2016年4月30日 ケータとオロチ ケンカ

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キミのこと、ぜんぶ

「オレの友だち出てこい!オロチ!」

 

ケータの部屋に光が舞い、オロチが召還された。

 

「・・・ケータ。どうした?」

 

いつもと変わらぬ声に、えっと・・・とケータは口ごもる。

ケータは今日、差し迫った敵もいないのにオロチを呼んだ。

ケータだって用もないのに妖怪ウォッチを使って強制的にオロチを呼び出すなんてことは本当はしたくなかった。

でも、オロチが自発的に遊びに来るのを待てど暮らせど日々は刻々と過ぎていき、

とうとうオロチ来ない週間がギネスを数えたある日の昼下がり、

ケータは意を決して妖怪ウォッチにオロチのメダルを入れたのだった。

会いたい一心だった。

だが、いざ本人が目の前に現われ、特に何事も無い部屋を見回し不思議そうにしているのを見ると、

ケータの奮い起こした勇気は風前の灯だ。

 

でも、でも、

こんなふうにオロチを呼ぶ権利、俺にはあるよね。たまには、いいよね。

だって、俺たち・・・

 

「特に困ったことがないのに呼んでごめんね。

 あのさ、天気がいいから、河原のほうに遊びに行かない?」

 

用意していたセリフを言ってみる。途中で何度も噛んでしまった。

 

「ああ。」

 

間を空けずにあっさりオロチが了承してくれたので、ケータはホッとする。

新調してもらったシューズをおろして元気に「いってきまあす!」と家を出るケータの後ろに、浮遊しながらオロチが続く。

 

温かい春の陽気だった。

桜は既に散ってしまったが、空は青く風が吹き、

ケータは思わず「気持ちいいなあ」と伸びをする。

 

「今日みたいな日って、きっとデート日和って言うんだよね。」

 

オロチのほうを照れくさくて振り返ることができないまま、ケータは呟く。

 

「・・・でーと?」

 

「あ、聞こえちゃった?」

 

赤くなった顔でケータはへへへと照れ笑いをする。

 

「ねえ、オロチも浮かんでないで俺と一緒に歩いてみない?」

 

「わかった。」

 

オロチはケータの横に着地する。

背丈がほぼ同じのふたりの視線がぴったり平行線になる。

オロチが降りてくると同時に、ケータは(さりげなーく)オロチと手を繋いだ。

 

「さ、行こう。」

 

「ああ。」

 

やった、すごい自然に手をつなげた!俺ってやればできる!

ここまでは何度もイメージしていた通りの流れ!

ああ、それにしても今日もオロチの手は冷たい。

ケータは心臓をドキドキさせながらめまぐるしく考える。

でも、オロチ、ちょっと痩せた?

相変わらず忙しいのかなあ・・・。

 

道行く人々の中にはクラスメイトの家族もいたりしたが、幸いなことに

オロチは普通の人には見えないのだ。

だから、手を繋いでいてもケータの心にまだ少しだけ余裕は残っている。

 

「・・・学校は何も変わりはないか?」

 

次は次は、河原に続く道にあるあの自販機!

そこで一緒にジュース買って・・・

考えていたケータは急にオロチに話しかけられて「えっ!?」と引っくり返った声を出す。

 

「えっ・・・学校?ああ、学校はね、楽しいよ。特に何も問題ないよ。」

 

そのまま学校で最近起きた楽しいエピソードを話し出しそうになってケータは慌てて飲み込む。

ダメダメ、これは河原について座ってから話す予定!

今話しちゃったら、河原について沈黙になっちゃっても気まずいし!!

 

「・・・あ!!」

 

モゴモゴしているうちにお目当ての自販機を通り過ぎていたことに気付いて、

ケータはわたわたとオロチの手を引っ張る。

 

「ご、ごめん。自販機!俺、ジュース買いたかったんだよね。」

 

オロチは引っ張られるままついてきてくれたが、何を慌ててるんだと思われているんじゃないかと

ケータは耳を赤くする。

落ち着いて、落ち着いて・・・。

 

「レモンソーダ一緒に飲もうよ。俺、大好きなんだよね、この・・・」

 

自販機を見上げてケータは固まる。

ガーン・・・レモンソーダ無いじゃん・・・

なんで?先週まであったのに、聞いてないよ!

 

「な、なんか飲もうと思ったの無くなってる・・・どうしよう・・・」

 

ポケットの中の小銭を握り締め、レモンソーダのあった位置を見つめたまま完全にフリーズしたケータに

他の商品は目に入ってこない。

 

「別に私は何でもかまわない。」

 

どうやらすごく困っているらしいケータに、オロチが助け舟を出す。

 

「あっ、ごめん待たせて・・・。えーと・・・じゃあ、オロチが選んで!何でもいいよ!」

 

ケータがあわてて小銭を自販機に投入すると、今度はオロチが困った。

 

何でもって・・・何でもいいのか?

陳列されたペットボトルを見上げるが、色とりどりの商品のアピール度合いは各自すさまじく見え、オロチには味の想像が全くつかない。

 

「何でもいい!オロチが選んでくれたものなら!」

 

ケータがまだ困り顔で慌てているので、オロチは促されるまま適当にボタンを押した。

ガシャンと出てきたものをふたりで取り出すと、デカデカと『健康☆苦味茶』と書かれている。

味はわからなくても、見た瞬間に今日この青空に最も似合わない商品を選択してしまったことをふたりともが悟り、

暫し無言の時間が流れる。

 

モチノキ、ドクダミ、ユーカリ・・・ガツンとした苦味が最高・・・

 

オロチは原材料と商品説明に目を走らせる。

これは少なくとも小学生が好むお茶ではなかっただろう。

 

「・・・先に飲ませてもらう。」

 

オロチが言うと、この場をどう回収したらいいのかわからないケータがブンブンと頷く。

オロチはキャップをあけると毒見のような面持ちで一口飲んだ。

 

「・・・・・・ま、まずっ。」

 

あまりの不味さに本音を隠せず、発された台詞にその場には壊滅的な沈黙が訪れた。

 

「・・・俺も飲んでみるよ。」

 

「いや、ケータは飲まないほうがいい。」

 

「でも、俺も飲むよ!オロチにばっかり辛い思いをさせられないよ!」

 

何やら罰ゲームじみてきたが、ケータはペットボトルを握り締め息を止めて一気に飲んだ。

ごくごくごく・・・

あれ?あんまり味を感じない。はは・・・俺、緊張しすぎてるんだな。

あ、でもやっぱり苦いや・・・

いや、も、ものすごく苦い!ま、まずい!!

 

「ぶはっ」

 

たまらずケータは吐き出した。

 

「わっ、ごめんオロチ!かかった!?」

 

「いや・・・大丈夫だ・・・」

 

オロチのほうも狼狽している。

 

「すまない。変なものを選んで・・・。」

 

違う、オロチのせいじゃないよ・・・と、変なお茶のキャップを堅く閉めると

ケータは気を取り直してもう一度河原のほうに足を向ける。

もう一度こちらからオロチと手を繋ぐ勇気はどうしても出ず、ちょっとションボリした気分になってしまう。

 

ふたりの思いは交差する。

 

何なのだろう、この時間は・・・。ケータは何がしたいんだろう・・・。

 

あーあ、俺ってやっぱりダメだなあ・・・かっこ悪いとこばっかり見せて・・・。

 

何がしたいかわかればせめて少しは合わせてやれるのに・・・。

 

これじゃオロチも呆れちゃってるよね・・・爽やかにレモンソーダの予定だったのに・・・。

 

でも私は、ケータといられるだけで嬉しいのだから、これでいいのか・・・。

 

河原につくと、低学年らしき子どもたちが数人でボールを蹴り合っており、絶え間なく吹く風は爽やかだった。

ケータは草っ原に腰を落ち着かせるとホッと息を吐く。

今日のお天気にだいぶ助けられてる。

こんなに気持ちのいい天気だと、俺が緊張してても紛れるし・・・。

 

隣のオロチをそっと窺うと、オロチもこっちを見ていて、目を細め笑ってくれた。

あ、オロチも楽しそう。

ケータは急に元気付いた。学校であったいろいろなことを一気に喋りだす。

ここはウケるだろうと思ったところを身振り手振りで懸命に喋り、

律儀に反応を返すオロチが時々涼やかに笑ってくれると、ケータもすごく満たされた気分になる。

 

勇気を振り絞ってオロチを呼んで良かった。

ケータは心からそう思った。

 

ひとしきり喋ると、「ちょっと河原を探検してみよう」というケータの提案に、

またもオロチは短く同意してついてきてくれた。

楽しい時間というのはどうして過ぎるのが早いのだろう。

日は心なし傾きかけている。

ケータはガサガサと河原の草を掻き分け、水面にキラキラと反射する陽射しが弱まっているのを見て切なく思う。

人気の少なくなり始めた川沿いを取り留めなく歩いていると、オロチがふと空を見上げる。

 

「そろそろ帰らねば・・・。」

 

一番聞きたくないそのセリフが、冷たい棘のようにケータの心に突き刺さる。

 

「もう帰るの?まだ夕方だよ・・・。」

 

「そうだな。しかし残してきた用もあるし・・・」

 

「あ、そ、そうなんだ。忙しいのに呼んじゃってごめんね。」

 

「いや、いいんだ。私もケータに会いたかったから。」

 

そのまま飛び去ろうとしたオロチに、ケータは呼びかけた。

 

「ねぇ、今度いつ会えるかな。」

 

「今度?」

 

オロチは不思議そうに振り返る。

 

「さあ・・・わからない。約束が必要なのか?」

 

「い、いや、約束なんて無くたって平気だよ。」

 

ケータは慌てて首をふり、内心すごく寂しいと思ったが強がって笑ってみせた。

 

「全然大丈夫。約束なんてしなくてもまたすぐ会えるよね。だって俺たち、付き合ってるんだし。」

 

「え?」

 

ケータの言葉を聞いて、オロチの頭に?マークが浮かぶ。

 

「付き合ってる?」

 

「はは、やだな・・・付き合うっていうのはね、まぁ・・・恋人同士みたいな、そんな意味だよ。」

 

どうやら人間界で言うところの「付き合う」の意味を知らないと思ったらしく、

ケータが解説してくれる。

いや、それはなんとなく知ってるが、ちょっと待て。

 

「恋人!?私とケータが?」

 

目を見張るオロチに、今度はケータの頭に?マークが浮かぶ。

 

「そうだよ。だ、だってそうでしょ!俺たち、あんなことしちゃったんだし!」

 

「な、なにを?」

 

「なにをって・・ほら、キ、キスだよ!キスしたじゃん!あれってお互い両想いってことでしょ!?」

 

キス?

オロチは焦りながらも必死で思い出す。

もしかしてこの前の、あれか。あんな微かに唇が触れ合うか触れ合わないかがキス?

そしてあんなことくらいで恋人?!

 

目の前のケータは顔を真っ赤にして懸命にオロチを見つめている。

 

ああ・・・

私は純粋なケータになんてことをしてしまったんだろう・・・

 

オロチは自分の行為を激しく後悔した。

 

「待て、ケータ。私が悪かった・・・。でも、あれは、そんなつもりじゃなかったんだ・・・。」

 

「えっ?どういう意味?」

 

ケータは目を見開く。

困った・・・

ケータを傷つけたくない・・・。

 

オロチは必死に言葉を探した。

 

「あ、あれはただ、慰めたつもりだった。深い意味はなかったんだ。本当にすまない。」

 

「・・・俺のこと好きじゃないってこと?」

 

「いや、そうじゃない。ただ・・・そもそも人間と妖怪が恋人同士になんてなれない。」

 

「なんで?」

 

「なんでって・・種族も時間の流れも、全然違うものだから。

 私はケータにはちゃんと人間の世界でオトナになって、幸せになってほしいんだ。」

 

「俺はオロチといても幸せだよ!それじゃダメなの!?」

 

「一時の楽しさはあるかもしれないが、人と妖怪は相容れないものだ。

 妖怪はそもそも人にとって恐ろしいものだ。私だっていつか変化して・・・

 おまえに咬みつくかもしれないし飲み込んでしまうかもしれない。

 あまり無防備に妖怪に近づかないほうがいい。」

 

「恐ろしいなんて思ったことないよ。妖怪って、いいヤツたくさんいるし、

 友だちだって・・・。

 それにオロチがそんなふうになるはずないだろ。」

 

オロチはそれを聞いて胸を痛める。

本当に恐ろしいものに姿を変えるかもしれないのに。私は…。

 

「・・・おまえは人間なんだから、あまりにも異世界に思い入れすぎないほうがいい。

 おまえは人の世界で生きていく者だから。」

 

「なんでだよ・・・わからないよ・・・。

 やっぱりオロチは俺のこと好きじゃないってこと?

 関わりたくないってこと?」

 

「いや、そうじゃない。ただ私はケータのことを思って言ってるんだ。」

 

「あのさあ!」

 

ケータはキッと見上げた。

先ほどまで泣き出しそうな顔をしていたのに、瞳には強い光が灯っている。

 

「空気なんて読まなくていいからハッキリ言ってよ!

 俺の気持ちなんて考えなくていいから!

 俺のこと好きじゃないってことなんだろ!

 キスなんて、オロチにとってはただの遊びだったんだろ!!」

 

肩が少し震えている。

いつもの素直でかわいいケータの表情じゃなかった。

 

「子ども扱いすんなよ!子どもだけどさ・・・

 だけど、口先だけで誤魔化そうとしないでよ!

 オロチが思ってること全部、本音で言ってよ!

 じゃないと俺、絶対ナットクできないから!!」

 

「わ、わかった・・・」

 

オロチは思わず後ずさる。

怒ったケータなんて初めて見た。

激しく怖い・・・もしかしたら強敵と相対している時よりも。

それに純粋すぎるケータの気持ちがまっすぐ突き刺さってきて、痛い。

 

「とにかく、私が悪かった・・・。」

 

「謝らなくていいから。なんで付き合えないのか言って。」

 

硬い表情のケータの瞳からポロッと一粒涙が落ちた。

 

ケータにはいつも笑っていてほしいのに・・・。

 

「わかった。ちゃんと言う。」

 

オロチは深く息を吸った。

 

「ケータが異世界と関わり過ぎないほうがいいと思っているのは本当だが・・・、

 もっと言うと、付き合うとか恋人とか、そういうの、私はイヤなんだ。

 誰かを本気で想うことなんて・・・。」

 

ケータは目をそらさず聞いていた。

その瞳はもっと教えて、と言っていた。

 

「想うほど執着してしまうし、そのぶん失うと辛いから・・・。

 想っても簡単にいなくなるから。私の家族もそうだった。」

 

自分でも自分が最低なことを言っていて、ケータの心をグチャグチャに踏みにじっているとわかっていた。

本当の自分の気持ちというのは言葉にしてみると、ひどく残酷だった。

しかしケータは身じろぎもせず真剣に聞き入っていて、

その瞳からは絶対に本当の言葉を聞きたい、と強い意志が見えていた。

 

「だけど・・・ケータのことは、嫌いじゃないんだ・・・。」

 

「それって、好きってこと?」

 

「そ、そうだな。」

 

好きと言ってしまって良いのかどうか、オロチは戸惑いながらも結局頷いてしまう。

だって、好きなのだから。

 

「好きなら・・・いいじゃん。付き合おうよ。」

 

「いや、私はケータをただ見守っていたいだけだから・・・」

 

「あのさ、それってすごい逃げ腰だよね!?失うと辛いって先回りしちゃって、

 今、目の前にある俺たちの気持ち、無視してるよ!」

 

「無視しているわけじゃないし、先回りしているわけでもない。

 ただ、深入りしたくないんだ。」

 

涙にくれるでもなく、強い瞳で直球を入れてくるケータに、オロチのほうもじりじりと余裕がなくなってくる。

 

「どうして?今、お互いに好きならそれでいいじゃん!

 明日はどうなるかわからなくても、好きならもっと知りたい、一緒にいたいって思うの当たり前じゃん!」

 

「一緒にいれば情が深まる。お互いに何もなかったことにして

 友だちのままでいれば無駄な苦しさも避けられるんだ!」

 

「そんなの絶対おかしいよ!変だよ!

 逃げてたら悲しいことだけじゃなくて楽しいことも全部、何も始まらないよ!!」

 

ケータはまっすぐ言い募った。

 

「・・・どうせオトナになったらケータも妖怪のことが見えなくなるし、忘れていくだろう。」

 

「忘れないよ!っていうか絶対忘れたくないよ!!俺がもし忘れそうになったら、オロチが

 追いかけて思い出させてよ!!」

 

「なぜ私がそんな執着心を丸出しにしたことをしなくてはならないんだ!」

 

「だって・・・好きだったら相手に忘れられたくないでしょ。俺だって忘れたくないよ。

 かっこ悪くても何でも、俺に忘れさせないでよ!!」

 

「だから、」

 

怒気をはらんだオロチの声にSランク妖怪のオーラが重なり、大気をビリビリと震わせた。

 

「はじめから本気にならなければいなくなっても忘れられても苦しくないだろう!」

 

空気が不穏に揺らぎ、オロチに初めて睨まれ、ケータは青ざめる。

 

でも、とケータは唇を?み締める。

絶対、俺は間違ってない。

 

「忘れるとかいなくなるとか、そういう前提で話してるけどさ、そりゃ妖怪より人間のほうが

 ずっと寿命が短いけどさ、でも、だからって、俺、そんなことで諦められないよ。

 まだわからない未来のことを怖がってても、どうなるかは誰もわからないんだし。

 一緒にいられる時間が5年でも10年でも、気持ちを隠さず一緒にいられたほうがいいじゃん。」

 

ケータはオロチの手をギュッとつかんだ。

つかんでから、あ、俺、オロチの手を握ってる、とケータは思う。

 

「オロチは人間だった頃、いろいろあったのかもしれないって思う。

 でもそういうことも、話してくれなきゃ何があったのかわからない。

 俺、オロチのこともっと知りたいんだ。

 オロチのこと全部、だ、大好きだから。」

 

ケータは耳が熱くなる。

オロチのほうも同じだった。

だが、オロチのほうは心にやはり空洞があり、一緒にいられる時間は5年もないだろうと

冷めた思いもある。

それくらい、人間の子どもは成長が早い。

 

「・・・ふん」

 

ケータの言葉に温かさを感じたにも関わらず、オロチは結果、ケータから顔をそむけた。

 

「全部を好きか。安易な言葉だな。

 私のことなど何も知らないくせに。」

 

「知ってるよ!」

 

ケータは意気込んで言う。

 

「オロチって強いけどけっこう打たれ弱いよね!

 かっこつけてるけど基本天然ボケだよね!

 エリートでイケメンって言われてるけど抜けてるところたくさんあるよね!

 長く生きてるはずなのに世間知らずなところばかりだよね!

 世話焼きすぎて空回るところあるし!

 基本ネガティブだし!真面目そうに見えてけっこうサボるし!

 偏食だし!いきなりキレるとこあるし!それに」

 

「・・・待て。もう充分だ・・・。」

 

「!!ご、ごめん。言い過ぎた!」

 

「いや・・・」

 

当たってるから・・・、とオロチは呟き、口をつぐむ。

私はケータにひどいことばかり言っているのに、どうしてケータはこんなに近付こうとしてくれるんだろう。

 

「確かに私が言った言葉はケータの気持ちに否定的すぎたな。

 すまなかった・・・。」

 

「い、いいよ。大丈夫。俺、そういうとこ全部含めてオロチが好きなんだから。

 完璧じゃなくていいよ。」

 

それに、オロチが本当は優しいことも、寂しがりやなことも、俺は知ってるから。

 

「なんかケンカみたいになっちゃったけど・・・、でも俺、今日オロチとこんなふうに話せて良かった。本音で話せて良かった。

 今までは・・・オロチって優しいけどなんとなく上の空で、俺ずっと不安だったんだ。」

 

ケータの表情に、いつもの柔らかい笑顔が徐々に戻ってくる。

 

「優しい嘘つかれるより、オロチが今日、本気で話してくれたことが、

 すごく嬉しい・・・。」

 

オロチは思わずその笑顔に引き込まれる。

殻に閉じこもろうとしている自分よりも、ケータのほうが強い、と思った。

 

「・・・ケータは強いな。もし私が人間だった頃におまえに会っていても、きっと友だちになりたいと感じたと思う。」

 

「ほんと?」

 

ケータは嬉しそうに笑った。

 

「あのさ・・・仲直りついでに、前からずっと思ってたこと言ってもいい?

 俺、オロチの人間だった頃の姿、見てみたい。」

 

「人間だった頃の?なぜそんなもの・・・」

 

オロチは一瞬迷ったが、わかった、と頷いた。

風がサッとオロチを取り巻き、ケータが突風から目を開けた時には、もうそこに、

少年がひとり立っていた。

 

「わぁ・・・」

 

茶色の髪が背中までまっすぐ伸びている。

背筋がまっすく伸びていて、少しツリ目の、髪と同じ色の茶色い瞳を少年は持っていた。

 

「人間だった頃は髪がまっすぐだったんだね。

 今はフワフワしてるけど。」

 

ケータはオロチの髪に少し触れてみて微笑む。

 

「ねぇ、この姿、他にも誰かに見せたことある?」

 

「・・・いや、ケータが初めてだ。」

 

「やった、ラッキー!」

 

ケータはニーッと笑ってピョンと飛び跳ねた。

 

「何が嬉しいか知らないが私はこの姿はあまり好きじゃない。無力だから。」

 

オロチはやや居心地悪そうに言う。

 

「もう元に戻っていいか?」

 

「あ、ま、待って。」

 

ケータは慌ててオロチに向き合った。

 

「人だった頃の名前はなんて言うの?」

 

「忘れてしまったんだ。妖怪に変化した時に、人だった時の名は捨てたのだと思う。」

 

「そっか・・・。」

 

「もう戻る。」

 

「待って。もうちょっとだけ。」

 

ケータはゆっくりオロチに歩み寄ると、頬にそっと手を添え口付けた。

 

「!?」

 

「へへ・・・人間のオロチを見るのも、人間のオロチとキスしたのも、俺が初めてだね。」

 

オロチを再び風が取り巻き、風が止むと元の妖怪の姿がそこに立っていた。

 

「・・・・」

 

オロチは赤くなった顔をマフラーで隠す。

 

ケータ・・・おまえ意外に大人になったらモテるのかも・・・。

 

「もう帰ろう。ケータの家まで送る。」

 

日が長くなってきたとはいえ、外灯の少ない河原には夜の闇が忍び寄っている。

 

「うん。」

 

ケータは素直に頷き、歩き出す。オロチの手に自分の指を絡めて。

 

「ねえ、オロチってさ、俺のどこが好きなの?」

 

「・・・・・。」

 

フツウなところ。

でも、フツウって言われるの、ケータは嫌いなんだったな。

 

「・・・よく笑うところ。妖怪に守られているようで、実はケータが一番強いところとか。」

 

「へへ、そうかなあ。」

 

ケータは照れくさそうに笑う。

 

そのまま暫し無言で歩いていけば、もうケータの家が見えてくる。

玄関前でケータはオロチの手をもう一度強く握った。

 

「ありがとう。」

 

「ケータ・・・今日は悪かった。」

 

「ううん、俺、好きって気持ちだけで、後は何もいらないよ。

 それに後はオロチの気持ちがほどけるのを待つだけだから。」

 

ケータはツツッと近付くと、もう一度オロチにキスした。

 

「!?ケ、ケータ!」

 

「へへ、オロチってけっこう隙があるよね。」

 

ケータが微笑む。赤くなっているのはむしろオロチのほうだった。

ケータは今日のオロチとの応酬で吹っ切れたのか、自然体で笑っている。

 

「待っててね。俺、もっとうまくなるから。キスとか。

 オロチが不安にならないように、俺もっとがんばるからね。

 それじゃ、おやすみ。次に会えるの楽しみにしてるね。」

 

そのままケータは家に駆け込んでいった。

後に残されたオロチは呆然と立ち尽くす。

 

ケータって、可愛いとしか思ってなかったが・・

ちゃんと男の子だったんだな。当たり前か・・・。

 

「何度もキスするとか、おまえにはまだ早い・・・」

 

オロチは小さく呟く。

付き合うとか付き合わないという問題は、いつのまにか立ち消えになってしまった。

火照った頬に手をあてる。

ケータにこんな気持ちにさせられるとは・・・。

 

オロチは、フッと笑みを漏らすと宙に飛び立った。

ケータに次に会える日が今から楽しみだった。

 

 

 

 


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