ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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罪と罰②1999年1月~

 新入りを任されたホルマジオだが、少なくとも自分はイルーゾォよりは面倒見がいいと自負していた。というかイルーゾォがそういうのに向いてないので自分がやるしかないというのが実情だった。

 本部に行くと、ブランクは掃除をしていた。誰に言われたというわけではなさそうだが、異様に本格的な掃除用具を揃え、床にワックスがけしている。

 基本的に暗殺チームは定期報告会や仕事のブリーフィング、報酬に関する会議以外で集まる義務はない。故に本部にいつもいるのはリゾットくらいで、掃除も業者に任せられないためいつもどこか埃っぽかった。

 

「あっ!おはようございます」

「掃除なんてしても誰もお前を褒めちゃくんねーぞ」

「いえ!僕、ハウスダストアレルギーなので気になっちゃって…」

「そーかよ。…これ踏んでいいのか?」

「ああもう!どうぞ。僕のことなど気にせずに。ただとても臭いかもしれません。窓際にいるのを推奨します」

 

 ホルマジオは窓際の椅子に腰掛けた。ブランクはテキパキと掃除道具を片付け、ホルマジオのそばに立って気をつけをした。

「ヴォート・ブランクです。先輩、今日からよろしくお願いします」

「オレはホルマジオ。イルーゾォは今日バックレた。…で、今は特に依頼がねえしお前に今日教えられることはあんまねぇぞ」

「それなのにホルマジオ先輩は来てくれたんですか!自分感激ッス」

「リゾットの頼みだからな。そういえばあいつは?」

「僕と入れ違いで外出です。あ、なんか飲みます?」

「ミネラルウォーターくれ」

 ブランクは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しホルマジオに渡した。おそらく今ペッシがやってる備品の発注なんかもこいつが引き継ぐのだろう。

「そういえばなのですが今日昼頃メローネさんが来るそうです」

「あいつなんか用事あったか?」

「はい。僕の服を買ってくれるそうです。あとペッシさんも来るそうです」

「あいつらなんやかんやで新入り甘やかすんだからよぉーまったく。オレは厳しーぞ。少なくとも仕事面ではな」

「楽しみです!」

「お前はどんな能力を使うんだ?」

「僕ですか。僕はスタンドをコピーするスタンドを使います」

「は?コピー?」

「左様です。スタンド発動中の本体に触れることでコピーができるのです!しかもストックできるんですよ。最強!」

「ほぉー、そりゃなかなかピーキーだな」

 ホルマジオは昨日リゾットがブランクを「面白い」と言った理由がわかった。

「暗殺にはいいかもな。だがスタンド使い同士の戦いじゃ使いにくい」

「え?なんで?最強では?相手の能力コピーですよ。最強ですよね」

「いーや。お前やっぱ馬鹿なんだろ。相手がスタンド発動中に接触しなきゃなんねーっとことはよー、絶対相手の射程に入るってことじゃあねーか。しかもその場で相手の奪っても練度では勝てねーし」

「…あ!そっか。考えたこともなかったです」

「まあでもストックできるんだろ?だったらコピーする必要がない相手なら使えるし、つえーよ。今は何をコピーしてんだ?」

「えーっと…それは平時は秘密にしとけって言われました」

「はあ?オレはおめーの尻拭いしなきゃなんねーんだぞ?歯向かうんじゃねーよ。いざって時に泣いて縋ってきてもなぁーんもできねーじゃあねーか」

「うーん…たしかに…いや、でもなんかスタンド使いは能力を明かさない、と。すっげー言われたんすよね、リゾットさんに…なんででしょう?」

「…お前ってもしかして常識知らずなのか?」

「いや、そんな事はないはずなんですけどね。なぜかよくそう言われますね」

「秘密にすんならもう手遅れだぜ。オレ絶対スタンド出してるときにお前には触んねー」

「え?あ、そっか。あー。なるほど。もっともですね」

「だからって嘘をつくのはダメだ。それはオレたちチームに対する侮辱だからな。ただ自分の能力に関しちゃ本当のことを言う必要もねえ。わかるか?」

「はい。ええと…言葉遊びですか?」

 

 ホルマジオは呆れながらブランクに忠告した。

「いいか?自分がバカだって喧伝するのはやめろ。ナメられちまうぞ。もしわざとやってんならそれはそれでいいが、仲間内でナメられるってのはよくない。敵ならナメられても殺しちまえば終わりだがな、仲間はそうは行かない」

「僕は仲間になれないということですか」

「ちげーよ、なりたいなら対等を装え。今のお前は犬みてーだ。腹を見せて手の内を明かしてオレに気に入られようとしてるだろ」

「おお、そのとおりであります!さすがホルマジオ先輩!」

「だーかーら、その態度!その態度がムカつくんだよォーーッ」

「えぶっ」

 ホルマジオがぶん殴るとブランクは一応黙った。泣き出したりパニックになったりしなくて安心した。ちなみにペッシは最近まで殴られて泣いていた。

「僕、わっかんないんですよね、ラインが…手本がないと」

「ガリ勉だったのか?周り見てりゃーなんとなくわかんだろ」

「わかんないんですよ!僕…僕が友人と話してるところを知らないからかな。先輩、誰を手本にすべきでしょう?教えてください」

 そのなんだか奇妙な口ぶりにホルマジオは一瞬首を傾げたが、指摘してもわけわからん事になりそうなのでスルーした。

「ムーロロ?だったか。お前の世話んなったやつのマネすりゃいーんじゃねえの?」

「わかりました」

「いや、別に命令じゃねーけど」

 そんなこんなしていると、ドアが空いてペッシが一人で入ってきた。

「あ?なんか掃除してある?」

「おうペッシ。こっちの新入りは気が利くぜ」

「オレはそんなのやろうと思わなかったな…」

「僕、ハウスダストアレルギーなので!」

 プロシュートと一緒にいないペッシはとても珍しい。チームに入って以来ペッシはずっとプロシュートの背中を追いかけていた。ホルマジオは生まれたばっかの雛かよ、と思いつつも微笑ましい光景だと思ってた。

 そのペッシのポジションがブランクになったわけだが、こいつはどうもペッシみたいに純粋じゃなさそうだった。

「オレはペッシ。プロシュート兄貴に仕事を教えてもらってるんだ。入ったの去年の秋…だったかな。よろしく」

「じゃあもうバリバリ暗殺です?クール!」

「あ、いや…俺、まだ一人も殺してないんだ。兄貴がまだだめだって」

「プロシュートさんは仕事に厳しい方なんすね」

「まーあいつは一番流儀持ってるつっーか。うん」

「オレ!兄貴のそういうところすっげぇ尊敬してるんです!」

「おおー、僕もホルマジオさんの尊敬できるとこ探しますね」

「いや、やめろよ暑苦しいから」

 ペッシとブランクは仲良くなれそうだった。ほのぼのした部分で息が合いそうだ。すぐにメローネも本部に来た。普段来てる服ではなかったが派手ながらの服を着ている。オンオフを分けるタイプだったという記憶はないが、服買うときはなんか気を使ってるのかもしれない。

「ちゃんと揃ってるな。ブランク、お前どうせ金持ってないだろ?」

「はい!無一文です」

「じゃ、今日貸すから借用書書けよ」

「わーい借金!」

「奢ってやんねーのか。けちくせー」

「自分の仕事着くらい自分で買うべきだろうが。お前こそショーパブとかに連れてったりすんなよ」

「んなとこいくわけ…」

「じゃ行くぞー」

「ホルマジオの兄貴、留守番頼みますね」

「先輩留守番よろしくです」

 

 メローネ、ペッシ、ブランクはあっという間に出ていってしまった。

「……はあ」

 

 ホルマジオかしばらくパソコンをいじっているとリゾットが帰ってきて、仕事が入ったから誰がやるか夜に会議を開くことになった。

 夕方になって買い物に行ってた三人が帰ってきた。ブランクもペッシもショッピングバックを抱えて楽しそうにしていた。いくらの借金ができたのか興味があったが聞いたら同情しそうだった。

 

「夜から会議なら早速着ます!」

「髪もちゃんとやれよ。香水とかテキトーにあんの使っちまえ」

「ハッ!」

「お前!黒くて丸いやつはぜってー使うなよ!」

「ハッ!…でもどれもこれも黒くて丸いですが…」

「右から三番目の、金の文字が書いてあるやつ!」

「かしこまりました!絶対使わない!受諾ッ」

 

 ブランクは洗面所でゴソゴソやってる。ペッシは新しい靴を買ったらしく箱を開けてうっとり見ていた。メローネもなんか買ったらしいがとっとと自分のロッカーにしまったようだ。

「ホルマジオ、次の仕事ブランクにやらせてやれよ。借金地獄に浸かっちまうぜ」

「お前いくら使わせたんだよ」

「さあねー」

「ま、でもやらせるべきかもな。あいつが仕事で使えるのかわかんねーし」

「リゾットが面談してるんだからそこは大丈夫だろ。な」

 メローネがリゾットに問いかける。リゾットは自分のノートパソコンから視線を上げて頷いた。

「あいつはああ見えて経験者だ。問題なくこなす」

「へえ?だってよペッシ。やっぱマンモーニはお前だけか」

「や、やめてくれよ。マンモーニっていうのは…」

「あのバカっぽいのは演技なのか?」

「演技…か。そうとも言えるが、そう言うと嘘だな」

「はあ?意味わからん」

「オレから言えるのは、あいつは即戦力として入団を許可したってことだけだ」

「へぇ…じゃあ次の仕事、ブランクに振ってくれよ」

「もとよりそのつもりだ。他のやつらも使えるのか知りたがってるだろうからな…」

 

 

「メローネ先輩、ばっちりっすよー」

 

 タイミングよくブランクがやってきた。ジーパンにパーカーというダサい服から高そうなスーツにグレードアップしていた。髪もびしっと纏めて顔面にも伊達メガネが追加されている。

「最低限だな」

「え、まだだめっすか」

「悪くない。いい服を着ることが大事だ。あのくそダサジーパンは捨てとくからな」

「そんな…」

 

 そうこうしているとどんどん他のメンバーが本部にやってきた。集合時間ぴったりにソルベとジェラートが駆け込んできて全員揃うと、リゾットが仕事の話を始めた。

 

 


 

 

 

「へー、はじめての仕事は国外か」

 ブランクはムーロロの言葉に頷いた。二人はまた港の倉庫にいる。今日はワインでなくコーヒーを持っていて、ブランクは口をつけていない。

 二週間ぶりに会うブランクは前より垢抜けた格好をしていた。チームとうまくやってけているようだった。

「…マンハッタン・トランスファーを使う。許可をいただけますか?」

「オレに許可をもらう必要はねえよ。ブランク。そりゃオレがお前を拾ったわけだが、今や同じ盤上にいる。対等だ」

「ではスタンド能力を使う際、許可を乞うことを辞める」

「ああ。自分で考えて自分で行動しろ。…あー、オレはお前が心配だよ」

「任務自体に危険性はありません」

「違う違う。オレはお前の腕を信じてる。じゃなくって、お前の将来とかそういうのだよ」

「……」

 ブランクは黙った。表情に変化はない。ムーロロはコーヒーをぐいっと飲んだ。ブランクの経歴は名前同様ブランクだ。

 マンハッタン・トランスファーというコピーしたらしいスタンドについて尋ねると返ってくるのは「恩人」「軍隊」という単語のみだ。他のコピーしているスタンドも「連れられた。お見舞いに」と、誰かに才能を見込まれて仕込まれていたらしいことがわかるだけだった。

 他の思い出についても、本人がエピソードトークがほとんど不可能なせいで何もわからない。

 

 ブランクと会ったとき、こいつは未成年売春している女を車で客のところに送り届ける運転手をやっていた。ただし、その売春宿の客がめちゃくちや高い割合で死んでいた。

 未成年を抱いて腹上死。遺族からすりゃ絶対に世間に知られたくないことだ。故にギャングに探偵みたいな仕事が回ってきて、ムーロロがそれを調べることになった。ちなみに売春宿は事件を逆手に取り『天国に一番近い』なんてキャッチコピーをつけていた。

 その被害者と居合わせる嬢はバラバラだったが、客の注文にはかなり共通点があった。

 

一晩コース

他の店でトラブル

サディスト

 

 そして必ず運転手としてブランクが一晩中車で待機していた。さらに監視カメラからブランクが車から降り、今寝ているであろうターゲットの部屋の前まで行き、ドアの前でしばらくじっとしている映像が見つかった。

 

「お前あそこで何していたんだ?スタンド能力者なのか?」

 

 尋問中、だいぶ絞られぶん殴られたというのにブランクは涼しい顔をしていた。そしてムーロロが『優しい警官』役として質問すると、あっさりと答えたのだ。まるでマニュアルにそういう質問があったかのように。

「頼まれたのでスタンドで殺しました。…次の指示はありますか」

 

 

 

 

 

「僕はバカですか?」

「は?そんなこといってねーだろ。お前はバカじゃねーよ。バカのマネをしてるだけだ」

「僕、ダサいですか?」

「へ?いや。なんかすげーいいスーツきてるよな。カッコい〜〜ぜ。メガネも似合ってる」

 ムーロロは驚いた。ブランクが自分の見かけについて聞いてくるなんて初めてだ。というか仕事のこと以外で自発的に質問してくるなんてレア中のレアだった。

「同行するのは誰だ?」

「ホルマジオ、イルーゾォ。リゾットもおそらく監視目的でついてきてると思われます」

「そうか。ソルベとジェラートはどうだ」

「……二人は本部にほぼ顔を出さないようです。…でも端末にチップを仕込むことに成功した」

「やるじゃねーか!ブランク」

「あとは待つだけ。ボスの試験は楽勝です」

 

 

 

 

 そして任務当日、ホルマジオ、イルーゾォ、ブランクの三人はシチリア島から海を渡りリビアに上陸した。

 リビアはかつてイタリアの植民地だった地中海に面するアフリカの国であり、世界遺産に登録される遺跡が多数あるイスラム教圏の国である。現在はカダフィ大佐によって共和制が敷かれているものの、実質独裁国家となっている。

 独裁国家は町並みが美しいというがまさしくそのとおりだった。外国人向けのホテルのサービスは極上だが、今回三人はリビアに秘密裏に入国しているある人物を暗殺しなければならないので、身元を明かさなければならない良いホテルは使えなかった。

「あーあ、お守りは全然旨味がねーな。ホテルもシャワーがろくに使えねーし暑くて砂っぽいし」

「マジだるい」

「観光できるわけでもないし…」

 三人でずっとぶつくさ言いながらも安ホテルの屋上へ向かった。やることをやらねばしょうがないのだ。今回のターゲットはアメリカのマフィアだ。イタリア、リビア間の武器の密輸にイッチョがみしてきてる野心家に制裁を、との事だ。

「でもよー、狙撃って…狙撃だぞ?なんかオレは好きじゃねー。だって露骨だもんなァ?わかるか?」

「でも見せしめだとわかるようにとのことですし…イルーゾォ先輩のは全然見せしめじゃないし、ホルマジオ先輩のはわけわかんないじゃないですか。僕適任!」

「でもその狙撃もお前の本当の能力じゃあねーんだろ?誰かからパクったもんなのにうまく使えるのか?」

「ばっちりっすよ!」

 ホルマジオは縮めておいたカバンをもとに戻しブランクに投げ渡した。ブランクはカバンをあけるとバラバラに分解したライフルをテキパキ組み立てた。スタンドでしか戦ってこなかった二人にとってなんだか新鮮な光景だった。

「そのマンハッタン・トランスファーの能力、もう一回説明してくれ」

「ハッ!これは射撃の中継をしてくれるのです。つまり死角というものは存在せず、どこにいようとも標的に鉛玉をぶちこめるのです!」

「射撃ありきのスタンドってことか?」

「そうです。持ち主はシモ・ヘイヘみたいな人でした。最強!」

「おい。って事はテメーがへぼならどーしよーもねーって事じゃねーか」

「いえ。それは大丈夫てす。僕その人にいろいろ教えてもらったので」

 ブランクは自信ありげに銃を構えた。だがイルーゾォはあまりブランクを信用していない。ホルマジオもだ。

 目標のいるホテルとここは一キロ近く離れている。マンハッタン・トランスファーはあくまで中継であり目標を捕捉できる位置に発動させなければならないのだが、そもそもその中継点たるマンハッタン・トランスファーに弾を届かせなければならない。そんなことこいつにできるのか?

 

「よし…わかった。オレがマン・イン・ザ・ミラーで目標を監視する。テメーが失敗したときはオレが仕留める。いいな」

「お前の能力で?オイオイ大丈夫かよ。場所によっては目立つんじゃぁないか?」

「あー?なんだよ。じゃあおめーのくだらねー能力で突然ちっちゃくすんのかよ?そっちのほうが目立つねッ」

「くだんねーかくだるかはよぉー能力の使い方次第だって何回も言ってんじゃあねーか」

「マンハッタン・トランスファー。位置に付きました。ここから968メートルです。ですが標的の位置が…部屋変えたかもしれないですね。まだ見つからない」

「おい、勝手にはじめんなよ…ほら、無線機だ」

 イルーゾォは無線機を渡すとホテルの屋上から降りていった。

「あー、みてみたいなー先輩のスタンド」

「コピーしたいのか?」

「それもありますけど普通にもっと知りたいです、皆さんのこと」

 

 ライフルを構えるブランクの姿はサマになっていた。シモ・ヘイヘもどきというのがどんなやつか気になるが、ここ一週間こいつにそれとなく昔の話を振っても具体的なエピソードがほとんどでてこなかった。というかうまく自分のことが話せないようだった。

『イルーゾォだ。ターゲットのいる部屋、鏡はあるんだがちょっと見えにくい。5階の角部屋だ。ふた部屋あるうちの寝室にいるぜ』

「了解。スタンドの位置を調整します」

『シャワー室とクローゼットの中にしか鏡がねーんだよ、ここ。だから音と物の動きしかわからんが、うす開きのクローゼットのドアから見るに抜け毛のケアしてるっぽいぜ。……いやちげえ!こいつヅラだぜ!!髪の毛だけ浮いてる!ヅラ外して櫛で梳かしてんのか』

「まじっすか。ヅラ、寝るときも被ってくれれば狙いやすいですね」

『それはねえな。……今ベッドサイドの椅子にいるようだ。マンハッタン・トランスファーは場所を掴んだか?』

「はい。かすかに気流を探知しました。…いけます」

『梳かし終わっちまいそうだぞ。早くやれ』

「了解。撃ちます」

 

 ホルマジオは耳をふさいだ。銃声が轟き、ブランクが反動で肩を揺らした。一キロ先にあるマンハッタン・トランスファーに当たったのか裸眼では到底わからない。

 

『…命中だ』

 

 イルーゾォの声が無線からした。

『だがおい、お前どうして顔の中心にぶっこんだんだよ。ひでーやつだな、顔の判別がつくかわからんぞこんなのじゃ』

「え?あら。そんなとこに当たりましたか。まあ見せしめっぽくはなったかな…」

『オレは帰還するぜ』

 イルーゾォの通信が切れ、ブランクはてきぱきと銃を分解し始めた。銃声のせいでホテルの下の方が騒ぎはじめてる。銃をしまい終えたカバンをリトル・フィートで小さくして二人はそそくさと部屋に戻った。

「ね?慣れたものです」

「普通に殺し屋として食ってけそうだな」

「今回はスタンドが強かっただけです。借り物ですから…でもまだ僕隠し玉いっぱいあるんで!超期待、最強!」

「そーかいそーかい。イルーゾォが帰ってきたら早速イタリア行きの船に乗るぞ。もうこんな暑いとこいたくねーし」

「ハッ!僕は好きですが!こきょうのにおい!」

「出身なのか?」

「え?それはわかんないっす」

「…おめーよー…今まで優しさで何回お前を殴るの思いとどまったか教えてやろーか」

「それは知りたくないです!」

 

 

 三人はシチリア島でちょっとだけ贅沢な飯を食い、ネアポリスに帰還した。初任務達成をねぎらってささやかながら祝杯が用意されていたが、すでにべろべろの三人には味がよくわからないわ吐くわで、ギアッチョがめちゃくちゃキレてブランクだけをボコボコにした。

 

 こうしてブランクはきちんと仕事をこなす一人前として認識された。ブランクはほんの少しだけそれを誇らしく思ったが、それを感じることは指示されていないことなのですぐ忘れた。少なくとも本人はそう処理した。

 

 


 

 

 

「もしもし…ブランクです。ドッピオさん。はい、対象の通信記録、検索記録、カード情報、位置情報を抜きました」

「はい。クロです。ソリッド・ナーゾについて調査しています。…え?ショッピング履歴?…ペディキュア、シェイブローション、定期購読してるフランスのファッション誌……ああ、はい。エジプトへの旅券を買ってますね」

「はい。わかりました。ではそちらへ連絡します。ええっと……チョコラー()()?…タですね。わかりました」

 


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