【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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ベイビィ・フェイス:フィレンツェ行き特急

 ブランクはメローネの背中にもたれ眠り込んでいた。だがけたたましい着信音とメローネの呼び声で目を覚ました。

「おい。おいブランク。電話出てくれないか」

「あ…はい……」

 携帯電話の着信音が聞こえる。メローネは運転中で出られないためブランクはメローネの体を弄り携帯を探した。

「バッ…お前!セクハラだぞ。携帯ッつったら普通ケツポケットか胸ポケットだろ」

「だって先輩の服普通じゃないから…あ、ありました。出ちゃっても?」

「頼む」

 ブランクはスピーカーフォンにしてから電話に出る。

「はい。…もしもし、ブランクです」

『プロシュートだ。ブランク、お前よく生きてたな』

「プロシュート兄貴ぃ…!」

『今ブチャラティたちが乗り込んだと思われる電車に乗った。姿は捜索中だ。6番線.35分発のフィレンツェ行き特急だ。ここでケリをつける。いいな』

「流石です兄貴!」

『お前たちはとにかく列車を追いかけろ、いいな』

「ブランク、受話器俺の口に当ててくれ。おいプロシュート?オレとブランクはもう駅だ。次の特急に乗り、ナランチャの血液からジュニアを作り追跡させる」

『作っても無駄かもしれないぜ。今からザ・グレイトフル・デッドを使う。逃れられるわけがない』

「娘が手に入るなら何でもいいさ。では」

 ブランクは電話を切って元の場所(メローネの尻ポケット)に電話をしまった。

「ネアポリス駅についたらダッシュだ」

「了解」

 

 


 

 ローマ行き特急の個室は乗ってる時間に対してフィレンツェ行きと比べるとやや割高だ。だがそれでも一般客室なんかよりもよっぽど快適で、何より横に他人が座らないのがいい。

 

「はあ…」

 

 女はタバコを吸いながらイライラして時計を見た。出発時刻ぴったりにでてくれないと取引先とのディナーに遅刻してしまう。

 

「糞交通会社…早くしろっての」

 

 まだ長いタバコを灰皿で押し消すと、ふいに声をかけられた。

「君、健康状態は?」

「………えっ?」

 

 いつの間にか対面の座席に男が座っていた。奇妙なマスクをつけた気味の悪い男が。背筋に悪寒が走った。身の危険を感じ、体をのけぞらせ窓際にへばりつく。

 

「あ、あんた…いつの間に入ってきたのよ。鍵、かかってなかった…?」

「良好ですか?なにか生年月日を書いてあるものは…と」

 男は無遠慮に荷物をあさり財布の中から運転免許証を出した。

「ちょ、ちょっと!やめなさいよ!」

「1970年2月2日生まれ。31歳か。適齢期から考えると少し高齢だがまあいいだろう。ちょっと失礼」

「ヒィイ?!」

 男はついさっきまで女が吸っていたタバコをとって、フィルター部分をぺろりとなめた。

「血液型はB型。タバコも重いのを吸ってるな。ディ・モールト!非常にいい!酒やドラッグはやってるか?やってるともっといいんだが…」

「な、何?!あんたなんなの?!け、警察に訴えるわよ」

「シィー…ちょっと黙って、質問に答えてくれないか?これが最も大事な質問なんだ。君はどれが好みなのかな。何事も楽しまなきゃいけない。重要なのは()()()()なんだ。1500年前のインドの『カーマスートラ』という本には48以上の“仕方”が載ってるそうだ。立派な〝子供〟を産むための始まりには、とってもとっても重要なことだもんな…」

男はパソコンのディスプレイを広げ、女に画面に映る表を見せた。

 

 そこには一面、細かく違うキスの方法の図が並んでいた。

 

「ヒィ……い、いやぁーーーーッ!」

 

 


 

 

「本当に先輩の能力ってどうかと思います」

 ブランクはメローネが客席に帰ってくるなり言った。だがメローネは全然気にしてなさそうだった。

 

「ああ?だがこれほど強い能力もないだろ?ジュニアがやられてもオレにダメージはない。むしろ大変なのは産むことなんかより"いい子"に育てる事だ。教育っていうのは本当に本ッ当に大切なんだからな」

 

 そう言ってメローネは情操教育セットを取り出し出産に備えた。ブランクは向かいの席で窓にぐったりもたれかかりそれを眺めた。

 目が潰れてしまったせいか体が熱っぽい。メローネが女性を襲ってる間に水と解熱剤を買い込み飲みまくったがそう簡単に体は回復しなさそうだ。

「僕…ちょっと寝ていいですか?」

「ああ、勝手にしろ」

 

 

 ブランクはすぐに眠りに落ちた。

 そして夢を見た。

 

 

 

砂漠で、誰かと手を繋いで歩いてる

まっすぐなのか曲がりくねってるのか、砂しかないからわからなかった

手の主を見上げると、まだ16歳くらいの色素の薄い髪をした青年がいた

目の下に入れ墨があって、肩にはライフルをかけている

何かを僕に話しかけてるけど、言葉が違うからわからない

僕は自分の手をすっぽり包んでいる手のひらをずっと指先で触ってた

タコのできた硬い手だ

僕が知ってるどの手とも違う感触をしていた

僕が知ってるのは恐怖に凍える手のひらだけだった

 

冷たい鉄のドアと岩、乾いた冷気

砂漠は真逆だ

 

僕はきっと、嬉しかった

師匠と手を繋いで、道のない砂の海をさまようのが

言葉を教えてもらうのが

言われたとおりにやって、褒められることが

選んでくれたことが

 

本当に嬉しかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 蜃気楼に包まれてるみたいなふわふわした心地だ。ブランクは寝返りを打とうとして、ここが列車の座席だったことに気づき思いとどまった。

 意識が少し現実に戻ってくると、メローネの声が聞こえた。

 

「こらこらジュニア、その子は殺しちゃいけないぞ。あくまで予行演習だからな。……うんうん、偉いぞ」

「え…?何…ジュニア?産まれたんですか」

 ブランクは半分寝ぼけながら質問する。すると

「おっとブランク、慎重に動けよ。今ちょっとお前で練習してたから…もしかしたら()()()()()()やってるかもしれない」

「は?…え?練習?何?」

 

 ブランクには言ってる意味が全然わからず困惑した。メローネの忠告に従いゆっくり起き上がると、ベイビィ・フェイスから生まれたらしいスタンドがメローネの足元からこちらをじっと見ていてギョッとする。

 そんなブランクを見てメローネは拍手をした。

 

「おお〜ちゃんと生きてるな!じゃじゃーん!なんとお前は一度テーブルに組み替えられてたんだよ!だがこの通り生還だ!偉いぞベイビィ・フェイス。今回のジュニアは優秀だ!」

 

「シンプルに殺意を感じる」

 

 ブランクは唖然としながらジュニアを褒めまくるメローネを見た。めちゃくちゃ嬉しそうだ。

 

「よし、トリッシュはこんなふうに、絶対に生かして連れてこなくっちゃあいけないからな。これで本番もバッチリだろう。精密性Bってところだな」

 

 ジュニアも過剰に褒められてニヤッと笑っている。幸せな親子みたいだが、ブランクは自分が過去最高の命の危機に瀕していた事にゾッとして全然微笑ましい気持ちになれない。

 

「本気で…本気ですか?え?僕たちって仲間ですよね?」

「ああ。だがお前は拳銃使いなんかに目を潰されて負けた。はっきり言って戦力外だろう?だったらオレの荷物持ちに降格だ」

「なっ!バカ言わないでください。僕はまだ……戦えますよ。両手をもがれたわけじゃない!」

 

 ジュニアは褒められたあと、また何か別の物質に自らを組み替え、視認が不可能になった。こうなるとメローネのベイビィ・フェイス本体でしか意思疎通ができない。

 

 

「じゃあなんで負けた?」

「それは…」

「簡単な話だ。お前は暗殺者ではなく狙撃手として戦ったからだ。自分の十八番を使うのはいい。だがナランチャを即死させず、スタンドの能力を考察するすきを与え、最後の最後で胆力で負けた」

「ッ…確かにナランチャを目印に使うべきではありませんでした。いえ、もっと言うなら先に見えていたグイード・ミスタを殺すべきでした」

 

 ブランクは右目が痛むのを感じた。

 慚愧に耐えないという言葉が頭に浮かんだ。そう、自分は今、自分の行動を恥じている。

 

 あの襲撃はスタンド使いの戦いとしては二流以下だった。狙撃手として師匠から学んだ知識と技術はあくまでも"狙撃手として"の戦い方だった。射撃衛星としてのスタンドは銃のアタッチメントにすぎないと。

 だが結果的にその考え方は左半身のやけどを招き、やけどのせいで仕留められる時に獲物を仕留め損ね、右目まで失う結果を招いた。

 

 

「ホルマジオは2年間お前に何を教えたんだか。やっぱり“教育者”としてならオレの方が優秀かもな」

「ッ…先輩は…悪くないです。僕が愚かで弱かった。…それだけの、話なんだ!」

 

 ブランクはメローネがくれたマスクを剥がし、目に当ててたガーゼを剥がした。ミネラルウォーターをかけて乾いた血を落としもう一度マスクを巻き直す。

 そして黙々と分解したスナイパーライフルの整備を始める。

 

「…フン」

 メローネは拗ねた子供を見るようにブランクを一瞥し、ベイビィ・フェイスに表示されるジュニアとのチャット欄へ目をやった。

 メローネはずっとカタカタやってジュニアとやり取りしていた。ジュニアはいうなれば受肉したスタンドなので一般人にも見える物質だ。

 ブチャラティたちの乗る時速150キロで走行する列車に追い付けるはずもないので今は車内のどこかでスタンバイ中だ。

 

 

「……僕どれくらい寝てたんですか?」

「30分ほどだな」

「たったそんだけか…」

「ああ」

「……メローネ先輩って全然僕に興味ないっすよね…」

「え?いや、あるぞ。お前の身長体重、取れるときは食事のデータもちゃんと記録してある。ジュニアはたいてい成長期になる前に消滅させるから、それくらいの時期の子供はあまり観察できないしな」

「え…うそ…ひく…」

 絡んでくるブランクにメローネは面倒くさそうな表情をした。

 

「なんだ?暇なのか?しょうがないな、ほら、一冊貸してやるよ」

 メローネはジュニアの教育に使った絵本の一冊をブランクに渡した。ブランクはとりあえず受け取る。『ちきゅうのどうぶつ アフリカへん』だ。

 

「わー…動物さんの絵本だ…」

「役立たずになったブランクくんはどの動物さんが好きかなー。ブランクくんにはライオンさんと違って牙も爪もないけどどうやって標的を殺せばいいのかなぁ?」

「うっ…ぐす…ホルマジオ先輩に会いたい!昨日今日で目も耳も失くした!そのうえこんな先輩のカバン持ちになるなんて殺されたほうがマシだァーーッ!」

 ブランクは絵本を床に叩きつけて座席に寝っ転がってジタバタした。メローネは更にめんどくさそうに窓枠に肘を突き、暴れるブランクを見た。

 

「ったく…やかましいな。話したいなら勝手に話せばいいだろう」

 ブランクはジタバタをやめるとメローネからそっぽを向いて話し始めた。

 

「メローネ先輩はホルマジオ先輩とイルーゾォ先輩がやられてなんとも思わないんですか」

「はあ?そりゃ思うだろ。お前より付き合い長いんだからな。だが泣くのも喚くのもボスの全てを奪ったあとでだ」

「……もしできなかったら死ぬだけ、ですか」

「ああ」

 

 ブランクはついさっき見た夢を思い出し、ぽつりと独り言のように呟いた。

 

「…僕の師匠は、何が何でも生き残れと言ってました」

「師匠ってマンハッタン・トランスファーの本体か?」

「はい。師匠は復讐のために僕を連れ回してました。復讐は、生き延びてこそ復讐です。だから必ず生き残れるよう立ち回れと」

「へぇー…」

「でも僕には復讐すべき相手なんていませんでした。だから言われるがままに師匠の言うことを聞いてました。復讐がなんなのか僕にはどうでも良かったんですが、師匠のためにはなりたかったし」

「ふーん…」

「でも今日…急にいろいろ感じました。いや、二年前から今日まで、感じていることに気づいてなかったんです。僕は…」

「おっ!ジュニアがブチャラティたちの列車を捉えたぞ」

「えぇ…うそ……この人ぜんっぜん聞いてなかったの…?」

「速度が落ちて追いつけると判断したな。列車はじき停止する。行け、必ずトリッシュを捕らえろ」

 

 バシッと音を立てて窓があいた。ジュニアが出て行ったんだろう。ジュニアが乗っていくのは競技用のラジコンヘリだ。

 ラジコンとはいえ最高時速は150キロを超える超ハイエンドな機体だ。だが長距離飛行には耐えられない。故に今、最後の追い込みで最大の成果を得られる乗り物だ。

 

 

「あ、悪いな。続けていいぞ」

「いや…いいです…もう…」

 

 ブランクは頭を振って気持ちを切り替えた。そして自分のズボンのポケットからカプリ島でコピーした『ソフト・マシーン』で空気を抜いて折りたたんでいたメローネのバイクを取り出した。

 

「僕がまだ戦えるって証明しますよ」

 


 

 

 ジョルノは朦朧とした意識の中、天井から聞こえてくる音を聞いた。

 

 

 ブチャラティが戦っている。老化した身体は重すぎる。どう頑張っても指先を動かすのがやっとだ。

 ガシャン、となにか金属製のものが落ちる音が聞こえた。

 

「何…?」

 

 トリッシュの声がした。

 声の方を見ると、そこには誰もいなかった。

 ジョルノはそれが見間違いかと思った。だが確かに、トリッシュが消えた。外に出たのか?まさかとは思うが…

 

 いや、違う。そんなはずがない。まだ列車の振動が亀越しに感じられる。釣り竿の男が亀を奪ったとかそういうのじゃあない。天井は変わらず運転席のままだ。

 

「ま、さか…」

 

 

 

 

 

 

 今にも夜闇に消えそうな黄昏の中、二人の男が対峙している。損耗したブローノ・ブチャラティ。そしてビーチ・ボーイを携えたペッシだ。

 

 

「なぜさっきお前の心臓の動きを見失ったのか…わからねーが……全てはオレがオメーに兄貴への償いをさせる事でオレたちの『任務』は終了するッ!」

 

 ペッシは顔の前にビーチ・ボーイを構えた。ブチャラティの老化は緩やかになっている。しかし足から突如血が吹き出した。

「今の攻撃、よく“見切れた”な」

 

「こいつには小細工は通用しねぇ」

 

 ブチャラティが呟く。同時にまた老化のスピードが上がった。

 

「栄光は………おまえに…ある………ぞ。ペッシ。やれ、やるんだ…オレはお前を見守ってる…からな…」

 

 列車の車輪の隙間で息も絶え絶えのプロシュートがペッシに向かって小さく、弱々しく語りかけていた。それが聞こえているかのように、ペッシが再度ビーチ・ボーイを振りかぶる。

「兄貴が逝っちまう前に、兄貴の目の前でよオオーーッ!償いはさせるぜェエエエ!」

 

 ブチャラティはまっすぐペッシに向かって走っていった。腕でガードし突っ込んでくるがペッシはまっすぐ、腕から胴へ経由することなく心臓へ向かった。

 

「思ってたぜ!お前が突っ込んてくるっていうのはなァ!」

 

「ああ…()()()()()。お前がまっすぐ心臓へ針を投げてくるのを」

 

 ブチャラティは落ち着いた声で返した。

「スティッキー・フィンガーズ!」

 そして自身に延びた糸を瞬時に、ペッシの首に巻きつける。だがそのとき、銃声が聞こえた。

 

 「な………に…?」

 

 弾はどこにも当たらなかった。だが音が聞こえたときにはペッシの首に巻き付いたはずの糸は、別の釣り針で巻き上げられていた。

 

 

「これは…まさか…」

 

 バイクの音が聞こえた。ペッシの背後からバイクが土煙を上げて走ってくる。後部座席に座った男が後ろからハンドルを支え、運転席に座る人物がペッシの持っているのとほとんどおなじデザインの釣り竿を持っていた。

 肩からスナイパーライフルをぶら下げていて、銃身が後ろの男にガンガンあたっている。

 

 

「ブランク、ジュニアを回収した!あとはこのままぶっちぎるだけだ」

「ううう、酔うわこれ」

「つべこべ言ってんじゃあねぇ!娘を奪ったんだ!ここでしくじったらオレがお前をぶっ殺すからな!」

「わかって、ます…よッ!ちゃんと支えててくださいね!」

 少年は一気に釣り竿を引いた。

 糸がたなびく。釣り針がキリキリと音を立て、ペッシの首に巻き付いた糸を上に引っ張り解いた。

 釣り竿本体も引っ張られたせいでペッシの腕からもぎ取られ、ブチャラティの心臓に達した針とともに糸が消失する。

 

 

「ペッシ兄貴…()()()()()()()()()!」

 

 ハンドルを握った赤毛の少年が叫んだ。釣り竿はもう持っていない。

 そしてペッシ共々轢き殺すルートでバイクが突っ込んでくる。そのバイク前方に、見たことのあるトゲトゲした人形スタンドの影が見えた。

「あれはッ…!」

 ブチャラティが叫んだ。

 

 

「『ソフト・マシーン』!」 

 そのスタンドは右手のレイピアでペッシを突き刺した。そして少年の後ろに座っていた男が跳ね上がるペッシの体をひっつかむ。ペッシは萎み始め、ペラペラになっていく。

 

「クソッ…!」

 

 ライフルの弾は一キロは飛ぶ。あの少年はペッシのスタンドとそっくりの釣り竿のスタンドの針を弾にくくりつけ、むりやりこちらへ到達させたのだ。

 

 このままじゃ轢き殺される。

 ブチャラティは体をとっさにジッパーでバラバラにし、突撃してくるバイクをかわした。そしてバラバラになった腕を投げ、ペッシの上着からはみ出ていた亀を掴んだ。

 

「ぐっ…!敵は逃したが……なんとか亀は取り戻せたようだな」

 

 バイクは土煙を上げて遠くへ去っていく。ブチャラティは亀を抱き、中を見る。老化から目覚めた仲間たちが見えたが、肝心の人物が見えなかった。

 

 

「まさか………トリッシュを……奪われた、だと…?!」

 

 

 

 

 


 

「ギアッチョ!娘を手に入れた。お前車だな?今どこだ」

『マジかよ。さすがだなメローネ。あと5分でローマ駅につく』

「よし。そしたら…とにかくリゾットに指示を仰いどいてくれ!こっちはいろいろ手が離せない。駅より手前の田園地帯で拾ってくれ。15分もあれば着く」

『わかった』

 

 メローネは電話を切った。バイクは線路沿いのあぜ道から一般道へ戻り全速力で飛ばしている。

 

「メローネ先輩、見ました?目を潰されてなお光る機転、才覚。僕の才能はカバン持ちなんかじゃ終わらないですね」

「お前…あんま調子乗るんじゃあねえぞ。そもそもオレのベイビィ・フェイスが完璧に!最大の任務をこなしたのがメインだろ」

「おたくのジュニアくん、なんで亀ごと持ってこなかったんですか?」

「それは…教育のせいだな。“トリッシュを奪え”以外命令してないから放置してきたらしい。…能力を解除したら消去だな。教育失敗だ」

「なんか同情しちゃうなぁ」

 

 

 ブランクは軽口を叩きながらも、だが内心はとても動揺していた。

 左目で覗く世界は以前よりも遥かに狭かった。今回は届けばいいだけで標的に当てる必要はなかった。だが、それでも担いだライフルの重みだとか、支えるための筋肉だとかが全く違う。左半身のやけど、千切られた耳も全てが痛みにより不随意の動きを生む。

 

 僕はもう、今までのようには撃てない。

 

 足元が崩れ去るような喪失感が襲ってくる。加えて、プロシュートの死だ。さっきまではさすがにプロシュートまで死ぬわけがないという謎の楽観さがあったのだが、そんなの不安を紛らわせるための心の錯覚に他ならなかった。

 

 どうやら僕は…彼らを想定以上に大切に思っていたらしい。

 しかも僕は不安で、怯えてて…それでいて、クソ!手が震えてる。

 

 ブランクはこの震えを後ろに座ってるメローネに気づかれてないように祈った。

 

 ともあれボスの娘、トリッシュは生け捕りにした。落ち着いた場所についたらベイビィ・フェイスの能力を解いてラジコンから人間に戻せばいい。

 空気の抜けてしまったペッシも元に戻し、ギアッチョと態勢を建て直さなければ。残ったメンツをまとめられそうなのはリゾットしかいないが、リゾットは一体今、どこで何をしているのだろうか。

 

 

 

 

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