ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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グリーン・デイとブランクの『ミザルー』

うッ…

 

 ジュニアの拳にはカビが付着していた。

 ジュニアは受肉したスタンドだ。カビの攻撃も通るらしい。振り落としたジュニアの腕にびっちりカビがついているのを見て唸った。

 だがすぐに自身を分解し、カビの部分だけ切り捨てて再度自分の体を構築した。多少体は小さくなるがこれならば動ける。

 

 

「なるほど、物質に変えるだけじゃなく、スタンド自身も変身できるんだな?そしてオレに近づくってことは近距離パワー型…か?妙だな」

 

 チョコラータは片腕を自ら切り離した割には元気そうだ。この元医者は自分の体を切り刻むことも得意らしい。

 残った腕で気絶しているメローネを指差し、ジュニアに、まるで出来の悪い子に言い聞かすように言った。

 

「忘れんなよ。…メローネとブランクの体内のカビをな。二人の命は未だオレの“お気持ち”次第なんだぜ」

 

 ブランクは右目を押さえて起き上がる。体が痛みで制御できないようで、血を吐いてまた倒れてしまう。

 

ブランク!起きてください!

 

 ジュニアが必死に呼びかけるがブランクはなんとか上体を起こすだけだった。首からも血が溢れ、下手したらメローネよりも血塗れだ。

 

「ボス本体を確保してんだろ?オレにわたせ。そしたらこのままオレも大人しく帰ってやるよ」

ブランク…

「…ジュニア、だめだ。どー考えてもウソだ。それを…あいつに渡すくらいなら、ジョルノたちにくれてやれ…」

 

 ブランクは血を拭いながら言った。

 チョコラータは余裕からか笑顔だ。なんなら腕の切断面はカビで保護しているおかげで出血もない。

 

 ジュニアは生理的嫌悪感で一杯になって、どうすればいいのかわからなくなる。指示をくれるメローネは死にかけていて、自分の決断次第で殺すことになる。

 今まで生まれてきた数多のジュニアたちの心に情というものはなかった。だが、今回の彼は違った。

 メローネが死ぬことが自分の存在にどう関わってくるのかわからなくて恐ろしくなる。

 

 “死ぬ”ことはない。きっと。

 だが、自分が一人で世界に放り出されてしまうのは死ぬのと同じくらい怖いような、そんな気がした。

 

 メローネが助かる可能性が1%でもいい。あるのならば、それに賭けたい。

 

 

……ブランク、すみません

 

 

「やめろ…ッ!ギアッチョと、それ持って逃げろ…!」

 

 ブランクの声を無視し、ジュニアは黒電話を取り出してチョコラータに向けて投げた。 

 チョコラータは黒電話を受け取りジロジロと観察した。

 

「本当にこれがボスか…?信じられねーな。能力を解除しろ」

その前にメローネをわたせ!ブランクのカビも解除しろ

「スタンドのくせにいっちょ前に交渉か?いいぜ」

 

 チョコラータはジュニアをあざ笑う。そしてグリーン・デイがゆっくりメローネを持ち上げ、思いっきり崖の外へ投げた。

 

メ、メローネーーッ…!

 

 落下は即ち死だ。カビが全身を食い尽くし、メローネは確実に死ぬ。

 

 ブランクは力を振り絞り、ボスを狙撃していたライフルまで跳んだ。スコープを覗く余裕なんてなく、ほとんど盲撃ちだが、構わず引き金を絞る。

 

「クラフト・ワーク!」

 

 運良く銃弾が一発メローネの体に当たった。そして銃弾はそのまま空中に“固定”される。

 

「ジュニアーッ!メローネを物質に変換しろッ!!」

「器用な奴だよまったく…!」

 

 ブランクが叫ぶのと同時にチョコラータは再びメスを投げた。ブランクは振り向きざまにライフルを構え、チョコラータに向けて撃った。

 だが先程踏み砕かれた右手は、骨が皮膚を突き破った傷口からカビに食われていたらしい。人差し指と小指が引き金を絞ってすぐに崩れ落ちる。

 

「ク…ソ、医者ァアーッ!かかってきやがれ!」

 

 ブランクは構わずライフルをぶん投げた。そして自分の体に刺さったメスを抜き構える。

 チョコラータは投げつけられたライフルを片腕で弾き飛ばす。ブランクはすかさず、がら空きの脇腹にメスを投げる。

 脆くなった指がまた崩れ落ち、飛び散った。

 

「おまえのそのあまっちょろいスタンドで…ッ!運命をどうこうできるなんて思い上がってるんじゃあないッ!ブランク!」

 

 メスは刺さった。だがチョコラータはお構いなしだった。

 ブランクの顔面にチョコラータのパンチが叩き込まれる。ブランクはあえなく倒れ、青空を見上げた。

 

 チョコラータは腹に刺さったメスを抜いてから自分の腕を拾い、あっという間に縫合して元通りにした。

 メローネはすでにジュニアの手によって回収されたらしい。ブランクはしっかり目で確認した。

 

 チョコラータはまたビデオカメラを回し、仰向けに倒れたブランクを撮る。

 

「悪いが…お前と遊んでちゃ本格的にこっちがやばいみたいだな。名残惜しいがとどめを刺すッ」

 

「…そう…だね。僕も名残惜しいよ」

 

 チョコラータは急に膝に力が入らなくなり、かくんと地面に膝をついた。

「やっとあんたの中身に届いた…やっとだ」

「な…なぜ膝が…?脚に、力が…」

 

 先程ブランクが投げたメスが刺さった部位から、病巣のように真っ黒な痣ができている。そこからべコリと、まるで事故った車のバンパーみたいにベッコリと腹が凹んでいた。

 

「いやッ…これは痣なんかじゃあないッ…!これは……これはッ!」

 

「“グリーン・デイ”!あんたのホンモノと違って、何かを媒介しなきゃ遠くには届かない貧弱なカビだし、高低差による細かい制御はできない。一度発動したら目の前の餌を食い散らかすだけだ」

 

「て、テメェ…!オレの…オレのスタンドを、このオレに!食らわせやがったなチクショォオオオーーーッ!!」

 

「僕に手加減する器用さはないから…あっという間に“致命傷”だ。もうあんたにカビを操る力はないッ!」

 

「なめてんじゃあねーぞブランク!テメー一人を道連れにするくらいは余裕だぜ!」

 

 チョコラータはカメラを投げ捨て、ブランクの首に手を伸ばした。ブランクはもう骨しか残ってない右手でそれに抵抗するが、握られた端からカビの胞子に巣食われていく。

 

ブランク!

 

 大声がして、ブランクの背後からジュニアが崖を駆け上がって跳躍した。

 

させるかよ!このゲスがァアーッ!!

 

 ジュニアの拳がチョコラータの頭部にめり込んだ。そのままジュニアは殴り抜ける。そしてラッシュを叩き込む!

 

てめーは苗床がお似合いだ

 

 チョコラータは三メートルほどぶっ飛ばされ、ぴくりともうごかなくなった。ブランクの傷口のカビも消え、腹と首の痛みが消える。ジュニアは捨て台詞を吐いた後、地面に崩れ落ちた。

 ブランクはなんとか立ち上がり、ジュニアの体を起こした。腕を起点に体中からカビが萌芽している。チョコラータは最後の力を振り絞ってジュニアだけでも確実に殺そうとしたらしい。

 

く、くらっていた…みたいですね…ヘマをしました

「ジュニア…ごめん、ありがとう」

 ブランクはそっとジュニアの体を撫でる。体温を感じるっていうのはなんだか不思議だ。

 

メ、メローネはすぐ下の道路の縁石にしておきました。きっと、すぐに…手当をすれば…

「わかった。…またね」

ま、またはないですよ…あったら嬉しいんですけどね…

「おつかれ…」

 

 ジュニアはブロックみたいになって、最後にはそのへんの石と見分けがつかなくなるくらい、バラバラになって死んだ。

 

「泣いてる…場合じゃ、ない…か」

 

 ブランクは立ち上がり、チョコラータが倒れているあたりを睨んだ。

 チョコラータの死体のそばから人影がゆっくり、立ち上がる。

 

「まさか、この私と相対するのが…ヴォート・ブランク。お前になるとはな…」

「ヴィネガー・ドッピオ…いや、ボス……!」

 


 

 

「どう…かな?おめーのパワーで砕くには…でかすぎんじゃあ、ね、ねーか?」

 

 ぐちゃぐちゃに溶けたコスタ・スメラルダの岩場と、やけになだらかでつるつるした石の塊。チョコラータとブランクがやりあっているところから70メートルは離れた道路で、セッコはその岩をビデオに撮っていた。

 

「こいつはもう動けない…はずだ。…そうだ…チョコラータに連絡…えっとぉ……どのボタンだっけ?」

 

 セッコは太もものポケットから携帯電話を取り出した。ウンウンうなりながらなんとか通話ボタンを思い出し、チョコラータにコールする。だがチョコラータは電話に出ない。

 

「チョコラータ?…な、なんで…でねーんだ?なんかあ、あったのかよ」

 セッコはギアッチョが閉じ込められている岩とチョコラータがいるはずの崖の上を交互に見る。

「アッ…!死体をもってこいって言われたのにこれじゃあ運べねぇ!…どーしよう…クソ〜ふ、ふざけやがって」

 

 セッコはしばらく迷った。だが崖の上から妙な音が聞こえた。サプレッサーを通した銃声だ。

 

「チッ…ギ…ギアッチョ。て、てめーはか、観光名所…にでも、なるんだな…」

 

 とにかく今はチョコラータのもとへ戻ろう。

 

 

 セッコはチョコラーダの元へ向かおうとした。だがギアッチョの岩の下からぴしゃぴしゃという水の音がして立ち止まった。

 

「なんだ…?雨漏り…じゃなかった、水漏れ…か?」

 

 次いで岩に亀裂が走った。セッコがそれを覗き込もうとした刹那、氷の塊が岩をぶち破って“発射”された。

 

「ダアああああッ!うばぁーー?!あ、危ねェーじゃねーか!!」

「クソカスが…こんな岩ぶち砕くために…スタンドパワーを滅茶苦茶消費したじゃあねーか。ろくな飯食ってねーのによォ〜!」

 

 ギアッチョは泥に飲み込まれる直前、スーツに空気を取り込むと同時に更に分厚い氷の装甲を作り出していた。一度凍結を解除し、滲み出た水を凍らせ、また解除し、ほどよく水が浸透してぶん殴る。

 めちゃくちゃ単純に岩を砕いて出てきたのだ。

 

「てめーオレをあんまナメてんじゃねェエー!!」

「お、お前ッ!しっ、しぶてぇーんだよ!!」

 

 セッコは再びダイブする。どぷんと地中に頭まで浸かった瞬間、全身が硬直した。

「な……アッ?!固い!!いや、つっ…冷てえ!」

「反応の遅れが命取りだったなモグラヤロー。この地面に染み込んでる水はオレがじっくりじっくり冷やした水だぜ」

 

「オ…ッオアシスッ!」

 セッコは慌てて泥化を急ぐ。だがギアッチョは勝ち誇ったように高らかに咆哮する。

「そしてそういう水は!衝撃を与えた途端瞬時に凍るッ!」

 

 そして振り上げた足をそのまま凍らせた地面に叩きつけた。

 

 足は地面に食い込み、ブレードの先端に骨を砕く手応えがあった。

 セッコのくぐもった悲鳴が地面の下から響いてきた。だがやつの死体は上がってこない。むしろより深く、深く溶けて潜っていくような振動を感じる。

 

「頭は割ったはずだ…。なのに動くだと?しぶてーのはどっちだよ…」

 

 ギアッチョは息切れしながら呟いた。そこに突如銃声が鳴り響く。聞き慣れたブランクのライフルの音じゃない。拳銃の音だ。

 銃弾がホワイト・アルバムの左膝の部分にめり込んでいる。

 

「てめー!ギアッチョ!オレたちを追ってきたのか?!」

 

「だあァアアーーーッ!!だからッ!なんでオレにはこう邪魔が入ってばっかなんだ超ムカつくぜッ!!クソがぁーーーッ!!」

「うっせー!今度こそ仕留めてやるからなッ!」

「テメーらといちゃつくのも悪くねぇ!だがオレたちの目的はテメーらなんかじゃあねえーんだよっ!すっこんでろ、雑魚がッ!」

 

 ギアッチョは跳躍した。空気中に氷の柱を作り出し、それをどんどん登っていく。

 

 ミスタは柱を折るために数発撃つ。

 

「バカの一つ覚えみてーに撃ちやがって!」

 

 だがギアッチョもいちいちジェントリー・ウィープスで弾き返すなんてだるい真似はもうやめた。氷を砕かれるのならば崖から別の氷柱をはやし、それを這い登ってメローネたちのもとへ向かう。

 

「ミスタ!上にはすでに、ジョルノとナランチャが向かっている。オレたちで挟み撃ちにするぞッ!」

「ああ!」

 

 

 

 

 

 セッコは前頭葉にできた傷を抑えながら、必死にチョコラータにコールした。だが電話には誰も出ない。何度かけなおしても、チョコラータは出ない。

 

「…チョコ…ラータ……まさか……負けた、のか?」

 

 セッコの携帯を持つ手ががくがく震える。ずっと信じていた、ついてきていたチョコラータが負けた?

 

「チョコラータ、負けたなんて嘘だよな?…お、オレの信じてるあんたが…よォ!」

 

 

 地中を潜り、セッコは崖の上を目指す。

 チョコラータの携帯に繰り返し繰り返しコールしながら

 

 

 

 

とぅるるるるるるるるん…………

とぅるるるるるるるるん…

とぅるるる…

 

 


 

 

 

 

「ここまで…ここまで事態が悪化するとはな」

 

 ボスはブランクの方を向いていなかった。チョコラータの死体を見ながら、淡々と言葉を発する。

 ブランクはドッピオと同じ服を着た、なのに全く凄みの違うその背中をみてゴクリと息を呑み、攻撃が来てもいいように構えを取る。

 血を失いすぎて立っているのがやっとだ。スタンドを出せたとしてもろくなパワーも出せやしないだろう。

 足元のおぼつかないブランクに、ディアボロは語りかける。

 

「言え。お前はどの能力を使って私の正体を見破った?」

 

 ブランクは息を呑む。真実をそのまま伝えればボスはメローネを絶対に、確実に殺すはずだ。トリッシュよりもベイビィ・フェイスのほうが脅威なのは明らかなのだから。

 だったら自分は勝利のために、嘘を突き通さねばならない。メローネが生きていれば、ボスを追跡することは可能だ。命の優先順位は明らかだ。

 

「………僕自身の力だ。面接のとき、僕はドッピオに触った。トリッシュにも触った。…僕にはわかるんだよ、魂の形が」

「それで…ブチャラティ達を追い、ドッピオを見つけたということか。……まさかたったそれだけの事に足を掬われるとはな」

「……」

「だが不確かな憶測をもとにここまで思い切れたとは思えん。さらに、ブチャラティたちを追っていたと言うならば、ドッピオの背後を取れた理由もわからん…お前たちにはもう一つ、確証があったはずだ。言え、真実を。そうしたら苦しまず殺してやる」

 誤魔化しなんて通じないようだ。ブランクはいよいよ神様にお祈りをするべきかもしれない。

 

 

とぅるるるるるるるるん…………

とぅるるるるるるるるん…

とぅるるる…

 

 

 

 

 突如、電話がなった。二人はハッとして音のなる方に目をやった。ブランクの目の前に、チョコラータの電話が落ちていた。

 

「ッ……!」

 

 ブランクは咄嗟に電話を取ろうと手を伸ばす。

 

「電話をとった瞬間、お前を殺す。真実を言わなくても、お前を殺す。コールが鳴り終えるまでにするか。お前の命は、それまでだ」

 

 

 ブランクは深呼吸をして天を仰ぎ見る。どうせ真実を話す気はない。自分は殺される。

 

 なんて美しい青空なのだろう。

 その空に、一筋の雲が走っているのが見えた。

 

「あ…」

 

 ぶぅん…

 

 聞き慣れた憎きプロペラ音。

 

「エアロ・スミスッ…!」

 

 ブランクがつぶやくと同時に、飛行機が頭上を通過し、まっすぐボスへ掃射した。

 そしてブランクは電話を取り、通話ボタンを押す。

 ブランクは低く、小さな声で告げる。

 

 

「……セッコ…崖を、崩落させろ」

 

 


 

 

 

「今ッ…!確かに時が飛んだぞ!」

 

 ジョルノが鋭く叫ぶ。ナランチャも頷き、レーダーに集中した。

 

「大きい呼吸の点を撃った!だがその呼吸は消えてない。健在だッ」

「となるとやはりそちらがボス…!カビのスタンド使いはもう死んだ、小さい呼吸の点は…暗殺者チームの生き残りか」

「もうすぐそこにいる!どうするジョルノ」

「どうもこうもない!ここでボスを倒すッ…」

 

 ジョルノとナランチャはかける。もうボスの姿が見えてもおかしくない。呼吸の点があるのはここから2メートルほど高い、道路からちょっと離れた岩場らしかった。

 ジョルノは上を見た。だが駆け出し、踏み込んだ地面の感触が突如変化する。

 

 沼に脚を突っ込んだような感覚だ。

 

「なっ…これは……!」

 

 ナランチャもジョルノも、その異常事態にとっさに対処するすべが思いつかなかった。

 地面が急に泥状に変化している。しかも効果はおそらく斜面全体に及んでいる。

 

「まずい…地すべりだ!」

 

 泥化した地面の上に転がる岩が斜面を滑り落ちていく。

「ジョルノ!」

 ジョルノはナランチャの腕を掴み、すぐそばの木にしがみつこうとする。だが根を張る地中深くまでも泥になっているようだ。

「一体何人のスタンド使いがここにッ…!」

 このままじゃ落岩に巻き込まれる。上から落ちてくる岩をゴールド・エクスペリエンスで砕いても土石流のようになったこの斜面を落ちたら重傷は免れない。

 

「ジョルノ!エアロで亀だけでもッ…!」

 

 ナランチャの言葉にジョルノは頷く。だが

 

「スパイス・ガール!」

 

 亀の中からトリッシュが出てきて、足元の泥化していない大きな岩を殴った。

 

 

「トリッシュ!出てきちゃ…」

 

 柔らかくなった岩の中に三人はくるまり、地面をボヨンボヨンと落ちていく。

 

「何言ってるの。出てこなきゃ全員死んでるわよッ!それに…いるわ!感じる!!父がすぐそばにいるわ!」

 

 

 


 

 

 

「キング・クリムゾン」

 

 キング・クリムゾンがとらえたのは“崩落する地面”そして巻き込まれ落ちていくブランクの姿だった。

 セッコのオアシスのフルパワーだ。この斜面全体が滑落する。

 

 エアロ・スミスの弾丸に当たる心配はない。だが何より重要なのは、“ブチャラティたちはもういる”と言うことだ。

 ディアボロは目を凝らす。肉眼でだってわかる。

 あの石碑の前に、一番いてはならない人物が立っている。

 

「アバッキオ…!ムーディブルースですでにリプレイを“開始”しているなッ?!」

 

 

 ブランクはすでに土砂に飲み込まれかけている。仮にブランクの始末を優先してアバッキオを逃し、自分の過去を知られるリスクをとるべきか。

 

「ッ…やはり、ブランク!まずは貴様だ」

 

 時は再び正常に流れ始める。ブランクは驚きの表情でこちらを見ている。目と目があった。

 

「ボ、スッ…!」

 

 だが、足が突然引っ張られた。

「ボス、てめーが…てめーがボス…なんだな…オイ。あと……あと少し、だったのに…よォ」

 死んだと思っていたチョコラータが鬼神のような表情でこちらを睨み、脚にしがみついていた。

「死に損ないがッ!」

 

 

 

 チョコラータの作り出した一瞬がブランクを逃がす結果に繋がったのは皮肉に他ならない。

 ディアボロがチョコラータにとどめを刺す頃にはブランクはすでに崖から落ちていた。

 

 さらに、エアロ・スミスはまだ飛んでいる。そしてこちらに銃口が向いている。落ちたブランクを追えばブチャラティチームとぶつかるだろう。

 

 そして地中から腕が一本、生えてきた。

 あの泥色のスーツはセッコのものだ。

 

「ッ……」

 

 ディアボロはすぐさま時を飛ばした。そして身を翻し、すぐさま標的を切り替える。

 

 

 

 

「ナランチャ!また時が飛んだぞ。上にはまだ誰かいるか?」

「あ、ああ!いるぜジョルノ。ぶちかますッ!」

 

 エアロ・スミスは掃射を開始した。

 ふにゃふにゃの岩から出ると、あたりの光景はすっかり変わってしまった。先程の場所から10メートルは落ちている。

 

「そこにいんのはジョルノか?!」

 さらに下の方からミスタとブチャラティが走ってくる。崩れる岩場に足を取られてはいるが二人は無傷だった。ジッパーで危機を回避したのだろう。

「ミスタ、ブチャラティ!」

 ブチャラティはトリッシュを見て驚愕する。

「トリッシュ、亀の中へ戻れッ!」

「待って!父の気配が消えたわ」

 トリッシュはお構いなしに、上を凝視して叫ぶ。

「何?じゃあ一体上にいるのは…」

「上に敵がいるんだな。誰であろーがとにかく仕留めとくべきだ。オレは行くぜッ!」

 ミスタは拳銃を構え、早速崖を登り始める。続こうとするナランチャをブチャラティが止めた。

「…嫌な予感がする。ナランチャ、お前はアバッキオに退避するよう合図をおくれ!」

「わ、わかった!」

「ジョルノ、お前は“退避”だッ!トリッシュを必ず護れ」

「…ッ…わかりました。気をつけて」

 

 ブチャラティ、ミスタは崖の上へ。そしてナランチャは海岸へ向かった。

 ジョルノはトリッシュに亀の中に入るよう促した。

「すぐにここから退避します。さあ亀の中に」

「ちょっと待って。ジョルノ…声が聞こえるわ」

「声…?」

 ジョルノはすぐにゴールド・エクスペリエンスを出して、地面に手を当てて生命エネルギーを探知する。たしかにすぐそばの岩陰に誰かがいる。だが死にかけだ。

 

「トリッシュ…早く亀の中へ」

「待って…ここから見えるわ。あれはッ……!」

 

 ゴールド・エクスペリエンスがその人物を押しつぶす岩を砕いた。遠くから見たことないが、たしかに見覚えがある。暗殺者チームのメンバーだ。苦しそうに呻き声を上げている。

 

「…両足の骨が砕けている…腹部にもかなりのダメージだ。よく生きているな…」

「ジョルノ…この人を助けないの?」

 ジョルノはしばし悩んだ。この男はおそらく、トリッシュを分解して連れ去ったスタンドの本体だ。さらに高い追跡能力を持っている。

 おそらく暗殺者チームをここまで導いたのは彼だろう。状況からしてトリッシュを追ったとは考えにくい。

 だとすれば彼らは何を追跡していたのか?

 答えはおそらく…

 

「……命だけは助けます。全部治してまた襲撃されても迷惑ですしね…」

「そ、そう」

 トリッシュはほっとした。ジョルノならここでこの男を見捨てても不思議じゃないと思ったからだ。彼はとても賢く冷静で、この数日間で驚かされることばかりだった。

 だが、同時にそこに恐ろしさも感じるのだ。

 

 


 

 ジョルノたちとほぼ反対側に位置する崖で、ギアッチョは氷により滑落を逃れた。だが上に登りきって見つけたのはセッコとチョコラータの死体だけだった。

 

 

 

 ボスの姿もなければ気配もない。メローネもブランクも生死不明だ。もう、ボスを追う手だては何もない。

 

 

「…これで…終わりなのか?」

 

 メローネだ。メローネを探さなければならない。仮にあいつが生きていればジュニアで追跡が可能だ。

 ギアッチョはすぐにメローネと、ついでにブランクを探し始めた。

 血の跡を見つけてたどると、すぐにブランクを見つけられた。

 

「ブランク!メローネはどこだ?」

「わからない。…うえ、上にボスがいる。早く…」

「チッ。もういねーよ!消えた」

「クソッ!…すぐ、僕もメローネを探す…」

 ブランクは起き上がろうとした。だがブランクの右腕は肘から下が岩の下敷きになって、完全に潰れている。

「ヒッ…い、……痛くないッ!逆に怖いッ」

「お前ほんと使えねェッ!」

 

 ギアッチョはキレた。ブランクはいつもみたくおちゃらけて返すのではなく、神妙な顔をしてうつむいた。

 

「ごめん…すぐには行けなさそうだ…」

「ハナからテメーに期待してねーよ!」

「ほんとに…ごめん……」

 ギアッチョの予想に反してブランクは今にも泣き出しそうな声で謝罪した。

「……あー…ったく。クソッ!いいからそこで寝てろ。お前なんてアテにしてねーよ!」

「ごめん……」

 

 ブランクはそうつぶやいて気絶してしまった。ギアッチョはため息をついて、呼吸を確認した。

 死んだわけじゃないなら放っとこう。

 メローネを探す途中、新入りが岩場を下っていくのが見えた。上からもミスタとブチャラティの声がする。あまり長居するとまたやり合う羽目になりそうだ。

 

 メローネはすぐ見つかった。目立つ場所に横たわっていたからだ。腹部に服が破けたあとがあるが、傷はない。ただ両足はぐちゃぐちゃだ。

 

「クソ…オレはこんなんばっかかよッ!」

 

 ギアッチョはメローネを担ぎ、ブランクのもとに戻った。

 

「………ブランク、お前まだ戦う気あるか」

 

 ギアッチョの問いかけに、ブランクは目を覚まし、力強くうなずいた。

「あるよ。…あるに、決まってる」

「ここにいたらブチャラティたちが来る。だがお前の腕は岩に完全に固定されてて動かせねえ」

ブランクはギアッチョの言わんとしていることがわかった。すうと息を吸ってから答えた。

「…わかった。自分でやるよ」

「できんのか?」

 ブランクは頷いた。

ギアッチョは氷で鋭利な刃物を作り出す。ギアッチョはマチュテに似た氷の柄にあたる部分に布を巻き、滑り止めにしてやった。ブランクはそれを受け取ると、弱々しい笑顔で言った。

 

「…すぐ冷やしてね」

 

 

 

 

 

 


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