢を手伝うと申し出たのだ。

 正直、一番ありえないことだと私は思っていた。私の夢についてはあんなふうにものすごく否定的だったし、協力は無理だろうなと思っていた。

 まさか向こうから協力をしてくれると言ってきてくれるとは思いもよらなかった。更には、彼女は全面的な協力を惜しまないと言ってくれた。

 

 こうして彼女──ルーミアは、私の夢の達成のために力を貸してくれることになった。

 私の力を強くするために修行に付き合ってもらって、何度その実力差に絶望したか。一緒に住民集めをして、住民相手と喧嘩をしたりもした。

 私が死にかけたこともあった。そんな時は彼女はさっそうと現れて私をかばいながら私に致命傷を与えた敵を皆殺しにしてくれた。

 沢山傷ついて沢山泣いて、沢山嬉しいこともあった。

 だから、私は彼女に感謝している。彼女がいなければこの幻想郷も無い。彼女はこの幻想郷創造の要となる人物であると住民に伝えている。

 

「どうしたのかしら?そんなに空を見上げて」

 

 幻想郷が出来てはや400年が経つ。相変わらず彼女はボーッと空を見上げて何かを思い出しているような顔をしていた。

 本当に自由な人だ。あれほど強力な力を持ちながら自由気ままに幻想郷を回る彼女は本当に自由人である。どこからともなく現れる彼女は、まさに神出鬼没の存在だろう。その点、私は彼女に似たのかもしれない。

 

「回想してた。以上」

「あらそう。あなたも過去に浸ることもあるのね」

「私も普通の人間と変わらないし」

「いやどこがよ…」

 

 本当にそれはないと思う。冗談にも程がある。

 彼女程の存在が普通の人間ならば私のような妖怪の立場は無くなる。力の均衡が一気に逆転して人が妖怪を蹂躙する日が来るだろう。

 よく思うのだが、彼女は自身の力の強力さに気づいていない節がある。恐らく理解していると言っても力のみで、周囲に及ぼす影響は全く理解していないのだろう。

 私はこの幻想郷創造時に、初代博麗の巫女と共に彼女の力に封印を施した。彼女の頭に結ばれたリボンがその証拠。私と最強の人間であった初代が組み立てた封印術であっても、彼女の力全てを封印しきることは出来なかったが。

 そうでもしなければ、この世界は闇に覆われてしまう。彼女は世界の全ての闇を受け止め同化した闇そのもの。それほど強大な存在を幻想郷という小さな枠組みに入れ込めば、幻想郷はたちまち常闇に包まれ、人は闇に飲まれ、朝日が永遠に昇らなくなるだろう。

 私とて不本意だった。彼女に『幻想郷のために封印されてくれ』と言うのは心が痛かった。命の恩人、幻想郷の立役者とでも言える彼女に恩を仇で返すような真似をしてしまうのと同意義だから。

 でも彼女は仕方が無いと、喜んで封印を受けたのだ。だからこそ、あの封印術が上手く機能したのだと思う。彼女が本気で抵抗するものなら、あの程度の封印など一瞬で破れてしまうだろう。

 本当に、彼女には感謝してもしきれない。感謝という言葉では言い表せないほどその恩は大きいものになっていた。

 

「それで、なにか目的があってきたんじゃないの?」

「!流石ね」

 

 そんなことを思っていると、彼女が私が会いに来た理由を見破った。やはり彼女には敵わないなと心底思い知らされる。

 だが、今回の件はこれまでと少々事情が異なる。大したものでは無いが、その性質上、面倒くさいことこの上ないものだった。

 

「近々、新たなお客さんが来るわ。熱くお・も・て・な・しをしようと思うのだけれど」

「あ、終わったな来客」

 

 そう、新たな来客の到来である。その来客はとても喜ばしい人物ではないのだが。

 言ってしまえば、その来客の目的は『幻想郷の侵略』。幻想郷を我がものとし、そこで栄華を極めんとする不敬な輩。

 この地である日本とは別の大陸で猛威を振るっていた吸血鬼のトップ、貴族であるスカーレット家である。スカーレット家はかの吸血鬼ヴラド・ツェペシュの末裔を名乗る一族であり、末裔なだけあり、その実力は吸血鬼の頂点に君臨している。恐らくは消滅を悟った彼らがこの地を耳にし、我がものとしようとしたのだろう。

 全く、時代遅れもいいところだ。貴族や身分などこの世界には必要ないものだ。そんなものがあるから差別が生まれて憎しみが生まれる。そして大きな戦争が始まり、得たものは心に残る傷のみ。そしてそれを繰り返す。

 馬鹿馬鹿しい。そんな輩には御退場願いたいものである。故、今回は手厚くこちらはおもてなしをしよう、というわけだ。別に向こうがどうしても生きたくて、態度を改めると言うのならば話は別だが。

 

「私はどうする?」

「…貴方は出なくていいわ。私達のみでやる」

 

 今回の件は幻想郷が出来て始めての出来事だ。創造者たる私が処理せねばならない問題。いつまでもルーミア一人に任せてはいられないのだ。

 それに、侵略程度の問題を片付けられない創造者などどこにいようか。威厳にも関わるが、ルーミア一人に全て任せるのは私としてのプライドが許さなかった。

 それに、見ていて欲しかった。もう貴女に任せっきりの私ではないと証明したかった。ルーミアには見ていて欲しい。私がどれだけ強くなったかということを。

 

「そう。でも、もしもの時は力になるよ」

「…ありがとう、ルーミア」

 

 それでも、心配してくれるルーミアに感謝をしつつ、私はその場を去り準備を進めた。

 この幻想郷を脅かす脅威は確実に排除せねばならない。さらにいえば相手は不死性の高さで有名な吸血鬼、それもその頂点だ。手を抜けばやられる可能性もある。

 

 ──この戦い。決して負けるわけにはいかない。

 

 幻想郷の平穏のために。そして、何より愛する師──親友の為に。

 私は幻想郷の創造者、妖怪の賢者としての一面を表に出し、兵を集め始めた。


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