【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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夜明けまでの距離

「…マジでやばいな」

 ブランクは電話を切ってからぽつりと呟いた。それにメローネが反応する。

「ああ、やばいぞ。ジュニアがあのジョルノとかいう新入りに見つかった」

 メローネはかなり焦ってベイビィ・フェイスを弄っている。チャットの応酬が激しくて、ちらっと見ただけじゃジュニアからのメッセージが目でおえないくらいだ。

「今ジュニアはどこに?」

「ここから西50メートルの路上だ。やつらここをまっすぐ目指してきてる。現在車外で戦闘中」

「…リゾットさんからも指示が来ました。娘を連れてギアッチョと合流せよとのことです」

「よし、もう娘からは絞れるだけ絞ったんだろ?移動だな」

 ブランクは慌ててさっき脱いだ上着を着てライフルを担いだ。メローネもポケットからキーを取り出し、部屋のドアを開けた。

「娘は?」

「ソフト・マシーンで畳んであります」

 ブランクは自分の胸ポケットを叩いた。

 二人は走ってホテルから出てギアッチョの車に乗り込んだ。メローネはジュニアへの指示があるので運転はブランクだ。

 本当はブランクはギアッチョの私物に触ったら死ななきゃいけないのだが、今回ばかりは仕方がない。

「他人の高価い車運転するのって興奮する〜ッ」

「いいから早く出ろ。様子がおかしい…!あの新入り、一体…」

 

 


 

 

 ジョルノは助手席から飛び出したブチャラティと、腕をしっかり抱え込んだスタンドを見て即座にブレーキを踏んだ。車は激しくスリップしほとんど突っ込むように角のリストランテのテラスを破壊して止まった。

 

「ブチャラティッ!」

 ブチャラティは腕を失いつつも座席の上で蠢いている亀を抱え、車外へ脱出する。ジョルノも転がるように外に出て、すぐにブチャラティと背中合わせになって周囲を警戒する。

 

 鳥が車外からパタパタと飛び立った。それに一瞬気を取られたジョルノに向け、車の下からナイフが飛ぶ。

 ジョルノはすんでのところでゴールド・エクスペリエンスでそれを弾く。

 

「車の下か!」

 

 ブチャラティがジッパーで車を切開する。

 

いいや違うねッ!

 

 車ではなくぶちまけられたテーブルの一部が変化し、スティッキィ・フィンガーズの足を掴む。

 スティッキィ・フィンガーズは足を掴んだスタンドごと車へ向けて蹴り抜いた。車のドアフレームがスタンドの頭をかち割ったかに思えた。だが

 

無駄だぜッ

 

 スタンドはニタリと笑い、自ら分解して真っ二つになった頭部をブチャラティの脚ごと閉じた。

 

「チッ…!」

 ブチャラティは脚を切り離さざるを得なかった。

 敵は触れなければ分解できない。つまり触れられたそばから切り離せば一応は致命的ダメージは避けられる。だが結局こちらが損耗していくだけだ。

 

「ブチャラティ!」

 

 ブチャラティはジョルノへ亀を放おった。スタンドはブチャラティではなく亀を追おうと跳躍した。

「狙いはあくまで亀か!」

 ジョルノは無防備なスタンドの腹にゴールド・エクスペリエンスの拳を叩き込んだ。

 

学習不足みてぇーだな“ジョルノ”!

 

 スタンドは先程と同じようにジョルノの拳を咥え込んだ。だがジョルノは

「それはどうかな」

 と冷静に返した。

 

「君がトリッシュを連れ去ったときからずっと何かひっかかることがあった。生き物を物質に組み替える。…奇しくも僕と逆の能力だ」

 

何語って…んう…

 

 ジュニアは自分の異変に気づいた。腹の中で何かが蠢いている。ジョルノが“食わせた”拳くらいの大きさのものが暴れてる。

 

「物質に生命を与える。それがほくのゴールド・エクスペリエンスの能力」

ぐあァーーッ!

 

 “それ”はジュニアの首元を食い破り外へ飛び出してきた。

 

ピ、ピラニアッ!なぜ俺の中に…ま、まさか!てめー自分の拳を…ッ!クソッタレ!変えたんだな?!

「そして君の能力は僕にある大切なことを教えてくれた」

 

 ジョルノは切り離されたはずの拳をもう一度、仰け反りまともな防御のできないジュニアへ叩き込む。

 

「物質を自らの体のパーツに変えて補う!この拳はぼくのブローチだったものだ」

 

 ジュニアはボロ切れのようにふっ飛ばされて車の残骸に突っ込む。

 

「さあ、もたもたしている暇はない。鳥はついにトリッシュを見つけた!」

 

 ジョルノは問答無用でゴールド・エクスペリエンスで車の残骸にラッシュを叩き込む。

 

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!

 

 車は爆発炎上し、ブチャラティのそばの瓦礫が突如脚へ変わった。敵スタンドの能力が解けたらしい。亀の中を確認するとアバッキオとナランチャが床に倒れていた。

「ブチャラティ!腕は…すみません。スタンドと一緒に焼けてしまったようですね」

「いや、いい。オレの腕もお前の能力で作れるな?」

「ええ。時間はかかりますが」

「俺の腕を治し次第、ナランチャの吹っ飛んじまった腕の部品も作ってくれ。すぐ鳥を追うぞ」

「はい。鳥はここから…すぐ先の路上です!」

「走るぞジョルノ!」

 


 

 

「うわ、爆発?」

「クソッ!ジュニアがやられたッ!!」

 

 メローネは怒鳴りながら座席を蹴っ飛ばした。ブランクはエンジンをかけハンドルをぎゅっと握りしめる。

「こりゃフルスロットルですね」

 ブランクはがこがことシフトレバーをいじり、アクセルを踏んだ。

 

「追跡者は誰です?」

「ブチャラティと新入りのジョルノってやつだ。ジュニアから送られてきた情報から考えるに、新入りの能力は生き物を作り出す能力らしい。…ベイビィ・フェイスと逆だ。それを応用して自分の拳を作ったようだ」

「えーすごい便利。僕の目も作れるのかな?コピーさせて欲しいなぁ…」

「呑気なこと言ってんじゃねーよ!結局一人も殺せなかったんだぞ」

「それは僕じゃなくて先輩のミスですよ」

「はァ?!いやそーだが、そうだな…。クソ…やはり母親ってのは妥協しちゃあだめだな。あの女、明らかに健康状態が悪かった…教育する時間もあまりなかったし…」

「世話の焼ける息子ですね」

 ブランクはぶつくさ言うメローネを無視してリベルタ橋へハンドルを切った。

 直線、あとは飛ばしてヴェネツィアに入るだけ。という時にブランクのスーツに糞が落ちてきた。そしてすぐにその糞の落とし主が半ばぶつかるようにしてオープンカーの中に飛んできてブランクの肩によじ登ってとまった。

「えーっ?!どんな確率だよ。飛んでる燕のフンが?当たるか?!なんかディズニープリンセスみたい!」

「は?()だって?燕が夜に飛べるかよ」

 

 ブランクが腕を振り回しても風に負けずに燕はまとわりついてくる。メローネはジョルノの能力を思い出した。

 

 ()()()()()()()()()

 

「こいつは敵だッ!」

 

 メローネは燕を叩き潰そうとした。ブランクの肩と挟むように手を振り下ろす。

 燕の脆い体はひとたまりもないかに思えた。だが手のひらにグニャっという柔らかい感触がした途端、全身に痛みが走った。

 

「うッ…!」

「メローネ?!」

 

 全身を上から叩き潰されるような痛みだった。思わず蹲るメローネにブランクはぎょっとする。

 

「こ、この燕…ダメージを()()しやがった…!」

「ちょこざいな!」

 

 ブランクはつぶやく。

 

「何を探知して追ってるんだ…?やはりトリッシュか」

「仕方ないですね。一度ソフト・マシーンを解除します。先輩、運転できますか」

「ああ。かなり食らったがそれくらい…」

 

 ブランクはメローネと運転をかわり、後部座席にトリッシュを広げ、ソフトマシーンを解除する。

 元に戻ったトリッシュにとまる燕をすかさず掴み、グリーン・デイを直に食らわせる。肉食カビはあっという間に燕の体を食い散らかした。

 

「…いる」

 

 そしてブランクは暗闇に目を凝らす。微かに聞こえるプロペラ音はこちらとほぼ同じ速度で後方約150メートルを移動中。

 ブランクはライフルのスコープだけ取り出して覗いた。左目で見るスコープの景色はずいぶん違う気がした。

 

「敵はおよそ200メートル後ろ…ナランチャのエアロスミスの射程は50メートル…距離を詰められたら面倒です」

「しぶといな。オレたちの能力じゃ奴らはまけない!ギアッチョたちを呼び出すぞ」

「ええ。あっちもつつがなければいいんですが、ねっと…」

 

 ブランクはライフルを組み立てた。右目は使えないためいつもと逆の左側で構え、後ろにかすかに見えるヘッドライトを狙った。夜闇に移動も相まって最悪のコンディションだが、今はできることをやるしかない。

 

「利き目をやられたのに撃てるのか?!」

「ジュニアなしのメローネ先輩よりはマシでしょ」

「急に言うようになったな…」

 

 道路は直線。車間およそ200メートル。今までの自分なら当てられなくもない状況だが、慣れない腕での射撃だ。

 

 スコープを左目で覗く。銃身を右手で支える。引き金を左手で引く。それだけの事なのに、クソ。ちぎれ飛んだ左耳が痛む。

 

 ブランクは撃った。乾いた銃声が夜闇に響くが当たった手応えがない。

 

「お…落ち着け…よく見るんだ、標的を…」

 

 ブランクは次弾を装填する。マンハッタン・トランスファーを飛ばすか悩んだ。だがいざというとき自衛の手段がなくなるのは致命的だ。

 つまり今、純粋に自分の射撃の腕が問われることになる。よりによってこんなボロボロの状態で!師匠はそういう言い訳を聞いてくれない人だった。

 

 もう一度スコープをじっと見る。揺れてぼやけてよく見えないが、たしかに車が一台ぶっ飛ばして追ってきてる。

 運転席にはブチャラティチームの顔写真のリストになかった人物が座っていた。

 

「ジョルノ…?お前がジョルノだったのか」

 

 直感でわかった。

 金髪の巻毛。ギリシャ彫刻のような顔立ち。彼とは以前たった一度だけ出会っている。たまたま手と手が触れ合ったスタンド使いの美少年だった。

 

「ギアッチョが電話に出ないぞッ!やっぱオレたちでどうにかする他ない」

 

 ブランクは以前やったようにビーチ・ボーイを弾にくくりつけ、車に着弾させだれでもいいから釣り上げようと思った。だが

 

「ビーチ・ボーイが()()()だと…!?」

「ペッシがやられたのか?クソッ」

「ギアッチョ先輩はしくじったんですか?」

「オレに聞いてもわかるわけ無いだろう。市内に入ったら面倒だぞ。タイヤとか撃てないのかよブランク!」

「今の僕にはこの遠距離は無理です。70…いや、50メートルくらいなら移動中でもなんとか当たる…と思う。でもそんな近距離に入ったらナランチャに蜂の巣にされる」

「それじゃあ…一か八かやるしかないだろう。どっちにしろスピードの出せない市内に入ったらオレたちは確実に捕捉される。相手は4人もいるんだぞ」

 

 メローネの言うことはもっともだった。だがブランクは躊躇う。自分にできるのか?目を潰されて火傷を負わされて、一度惨めに敗北した自分が…。

 しかも失敗したらメローネも自分も死ぬかもしれない。

 

「メローネ…でも…は、外すかも…」

「あー?じゃあオレにやれっていうのかお前は」

「だ、だって…全然ダメなんだ!さっきの射撃も…夕方も…今までの僕なら当てられたのにだめだったんだよ!」

「知るか。どっちにしろお前がやるしかない」

 ブランクの泣き言をメローネは一蹴した。

「…失敗しても怒らないでくださいね……」

「失敗したらその時はその時だ」

「じゃあ…僕だけ降ります。トリッシュと先輩は巻き込めない…」

「バカ。3()()車にいるから勝機があるんだよ。オレは勝ち目のない提案なんてしない。こういうときこそクールになれるのが大人の証なんだよ」

 

 

 メローネはブランクに命令した。合図をしたら急停車。そして撃つ。極めてシンプルな命令だった。

 

 ブランクは目を瞑り深呼吸した。相手はおそらく一気にナランチャのスタンドの射程距離まで詰めてくるはずだ。あっちも命懸けだから、猶予などない。

 

 

 ちょうど橋の分岐に差し掛かったとき、メローネは思い切りブレーキを踏んだ。

 

「……」

 

 

 ブランクは意識を風に集中させる。わずかに川上から風が吹いている。

 車は静止し、橋という骨組みを感じることができる。 

 メローネは運転席からこちらを見つめている。いつでもまたアクセルが踏めるように足は運転席に固定しつつも、シートは最大限に倒してある。

 

 トリッシュがブランクの膝の上で小さく喘いだ。こんな状況じゃなかったら役得なのだが、いまは無駄にこそばゆい。トリッシュの体は運転席から後部座席にかけて横たえてある。

 

 これで呼吸の点がほとんど3つ、並んでいることになる。

 ナランチャの二酸化炭素レーダーを誤魔化すために。

 

「……見えた」

 

 ブランクは4発連射する。勘に任せて。

 発砲音が頭に響く。弾は夜闇に吸い込まれていき、ナランチャのエアロ・スミスが車のすぐ真上を通った。

 

 バスンという音が聞こえた。

 

「メローネ、車を出せ!」

「ディ・モールトッ!いいぞッ」

 

 4発も撃って1発しか当たらなかった。だが1発はあたった。

 

 車がうなりを上げタイヤが橋をこすり、ゴムの焦げる臭いがした。ナランチャがとにかく撃ちまくる前に、運転席を見つける前に射程外へ逃げなければ。

 ブウンと空気を震わすプロペラの音がして頭上をエアロスミスが旋回した。

 ブランクはトリッシュを覆うようにして座席にしがみつく。

 

 

 エアロ・スミスからなにかが降ってきた。

 

 はて?と首を傾げる暇もなく、そのなにかは運転するメローネの首元に落ちた。

 そしてそれは鎌首を擡げ、牙を剥いた。

 

「う、おおォオオーーッ!!」

 

 ブランクは右手で蛇をひっつかんだ。頸が締められる感覚がするが、そんなの無視してグリーン・デイを発動させる。だが蛇はそのまま右手に噛み付いた。

「イッ…」

 蛇の毒がなんだかブランクはよくわからないが、とにかく、敵がただのシマヘビを落とすなんてまずあり得ない。

「ブランク!」

 メローネが叫ぶ。

「大丈夫!」

 ブランクはすぐに蛇に噛まれた部分を自らカビに喰わせた。肉がグズグズになって溶けていくのを感じる。だがこれで毒が回る前に右手の小指球(小指側の側面)の肉を削ぐことに成功した。

 

「うわーーッ?!グロいッ!」

 ブランクは自分の手を見て叫んだ。肉と腱の断面から骨がちょっと覗いてた。

「我慢しろ!敵は!」

「ジョルノ…絶対許さねェーーッ!また銃が撃ちにくくなるじゃあないか!なんなんだよ!クソッ!」

 ブランクはスコープで後方を確認した。

「ハザードランプだ。事故ったらしい!このまま行こう、メローネ」

「当然だ」

 

 メローネ、ブランクはトリッシュを有したままヴェネツィア入りに成功した。ブチャラティたちの車を攻撃している間にギアッチョから留守電が入っていた。

 どうやらバイクは失ったらしい。しかも川を泳いで市内に入ったらしいので、三人の集合は入り組んだ水路の橋の下だった。

 

 ギアッチョは川から上がるとスタンド能力を解除した。当然髪はふわふわ、服も乾いてる。

 

「ほんとにちゃんとまいてんだろうな?」

「正直保証はできない。なるべく移動を続けよう」

「ギアッチョ先輩、ペッシ兄貴は…」

「…死んだ。だがブツは回収した」

 ギアッチョがポケットから取り出したのはディスクだった。

 

 


 

 バイクの爆発炎上ごときでやられるホワイト・アルバムではなかった。だが炎を消すには川へ飛び込まねばならなかった。

 川から顔を出し、敵の位置を確認する。フーゴはもう死に体でミスタの方の銃弾はガード可能だ。

 

 それよりもー…

 

 ギアッチョは遠くからライフルの音がしたのを聞いた。加えてメローネからの鬼電でケツがずっとバイブしてた。

 

 ミスタをぶっ殺すのが早いか、あいつらがブチャラティどもに捕まっちまうのが早いか…どう考えてもメローネが捕まるほうが早い。

 

 デコっぱちは使えねーしメローネは本体はほぼ無力。だとすれば自分が優先すべきはディスクの奪取、それ以外にない。

 

 ペッシが託したディスクを。

 あいつの死体を置き去りにして。クソ。目の前でックソ脆いカプセルに猛毒?アホかそんな能力!自分で食らって死にやがれ!!

 

 ギアッチョはキレ散らかしたくなる激情を冷やし、再び川へ潜りそこから撤退した。

 


 

「リゾットからの連絡はどうなってんだ?」

「ない」

「チッ…あいつまでなにかトラブルかよ。この3人だけで娘をどうにかするってのは一番避けたかったぜ。メローネ、もうジュニアは作れねーのか?」

「午前四時のヴェネツィアの路上にいい母親がいると思うか?」

 

 メローネとギアッチョはずんずんと街を歩いてく。ブランクは無言であとをついていった。

 

 

 ペッシが死んだ。

 

 ギアッチョは言葉少なかった。そのせいで全然実感がわかなかった。今日一日でチームの半数が殺されたことになる。

 

 そして…何より自分の命も風前の灯だ。

 

 スパイがバレてムーロロが襲撃された場合の指示は受けていない。

 この場合優先されるのは

 

すべてが失敗しそうになったら、暗殺チームの生き残りを殺してボスの前に首を持ってけ

 

になるのだろうか?

しかも今ならトリッシュもついてくる。と、なればボスももしかしたら僕を褒めてくれるかもしれない。

でも結局チョコラータは僕を殺したがってる。これは揺るぎない。

 

 

「でもよ…オレはやるぜ。もう降りれねえ。お前もだ。お前もオレもこのゲームに責任がある。途中で情に流されるなよ。だからお前にしっかり命令する。どうにもなんなくなったらチームの生き残りは必ず殺せ」

 

 

このままリゾットと合流すれば僕は殺される。リゾットが僕を生かしておく理由なんてあるだろうか。いや、あるはずがないのだ。

 

自分にはもう、本当に何もなくなってしまったのだ。

携帯電話を見た。1件だけ留守電メッセージが入っていた。

ブランクはそれを恐る恐る再生する。

 

 

 


 

 

「…もしもし。オレだ。ごめんなブランク」

「こんな形でゲームが終わっちまうなんてな」

「オレはゲームオーバーらしい」

「お、オレは“お前にもゲームに責任がある”って言ったよな?あ、あ、あれは忘れてくれ」

「逃げろ」

「お前は、ひ、ひとの望む形を…映すよな、鏡みてーに。オレ、お前を初めてみたとき……とき………あ、やれるなって、思ったんだよ。それってよォ…()()がなんかしたかっただけなんだよなァきっと…」

「あれ?なんの話、してんだ…っけ」

「いたい…」

「最後の命令だ。()()()

「ずっと遠い国で、師匠探す旅でもすりゃあいいんだ。ホントは、おまえはそーすべきだったんだ…」

「ブランク、逃げろ」

「逃げてくれ」

「…め…ん」

 

 

 

 

 

 

「…だって。聞いてたかブランク?お前にも見せてやりたいッ…この顔!この、劇的な瞬間…あ〜〜〜これを聞いてるお前の顔、絶対に撮りたかった!撮りてェーーぜ!なあ、どんな気持ちだ?お前はどうするんだ?これから。次会うとき、必ず聞かせてくれよ。それじゃあまたな!すぐ追いつくぞ」

 

 

 

 


 

 

「…………」

 

 

「…おい、ブランクゥ!キビキビ歩けよ!てめーはよォ〜オレは爆発に巻き込まれてんだぞ。なのにテメーよりキビキビ歩いてんだぜ。つーかよぉ、キビキビってなんだよ?何をどう観察してりゃそんな音が聞こえんだ?つーか音なのかこれは?ムカつくぜッ…超ムカつく!キビキビ歩けコラァーーッ!」

「…………」

「なんだ?様子が変だぞ」

「…………」

 ブランクの異変にまずメローネが気づき、ギアッチョがブランクの胸ぐらを掴み揺すぶった。

「もしもし?…聞こえてんのか?オイッ!」

「あー…ギアッチョ、ちょっと前歩いててくれるか?」

「あァ?!無視かよ!マジでムカつくヤツだなッ!」

 ギアッチョが手を上げかけたとき、携帯電話が鳴った。ギアッチョはすぐに電話に出た。

 メローネはブランクの顔を見る。顔面蒼白で目を見開き、機械的に歩き続けている足を見つめている。

 

「リゾットからだ。多少手間取ったらしいがもうヴェネツィアについた。場所もメモった。早速行こうぜ」

 

 ギアッチョは携帯をしまうとまっすぐ目的地に向かって歩き出した。

 だがブランクは立ち止まり、下を向いたまま動かなかった。メローネはそんなブランクを見て不審に思い、顎を掴んで無理やり前を向かせた。

 

「ブランク、急にバグってんじゃねえ。何があった?」

「……ムーロロさんが死んだ」

「何?なぜわかった」

「るすろく」

「…………そうか。あいつもこっちに踏み込みすぎたな。気の毒だがしょうがないだろう。オレたちももたもたしてたら同じ運命だ」

 

 ブランクは泣いてはいなかった。ただ、泣きそうな顔で何かを言いたげにしていた。

 

「なんだ?」

 

「僕は…逃げたくない」

 

「あ?だったら早く付いてこいよ。ほら!」

 メローネは苛つきながらブランクの腕を引っ張り引きずるようにしてギアッチョの後を追った。

ブランクの右手はまだ包帯から血がにじみ出ていて地面に点々と血痕を残している。メローネは舌打ちしてもう一枚自分のハンカチを巻いてやる。それでもブランクは茫然自失状態だった。

「あのな…恩人が死んでショックなのはわかる。だが腑抜けんのは死んでからにしろッ!」

 そこまで怒鳴っても、ブランクはメローネに引きずられるままに無言でついてくるだけだった。

 

 リゾットが指定したのは観光客用のゴンドラ乗り場だった。夜明け前には絶対人がこない場所。3人がそこにつくと、リゾットはまだ姿を見せてなかった。

 メローネはバッグからパソコンを取り出し、ディスクを見る準備をする。

 ブランクはその傍らに座り尽くしていた。

 

「ウジウジしやがって…初めて見るな。しょぼくれてるコイツは」

「こいつ昨日からウツ気味なんだよ」

「はぁ?なんだそれは。そんなことしてる場合じゃねーだろ〜がッ!」

 ギアッチョが背中を強く小突いてもブランクは項垂れるだけだった。頭をひっぱたいても同じだったのでギアッチョは今度は蹴り転がそうとしたら、さっきまで誰もいなかったはずのゴンドラのうち一槽にリゾットが乗っていた。

 

「リゾット…、その怪我どうしたんだ」

「ああ。手間取ったってのがそれだ。詳しくは後で話すとして…とりあえずあのボートに乗ろう。そしてディスクの中身を確かめる」

 

 ブランクはリゾットを見つめていた。酷く怯えた表情で。だが逃げるわけでもなく、むしろリゾットの方へ歩み寄っていった。

 

 

「………ブランク。お前、何故逃げなかったんだ」

 

 リゾットは傷だらけのブランクを見てたずねる。

 メローネとギアッチョには質問の意味がわからなかった。

 

ブランクは答える。

 

 

「僕は………僕は、僕は……逃げたくなかった。逃げたくない。でも……どうしてなのか、そのあとどうすればいいのか、わからないんです……」

 

 

 

 

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