【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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バッド・トリップ
00.ギャンブラー:過去


 

 暗殺にも繁忙期と閑散期があり、その依頼数は季節に結構左右されている。経済関係の依頼は月末に固まったり、人間関係のもつれは意外と秋に多い。

 つまりまるまる一ヶ月、全くやることがない。そういう時期がある。

 召集もかからない。依頼がない。そんな日が二週間続いた頃に本部へ行くと、暇な連中がたむろしている。

 その日はイルーゾォ、ペッシ、ギアッチョ、ブランクの四人が揃い、テーブルを囲んでいた。

 もう一人、ホルマジオもいたが、今は仮眠室で寝ている。彼の場合は暇なのではなく、昨晩徹夜でプロシュートと飲み明かし家に帰ってないだけだった。

 

 テーブルの上にはトランプのケースがおかれており、ブランクがディーラーよろしくショットガンシャッフルを披露していた。

 

「次もまたポーカーで?」

 

 ブランクの問いかけにイルーゾォが若干悩ましげに、自分のおさげをくるくるともて遊びながら答えた。

「金かけたところでよォー…このメンツじゃ盛り上がりにかけるぜ。賭け金が堅実なんだよ」

「だって…そもそも手持ちが少ないんですぜ、オレたち新入りは」

「僕もメローネ先輩への借金の利子が…」

「付き合ってやってんのにしらけてんじゃねーよ」

 しょんぼりするペッシとブランクに、片手間にクロスワードパズル雑誌を読んでいたギアッチョが文句を言った。

 低迷したテンションにゲームはもうお開きかと思われた。だがそこでブランクが妙案を思いついたと言わんばかりに立ち上がり、こう提案した。

 

「そうだ。罰ゲームをかけることにしません?」

 

「は?」

「超単純。負けたら罰ゲーム。罰ゲームはみんなが紙に書いて箱にでも入れて、敗者がひく」

「いいね!」

 ペッシはそれが気に入ったらしいが、イルーゾォはちょっと躊躇った。

「なんだかガキっぽくねえか?」

「でも罰ゲームの発案は僕らですよ。どうせえげつないものばかり揃うに決まってます。ゲームに緊張感が生まれますよ」

 ブランクの言い分はそれなりに筋が通っているように思えた。それにまあ、金を失うことよりも恥をかくことのほうが嫌だ。緊張感という点では悪くはないかもしれない。ギアッチョも雑誌を放り出してやる気をみせた。

「のった」

「…まあ試してみるのも悪くねーか」

 

 早速各々適当な紙に罰ゲームを書き出した。ペッシはちょっと悩んでいるようだった。

「罰ゲームか…自分で引く可能性もあるんだよな?」

「負けなきゃいいんですよ負けなきゃ!」

 ブランクはサラサラっと書いて折りたたんだ。ギアッチョも書き終わったらしく、トランプのケースに札を入れブランクに渡した。

 四人とも札を入れ終わると、ブランクがカードを配りだした。

 

「……オーケー。では種目は」

 

 

ババ抜き

 

 

「シンプル…」

「故に奥深い!」

「まあ敗者ははっきりしてんな」

 

 ババ抜きは知っての通り、順番に手札を引き合い、数字を揃えて捨てていき、最後までジョーカーを持っていたプレイヤーの負けというシンプルなゲームだ。

 

 手札の一番多いペッシからブランク、イルーゾォ、ギアッチョの順で回ることとなった。

 ペッシの札からブランクが早速一枚引いた。揃った札を捨ててイルーゾォの方へ向ける。

 

「オレすぐ顔に出ちゃうんだよなぁ…」

 ペッシは口をへの字にして自分の手札を見た。その表情を見てギアッチョがニヤッと笑う。

「ふん。ペッシ…左端のがジョーカーだろ?」

「や、やめてくれよ!」

「おおっと図星か?」

「も、もうオレ自分の手札見ねえ!」

 ペッシはギアッチョから引いた札を手持ちに加えてからぎゅっと目を瞑ってしまう。

「じゃあ僕が確かめちゃお。…お、マジだった」

 ブランクはしめしめと、先程ジョーカーだと疑われた左端の札を引いた。

 それを見てイルーゾォは呆れ顔だ。

「お前馬鹿なのか?」

「フッ…バカはイルーゾォ先輩の方ですよ。僕はあんたを絶対に罰ゲーム沼に沈めるつもりなんですからねッ」

 ブランクは手札をシャッフルしてからイルーゾォに提示した。

「このオレにジョーカーを引かせる気かァ?面白え」

 しかしブランクの勢いに反して、イルーゾォはジョーカーを引かず数字を揃えて手札を捨てた。

 

 淡々とゲームは進み、ペッシの残り一枚をブランクが引いた。

「オレイチ抜けだ!」

「……ぬう…」

 ブランクの手持ちは3枚で、イルーゾォがさっとそこから一枚引いた。

「おォーっと?どうやらオレも揃っちまったみたいだな」

 イルーゾォは厭味ったらしく笑い、自分の手をパーにしてブランクに見せた。

「ギアッチョ先輩……」

 ギアッチョの持ち札は残り一枚だった。ババ抜きは二回連続して誰かに引いてもらうことはできない。つまりブランクはギアッチョの手札から引く他ない。

 

「…てめーが引く番だぜ」

「ぐ…」

「早く引けよ、オレのラスト一枚を」

「クソォオーーーッ!」

 ブランクは悔しさで顔をあげられないままギアッチョの札をとった。ブランクの手元にはジョーカーとクローバー、ハートの4の札が残っていた。

「バァァーカ!」

「策に溺れやがって」

「チクショー!あんた地味にカンがいいなぁ!」

 イルーゾォはゲラゲラ笑い、ギアッチョもくすくす笑ってブランクをコケにした。ペッシだけが申し訳なさそうな顔をしてブランクに気づかわしげな視線をやっていた。

「なんかゴメンな、ブランク」

「いいえ…こればっかりは僕が愚かでした…」

 

 ブランクは泣く泣くトランプケースにしまわれた罰ゲームくじを引いた。おられた紙を開くと、そこに書かれていたのは

 

 

床に座る

 

 

「ぬるい!」

「誰だこんなぬるい罰ゲーム書いたの!」

 ペッシがおずおず手を上げるとギアッチョは大きなため息をこれみよがしにつき、乱暴に次の罰ゲームの札を書いてトランプケースにしまった。

「次はもっとやべーやつにしろよな」

「お、おう…!えーっと…」

 

 ペッシ、ブランクもささっと罰を書き、再びトランプをシャッフルした。

 

「じゃ…今のはお試しということで。気を取り直してババ抜き再戦といきましょうか」

 

 ブランクは同じ失敗を二度は繰り返さなかった。ペッシも今回は初手でジョーカーを引くことなく、またも一番に上がった。

 今回はブランクがジョーカーを持っており、イルーゾォにひかせることに成功した。イルーゾォとギアッチョ間でジョーカーは往復し、最後の最後、イルーゾォはギアッチョの眉間の血管の浮き具合でジョーカーを判別する方法を発見して勝利を収めた。

 

 今回の罰ゲームは“酒をコップ一杯一気飲み”というシンプルなものだった。イルーゾォの書いた罰で、ギアッチョはヌルいぜと言いながらジンを一気した。

 だがギアッチョは特段酒に強いわけではない。一気は堪えたのか、早くも顔が赤らんでテンションが上がっていた。

 

「ババ抜きなんてやってらんねーぜ!飽きた!もっと戦略性のあるもんにしろッ」

「ではローリング・ストーンなんてどうでしょう?」

 

 ローリング・ストーンはまず手札八枚がプレイヤーに配られる。そして一番最初のプレイヤーが場に好きなカードを出す。次のプレイヤーは場に出されたカードと同じマークのカードを出さなくてはならない。

 全員が同じマークのカードを出せた場合、最も数字の大きいカードを出したプレイヤーが次に最初にカードを出せる。

 同じマークのカードが出せない場合、場にだされたカードをすべて引き取らなくてはならない。そして引き取ったものが次に最初にカードを出すことになる。

 はじめに手札がなくなったものが勝利となり、以下の順位は手札の枚数で決まる。今回の場合は最も手札が多いものが罰ゲームを受けることになる。

 

「なんだよ、単純なゲームだな」

「結構運で左右される気が…」

「いや、最初にカードを出す人間が圧倒的有利ですよこれ」

 ブランクはじっくり考えて自分の札を見た。ギアッチョもメガネを直しながら手札を確認していた。

 

「ブツクサ言ってねーでとっととやろーぜ」

 イルーゾォが促し、先程イチ抜けしたペッシがダイヤの6を出した。次々とダイヤが出され、Kを出したブランクが親になった。ブランクはクローバーの3を出し、場にはカードがどんどん溜まっていく。

 4巡目、イルーゾォが親になったときについにペッシがカードを出せなくなった。

「えっ…うわ!マジかよぉ〜〜こんな枚数捌ききれるわけがねえ!」

 20枚近くに膨れ上がった自分の手札を見てペッシが悲鳴を上げる。

 案の定ペッシは手札を捌ききれず、ギアッチョの上がりで無事最下位が確定した。引いた罰ゲームは

 

タバスコ一気飲み

 

「一気飲み好きだなオイッ!」

 これにはギアッチョがキレた。案の定イルーゾォの書いた罰ゲームだった。

「オッ…オレ、タバスコは嫌いじゃあないけどさ…こんなに飲んだら流石に、体に悪いんじゃあ…」

「あァ?罰ゲームなんだから当然だろうが。それとも罰ゲームもマンモーニ用じゃなきゃだめか?」

 イルーゾォはここぞとばかりに挑発する。見え見えの挑発だったがペッシはムッとした顔でタバスコの蓋を開けた。

「…飲むよ。こんなの余裕だ。マンモーニなんて言わせねぇ!」

「ペッシアニキィ…!」

 ペッシは迷いを振り払うようにタバスコを一気飲みした。当然その味覚を超えた辛さ、痛みに悶え苦しむ。

「ペッシ、ほら飲め」

 ギアッチョがいかにも水っぽく差し出したのは先程のジンの残りで、ペッシは飲んだ途端ぶっ倒れてしまう。

 

「こ、これは流石にプロシュート兄貴に怒られるのでは…?」

「こねーこねー。息もしてるし大丈夫だろ」

「しばらく再起不能のようだな。…よし、3人で次だ」

 ギアッチョは目が据わっていた。シラフのイルーゾォとブランクだったがお互いがお互いに罰ゲームを仕掛けたいため降りようなどとは言わなかった。

 

「…では、さっきと同じで?」

「ああ」 

 

 ブランクは手際よくカードを配り、第二戦が始まった。

 

「じゃあさっき三位だったブランクからでいいか?」

「やったーラッキー!」

「デッキ構築は完了だ。いつでもいいぜ」

「……デッキ?」

 ギアッチョは自信ありげにメガネをクイッと上げた。

「見えたぜ…このゲームの勝ち筋がな」

 ブランクはそんなギアッチョをみてイルーゾォに小声で囁いた。

「彼、そーとー酔ってませんか?」

「ああ。こういう酔い方は見たことねー…」

「早く出せブランク!」

「は、はあ…」

 

 ブランクは場にクローバーの7を出した。イルーゾォが次にQを出し、ギアッチョが8を出す。一巡目はクリアされ、イルーゾォが好きなカードを出せる。

 だが3周目、ギアッチョはカードを出さずに場に出ていた8枚を回収した。

「おやおや?」

 ブランクが煽り気味に笑ってもキレたりしなかった。それがなおさらイルーゾォとブランクを不安にさせた。

 だが5巡目でギアッチョがカードを回収した狙いが見えた。残り手札三枚ともなると確実に出せないマークがでてくる。

 そこでイルーゾォはギアッチョの初回の負けの理由がわかった。

 だがギアッチョは序盤にあえて負け、親になることで場をコントロールしていたのだ。どのマークでも最強のカードが出せるように。

 

「チッ…なるほどな…奥が深いぜ」

 

 ギアッチョがどんどん手札を消化して一番に抜け、ゲームは終わった。結果はイルーゾォの最下位だ。

 いやいや引いた札に書かれていたのはものすごく汚いブランクの文字だった。

 

メローネの服を着る

 

「…?!」

「おっ!ついに引きましたねぇ!」

「てめぇッ…!ふざけてるのかっ…!」

「いやぁ…」

 

 思わずブランクに掴みかかるイルーゾォにギアッチョが野次を飛ばす。

「罰ゲームなんだからやんねーとなぁ!年上ぇ!」

 タバスコと酒の暴力から復活したペッシもじっとりとした目でイルーゾォを見ていた。

「逃げるんですかい?イルーゾォの兄貴よォ…」

「クソッ…!」

「まあまあ…イルーゾォ先輩が肌を見せるのが嫌って言うのなら、毛布をかぶっていただいても構いませんよ?」

 ブランクの挑発はかなり効いた。しかもほか二人の視線はマジであり、乗らざるを得なかった。

 

「うるせー!恥ずかしくなんかねーよッ!このイルーゾォ様を舐めてんじゃあねーぞ」

 

 イルーゾォは立ち上がり、ロッカールームへ向かった。

 

 

 

「ペッシも復活したし大富豪しようぜ。ベタに」

「いいですね」

「特殊ルールはどうする?」

 

 ギアッチョ、ペッシ、ブランクが和気藹々としている横でイルーゾォはメローネの服を着て縮こまっていた。

 お情けでマスクをかぶることは免れたが、上半身の更に右側だけ寒い状況に身体がなれない。ヤケになって酒を煽り、配られたカードを確認した。

 大富豪はオーソドックスで、さらに戦略性も必要なゲームだった。ブランクを叩き落とすならばここである。

 

 だがブランクも負けるわけには行かない。次の罰ゲームはさっきよりも過激なものになっているに違いなかったからだ。

 

「ジーザス…!」

 

 だがブランクは唸った。手札にあった最強のカードはQで、あとは連番でもなんでもないカードしかない。ここにきてトランプの神様は微笑まなかった。

 

 

 そしてカス札しかないブランクは順当に負けた。

 泣く泣く罰ゲームを引いてそこに書かれた内容に悲鳴を上げた。

 

「“ホルマジオのボーズに線を追加”?!誰だよこれ書いたの!」

 

「オレだ」

 ギアッチョが片手を上げて答えた。

「ギアッチョ、お前かなり酔ってるんだな」

「や、やらねばなるまいですか?僕はホルマジオ先輩をこの中の誰よりも尊敬しているのに?!」

 大体のことなら素直に従うブランクだが、一番世話になっているホルマジオに対してのいたずらは流石に躊躇った。だがむしろそれが最高にいじりがいがある。

 

「全員やってんだぞ?」

「今更逃げんのかァ?」

「裏切り者」

「恥知らず」

「くっ…クソ…!そんな…!」

 ここぞとばかりに飛んできたブーイングにブランクは挫けそうになった。唯一ペッシだけが優しげにブランクの肩を叩いた。

「たしかに、最高難易度のミッションだ。オレ協力するよブランク…!」

「ペッシアニキ…!そっち方向に援護してくれるんですね…でも嬉しい!」

 ブランクとペッシが肩を組んで友情を確かめあってるのを見て、イルーゾォはヘッと鼻で笑った。

「オレはごめんだぜ!あいつキレるととんでもねーんだぞ」

「イルーゾォ、てめー薄情だな」

「あぁ?!ギアッチョ、お前まさか…」

「オレはのるぜ」

「かなり酔ってるな!貴様」

 ギアッチョは二人に加わり、今度はイルーゾォが煽られた。

「この薄情者が」

「インチキのスタンド」

「おさげ」

「寒そう」

 

 多勢に無勢だった。それに、どうせ実行するのはブランクだ。イルーゾォは大きなため息をついてから膝を叩いた。

 

「てめーら……あーもうわかった。しょぉーがねーなぁー!」

「いえーい!」

 

 ホルマジオはまだ仮眠室で寝ている。立てた作戦はめちゃくちゃシンプルだった。ブランクが侵入、実行。

 ホルマジオが目覚め命に危険が及ぶ場合、マン・イン・ザ・ミラーでブランクを引きずり込み脱出する。

「結局オレ頼みの作戦じゃねーか」

「頼りにしてますよ先輩」

「てめーはこういう時だけ調子いいんだよな」

「何をおっしゃる。僕は先輩がいないとこでめっちゃ褒めてるんですよ」

「いるところで言えッ」

 

 ブランクは手にしたカミソリで十字を切った。

 

「ではいってきます」

「死ぬなよ」

「グッドラック…」

「ちゃんとおしゃれに剃り込んでこいよ」

「無茶苦茶だぁ…」

 

 ブランクは靴音をたてないように裸足で仮眠室に忍び込んだ。ホルマジオは奥のベッドで寝息を立てていた。二日酔いなのか寝苦しそうだ。

 ブランクは深呼吸してカミソリを握った。ホルマジオの坊主には古傷の線が二本ある。もう一本入れろとのことだが、中途半端な右の線を生え際まで伸ばしてもいいかもしれない。

 恐る恐るホルマジオの頭に手を伸ばし、脳内でイメトレした。いざ剃り込み!と坊主に触れた瞬間、カミソリを持ったブランクの手をホルマジオが掴んだ。

 

「何の用だよ…」

「ギャァーーッ!!」

「あんだけ騒いでりゃ病人だって目を覚ますぜ。…で、何するつもりだったんだテメーはよォ…」

「あ…ああ…」

 ブランクはとっさに手鏡を翳そうとしたがポケットに伸ばす手も捕まえられてしまう。

「た、助けてーッ!」

「ブランク!助太刀に来たぞ」

 そこでペッシが扉を開けて現れた。ジンの空き瓶を構えている。ホルマジオは寝起きに連続して見せられる不可解な光景に困惑していた。

「アニキ!」

「オレに構わず逃げろーッ」

 ホルマジオは突っ込んでくるペッシの頭をぐっと鷲掴みにしてベッドに倒した。そのスキにブランクは鏡を取り出した。

「マン・イン・ザ・ミラー!ホルマジオ先輩をかっさらってください!」

 そのブランクの無茶振りにイルーゾォは応えてしまった。

 

 

「イルーゾォ!てめーまでグ…」

 

 鏡の世界に引きずり込まれたホルマジオはプッツンしながらイルーゾォの姿を探した。だがその姿が目に入った途端怒りは霧散した。

 

 メローネの服を着たイルーゾォが佇んでいる。しかも身長差のせいでパッツパツの。

 

「お前………そ、その格好はオレを笑かすため…じゃあねーよな?」

「あ」

 

 イルーゾォは酔いと熱狂のせいで自分が傍から見てやばい格好をしているのを忘れていた。

 

「違うッ!これは…これはアレだ。罰ゲームで!」

 

 ホルマジオはもう言葉が話せないくらい笑って腹を抱えて蹲っている。

「笑ってんじゃあねえよッ!」

「笑うなっていうほうが無理だろーがそんな格好!」

「クソッ!全部ブランクのせいだッ…あのヤローこうなったら意地でもホルマジオと戦わせてやる!」

 

 

 イルーゾォはブランクを探した。見つけ次第鏡の世界に引きずり込んでやろうとしたが何処にもいない。ソファーの上ではギアッチョが爆睡しており、ペッシも一緒に消えている。

 

「あいつ逃げたなッ!」

「はぁ〜…久々に死ぬほど笑えたな。じゃあそろそろ出してくれ」

「そういう趣旨じゃねーんだよこれはッ!」

 イルーゾォは怒鳴ったが、もはや何を言ってもやってもホルマジオはツボに入るらしく、ブルブル震えて笑いを必死に噛み殺していた。

「ヤベーなそれ。宴会芸にできるぜマジで」

「しねーよ!クソッ…あいつらァー!」

 


 

 

 ブランクはペッシとともに、颯爽と本部に現れたプロシュートをダシにして脱出に成功した。プロシュートは忘れ物を取りに来ただけだったらしく、午後のティータイムがてら二人を落ち着いたカフェに連れてきた。

 

「はぁ〜プロシュート兄貴の知ってるお店はどれもこれもおしゃれで素敵ですね」

「お前も美味い店はちゃんと覚えておけよ。嗜みだ」

 ブランクは危機から脱した安心感に包まれながら紅茶を啜った。ペッシもココアをかき混ぜてからプリンを食べる。

「タバスコのせいで味がわからねえ…!」

「タバスコだぁ?」

「は、ははは…」

 

 ブランクとプロシュートのパンケーキも届き、みんなある程度食べ進むとプロシュートがブランクにたずねた。

 

「イルーゾォとホルマジオとはどうだ?うまくやれてるか」

「ああ、それはもう!二人共なんやかんや優しいですし頼りになりますよ。大人!」

「そりゃよかったじゃねーか。…正直心配していたんだ。ホルマジオはまあともかく、イルーゾォはかなり我が強いからな」

「たしかに若干意地悪だよな…あ、悪口じゃあねーですぜ、兄貴」

「まあ言いたいことはわかるぜ」

 プロシュートはペッシの面倒を見ているとはいえ、同じく新入りのブランクに対して気にかけていたようだった。

「そーですねえ。兄がいたらあんな感じなのかもしれませんね。でも僕は好きですよ。イルーゾォ先輩はもしかしたら僕の事あんま好きじゃないかもしれませんが…」

「そうか?かなり可愛がってるようにみえるが」

 プロシュートの言葉にブランクは少しだけ驚いた。

「ほんとですか?」

「ああ。やっぱ弟分ができると意識も変わるんじゃあないか?」

「弟分かあ……でももしかしたら今日でそれも終わりかも…」

「お、オレも一緒に怒られるよブランク…」

「一体何したんだ?てめーら…」

 ペッシとブランクが襲われている謎の焦燥感に、プロシュートは半笑いだった。

 


 

 ブランクが本部に帰ると誰もいなかった。ちゃんと謝ろうとしていたのに肩透かしを食らい、そのままソファーに寝転んだ。

 雑誌を読んだりしているうちに眠くなり、家に帰るのも面倒くさくなってそのまま寝た。

 

 次に目を覚ましたとき、時計は夜の11時を回っていた。

「…ん?」

 腹のあたりにメローネの服がかけられていた。シャワールームへ続く廊下から気配がし、ブランクは上体を起こしてそっちを見た。

「げぇっ!イルーゾォ先輩…」

 廊下の奥から出てきたのはいつもの服のイルーゾォだった。みんな帰ったのかと思ったが飯でも食べにでかけていただけらしい。

「あ、てめーブランク。よく呑気に寝ていられたな」

「い、いやあ…その。逃げたのを謝りに戻ってきたんですけど…」

「謝んなら最初から逃げるな。ったく…そのメローネの服、お前がクリーニング出しとけよな」

「あ、そーいう…」

「……で」

「ん?」

「何しに戻ってきたんだよ。さっき言ってたろーが」

「ああ!…逃げてすみませんでした」

「よし」

 

 イルーゾォはそう言ってミネラルウォーターのボトルを取りソファーに座った。

 

「そうそう。お詫びの印も持ってきましたよ!ほら」

 

 そう言ってブランクが差し出したのはテレビに繋ぐ家庭用ゲーム機だった。すでに配線が完璧に整えられている。

 

「トランプとかだるいですから、今度からこれの勝敗で賭けましょう!」

「もう絶対罰ゲームは賭けねーぞ」

「まーまーそう言わず。ほら、F-MEGA!やりましょうよ」

 ブランクはコントローラーをイルーゾォに差し出し、電源を入れた。

「今からか?」

「徹夜で。どーせ仕事なくて暇だし。ゲームやれるのギアッチョ先輩かイルーゾォ先輩くらいじゃないですか。やろーよォ〜」

「詫びじゃなくて自分のために買ってきたのかよ…」

 と言いつつも、イルーゾォは自分の車体を選択した。

「しょうがねーな…じゃあお前、負けたらメローネの服な」

「えっ…それは……ぐぬぬ…いいでしょう…負けませんよ」

「冗談だよ。バーカ」

 

 

 

 

 




完結タグを一度つけたのですが外しました
番外編、フーゴ編のあとも続きを書くかもしれないので。
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