I mean love me   作:メグリ


原作:妖怪時計
タグ:クズ桜
2018年7月31日 黒い世界の黒いオロチ(作中ではオロチと呼称)と桜オロチ

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I mean love me

饅頭になって蒸されているような部屋だった。

昼過ぎまでだらだらと寝そべっていたが、黒い世界の黒いオロチはおもむろに起き上がる。

 

「あちぃ…。」

 

隣の桜オロチはあっちを向き、畳が温まるとそっちを向き、薄紅の髪をうなじにはりつけ、寝苦しそうに体の位置を変えながら暑さを逃している。熱気は朝から勢いを増し、エアコンなどというものが存在しないこの部屋にいるのももう限界に近い。

水を浴びてえ…

しばらくそのままぼんやりしていたが、おいそろそろ行くぞとオロチは桜に声をかける。

 

「水道はひとつに集中して使うと目をつけられる。複数の公園をローテーションだ。」

「ローテーション…。」

 

気だるげに起き上がった桜は復唱する。

 

「そのあとは今日も、いられる限り公共施設だ。」

「いられる限り公共施設。」

 

再び桜が復唱する。

 

「こうしてっと、次に金が入るまでなんとかしのげるもんよ。」

 

にやっと笑うオロチに、桜は頷いた。

上着を羽織ろうと手を伸ばし、ふと窓に目が向き動きが止まる。

狭い部屋の小さな窓の向こうにはすぐに隣家の壁がある。オロチの住むこの世界に来てしばらくは、家々やビルの上に直接すぽっと空が見えるのにしばらく慣れなかった。春になるたび見ていた空は、山々の上に高くあるものだった。ここではすぐそこのビルの後ろから空が立ち上がり、太陽は建物の向こうに沈むのだった。

早くしろとせかされ、桜はオロチに続いて外に出る。

部屋の中も暑かったが外に出ても暑い。湿気とともに、そこかしこに生活の匂いが立ちこめる。

 

「くせえ!この暑いのによく魚なんて焼けるな。」

 

オロチは顔をしかめつつアパートの外階段をかんかんと音を立て下る。

遅れまいとその背を追いながら、この世界に来て知った沢山のことを、匂いにつられて桜は思い出す。

金を得て金を出し世の中が回ること、ゴミ出しの曜日、スーパーの特売日、立ったままで啜る蕎麦、隣に住む者のうがいの音までもが聞こえる薄い壁。路地裏の吸い殻、潰れた空き缶、絶え間なく流れるテレビ、怒声、部屋の隅に散乱するギャンブル本…

オロチの住む世界の何もかもが鮮烈な驚きを伴って桜に流れ込む日々だった。

それらを思いながら桜の指は無意識に長く伸びた横髪をくるくると回している。やがて一束をつまむと、桜はその毛先の色をチェックした。

急に振り返ったオロチが目ざとく声をかけてくる。

 

「まーた髪をいじりやがって。」

 

桜はハッとして、指を離した。

 

ついた先の図書館は休館だった。

古ぼけた建物のぴったりと閉まった扉には、臨時休館と赤字で大きく書かれた紙が貼られ、説明が書き連ねられている。

 

「マジかよぉ。」

 

オロチはへなへなと座り込む。ただでさえ、時間をつぶせる施設の少ない町だった。隣町の図書館まで…いやとてもこの暑さの中、出向く気になれる距離ではない。

 

「こんな日に休館かよ…しけてる…しけてる町だぜ…ったく。」

 

ぼやくオロチの横で、桜がぺたんと地面に尻をつける。暑くてはぁはぁと息が上がった。

汗が頬を伝い、湿気の海に沈んでいるようで、何度見上げてみても臨時休館の文字は変わらず、あまりの現状に桜の口からふふふと力無い笑いが漏れてしまう。

冷たいものがほしい

桜はずっと昔、王宮にいた頃の、食べきれないほどの菓子や果物が色とりどりに並んだ食卓を思い出した。日々の気候は春なのだから勿論穏やかなものだったが、時に陽射しが強まる散歩道に出れば王の指示を受けた者たちが孔雀の羽毛扇でゆったりとあおいでくれた。いい匂いがして、周りには沢山の花が咲いていた。

途切れ途切れの甘い…

 

「昔、王宮にいた頃、私が望めば何でもそろった。」

 

思い浮かんだそのままを思わず呟くと、オロチが途端に嫌そうな顔をした。

 

「昔話が腹の足しになるのか?」

「あ、すまない。」

 

昔の話をするとオロチがなぜか一気に不機嫌になることを思い出し、桜は慌てて口をつぐんだ。

口をつぐむと、またドッと暑い。犬のように舌を出して息を吐けば体内の温度が少しは下がるかもしれないと思いやってみたが、逆に熱された空気が口内に入ってくるばかりでうまくいかない。そのうち次第に桜の頭の中にぐるぐるとした渦が巻き始めた。

 

「あつい…。」

「おい…、こいつはやべえ!」

 

五体投地のような恰好になってしまった桜を見てオロチは跳ねるように立ち上がった。

そのままかつぐと、馴染みのコンビニに向かって一目散に走りだす。

炎天下、連なった影がアスファルトにくっきり映りながら移動していく。

自動ドアが開くのももどかしくドタドタと店内に入ると、飲料水の陳列されている棚のガラス扉に桜の背をつけ座らせて、慣れた店内を奥の冷凍コーナーに進む。そしていっぱいの氷が入った、業務用と印字されたビニール袋を取り出すと、足早に桜のもとに戻ってしゃがみ、額にそれをあてた。あててから、レジにいた女子高生に声をかける。

 

「ちょっと氷、借りるぜ。」

 

また、あんたたち…

読んでいた雑誌から顔を上げてオロチの行動を見守っていた女子高生が、茶髪をかきあげて唇をとがらせる。この世界では人と妖怪の距離が近い。オロチと女子高生は当然のように言葉を交わせるのだった。

冷房の効いているコンビニでそこかしこを冷やしてやるうち、桜がぱかっと目を開ける。

 

「大丈夫か?」

「ああ、もう大丈夫。」

「よし、さすが妖怪だ。」

 

桜の目の焦点が合っていることを確認して、オロチは大股で歩き冷凍室に少し溶けた氷の袋を戻すとバタンと乱暴に扉を閉めた。

 

「世話になったな。氷は戻しておいたぜ。」

「ここは救護室じゃないんですけどぉ。」

 

女子高生は呆れた顔をしてみせたがそれ以上は何も言わない。

 

「行くぜ桜ぁ。」

 

体が冷やされて心持ち余裕が出たオロチが振り返ってみると、桜が冷凍食品の前で固まっている。手にはコーン付きのバニラアイスの容器が握られていた。

 

「今の私にはこれが必要だ。」

 

決意を秘めた表情に、オロチはあぁ?と眉間に皺を寄せる。

余計なもの欲しがるんじゃねえ

でも、

でもじゃねえ!そんなもの買えるか、腹の足しにもならねえ!

これを買うくらいのお金はまだあること知ってるぞ!

おまえな…俺の財布覗いたのか?

 

「見苦しいわあ…。」

 

互いに負けじと声を強めて繰り広げられる小競り合いに、女子高生は冷めた声で呟く。このふたり、同じような会話を懲りずに毎回している。

そのうち、結局折れたオロチがぶつぶつ言いながらレジに向かってきた。

 

「ほらよ、いくら取るんだ。」

「178円です。あのさぁあんたたち、私の前で茶番繰り返すのいい加減にしてくれない?」

「あ、待て、これも。」

 

聞いているのかいないのか、オロチが包装にシーチキンマヨネーズと書かれたおにぎりをひとつ持ってくる。カウンター越しにオロチの顔がグッと近づいた。

 

「実は今、手持ちがそんなに無くてな。あるんだろう?廃棄される、これと同じ商品が。裏からそれ持ってきてくれよ。」

「そういう行為を看過すれば社会は成り立ちません。声をあげられない人たちにも不公平になります。」

 

ある程度予想済みだったか、女子高生は動じずに淡々と返す。

 

「堅いこと言うなよぉ、時給いくらか知らねえが義理立てするほど良くしてもらってねえだろ。こういう時は懐深いところ見せて女を上げるもんだぜ。よっ美人!おら、桜ちゃんも言ってやんな。」

「美人。すごく美人。」

「心がこもってねえ!お世辞だってバレちまうだろうが!」

「す、すまない…。」

「いや、ま、気にすんな。おめえに世辞言わせんのは荷が重かったな。」

 

女子高生はウンザリした顔でそのやりとりを見守った。

 

「イチャつくなってーの…。」

 

ぼやきながらカウンター裏の部屋に回り、手にひとつおにぎりを持って戻ってくる。

 

「ほら…次はちゃんと稼いでから来なさいよ。」

 

手渡されたそれを見て、オロチはニヤリと笑った。

 

「こりゃどうも。また来るぜ。」

 

カラリとした声と共にひらひらと振られる手に、はいはい別にもう来なくてもいいけどねと、女子高生の手が振り返された。

 

外に出ればまた暑い。だが桜はバニラアイスを手にして嬉しそうに笑う。

 

「私は発見したぞ。暑い日のアイスクリームは食べる以外にも楽しみ方がある。」

 

言いながら自分の頬や首に容器をくっつけ、挙句オロチの背中にぺたりとつけてきたりする。

あっという間におにぎりを食べ終わったオロチは残った包装を道端に捨てようとして、しかしどうせ桜が無言でそれを拾うだろうと思い、持ったまま小さな公園に入った。

屑入れにそれを放り込むと、木陰の水道の蛇口を勢いよくひねって顔を洗い、ごくごくと水を飲む。滴る水滴は熱い地面に水たまりを作っていく。

 

「この後どうすっか。暑くて稼ぎにはまだ行けねえしなあ。」

 

顔を腕で拭いながらオロチは桜に話しかける。桜は水たまりに映った自分の顔を静かに見ていた。

 

「おい…。」

 

返答がない。

 

「おい、おめえは女子か。暇さえありゃ自分の顔だの髪だの眺めやがって。」

 

耳元に近づき大きな声を出すと、桜がびくりとして顔を上げる。

 

「何か言ったか?」

「二度言わせるんじゃねえ。」

 

…怒ったのか?

言葉をのみ込んで、桜はオロチをじっと見つめた。

オロチは、思いきり笑って、思いきり怒鳴って、こちらが痛くなるくらいの剥き出しの感情を見せる相手だ。

 

「ふん、まあいいや。」

 

桜の窺うような表情を見て何か言いたげな素振りをオロチは見せたが、そのまま顔を背けた。しかしすぐに視線を桜に戻す。

 

「おまえまだそれ食ってねえのかよ。溶けてんじゃねえか?」

 

バニラアイスは桜の手に握られたままだった。

えっ?桜は小さく声を上げ、慌てて蓋を取る。

 

「あっ…あーー。」

 

その途端、ドロドロに溶けたアイスが零れ、地にボタボタと落ちシミを作った。

 

「溶けてしまった…。」

「どうしてそうなることくらいがわからねえんだ…。」

 

人けのない炎天の小さな公園で、ふたりは呆然と立ち尽くした。

桜の翡翠の瞳が揺らぐのを見て、いつものように笑い飛ばそうとし、なぜかそれがうまくできずオロチは顔をゆがめた。

そしてしばらくの沈黙のうちに、桜に近づき顎に指をそえると、口づけをした。

甘いバニラアイスの代わりに、苦いタバコの匂いが桜の口内に広がる。その苦さは、霧の中に突き出る杭のような、現実世界の味だった。桜はそれを味わい、こくりと飲み干す。煙は体内にゆっくりと染み渡っていく。

 

当て所もなく彷徨ううちにやがてふたりは通ったことのない道に迷い込んだ。

なんとなくそのまま歩き続け、急にあたりが開けたかと思うと、その広いまっすぐな道には無人の屋台がどこまでも続いている。軒を連ねるたくさんの屋台を珍しがって桜が小走りに進めば、桜の歩いたそばから夏の原色が広がり、くすんでいたはずのオロチの世界の空は青く青く染まってどこまでも高くなった。ばたばたと風にはためく暖簾さえもその色ひとつひとつが鮮やかに目に飛び込んでくる。

桜の歩く道、触れる花、その全てに色がついていくのを、オロチは知っていた。

自分の住むどこもかしこも暗い町に、唯一色をつけられるのが桜だった。

おまえに出会って、ようやく俺の世界は色がついた

オロチは陽の眩しさに目を細め、桜の姿を追った。

 

どこからか聞こえてくる和太鼓の音が、一定のリズムを刻んでいる。

誘われるように走っていくと、屋台の向こう側は木々がそよぎ、川が流れている。桜はそのほとりに立ち、髪を風になびかせた。

夏とはこうも生命力に満ちた季節なのか。感嘆の息をつく。そして不思議にも思う。こんなに豊かな緑が黄や紅に染まり、やがてひっきりなしに散って裸木になっていくことを。

茂みの向こう側の細い川には、小さな鮠が沢山居て、でも沢山に見えるのは太陽に照らされたそれぞれがその黒い影を川底に映しているからだと気付き、桜はそれを眺め続ける。そして川の音に聞き入る。

この世に水を湛える場所がなければ、私のように夢とうつつの境界にいるものがこうも思いを馳せることはできなかっただろう

水は流れ去るものを止めようもないことを教えてくれる。魚はいつまでも自分の影の上で泳ぎ続ける。鳥は高く飛び、蝶ははためき、風は木々の息吹を運ぶ。命が繋がれていく煌めきを、桜は優しく見つめた。変化がなければ時間など本当は存在しないのだと思う。

 

「このあたりは来月にもなりゃコスモスの花でいっぱいになるぜ。」

 

桜に追いついて、背後から声をかけたオロチが、花の名前など五本の指に入る程度にしか知らないのだがそこにかろうじて入っていた花の名をあげる。

その花には宇宙という名がついているのだな

草いきれの中、桜は笑う。その艶めく笑顔を、直視できずに目をそらしながら、オロチはここが明日の夜に開催される夏祭りの会場らしいということを話し、明日、連れてきてやろうか、と顔を見ないままで呟く。

桜はぱっと目を輝かせた。周囲の花がいっそう楽しげにそよぎ、風は優しくふたりを取り巻いた。

 

金魚すくい…やったことあるか?俺が教えてやる

楽しそうだな!すくった魚はどうするんだ

食うんだよ、一匹一匹つまんでな

そうか…

まあ、気が向いたら飼ってもいい

 

オロチの返答に、それなら水槽を探してこようと桜が嬉しげに目を光らせる。

そのへんにある器で充分だろう オロチも口角を上げる。

どうせどこへ行ってもおまえは他愛も無く喜ぶんだろう

提灯を背景に頬を蒸気させる桜に、秤で叩き売る飴屋台の飴の詰まったガラスケースにトングを差し込んで掬い、袋いっぱいになったものを渡してやったらどんな顔をするだろう

オロチはヘッと笑いを漏らした。

くるくると返されるたこ焼きを見て何を言うだろうか

巻かれて次第に膨らんでいくわたあめをほしがるだろうか

かき氷に何の味のシロップを選ぶだろう

よく見ていなければあちらこちらに目を移し、喧騒の中ではぐれそうになるかもしれない

明るい夏の日。明日のことを考えるオロチの前で、桜は青い草を避けながら歩いていき、その続きで電柱の影を踏んでいる。ひらひらと舞う白い小さな手が鳥のようでもあり花のようでもあり、濃い陰影はオロチの記憶に焼き付けられていく。

世界はこんなにも美しいものだったのだろうか。

 

明日か…

桜は思う。

泡のような、効力のないはずの言葉が、1分また1分と自分を此処に留めさせる。

俺から、離れるな、ずっと

5月に入ろうというある日、昼下がりの部屋で抱きしめてきたオロチの、きれぎれに発された声や表情を覚えている。いつものオロチのふざけた風な声と不遜な顔つきが、その時だけは違っていた。

ずっと、というのはいつまでなのだろう 明日だろうか、明後日だろうか 何度も考えているのに、わからない この姿になっている間、約束というものから私は逃れられるはずではなかったか

 

ふとぴりぴりとした痛みを腕に感じて目を落とすと、桜は目を見張り肩を震わせた。卵ほどの大きさのシミが腕に浮き出ていた。今までで最も色濃く現れた花の運命的な生理に、思わず声をあげそうになったが歯を噛みしめ、そこにもう片方の手をあてるとありったけの力を込める。一日一日と季節を外れることで桜の妖力は底をついていたが、オロチが気づく様子はまだない。しばらくそうしてからそっと手を外すと、シミはわからない程度には薄まっていた。

桜はほっと息をつき、それから、髪をいじるなとまたどやされないようオロチからわずかに身体を背け、自分の前髪をひっぱり確認してみる。色褪せて潤いのなくなった毛先を想像したが、そこには変わらない色めく春があった。安心して、安心してからしかし、ひっきりなしに現れるようになった体の変化をオロチから隠し続けるのはもう難しいように思う。

 

おまえはずっとと言うが、巡っていくから季節は美しいのに

潔く散らずに無理に引き伸ばすことで徐々に枯れていく

綺麗なものが好きなおまえはこの先の私を見てどう思うだろう

 

「どうしたんだ。」

 

静かになった桜に、オロチが声をかける。

 

「少し考え事をしていた。」

 

神妙な声色に、オロチはへえと間の抜けた返答をする。

 

「天上人気取りでボヤボヤしやがって、明日の祭りで迷子になっても知らねえぞ。」

 

余計な一言、二言が、オロチから次々に繰り出されるのを聞きながら、そうだなと、にこりと微笑み桜は頷いた。

 

私がおまえの住むこの世界に何の躊躇もなく来られたのは、花を咲かせる以外に思いを持たない仮初めの身だったからだ

私は本来の自分ではなくて、春がほころぶわずかな期間だけ何にも束ねられない身となることができ、この世に現れる

来年も新しい花となってきっと甦るが、私をここまで引き留めたおまえがすぐに待つのをやめたとしても、私にはどうすることもできないし、恨むつもりも毛頭ない

 

桜の瞳が川に反射する陽光のキラキラした輝きでいっぱいになっていく。

物言わぬ夏の大気は桜の体を包み、その輪郭を溶かしていく。

 

断つことのできないつながりや離れがたい結びつき、そういうものから離れた場所にいるはずの私だから

ただむやみに寂しいところにいくわけではないのだし、再び咲くときが来るならまた求められるほうに行けばいい

だから、わたしがおまえを、うらむなんて

 

隣に立つ桜の瞳が、この世でないものを見つめているようで、夢と手を繋ぐような心許なさがふとわきおこる。

まさか全てが白昼夢なわけもないだろう、桜は実際、今、俺の横にいるのだから

明日の祭りの予行だったのだろうか。いつのまにか太鼓の音は途絶え、陽は傾きかけている。

滲むように濃い夏の夕焼けに、桜の淡い色合いは悲しいほどそぐわなかったが、オロチは気づかない。そういったことを、見ようとしていない。

明日は大勢の客が来るはずだ

オロチは賑わうだろう屋台に目を戻す。

浮かれた祭り客から財布をかすめとればけっこうな実入りになりそうだ 明日は稼ぎ時だろう

 

いや、それとも今年は、桜と一緒に空を見上げてもいいかもしれない

きっと花火が上がるだろうから

今年の花火には沢山の色がつき、それは花のように夜空に咲いて、美しく散っていくだろうから

 

 

 

 

 

 



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