ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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00.ギャンブラー②:過去

 

【挿絵表示】

 

 

 

ホルマジオは夜11時のネアポリスの裏路地を歩いていた。切れかけた電灯の照らす道や壁は薄汚れていて、暗殺チームのアジト周辺を思わせる。

 違うところといえば通り全体に魚醤や発酵食品を思わせる独特の臭いがするところだろうか。エキゾチックな食品の香り。事実ここはアジア系の移民の集まる一角で、中華街と呼べるほど大きくはないが、かなりの数のアジア系の移民や不法滞在者が住んでいる場所だ。

 しかし人通りは皆無だ。まるで“余所者”のホルマジオが来たのを察知したかのように通りは静まり返っている。

 そんな中で唯一看板を出している建物があった。ホルマジオはその看板のすぐ横にある地下への階段を降りた。

 扉を開けると鈴がなり、中に充満していた煙が外へぶわりと流れた。そのタバコの臭いも嗅ぎなれないもので、ホルマジオは眉を顰める。

 煙の充満する店の中央には三人と卓を囲むブランクがいた。

 三人の男はじろりと鋭い瞳でホルマジオを一瞥した。しかし視線はすぐ自分たちの手元、麻雀牌へと戻った。

 

「ブランク、仕事だ」

 

 ホルマジオの声にブランクは視線を上げた。

「やっとツキが回ってきたところなんです」

 

 自分の教育が悪かったのだろうか。と一瞬頭によぎる。ちょっと遊びのつもりでギャンブルを教えてからブランクはドーパミン中毒になってしまったらしく、様々な賭け事に手を出しては有り金すべてをベットしてスリルを味わっているらしい。

 

「へぇそうかよ。それがオレになんの関係があるんだよ、ブランク」

「ドラを抱えて大三元リーチがかかってるんですよ?」

「いいから、来い」

 

 

 ホルマジオがそう言うと、ブランクは一瞬悔しそうな顔をしてから麻雀牌を倒し、席を立った。

 卓を囲む男が何かを言う。おそらく中国語だろう。全く聞き取れない。ブランクは二言三言返事をしてから足元に置いた細長いカバンを背負い、ポケットから金を少しばかり置いてホルマジオのもとへ来た。店を出るとジャケットを帆のように張って夜風にあて煙の臭いを落とすかのようにバサバサと振った。

 

「おまえ中国語も喋れたのかよ」

「いや?最近ちょっとした会話くらいなら…って感じですね」

「へぇ?なんか言ってろよ」

「最坏的人渣!把钱还给我!」

「意味はなんだよ」

「そうですね…まあ負け惜しみです」

 

 

 ブランクはそこらへんにいるアホな若者のような外見をしているし実際そう振る舞っているのだが、チームとして過ごして一年も経てばそれがよくできた仮面であることに気付く。

 ブランクのスタンド能力自体は『相手の能力をコピーする』というもので非常にピーキーだ。チームの中では一番弱いと言っていいかもしれない。しかしスタンドを抜きにすれば(この国でその条件が成立することはまずないが…)殺しの技術自体は一番高いかもしれない。腕のいい狙撃手のもとで何年も諸国を渡り歩いてきた経験も他のメンバーにはないものだ。

 

「で、誰を撃ち殺せばいーんです?」

「いや。スナイパーの出番はねェーんだ。今回は」

「…ん?っていうかそもそも『悪ィーなアブランク。今回は派手に臓物ブチ撒けるテメーの暗殺じゃあ注文にあわねェーんだよ。おとなしく留守番してな』……って僕をハブった仕事ですよね?なんで今更声かけるんですか?」

 

 どうやら仕事の割り振りのときの軽口を根に持っているらしい。だがそのセリフはイルーゾォのものだ。なぜ自分がブランクの機嫌取りなんてしなくちゃあなんねーんだ?と思いながらも、ホルマジオの思い当たる適任者はブランクしかいない。

 

「ちと事情が変わったんだよ」

「はあ…」

 

 ホルマジオとブランクは留めていた車に乗り込む。ホルマジオは今回の仕事について表示された自分の端末をブランクに渡した。

 

「ターゲットは記者。まあ記者なんてありふれた暗殺対象なわけだが…殺す前にそいつが行方不明になっちまったのさ。イルーゾォが調べたところによるとどうやら奴はギャンブル依存症らしくてな。ある日いつものように賭場に出かけてそれっきりらしい」

「先に別の人に殺されちゃったんじゃないですか?」

「それだったら手間が省けて結構だがよォ。どんなに探しても死体が出ていない。オレたちへの指示は“必ず殺すこと”。つまり死んだのをキッチリ確認するまでが仕事ってなわけだ」

「なるほど…。……ってなおさらなんで僕が必要なんです?僕って別に人探しは得意じゃないですよ」

「話は最後まで聞けよ、ブランク。…そいつが最後に目撃された賭場では行方不明者がすでに何人か出てるんだぜ」

「なるほど。帰りたくなってきたっすー」

「イルーゾォが突き止めたところによると新しいディーラーが来てから行方不明者が出始めたらしい」

「………で?」

「で、テメーの出番だ。賭け事、好きだったよな?」

 

 

 

 

 

「ウオオオオオ!!ッシャオラァアーー!!」

 

 

 ブランクは今クラップスをプレイしている。クラップスとは言ってしまえばサイコロを2つふりその出目を当てるというシンプルなゲームだ。

 まず全員が掛け金を自分の予想する出目に賭けおわるとシューターがサイコロを振る。この第一投を『カムアウトロール』と呼び、『7』の目が出るまでゲームが続く。

 

 ブランクはパスラインという賭け方で順当に勝ちを拾い、チップを蓄えている。このゲームはルーレットなどと違い、有利なかけ方が存在する。そのため“自然に”勝ってるように見せることはできる。

 

「すげーな兄ちゃん。さっきから当てまくりだ!」

「サイコ〜〜!!」

 

 オッズ賭けが成功してチップが倍になった。ブランクが勝鬨を上げる。クラップスはサイコロをふるだけで観客がわく賑やかなゲームだ。その中心にいるブランクには自然と注目が集まる。ブランクはホルマジオと目が合うとピースサインをした。

 

「あんたのツレ、ツイてるなぁ…」

 

 それも当然だ。ブランクはイカサマをしている。しかもペッシからコピーしたビーチボーイでサイコロの出目をちょっといじるセコいイカサマで。

 

「こう勝ってしまうと店に悪い気がしますねェ〜。どうしましょ。ドリンクでも追加で飲みますか?もちろん奢りです」

「ああ、遠慮なくいただくぜ」

 

 そろそろだ。そろそろ本命が餌にかかる時間だろう。バーカウンターへ行くとバーテンダーがにこやかにブランクに微笑みかける。

 

「お客様、素晴らしい勝ちっぷりですね」

「そう。今日はすっごいツイてる日みたいで」

「如何でしょう。より()()()()()な賭けをしてみるというのは」

「っていうと?」

「あちらのカーテンをくぐればわかりますよ」

 

 思わせぶりな言い方。勝って気が大きくなった客なら飛びつくだろう。もちろんブランクも飛びつく。興奮気味に自分の勝ち筋についてデタラメを述べてグラスを空けてからホルマジオと肩を組んで、耳元で囁いた。

 

「僕が適任っていうのは、如何にも調子づいたカモっぽいから?」

「ああ、その通り」

 

 ブランクは微妙な笑顔を見せた。ホルマジオはフン、と鼻で笑う。

「行くぞ」

「はぁい」

 

 瀟洒な飾りとたっぷりのドレープの入ったカーテンをくぐると、そこもまた賭場だった。しかし先程の場所はルーレットやスロットマシン、バカラなどすぐに決着のつくゲーム用のテーブルゲームが数個あっただけに対しこちらは本格的なカジノゲームの場がいくつもあり、それぞれにやり手そうなディーラーがついている。

 なんならカーテンをくぐる前より客も多い。こちらが本場であちらは一見さん向けだったようだ。

 ホルマジオは全体を見回し、目的の人物を見つけた。

 

「…いたぜ。一番奥でトランプいじってるやつだ」

「あの人がターゲットの最後の対戦相手なんですか?」

「さあな。だがあいつが件のディーラーなのは確かだ」

 

 そのディーラーは他の従業員と比べると一回りは年老いて見えた。髪は総白髪で、ややコケた頬は血色が悪く土色だ。ポーカー用の卓だが病人じみた風貌のせいかテーブルには誰もついていない。

 

「……さて。じゃあここからはオレたちの本業らしく紳士的に情報を聞き出すとするか」

「紳士的ねぇ」

 

 ホルマジオは問題のディーラーの席につく。ディーラーは嬉しそうに顔をクシャッと歪め、ホルマジオを見た。

 

「ようこそ。楽しんでおられますかな?」

「いいや、お楽しみはこれからなんでな」

「グッド。こちらではテキサスポーカーからインディアンポーカーまで、なんでもプレイできますよ。もちろん、お望みならヨットやバックギャモンなんかの他のゲームもございます」

 ディーラーはそれはもう美しい手さばきでカードをシャッフルし、並べてはまた手元に戻す。しかしホルマジオはきれいに返されたトランプの上に構わず写真を広げた。

「この男を知ってるな?」

「……ほう。人探しとは。……どうでしたかね。見覚えのあるような」

「ボケたフリは賢明じゃあねーな。とっとと言ったほうが身のためだせ」

「この年になってくるとフリも本当になってくるものです。……どうでしょう、あなた方はこの男の情報が知りたい。ならば私とここでゲームをして、勝ったらそれを手に入れる。そういう賭けをするというのは」

「オレたちが何者か理解できてねーようだな」

 ホルマジオがすごんでもディーラーはまるで動じなかった。トランプを繰る手は止まらずにまっすぐホルマジオを見つめ返している。

 

「あなた達が何者かは私には関係ない。私はダニエル・D・ダービー。生粋のギャンブラーだ。私にとってそれがすべて」

 

「賭けに勝ったら情報を渡すとは限らねぇ。デタラメを言う可能性もある。ここで肋の二三本折ったほうが確実に、それも早く吐くだろォーよ、と思うわけだが?」

 ここまで脅しをかけてもディーラーの男は変わらぬ意志の強い瞳でいる。老年に差し掛かったとは思えないぎらついた瞳に、簡単には情報を渡さないという意志の強さを感じさせる。

 

「情報を持っているのは本当だ。魂を賭けたっていい」

 

「はっはっはっ…」

 ホルマジオの後ろで黙って立っていたブランクが突如笑い始めた。

 

「失礼、魂とか言いだしたもんだからつい笑ってしまって」

「なに?」

 ブランクはやや演技過剰めいたしぐさで髪をかき上げた。

「僕たちゃ魂なんてとっくに悪魔に売り渡してる。賭けるなら命かな」

「ほう?命懸けのギャンブル。それもまた心躍る提案ですな」

「あなたが生粋のギャンブラーというのなら、ぜひとも勝負していただきたい」

 ホルマジオはブランクと席を替わる。

 ダービーはこれみよがしに自分のトランプさばきを見せつけながらブランクを値踏みするように上から下まで眺めた。

 ダービーの手さばきは熟練のディーラーでありギャンブラー。先程のようにスタンドによるイカサマなどは通用しないだろうという圧を感じる。

 当のブランクはトランプには興味ないと言いたげにテーブルに肘を突き、ダービーを見つめていた。

 ダービーはホルマジオと比べて幼く見えるブランクを安く見積もったのだろう。いやらしすら感じるへりくだった笑みを浮かべた。

 

「では…ゲームはあなたが決めて結構です、ボクちゃん」

「そうですか。じゃあコレで」

 

 発砲音がした。

 悲鳴、そして静寂。あまりに唐突な銃撃に場が静まる。ダービーの肩口越しの壁に弾痕があった。

 ブランクはどこにしまっていたのか、煙を上げるリボルバーを持っていた。入店時の身体検査をどう誤魔化したのか。ハンドガンを持ち歩いてるとはホルマジオも知らなかった。

 

「貴様ッ…!」

 店のガードマンがブランクへ銃を向けた。ブランクはリボルバーを持った手をあげた。銃を持つ指の間にパッショーネのバッヂを挟んでいる。

 

「文句があるならポルポに言いな。信頼を疑われてるあんたらが悪いんだ」

 

 賭博を仕切る組織の幹部、ポルポの名前の効果は絶大だった。土壇場でよく大嘘がつけるもんだ。

 ブランクはリボルバーから弾を出した。テーブルの上に薬莢が落ちて転がる。そしてそのまま銃をゴトリと置き、ダービーへ突き出した。

 

 

「僕はロシアンルーレットをやりたい」

 

 ダービーはひと呼吸おいてブランクを見つめた。どうやら値付けを改めているらしい。そして銃を手にとった。

 

「……S&W M29。よく整備されてるようで」

 

 ダービーは卓に散らばった弾の一つをつまみそれをしげしげと観察する。

 

「いいでしょう。それで、勝敗はどうつけるおつもりで?仮にわたしがこれで頭を撃ち抜いたらあなた方の欲しがっている情報もおじゃん。賭けが成立しないのでは?」

「銃口を押し当てる場所は頭じゃなくてもいい。心臓と頭に近けりゃ近いほど高得点。何回でも引き金を引いていい。プレイヤーには一度だけシリンダーを回す権利が与えられる。回さずに引き金を引いた場合得点は倍づけ。これでどうですか?」

「グッド」

 

 ダービーはにやっと笑う。下手したら死ぬギャンブルを前にワクワクしているらしい。ダービーはさっきまでの枯れた雰囲気から一転し、瞳にギラギラと生気がみなぎっているように見える。

 ダービーは弾と銃をブランクにつきかえす。ブランクはそれをホルマジオに手渡す。

 

「ダービーさんに何もされてないか確かめてくれますか?」

「ああ…」

 ホルマジオは銃と弾を点検し、ブランクに返した。ダービーは何もしてないようだ。

 ブランクはダービーにそれをそのまま渡す。

「弾込めはあなたに任せましょう。先手も譲ります」

「それはそれは。では遠慮なく」

 ダービーは弾を込め、シリンダーを回転させて振り戻す。これでどこに弾が入っているかわからなくなった。そしてまるで臆することなく頭に銃を突きつけ、引き金を引いた。

 カチン、と音がした。

「では頭は…30点でどうです?」

「いいですよ」

 ダービーはそのまま銃を腹に当て引き金を引いた。弾は入っていない。不発。

「そして腹は…15点といったところですか」

 ダービーは不敵に笑う。そしてもう1度引き金を引いた。

「では追加でもう15点だ」

 

 ダービーには弾の位置がわかっているのか?いや、わかっていても不思議ではない。この危険な賭けに全く動じていなかった点がよりそれに説得力を与えていた。

 

 ブランクは渡された銃を受け取るとシリンダーを回転させた。

 そしてそれを頭に突きつけて連続で2回引き金を引いた。

 

「60点。同点ですね」

「GOOD……賭け事はこうでなければ盛り上がらない」

 

 ダービーは笑う。勝負師の顔と言えばいいのだろうか。銃を受け取り、シリンダーを回転させずに頭へ突きつけ、引き金を引く。

 

「60点…」

 

 いつの間にかできていたギャラリーから息を呑む音が聞こえた。ブランクは銃を受け取ると、それをそのまま頭に突きつけた。

 

「シリンダーを回転させなくていいのか?残り三発、そのうち一発が当たりだというのに。…おっと、さっき回転させてしまったんだったか」

「回転させて一発目がアタリってこともあるんだからそんなことしても意味がないよ。重要なのはあんたがシリンダーを回さず一発だけ引き金を引いたこと。僕の得点が四倍になることさ」

「考えなしに脳みそぶちまけるのはいいこととは思えないね」

「そうかな?どっちにしろ人は死ぬ。場所と死因が多少変わるだけだ。僕にとっては大した問題ではない。こんな仕事をしてるんだ。ぶちまけられるのがあんたの脳みそだろうが、それは変わらない」

「そうか。なら引き金を引け。外れても私にはシリンダーを回す権利が残っているからな。たった120点のリーチ、覆すのは簡単だ。…わたしにとってはね」

「いや、240点だ」

「は?」

 

 ブランクは引き金を二度引いた。周囲から悲鳴が上がった。しかし、弾はでなかった。

 

「あと一発。16倍の弾だ。それを頭に撃てばあんたの勝ちでいい」

 

 ブランクは銃を差し出す。ダービーはブランクを見つめ、しかし銃は取らなかった。

 

「君の名前は?」

「ブランク」

「ブランクくん。いい勝負だった」

 

 二人は握手して周りからは困惑気味の拍手が上がった。

 いかにも何かありそうなダービーがあっさりと負けを認めたのはこれもまたギャンブラーとしての挟持なのだろうか。

 

「はあ…緊張しました」

 そう言ってブランクはおもむろに銃を自分の頭に突きつけ、引き金を引いた。しかしこれもまた不発だった。

「な……」

 ダービーは目を丸くする。

「アドリブでよくわかってくれましたね、ホルマジオ先輩」

「序盤はぶっちゃけ運だけどな」

「それくらいのリスクは全然犯せますよ。普段の賭け事より勝率が高いし」

 種は簡単だ。銃と弾を点検した際、ホルマジオの『リトル・フィート』で弾を縮めた。それだけだ。

 

 イルーゾォではなくブランクを賭場に連れてきた理由がこれだった。イルーゾォのスタンド、マン・イン・ザ・ミラーは自分が確実に勝てる場を作りだす。故にイルーゾォ自身も土壇場での駆け引きやリスキーな賭けは実のところ不得手。その点ブランクは賭け事に漬かりきって麻痺している。

 

「くくく……まさかスタンド使いとはな…わたしも耄碌したものだ」

「ダービーさんもスタンド使えばよかったのに」

「わたしは……スタンドを……使えないのだ……いや。使おうとすると」

 ダービーの顔色がみるみる悪くなり手が震えだした。さっきまで漲っていた生気が一気に消えて怯えと恐怖で目が虚ろになっていく。

 

「使おうとすると…思い出す。あの時の決定的な敗北をッ……こんな、こんな……このダービーに…許されないあの敗北をッ……!」

 ダービーは顔を覆い、必死に呼吸をする始末だ。どうやらトラウマ級の負けでスタンドを使うことができなくなってしまったらしい。それでもギャンブルを続けているあたり図太いのか繊細なのかよくわからないが。

 

「…で、情報は?」

「……ああ、ああ。その男とは確かに対戦した。彼はわたしとのポーカーに負けたあと、弟の勝負に乗ってしまった」

「弟?」

「そうとも。この建物の三階にいる。だが弟と勝負をするのは避けたほうがいい。あいつは…いや。とにかく期待しないほうがいい。何も賭けるな」

「スタンド使いなんですか?」

「………そうだ。やつはゲームを仕掛けてくる。それに負けると“魂”をとられるぞ。…忌々しい、あいつは心までは折れなかったらしい…」

 

 ホルマジオとブランクは顔を見合わせた。

 

 賭場をあとにし、二人は階段を上る。ダービーの弟とやらがいる三階、とっくに廃業したと思しき玩具屋の看板が立てかけられている。中には誰かいるらしく、灯りが漏れている。

 

「ここからはギャンブラーじゃなくて暗殺者だ」

「え?」

 

 ぽけっとしているブランクをほっといて、ホルマジオはドアを蹴破った。

 ドアの向こうには誰もいなかった。倒れた椅子とついさっきまで飲んでいたらしいまだあたたかい紅茶があるだけだ。

 

「下の騒ぎで逃げましたかね」

「そのようだな」

「肩透かしだな」

 

 ブランクはリボルバーをしまい家探しをはじめる。陳列棚はほとんど空で、床には市販の人形の空箱ばかりが落ちていた。

 店の荒廃具合は散々だが、バックヤードは整然としていて清掃もなされていた。棚に大量のゲームハードが並んでおり、ブランクが興奮気味に「あ~セガサターンじゃん!!」と言って手に取っていた。大量のゲームカセットもきっちりと棚に納められている。

 

 奥の部屋のドアを開けて、ホルマジオはホッとした。そこには魂の抜けたような顔をした(ダービーの言ったとおり、実際そうなのだろう)標的の体が無造作に放って置かれていたからだ。

 

「ようやく仕事の終わりだな」

「ダービー兄弟は殺さなくていいんですか?」

 ブランクはハードを一個、カセットをいくつか盗んで帰るつもりらしい。ポケットがパンパンになっている。

「ロハでやれって?ただでさえ無駄に駆けずり回ったんだ。オレはごめんだぜ」

「ま、そうですね」

 ただでさえ単価の少ない依頼だ。死体を見つけた以上、何人金をすろうが魂を抜かれようがもう関係ない。ダービーはきっとこの店を去り、ひょっとしたら国を去り、二度と会うことはないだろう。

 

 

 

「ずっと気になってたんですけどイルーゾォ先輩はどこにいるんですか?」

「さぁな。もうこの件に興味ねぇーんじゃあねぇの?」

「なんですかそれぇ〜。代わりに僕がこんなに頑張ったというのに…」

「名演技だったな」

「へへへ…ホルマジオ先輩のお役に立てたならそれでいいんですけどね」

「飯でも行くか。それともどこかギャンブルのできる場所にいってもいーぜ。麻雀の邪魔しちまったからな」

「ん…いや。もう賭けはいいです」

「なんだァ?実はロシアンルーレットで懲りたのか?」

「いいえ。クラップスでイカサマして気づいちゃったんですよね…スタンド使えば絶対勝てるって」

「いいことじゃあねーか」

「それじゃあ全財産賭けてもヒリヒリできないじゃないですか」

 

 どうやらホルマジオが思っていたより重症なハマり方をしていたらしい。期せずしてだがここで悟ってくれてよかった。暗殺者のくせに借金の取り立てでぶっ殺されていたかもしれない。

 

「なら普通に飯だな」

「わーい。奢りですね?最高!」

「しょォーがねェーなァー……」

 

 




続きは書いてます。
多分春には。
待ってる人がいたらすみません。
詳しくは割烹で。

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