描写及び表現内容に著しい誤字脱字、使い方を間違った表現可能性がございます。
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御都合がよろしければ、御感想・御意見を随時募集しておりますので、宜しければ一言送って頂けますと有難い所存でございます。


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独白物語 ~マエリベリー・ハーン~

 夜が降りた酉京都で二人の少女が歩く。

 近代的進歩を遂げた日本の首都たる京都において、少女が二人で夜道を歩く光景は珍しいものになっていた。

 過去の日本が抱えていた食糧、及び少子化などの経済的課題は近代的進歩により解決されて久しい。

 しかし、その進歩の背景のひとつである技術発展に伴って社会生活に必要な物、情報はおろかコミュニケーションすらも電子ネットワークの普及によって解消されていった。

 例を挙げれば、現首都なる京都と旧首都たる東京間を新幹線によって五十三分以内で行き来できるようになる程に交通体系、運送関係の効率性が高まっていった。

 それを背景に、日本人の外出機会は技術の発展と反比例するように減少し、コンビニや飲食店などの小売販売店やサービス業の運営体系の崩壊が訪れる。

必要性への効率化は人間達の不必要性的行動の収縮を染み付けさせ、瞬く間に日本における人間の生活スタイルを変化させた。

 過去に日本が築き上げてきた土台の革新たる変化を迎えた現代は、彼女達のように深夜に外出する意味も理由も消していった。

「蓮子、ちょっと。 本当に大丈夫なの」

 月明かりに照らされた夜道を歩く一人、紫色のブラウスを身に纏う彼女は両肩にもうひとりの少女の肩を担ぎながら声をかける。

「らぁいじょうぶよ、べぇつにどぅってことないわぁ」

 担がれる白色のワンピースに黒いスカートを穿いた少女、蓮子は頬を朱に染めた面と呂律が回らぬ口調で言葉を返す。

 蓮子の体が言葉に釣られるように背を猫のように丸めながら彼女に寄っていく。

「旧型酒を口にできたからって呑みすぎよっ、蓮子」

「だあって、ねぇ。しぃんがぁたとくらぁべたらそぉりゃぬぇ」

 蓮子はぐだりと口を零しながら、視線を担がれている腕とは反対肢にぶら下がった肩掛け袋に入った酒瓶へ向ける。

 それは二人が所属するオカルトサークル、秘封倶楽部の課外活動を終えて帰宅の際に店のマスターから計らいで渡された。

 異世界や不思議な体験を語り合う人間の集いで、彼女の語りが最も盛況へと導いた御礼だが、既に酔いに堕ちた蓮子は喜々としてそれを受け取った。

 秘封倶楽部の課外活動の成功、旧型酒の飲酒、土産にいただいた酒瓶というエピソードが重なった悦びは大きかったらしい。

 度重なった末の歓楽に堕ちた蓮子の姿を視ながら彼女は息を零し、ひっそりと酉京都の夜道を彼女の自宅に向けてとぼとぼと歩く。

 まだ遠い自宅までの道のりを荷物と化した蓮子を担ぎながら動かねばならない現実に、溜息が重苦しく彼女から零れる。

 その途中で目尻が下がり、口元が引き上がった蓮子の顔を眺めては頬が緩む彼女が何度も繰り返された。

「蓮子、着いたわよ」

 彼女の自宅の扉前に到着する。

 担ぐ彼女を落とさないように気を付けながら扉の鍵を取り出そうと彼女は荷物を手探る。

 学生証ケースに挟んだカードキーを扉に装着された読み取り機に当てると扉は自動で開かれる。

 最後に力を込めながら彼女は担ぐ蓮子と共に自室に入り終え、足先で自身の靴を脱いで玄関の段差を越えていく。

「もぉ、ついたのぉ」

 玄関先で泥酔に浸る蓮子を彼女は視線で確認し、再び肩に担ぎ直してから玄関先とリビングを繋ぐ通路を進んでいく。

 その途中で酒瓶が通路の壁に何度かぶつかる音が響くが、気にかけることなくずんずんと進む。

 彼女の自室は実家から送られた生活必需品に囲まれるばかりで必要以上に物がない。

 ベランダと部屋を挟んだ窓の傍に設置した洋式ベッドまで蓮子を運び、その端へ座らせる。

 ドサっと勢いよく座り込んだ蓮子は瞬間にその体勢を崩してベットの上で足を出して横になる。

「えへぇへ、やわらかぁい。めりぃのにおいだぁ」

「ちょっと、蓮子」

 彼女が語気を強めにして呼びかける。

 ……が、蓮子の反応はそれに響かずベッドの枕へ顔を擦りつけるように首を振る。

 それに体が連動するように上体が前や後ろにのめり込みながら蓮子が運んだ旧型酒瓶が巻き込まれている。

 当人は移動によって酔いが回ったのか旧型酒瓶を巻き込んでいることに気付いている様子はない。

「蓮子っ。お酒を巻き込んでいるから、一旦体を起こしなさいって」

「えぇっ、そぉんな」

 彼女は蓮子を引き上げるように肩を掴んで力を込める。

 頬を朱に染めながら残念そうに口を尖らせる蓮子は彼女にされるがままベッドに座り直す。

「ちょっとそのままで待ってなさい。水を持ってくるから」

 彼女は蓮子から鞄を取りあげてから部屋に立ち上がって歩き出す。

 ドサッとした音と、ぐぇっと小さい呻き声が聴こえるを背にし、壁に張り付けたフックに鞄を預けて先ほど通った道に向かう。

 その通路を曲がってから横一人分の広さがあるスペースに配置した冷蔵庫から飲料水の入ったボトルを、その隣にある食器棚からコップを取り出し、ベットの前に戻ってから蓮子の様子が先程と変わり様がない姿を一目にする。

「そんなに私のベットがお気に召したのかしら」

「おきぃにいりぃだよぉ」

 ふと肺に貯めこんだ空気を小さく押し出し、ベッド手前にある小さな机にコップと飲料水を置く。

「まあ、お気に召していただけたのなら何よりですわ。はい、お水」

 彼女は一旦ベッドの手前に膝を折って座りながらコップに飲料水を半目まで注ぎ、ベッドにずうずうしくも横になる蓮子にそれを差し出した。

 口元を釣り上げながら無邪気に笑顔を見せる蓮子はそれに手を伸ばす様子もない。

「のーまーせーてぇ」

「だだこねないのっ。まったく」

 彼女ながら蓮子に甘さがあった。

 軽く注意を込めた抑揚で蓮子の駄々に反応するも、彼女は手に持つコップを蓮子の口元まで近づける。

「はいお水」

「もうぅ、いじわるぅ」

 その呼びかけに蓮子は小口に開き、差し出されたコップに手を伸ばす。

 姿勢は変えることもなく、蓮子は器用にコップに口をつけて中身を飲み干していく。

 縁から蓮子の口元へ一筋の糸が張りつく様子を窓から射し込む縦状の光が小さく輝かせる。

 彼女の視線はまっすぐに蓮子の朱くなった顔を見つめた。

「……ちょっとは落ち着いた」

「えぇ、おちつけた」

 コップを両手の指先から柔く触れる蓮子の様子が彼女の瞳に映し出される。

「おかわりは、いる」

「うぅん、これでじゅうぶん」

「そう」

 瞳に映る蓮子を眺め、その眼の焦点は細々と散っていた。

「しぃかし、のみすぎたかぁしら」

「珍しい旧型だったけどそんなになるまで呑むなんて」

「えへへぇ。こんなにきもちよくのんだのは、ほんとっひさしぶりだぁわぁ」

 蓮子の眼尻が上がって蓮子らしさを強調させる。

 その言葉に秘められた感情は純粋な爽快感それだけだと伝わらせる。

「久しぶりって、あの酒場は行きつけじゃなかったの」

「うぅん、あれをみつけたのはさいきんよぉ、さいきん」

「してみれば、今回の呑み具合はいつもと比べても早かったわね。後、マスターも蓮子の対応に手慣れだったわ」

「さかばのますたぁが、よっぱらいをあぁつかえなきゃたいへんでしょ」

「たしかにね。でも、今後は気を付けてちょうだい。また、蓮子を担いで帰りたくないわ」

「はぁい。きをつけますぅ」

 彼女は蓮子の言葉を聴きながら飲料水を冷蔵庫へ戻しに行こうと立ち上がった。

「……まぁ、それにぃ」

 背から耳に届く声は続き、彼女にひっそりと軽く聴こえてくる。

「きょうは、メリぃがいっしょにいてのめたからうれしいの」

 彼女の足先が止まった。

 足裏の中央から踵にかけては宙に浮き、片手に握る水の波紋が静かに消えていく。

「――そっ、か」

 静寂へ切り変わった数瞬を過ぎてから彼女はその一言を絞り出した。

「うん」

 蓮子の声はやがて呼吸の音へと代わって大きくなっていった。

 彼女はそのまま立ち続けて不透明な時間が過ぎていった。

 握ったボトルの片付けを終え、ひたりと歩いて部屋に戻る。

 静かにまた机の前へ座り込んだ彼女の視線はずっと蓮子に向けられる。

 視られる蓮子は朗らかに笑みを浮かべ、輝かしい星光を見通すような瞳は目蓋の裏へ秘められた。

 横に並んだ二つのコップを前に彼女は机にもたれ込み、顎を机の上に先立たせながら両腕で囲むように隠す。

 下半分を両腕によってできた空間に埋めながら顔の向きと視線を変える。

 ベッドで眠りについた蓮子が視えた。

 宅内で動く電子機器の駆動音も静かで、郊外で駆ける車両のエンジン音も無い。

 蓮子の小さい呼吸だけが聴こえる。

 乱れがない一定のリズムを刻むように呼気と吸気が繰り返される。

 それを彼女は自然と意識しながら聴いている。

 やがて蓮子の呼吸音と自分の呼吸が一緒になっていた。

 無意識に同調が少しずつ強くなっていく。

「やっとよ」

 彼女の口が動いた。

 空間に響く呼吸よりも小さい声だった。

「やっと、聴けたのよ」

 彼女の視界の中で少しずつ蓮子の姿が歪んでいく。

 輪郭が、型が、明暗がゆっくりと崩れては混ざっていった。

「蓮子がはじめてなのよ」

 視界の中で影と形がぼやけていく。

 眼から顔に沿って腕に当たる雫を気にもせず、彼女はまっすぐ蓮子を見つめていた。

「隣で一緒に、歩いてくれた人はあなたが、はじめてなの」

 両腕に顔を埋めながら彼女は微かに震えた声で独りでに語っていく。

「突然なの、境界が視えるようになっていたわ」

 幼少期のある時に彼女は突然のように境界を視認できるようになった。

 それは突然に目蓋を開いて眼孔を露出させ、水晶体に集束する光を硝子体内へ屈折を繰り返して焦点が眼底に合わさる。

 光は神経を介して情報に化けて彼女の脳に送信され、それを彼女自身が認識して意識に光景として視えていく。

「最初は不思議だった。だって、今まで視えなかったモノが視えるようになったから」

 彼女は視たものを全て語った。

「父にも、母にも聞いたわ。アレはなんだって。どこのだれが覗いているんだって」 

 けれども、誰もが彼女に対して同じ言葉をずっと語りかけるだけだった。

「父と母から返ってくる言葉ずっとおなじなのよ。お前はなにが、視えているんだって」

 視えないし、何もない。そこはただ貴方の部屋の壁があるだけだと。どこにも亀裂なんて無い。

 口々から彼女の向けられた言葉は全てが境界への否定だった。

「……誰も、私の言葉を信じようともしなかったわ」

 誰も彼女の言葉を信じず、疑念と違和感を抱きながら内で膨らみ続けるだけだった。

「それから季節が変わってから病院へ連れられたのよ」

 やがて両親は彼女を様々な病院に連れていった。

「そこからかしら。未知のウィルス感染とか、視神経の異常発達だとか眉唾扱いし始めたの」

 だが、そのどれも誰もが同じような言葉を宣告するばかりだった。

 全てが彼女に視える世界を否定し続ける。

「それで怒ったり、泣き喚きながら病棟を走って転んだりして。なんとか知ってもらおうとしていたわ」

 幼かった彼女は反論した。

 裂け目の存在を、裂け目の奥で微かに浮かぶ綺麗な瞳を、その奥に広がっている紫色の世界を彼女は告げていった。

 彼女の言葉に耳を傾ける者は居なかった。

「最後まで誰も、私の声を聞き入れようとしなかった」

 最初は彼女の言葉を肯定する者もいたが、交流が増えていく度にそれは薄くなっていった。

 彼女に向ける目や表情を通じて伝わってきた。

「それで解ったのよ。私以外の人は視えないものを視ようとしないんだって」

 彼女への視線は全てそれが抱く疑念と無心さを孕ませた単なる抑圧に過ぎなかった。

「そんなモノに囲まれて過ごしていたら、誰も信用できなくなってしまったわ」

 幼少であった彼女の心は鏡合わせのようにそれらを反映させてきた。

 それを言動で、振る舞いで表現することしか当時の彼女にはできなかった。

 そんな経験が彼女の経験となって嵩み、やがて彼女は自分だけの世界に心酔していった。

「誰にも信用されない世界ができて、そんな世界にしか居場所が無くなってた」

 視えなくなったと嘘をつくようになったのではなく、それを公言するようにしなくなった。

 歳を重ねて落ち着いたように振る舞って、周囲の人間から向けられる疑心と無心さを軽くしていく為だけ。

「誰にも理解しようともされない世界でしか、私の世界が保てなくなってしまったのよっ」

 彼女自身の世界を閉じていく他に術を知らなかった。

 段々と通院数は減っていったが、取り巻く周囲の人間の疑心と無心が軽くなっていく様子を彼女はただ独りで視ることしかできなかった。

「上っ面だけ綺麗に整えた世界を魅せるだけで、周囲はそれに安堵したのよっ」

 彼女の境界が視える世界は心に秘めた独りぼっちな世界のままにあった。

「誰も、私の声を聴かなかった。自分が認めたくないだけでっ、私の世界を切り捨てたのっ」

 視えないだけで存在する世界を、彼女以外の誰もがこの世界の広さを知ろうともしない。

 信用もされない疑心と無心に囲まれた環境の中で、彼女はこれまで否定を繰り返されてきた。

 誰も知らず、知ろうともしない世界で彼女はその胸の内でずっとその孤独感に襲われていた。

「……寂しかったわ。誰にも理解されなかったもの」

 やがて彼女の内に変化が芽生える。

 誰からも信用されなかった故に、彼女は心から誰も信用することができなくなった。

 両親や家政婦、近所づき合いの人達にクラスメートなどの彼女を取り囲む全ての人間。

「信用されなかったものっ。だから、誰かを信用する方法なんて判ることはなかった」

 全ての人が彼女だけが視える世界を理解しなかった為に、彼女以外が視える世界そのものへ疑心と無心が募っていく。

「私の世界には、私だけしか居なかったのよっ」

 彼女の言葉は全て、彼女だけしか認識できない世界の独白に過ぎない。

 相手がいない世界で独りぼっちで口を動かすことしかできなかった。

「なにも、かもっ。私の全てが、私自身を壊すことしかできなかったのよっ」

 独白に過ぎない言葉の矛先は、孤独な自分と視える境界のみだった。

 境界へ糾弾しようとも無意味に終わる。

 罵詈雑言や募り続けた感情の想いをひたすらにぶつけていく。

「誰にも振り向いてもらえない矛先を、自分にしか向ける先が無かったの」

 反応は一度もなく、そも反応どころか認識そのものができるのかすら怪しいのだ。

 瞳は何も答えず、無機質に彼女へ見つめ続ける。

 そして、彼女の言葉は彼女自身に向いて還ってくる他に無かった。

「貴女だけだったの。私の世界に触れてくれたはじめての人だったの」

 そんな彼女を変えたのは――宇佐見蓮子だった。

「ねぇ、蓮子」

 彼女だけが視えていた広い世界に踏み出せたきっかけは蓮子との出会いだ。

 境界が視えるだけでは収まらなくなり、触れることやそれに行きつく夢を至るまでとなっていく。

 彼女が内に抱いていたのは恐怖。

「貴女は、私の瞳に対して最初に気持ち悪いって言ったの覚えてるかしら」

 夢と現。世界の知見を増やし、夢に誘われて訪れる度に感覚が歪んでいく。

 夢であることも、現であることも分からなくなっていく怖さと不安。

 時間が過ぎて尚、それの回数が増えていく度に彼女の感覚が酷く曖昧に変わっていく。

 広すぎた世界に立つが故に、居場所だと思っていた空間ですら見失っていく。

 戻る為の指針も、方角も、方法すら不透明であることが何よりも彼女の恐怖を掻き立てていく。

「今から思い返してもほんっとうに酷い一言だったけど、ね」

 蓮子が彼女の世界の触れたことで、彼女は、自身以外の誰かの世界に触れる方法を知れた。

 世界の触れ方を知った現で、蓮子と一緒なら夢現の果てへ到達できると彼女は信じ続けている。

 蓮子が幻想へ至る夢を視るなら、一緒にそこへ至ること目指して。

 夢と現が混在する素敵な世界の果てに秘められる素敵な幻想に探して。

 この世界が視える二人だけの世界を一緒に歩いていこう。

「ありがとう」

 彼女――マエリベリー・ハーンは、宇佐見蓮子に感謝していた。

 泥酔を超えて眠りに堕ちた相棒の髪に指を通す。

 細くしなやかに長い彼女の指が蓮子の指と絡み合う。

 ほのかな蓮子の体温が彼女の指を介して伝わっていく。

 それは彼女の世界でたった独りだけの理解者が居ることを確かめさせてくれる。

「私を知ってくれて、ほんとうにありがとう」

 




此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。
御感想・御意見宜しければ、一言でも構いませんので宜しくお願い申し上げます。

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