「オレだ」
『もしもし。リゾット、メローネが娘を奪った。プロシュートは死んだがペッシは無事だ』
「よくやった。オレはペリーコロの死体のそばに落ちてた紙の解析をしている」
『そんなの必要か?』
「ボスはブチャラティたちに娘を引き渡す手段を用意していたはずだ。娘が奪還される前にな。さらに都合のいいことに…ボスからの指令は一方通行だ。娘が奪われたと気づかずのこのこやってくる可能性も捨てきれない」
『わかった。とりあえずはメローネたちを拾ってフィレンツェに向かう。奴らが乗ってた列車の行き先だ』
「わかった。娘はブランクに尋問させろ。あいつならトリッシュからかなりの情報を引き出せるはずだ」
『あいつが?……わかった、リゾット。お前を信じよう』
リゾットは電話を切る。目の間のパソコンの画面では焼かれた写真の輪郭が浮かんでいる。そのパソコンの前に座る男は震える手でマウスをいじり、時にチラチラとリゾットを窺う。リゾットは遅々として進まない作業に苛立っていた。かれこれ14時間はたっている。
「早くしろ」
「ッ…リ、リゾット…こんなことしてなんになるんだ」
「もうお前の手に釘をさす場所がない。次はどこに刺されたいんだ」
「う、裏切り者には未来なんてない…!」
「そうだな。左目にしよう」
「ギィッ…!グ…う…うぅ」
左眼から血を流しうずくまるのは情報技術部員の男だった。ムーロロのチームのメンバーだった。もう一人のメンバーはリゾットから逃げ出そうとして口から大量のカミソリを吐き死んでしまった。こいつはそれを見て怯えて言うことを聞いたが、その恐怖も効力が薄れてきたのかもしれない。
ぎし、ぎし、と階段を登る音が聞こえた。男の肩がびくんと跳ねる。男の喉には大ぶりの断ち切りばさみが埋まっていた。それはゆっくりと開き、皮膚下から口腔を切り裂いて、舌の根元を切り落とした。
ドアが開いた。向こう立っているのはムーロロで、リゾットの姿と床に転がるチームメンバー、そしてたった今舌を切り取られ大量に出血したもう一人を見て固まった。
「リゾット……お前、オレの部下に何してんだ?」
「ムーロロ、久々だな。座れ」
「っていうか、どうして…」
「座れよ」
リゾットは有無を言わさぬ口調で事切れた男を蹴り飛ばし、パソコンの前の席を開けた。床に落ちた死体の口から血がばしゃばしゃと溢れ、ムーロロの靴を濡らした。
「……なんだこれ。焼けた写真の修復…か?」
「ペリーコロが持っていた写真だ。お前の部下は半日かけてこの調子だ。引き継げ」
「………構わねーが……仕事が遅いからってオレの部下を殺すのはよォ、裏切り者の烙印を押されたとはいえやりすぎじゃあないのか?お前たち暗殺チームに流した情報はこいつらがせこせこ解析したもんだってあるんだぜ」
「オレの動機がわからないのか?お前の部下を殺すような事をした覚えがないと。自分の胸に手を当ててみろ」
「な…ぐっ!」
信じがたいことに、ムーロロの頬を切り裂くようにして剃刀が何枚も皮膚のしたから出てきた。何をされたかわからなかった。ただ痛みにうなり手で頬を抑えた。リゾットはそれを見て冷たく言い放つ。
「殺しはしない。今はな。オレたちはボスを斃す。そのためにこの写真を復元しなくっちゃあならないんだ」
「わかった、わかったよッ…!」
ムーロロは作業に取り掛かった。だがパソコンの解析プログラムはとっくに組まれていて、今まさに猛烈に稼働中だった。待ちの時間。それ以上できることがなかった。
リゾットに説明してわかってもらえるだろうか。ムーロロは頭の中で必死に考えた。
いや、そもそも…なぜこいつがオレを殺そうとしているのかだ。まさかブランクが何かしくじったのか?
「解析は98%まで進んでる。ちょっと待つだけだ」
「そうか。ではいつものように雑談をしよう」
雑談?雑談だって?ムーロロはオール・アロング・ウォッチ・タワーを偵察へ出してしまったことを激しく後悔した。今ムーロロには自衛手段が一切ない。
「お前はよく麻薬取引ルートの話をしていたな。チームのもつ独自の仕入れルートや大麻の出処。合成施設の設備だとか」
「ああ。噂に過ぎねえって前置きしたよな?あそこは、ほとんど他のチームと接触がないから」
「ああ。だが全くないわけじゃあない。会おうと思えば会える。あっちも人間で、飯を食うし酒を飲むし買い物をする。そうだろう」
「…会ったのか?」
「いいや。そんな危険はおかせない。だがお前は会っていたな」
ムーロロはツバを飲み込む。
「オレがお前にまず聞くことは、なぜ麻薬の取引ルートなどと言う幻想をオレたちに信じ込ませたか。そして次に聞くのは、ブランクに何を命令しているのか、だ」
ぴろりん
コンピュータから場違いな明るいポップ音がした。
【復元完了】
リゾットはムーロロを押しのけ、表示されている写真を保存しギアッチョに送信した。
リゾット :写真の復元が完了した。場所はヴェネツィア、サンタ・ルツィア駅と思われる。この場所に向かい、隠されたものを回収せよ
ギアッチョ:了解。オレとペッシが回収に向かう。メローネがブチャラティたちの始末をつける。ブランクが娘を尋問中だ
リゾット :オレも今からヴェネツィアに向かう
「オレを殺すのか」
ムーロロの問にリゾットは答えなかった。
「ブランクも殺すつもりか?」
その問いにリゾットが答えようとしたとき、
コンコン
ドアがノックされた。
「………リプレイ完了」
アバッキオのムーディー・ブルースはペリーコロの自殺をリプレイしたあと、トリッシュが攫われる場面をリプレイし、再びもとの姿に戻った。
「トリッシュを…ラジコンの表面に組み替えた、のか?そんなのありかよォ!つーか生きてんのか?!それって!」
ミスタは混乱気味だがブチャラティは冷静だった。ナランチャはまだ千切れかけた腕のダメージと老化が激しかったせいもあり眠っている。
「敵は生け捕りが目的だ」
「ぼく達がいながら…すみません」
「いや、今回ばかりは敵の粘り勝ちだ。老化させるスタンド使いの最後の執念にしてやられた」
フーゴがぎゅっと拳を握りしめて言うが、ブチャラティはなおも冷静だった。
現在ブチャラティチームの六人は盗んだ車でトリッシュを追っている。
ジョルノがトリッシュのハンカチを小鳥に変えて追跡させているのだ。鳥はトリッシュの方へ羽ばたく。その方角を頼りにとにかく車を飛ばしていた。
「敵は生け捕りにしたあと彼女を無事に生かしておくとは限らないぜ」
アバッキオの言葉にブチャラティが頷く。
「当然だ。そして同時に、オレたちはボスからの指示どおりヴェネツィアのサンタ・ルツィア駅の翼の生えたライオン像へ行かねばならない。そこでチームを2つに分ける」
トリッシュ奪還チーム
ブチャラティ、アバッキオ、ジョルノ(亀の中にナランチャ)
ヴェネツィアチーム
ミスタ、フーゴ
「…まあ妥当な分け方だな」
「ええ」
ミスタとフーゴは頷きあった。敵が最も注意を払うのはこちらの追跡だ。こちらからヴェネツィアに行くのは気にもとめないだろう。
「ぼくのスタンドじゃあ万が一戦闘になってもトリッシュを巻き込むかもしれないからな」
「オレたちはオレたちで途中で車パクんねえとな〜そういうのお前のほうが得意だよな?」
「君はいろいろ雑なんだ」
「…おいジョルノ!鳥はどうだ?」
アバッキオが亀の天井に向け、車を運転しているジョルノに怒鳴った。ジョルノの顔が天井に大映しになる。
「今のところヴェネツィア方面に行こうとしています。変化はありません」
「ジョルノ、ぼくが運転をかわろう」
フーゴがジョルノに変わって運転席についた。中に入ったジョルノは壁際に立つ。
「…では一度敵の能力をおさらいしておこう」
ブチャラティはペンを取り出し、机に直接敵の情報を書き込んだ。
釣り竿のスタンド…体内に針を侵入させる。糸に攻撃してもこちらへ跳ね返る。一番厄介
トリッシュをさらったスタンド…生命を物質に組み替える。遠隔操作型?無機物に擬態可能
ソフト・マシーン…本体、ズッケェロはカプリ島の病院で治療中と確認。なのでスタンド本体は赤髪の少年?
赤髪の少年は釣り竿のスタンドも所持?またライフルを持っていることから狙撃手?
「狙撃手ならオレが仕留めたって言ってんじゃねーか!目ん玉にぶち込んだんだぜ?」
「でも死体を確認する時間はなかったんだろ。遠目に見た狙撃手はどんな格好だった」
「あ…赤毛の…やつ…」
「やっぱ仕損じてんじゃねーか」
アバッキオがツッコむとミスタはぐぬぬと黙り込む。
「弾丸を撃ち込まれても生き残るのは不思議じゃあない。現にミスタ、お前も生きてる。…それにどうやら、いくつものスタンド能力を有しているらしい。そのうちのどれかで致命傷を回避したのだろう」
「複数の能力を使いこなせんのか?そんなのありかよ?」
「ああ。釣り竿のスタンド…ビーチ・ボーイだったか。それとそっくりなスタンドをも使ってた事から、他人の能力をコピーする能力と考えるのが妥当だろう」
「どっちにしろ厄介だな。そのコピーするための条件ってのがわからんが、あまり接触したくはねえぜ」
「ああ。自分の能力を勝手に使われるのはいい気分じゃあねーからな」
「最も注意すべきなのは遠隔操作型とみられる物質を組み替えるスタンドだ。追手を暗殺するのにうってつけだからな」
「表面に張り付いたりもできるんだろ?見分けようがねーぜ」
「ジョルノのスタンドなら生物、無生物の見分けがつくな。組み替えられた物質は生命になるのだろうか?」
「それは…敵に触れないと確かなことは言えません」
「おい、テメーのスタンド能力だろうが」
アバッキオはジョルノに突っかかる。ブチャラティはそれを制しながら思案した。
「どっちにしろオレたちはすでに能力を知られている。不利なのは間違いない。その上で必ずトリッシュを奪還する…それがオレたちの任務だ」
そこで亀の外からフーゴの声が聞こえてきた。
「ブチャラティ!橋が見えてきました。鳥はヴェネツィア市街へ飛ぼうとしています」
「ああ、ではミスタとフーゴはここから別行動だ。それぞれ任務を遂行しろ」
ヴェネツィアの手前の街。貧乏な旅行者が泊まる裏通りの狭いホテル。
「あんな小娘を自白させるなんて…拷問したほうが早いだろ」
「北風と太陽ですよ、こーゆーのは。僕がやるのは…いうならばカウンセリングですよ。もしくはセッション。…この言い方すげーやだな」
「カウンセリングに行く女なんてろくなもんじゃあないぜ。そういう女は大抵健康じゃないし情緒が不安定で母体としてはイマイチなんだよ。カウンセリングなんかで救われるくらいなら、好きなだけ酒を飲んだほうがいい」
「なんかやな思い出でもあるんですか?」
「いいや」
「とにかく…ここに来る前の僕の得意分野なんですよ。女の子の悩みを聞くのは」
「ブチャラティたちはオレたちを追ってるはずだ。悠長なことをしてる暇はない」
「こう見えて僕、このやり方ですごいスタンド使いを発掘したことあるんですよ。まあ任せてくださいって」
ブランクはカチューシャ代わりのメガネを外し、借りているメローネのマスクもとり、更に上着も脱いだ。
そしてさっきまでとは全然違う顔つきでトリッシュが寝かされている部屋にはいっていく。
トリッシュが目を覚ますと。鼻いっぱいに嗅ぎ慣れない不快な臭いがした。例えるなら3日くらい換気してない生活臭というか、染み付いた人間の臭いというべきか。とにかく嫌な臭いだ。
体を起こすと自分はベッドに寝かされていて、その正面にある椅子に誰かが座っていた。
窓の外を車が通り、ヘッドライトで部屋が照らされた。
「やあトリッシュ」
「何…あんた誰なの?」
「僕はヴォート・ブランク。はじめまして」
そのブランクと名乗る人物は、うっとおしいほど伸びた赤毛の前髪の隙間から、澄んだ青い目でこちらをまっすぐ見ていた。右目は固く閉じられていて、目の周りに火傷の跡が見える。
自分と同い年くらいに見えるあどけなさだが、雰囲気はとても落ち着いていて、黙って考え事をしているときのブチャラティに少し似ていた。
でも線が細く、声もハスキーで女の子っぽかった。そう思ってみると女の子にも見えるし、柔和そうに微笑む顔はやっぱり年上の男の子にも見える。不思議な雰囲気だが、どこかで会ったことあるような安心感がわいてくる。
自分が攫われたのだというパニックに陥らなかったのは、多分目の前にいたのがブランクだったからだろう。
「ブ、ブチャラティたちは…ここはどこなの」
「僕たちはブチャラティから君をさらいました。場所は言えない」
「じゃああなたが裏切り者のチーム…なのね?私を殺しにきた…」
「まさか。殺すならとっくにそうしてるし、拷問するなら君を縛らずベッドに優しく寝かしたりしないよ。まあ慈善事業じゃあないんでね…安全な場所に逃がしてあげるとか、そういうわけじゃないんですが」
「………」
黙る。沈黙以外にどうしろって言うのか。ブランクは沈黙をまるで気にしてないように落ち着いた、音節を意識したトーンで話す。
「君はドナテラに似ているね、トリッシュ。怯えて伏目がちになるところも、頼りなさげな肩も」
「適当なことを言わないでくれる。母にあった事なんてないくせに」
「いいや、あるよ。今年の1月末に、僕はカラブリアの丘の上の病院でドナテラ・ウナと面会してる。その時君のことを聞いた」
「嘘よ」
「いいや。ほんとさ。ドナテラは僕に手を握らせてくれたんだ。僕が彼女の手を包み込むと、彼女は娘を思い出したと言ってくれた。…暖かくて優しい手だとね」
ブランクは自分の手を前に差し出した。指と指の隙間から、トリッシュと目があった。
「瞳は似ている。でも眉は、君のほうが意思が強そうだね。ドナテラも気丈な性格だったけど、僕があった時は君のことが心配で、不安そうだったよ」
「…本当に母と会ったの」
「さっきからそう言ってるじゃないか。トリッシュ。ドナテラはとても君を心配していた。彼女に触れたとき感じたのは、君の身を案ずる柔らかな肌と、骨まで凍りそうな不安だった」
「あたしも…いま凍えそうなくらい不安だわ」
「本当?」
「そうよ。不安で不安でたまらない!…ブチャラティたちがあんたたちにあんな目に殺されかけてるのを見たんだもの」
「そうかな。彼らの安否が心配なのはわかるけど…僕にはもっと、君が不安に思ってることがあるように思えるんだ」
「どうしてわかるのよ」
「僕はね…手に触れれば、その人のことがちょっぴりわかるんだ。トリッシュ、僕の手をとって」
「ど、どうしてよ…」
「僕は君の不安を分かち合いたいんだ。トリッシュ、君のことをとっても知りたいのさ」
怯えるトリッシュに近づくブランク。そっと伸びる指。振り払おうとするトリッシュの手首を掴み、そのまま指を絡める。
「やっぱり、僕のことが怖い?…目が潰れてるのは僕のせいじゃあない。ミスタってやつにやられてね」
「違う…急に私のことを知りたいなんて言うやつ、信用できないからよ。裏があるに決まってる」
手はブランクを拒否するように強張っている。だがその拒否が、肉体の反応が“理解”への第一歩なのだ。
「そうだね…でもそれで君を傷つけようってわけじゃない」
「嘘よ。あんたたちは罪のない列車の乗客を巻き添えにするような奴らだわ。私の命なんてなんとも思ってないに決まってる」
「それは、僕らには大義があるからさ。僕らはボスを倒すためになんだってする。…トリッシュ、君の父親だ」
「……私の父は……一体何者なの?ギャングのボスを殺すために、そんな事までするの?」
「…君をひと目見たときからわかってたよ。やはり君は…何も知らされないまま連れられてたんだね」
トリッシュは目を伏せた。一瞬だが絡んだ指の抵抗感が消える。ブランクは畳み掛ける。
「君はそれがとても不満だ。ブチャラティたちは守ってくれるけど、君になんにも教えてくれなかった。これから君が直面しなきゃいけない父親についても」
トリッシュの体が僅かに開いた。それを見逃さず、ブランクは自分の体をよりトリッシュに近づけ、手を固く握る。彼女の瞳を間近で観察し、その瞳孔の開き具合を、虹彩の輝きを見る。
「僕が全部教えてあげる。どうして追われてるのか、君の父親が何者なのか…君が何者なのか。だから」
トリッシュが息を呑んだ。眼が見開き、ブランクの左目に映る自分の顔を直視した。
「わかり合おう、深く深く。魂が剥き出しになるまで」
次の瞬間、
「きっ…気安くさわってんじゃあねえ!」
トリッシュは意を決してブランクの腹に思いっきり蹴りを叩き込んだ。ブランクは体勢を崩し、トリッシュを巻き込んでベッドに倒れ込む。
ブランクは苦しげな呼吸をしながら、こちらを見上げるトリッシュをまた真っ直ぐ見つめた。呼吸の割には表情を変えていない。
「その勇気はどこから来たのかな。怖ければ怖いほど勇気が湧いてくる質なのか。…レイプされるとでも思った?」
ブランクの雰囲気が急に変わった。自分を安心させるような空気じゃなくなって、まるでトリッシュの不安をそのまま模したみたいに暗く、冷たく、大きく見える。だがトリッシュはその怯えを知られたくなかった。
「ッ…私もあんたに押し倒されてわかった。あんた、女の子じゃない。女にレイプなんてされないわよ」
「それを確かめたいならさっきのキックは股間にするべきだったね。でももう動けないよ。君の手足は固定したから」
ブランクは動けなくなったトリッシュに覆い被さり、そのまましばらくトリッシュの息と脈を観察していた。
トリッシュの呼吸、脈拍は固定されていると言う異常な状況へのパニックの後、だんだんと落ち着いていく、雫からなる波紋のように。
「魂は、経験の積み重ねで形成されるのかな。もちろんそれは大きな要素だけど…でも肉という鋳型なしには魂は存在し得ないだろ。…僕は魂の鋳型ががわかるのさ。だから、誰にでもなれる」
トリッシュは鋭い眼差しでブランクを睨んでいる。ブランクはその瞳をじっと見据える。硝子のような目で。
ブランクはトリッシュの手をもう一度よく触り、揉み、残った左目でじっくり見た。指が手のシワを、皮膚を、筋肉をなぞるたびにブランクはトリッシュの反応を記憶する。
「君の…肉体の半分は、父親でできてる…だが……このかたち、
物音がして静かになって、そしてブランクが出てきた。
「お前、なかなか変態趣味だな」
メローネがそうからかうと、ブランクは反応せずにじっと虚空を見つめたままだった。猛烈に何かを考え込んでるように見える。
「…なんだ?おーい。…無視してるのか?」
だがそこでベイビィ・フェイスから連絡が入った。
ターゲットを発見しました。
「よし、ジュニアがナランチャを見つけたらしいぞ…一人一人確実に暗殺しろ」
了解
フーゴとミスタはヴェネツィア、サンタ・ルツィア駅へ辿り着いた。写真通りの景色が広がっている。二人はパクったバイクを降り、あたりをぐるりと見回した。敵の影はない。
深夜ということも相まって、物音がほとんどしないし、やけに冷え込む。
「とっとと回収しようぜ」
ミスタは像に近づき、フーゴを見た。
「……ミスタ、早く像を壊せよ」
「いや、銃打ったら敵に知られちまうかもしれねーだろ?お前のスタンドでやってくれよ」
「あのな…パープルヘイズは拳にカプセルがあるんだぞ。忘れてんのか?ここでぼくが拳で像をぶっ壊したら、太陽光もでてないんだ。無毒化するのに時間がかかる。忘れたのか?懇切丁寧に、危険が及ばないよう説明したのにもう忘れたのか?オイミスタッ!」
「わ、わかったから急にキレんなよ…おっかねー。蹴りとかもできねーのか」
「パープルヘイズは……あまり言うことを聞かない」
「はぁ…ったく。じゃあ素早くやるぜ」
ミスタは一発だけ像に打ち込んだ。像は脆く、すぐに崩れてしまう。おそらくディスクを埋め込むために急増されたものなのだろう。破片を取り除くと、赤い色のディスクが見えた。
「よし…じゃあとっとと戻ろうぜ」
と、ミスタがディスクを取ろうとした瞬間
「なんだ、そんなとこに隠してあったのかよ」
釣り針が、ミスタの足元から飛んできた。