キャラ崩壊等あると思いますがご了承ください。一話完結の話を載せていく予定。
オリジナル人形、AK105が登場します。
「やあ、
長距離狙撃専用のシューティングレンジ。一定のリズムで放たれる射撃音に聞き入っていた指揮官は、リロードのタイミングで射手に声をかけた。
「……指揮官、私その呼び方辞めてって言いましたよね」
「いいじゃないか別に。親愛の情をこめてだな」
「親愛って。どうせ私はあんたの中じゃその子よりも優先度は下でしょ。それなのに馴れ馴れしくしないで」
チラリと指揮官の隣に並び立つ赤毛の少女を見やる。が、当の本人はその意味が分からず小首をかしげている。
「ん? ああ、
「ですです」
赤毛で肩にかかるほどの長さ、左側の前髪だけが蒼い瞳を覆い隠すように長いてんこと呼ばれた少女。彼女はAK105の少女で付きっ切りと言っていいほど指揮官のすぐそばに居る。髪や瞳の色以外で目立つ箇所といえば、頭に付けた大きなヘアバンドとヘッドセット。そして左手の薬指で光る丸い純銀のリング。
「ふんっ、まあいいわ。とりあえず何処へとでも行ってちょうだい。邪魔よ」
「ふーん……。それでどうしたんだ調子悪そうだけど」
生返事を返しながらWA2000の言うことなどお構いなしにすぐそばにあったベンチに腰掛ける。
「どういう意味よ」
「着弾点結構ずれてるぞ。わーちゃんらしくない」
そう言われ指揮官の右手には双眼鏡が握られていることに気付く。
「うっさいわね。調子の悪い日ぐらいあるわよ」
「やけにツンツンするな。この前指輪上げた時は凄い喜んでた……ってもしかしてそれか?」
数日前の出来事を思い出して語る指揮官に、WA2000はビクッと身体を震わせた。分かりやすいにもほどがある。
「なくした」
その反応を見たAK105がすぐさま思い浮かんだことを口にする。
「なくしてないわよ。ただその……。見当たらないだけで」
一度反応してしまった手前言い逃れることは不可能だと潔く諦めたWA2000は、もごもごと言いづらそうにしながら答えた。
「なんだそんなことか、また買ってやるよ指輪くらい」
「指輪、"くらい"? そう、やっぱり指揮官にとってはその程度の認識だったのね」
キッっと敵を睨みつけるような目で指揮官を見た後、WA2000は有無を言わさぬ様子でその場を去っていった。
「今のは指揮官が悪い」
ごすっと背中をAK105が軽く殴りつつ責めるような目つきで見つめてくる。
「なんでだよ。指輪はそこまで重要じゃないだろ。重要なのはそれを渡した意味で」
「指揮官、それ以上言ったら銃床で殴る」
AK105が本気で言っていることが分かったために、口を紡ぐ。
「物の勝ちなんて人それぞれ。特にわーちゃんは指輪大事にしてた」
「……」
しばしの間黙って考え込んだ後、指揮官は歩き出す。
「どこへ?」
「指輪探す」
「お供します」
「あら、指揮官。こんにちは」
シューティングレンジを出ようとした指揮官の元にスプリングフィールドが現れる。
「
「WA2000ですか? 昨日は私と一緒にここで練習してましたわ。最近のWA2000は良く当てていて嫉妬しちゃいます……なにかあったのですか?」
ただならぬ指揮官の様子にスプリングフィールドは問いかける。
「指揮官が――」
不思議そうにするスプリングフィールドにAK105が説明する。
「指揮官? それは私でも怒りますわよ」
「悪い。あとになって気付いた」
「謝る相手が違います。指輪、ですか。そう言えば昨日ここにいた時は首からかけてましたわね」
「本当か。それって何時ぐらいの話だ?」
探す当てのなかった中、その情報はとてもありがたい。
「そうですわね……お昼前ぐらいでしたわね、確か」
「ありがとなはるちゃん。ちょっと他も当たってみる」
「JS05と午後に出かけると、その時言ってましたから彼女なんか知ってるかもしれませんわ」
「
「今度珈琲でも飲みに来てね指揮官。WA2000と一緒に」
基地内にはスプリングフィールドが開くカフェがある。彼女の趣味でやっている店のため不定期でしか開いていないが人気は高い。
「ああその時は二人で行くよ」
そう答えると満足した様子でスプリングフィールドはシューティングレンジへと入っていった。それを見送って指揮官たちもJS05を探しに行く。
「指揮官モテモテ」
「まあ仲間と仲良くなるのも仕事だし」
「仕事じゃなきゃ仲良くしない?」
「んなわけないだろ。お前らと一緒に居ると楽しいし飽きないよ」
拗ねたように言うAK105の頭を軽く撫でJS05を探す。
「この時間なら寮じゃない」
「それもそうだな」
人形たちが普段生活している寮ならやみくもに探すより見つけられる可能性があり、最悪でも情報が手に入る確率が高い。
数分後、寮へたどり着くと暇をしているValや9A-91、OTs-14などが指揮官たちを出迎えた。彼女たちは夜の警戒担当のため日が高い間は自由時間だ。
「
「いや今日はJS05に用事だ」
「JS05ちゃん? 自分の部屋だと思う」
「二階の一番端。私の隣の部屋」
9A-91の説明のあとAK105が詳細を付け足す。
「そっか」
「今度デートしましょうね指揮官」
二階へと向かう指揮官を寂しそうに手を振って見送る9A-91。
「あそこ」
二階へ着き直線を進むとJS05の部屋が見えてきた。コンコンとノックすると少ししてJS05が出てきた。
「あれ、指揮官とAK105。どうしたのアタシのとこに来るなんて珍しいね」
「ちょっと聞きたいことがあってな」
「昨日WA2000と一緒に居た?」
「え? 新しいスコープ欲しいらしくて一緒に買い物に行ったけど」
疑問に思いつつも昨日あったことをそのまま話すJS05。
「わーちゃんその時指輪持ってたか」
「指輪……確か首からかけてたかな。探してるの?」
「ああ」
「特に気にして見てはいなかったけど多分帰ってきたときも身に付けてはずよ。特に外すようなことはしてないしねー」
「そうか……と言うことは帰ってきてからだな…………待てよ、外すようなこと、か」
これが基地の外で無くしていたとなれば、探す範囲が広大となっていただろう。一先ず安堵する。そして今のJS05の発言で指揮官は何となく指輪があるであろうか所を思いついた。
「指揮官、分かったの?」
少し黙った指揮官の反応が気になったAK105が声をかける。
「なんとなくな。行くぞ」
「ありがとJS05。助かった」
「え、ああうん。頑張ってね」
唐突にその場を後にする指揮官に驚いているJS05に声をかけAK105は後を追った。
――風呂場。
「えっち」
「いや、指輪探しに来ただけだから。それに入浴制限してるから誰もいないし」
指輪をネックレスのようにしているのなら、まず外すのはここだろうと考えた。恐らくチェーンはドッグタグ等に使われている物を流用しているだろう。それならば切れて落ちたと言うことはまずないはずだ。
「でもなんで指輪だけ無くなったんだろうな」
「そこにいる子が知ってるんじゃない」
AK105がそう言うとガタッと物音がし、ぴょこんと可愛らしい耳が少し飛び出た。
「何してんだ、
その特徴的な耳から誰かを察した指揮官はART556の名を呼ぶ。
「えっと……これ返そうと思ったんだけど」
そう言って差し出したのは指輪だ。
「わーちゃんのか? なんでアートが持ってるんだ」
「昨日ここでP7とふざけてたらWA2000の服落としちゃって。直してたらWA2000が帰ってきて怒られるって思わず逃げだしちゃった」
「思わず指輪持って行ってしまった、と」
元の場所に戻しておけばWA2000がそのうち気付くだろうと考えたのだろう。
「そーなの……」
「それ返しとくよ」
「ごめんね、指揮官。本当は直接返しに行こうと思ったんだけど……WA2000がなんだか凄く怒ってたから、言いだせなくて」
先ほど中庭にいたWA2000に話しかけようとして、その様子で思わず尻込みしてしまったとART55
「指揮官のせいですね」
「まだ怒ってるのか。悪いアート、それ俺のせい」
「私が言うのもなんだけど喧嘩はよくないよー指揮官」
「これから仲直りしてくるよ」
「頑張ってー応援してるよ、指揮官! 勢いだよ勢い、ぴゅっぴゅぴゅーん! って」
「おう、任せとけ。あと他人事じゃないから、明日ちゃんと謝っとけよ」
「りょーかい。というか、分かってるよ!」
ART556と別れ中庭にいたというWA2000を探しに行く。
「これで仲直り」
「そううまくいくかな」
道中もう問題は解決したと言わんばかりのAK105とは対照的に指揮官は不安気だ。
「指輪渡して本気で指揮官が謝ればWA2000は許してくれるよ」
「そうだといいけど……っといた。何してんだ一人で」
「まあいいじゃない。行ったいった」
「てんこちゃんはこないのか?」
「当たり前。二人っきりで話して」
そう言い残しAK105はその場を去っていった。
「さて、と。行くか」
歩いて近づいていくと、足音に気付いたWA2000が振り返り驚きとも怒りともとれる表情をする。
「なにしにきたのよ指揮官」
「昼間は悪かった。わーちゃんの気持ちも考えないで」
開口一番に謝罪の言葉を口にする指揮官にWA2000は面食らった様子を見せる。
「……いいわよ、別に。指揮官にとってはどうでもいいことなんでしょ」
それでもWA2000はぷいっと顔を背け、これ以上話しかけるなという態度をとる。が、それを気にする指揮官ではない。
「そんなことない。俺はわーちゃんのこと好きだ。だからこそ指輪を渡したんだ。昼間はその事実が大切なことであって、指輪自体はまた俺が用意すればいいだけだと思ったんだ」
「だからもういいって言ってるでしょ! もう指輪も見つからないし、私なんかもう……」
自棄になったように叫ぶ。そんなWA2000の前に立とうと指揮官は回り込む。
「なによ、さっさとどこかへ行ってちょうだい」
しかしそれを避けるようにしてWA2000は体の向きを変え、顔を合わせないようにする。
「わーちゃん!」
名前を叫ぶように言うと、ビクッと身体を揺らし逃げるのをやめた。
「そんなこと泣きながら言うなよ。俺はわーちゃんのこと好きなんだ。だからこれはわーちゃんに持ってて欲しいんだ」
そう言って左手をとり薬指に持っていた指輪をはめる。
「泣いてなんてっ…………え? 指揮官、これ」
「ART556が持ってた」
先ほど本人から聞いたことをそのまま伝える。
「そ……。よかったわ……」
しげしげと薬指を見つめた後、それをぎゅっと大切そうに胸元で抱きしめる。
「ありがと指揮官。ほんとはスプリングフィールドから聞いてたのよ。指揮官が探してくれてるって」
「探さない訳ないだろ。わーちゃんの悲しむ姿なんか見たくない」
「重婚してるくせに。でも、嬉しいわ指揮官」
「珍しく素直だな」
「いいでしょ別に。そういう日だってあるわよ」
「そういう日が続くといいな」
「馬鹿、調子にのらないで頂戴。もう当分来ないわよ」
耳まで顔を赤くしながらそう告げる。
「そっか、そりゃ残念」
「だからこれは今日だけ。特別よ、勘違いしないでよね」
そう言ってWA2000は指揮官に寄り添った。その様子は夜空に輝く満月だけが見ていた。