TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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13話『甘くない二人組』

 

 

 ウボォーが殺されたらしい。

 

 旅団が出した答えは、原作と寸分違わない物だった。

 

 当然と言えば、当然だ。

 

 この世界が、あの世界を模していて、起こるべき事象を消化していくとして。おおよそ、これから起こりうる展開は全て一緒になる。

 

 この世界で、現状大きく変化している部分は、旅団に私がいること。

 

 条件競売の賞金首に、私が乗っていること。

 

 そして、ヤヤを除く仲間に、私が旅団と行動していると知られていること。

 

「まあ、だからって、どうなる訳でもないのだけれど」

 

 私はゴンたちの元に向かいながら、一人呟いた。

 

 現在、九月三日十三時。

 

 マチにちょっかいを出し続けていると、早くも数日が経っていた。

 

 危うく、本来の目的……は、女の子だけど。そんな私にも、それ以外の目的があるため、泣く泣くマチの元を離れている。

 

「えーと、ここね」

 

 キルアからの連絡で指定された飲食店に入ると、三人がどこにいるか直ぐに判明した。

 

「いらっしゃいませ」

 

「あそこ三人の連れです」

 

 姿は見えずとも、ひっきりなしに料理が運び運ばれるテーブルを指さし、足を進める。

 

「ちょっとは、店の人の苦労も考えなさい」

 

「あ、リナさん!!」

 

「遅かったじゃねえか」

 

「うるさい」

 

「あでっ」

 

 皿の上に残っていた肉の骨を、高速でキルアの額に投げつけた。

 

「なんだなんだ、この綺麗な嬢ちゃんは? 知り合いか?」

 

 ゼ、ゼットル? には、そこまで嫌悪感は感じないわね。

 

「ええ、そこの生意気なクソガキの保護者です」

 

 タオルで額を拭いているキルアを指差して、にっこり笑っておく。

 

「誰が保護者なんだよ!?」

 

「主に、こうやって直ぐ吠える犬の」

 

「て、てめぇ……後で覚えとけよ。絶対に仕返ししてやる」

 

 むしろ、私がいつもやられている側なのだけれど。

 

「女の子に手を出すとか、最低ね。人間として……あ、ごめんなさい。犬だったわね」

 

 なので、もっとやってみる。

 

「よーし、今すぐやろ──うごっ」

 

 大きく開いた口に、今度はパンを投げつけた。

 

「とりあえず分かったのは……嬢ちゃんが、一番クレイジーって事だな」

 

「うん、そうだよ」

 

「……ゴン?」

 

「ひっ」

 

「私だって、好き好んでこんな性格になった訳じゃないわ」

 

 そもそも私は、性欲を持て余していた、ただの青少年だったし。

 

 神の悪戯さえ回避できたら、今頃はもっと普通な性格だったはず……よね。

 

「ちょっとだけ、Sっ気が強いだけよ」

 

 だから私は、少し弁解しておいた。

 

 

◆ ◆ ◆ 

 

 

「全部で三億はするんじゃねーかな」

 

「「おお!!」」

 

 中身は、原作と変わりなし……やっぱり、大筋はそうそう変化しないってわけね。

 

「ただし、業者市だと──」

 

 さて、これからどうしましょうか。

 

 二人と合流したのは、中身を確認する為がメインで、旅団に協力している事の誤解を解くのがサブ。

 

 サブに至っては、まだ話すタイミングじゃないし……そもそも、この様子だと気にしてもいないわね。

 

 クラピカから、何か聞いたのかしら。

 

 もっとも、クラピカに伝えた言葉は一言だけれど。

 

『貴方が仲間だと信じるなら、私は貴方の仲間よ』

 

 自分で言っといて今更だけど、薄情な言葉よね。

 

 言い換えると、いつでも敵になるわよって意味だし。

 

 まあ、そんな馬鹿な選択肢を取るクラピカじゃないし、何も問題は無かったけど。

 

「……って、どこに行ったのかしら。あの、三人」

 

 携帯を確認すると、ゴンからのメールが来ていたので、内容を確認する。

 

「無視するほど、思考していたのね、私」

 

 確かに、声を掛けられた記憶があった。

 

「ま、気にしても無駄……ん?」

 

 ホルダーに仕舞ったタイミングで携帯が振動し、取り出して要件を確認する。

 

「そう言えば、今日だったわね。いいわ、協力しましょう」

 

 クロロからの、メールだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ふひっ」

 

 おっと、いけないわね。危ない声が出てしまったわ。

 

 でも、そうも言ってられない物が目の前にあると、我を忘れてしまいそうなのも事実なのよね。

 

 日は既に落ち、夜。

 

 私は、ベッドで熟睡しているネオンに跨っていた。

 

 残された時間は三十分あるか、ないか。

 

 素早く、丁寧かつ、的確に。

 

 そして、大いに楽しむ。

 

「とても、難しいわ。これは、レルートの時やメンチの時とはレベルが違う!! そう、例えるなら……いや、時間がないわね。さっさと堪能しましょう」

 

 やっぱりまずは……肌質からね。

 

 え? 胸? 何の話よ。

 

「こ、これは」

 

 やはり、超ワガママお嬢様だけあってか、肌質のレベルが違う。

 

 恐らく、私が触れてきた中で…………三十本位の指には入るわね、うん。

 

「まあ、こんな所はどうでもいいのよ。私が選ぶ女の子は、大抵素晴らしい物を持っていて普通なのだから」

 

 次は、服の上から胸を触る。

 

 え? 早くないかって?

 

 気のせいよ。形や大きさは、ぶっちゃけ服の上から分かるし、触っちゃえばいいわ。

 

「ふむ……」

 

「ん、んん」

 

 感度、良好。質感、良好。総合、良好。

 

 ネオンって、ぶっちゃけ頭逝ってるタイプの女の子だから、性とか興味あるか不明だったけど……ある意味、こっちにも興味あったのね。

 

「んっ」

 

 間違いなく、手馴れているわ。もう、甘い水の臭いがするし。

 

「うーん……薄々は気づいていたけど、もっと純粋な女の子がいいわね」

 

 もちろん、手を止めるなんて選択は存在しないのだけれど。

 

「という訳で、キャストオフ!!」

 

 そこそこの数の武術に精通する私が編み出した、お得意の脱衣殺法にて一瞬で全裸にさせてもらう。

 

 これが純粋な女の子とか、恥ずかしがり屋なら、当然一枚ずつ剥ぎ取る。

 

 そもそも寝ている時には、反応が面白くないのであまり触れないし。

 

 え? 誰も触れないとは言ってないわよ。

 

「ネオンは起きていると面倒な感じがするのよね」

 

 そう、適当に理由を呟いて、優しく触っていく。

 

「ぅん」

 

「感度は本当にいいわね」

 

 寝ていても声が出るのは、感度が相当いい証拠。

 

 身体が触れられていると、寝ている脳で感じている。つまりは、身体が反応している状態だから。

 

「これだけ馴染んでいるのに、処女って所を考えると……恋愛感は持っているのかしら。クロロにときめいているシーンが無かったから、価値観はずれていそうだけど」 

 

 クロロって、やっぱり恐ろしいほどイケメンなのよね。

 

 ぶっちゃけ、私が女じゃなかったら抱かれても良いレベル。

 

「まあ、この身体は、男ノーセンキューだからあくまでも想像だけれど」

 

「んんっ」

 

「先っぽを刺激しすぎると、流石に起きるかしら」

 

 ずっと、先端に触れないように揉んでいたから、身体が焦れちゃったみたいね。

 

 それに加えて、どうやらいつもこの感じで触っていると見た。

 

「全く、焦らし上手なんだから」

 

「……ん」

 

 ただ、ふと気がつく。

 

「寝ている相手にするの……こんなに面白くなかったかしら」   

 

 合意の上でやっていない、その背徳感はある。

 

 その代わり、合意の上でやる相手の反応がない。

 

「んー」

 

 そう言えば、最近はヤヤの最高レベルしか触ってないから、その差を考えてしまっているのね。

 

 ヤヤの前も、一番強いのでメンチだし。

 

「中々、贅沢な性活してるわね」

 

 二人とも、本番まで行ってないけど。

 

「それでも、手を止める事はないのだけれど」

 

 まあ、色々と考えたけど、これはこれでアリね。

 

 時間制限がなければ、もっと楽しめたはずなのが、少し残念だわ。

 

「さてさて、そろそろ下を責め…………あ、タイムアウトね」

 

 素早くネオンの衣服を元に戻し、ベッドの乱れも修正する。

 

 時間にして、十分弱しかなかった。

 

「もっと遅く来なさいよ……あの優等生」

 

 欲を出せば、まだ数分だけ触る時間はある。

 

 だけど、ここで下手なリスクを取るぐらいなら、後日に手を出しても問題はない。

 

「そうと決まれば、さっさとおさらばね」

 

 窓を開けて外に出て、クロロがいる最上階の部屋まで、壁を駆けて登っていく。

 

 そして、クロロを目視したので、窓ガラスを叩き割り部屋に入った。

 

「お前は一体、どこから入って来るんだ」

 

「窓ね」

 

「いや……まあ、その通りだな。お陰で、順序が狂ったよ」

 

 クロロは本を閉じながら、右親指で背後を指さした。

 

 そこには、椅子に縛られて死んでいる男と、元人間だったらしい肉の破片がある。

 

 きっと、なんたらフィッシュの能力だろう。

 

「細かい事は気にしないでいいわ」

 

「むしろ、気にしてくれ……と、そうだ。リナは、歌は得意か?」

 

 歌……なるほど、私に歌えと言うのね。

 

「いいえ、全然」

 

 なので、そのまま拒否しておく。

 

 実際には、下手でもないのだけれど……その道のプロからすれば、当然、下手くそ扱いされるだろうし。 

 

「そうか……なら、頼むよ」

 

「聞いてなかったの? 歌は全然よ」

 

「だからお願いしたんだ。彼には、それが丁度いい」

 

 私は肩を竦め、眼下の街並みを眺めているクロロの横に立つ。

 

「指揮は、適当に合わせなさいよ」

 

「もとより、曲はない」

 

「そう……なら、いくわよ」

 

 私は旅団員ではないけれど、今だけは貴方の為に歌いましょう。

 

 

◆ ◆ ◆ 

 

 

「さてと、彼らから逃げますか」

 

 一曲が終わり、クロロがそう宣言した。

 

「とか言って、地下で待ち構えるのよね?」

 

「まあ、出来れば能力を盗みたい。リナもいるし、もしかしたら可能だろう」

 

 もしかせずとも、相手の無力化は余裕なのだけれど……信用を買う為にも、少し力を見せるべきかしら。

 

「もしじゃなくても、可能よ」

 

「ただ、それはリナがしっかりと戦ってくれた場合だ。どうせ、それなりの援護しかしてくれないのだろう?」

 

 当たらずとも……遠からずね。

 

「ふむ。当たらずとも遠からずか」

 

「……時々、キモいって言われるでしょ?」

 

「そんなお前も、同じタイプの人間じゃないか」

 

 私とクロロは、無言で地下へと足を進めた。

 

 これ以上は互いに無駄、無意味と悟ったからだ。

 

 地下で一番広いホールに到着し、舞台に上がって待機する。

 

「で、実際の所……あの化け物二匹に勝てるのか?」

 

「そうねえ……」

 

 ぶっちゃけ、楽勝だ。

 

 あの二人は念能力者としてトップレベルだけど、それでもトップではない。

 

 明確な能力は分かっていない。けど、それでもネテロの能力には勝らないと思う。こと近接戦闘に置いて、あの能力に負けはないはずだ。

 

 だからこそ、私の強さの証明になる。

 

 私は逆に、あの能力にさえ勝っている能力だから。

 

 戦いには様々な要素が絡み、その中で能力相性は高い割合を占めている。

 

 例えば、ネテロの能力。

 

 あれは近接においては最強だとしても、遠距離からの狙撃や、真正面から打ち破ってくる相手には不利だ。

 

 だからこそ、王様に負ける事になった。

 

 もっともその対処として、零の能力や、狙撃に対しての感覚を伸ばしているはずだけど。

 

 それに、念能力での狙撃等はあんまり強くない能力だ。

 

 おおよそ、人体が念を放出してある程度の威力を保てるのは、せいぜい数キロだけ。

 

 それならぶっちゃけ、狙撃銃を使えばいい。

 

 まあ、それも並の念能力者しか殺せないけど。

 

「手こずるわ」

 

「ダウト」

 

「即答はやめなさいよ」

 

「リナも、嘘はやめるといい」

 

 本当にこいつ、食えないわね。

 

「なら、どうして訊いたのよ」

 

「反応を見たかっただけだ。それに、今ので理解した」

 

 ……こいつ、すり潰しても食えないわ。

 

「って、私の反応が、よくあるクーデレ系のヒロインのようじゃない」

 

「なるほど。三人目くらいのポジションだな」

 

「……」

 

 な、なんでわかってるのかしら。

 

「そんな目で見るな。知的好奇心だったんだ」

 

 知的好奇心でギャルゲを嗜む、犯罪者グループのリーダー。ありか、なしかで言えば。

 

「なしね」

 

「お前はそもそも、男がなしなだけだろう」

 

「そうとも言うわ……それと」

 

 この部屋に入る三つの扉のうち、一つを残してシルバとゼノが入って来た。

 

 なので、私はスカート部分を掴み。

 

「いらっしゃい」

 

 二人に挨拶をする。

 

「こりゃ、たまげたわ。えらいべっぴんさんじゃの」

 

「お褒め頂き光栄よ。それじゃ、早速で悪いけれど……その一、入って来た扉から帰る。その二、世間話で時間を潰す。その三、無駄死にする。どれがいいかしら?」

 

 クロロを残して舞台から降りて、三つの選択肢を伝えた。

 

 もちろん、意味はない。

 

「四番の、やれるだけやってみる……かの」

 

 それが、戦闘の合図になった。

 

 私はバックステップでクロロの正面に立ち、能力を発動して剣を取り出す。

 

 ぴたりと、二人の足が止まった。懸命な判断だ。

 

「流石、ゾルディック家の二人ね。この剣に込められた"何か"を良く感じ取ったわ」

 

「得体が知れない物に恐怖を感じるのは、人間としての本能じゃろう?」

 

「その通りね」

 

 本来ならこの能力を使わずしても、二人を相手に出来る。

 

 ただし、これは防衛戦。クロロからの報酬を貰うためには、クロロに戦ってもらうなんて持っての他であり、無防備なクロロというハンデを背負う。

 

 そうなると、万が一を起こさないように戦う事が必須条件。そうなると、必然的に余裕が欲しくなる。

 

「ふむ……それなりに長く生きてきたつもりだか、ここまでの明確な死の気配は初めてじゃ。どうみる、シルバよ」

 

「具現化系としては稀な選択だ。ただ、彼女ほどの念能力者がシンプルな剣を選択したのなら、それなりの能力がある。または、切れ味が相当高いのだろう」

 

「つまり、未知じゃの。とんだお嬢ちゃんじゃ」

 

 会話していても、一瞬足りとも私への警戒が薄まらない。いや、むしろ濃くなっていく。 

 

 想像の評価は訂正ね。

 

 この二人、本物だわ。   

 

「褒められると照れるわね」

 

「心にも思ってない言葉を口に出しても、意味はないな」

 

 クロロの発言は聞かなかった事にした。

 

「なら、そのついでに能力をぽろっと呟いてくれんか?」

 

「そうね……使ったら、相手は死ぬわ!!」

 

 要望に答えて、簡潔に叫んでみる。

 

 二人とも、なんとも言えない顔だ。

 

「それは困った。使わずして戦ってくれはせぬか?」

 

 返答は、ノー。

 

「ふっ!!」

 

 短く気合を発して、二人を切る。

 

 私の初動にアンテナを向けていたらしく、それなりの速度で振ったが空振った。

 

「やるわね」

 

「そりゃこちらのセリフじゃ。避けるので精一杯とはな」

 

 当たると思っていたのだけれど、やっぱり舐めすぎかしら。

 

 まあ、当たっても腹筋が更に割れる程度の怪我だけど。

 

「それじゃ、これはどうかしら?」

 

 描く軌道は二本。それぞれを狙った斬撃。

 

 もちろん、躱される。

 

 なら、次は二倍の線を引く。また、躱された。

 

「なるほど。今ので、限界ね」

 

「……お嬢ちゃん。それだけの腕を、どこで手に入れた」

 

「どこと言われても、分からないわ。幾つもの修羅場を乗り越えただけだし」

 

 肩をすくめて、適当に答える。

 

 私がこれだけの力を持っているのは、ぶっちゃけると神様のお陰だ。

 

 確かに、修羅場は何度もあったけど、果たして本当の修羅場かと言われれば怪しい所。

 

 せいぜい、必殺技を出すレベルが数回あった程度だ。

 

 しかも、私がただ経験不足だっただけ。今思うと、この状況の半分にも満たない難易度だった。

 

「……ふむ。シルバよ、全力で行くぞ。後ろの目標は一旦無視じゃ」

 

「了解した」

 

 シルバの短い言葉の後、二人のオーラ量、質が跳ね上がる。

 

「へぇ」

 

 その様子に、私は驚いた。

 

 初めて見たからだ。これほどの念能力者を。 

 

「どうじゃ?」

 

「慢心していたと、言わざるを得ないわ…………まあ、撤回はしないのだけれど」

 

 二人に向かって踏み込み、足を払う様に回転斬り。

 

「っ!?」

 

 そして、飛び上がって回避したシルバを剣で叩きつけ、直ぐゼノに突撃する。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 読まれていたらしく、龍が牙を向いて迫っていた。

 

 ただ、それはこちらも想定済みだったので、龍を巻き込む様に剣を叩きつける。

 

 ゼノが勢い良く壁に跳んだ事を目端で捉えて、振り返りと共に、シルバを叩く。

 

「私相手に能力を使わないのは、愚かな選択よ?」

 

 もっとも、使った所で何かが変わる訳でもないけど。

 

 せいぜい、私も能力を使って対抗するぐらいだ。

 

「そうは言うがの……どうして、儂らを斬らんのじゃ? 少なくとも、一回づつは殺されておる」

 

 ま、そりゃそう考えるわよね。

 

「気まぐれとでも言っておこうかしら」

    

 ただ、私が殺したくないってだけ。それに、もうそろそろイルミが暗殺の成功を伝える頃だろうし。

 

「嘘だな」

 

「アンタは黙ってなさい」

 

 相変わらず、後ろの野郎がうるさい。見当違いじゃないから、更にムカつく。

 

「いっそ、切り落とそうかしら」

 

「……お前、今までで一番強い殺気になってるぞ」

 

 誰に向けたかも分かっているくせに、そこに踏み込んで来るコイツは、やっぱり頭がどこかイカれている。間違いない。

 

 私はクロロを相手にしないと決め、改めて二人と対峙する。

 

 この短い間でも、一切の警戒を怠っていなかったのは、流石といった所だ。素直に凄いと思う。

 

 もっとも、それで何かが変わる事もない。

 

「ふぅ…………ふっ!!」

 

 大きく息を吐いてから、二人に踏み込んだ。

 

 ただ、飛び出しが読まれていた様で、ゼノの竜がタイミングよく迫ってくる。その左後ろにはシルバが控えており、二段攻撃が目的らしい。

 

 私は剣を突き出し、能力を発動した。

 

 その瞬間、見えない"何か"を感じたのか、二人が体制を崩しながら左右に散る。

 

「答え合わせは、無しで行くわよ。全力で、逃げなさい」

 

 目標をゼノに定めて踏み込み、右から袈裟斬り。左に剣を引いて横払い。同時に、両手から右手に切り替え、空いた左手でオーラを飛ばす。

 

 そして、その隙にクロロに迫っていたシルバに対し、バックステップで迫り回転斬り。後ろに飛んで回避した所に、もう一度回転して、剣でオーラを放出。

 

 威力が少ない事は読まれていたらしく、腕を交差した上で"凝"でガードされる。

 

 ただし、それはこちらも予想済みなので、着地と同時に地面を蹴って左拳を追加した。

 

 シルバが壁に大きく激突した音を背で受け、ゼノに駆ける。

 

 右下から逆袈裟斬り、短く弧を描いて右上に切り払い。右腰の辺りに剣を引き、そのまま三段突きを繰り出す。全ての攻撃動作でオーラを飛ばしながら。

 

 オーラの直撃を受けたゼノを視界から外し、またクロロに迫っていたシルバに、左肩から振り向いた状態で剣を投擲する。

 

「何っ!?」

 

 シルバが驚き体制を崩しただろうタイミングで、体制を戻しながらゼノを左拳にて壁に埋める。そして、シルバに迫って手刀を繰り出す。

 

「我、星帝なり。塵と化せ、愚者よ…………『星帝の鉄槌(セイクリッド・インパクト)』」

 

 隙が出来た瞬間、ウボォーからインスピレーションを受けて生み出した能力を、シルバにぶつけた。

 

 効果は、ただのストレート強化。前口上のみで発動する、ちょっとお手頃の能力だ。

 

「ふぅ……こんなものかしら。もちろん、傷はないわね、クロロ?」

 

「いや、大きな傷が出来た」

 

「……心の傷とか言ったら、ぶつわよ」

 

「…………報酬は、弾もう」

 

 段々、コイツの反応が読める様になってきた気がする。物凄く、癪だけど。

 

「それじゃ、さっさと計画を進めなさい。色々と頃合いでしょう」

 

「何も伝えてないはずだが……なるほど、本当に未来を知っているらしいな」

 

 今やっと、本当の意味で理解したらしい。

 

 笑顔で頷きながら、クロロは電話を取り出した。

 

「それは何より……で、いつまで寝たフリをしているの?」

 

 少し声を張り、二人に呼びかける。

 

 "世界"の能力を使わずとも、打ちどころが悪ければ気絶程度の攻撃で、二人がへばってない事は分かっていた。

 

「寝たフリじゃなく、休憩と言ってくれんかの」

 

「全くだ」

 

 服を叩いて土埃などを落としながら、二人が立ち上がる。

 

「それは失礼したわ。それと、そろそろ連絡が来る頃よね?」

 

「……嬢ちゃんには敵わんの。今日の仕事は辞めじゃな。帰るぞ、シルバ」

 

「ああ……」

 

 二人を見送り、電話を終えたクロロに視線を向け──

 

「選択肢は、一番だったらしいわ」

 

 何となく、笑顔で言ってみた。

 

「……一つ、いいか?」

 

「何かしら」

 

「キモい」

 

「うん、殺す」

 

 クロロの返事を聞く前に、私は無防備なその腹に拳をめり込ませた。 

 




お久しぶりです、死んでました。

モチベと、モチベと、モチベが。



これからは、しっかり更新出来ると思いますので、お待ちになられた皆さん。また読んで下さい!!


戦闘シーン、難しいよね、うん。

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