今回ルーミア視点が非常に
あ ほ く さ
になっております。
ご注意ください。
◆
【ルーミア】
「ほぉ~……あれが……」
今回の異変の首謀者たる吸血鬼達が結界を通過してまだ数分。ゆかりんに待機──というよりかは参戦不可──を言い渡されていた私は、様子見がてらに吸血鬼達が拠点としたのであろう霧の湖と呼ばれる場所の周りを見渡していた。
すると、そこには以前見られなかった紅い影が一つ。館のような形が霧越しに見える。
「…あれが、紅魔館」
あれこそが…《
「ん~推しキャラ二人に会えるのは最高♪」
正直、これまで無いほどテンションが上がっている。
いや、前世で推しキャラだった二人だよ? それが目の前で、しかもこの手で実際に触れるというこの至高以外の何物でもない最高すぎるじゃないですか。
とはいえ、向こうは何も知らないわけだから、いきなり
『レミたんフランたん会いに来たよ抱きしめさせてください(はぁと)』
みたいな事言ったら警戒心MAXで殺しにかかってきますねこれは間違いない。
そもそも、今──この原作開始以前の時代である今で、原作のようにレミリアが紅魔館当主とは限らない。この吸血鬼異変は何か、レミリア達の親族か、はたまた館を乗っ取った無礼者の吸血鬼共か…それは定かじゃないし、前提としてまず、この吸血鬼異変でレミリア達が幻想郷に来ているかどうかさえ怪しい。
「原作開始以前だからこそ、不確定なんだけどね……今までもそうだったけど」
なら、今までとやることは変わらない。
今まで、そうしてきた。
大和の大戦も。
竹取物語も。
死に誘う妖怪桜との戦いも。
そして──幻想郷創造も。
「…私は、私に出来ることをやるだけ」
今の私にできることは、サポートくらいである。ゆかりんに参戦不可を言い渡された以上、派手な行動は出来ないし、それこそ戦力に圧倒的な差が見られる時のみだ。
──と言っても、かなり押されてはいるが。
見たところ、何匹か向こうに寝返った不届き者もいるらしい。そりゃそうだろう。この赤い満月という条件下で不死者の名のごとく再生する吸血鬼に敵う者などそういまい。生存本能的に、向こうに着いた方が得だと考えたんだろう。
あとは、単なる経験の差だろうか。我々幻想郷の妖怪達は長年最低限の戦いしかしてこなかった。幻想郷ができる前はそこらじゅうで殺し合いだったが、枠組みができてからは人の保護のために殺し合いが規制され、派手な戦闘はしてこなかった。つまり、平和への慣れである。
対して向こうは、征服のために年がら年中戦争してきた化け物達。平和になり戦いという戦いが無くなって力が弱まった幻想郷の妖怪達とでは圧倒的なまでの差がある。
とはいえど、こちらにも歴戦の妖怪は多数存在する。かつて私と戦いを繰り広げた者も多数。当然、当時の私をマジにさせるまで追い込んだ妖怪もいる。
それでも、押されている。赤い満月を背後に置く吸血鬼達は絶対的な力を誇る。
まぁぶっちゃけ、赤い満月、吸血鬼ってなだけでもう絶望ものでここまで耐えてるのが不思議なぐらいなんですけどね。ハハッ。
「こりゃ、私も一肌脱ぐべきかな」
まぁ、そのための右手コホン、そのための私なんですけどね。
私一人でも過剰戦力なんだろうけど、状況が状況だし、仕方ないね。
ごめんねゆかりん、大目に見てネ!
てことで私は辺りを見渡していた高い崖から心ぴょんぴょんさせつつジャンプして敵軍のところへ着弾しまーす!
「な、なんだ!?」
「こんにちは。死んで、どうぞ♪」
砲撃みたいな着地音に気がついたのか、吸血鬼達は一瞬に私に向き直る。
だが遅い。私は足元にいつもの様に足元の影から赤黒い触手──
「ヒィ! なんだこいつ!!」
「化け物だ!! 化け物がいるぞ!!」
うっせーやい。あんたらも大概だろっ。
私は更に足元の影から数十本の闇御手を作り出し、群がっている吸血鬼達を串刺しにしたり、真っ二つにしたり、顔面剥ぎ取ったりした。
あぁ^~、たまらねぇわ。
あっ、そうだ(唐突)
「ちょっとそこの君」
「ひぃ、た、たすけ、けけ」
こいつら捕まえてこいつらの親玉吐かせればレミリアのことも分かるんじゃね?
という唐突な案が浮かんだので、生き残りの手足を闇御手で縛り付け、残りの闇御手がその吸血鬼の頭、首、心臓……その他諸々の急所を捉えて待機。
「君たちの親玉はだぁれ?」
「あ、あぁ…ひ」
「答えてよ、あくしろよ」
「あ、が…ひ……い…」
「…仕方ないか」
ここの生き残りはこいつが最後だからころすわけにもいかないし、言葉じゃ答えてもらえそうもないので強行手段を取る事にした。
私がその吸血鬼の眼と合わせた瞬間、吸血鬼はビクンと体を跳ねさせた後、脱力しガクンと身体が崩れた。
今、私はこの吸血鬼と目を合わせた事で吸血鬼の中の魔力を乱させて幻を見せている。俗に言う幻術と言うやつである。これは目で幻術にはめたから幻術眼と呼ばれる幻術の一種。
今かけた幻術は、幻の私が親玉を吐き出すまで淡々と腹を刺し続けるというシンプルかつ結構えぐいものである。幻の世界から戻ってきたとしても、精神的ダメージは計り知れず、並の妖怪ならば一瞬で精神崩壊を起こすだろう。
「…主……は……紅魔……館…」
「…で?」
「…名は……ウラ………ド……公……」
「へぇ、かの有名な串刺し公ね」
ウラド公、という名前を知らぬものは居ないだろう。吸血鬼という存在の王であり、吸血鬼=ウラドとも言えるほど知名度は高い。かのドラキュラの元となったワラキア公国の王であり、ウラドが行ったとされる串刺しの刑はあまりにも有名だろう。
時代的に死んでいると思っていたが、そもそもドラキュラと恐れられた吸血鬼の王だ。皆が知っている処刑程度では死なぬだろう。ここは幻想郷、常識は通用しない。
「…お嬢…様………妹様……」
「! …」
「レミリ……ア……お嬢…様…と…フラン……お嬢……様…」
「ビンゴ…っ!」
しめた、と私は思わず大声を上げた。
やった! レミリアとフランは既に幻想郷入りしている! しかもウラド公の娘という形で!!
嬉しすぎて涙が出そうである。というか泣いている。やっぱり世界は捨てたもんじゃないのね!
「やった! やったぁ!! 二人に会える!!」
「もう…し…わけ…」
「あ、もう君死んでいいよ」
「がっ……………」
もう用済みとなった吸血鬼を急所を残らず貫いて殺した。いとも容易く行われるえげつない行為とはこのことである。是非もないネ!
それはさておき──これで、私の目的は決まった。
とりあえずは、紅魔館に行くこと。戦況的にも宜しくない状況だし、とっとと親玉潰した方が手っ取り早く終わりそうだ。
次に、今この時代でレミリアとフランがどのような状況に置かれているか、である。
よく二人は二次創作なんかでは過去を悲劇的に語られている。もしかしたらウラド公に何かしらの圧政を受けているのかもしれないし、普通の一般家庭かもしれない。まぁ、後者であることを祈るが。
それに、原作では妹のフランは地下室に幽閉されている身のはずだ。長年の勘であるが…ほぼ確信できる。恐らく、二人は良い状況下には置かれていないであろう。
「…」
私も彼女達からすれば赤の他人とはいえ、幼子が虐げられている様を見て喜べるほど狂ってはいない。いや、
レミリアもフランも、私からすればまだまだ将来有望な子供である。そんな幼子が虐げられて見ていられるほど、私は薄情者では無いつもりだ。
「…行きますか」
私はそんな思いを胸に、紅魔館へと足を進めた。
ぶっちゃけると二人を愛でたかった思いが八割超えてたなんて口が裂けても言えない。
◆
「多いですね」
「えぇ、しかも一体一体が大妖怪並み…まさに悪夢ね」
異変が始まり、本格的な戦闘が始まって数時間。我々幻想郷側は圧倒的に不利だった。
今宵は、最も禍々しく、妖を狂わせる赤い月の満月。月の影響を強く受ける吸血鬼達は、この赤い満月の中では無敵に等しいほど強力な妖怪と化す。夜にしか行動できないとはいえ、月さえあればその力は数倍に跳ね上がり、赤い月はその数十倍にも及ぶ。
その条件下の中では、紫率いる幻想郷は雀の涙に等しい。歴戦の妖怪でさえタダでは済まない。
紫は、完全に吸血鬼という生物を見誤っていた。ここまで赤い月の有無で強くなれるものなのかと。
もはや一種の麻薬にも近い。赤い月の魔力は吸血鬼を酔わせるように、いつになく魔力を放っている。それが吸血鬼達を酔わせているのだ。
「殺した途端再生されちゃキリがないです──よッ!!」
「そうね…なら」
紫は空高く飛び上がり、幻想郷の上空に立った。
パチン──と扇子を畳む音と同時に、掌に、常人には理解することすら出来ない複雑な術式が組み上げられていく。
「その魔力を遮ればいいのよ」
そして、その術式を天高く放り投げた。
パキン──
甲高い音が幻想郷に響いたと同時に、放り投げられた術式が発動し、膨大な魔力を放ちながら幻想郷の結界と同化していく。幻想郷を覆うようにそれは展開され、術式は完全に結界と融合を果たした。
「なるほど、流石です」
霊愛はその術式を見て、感嘆の声を出した。一件、幻想郷の変化はないように覚えるが──
「ああぁぁぁ!! 身体が! 身体がァァァ!!!」
「熱い…焼けるぅ! 死ぬぅゥ!!」
──吸血鬼達は、もがき始めた。
何故、彼らが夜にも関わらず日光に照らされているかのようにもがき苦しんでいるのか。
それは、実に簡単な出来事であった。
「太陽と月の境界を……中身だけ入れ替えたのですね」
「えぇ。太陽と月の境界を弄る力をあの結界に仕込んだわ。あの月は、『虚像の月の皮を被った太陽』よ」
紫の能力──それは、『境界を操る程度の能力』。
万物には全て境界が存在し、境界線を無くせば、それはひとつの大きなものとなる。その逆…境界線を敷けば、それは二つのものとなる。
境界を操るということは、即ち論理的な破壊と創造を可能とする事。この規格外すぎる能力を持つ紫が、最強の妖怪とされる所以。
更に、紫は長年の知恵から、超人的頭脳を持っている。あの程度の術式ならば数分足らずで作ることも出来る。
しかもこの高度な術式を見抜けるのは、弟子である霊愛と紫の師匠たるルーミアだけである。
その他の吸血鬼は術式を見抜けず、痛みにもがき焼かれて灰になることだろう。
これほどの規格外な能力を自在に操る実力と、超人的頭脳───妖怪の賢者の名は、伊達ではないのだ。
「……さて、あとは首謀者だけですね」
「えぇ…もう、彼女は動いているようだし」
「ルーミアが?」
「手は出さなくていいって言ったのだけれど…まぁ、この奥の手は教えてなかったし、仕方ないわね」
この戦いの中で、ルーミアの魔力が感じられたのだ。霧の湖…つまり、敵の本拠地側から。
つまり、見るに見かねてルーミアは動いたのだろう。確かにあれほど不利であれば、黙って見ていろというのも、
酷いことをしてしまった、と紫は少し悔やんだが、今はそれどころではないと気を取り直した。
「さぁ、行くわよ」
「はい」
吸血鬼異変───終幕は、既に近い。