【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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03.翼を持った豚②

 カッソーニファミリーとの会合は昼前につつがなく終わった。これは順調という意味ではない。カッソーニファミリーは明らかにこちらを拒絶しており、会合はもはや嫌々。まるで納得していないという感じだった。

 

 これは一波乱あるんじゃないかと思ったが、そうだ。もう死人が出ているんだった。

 ただ僕としてはこういう荒事は歓迎だ。だって最近僕がメランコリックになってるのは毎日が平和すぎて余計なことを考えてしまうせいだから。目の前のことに集中していれば亡霊の声は聞こえなくなる筈さ。そうだろ?いつだって殺しは最も簡単な選択肢の一つ。

 

「にしてもニューヨークの飯ってのはジャンクだな」

 とメローネ。ホットドッグをモサモサと貪ってる。僕はチキンオーバーライスをかっこむ。チリソースたっぷりでうまい。

「そりゃそうだよ。屋台の飯だもん」

「こんなところで買い食いなんてやめてくださいよォ〜フーゴに見られたらなんて言われるか…衛生的じゃない〜〜」

 と狼狽する護衛のくおんはホットドッグとチキンオーバーライス両方を食べている。なんなんだお前。

 しかしニューヨークならではの食といえばやはりこの屋台飯だ。テロやなんだでしばらく規制されていたが、再開されてたようだ。

 僕らはタイムズスクエアを歩いてセントラルパークを目指して散歩している。こんなふうにゆっくり外を歩くのは久しぶりだった。街は活気に満ちていて猥雑としているが、治安は僕の家の近所よりよっぽどいい。まあたまに注射器なんかが落ちてるけど。さすがアメリカの中心地。

 

「いや〜正直乗り気じゃなかったけどいい国ですねぇ。トラブルに事欠かなそう」

「それ、本当にいい国か?」

「それがいいんじゃあないですか!パーティーみたいでさア」

「毎日パーティーはさすがにもうごめんだな」

「ふん…メローネももうおっさんですね。落ち着きたいお年頃なんですか?」

「ああ、おれは画廊なんかの並ぶ落ち着いたところがいい。美味いレストランが近所にあればそこに決まりだ。仕事もしやすいだろうしな」

「………もしかしていい女でも探してるんですか?」

「ああ、いい母親をな」

「うわ〜」

「アメリカ人はいいもんだな。大抵の奴らが向精神薬を飲んでいて酒とタバコを過剰にやってる。そういう意味ではディ・モールト…素晴らしい!」

「もう暗殺から足洗ったじゃないですか。そんなことやらないでほんとに普通のいい女でも見つけて楽しくやれば?」

「いや。アメリカに来たら復帰する。おそらくおれの能力は必要になるだろうからな」

「…そうなんだ?じゃあ僕がそれ、コピーしようか」

「バカを言え。お前に使いこなせるわけないだろうが。たとえ完全にコピーできたって、女を見る目からして違いすぎるだろ」

「どうかな。僕のほうが女の子にモテるよ。選び放題だよ。ね!くおん」

「はい〜♡ブランク様は女の子入れ喰い状態ですよね〜」

「いえーい。ナンパしよナンパ」

「やめろ、本気でやめろ」

 

 こうやって浮かれてると、ほんとに浮かれてるのかと問いかける自分がいることに気づく。いつもそうだ。沢山の人たちに触れすぎたせいだ。俯瞰する自分、浮遊する自分、メタに立つ自分が何人も僕を取り囲んで見下ろしてるような気分になる。

 だめだ、まだやっぱりナーバスから抜けきれてないみたいだ。

 

「カッソーニのこっちでの稼業は順調じゃない。主な収益は貿易がてらの武器輸入に売春、薬の卸売り。幸い頭がすげ変わっても成り立つものばかりだが、そのままやっても大幅な増益は見込めないな」

 そう、たしかにカッソーニファミリーの本拠地はこの高層ビルにまみれたお高くとまった街の中じゃ全然外れの方だしボロけていた。ロシア人に中国人、メキシコ人までいる中じゃよくやってる方だが。

 

「ここは競争が激しすぎるんですよ。多分一番儲かるのはマニック・デプレッションのヤクを売りさばく事だけど…」

「ああ。うちのボスはいい顔しないだろうな」

 僕はため息をつく。この点は本当にずっとジョルノと意見が合わない。

「ジョルノは間違ってるよ。麻薬を根絶するなんて、死のない世界みたいなものだ。現にイタリアでヴォルペの麻薬がなくなって薬中どもはどうなったと思う?より大枚叩いて粗悪なコカインで死にまくったろ。そのあとカッソーニが売り捌いて、今は出所不明の麻薬が広まってる。こんなのイタチごっこだ」

「ああまったく、高潔すぎるのも考えものだな」

「……実際どうかな。ジョルノはどこまで任せてくれるんだろうか?」

 

 メローネは少し考える。この件に関しちゃ僕よりジョルノの思惑がわかってるはずだろう。

「ジョルノも自分の理想が理想に過ぎないことをよくわかってる。だがそれを曲げないのがジョジョだからな…」

「はは…そうだよね」

 

 僕は思わず笑う。安心したのか、がっかりしたのか、不思議なことに自分でもよくわからなかった。

 そう。ジョルノはそういう人。だからみんなジョルノについていく。美しい理想に向かっていく。

 

『お前と大違いだな』

 

「おれもお前と同じ気持ちだ」

「え?」

()()()()だ」

「僕そんな顔してた?」

「ああ」

「なんで?なんでメローネはがっかりなの?」

「ジョルノとジョルノに心酔している連中に囲まれてると、おれだけが別の世界を見てるような気分になってくる。現実はこっちだろ…ってな。お前みたいに鬱になったりはしないけどな」

「…いやいや。全然元気ですけどね」

 

 2つの世界の狭間を飛ぶ鳥を思い出した。鳥はやがてどちらか一つの空を選ばなければならない。僕は選んだ。しかし選ばなかった空は消えるわけではない。

 その空が、選ばなかった世界が裏返って僕を内側から削り取っていく。また僕は空っぽに近づいていく。

 

「なあ、セントラルパークは思ったより遠い。タクシーをひろうか地下鉄に乗らないか?」

 メローネの提案に、これまで難しい話を聞きたくなくて五歩ほど引いてたくおんが駆け寄ってきた。

「えっえっえっ!地下鉄とか勘弁してくださいよォ〜!ばっちぃ〜!フーゴに殺される!」

「じゃあお前がタクシー捕まえろ」

「えーーッ!ニューヨークのタクシーなんてやだァ!ばっちぃですよォ!リムジン呼びますから大人しくしててください!」

 くおんは慌てて携帯電話をかけはじめた。ニューヨークの衛生環境に対しての偏見が独特だな。リムジンをおとなしく待ってやろうと思ったが、僕らはひらりと身を翻して地下鉄の入り口に入ってく。

 ただ公園に行くだけだ。それでも楽しかった。同じ気持ちの人といて。多分それが僕にとって必要なことだったのだと思う。

 

 僕がメローネを家族とうっかり詐称したことについて、メローネは特に突っ込んでこなかった。メローネにとっても『家族』はそんなに意味のない言葉だったのだろう。

 僕はメローネの過去のことも、ギアッチョの過去のことも何も知らない。二人も僕の過去なんて知らない。…まあメローネはいろいろ察してそうだが。

 

 僕は僕の過去のことを知られたくない。知りたくもない。

『ああ、お前の輝かしい、血塗れの過去』

 だからこのままでいい。

『ただ怖いだけだ、お前の浅ましさを呆れられるのが』

 

 

 ニューヨークはいいところだ。人はみんなもっと高いビルを目指して登っていく。そうでない人間はビルの間の影を縫って暮らしてく。わかりやすい場所だ。

 僕はこのコンクリートが折り重なった街を散歩した。

 特に朝方はいい感じだ。人が少なくて、たまにいても酔いつぶれてるか疲れ果ててるかで静かだ。乾き始めたゲロや溢れまくったビールの上で酔っ払いやホームレスが残骸みたいに蹲ってる。

 

 ほんとにここに住んでしまおうかな。ジョンガリのことさえ忘れて、昔みたいに目の前のことに集中して暮らしていれば亡霊の声だってかき消されるかも知れない。 そうおもって、自分の浅ましさに自分で笑ってしまった。それができないからこうしているんだろ。

 

 

 悲鳴が聞こえた。朝っぱらから荒事か?いや、夜の延長戦なのかもしれないけど。野次馬気分で覗いてみた。

 

 少年が一人腰を抜かしていた。前にあったのは濡れた壁で、穴が空いていた。近づいてみてみると人骨が埋まっていた。

 

「あらま」

 

 と僕が言うと少年は怯えた顔でこっちを見てなぜか懇願するように泣き始めた。

「オレ…ッ!オレじゃあないッ!オレはこんなとこに……し、死体があるなんて……ッ」

「へ〜。()()()()だね」

「はア?!ラッキーなもんか!いつも…いつもこうだ!いつもいつも…ッ」

「へぇ〜それはなんかの()()かもしれないね」

 僕の気楽な声で多少は混乱が解けたんだろうか、さっき迄せわしなく壁と僕を行き来してた視点が定まり僕を見つめていた。

「……才能、だと?」

「ああ。君名前は?モーニング食べに行くとこなんだけど一緒にどお?」

「オレ…金は…」

「いーっていーって。はい」

 

 僕が手を差し出すと少年はびっくりした顔でその手を見つめ、恐る恐る握った。ひっぱるとよろけながらも立ち上がった。まあまあ背が高いくせに痩せこけて不健康そうな見た目だ。薬のやりすぎってよりかは病気でも患った感じの頼りなさな気がする。苦労してきたんだろうな。

 

 適当に24時間やってる感じのカフェバーに入った。今の時間、席には寝落ちしてる客ばかりだ。

 

「コーヒーとフルーツ盛り合わせ、あとトースト…え?トーストない?まだモーニングじゃない?…じゃあこのミートパイを。君は?」

「同じ…のを…」

 少年は改めて今の状況に戸惑ってるようだった。まあ壁から死体が出てきたと思ったらよくわからない人に店に連れてかれたんだしそりゃそうか。

「そういやあれ、あの壁なんで濡れてたの?」

「えっ…それは……その。た、立ちションを」

 僕は思わず彼の手をとった自分の手を見た。食う前でよかった。とりあえずズボンで拭っておこう。

「いつもこうとか言ってたけどああいうことはよくあるの?」

「はい…」

「宝探しの才能なのかな?」

「宝なんかじゃない…いつも死体や、誰かの亡くしたナイフや盗品だ。それのせいでオレはいつもいつも不幸な目に遭う」

「めちゃくちゃ不運…ってだけじゃそういう偶然は続かないか。わかった。ねえ君、手だして」

「手?」

「うん。僕が君の…えー運勢?運勢を見てあげる。ちょっとした占いだよ」

「だから金はねエって…」

「とんないとんない」

 少年はおずおずと手を差し出す。僕はその手に刻まれたナイフが刺さったような傷をなぞったあと両手で包んだ。

 能力を使わないでこうして人の手を触るのは久しぶりだった。

 

 飢えた手だった。不幸な目に遭いまくってきたんだろう。さらに見た目よりだいぶ若い。おそらく16歳前後、まだまだガキだ。

 スタンド使いとしての素養を感じるが、まだ完全に覚醒してはいない。

 ボコボコにへこまされた魂。そこにこっちまで泣いてしまいたくなるくらい素朴で切実な欲望がつまってる。

 

「君は幸せになりたいんだね」

 

 という僕の言葉に少年ははっとしてから頷いた。

 

 コーヒーが来た。僕は手を離してそれを飲む。イタリアのと比べると薄くて苦くて酸っぱい。こんな通りでやってる店だからか?もしどこでもこうならバリスタでも雇うか自分で淹れるしかなさそうだ。

「はあ…カフェインが沁みるね」

 少年は何も手を付けずまだ僕を見ていた。

「あなたの名前はなんていうんですか?」

「え。えーと…ヴォート・ブランク」

「オレはドナテロ・ヴェルサスです。いただきます」

 そう言ってミートパイにむしゃぶりついた。相当腹が減ってたんだろう。ホームレスか日雇いでもしてるんだろうか。とにかく困窮はしてそうだ。

「ヴェルサスくん。君家族は?」

「いません。そんなの」

「僕と一緒だ。ねー神父ってやつはさあ、こう…言葉一つ一つが大仰だよね…」

「なんの話ですか…?」

 野良犬に餌をやるなってこういうことかもしれない。半端に助けるとその後のことまで気になって気になって、もし犬がおっ死んだりしたら最悪の気持ちになるもんな。

 

「ヴェルサスくん、君いまどっかで働いてる?」

「働いて…ないです」

「そっか。ここであったのもなにかの縁だし僕んとこで働かない?ぶっちゃけ汚い仕事だけど今よりいい飯は食えるよ」

「汚い仕事って…」

 

 そこで突然窓がぶん殴られた。視線をやるとブチ切れたフーゴが立っていた。僕が手を振るとフーゴは店内に入ってきて僕のテーブルを思いっきりぶん殴った。 

「あなたはッ!自分の立場を理解していないようだな!何度行ったら単独行動をやめるんだ?このド低能がァーーッ!」 

「あわわわわわ」

 ヴェルサスがポカンとしてる。ドヤ顔で勧誘してきた相手が突然怒鳴られてちゃそうなるか。

 僕はフーゴをなだめるようにフルーツ盛り合わせからいちごをとって渡した。フーゴはそれを食べた。食べるんだ?

「いや〜…観こ…視察って名所をたどるだけじゃなくて汚え路地裏とかもみるもんじゃあない?現地の問題とか死体とか見とかないと。ねぇヴェルサスくん」

「は?……はあ」

「誰ですか、こいつは」

「ヘッドハンティング?」

「またッ…勝手に…ッ…!!」

「いや!待って待って、彼スタンド使いっぽいんだよ!ね?まだ目覚めてはないみたいなんだけど、困ってる感じで。ほっとくのも…ね?」

「偶然会ったって言うんですか?」

「そう偶然」

「はっきり言って怪しいな。IDを見せろ」

「……オレはこの人と飯食ってるんだよ。なんで突然出てきたテメーに従わなきゃなんねェーんだ?」

「あわわわわわ。ヴェルサスくん、いいから見せて。この人部下なんだけど頭プッツンすると何するかわかんないんだよ」

「チッ…」

 ヴェルサスはいやいやIDを出した。フーゴはそれを受け取り偽装でないことを確かめ、小型のノートパソコンを取り出して情報を打ち込む。

「窃盗、暴行容疑、軽犯罪がいくつか。ただのチンピラじゃあないか」

「ああ、書類上は君もね」

 フーゴはムッとした顔をするがこちらの言いたいことは伝わったのだろう。何も言い返さなかった。

「イタリアに連れてくつもりですか?今週末には帰りますよ」

「あ、そうだった。ねえ君外国は平気?パスポートある?」

「平気…ですけど、パスポートなんてないですよ」

「じゃあ適当にこっちで作っちゃっていこうか。飛行機の時間は?」

「ケネディ空港発ネアポリス行き、土曜朝9時45分搭乗開始です」

「わかった。じゃあ現地集合で」

「ちょ、ちょっと待ってください…イタリアに?オレをつれて行くって?冗談だよな」

「別にこないなら冗談で終わるけど」

「……何者なんですか?あなたは」

「えーっと……通りすがりのギャング?」

「……マジかよ」

 

 フーゴがまた苛ついてきてる。いい加減にホテルに戻れってことだろう。しょうがないのでお弁当用にミートパイを紙ナプキンで包んで立ち上がる。多めに金をおいてヴェルサスに会釈しその場を去った。

 うん、なかなかスタイリッシュなムーブだったな。フーゴが乱入してきたのをのぞけば。

 

 

 

 そして土曜朝9時45分、ジョン・F・ケネディ空港にヴェルサスは現れなかった。

 

 なんで?!

 

 僕はドヤ顔で「一人勧誘してやりましたわ」とメローネに自慢していたので、帰りの飛行機ではずっとそれについて弄られた。これまでの人生の中で一番辛かった。

 

 イタリアに戻るとシーラEが空港で待っていた。フーゴがどこか嬉しそうだ。二人は付き合ってる()()()。らしいというのはどっちに聞いてもノーと答えるからだ。どう見ても付き合ってるよな。

 こっちではまだ昼だが、8時間のフライトで疲れてた。諸々の報告はまた明日ということになり、僕はメローネの自宅に泊まることになった。警戒態勢ということらしいが、要するに露骨に治安の悪い僕の家を警備するのはなんというか、焼け石に水というかマグマの中に炎みたいなもんなのでやりたくないんだろう。無理言ってあそこに住んでるのだから文句が言えない。

 

 メローネの家は広いし家電は最新だしなんでも揃ってるのだが、雑に地べたに寝転んだりゴミ袋を放っておくなどの蛮行が許されないのが玉に瑕だった。

「一番いい部屋はギアッチョが使ってるからお前は予備のほう使えよ。ほこりかぶってるから掃除して使ってくれ」

「えーーッ!そんくらいハウスキーパーとか雇ってやっといてよ」

「今この状況で見知らぬ他人を家に入れるかのか?護衛にやれっていうのはパワハラになるしな」

「僕に言うのはパワハラにならないのか…」

「お前立場上だろ。下から上にいう分にはパワハラじゃあないんだぜ」

「風通しのいい職場ですね…」

「お前掃除好きだろ」

「好きじゃあねーッてずっと言ってますけど?!」

 

 僕は渋々嫌々掃除した。まあ埃程度なら全然可愛いもんだ。それに掃除って毎日やるよりある程度汚れが溜まってからのほうがやりがいがあって楽しい。そういう意味でこの部屋は一番いいコンディションかもしれない。

 僕はウキウキで掃除をして、結局夜になるまでずっと溝だとか隙間だとかに夢中だった。

 

「何してんだ」

「掃除」

「趣味かよ」

「趣味…なのかな。ここまでくると」

「ほれ」

 

 ギアッチョはバッグを投げ渡してきた。中には乱雑に服が詰め込まれていた。どうやら僕の自宅から当面の服をとって来てくれたらしい。

 

「……ねえこれ靴下ばっかりあるんだけど適当すぎない?」

「買えばいいだろうが」

 

 このままじゃ寝間着が「アイ♡ニューヨーク」シャツになってしまう。まあいいか…。僕は掃除を切り上げてギアッチョのあとについていく。メローネ含めて三人で飯を食いながらマンハッタンに希望があるだろうかという話をして、最終的になぜか「マンハッタンでオーガニック料理の店を出して大麻料理を売ろう」という結論になった。荒唐無稽すぎる。ま、酔っぱらいの会話なんてこんなもんだ。

 

 

 

 

 

 翌朝、支度をして本部へ向かった。本部の警備は前より厳しくなっている。あれから次の死人はまだでていない。

 

 本部につく。片田舎の丘の豪邸にあんまりにたくさん強面の男たちとリムジンがいるもんだから笑ってしまった。今日は幹部会も午後にあるせいだ。ゾロっと門に列をなすのを防ぐために時間をバラけさせている。

 

 僕とメローネはさっさと屋敷の中に入る。ギアッチョは幹部会の開かれる部屋にさっさと行ってしまった。出迎えたのはペリーコロで、今日は二階の応接室に通された。中にはフーゴとジョルノがいた。

 

「アメリカは楽しんだ?」

 

 柔和に微笑む笑み。透き通る金髪がカールして後光が指してるみたいに輝いている。長いまつ毛越しにこちらを見て、形のいい唇が微笑む。

 いいな。会うたびに思う。散り時を知らない花みたいだ。ずっと鮮やかに咲き乱れる花。その色彩に僕はやられっぱなしだ。

 

「ああ、すごくよかったよ」

 

 と僕が答えるとフーゴは一礼して退室した。僕とメローネは椅子にかける。

 

「細かい数字についてはさっきフーゴから報告を受けた。二人の所感についてを聞きたい」

「それは助かる。おれもこいつも数字はピンとこないからな」

「まあ貧乏くさい感じがした、とだけ」

「あはは」

 

 とジョルノは笑う。本当に邪気もイヤミもかけらもない笑みだ。

「いいとこだったよ。全部が観光地みたいなもんだし。スタンド使いは少なくとも表では見なかったね。街全体がエネルギッシュで闘争的で、なんていうかイタリアより時間が進むのが早い感じがした。ラリってるやつよりキメてるやつが多いね」

「治安は悪い。賢く法を抜けてる奴らがうじゃうじゃいる。酒にタバコ、ちょっとしたドラッグは当然。ディ・モールト…素晴らしい国だ」

「気に入りそうかな」

「ブランクは気に入ってた。な?現地で早くもスカウティングしていたしな」

「………してないけど…」

 

 ジョルノはその話をすでに知ってるって顔をしてる。メローネはニヤニヤしている。僕はメローネの足を蹴った。

 

 

「マンハッタンの件だが…ジョルノ、お前が思ってるほど楽じゃあないぞ。正攻法なんてない世界でやれることは限られているってわかるだろ」

「ああ」

「要するにおれたちは()()()()()()()なのか?それともお前のために踊ればいいのか?あそこじゃハンパは通用しない。おまえは、どっちを望んでいる?」

 ジョルノはすぐにメローネの言いたいことがわかったみたいだ。目を閉じて静かに言った。

「…マニック・デプレッションの使用は認められない」

「配るのは富裕層、毎晩レストラン探しに勤しむヤッピーだけだ。貧困層には決して回さない。ディアボロと同じ轍は踏まないよ」

 僕がそう言ってもジョルノは首を縦に振らない。ブチャラティの信念を貫くジョルノは本当に義理堅い。けど、頑固すぎる。

 

「ディアボロがイタリアで成り上がれたのは、もちろん矢によってがスタンド能力者という武力を増やし続けることができたからというのもある。が、やはりマニック・デプレッションで既存のギャングたちの食い扶持を全て奪ったのがデカい。…あちらで成功するつもりなら一番の近道だが?」

「それでもだ。今のパッショーネは麻薬の根絶という理念に共感し、それに尽くしたいと感じている人たちによって成り立っている。それを裏切ることはできない」

 

 ジョルノの弱点、それは間違うことができないこと。彼のカリスマは凄まじく、信奉者はどこまでも彼についていくだろう。しかし、彼らの信仰が強固になればなるほどジョルノを縛る鎖になる。

 もちろん、それでも彼は間違わないんだからすごいんだけど。

『間違いだらけのお前と違ってな』

 

 

「人は驚くほどに幻想に対して無防備だ。ギャングスターのジョジョ、若きカリスマ、裏社会を照らす者…。聞こえはいいが、本当にそうあろうとすると《やらなければならないこと》は光からかけ離れていくが、それでも正しくあらねばならない」

 

 でもジョルノ。人はそんな簡単に依存から立ち直れないし、美しいものを見たって救われるわけじゃないんだ。ジョルノ、君のように黄金の精神に誰しもが救われるわけじゃない。

 どうしてそれをわかってくれないんだ。

 

「だから僕がいるのに、ジョルノ」

「……君とした約束は、君の大切な人たちを『守る』、そしてぼくが道を踏み外すまで『手を組む』ことだ。君が手を汚すことではないよ」

「まあ……そうだけどさ」

 

 そこてメローネがふう、とため息をついてからどうでも良さそうな口ぶりで言った。

 

「…ところでアメリカ行き自体の凍結はあるのか?正直利益を上げる見込みはあまりない。起きるのはトラブルだけじゃあんまりだろ」

「もちろんあり得る。今回の敵…《転落死》がどう転んでいくかによるが…」

「……ハッ…転落だけに事態が転ぶってこと…?!」

「あ〜〜はいはい面白いな」

「そろそろ行こうか」

「ああ」

 三人で立ち上がり部屋を出た。メローネは何故か僕の肩を叩いた。先に出たジョルノに警護の二人が付き従い、僕たちもその後に続く。

 

「ところで、勧誘に失敗したという少年はなぜ来なかったんだろう」

「え〜…めんどくなっちゃったとか?イタリア語わかんないとか飛行機嫌いとか…」

「お前が怪しかったんだろ」

「えぇー、手応えあったんだよ?懐いてる感じあったよ?ご飯もおごったんだよ僕」

「野良犬じゃねェーんだから…それだけでついてこないだろ」

「なにかトラブルがあったのかもしれない。調べておいたらどうだ?」

「あー…そうだね。やたら不運な感じあったから…」

 

 でもこれで本当に単なるバックレだったら僕は立ち直れる気がしない。

 人を見る目はあるつもりだったけど、自分に懐くかとかってあんまり考えたことがなかった。万人に好かれるようにアメリカに行ったら絶対にイメージ戦略に力を入れるぞ。

 

 幹部たちは同じく二階の広い客間に集まっている。その途中、中央階段でなにかあったみたいだ。

 覗き込むとヴェネツィアの幹部、アントーニオが階段でうずくまっていた。彼はヴェニスの商人に1ポンドだろうが50ポンドだろうが肉を削ぎ取られても問題ないという体型をしていて、階段を上るにはいささか太りすぎている。

「どうかしたのか?」

 ジョルノの声にアントーニオと護衛はハッとして頭を下げる。

「い、いえ……どうもおかしく…て……」

 アントーニオは息苦しそうで、心臓を押さえている。おいおい、ホントに階段上って死にかけてるのか?顔は青ざめているしガクガクと膝が震えている。

「く、苦しい…息が…できない…ハァッ!ハア…ッ!」

 こちらの警護の二人も加わってなんとかアントーニオを立ち上がらせようとする。階段をあと三歩登ればいいだけだ。なんとか警護四人がかりで彼の足を進めようとした。

 一段、二段と進む。しかし最後の三段目で運悪くアントーニオは足を滑らせた。そして

 

 ばしゃっという音がした。ぼしゃ、だったかもしれないな。とにかく水音だった。むわ、と鉄の臭いがひろがった。ジョルノもぼくもメローネも、護衛四人も全員血塗れだった。

「が………ケッ………」

 喉から絞り出された声がして、何が起きたのかわかった。アントーニオが階段から滑り落ちた。そして、膝から落ちたはずの下半身は潰れていた。

 

 哀れアントーニオは、たった一段足を滑らせただけで階段に大きく広がる血と脂の染みになってしまった。

 

 

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