ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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せんぱい③2001年4月1日

 高速船から降りてまず目についたのは人だかりと救急車だった。船着き場でなにか騒ぎがあったらしい。

「なんだ?ありゃあ」

「ちょっと聞いてきます」

 ブランクは走って人だかりの中に突っ込んでいった。そして何人かに話を聞いてからまた小走りで戻ってくる。

「えー、あっちの小屋の方は発砲事件だそうです。救急車の方はなんか波打ち際に頭撃たれた人がいたらしくて、病院に搬送するとかなんとか」

「来ていきなり手がかりか」

「なんかトラックの運転手が警察の事情聴取をうけてるみたいですよ。どうします?」

「つまりガラの確保は警察と病院がやってくれてるってことだろ。オレたちはまずブチャラティたちを探す。船着き場にこの写真のヨットがあるか確認しろ」

 イルーゾォはレンタルヨット店で撮ったブチャラティが乗っているのと同型のヨットの写真をブランクに渡した。ブランクはすぐに船着き場にかけていく。

 イルーゾォはすでにいないだろうと思いつつ港のレストラン、土産店、カフェ、コンビニエンスストアをぐるっと回った。だが当然ブチャラティはいない。

「チッ…情報印刷してくるんだった。いちいちパソコンで見るのだるいんだよな」

 

 店外に出るとブランクが大きく手を振った。怪我してるくせに無駄に元気に走っている。

「ヨットは見当たりません!」

「メンバーの誰かの能力で隠してんのかもな。それか港以外の場所に停めたのか?まあいい」

 イルーゾォはボート監視小屋の責任者と見られる初老の男性に声をかけた。ブチャラティの乗ったヨットと同じ型のヨットの写真を見せると、いつもよりかは丁寧な語調で話す。

「忙しいところ悪いが、このヨット見かけなかったか?」

「え?……いえ。見ていませんねぇ」

「そうか。もし見かけたらこの番号に電話してくれないか?金だ。とっといてくれ」

「え、でも…いいんですかこんなに?まさかさっきの事件と…」

「あんたはヨットを見たら連絡すりゃいいんだよ。見なくてもこの金はもらってくれ。頼んだぞ」

「は、はあ…」

 

 

 島とはいえカプリ島はそれなりに広い。二人で闇雲に駆けずり回っても非効率的だ。索敵能力に関して言えば二人共特段優れているわけでもない。通行人全員に聞き回ればすぐ見つかるかもしれないが、そんなことしたら殺しに来ましたと知らせるようなもんだ。

 

「ブランク、ちょっとこっちこい」

「はい」

「お前はここでさっきの銃撃戦の現場を調べろ。で、まだ乾いてねー血液があればそれを採集しろ」

「了解です。先輩は?」

「30分周囲を探す。それ以上はあいつらもとどまんねーだろうからな」

「わかりました」

 

 ブランクとイルーゾォは二手に別れ、それぞれ痕跡を探した。イルーゾォもなるべく不自然でないようにあたりをくまなく探した。だが財宝を隠していられるような頑丈そうな店や民家、あるいは銀行などを回っているとすぐに30分たってしまった。

 港に戻るとブランクもがっくりした顔で首を振っていた。

「血は全部乾いちゃってました。ベイビィ・フェイスには使えないでしょうね…トラックの上に残っていた血痕、二人分ですが。片方はブチャラティのチームの男でしょう。血液型はB型、年齢はおそらく成人か少し下…男臭い男な感じがしますね」

「なんでそんなにわかるんだよ」

「血痕をベロベロなめればこれくらいわかります」

「お前……一番似てほしくないやつに似ちまったのか?メローネしかやらねえよそんなこと」

「あははは!なーんて、冗談ですよ。目撃したトラックの運転手から聞いたんです」

「テメーこんな時にふざけてんじゃねェーッ!」

 

 イルーゾォはブランクの右頬をぶん殴った。ブランクはチョコラータにやられた傷がまた開くのを感じた。ブランクが頬をさすりながら唸ってるとイルーゾォの携帯が鳴った。知らない番号だが局番から見るにさっきのボート小屋のおやじだ。

「ヨットがいたのか?」

『あ、いえ…その、先程の写真の船がですね、あったんですが…妙なんですよ!』

「は?結論だけ言え」

『港の桟橋のすぐ下に、沈んでるんです!バラバラになって』

「何…?すぐ行く、案内しろ。金は払う。……おいブランク!急いでさっきの港だ」

「はあ…」

 

 イルーゾォの姿を見つけると、ボート監視小屋の職員は大慌てで二人を桟橋まで案内した。人気の少ないボロっちい桟橋の下に、確かに妙な影がある。よく目を凝らすと、たしかに写真のものと同型のヨットだった。

「ブチャラティの野郎…。船を破壊しやがったか。もう別の手段で島を出たな」

「うわー…すごい。船をバラバラにぶっ壊せるスタンドなんて…やだなぁ。会いたくないっすね」

「この断面、やたら真っ直ぐだな。パワーにまかせてぶっ壊したって感じじゃない」

「一体どうしてこんなことになったんですかねぇ?これ、事故ってことになるんですかねぇ?さっき運ばれてった人のものなんですか?」

 職員も不思議そうにしていた。ふたりは顔を見合わせ、追加で金を払って口止めした。

 

 イルーゾォは一度現状をチャットで報告してから撃たれた男が搬送された病院へ向かった。ERにいるかと思いきや小さな病院なので普通のオペ室に寝かせられていた。そばに控えていた医師と看護師は締め落としてから、男の顔を確認する。

「ああ、高速船で乗ってった方だな。ローマ地区のやつだ」

「頭にガッツリ弾入っちゃってるのに生きてる。すげー…」

「聞き取りは無理か…無駄足だったな」

「いや、ちょっととりあえず触らせてください」

 ブランクはピクリとも動かない、いろんな管に繋がれている男の手に触れ、寝てるのをいいことに全身をベタベタ触り始めた。

「うわッ…やっぱりお前…」

「いや…意識がない人にはこうするしかないじゃないですか。カルテとか持ち物とかに名前書いてないですか?」

 イルーゾォは倒れてる医者の手元の書類を拾い上げてめくった。

「名前はあとでパソコンで確認できる。…お、こいつのじゃないけどどうやらもう一人救急車で担ぎ込まれてるやつがいるみたいだ」

「そっちも行きましょうか」

「そいつのスタンド能力はコピーできたか?」

「ええ。すげー強いですよ。でも脳みそ撃たれちゃな…意思疎通ができないのでこれ以上は…」

「よし。別を当たろう。こっちは名乗るくらいはできる見てーだな。ズッケェロって名だ」

 

 ズッケェロの方は普通の病室に入れられていた。ドアを開けると4つあるベットのうち一番奥に男が寝ていた。ひどく焦燥した様子で寝込んでおり目に包帯が巻かれていた。

「マリオ・ズッケェロか?」

 その言葉にズッケェロの肩がはねた。

「な、なんだ。誰だ?」

「組織のものだ。誰にやられた?目が見えないのか?」

「あ、ああ。なんで組織のやつがここにいるんだ?」

 ブランクはさり気なくズッケェロの手をとり看護師がやるみたいに血管を探すような仕草をして触れた。イルーゾォはわざとらしく親しげにズッケェロに話しかける。

「そりゃお前らと同じ理由だ。その様子じゃポルポの隠し財産はもうブチャラティたちの手に渡っちまったようだな」

「お前ら?ってことはサーレーは生きてるのか?」

「ああ。重体だがな。…で、お前はブチャラティたちの能力を見ただろ?怪我してるところ悪いがちょっと教えてくんねーか」

「あいつらを追っても無駄だ。もう財宝はねーだろうし…チーム6人と1人じゃ勝ち目は薄いぜ」

 イルーゾォは早くもイライラしだしたらしく同情気味の声色を捨て、いつもの調子で喋りだした。ブランクにはズッケェロの脈拍が上がってくのがわかった。

「グダグダ言ってんじゃねーよ。いいから教えろ。わかってる情報だけ端的に言え」

「な、なんだ…?お前ブチャラティに恨みでもあるのかよ?」

「ねーよ。ただこっちは急いでいるんだ。早く言わねーと優しく無くなっちまうかもな」

「お前、組織のもんじゃねーだろ」

「オレの言葉がわかんねーのか?」

 一気に空気が険悪な張り詰めたものになった。イルーゾォはズッケェロに繋がれている点滴を引き抜き目に突き刺した。

「イギッ…!」

「今目にぶっ刺したのは、どーせ使えねー目に対して期待すんのをやめさせたかったからだ。わかるか。また見えるかもっていう希望はよー、あんまりに残酷だからな。…とっととブチャラティたちの能力を言え。オレがまだ優しくいれるうちにな」

「ッ……うう!クソ!あんな噂信じてここに来るんじゃなかったぜ!言うよ、言うとも…!」

 

 

 

 

イルーゾォ :ブチャラティチームの能力がわかった

 

ブチャラティ…ジッパーを出現させ生物、物体問わず切開できる

アバッキオ…過去にあった出来事をスタンドでリプレイする

ジョルノ?…新入り?リストにない。ものを生き物に変えた

 

他のメンバーについては不明。ズッケェロ、サーレー両名のスタンドはブランクがコピーした。なおサーレーの方は拳銃使いにやられている。(グイード・ミスタか?)現場から血液は採取できず。

やつらは本島へ戻った模様。オレらも戻る

 

リゾット :港近辺での捜索をつづけよ。アシの確保を急ぐはずだ

 

イルーゾォ :わかった

 

 

 イルーゾォはネット回線のつながったホテルを取りチームと情報共有した。ギアッチョはペリーコロの部下を一人捕まえ尋問したが何も情報が出なかったらしい。

 リゾットはブチャラティ、ボス間での通信がないか監視しているらしいがボスが果たして直接指令をするかどうか。とにかくほとんど謎だらけだった。

 

「…でも、それにしてもだ。人探しはクソつまらんな」

「ですね。僕も先輩も罠っていうか、先に待ち構えて戦うタイプですしね」

「プロシュートたちもネアポリス近辺に着いたらしい。途中襲われたらしいが、ネアポリス地区の夢見るチンピラで親衛隊じゃなかったらしいぞ」

「は~それは相手が気の毒に…プロシュート兄貴の倒し方なんて不意打ちくらいしか思いつかないな」

「オレのマン・イン・ザ・ミラーなら勝てる。スタンド能力なんて関係ないからな」

「あと勝てるならギアッチョ先輩ですかね?」

「ああ。それか不老不死の究極生命体とかだな」

「それか吸血鬼?」

 

 聞き込みをするにしても深夜では誰も起きてない。朝早く起きるため二人はとっとと寝た。起きてすぐに港のそばのレンタカー店をまわり、盗難車がないか聞き込んだ。存外早くに盗難被害にあった市民を見つけられ、ナンバーを聞き出した。

 

 

 

 とぅるるるるるるん……

 

 

「はい、ブランクです」

『よお。ナランチャ見つけたぜ』

「ナランチャ…ああ。ちっちゃい子ですね。どこです?娘はいます?」

『ちょっと頭使えば港から一晩でいける町なんて限られてるだろーが。お前ら悠長にしてるからダメなんだよ。娘はいない。ナランチャ一人だ。今からとっ捕まえて尋問する』

「大丈夫ですか?」

「ホルマジオだろ。代われ」

 そこでイルーゾォがブランクの手から電話をもぎ取った。

「…ああ。はあ?そんな遠く?チッ…何だったんだよこの朝の苦労はよー…。……わかった」

 イルーゾォは電話を着るとまっすぐ道を進んで、人通りの少ない路地に止まってるワゴンの窓を割り鮮やかな手さばきでにエンジンを繋いだ。

「とっとと乗れ。行くぞ」

 

「なんか僕たち間抜けですね…」

「ああ。でも誰かがやらねぇとな…貧乏くじだぜ。お前疫病神かなんかなんじゃあねーのか。親衛隊にも追っかけられてるしよォ」

「親衛隊は撃破できたしいいじゃないですか。超前進!すごいですよね?」

「何人いるかもわかんねーから安心はできないだろ。そもそもヒットマンってのはしっぽ掴まれた時点で失格なんだが」

「僕の本業運転手だったんで…」

「じゃあ運転するか?おい」

「いーえ。先輩にお任せします」

 

イルーゾォの運転はビュンビュン他の車を追い越していく。彼の運転は荒っぽい。2年前車に乗せてもらったことをふと思い出していると、イルーゾォが口を開いた。

「ホルマジオがやられることは…まああるか。やられてた場合お前はあいつの死体からこっちにつながる物品を回収して燃やせ」

「…やられてる前提で話すのやめましょうよ」

「はぁ?だからテメーは甘ったれなんだって、オレは何回も何回も何ッ回も言ってるよな?なあ。裏切ったって事はいつ誰が死んでもおかしくねえ。それ前提で動くんだよ」

「まあデッドオアアライブなのはわかってます…けど…」

「オレはお前が死のうがホルマジオが死のうがボスの娘を奪還する。そしてボスを倒し、麻薬ルートを奪い、組織を乗っ取る!それが出来なきゃ殺されるんだよ。はじめからあとはねーんだ」

 

 ブランクにはまだあとがある。暗殺チームの人間を殺してボスの前に持っていけば自分の裏切りはなかったことになる。あとはチョコラータに殺されない限りはなんとでもなる。

 ブランクははじめから見抜いていた。ムーロロのゲームはボスを倒すことが最終目標なんじゃない。

 危険な賭けをして生き残ること。生き残って、なんてことはないゲームだったな!と世界を小馬鹿にしてやることが“勝利”なのだ。

 

 でもこの世界は、ゲームボードの上の駒である僕たちには違う。

 

「僕はお金も地位も興味ないな」

 

イルーゾォははあ?という目でブランクを睨んだ。

 

「…先輩たちには悪いですが、この二年間は楽しかったし、こういう毎日がずーっと終わらなく続くのも、そんなに絶望的じゃない。そうやって時間を茫漠とやり過ごすこともできるのに、どうして怒るんですか?」

「ハッ!20も超えてないガキがつまんねえ人生観語ってんじゃねぇよ」

「う…すみません」

「マンモーニ。どんだけナメた人生送ってたんだ?テメーが毎日をやり過ごせねえ程に怒ったことねーのは、テメーがボケっと生きてるからだろ。誇りとかクセーこと言うつもりはないが、そういう生きる支柱みてーなのが傷つけられた時に怒るんだよ。それがわかんねーってことはてめーは今まで誇りなんて感じたことなかったってことだ」

「……誇りですか」

「ねえなら探せ、空っぽ人間。珍しく自分語りしたと思ったらクソネガティブだったんだなお前」

「…なんか恥ずかしくなってきました。はじめからやり直しても?」

「恥ずかしいってなんだよ…巻き添えでこっちもそういう感じになるじゃねーか。クソッ!」

「ウオッ!アクセル踏み過ぎでは」

「飛ばさなきゃ逃がすかもしれねーからなッ」

 

 

 とぅるるるるるるん……

 

「はい、ブランクです」

『ブランク、オレだ。リゾットだ』

「あ、はい。…イルーゾォ先輩、リゾットさんから」

「スピーカーフォンにしろ」

 

「はい。聞こえますか」

『移動中か。ボスからブチャラティたちに指令が行った。いくつかパソコンを中継している。オレは中継点を当たる。お前たちはブチャラティたちが向かう場所へ行け』

「わかった。どこだ?」

『ポンペイだ。細かくは解析できてない』

「わかった、向かうぜ」

『何かを取りに行くよう指示されたようだ。それを回収しろ』

「おう」

 

 イルーゾォは電話を切ってしばらく行くと、ガソリンスタンドで突然車を止め、ブランクを蹴り出した。

 

「はぁっ?!イッテェーーー意味わからん」

「お前はホルマジオんとこへいけ」

「な…リゾットはお前たちって」

「現場の判断優先だ。それにポンペイじゃお前の狙撃はすぐ見破られる。なんもねー平地だしな。他のスタンドも大したもん持ってねーだろ」

「ホルマジオ先輩ならほっといて大丈夫ですよ!」

「あいつが無事ならとっくに連絡が来るだろ。それがねーのはそういうことだ」

「今一番やべーのはボスの娘を追っかけながら親衛隊だとかオレたちの命を狙うバカの邪魔が入ることだ。お前はホルマジオの尻拭いしてこい」

「でも…」

 

 

 イルーゾォはそれ以上聞かずに車を発進させた。ブランクは自分のパソコンを開きホルマジオから連絡がないか確かめた。何もない。

 ホルマジオのいる街までたった5キロだ。ブランクはガソリンスタンド店員が乗ってきたらしいバイクをちょろまかしヤケクソで走り出した。

 

 街についてすぐ、最悪の想定が現実に変わったことを悟った。消防車のランプが街の通りを照らしていて、規制線がはられていた。

 ブランクはそれを無視して一番焼け跡が激しい場所めがけて進んだ。

 制止してくる警官を突き飛ばし、布をかぶった人一人分くらいの塊にかけていく。ガソリンと焦げの匂いがする。かなりの火勢で燃えたらしい。

 布を少しめくると半分焼け焦げた見慣れた服の袖が見えた。

 

「…クソッ!」

「君…その人の身内か?」

「うるっせんだよ!はなしかけんじゃあねえ!!」

 

 ブランクは周囲を見渡した。破壊され黒焦げになった車には弾を撃ち込まれたような跡がある。地面にもいくつか、大きさの異なる穴だ。

 

「マシンガンか…?大きさが違うのは……そうか。先輩のリトル・フィートで縮んだのか」

 痕跡を見つけるために地面に這いつくばるブランクを警官は不気味がって遠巻きにしている。止めるか止めないか、地方ののほほんとした警官には決断できないのだろう。

「あらかた焼けてる…ナランチャの私物でもあればいいんだけど…」

 

 そういうものはなさそうだった。あってもきっと焼けてしまっている。焼けていないとしたら…

 ブランクは立上がり、またホルマジオの遺体へ歩み寄り、布を引っ剥がした。

 

「ちょっと…ッ!」

 声を上げた警官を今度はぶん殴った。

 

「だいぶ焼けてるが…死因はやっぱ弾…かな。どれ…」

 ブランクは息を止めてホルマジオの服を弄った。割れて壊れてるが携帯と、部屋の鍵を回収した。財布も半分焼けてて、こちらが処分するまでもないほど損傷している。鍵だけ回収し服をもとに戻す。

「ん…?」

 そこでホルマジオの口の中に何か、紙のようなものが入ってるのを見つけた。ブランクは数秒だけ悩み、皮膚が焼けて肉が剥き出しになった口をこじ開けた。歯だけがやたらとキラキラ真っ白く輝いていてなんだか冗談みたいだ。

 

喉の方まで突っ込まれたぐしゃぐしゃの紙を引っ張り出し、口を元どおり閉じ、慎重に広げる。

 

「これ…は…地図か?」

 

 半分焼けてるが間違いなく地図だった。ペンで印がつけてある。

 

「先輩…」

 

 ブランクは立上がり、遺体にまた布をかけた。

 そして怒り狂って突っ込んできた警官をもういちどぶん殴り、バイクにまたがる。

 

 

とぅるるるるるるん……

 

『ブランクか?』

「はい。リゾットさん、娘が今いる場所を突き止めました!あ、ホルマジオ先輩がなんですが…っていうかホルマジオ先輩殺されてました」

『そうか…』

「えと、先輩が地図を入手してました。僕はそこに向かいます。街から東南40キロのぶどう畑農家です」

『わかった。…イルーゾォはポンペイに着いたそうだ。お前も用心しろ。娘を奪還するのが不可能な場合決して目標を見失うな。今メローネがそっちへ向かってる』

「わかりました」

『無理はするな。お前の戦い方はスタンド使い複数相手に立ち回れるものではない』

「わかってます。わかってますが…」

『絶対に見失うな』

 

 

 ブランクはフルスロットルで畑を駆け抜ける。死体のことなど考えないようにして。

 

 


 

「ふうん…ティッツァーノとスクアーロ、舐めてかかったようだな」

 

 ホルマジオが潜伏していた小さな街、そこの死体安置所でチョコラータはつぶやく。死体安置所には生きてる人間が一人もいないから自分のスタンドはほとんど役に立たない。だが少なくとも居心地は良い。

 

 蛍光灯が切れ掛かってるし冷房も切れかけてる寝心地の悪そうな死体安置所。二人もこんな場所で徐々に腐ってくハメになるとは思ってもなかっただろう。

 

「で、お前はこの二人の死体を回収してどこに持ってくつもりだったんだ?」

 チョコラータは上半身だけになった黒服の男を蹴り飛ばした。返事もうめき声もなく妙に思い、足でそれを裏返す。すると舌を噛み切って自殺していた。

「まったく。この根性のなさ…誰かに頼まれた下っ端にしても構成員の劣化はここ二年でずいぶん進んでしまったようだな…さて」

 

 チョコラータは死体をそのままにして出ていく。青空は高く、風は爽やかだ。そんなの特にどうってことも思わないが…。

 

とぅるるるるるるん……

 

「チョコラータ」

『もしもし。ドッピオです。今どこにいるんですか?』

「どこだっていい。仕事なら言われたところに向かう」

『今、何をしてるんですか?』

「何だっていいだろ」

『……あなたがしてる事はボスへの背信行為とみられても仕方がないですよ』

「そうか?心外だな。ブランクよりは忠実だよ」

『ブランク?どうして急に彼の名を』

「あのガキは裏切ってる。リゾットを殺そうともせず他のメンバーといきいき戦ってるようだよ」

『なぜあなたがそれを?』

「わたしは彼とよく会っていたからね」

『なぜそれをぼくに言わなかったんですか』

「言う必要がないからだよ。…ドッピオ、なぜブランクと接触するのをずっと避けてたんだ?あいつ、明らかに二年前と変わったが」

『………』

 

 チョコラータは内心でこの反応に満足していた。ドッピオがブランクと会うのを拒む理由がわかりかけてきた。

「あいつなんかに仕事を任せるのはやめたほうがいいと思う。どうだろう。暗殺チームはわたしが殺すというのは」

『だめだ。チョコラータ、あんたの能力は封印しろとボスから指示されてるはずだ!』

「じゃあボスに問い合わせておいてくれ。…わたしの勘だとすぐにオッケーするさ。ボスならね」

『…………わかった。また、連絡する』

 

 

 

 

 


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