【完結】ABOUT THE BLANK 作:ようぐそうとほうとふ
2000年 夏
リゾット・ネエロは実は本部にいる時間が一番長かった。会議や打ち合わせがない日もよく一人で椅子に座り、本を読んだり映画を見たり、あるいは単に酒を嗜んだりしていた。
自宅はもちろんある。だが、どうにも居心地の悪さを感じていた。仕事柄すぐ引き払えるようにあえて持ち物は少なくしている。
もちろん自分の姿、素性を掴まれない自信はある。現にスタンド使いになって6年、誰も家までやってきて自分を殺そうとした人物はいない。
それでも、家のものは増えてないし、いつまでたっても寛げない。
反面、本部はものがかなり増えていた。メンバーが各々仕事道具や不用品を持ち込んだり、単に誰も捨てない物品が一室に溜め込まれている。酒瓶も大量に転がって煩雑としている。
でもリゾットは何もない自宅よりはまだリラックスできる。
ブランクは夏の間だけ、昼間は本部に入り浸っていた。以前理由を聞いてみたところ「部屋にクーラーがない」からだそうだ。
「砂漠で暑いのはなれてるんですけど、湿気がどうも…」
ブランクは本部で本を読んだり、算数の勉強をしたりしていた。特に邪魔ではないのでよく同じ部屋にいながら無言で日が暮れるまで過ごしていた。
ある日リゾットはふと頭に浮かんだ疑問をブランクに投げかけた。
「ブランク、お前は生まれながらのスタンド使いだったか?」
ブランクは読んでいた雑誌から顔を上げて聞き返す。
「それ以外にあるんですか?」
「ああ。むしろパッショーネ構成員のほとんどが試験を受けてスタンド能力を手にしている」
「え?資格制度かなんかがあるんですか?」
フラワーコーディネーターみたいなのを想像したのだろう。ブランクは混乱したような顔をしていた。
「資格か。そう言っても差し支えはないな。通常、組織に入ろうとするとポルポのテストを受ける。その際、資格を問われる」
「テストってどういう?」
「まず…ライターの火を渡される。それを一日消さずに守りきれば合格、と伝えられる」
ブランクはニヤッと笑って言った。
「ははーん…裏があるんでしょう」
「その通り。消す消さないは問題じゃあない。消したあとライターを再点火すると、ポルポのスタンド、ブラック・サバスが現れ矢を刺す。すると資格のあるものは生き残り、スタンド能力を獲得する」
「いじわるなテストですね」
「その通り。もっとも正式に入団を希望するようなやつはそうヤワじゃあない。死ぬやつは想像よりも少ないらしいがな」
ブランクは感心したような顔をしてから、なんとなしにリゾットに尋ねた。
「リゾットさんはなんで組織の門を叩いたんです?」
「…復讐だ。よくある理由だ」
ブランクはキョトンとした顔をした。無理もない。今までリゾットはどうして自分がここにいるのかを誰かに語ったことはない。言葉の裏側の意味を汲み取ってほしいなんて望んでもいない。
始まりは、飲酒運転だった。まだ幼いいとこが馬鹿なドライバーに轢き殺された。
司法は子どもの命を奪った男にたった数年の刑期で赦しを与えた。だからリゾットが代わりに制裁を与えた。そこからずっと、自分は暗がりを進んでいる。それだけの話。
この世は実に馬鹿げている。
人々は仕組みに盲目に従う奴隷に過ぎない。目の前には正義や善はなく、ルールという名の血の通わない迷路が横たわっている。
その迷路でやれることといえば、自分が損をしないために、あるいは得をするために他人を踏みつけにする工夫だけ。
リゾットが足を踏み入れたのはあらゆる社会の中でも最も残酷な迷路で、そこでは血と暴力がすべて。
そしてルールは、ボスが決める。
毎日が耐え難いものへ変わっていく。もはやリゾットの心は諦めに支配されつつあった。
人間は、その血が心臓を巡る限り欲望のために他人を傷つける。
暴力という刃は生きている限りその身から捨てることはできない。
そして最後、自らの刃は己自身を切り裂き、死ぬ。
リゾットは自身のスタンドから、人という生き物の逃れようのない運命を感じ取っていた。
「あ…」
ブランクが小さく声を上げた。見ると、窓の外は雨が降っていた。夕立だ。
「洗濯物、干してたのにな」
ブランクはうんざりしたような顔をしてこう付け足した。
「モンド、カーネ」
リゾットが目を丸くしていると、ブランクが反応した。
「師匠が言ってました。イタリアの言葉なんでしょ?“ありゃりゃーなんてこったー”って意味だって」
そういえばブランクの第一言語は英語だった。イタリア語は勉強して覚えたというから、普段はスラングはあまり言わない。
「むかし、聞いたことがある気がする」
リゾットは誤魔化すように言った。
本当は、きちんとした意味を知っている。だがその意味は今の自分にとっては刺さるものだった。
Mondo Cane
死ぬほどでもない絶望の積み重ね。
そういうときに使う言葉だ。
「お腹減ったなぁ…よし!ご飯でも作りますかね。リゾットさんのぶんも作りますよ!」
「ああ」
ブランクは台所に置かれた空き缶と酒瓶を腕で退けてまとめて袋に落とした。缶詰といつのものだかわからない調味料を適当に鍋に放り込んで行く。
「何を作る気だ」
「無難煮」
「…なるほど」
別に美味しい料理が食べたいわけではなかったのでスルーした。ブランクはたまに何かを作っているが、メンバーからは特に褒められてもけなされてもいなかった。
理由は出されたものを見てすぐにわかった。本人の無難煮という言葉通り、無難な具材が無難な味に仕上がっている。美味しくもまずくもない。
「料理は好きなのか?」
「好きではないです。でもよく師匠のご飯作ってました。僕はどんな食材でも無難に仕上げられるので。だから“無難煮”なんですよ」
ブランクの断片的な昔話から伝わるのは、長らく砂漠にいたこと。メキシコやキューバにも行っていたらしいこと。そこで師匠に狙撃を教わったということ。
そしてその思い出をとても美しいものとして記憶しているらしいということだった。
「砂漠はね、夜はとっても寒いんだけど、建物にも、何にも邪魔されないから星が空いっぱいに広がってるんだ」
ブランクは無難煮をパクパク食べながら、空の広さを手でなんとか表現しようとして手を上へ伸ばした。
「僕、地球が丸いのは知ってるんですけど。普通に生きててそんなこと意識しないじゃないですか。でもいっぱいに広がった星空を見ていると、それがわかるんです」
きっと脳裏にはその夜空が浮かんでいるのだろう。本当に、出会ったときとは比べ物にならないほど表情豊かになったものだ。
「端から端まで、全部いっぺんに見ることができないくらい、星屑が広がってるんですよ。空の中にいるみたいに」
それは自分には想像できないくらい、美しいのだろう。もう、自分はそんなふうに純粋に感動することなんてないような気がした。
でも、いつかそんな光景を見てみてみたいような気もする。
ローマのオレンジの街灯で彩られた夜に、派手な破壊音が鳴り響いた。
ブランクがハンドルを握ったバイクはドッピオの乗るタクシーへアクセル全開でぶつかった。ギアッチョはそのまま屋根に飛び移り、瞬時に車体全体を冷やした。
タクシーはスリップし、街灯に衝突した。
クラクションがずっと鳴り響いている。タイヤは四輪とも凍りついていて、窓ガラスは衝撃で粉々に砕け、道へ飛び散っている。
ブランクは前輪が外れかけたバイクからすぐに飛び降りて着地した。
ギアッチョはタクシーの背後にたち、後部座席に誰もいない事を確認しすぐにブランクにハンドサインを送る。タクシーは黒煙を上げ、燃えはじめた。
ブランクはバイクを捨てて全力でコロッセオめがけ走る。
ホワイト・アルバムが瞬間的に冷やせる範囲はじつは狭い。
大気中の水分を凍らせるジェントリー・ウィープス。日に何度も使ってりゃバテ気味なのも当然だ。
ボスの射程、おそらく半径2メートルを一瞬にして極低温にするだけの力は何回分も残っていない。
ボスが自分を殺しに接近する、たった一回に賭ける。
ホワイト・アルバムの装甲は砕けることはない。
失敗して喰らっても致命傷には至らないと思いたい。
「ボス相手にその希望は甘すぎるわな」
地面はどんどん凍っていく。隠れていようが逃げ出そうとしようが、誰もギアッチョのホワイト・アルバムの極低温からは逃さない。
「やはり追ってきたな」
ディアボロは当然のように無傷だった。一瞬のうちに攻撃を予知し、窓を破壊して時を飛ばし身を潜めるのは容易だ。
奴らが確実にこのディアボロに追いつくことはわかっていた。だがブランクは脇目も振らずコロッセオに向かっている。やつもまたブチャラティたちとコンタクトをとった人物を割り出したらしい。
チョコラータの死体から奪ったパソコンはシステムの全権限が与えられており、不正アクセスのもとを辿るのにそう時間はかからなかった。だが、内容まではわからない。
ただ、端的に言えば
娘がいるとわかる数日前にも感じた不吉な予感。全く同じ感覚が背筋を走り、自分の行き先に影を投じた。
「オレは直感を信じる。…コロッセオにはオレの絶頂を阻む何かがある。運というものは悪いときはことごとく悪い。ヴェネツィアでお前たちを仕損じた結果何度も辛酸を舐めさせられた。だからここで確実に始末してやる」
キング・クリムゾンは再びすべての時を消し飛ばす。
飛ばされた時間を認識できるのはディアボロただ一人。絶対零度は静止の世界?笑わせる。
キング・クリムゾンは飛んだ時の中、世界に干渉することはできない。空気は冷やされ続け、霜はおり、星は流れる。
故に攻撃とは時を飛ばし、その間に予備動作を行い、他者が時間を正常に認識できるようになるその瞬間致命傷を与えること。
予測可能、防御不可能の攻撃。
ギアッチョのホワイト・アルバムの反応速度にもよるがやつの防御力ならひょっとしたら致命傷を免れ、時を飛ばそうとお構いなしの冷却を食らわせてくる可能性がある。
防御力もさることながら瞬発力に自信があるのだろう。でなければいまここで当たるという判断はできない。
ならばこちらも最大限の力を以ってしてねじ伏せる。
ギアッチョは時間が飛んだと直感的に理解した。何かが急に自分の背後に現れたのが音でわかった。
自身の半径二メートルにジェントリー・ウィープスで作り出した氷片のたてる音が攻撃の合図だ。
「“接近した”とわかれば十分だッ!」
ギアッチョは即時周囲の空気を冷却する。そして回し蹴りを叩き込む。
「っ…!」
だが粉々に砕け散ったのはボスじゃない。先程ドッピオを乗せていたタクシーの運転手だ。いつの間にか入れ替わっている。
そしてまた時間が飛ぶ。背骨に強い衝撃が走り、前へつんのめる。装甲は無事だが防御しそこねたお陰で衝撃はしっかり伝わった。
ボスは接近を避けて道路標識を折ってぶん投げてきやがった。
その道路標識が落ちる前に、また時間が飛ぶ。
「うッ……?!」
気付けば腹に折れたポールの切っ先が当たっていた。
この先歩行者優先
標識の向こうに、ボスがキング・クリムゾンの拳を振り上げこちらを見ている。
炎に照らされるその顔は、ドッピオの面影など微塵もない悪魔のような笑みを携えていた。
そしてキング・クリムゾンは渾身の力を込めてポールを突いた。想像以上のパワーだ。ギアッチョはすぐにポールを握り、切っ先がこれ以上装甲に食い込まないように冷却する。
「なるほど。その装甲は相当硬いなッ…!」
また時間が飛んだ。
今度は空気の流れも何もなかった。焼けたタイヤが目の前に投げ込まれ、そのベタつく煙がヘルメットに付着し、凍る。
「あッ…?!」
ギアッチョは視界を奪われ、自身の周囲への警戒をコンマ数秒損なった。ボスはその隙を逃さない。
だが、地面を踏み込んだのとほぼ同時に銃声が聞こえた。
「チッ……!やっぱりピストルズでも当たらねぇ。軌道を完全に読まれてるぜ!」
「…あの後ろ姿。間違いない、ボスだ」
ブチャラティたちはボートを使い、車を使い、ようやくローマにたどり着いた。
コロッセオまであと40メートルというところで爆発音が響き、ギアッチョが殺されかけていたのを見つけた。ブチャラティとミスタが亀の外に出て現場を偵察していた矢先のことだった。
まさかすでに暗殺チームも、そしてボスまでもがコロッセオに集結していたとは。
ミスタは弾を装填してからブチャラティの方を見る。
「交戦してるのはギアッチョだけだな?あいつに当たっちまった…生き残りはあいつだけか?」
「さあな。いずれにせよここでボスにコロッセオに到達されるのはまずい!男がまだいるかどうかわからないがこの騒ぎはもう知っているだろう。今すぐ行かねば」
「じゃあオレとジョルノでボスを食い止める!ブチャラティ、トリッシュを頼んだぜ」
ミスタは亀を投げ渡した。ブチャラティはしっかりそれを抱いた。亀の中からジョルノが出てきて、前方をにらみつける。
「行ってください、ブチャラティ」
「ああ。ボスを殺せるチャンスがあれば殺せ。…いいな」
「当然だ!」
ジャッと音を立ててシリンダーが回転した。
ギアッチョは気がついたら顔面に銃弾を食らっていた。
この攻撃…拳銃使いのミスタか?また時が飛んだのか。
その認識が一瞬曇った勘を冴え渡らせた。銃弾の熱が今は有り難い。その熱が消える前に一瞬周囲の冷却を解除し、手で汚れを拭う。
炎のオレンジに照らされたミスタとジョルノが走ってくるのが見えてギアッチョはブチ切れた。
「チクショーーッ!オレに当ててんじゃあねえ!グイード・ミスタ!ぶち殺されてーのか!!」
「うるせー!狙いはボスだ!今たしかに背中が見えたぜッ…ここで殺ればよォー!焦る必要はねぇからな!」
「ざけんなッ……!ボスをやんのはオレたちだ…ジェントリー・ウィープス!!」
ギアッチョは叫ぶ。おそらくこれが最後のジェントリー・ウィープスだ。密度は低いが、半径10メートルに氷の檻が構築される。
その檻の破壊された部分にギアッチョは先程打ち込まれたポールをぶん投げた。
ミスタもそれを察しセックス・ピストルズを放つ。
「イクゼッ…!オメーラ気合イレテケェーーッ!」
「コノ氷デ弾道ヲ撹乱スルッ!時間差攻撃ダ!」
ギャギギャギギギギ
檻の中を跳ね返りながら弾丸はディアボロを捉えた。キング・クリムゾンにより弾は一発外れる。だがピストルズは外れた場合にも跳ね返れるよう、氷片を目指している。跳ね返った弾が外れようと止まらない限りピストルズはディアボロを狙い続ける。
「小細工をしたところで…」
仕掛けがわかってすぐにディアボロはピストルズの一匹を捕まえ、握りつぶす。
ミスタの脇腹にでかい傷ができる。
「よくやったミスタ!ボスの体にゴールド・エクスペリエンスで作ったてんとう虫をつけることに成功したッ!これで位置は完璧にわかるッ」
ジョルノは暗がりに向けて指差す。確かに今誰かが動いた。
ミスタが叫ぶ。
「テメーもっと冷やせコラーーッ!」
「ハァ?!無茶言うんじゃあねェッ!」
ジョルノは炎のゆらめきが不自然に揺れるのを目撃した。
「また時が飛んだぞ!」
そしてジョルノめがけてバイクの残骸が投げられた。ジョルノはゴールド・エクスペリエンスでバイクを叩き壊す。反射的に三人は背中を合わせて全方位を警戒する体勢をとった。
足元に広がった水溜りに波紋ができる。水はギアッチョの足元から凍りついていく。
ボスの姿は見えない。
ジョルノは生命エネルギーを探知し、その方向を指差す。
「そこだッ!ミスタ撃てッ」
ミスタは撃つ。だが音を認識することはできなかった。気づいたときにはジョルノの首めがけて振り下ろされたキング・クリムゾンの腕が、ジョルノの顔の半分ごと凍りついていた。
「やはり狙いはジョルノだったな!このまま氷漬けにしてやるぜボス…ッ!ジョルノごとなあッ!」
ギアッチョはボスの攻撃対象を完全に予期し、“捕らえた”と確信した。だがキング・クリムゾンのそばに立つボスの手にはいつの間にか奪ったミスタの銃が握られていた。
「一発だ。オレがお前たちを仕留めるのには一発でいい」
「ッ…まさかこの水ッ…そしてバイクは…」
ジョルノがつぶやく。
銃口が火を吹いた。そして、火種は炎となり、周囲に爆音を轟かせた。
遠くで事故でも起きたかのような大きな音がして、ポルナレフは双眼鏡を使いあたりの様子をうかがった。
コロッセオで待つ男。ブチャラティたちに矢の力を与えようとしている、かつてのスターダストクルセイダー。ボスを倒す希望を与えるためにこうして待ってはいるが、どうもその希望も風前の灯らしい。
だが自分には待つことしかできない。誰かがたどり着くと信じて。
チキチキ……
金属のこすれる音が聞こえ、ポルナレフは瞬間的に
背後に忍び寄る何者かはその切っ先を躱し、気配を顕にした。
ポルナレフはそちらを向く。遮られていた月明かりが忍び寄ってきた人物を照らした。
それは、赤毛の痩身の少年だった。全身傷だらけだがしっかりとした足取りで、ゆっくり一歩歩み出た。青い瞳がポルナレフをまっすぐ見据えた。
「お前は暗殺者チームの…」
「僕はヴォート・ブランクだ。あんたはボスの何なんだ?答えろ」
ブランクは手ぶらだった。スタンド像が出ていないにも関わらず、不穏な殺気をはなっている。
ヴォート・ブランクという名は資料にあった。裏切り者の暗殺者チームの一員で、他者のスタンドをコピーするスタンドを有している。となると半端な憶測で敵の力量を図るべきではない。足元をすくわれる。
ポルナレフが黙っていると焦りにも似た声色でブランクが言った。
「聞こえないのか!僕の仲間が、死ぬ気で時間を作ってる。ボスはもうすぐ目の前まで来ている」
遠くから、また爆音が聞こえてくる。ポルナレフは慎重に答える。
「わたしはポルナレフ。ディアボロはこの体の仇だ」
「ディアボロ…?」
「やつの名だ」
「…ポルナレフ、ブチャラティたちになぜコンタクトをとった?ディアボロは僕らを殺すことより、あんたを優先してこっちに一直線に向かっている。あんたは何を隠し持ってんだ?」
チキチキチキチキチキチキ
「お前たちこそ何故ボスを倒そうとする。麻薬ルートのためか?金?権力?そんなもののために戦っているやつに答える筋合いはない」
「金だって?バカバカしい。僕らの動機はただひとつだ。汚名返上、そして仲間の名誉回復だ。必ずこの手でボスを地獄に送る。それが今、僕がここにいる動機だ」
ヂギッ
ひときわ大きい金属音が聞こえた。同時に、ブランクが怒鳴る。
「話してもらうからな!ポルナレフッ」
途端腕が捻り上げられ、車椅子の車軸が歪んでポルナレフは地面に投げ出される。
「シルバーチャリオッツ!」
チャリオッツに以前のようなパワーはない。それでも相手に距離をつめられないため弧を描くように剣を振り抜くつもりだった。
ブランクもチャリオッツの斬撃の届く範囲を見極め、剣先を避けるつもりだった。
だが
「え…」
ブランクの頬からは血が垂れている。
「いつ…切られた?」
「いつ剣を振り切ったんだ」
二人はほとんど同時に、息を呑む。
「まさか」
階段の影から、足音が響いた。
「まずい…いつの間に…ッ」
「ボス…いや、ディアボロ…!」
そして、長い影が踊り場に差す。
「この一連の出来事は、過去に打ち勝てという「試練」だとオレは受けとった。人の成長は未熟な過去に打ち勝つことだとな…」
あらわれたのは“ディアボロ”。
「そうだろう。J・P・ポルナレフ。過去は、ばらばらにしても…石の下からミミズのように這い上がってくる」