【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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目的地はローマ、コロッセオ

 コスタ・スメラルダの海岸は離れてみれば見るほど無残な姿に変形していた。

 ナランチャは走りながらちらっと横目でそれを見て「うっひゃー」と呟いた。

 ある種の観光名所にはなれるかもしれないが、そのおどろおどろしさじゃ以前のような客は見込めないかもしれない。

 

 いったい何人死んだのだろう?ビーチにいた人間自体は少なかったとはいえ、あのカビのスタンドはあまりにも強かった。

 誰が倒したのか知らないが、よくやったと褒めてやりたいくらいだ。

 

 エアロ・スミスはナランチャより一足先にアバッキオの元へ向かった。丘を下ったので肉眼で確認できないが、アバッキオの周囲10メートルには呼吸の点は確認できない。

 そばのビーチにいた観光客も先程のカビの騒ぎで死んだか逃げたかしたのだろう。

 

 

「アバッキオ〜!」

 

 ナランチャは叫んだ。もうアバッキオはすぐそこだ。

 

 だが突如、レーダーに新たな呼吸の点が現れた。しかもそれはアバッキオめがけ、一直線に進んでいる。

 

「エアロ・スミス!」

 

 ナランチャに迷いはなかった。すぐさまその点めがけて撃ちまくる。

 エアロ・スミスの弾丸は不審な呼吸の点をぶち抜いた!と思った途端、奇妙な感覚が襲ってくる。レーダーに急に硝煙反応がどっと映った。自分が撃ったと思った弾数よりはるかに多く。

 

「あ…」

 

 そして呼吸の点は健在だ。さらにさっきより五メートルも離れた位置に移動している。

 

「これが時を飛ばすってやつかよ!アバッキオ動くなッ」

 

 オレのエアロじゃ太刀打ちできない

 

 ナランチャは冷静に自分の能力とボスの能力の相性の悪さを自覚していた。だがアバッキオを見殺しになんてできるわけがない。

 

 アバッキオのムーディー・ブルースはいままさに何者かに変わろうとしている最中だった。アバッキオは警戒の体勢を取る。

 

「ナランチャ!いるんだなッボスが!」

「そうだ!もう目の前…ッ!」

 

 背中だ

 ナランチャの位置から背中が見えた。

 

 アバッキオがエアロの射線と重なるように駆け出してやがる!このままナランチャが撃てば時を飛ばされ弾はアバッキオを蜂の巣にする。

 

「見え見えの罠だぜ!」

 

 ナランチャはエアロを少し移動させ、容赦なく撃ち込んだ。

 再び時が飛んだ、いつの間にか弾は打ち尽くされ、地面に煙がたっている。それがわかってすぐ、ナランチャはアバッキオの周囲に円を描くように撃つ。

 

 

「アバッキオッ…!」

 

 ナランチャは走りながらレーダーを見た。呼吸の点が一つしかない。

 ボスとアバッキオが重なっているんだ。ボスはアバッキオを今、まさに殺そうとしている!

 ナランチャはそう思った。そしてありったけの弾を装填し、駆け出した。

 と当時に、アバッキオがこちらに叫ぶのが聞こえた。

 

「違うぞナランチャ!ボスの狙いはお前だッ!!」

「なッ」

 

 ナランチャは背後から不吉な気配を感じた。

 

 呼吸の点が重なっていたのはアバッキオとボスじゃあない。自分とボスだったのだ。

 

「キング・クリムゾン」

 

 そして、すべての時間が消し飛ぶ。

 

「ナランチャ・ギルガ。全く、わたしにとってはまるで意味の無いスタンド攻撃だが、その索敵能力は厄介だ。邪魔になる前にここで退場してもらうッ!」

 

 

 ナランチャが驚愕と絶望の次に感じたのは、熱さだった。肩口から心臓にかけてが、ものすごく熱い。

 ナランチャはいてぇよ。と言おうとしたが、口から出てきたのは血のあぶくだけだった。

 

「ナランチャーーッ!!」

 

 ディアボロはナランチャの血を払い、アバッキオを見た。アバッキオもこちらをしっかりと見ていた。

 皮肉だ。15年前の姿を再生しにきて、このディアボロの今の姿を目撃することになるのだから。

 

 アバッキオのムーディー・ブルースはリプレイを途中でやめたのか、スタンドそのままの姿でこちらに拳を振り上げている。だがなんと虚しいことか。

 

「くだらん能力、取るに足らないパワー。お前ごときのためにッ…このディアボロがどれだけ骨を折ったか」

 

 キング・クリムゾンの腕は無慈悲にムーディー・ブルースを貫き、アバッキオは倒れた。赤黒い血が白い岩に広がっていく。

 

「……誰であろうと、わたしの永遠の絶頂をおびやかすものは許さない」

 

 アバッキオは空を仰ぎ見て事切れた。あれだけの騒ぎがあったのに空は変わらず青く、高い。

 

 

 とにかくこれでムーディ・ブルースだけでなく、エアロ・スミスまでも始末できた。イレギュラーな出来事は多々あったが、やはり生まれ故郷はついている。

 すぐにブチャラティたちが来る。

 

 ディアボロはドッピオに代わり、救護隊の方へ走っていかせた。ドッピオの記憶は混乱しているが、そこから生じる違和感を無視させることができる。それがドッピオの美点だ。

 

 ドッピオは救護テントで一通りの検査を受けてる途中、小脇に抱えたパソコンに気づく。

 

「…あれ。いつの間にぼくはパソコンなんて持ってたんだ?」

 

 するとパソコンからゲームみたいな電子音がなりひびく。

 

とぅーーーるんッとぅーーーるんッ

 

「うわっ?!……ああ、これがパソコン電話?ってやつかな。どれ…」

 

 ドッピオはノートパソコンを開き、ちょっと悩んでから電話のようにパソコンを耳と口に当てた。ちょうど頭を食われてるみたいに見える。

 他の患者や看護師は白い目でそれを見ていた。

 

『わたしのドッピオ…』

「ボス!あの、すみませんぼく…なぜか救護テントにいるんですが…」

『いいのだ。今はそのままやり過ごせ。目的は半分達した』

「半分…ですか?」

『今はここに潜み、その端末を使いこなせるようにしろ。わたしの正体へ近付こうとするものをお前が突き止め、始末するのだ』

「わかりました。ボス…」

『暗殺者チームは何としても殺さなければならない。だがもうこの島にいるべきではない。一度場所を変えるぞ』

「もちろんです!ボス。」

 

 


 

 アバッキオ、ナランチャの死体を見てブチャラティはショックを受けた。

 死体の周りには大量の弾の跡があったが、それだけの攻撃をしてもボスには一つも当たらなかったのだろう。血などは落ちていない。

 確かに、ボスの能力から考えるとナランチャの弾は避けれるし、アバッキオに至ってはリプレイ中で無防備だ。

 判断を誤った。ナランチャ一人で行かせるべきではなかった。あるいは、アバッキオを一人で放置しておくべきではなかった。カビのスタンド使いに目もくれなければこうはならなかった。

 

「オレの……せいだ」

「ブチャラティ」

 

 血に染まる砂浜を見て、ブチャラティは今まで聞いたことのないような悲愴な声で言う。傍らに立つミスタがブチャラティの肩に触れた。

 

「ッ……急ぐぞ。ここは危険だ。はやく……行かねーと」

「ああ…」

 

 ジョルノもすぐにやってきた。アバッキオ、ナランチャの死体を見てさすがの彼も動揺をみせた。そして、ジョルノはアバッキオが砕けた岩のかけらを握っているのに気づいた。

 

「ブチャラティ……この岩のかけらは…」

 

 ジョルノはゴールド・エクスペリエンスでそれに触れた。かけらは小さな蝶になり、石碑の方へと羽ばたいた。

 

「これは…」

 

石碑の裏に残されていたのは、男の顔だった。

 

「アバッキオはリプレイを終えていたのだ。…ナランチャが、時間を作ったおかげで…これを残すことに成功したんだな」

 

 

 3人は青空のもとに立ち尽くした。しばらくして、ジョルノが二人を並べてうっすら開いた目を閉じた。すぐに見つけてもらえるように、傍らに大きな木をはやした。まるで空が眩しすぎないように傘をさしてやったみたいだった。

 

 

「……行こう。…もう騒ぎになっている。こっちにも人が来てしまう」

 

 ブチャラティの言葉に返事はなかったが、全員ボートに乗り込んだ。亀の中のトリッシュには、ミスタが何が起きたか説明した。

 

 説明を終えるとミスタは船の操縦を任され、ブチャラティと、ジョルノが亀の中へ入ってきた。

 ボスの顔を解析にかけるのはジョルノが任された。砕いて持ってきたボスの顔にトリッシュは嫌悪に満ちた眼差しを向けた。

 

「父が…いいえ、父と呼ぶことすら、もうやめるわ。ボスは…絶対に許してはならない」

「そのとおりだ。…素顔は割れた。だが見つかるかどうかはまだわからない」

「ボスの姿がわからない限り…オレたちに勝ち目はない」

 ブチャラティは珍しく弱気に見えた。トリッシュはかけるべき慰めの言葉が見つけられなかった。

 

「…暗殺者チームがもしかしたら、ボスの正体を掴んでいるかもしれません」

「奴らが?」

「追跡能力を持つ男はまだ生きています。彼らがボスの襲撃に成功し、何者かの邪魔がはいり失敗したのだとしたら……もう一度、その能力でボスを追うはずです」

「では最悪、彼らを追いかけることになるわけか…」

 ブチャラティもジョルノも思案する。そこにトリッシュがおずおずと提案した。

「ねえ…彼らとは協力できないの?」

 

「オレたちは暗殺者チームのメンバーを殺している。はっきり言って、難しいだろうな」

 ブチャラティはたった一度言葉を交わしたブランクという少年を思い出す。彼ならば話が通じるかもしれないという予感があるが、生きているのかどうかもわからない。

 コスタ・スメラルダの崖のうえ、二人の死体と共にもう一人分の血痕が残されていた。崖下に消えた血痕が意味するのは、これから先決して楽観的な想像に賭けてはならないということだ。

 

 

「だめですね…いろんな警察の犯罪者データベースにも該当者ゼロ。故人も、行方不明者も」

「ボスならばそういったデータを消していても不思議じゃあないな。…だが可能なのか?あらゆる人生の足跡を消して、この世で生きることが」

「これまで…なのか?もうぼくたちだけの力ではボスを倒すことはできないのか?」

 

 すると、タイミングを見計らったかのようにパソコンの画面にノイズが走り、奇妙なグラフィックが浮かび上がる。そして割れた音声で、何者かがジョルノたちに語りかけた。

 

『いいや…やつを…ディアボロを倒す方法は………ある…!』

 

 

 

 


 

 

 夕日に照らされたコスタ・スメラルダには続々と警察、救急車両、マスコミが押しかけ、カオスが形成されつつあった。

 ブランクはチョコラータの死体を漁った後、近くの土砂の中からムーロロの入った箱をなんとか探し当てた。

 

「今回ばかりはチョコラータの悪趣味に助けられたよ…」

 

 蓋を開け、無残な姿のムーロロにしばし黙祷する。そして意を決して、ムーロロの口をむりやり開いた。

 ブランクはムーロロに出会ってからパソコンの使い方を一通り叩き込まれたあと、左の奥歯の裏に特別な鍵を仕込んでいると教えられていた。

 歯にかぶせてある詰め物を取り出し、丸められた小さな紙片を取り出す。これこそが“裏口の鍵”だ。

 

 

「ごめんねムーロロ。あとで必ず迎えに来るから」

 

 ブランクは箱を抱きしめてから、草の上にそれを置き直して走り去った。

 

 

 港には大量の報道陣が集まっていて騒々しい。ブランクは街が見下ろせる丘に座り、片腕でパソコンを弄っていた。

 

 パッショーネ情報技術部が誇る監視ツールのバックドアを使い、公的機関や空港、港の監視カメラにアクセスした人物を徹底的に洗っている。裏口の鍵を使えば指紋認証など必要ない。全権限フリーパスだ。

 ブチャラティたちがどこに向かったのかは不明だが、彼らは彼らでボスの痕跡を見つけたはずだ。アバッキオのムーディー・ブルースが何かしらボスの過去の痕跡を捉えたと仮定すれば、サルディニアの死亡者名簿や犯罪者データベース等にアクセスしていてもおかしくない。

 そうでなくても、監視カメラへの不正アクセスを辿れば、ブチャラティたちの姿そのものを捉えることができるはずだ。

 

 片手じゃやりにくいな…。とブランクがイライラしていると、急に首筋に汗が垂れるような感覚がして思わず悲鳴を上げた。

 

「うわッ…え?何…」

 肩にもぞもぞ動くものがあるのに気づく。髪に絡まっているそれはベイビィ・フェイス・ジュニアだった。前のジュニアよりトゲトゲが少ない。

 

……ママ…

 ブランクは苦笑いする。

「僕のことはブランクって呼んでくれる?」

ぶ、ぶらんく

「うん。……えーと。メローネ元気?」

お、お腹減った

「あー!そうね…船で食べたパンの残りがあるよ」

 

 ジュニアにぺっちゃんこになったパンを渡すと、構わずもぐもぐと食べはじめた。

うま…うま…

「おお…こう見ると結構かわいい…」

 ジュニアはそのまま肩に座っていた。メローネと何かしらやり取りしているのかもしれないがブランクには知る由もない。

 

いどう…いどうどうするの

「ん?ああ。あっちの方にヘリポート代わりの開けた原っぱがあるんだ。あそこからテレビ局のヘリをパクるよ」

ヘリ?

「うん。ほら、あの飛んでるヘリの本社ってフィレンツェのあたりだろ。でも事件が事件だし局に戻らず一度降りるだろうから…」

わかった

 ジュニアはそう言うと黙ってしまう。ブランクはちょっと困りながらもパソコンいじりを続行した。

 

 ブチャラティたちの回線はすぐに見つかった。警察の顔認証システムに割り込んでいるようだ。やはりアバッキオが無事ボスの顔を手に入れたらしい。

 だが妙だ。その回線は無理に切断されている。それも外部の手によって。ブランクは更に解析を進める。どうやら誰かがそこに割り込んだらしい。

 

 そこでヘリが降り立つのが見えたので、一度中断しすぐに泥棒へ切り替えた。とにかくこの島からは出なければならない。

 クルーたちが降り、警備が手薄になるまで近場に潜んだ。その間にブランクはギアッチョの携帯に電話をかける。残念ながら留守電だ。

 ギアッチョはギアッチョでパソコンが達者だから、独自に情報収集しているはずだ。なるべく早く連携したかったが仕方がない。メッセージだけ残すことにした。

 

「もしもし?僕です。生きてます。今どこですか?向かいます。…僕はジュニアと一緒です。これからヘリを盗んで本土へいきます。あ、ブチャラティたちの使っている回線は発見しました。何者かからコンタクトがあった模様です。内容については解析中です。気づいたらかけなおしてください」

 

 それだけいうとすぐに切り、ヘリのそばで一服している運転手を気絶させて運転席に乗り込んだ。

 

 

「ヘリの運転は…ガムテープで固定するか…?」

 

 ブランクが後部座席で紐かテープかを探していると、沈黙していたジュニアが肩から降りてきて運転席に座り、エンジンをかけた。

 

「えっ。何やってんの?」

ヘリコプター、操縦、おそわった

「メローネぇ…!」

まかせて

 

 ジュニアは慣れた手付きでスティックを握り、ペダルを踏み、あっという間に離陸した。

 

“目標”のもとへ向かう?

「うん。ちなみにどこ?」

上空一万メートル。東へ向かっている

「なるほど飛行機か…とりあえずそっちに向かおう」

 

 ジュニアは頷いて舵を切った。

 ブランクは靴の中敷きから白い粉の入った袋を取り出し、鼻で吸った。アンフェタミンはやり過ぎると良くないが程度を知っていればボロボロの体も新車みたいにキビキビ動かせる。

 お守りでずっと持っていたが今が使い時だろう。

 

 それを見てジュニアが言った。

 

ドラッグ?

「やむなくね…あ、教育には良くなかったかな」

いいや、ドラッグをやる親は“ベネ”だって、メローネが

「へー。ほんとどうかと思うよ、メローネの価値観は。先輩だから今まで遠慮して言わなかったけど、変態だよねあの人」

ジュニアに食わせちまえばよかった、とメローネが言ってます

「わ。伝えないでよ!」

 

 パソコン上ではソフトが通信内容の再現を試みているが、ノートパソコンなせいもあり思うように進まない。ブチャラティに接触を試みた側の回線は厳重に暗号化されており、同じく割り出しには時間がかかりそうだ。

 片手でやりづらそうにしているブランクを見てジュニアは尋ねる。

 

体は、痛くないの?

「痛いよ。でも平気さ。僕はもう、体から何を失っても大丈夫。怖くないよ」

どうして?

「大事なことを思い出したからね。肉体がどんなに奪われても、魂は損なわれない。だって魂は…これまで過ごした時間は、経験は、誰も奪うことはできないだろ」

 

 パソコンから音が鳴った。ブチャラティの回線に割り込んだ人物の現在位置が割れた。だが音声通話が長かったおかげで早く突き止められた。ローマのコロッセオだ。

 

 

「…ジュニア、ボスは今どこ?正確な場所を言える?」

ボスは…下降中。地上へ。地図と照らすと…ローマの国際空港だ

「なんでボスもローマに…」

 

 ブランクは空港の乗客リストを参照する。ドッピオの名前はない。

 ブランクはその後もブチャラティたちと謎のコロッセオの人物の通信記録を解析しようと試みた。画像データが送られたということしかわからなかった。

 だがもう一つ妙なアクセスを発見した。ブランクと同じプロクシサーバーを経由するアクセスだ。つまり、パッショーネの監視システムを使って同じものを調べてる人物がいる。

 

そこで電話がかかってきた。 

 

 

「はい」

『ブランク、オレだ』

「ギアッチョ、今どこです?」

『ローマの小型飛行機の発着場だ。そっちは?』

「まだ洋上です。ローマとは都合がいい。…僕も20分ほどでつきますから、合流しましょう」

『ボスはどこだ?』

「ジュニア」

フィウミチーノ空港から降りて市内に向かっています。この速度は車だが…バスだと思う

『なるほど。細かい座標を言え。オレが行ってカタつけてやる』

「待ってギアッチョ。ボスは僕らを捨て置き、ブチャラティたちを追っている。…それはなぜだと思う?」

『あ?なんでだ』

「DNAをつかんでる僕らより重要なものがそこにあるからだ。ブチャラティたちの回線を突き止めたのは僕だけじゃあない。…現場に残っていたチョコ先生の私物を漁ったんだけど、パソコンが消えてたよ。あの人のパソコンは今、全ネットワークを自由に閲覧できるようになってる」

『ボスはそれ使ってブチャラティたちのもとへ向かってるのか?』

「ああ。正確にはブチャラティたちが向かってるであろうところ。もっと言うならば、ブチャラティたちにコンタクトをとった人物のもとだ」

『そいつはどこにいる』

「ローマ、コロッセオ」

『…コロッセオの人物の正体は何であれ、オレたちよりもボスにとって脅威ってことか』

「そうです。行くならそっちでしょう。僕もすぐ向かいます」

 ブランクはパソコンをカチャカチャやってブチャラティたちに似た人物が写ったらログが出るように調整した。そのキーの音を聞いて、ギアッチョは不思議そうに尋ねる。

『…お前そんなにパソコンいじれんのになんで今まで出来ねーふりしてたんだ?』

「や…それは……余計な仕事したくなくて…」

 

 携帯電話から罵声が聞こえてきたので、ブランクは聞かずに切った。

 

 

 ジュニアは無事着陸まで完了させた。メローネの教育がすごいのかジュニアの性能がいいからなのかはわからないが、今度のジュニアも優秀だ。

 ジュニアは一般人にも見えるスタンドなため、ブランクはヘリ内にあった機材用のバックに彼を入れて運んだ。

 ブランクはとりあえず現場からとんずらして、ジュニアにご褒美としてサンドイッチを買ってやった。

 

 

 それを食べ終わるとジュニアはブランクの肘から先のなくなった右腕をバッグの中から手を伸ばして触っていった。

 正直痛いので触ってほしくはないのだが、するがままにさせた。ギアッチョとの待ち合わせ場所へ走っているとき、ジュニアがふいに話しだした。

 

ブランク。メローネからの連絡はもうこない

「えっ」

緊急手術になるって

「はー…びっくりした…死んだかと」

ぼくはブランクをささえるように言われた

 

 ジュニアはブランクの右腕にぶら下がった。そして姿が変わり、メタリックな色をした義手になった。

「えー?!かっ…かっこいい……!」

ちゃんとは動けない。形を作ってるだけで、複雑な機械にはなれないから

「…いや、十分だよ。ありがとう。これなら身軽だね。……これさ、変形できたりする?」

できるよ

 そう言って義手はさっきまで乗っていた飛行機のスティックに変わった。見てくれだけは昔読んだ日本の漫画みたいだ。単純なものなら変形可能らしい。

「やばい。かっこよすぎる!!サイボーグ!」

 ブランクは嬉しくてブンブン腕を振り回した。ふさがっていない傷口から血がドロドロと流れ出してきたのですぐにやめた。

 

 

 

 

 ローマ、テベレ川にかかるサンタンジェロ橋でブランクとギアッチョは落ち合った。

 ギアッチョはバイクに跨っており、相変わらずイライラしていた。

 

「おせーぞブランク!ジュニアはどうした」

「じゃーん!ニュー・ジュニア!」

 ブランクはターミネーターみたいな見かけに変身した義手ジュニアを見せつけた。ギアッチョは目を丸くして呟いた。

「クソかっけぇじゃねーか…!」

 

 ギアッチョの後ろに乗り、ジュニアの化ける義手の指し示す方向を確認する。ボスは今コロッセオ方面へ向かう道路だろう。指し示す手が時折停止することからして、変わらずバスに乗っているようだ。

 

「ボスは近いです」

「ボスはもう同じ手は喰らわねえ。ベイビィ・フェイスの奇襲はもう通用しない」

「ですね」

「加えてブチャラティどももこっちにきているしな」

「コロッセオにいる人物って一体どんな…」

 

 ブランクが言いかけると、急に義手がぐわんと動いた。

 ジュニアの声が緊迫感をはらんだものになる。

 

目の前だ。……くるっ!

 

 ローマの夜、オレンジの該当に照らされた道路。二人の目の前を一台のタクシーが走り抜けた。

 ガラス越しに、横顔。サルディニアで一度は捕らえたドッピオの姿が見えた。

 

「チッ…追うぞ!」

 

 ギアッチョはアクセルを踏む。今二人が追いついたことを悟られてはならない。一定の距離を保ちながら二人は会話する。

 

「ギアッチョ。僕はコロッセオにつく前にボスをやるべきだと思う!」

「…じゃあコロッセオにいるヤツはどうするんだ。ボスの敵だろうが、ブチャラティどもに協力しようとしている以上、オレたちの敵だと言える」

「ブチャラティが着くより前に両方やっつければいいじゃないですか!」

「虻蜂取らずにならなきゃいいが。そういえば……なんでアブとハチなんだよ。両方刺してくる虫ケラなのになんで取ろうとするんだ?ムカつく言葉だぜッ」

「あー、取るっていうのはぶっ殺すって意味らしいですよ」

「あァッ?!このオレに口答えすんのかテメーは」

「こんなとこでキレなくても」

 

「…だが両方やっつけるってのは賛成だ。気に入った。オレがボス、お前がコロッセオのやつだ」

「別々ですか?」

「オレは一人のほうがやりやすい。待ち伏せじゃないなら尚更な」

「僕はボスを倒す自信がありますよ!」

「どーせ自殺覚悟の特攻だろ。弱いやつはすぐそういう発想に至る」

「…覚悟の上です」

「お前、師匠とかいうのに生きろって命令されたんだろ」

「…それは……もういいんです」

「あぁ?趣旨替えか?」

「……たしかにそれは言われましたよ。でも、そんなの聞く義理はないんです。自分で決めなきゃ。決めたことを、絶対にやり遂げる。この身がどうなろうと…」

 ブランクのやや熱の入った言い方に、ギアッチョはため息混じりの冷めた声で返す。

 

「ブランク、お前はよォ…覚悟の意味を履き違えてねーか?」

「え?」

「捨てばちと覚悟は違うだろ」

 ブランクは押し黙る。ギアッチョはそのまま言葉を続ける。

 

「大体オレはまだお前が裏切ってたこと許しちゃいねーぞ。命で支払えば償えると思ってんじゃあねえ。オレに許されたいなら生きて、ボスの首をもってこなくっちゃな」

 

「ギアッチョ…」

 

 ブランクは今の自分の表情を見られなくてよかったと思った。

 

「それにオレがボスと当たるのは暗殺者チームの基本ルール、勝算が高いヤツがやる。それに従っただけだ」

「……わかった」

 

 ブランクは何も言わなかった。左手でギアッチョの肩をぎゅっと握り、前を行くタクシーを睨んだ。

 ギアッチョは座席から腰を浮かせる。代わりにブランクが後ろから手を伸ばしハンドルを握る。ホワイト・アルバムが発動し、冷気がブランクの顔面にかかる。

 

 

「…ブランク」

「ん?」

 

 標識が見えた。

コロッセオまで50メートル

 

 

「ビビってるか?」

「まさか」

 

 

 

「よし、じゃあ突っ込むぞ」

「おうよッ!」

 

 

 

 

 

 

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