転生して魔理沙(♂)と化した主人公が色々拗らせてヤンデレとなった原作キャラに襲われる話   作:みかん

1 / 2
しばらく執筆してなかったのでリハビリ用の小説
原作キャラ憑依、オリ主……地雷てんこ盛りにご注意下さい


第1話

 人妖神……結界に隠され様々な種族が暮らす秘境、幻想郷――その人里。

 

 電気、ガス、水道。見上げるような都市ビルの数々が普遍の風景となった現代社会に於いて木造平屋が軒を連ね、和服を纏った人々が行き交う景色には幻想郷の外の人間――外来人はさぞかし強い時代錯誤を感じることだろう。……何しろ自分がそうだったのだから。

 

 最早見慣れた村道のど真ん中を闊歩しながら霧雨魔理沙は心中で一人ごちた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 魔理沙は外来人でもなければ結界の外の世界など見たこともない、正真正銘幻想郷で生まれ育った何の変哲もないただの『魔法使い』であるが、建ち並ぶビル群、早朝の満員電車、駅前のコンビニ、等々幻想郷では存在しないそれらの光景を鮮明に脳裏に浮かばせることができた。

 

 つまり、ハッキリと言ってしまえば魔理沙には前世の記憶があった。それも幻想郷ではない外の世界で、平々凡々と過ごしていた自分の。

 

 常人には存在しないその奇異な記憶に幼少時代は周囲から浮いた生活を強いられたが、今となっては良い思い出だったと一笑できる。

 

 空飛ぶ巫女に吸血鬼、不老不死の人間と化け物染みた剛力の鬼……例を挙げればキリがない幻想郷の人外魔境っぷりに比べれば魔理沙の『前世の記憶を持った魔法使い』という肩書きなどそれこそ天狗の新聞の片隅にも載らないような取るに足らない平凡であるからだ。

 

 しかしそんな前世の記憶の中に混沌という言葉で形作られたような幻想郷でも殊更異端であると呼べるような部分が一つだけ存在した。

 

『東方Project』幻想郷という架空の世界を舞台に起こる様々な事件を弾幕ごっこと呼ばれるルールを用いて『博麗霊夢』『十六夜咲夜』『魂魄妖夢』『東風谷早苗』そして……『霧雨魔理沙』といった魅力溢れる少女たちが解決していくSTG(シューティングゲーム)

 その知識があったことで魔理沙は直ぐにこの世界が前世のゲームと酷似――自分というイレギュラーを除き、殆ど同一と言っても良いほど似通っていることに気が付いた。

 

 

 

 

 

 ただ一つ、原作の主人公の一角でもあった霧雨魔理沙――その性別が男性になっているという点から目を背ければ、の話だか。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 白黒の衣装が特徴的な金髪の少女。それが原作に登場した霧雨魔理沙の容姿である。

 対して俺はどうだろうか。

 

 白いカッターシャツに黒いベスト、そこから覗かれる肌は華奢で最近は家に籠りっきりだったせいか一層細く頼りない白磁のような色をしていた。

 腰まで伸びた艶やかな金髪の上から被るトレードマークのリボンの付いた黒い三角帽。その姿は一見すると端麗な容姿も相俟って男装の麗人のよう――というのは人伝に聞いた俺への周囲の主な印象らしい。

 しかし男だ。

 

 俺が知る限り博麗霊夢を初めとした他の人妖……所謂、『原作キャラ』にはそのような変化は起こっていない。即ち俺の憑依した霧雨魔理沙だけが男体化し、原作から剥離した存在になっているのである。

 それは十中八九、原作の霧雨魔理沙に宿ることがないはずだった俺という人間のせいであることは火を見るより明らかだった。

 

 それでもまあ世界の修正力とでも呼ぶべきか、中身がこんなちゃらんぽらんな俺でも、紆余曲折あったものの無事『普通の魔法使い』となり、幻想郷で起こる異変の数々に何度か参加をして、原作の霧雨魔理沙と変わらぬような立ち位置にはなれた――と、少なくとも俺はそう感じている。

 

 異変解決に当たって懸念されていた問題、スペルカードルールだが、弾幕ごっこは基本的に少女対少女の決闘が推奨されているものの、だからと言って別に男子が弾幕ごっこをしてはならないという決まりはない。

 いや、俺が知らないだけで実際はあったりするのかも知れないが、少なくとも俺は注意をされたことがないので看過されていると考えて良いだろう。或いは単純に女っぽい見た目をしてるから見間違われているだけかも知れないが。

――案外そっちの可能性の方が高そうだな……。

 

 あながち検討違いとも言えない発想に我ながらげんなりしながら歩いていると、人里の中心部へ行き着いた。多種多様な商店が建ち並びそれぞれ賑わいを見せるそれらを眺めながら辺りを見回していると道の真ん中で小規模な人だかりが出来ていて、目的地に着いたことを確認する。

 劇は丁度終幕のようだった。パチパチと拍手が鳴る人垣を掻き分けるとその先には可愛らしい人形たちと共に一人の少女が芝居がかったお辞儀をみせていた。

 

「よっ」

 

 思い思いに解散する人々を尻目に俺はてきぱきと小道具をトランクの中に仕舞う少女の背中に声をかける。

『人形遣い』アリス・マーガトロイドは振り返ってちらりとこちらを一瞥すると、浮かべた人形を追随させ俺の横を通り過ぎて歩み始めた。

 

……まぁこの程度は幻想郷じゃご挨拶みたいなもんである。

 負けじと彼女の横に並ぶと俺は言葉を続けた。

 

「中々繁盛してるな。この様子だとそれなりに儲かってるんじゃないか?」

 

「……別に、報酬のために人形劇をしてるわけじゃないわよ」

 

「ああ、そうかい。でも儲かってるのは否定しないわけだ」

 

 にっこりと微笑みかけるとアリスは額に手を当てて大きな溜息を吐いてみせる。

 美麗な横顔は眉根が寄せられ、如何にも『鬱陶しいです』といった風に歪められていた。

 

「私、これから茶屋に行くつもりなんだけど?」

 

「そいつは良いな。ご馳走になるぜ」

 

「……乞食根性もここまで来ると清清しいわね」

 

 心底呆れたようにアリスがぼやく。

 我ながら図々しいことをしている自覚はある。しかし本気で拒絶されている感じはなかった。

 少なくとも問答無用で人形をけしかけられたりは今のところされていない。

 基本的に無表情な上に口数が少ないので何を考えているのか今一わからないが、アリスはきっと懐の深い優しい妖怪だと思う。

 

 そんなことを考えている間に茶屋の入り口へ着いていた。先導するアリスに続いて暖簾を潜ると、最も人が混雑するゴールデンタイムは過ぎたのだろう。夕刻に差し掛かった時間の店内はやや空席が目立っていた。

 俺たちは向かい合うように席に着くとややあって運ばれてきた餡蜜に舌鼓を打つ。

 艶々としたつぶ餡を匙で口元に運びながら、口内に広がる甘味に自然と目が細まる。

 最後に残して置いた白玉を名残惜しみながら口に運ぼうとしたところでアリスがふと声を上げた。

 

「それで、まさか本当に食べ物をたかりに来ただけ……ってことではないんでしょ?」

 

「んー、まぁな」

 

 曖昧に返事をしながら俺は頭上の三角帽子に手を伸ばした。

 中から辞書のように分厚い本が現れ、それをごとりと音を立てて机に置く。俺が取り出す物を既に予想していたのか、アリスは相変わらず澄ました顔でぽつりと呟いた。

 

「魔道書ね……」

 

 身を乗り出して本の表紙をしげしげと眺めた後、俺の顔を見遣ってアリスは訝しげな表情で腕を組んだ。

 

「こういうのは私に師事を受けるより、この本の持ち主に聞いた方が正確だと思うわよ」

 

「あ? あー……それはそうなんだが」

 

 言い淀んだ俺を不審に思ったのかアリスの表情が一気に曇る。

 

「なに? まさかパチュリーに何か――」

 

「いやいや、そういうことじゃない。そういうことではないんだか……」

 

 片手を突き出してアリスを制止させながら帽子の鍔を折ったり直したりしながら俺は宙を見上げた。

 脳裏に鮮明に思い浮かんだ当時の光景に思わず頬を引き攣らせ、どうにかこうにか喉から言葉を引き出す。

 

「なんて言うか、あいつ面倒臭いんだよ。この本だって借りていいか? って見せたら『あなたはこの本を読む前にもっと基礎的な物から学ぶべきだわ』って……頼んでもないのに本棚から違う本を持って来て読ませるんだ」

 

 それは単純に知識も実力も足りていない俺が悪いのであってパチュリーに非はない。だからこそ最初の頃は素直に忠告を聞いていたのだが、一冊読み終えると『次はこれ』『次はこれ』目当ての本一冊読むために一月以上も要するのは流石にやっていられない。

 だからと言って勝手に借りて来たわけではないが、渋る図書館の主に四苦八苦しつつなんとか説得してきたというわけだ。

 

 俺の話を聞いてアリスは困ったような、笑ったような、悩んだような、百面相を浮かべると頭痛を抑えるように額に手を当てた。

 

「なんだよその顔は」

 

「……いえ、報われない彼女の奮闘を少し、ほんの少しだけ憂いただけよ」

 

「あー?」

 

 なんだそりゃと、小首を傾けた俺に対してアリスは姿勢を正して向き直った。その表情が真剣なものに変貌していたのに気が付いて、俺の背筋も自然に伸ばされる。

 

「私もパチュリーの意見には賛成だわ。あなたは魔法使いとして足りていないものが多すぎる。火力ばかりの魔法では――」

 

「…………」

 

 すっと目を細めて俺を見据えた後、言葉を探すようにアリスは視線を宙に遣った。数秒の沈黙。椅子に背を預けたアリスが瞳を閉じて優しく言った。

 

「まあ、自分に合った属性を伸ばすのは悪ではない……か」

 

「あげる」と半分ほど残った餡蜜をこちらに押し遣るとアリスは立ち上がった。慌てる俺を止め、指先で本の表紙を数回叩くと辺りを見回す。

 

「どちらにせよ、こんなところで魔法談義なんてできないでしょ。……続きは私の家でしましょう」

 

「へへっ、そうこなくっちゃ」

 

 二杯目の餡蜜を掻き込んで平らげ、本を帽子の中にしまうと勢い良く立ち上がって俺はアリスと一緒に茶屋を後にした。




タイトル詐欺

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。