【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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05.走り回って②

 

 エジプトの4月は暑い日は30度近くにもなる。今日もホテルを出るときは25度くらいでちょうどよかったが、図書館を出る頃にはもう28度まで気温が上昇し、日差しと相まって暑かった。湿気があまりないのは幸いだった。マンハッタンは4月でもたまに雪が降る。さっきまでいた国と冬と夏くらい違うってのは不思議な感じがするよね。

 

 ヴェルサスはうんざりした顔で脱いだ上着を抱えてあとをついてくる。

 

「いやぁ、それにしてもエジプトは素晴らしいね。太古のロマンを感じるっていうか、この乾いたレンガ一つにも歴史の流れを感じるよ。ね?」

「全然感じねエ…」

「町並みも活気がある!人々の営みがこの砂漠のオアシスに息づいてるね〜。それになんか見覚えがある気がするよ。僕ここに来てたんだなあ」

「そうかよ」

 

 ヴェルサスはなんかイライラしてるみたいだ。というか怯えているのか?さっきからやけにキョロキョロしている。

 

「大丈夫?」

「ブランクさん。あなたは感じないんですか?さっきからそこら中から見られてるような気配がする」

「えー。感じないけどな…どこらへん?」

「あッ!ほらそこの…!」

 

 なんだ?暑さでおかしくなっちゃったのか?と思いながらヴェルサスが指差す先を見る。建物の柱のひび割れだ。

 黒い割れ目の奥になにか動くものが見えた。よく見るために目を近づけると、節くれだった指先が見えた。

「え?」

 と驚いていると、その指が突然ひび割れから突き出してきた。

 間一髪で避ける。まさか目潰ししてきたのか?

 その指をへし折ってやろうと柱を銃底でぶん殴るとぱらぱらとレンガのかけらが飛び散った。中を覗くと指なんてどこにもない。

 

「……今のは…スタンドなのか?」

「何が…今、指が…?」

「目潰しされそうになったよ」

 

 僕はちょっと考える。

 これは多分ヴェルサスのスタンド能力なんだろう。彼の話を聞いた感じどうやら彼は死体を掘り当てたりする才能があるっぽいと思っていた。だがそれだけじゃなくて地面や壁からいろんな誰かの無くしものが出てきたりする。

 さらにあの指と死体の主は実在していなかった。つまりそこに《ある》かどうかはそんなに問題じゃないみたいだ。

 死体の幻影…?それも少し違う気がするが、とにかく制御ができてない上に望まないものを引き当ててしまうのが彼にとっての問題なのだ。

 

 

「よし、わかった。こういう時はこれだね」

 

 ゴロゴロと喉を鳴らす音とともにヴェルサスの足元に骨の体をした猫が絡みついた。

「うッ…!なんじゃこりゃあ!」

「グレート・ギグ。幸運を引き寄せるおまじないさ。君の無差別なスタンドがもっとマシなもんを掘り当てるようにしてくれる。……と思うよ」

「これがあんたの『スタンド能力』ってやつなんですか?」

「んー。そうだね!」

 厳密には違うけど。グレート・ギグは見た目もかわいいし縁起がいいからよく使っている。本体はろくでもないやつだったからなんだか変な感じがするけど、可愛いし無害でいいスタンドだ。グレート・ギグはヴェルサスの肩によじ登り自分の腹を舐めた。

 

「さて。えーっと…まずはこの先の通りかな…」

 

 ブランクは図書館でコピーしてきた新聞記事をめくる。これは『彼』がこの土地にいたであろう期間の新聞記事の中から特に奇妙な事件が多かった日の切り抜きだ。

 1988年からちょくちょく奇妙な事件の記事は多かったものの、1989年1月17日の記事はかなりすごかった。

 

 アメリカ上院議員、車で暴走。通行人が次々とかまいたちに襲われる?ロードローラー盗難?破壊され発見。時計塔壊れる。怪現象多発す!

 

 ……一日でこんなに変な事件が起きてる日は他にない。

 

「15年前、この通りでアメリカの上院議員の車が歩道を爆走したらしいよ。ヤバイよね〜」

「これだけ混んでちゃ歩道を走りたくなる気持ちもわかります」

「怖いこと言うね」

「そもそもあんたの人探しと昔の事故の何が関係あるっていうんだ…ったくよォ〜」

 ぶつくさ言うヴェルサスと通りを歩く。もちろん15年前の惨劇の痕跡なんてこれっぽっちも残っていない。

 

「それで、なんか感じる?」

「いえ…特には。あ」

 ヴェルサスの肩からグレート・ギグが飛び降りて人混みの足を縫って路地へかけていってしまう。

「追いかけたほうが?」

「そうだね。いこうか」

 

 グレート・ギグはどんどん通りから離れて言ってしまう。本物の猫みたいに塀をつたいトコトコと軽やかに歩いていく。

 ところどころある段差や隙間もなんのその。ぴょんと飛び越えて塀の中へ入っていってしまった。

「ブランクさん。ここは閉鎖されています」

「みたいだね」

 

 身長の倍くらいある高い塀だった。建物は見えない。周りをぐるりと一周してみると、ところどころに補修したと思われる新しめのレンガの場所があった。門扉もあとからつけたと思われる鋼鉄の扉で、さらにチェーンまでかけられている。

「どうします?」

「そうねぇ…」

 いま出してるスタンドは引っ込められない。せっかく何か手がかりを見つけたんだから。

 鉄の扉も錠前も手持ちの道具では難しそうだ。隣の建物から飛び移ろうにも少々距離がある。さてどうしたものか。

 

「まあ普通に乗り越えよっか。ヴェルサスくん、僕を持ち上げてよ」

「は…?オレが?」

「そりゃそうでしょ。君のほうが背が高いんだから」

 すごく嫌そうな顔をされた。でも僕がヴェルサスを持ち上げるのは難しそうだ。ひょろっとしているとはいえ180センチはあるし。

「手をこう組んで、上に思いっきり振り上げる感じね」

「靴脱いでくださいよ」

「カァ〜〜ッ!生意気だね君は」

 

 ここで靴を脱いでしまうから僕はプロシュートの兄貴にはなれないのだ。僕は塀からちょっと離れてよく屈伸する。ヴェルサスの持ち上げ方にもよるが、飛べない距離じゃない。

 

「よし…いいかい。人間だと思わなくていいから思いっきり上げてね!」

「はい」

 僕は地面を踏み込み思いっきりダッシュする。一歩、二歩、三歩。ここで飛び上がってヴェルサスの手に足をつく。ヴェルサスはその手を思いっきり上へ。

「だっしゃああああ!!」

 僕はなんとか三角に積まれたレンガの隙間に手をねじ込む事ができた。そのままよじ登り、内側を見る。

 塀の中は更地だった。建物の基礎と入り口から続くアーチなど痕跡は見て取れるが、本当に何もなくなっている。

 さっき仕入れたロープをたらし、ヴェルサスを持ち上げた。すごく重いんですけど。持ち上げて、靴を返してもらってから二人して塀の中に飛び降りる。

 グレート・ギグは芝生が残ってるところあたりでごろごろ言いながら背中を擦りつけていた。

 

「ここはなんなんですか?」

「さあ。空き地にしちゃ厳重に封鎖されてたね」

 

 僕がグレート・ギグを撫でてやるとヴェルサスも撫でた。体が骨なので全然ふわふわしていない。グレート・ギグはそれでも嬉しそうに体をくねらせた。退いたその体の下にあるのは『穴』だった。

 

「こんなところに穴なんて…」

 

 とヴェルサスが手を伸ばすと、突然浮遊感に襲われた。そして気付くと僕とヴェルサスは暗い部屋の中にいた。

 

「……ん?あれ?穴に…落ちたのか?」

 上を見た。天井には穴なんてない。横でヴェルサスが頭を押さえて困惑してきた。いや。そもそも穴の有無にかかわらず、あんな猫の体に隠れるほどの穴に人間二人が落ちるか?

 

 足音がした。僕は立ち上がり、銃を構える。敵がスタンド使いだった場合あんまり意味がないと思うが。

 一歩、また一歩、誰かが歩いてきた。僕はためらわず発砲する。しかしまるで手応えがない。

 

「…無駄だ」

 

 と、暗がりから誰かが言った。

 

 

 

 

 暗がりから出できた男はオレンジ色の外套をまとった大柄なエジプト人で、仰々しい飾りをいくつもつけた奇妙な男だった。首からは金のネックレス、腕には銀の腕輪。バンダナの下から険しい眼差しでこちらを睨んでいる。

 確かに胴に弾丸を撃ち込んだはずだが傷一つない。

 

「お前誰だ?ここは地下室か?」

「ここは『記憶』だ」

「……記憶だと?」

「地面は過去の出来事を『記録』している…磁気テープのようにな」

 

 ブランクは一発撃つ。今度は額を撃った。しかしその男にはあたらない。いや、当たっているが効いていない。

 

「……記憶か。なるほど。こちらから手出しはできないというわけだな」

「1989年、1月17日。わたしはここで()()()。体のほとんどを削り取られて」

 

 そこで『ガオン』と音がして目の前にいる男は消えた。いや。手と足が残っている。『削り取られた』のだ。衝撃に言葉を失う。どんな能力にやられたんだ?全然視認できなかった。攻撃相手までは記録として再生されないのか?

 

「ブランクさん…」

 

 呼びかけられ、ヴェルサスの方を見るとその傍らに人影が立っていた。それは明らかにヴェルサスの傍らに立つもの、スタンドだった。

 

「これがオレの『スタンド』…なのか?」

「そう…らしいね。しかもドンピシャ、君の能力はディ・モールト…いいね」

「《過去の記憶を掘り起こす》…チクショウ!これまでの出来事は全部この能力のせいだったってことかッ」

「いやいや!やっぱりラッキーだったんだよ!めっちゃすごいよその能力。チョ〜便利じゃん!すっげーー!!いいなーー!!ほし~…」

「そ、そんなにか…?」

「うん。で、それはそれとしてここから出たいんだけど。能力を解除できる?」

「やってみます」

 

 ヴェルサスが目を閉じ何とかしようとしたとき、誰かが先程死んだ男の側に立っていることに気付いた。

 

 

「……あのッ…」

 

 僕がその誰かに声をかけようとしたとき、僕たちは更地に戻ってきていた。足元には拳骨くらいの小さな穴が掘られていた。まさかここに入っていたというのか?スタンド能力に現実世界の物理法則を説くほどアホではないが、まったくとんでもないな。

 

「手を上げな」

 

 そして一息もつく暇なく、誰かの声が背後から投げかけられた。

 

「ったく。こんなに高い塀をよく登ったもんだな。ハンカチでも飛んでっちまったのか?不法侵入だぜ、お二人さん」

「いえ、大切な猫が入ってしまって…すみません、謝ります」

 僕の向かいにいて乱入者の姿が見えているヴェルサスも手を上げた。はったりではなく銃を持っているようだ。

「猫?猫の姿なんておれには見えねェ〜ぜ。……ま、逃げちまったのかもしれないが。だが……なるほど?猫、猫ねェ…。もう少しうまい言い訳が聞けると思ったんだがな」

 男の口調にはまるで僕たちを怪しむ決定的な理由があるかのようだった。

 

「そこのあんちゃんもこっちを向きな」

 

 僕は振り向く。男はカウボーイハットをかぶり、古めかしい銃を構えている。どうみても警官や警備員ではない。というかこの時代にカウボーイファッションだと?冗談だろ…。

 

「おや。これは失礼、レディーだったか…。おれは女には手を上げんと決めてるんだ。美人でもブスでも、女を尊敬しているからな」

「おや…僕の正体を初見で見抜くとは、メローネ以来かもしれませんね。あなた名のある変態でしょう」

「失敬な…。いや、本当に失礼だぜ。言うに事欠いて変態だとオ?」

「じゃなきゃなんなんですか?こんな更地の警備員…には見えない。ホームレス…でもないでしょうね。こんなとこ簡単に入れない。この土地の持ち主なんですか?」

「いーや違うね。どれもこれも大間違いさ。次はおれが質問する番だな?おまえら、何者だ?」

 男は銃口をヴェルサスに向けて撃鉄を起こした。女を傷つけないと言ってたがそのつもりなのか、はたまた僕が正直に答えなきゃヴェルサスを撃つということなのか。

 殺してしまおうかという考えが一瞬よぎった。だがこの場所について情報を引き出したくもある。グレート・ギグの導きを信じるならば、ここは空条承太郎と《彼》に関わる場所のはずなんだ。

 

「僕は探してるんです。ジョンガリ・Aのこと…」

 

 その言葉に男は反応した。銃口が僅かに下を向いた。グレート・ギグが僕の肩から男へ向かって襲いかかる。狙いは腕だ。男はグレート・ギグを視認している。やはりスタンド使いか、ならば速攻で決める。

 僕は袖に仕込んだナイフを手に握るまでもなく、腕を振り抜き投擲する。

 

「うオッ…!?」

 

 男はグレート・ギグの絡みついた腕を上げガードする。ナイフはスタンドであるグレート・ギグをすり抜けちょうど拳銃を持った男の手に突き刺さる。

 男の拳銃が落ちた。それを蹴り、僕は男にタックルし押し倒す。腰に挿していた銃を抜き、倒れた男の眉間を狙った。

 

 男は驚いたと言わんばかりに目を丸くしている。勝った。そう思って僕は笑うが、男も不敵に笑った。腰の横あたりになにか硬い物があたっている。

 銃だ。さっき遠くへ蹴ったはずの。

 

「拳銃のスタンドか…ッ」

「ああ、あんたら銃が見えてたろ?スタンド使いだってバレバレだったぜ」

「…おい、そこのジジイ。その人から銃を離しやがれ」

 ヴェルサスの声がした。ヴェルサスは地面に手を付けている。

「忠告しておくが、おれはこのままお前を撃ち殺す事ができる。そういうスタンドだからな。お前のスタンドはなんだ?穴の中に出たり入ったりしてこの娘を置いて逃げるつもりか?」

 不遜な男の言い方にヴェルサスは「心底ムカつくぜ」という声色で返した。

 

「その逆だ」

 

 

 

 

 

 落ちる。

 そして着地する。

 

 そこはさっきの通りだ。ただし夜だった。冷たく乾燥した空気で季節すら違うのがわかる。真っ暗な夜空に星と、なにかが燃えるぼんやりとしたオレンジの光が見えた。

 

「ヴェルサス!」

 

 僕は周囲を見回す。

 これが『記憶』なら…一体いつの記憶なんだ?

 にゃーんと声がして、僕はその方向を見る。そこには蹲るヴェルサスとその上に乗っかっているグレート・ギグがいた。

 僕が駆け寄るとヴェルサスも気づき、あたりを見回す。まだスタンドをコントロールができてないみたいだ。

 

「大丈夫?あいつは?」

「わ、わからない…ッ」

 発砲音。僕は銃を構えて銃声の方へ振り向く。

 まわりのカフェにいる奴ら、なんにも気づいちゃいない。これが記憶に過ぎないからか?

「僕から離れるなよ」

「言われなくても離れねえよ」

 

 路上にまで広がるカフェスペースの隙間を縫うようにカウボーイが現れた。

「なんだよ、これは。どっちのスタンドだ?ここ…は…」

 また爆発音がした。鐘が鳴り響いた。時計塔が崩れ落ち、人々の間にどよめきが広がる。男の顔色がさぁーっと青く変わった。

 

「嘘だろ。DIOがいるわけ……」

 

 

 

「ヴェルサス、こいつだけ置いて逃げよう」

「ええ。……でどこに?」

「君のスタンドだろ!スタンド本体はどこだ?」

「それなら…」

 

 とヴェルサスがあたりを見回したときだった。

 肩口にヒヤリとした感触がした。みるとナイフが一本突き刺さっている。

 

「はァ…ッ?」

 

 投擲音もなく、ただそこにはじめからあったようにナイフがある。周囲にはガシャンガシャンという音がして地面にも大量にナイフが落ちていた。

 通行人やカフェの客もいつの間にかナイフが刺さっていたり転んでいたりでパニックが起き始めていた。

 

「まさか…記憶の中のもので攻撃可能なのか…ッ?」

  だが拳銃使いがナイフ投げ?妙だ…。と思ったらすぐそばの飲食店で爆発が起きた。その店の前には大柄の男が立っていて、店の中に誰か倒れていた。

 

 これは記憶。この場所で起きたことを再生しているに過ぎない…。だとしたら、あれが師匠の追い求める『彼』。そして先程ホルホースが呟いた『DIO』なのか。

 

「穴を見つけた!ブランク、こっちだ」

 

 ヴェルサスは手を伸ばす。僕はそれを掴んだ。

 

 僕らは穴の外にいた。奇妙な感覚だ。すぐ下の穴は先程のより何倍も大きく、3、4メートルほどの幅。底は見えない。

 

「スタンドは発動中なんだね」

「ああ多分…いえ、そうですね」

「よし。本当にありがとう…助かったよ」

「そんな。あの…これ、どうします。このあと」

「もう一回降りて敵を無力化してくる」

「え、また降りるんですか?」

「ああ。グレート・ギグを解除して()()で捕縛する。やつは僕の知りたいことを知ってそうだからな」

「別の…?」

「ちょっと待ってて」

「大丈夫なんですか?一人で…ッ!」

「ああ。こう見えて僕強めだから…」

 

 

 

 有言実行。僕はスタンドをフル活用しあっという間に男を捕まえ、穴から這い出てきた。

「ちょっと…ヴェルサス、手伝ってよ。重いよ」

「アンダーワールド…スタンドを使って疲れてるんですけど」

「ンマ〜〜!僕は肩にナイフ刺さったんですけどッ!?」

 そう言うと渋々手伝った。男は気絶し、両手は拘束され目隠ししてる。

 僕は扉の鍵をなんとか壊し、男を無理やりそのへんで買ったでかいカバンに詰めてホテルに運び込んだ。

 

 

「傷口縫っちゃお…」

 

 一息ついてさっきの傷を縫おうとシャツを脱ぐ。出血は多いが割と浅めの傷で動かすのに支障がなかったのは幸いだ。

「げッ…じ、自分で縫っ…縫うんですか?」

「そうだよ」

 僕はなんとか片手で傷を縫い、ガーゼを被せて包帯を巻いた。ちょっと不格好だがこれでよし。

「ブランク…あんた何者なんだよ…」

「んー……ヒットマン…?」

「そうは見えないです」

「そりゃ暗殺者が『へえ、あたしゃ暗殺者でやんす』ってカッコで歩かないだろ。いや、まあ最近は廃業してたからね。だからこのおじさんに遅れを取っちゃった」

「この男があんたの探し人と関係があるっていうのか…」

「多分ね。…それにしてもヴェルサス、本当に君の能力すごいよ。アンダーワールドって名付けたの?もう採用確定。どお?組織でその力活かしてみない?実力次第で稼げる違法な仕事だよ」

「ここまで来たんだ。入る意志は変わんねエし。……あんたの下なら…異論はありません」

「えへへ。うれしーなー。僕にもやっと下っ端らしい下っ端が…!」

「下っ端だア?」

「立場上部下はたくさんいるんだけどねー。直属の後輩みたいな感じとなるとあんまり…。むしろ僕めっちゃ後輩キャラだったから」

「…あの、あんたって一体組織の…」

 

 どたん、と音がして男が目覚めたのがわかった。椅子に座らされダクトテープで縛られるなんてベタな目覚め、がっかりしちゃったかな。

 拳銃のスタンドを使うらしいから手は厳重に巻いたので無力化は成功してるとは思うが。

 

 僕は口のところだけテープを剥がす。

 

「僕はブランク。手荒なことをして…と謝るとこかもしれませんが先に手を出したのはそっちですよね。謝りませんよ。……あなたの名前はなんですか?」

 

「変な名だな…ブランク。おれはホル・ホースだ。……あんたは一体何者なんだ?」

「だからジョンガリAを探してるんですってば。質問するのはこっちですよ、こっちだけ」

「チッ…さっきのスタンドは一体何だったんだ。しかもおもクソなぐって…お淑やかじゃあねーな」

「ジョンガリのこと知ってるんでしょ?教えてくださいよ」

「ああ…名前だけな。かつて同じ組織っつーか…いや、集団…か?そこに属してただけだ。名前しか聞いたことねーよ」

「そうですか。その集団のリーダーがさっき言ってた《DIO》なんですね」

「……ああ。そうだ。……あの空間は後ろのガキのスタンドだな。驚いた、あの日の記憶そのままでよ」

「彼はヴェルサスです。あなたあの日、あの場にいたんですね…?じゃあ空条承太郎がDIOを殺すのを見たんですか?」

「いや、厳密にはあの場にいない。時計塔が崩れるのを見たが…。あの場。恐怖が、蘇ってきた。中々断ち切れるもんじゃあねエのな」

「興味深いですね。恐怖か…」

 

 そこでルームサービスが来た。ホテル自慢のエジプト小料理満喫セットだ!ホルホースの前で広げてヴェルサスと食べる。地元のビールもセットでついてきて最高だね。

 

「僕の師匠は…ジョンガリは恐怖なんて全然なかったみたいですけどね。二面性があったとか?」

「いや、一貫していた。そう…一貫して《悪》だった。そこに惚れるか恐怖するかの二択だ。………なあソレおれの分はないのかよ」

「じゃあ質問に答えてくれたからあげちゃお…はいあーん」

「あーん……おお、こりゃうめぇな。マハシーか」

「ええ。美味いですね〜」

 マハシーとはナス、ズッキーニ、トマトやピーマン、パプリカなどの夏野菜に米とひき肉を詰めて煮た料理だ。ひき肉はスパイシー、煮汁にミントが入ってるのが爽やかで美味しいエジプトの代表料理だ。

 ヴェルサスを見ると料理に手を付けていなかった。

「ハーブっぽいの、嫌いなんで」

「マ〜〜ほんとにこの子ったら…」

「食えばうめーぞ?ガキだな…」

 

「それで…ジョンガリは惚れた口だったわけですか…」

「ああ。金で雇われたのとシンパと、両方いたがまあ、全員にある程度はあったぜ?《悪のカリスマ》への憧れみたいなもんがな…」

「へーカリスマねぇ……ああ、このカモウニア、クミンがめちゃくちゃ効いててうまいな」

 カモウニアはラム肉とレバーのシチューだ。クミンをたっぷり使っている。ご飯にかけるところもあるが、今回はパンにつけて食べるようになっている。外国人向けだからかな?

 

「どれ。……おお、ここのシェフわかってるな。肉もほろほろでいて噛めば噛むほど味が滲み出てくる。ここいいホテルだろ?ヒルトン?あんたら金持ちか?」

「まあ金はありますね。ヴェルサス〜これはお肉料理だからおいしいよ」

「いや、クミンって脇の匂いみてエ〜でどうも受け付けねえんです」

「ンマ〜〜〜!このガキイ〜〜〜!」

「さてはこいつろくなもん食って育ってないな。舌が貧乏なのは幸福度下がるぜ」

「ホントですよ。無理やり食べなさい!まったく…」

「チッ…」

 

 ヴェルサスはいやいやパンにつけて食べる。しかし口にした瞬間評価は一転したようで黙々と食べ始めた。

「で、なんで僕らが侵入してすぐ駆けつけたんですか?なんか財宝とか隠してるんですか?」

「いや、あそこにはなーんもねえよ。ただ…たまたま見かけた。あそこはDIOが根城にしてた舘が立っててな。《何か》あったら嫌だろ」

「なるほど…」

 

 偶然、引力。

 神父の言うことを信じたおかげか。

 ジョンガリが心酔していた男、DIOの解像度が急に高まってきた。残念ながら実情DIOはかなり邪悪な存在だったようだが…。それでこれから先、どうする?もう少し記録とやらを掘り起こすべきか。

 エジプトでしばらく過ごすのは殺し屋に狙われている組織の中枢として如何なものか。まあもう逃げ出してきてるんだからいかがなものかもクソもないか。

 

「あなたはもうDIOを崇拝したりしてないんですね?」

「ああ」

「わかりました…」

 

 僕はホルホースの拘束をといた。ダクトテープを剥がすときかなりの腕毛を持っていってしまった。

「次からはロープにしてくれ」

「すみません…。現代っ子なもんで」

「まあお互い敵でないことがわかってなによりだ。ブランク」

「ええ、ホル・ホースさん。どうぞ召し上がってください。……なんかもうサラダとデザートしかないけど。……あのさあヴェルサスゥ!君多少礼儀を覚えてもらわないとね、僕が恥ずかしいんですけど!連れてかないからねッ!幹部会」

「幹部ぅ?あんたそうは見えないことだらけだな」

「まあ…よく言われますね」

「……さっきはヒットマンって言ってませんでしたか?」

「そう、ヒットマン兼情報分析兼…あとなんだ?ああ、麻薬兼人事兼統括幹部」

「冗談だろ?」

「まあほぼお飾りですよ」

「いやいや、ギャングってツラにはみえないぜ」

「よく言われますね」

「………マジなのか?おい」

「オレに聞くんじゃあねえよ」

「マジでーす。あ」

 

 着信だ。ホテルの電話だけどなんか嫌な予感がするな。

 

「はいアッサラーム!」

『てめー、ブランク。死にてェーのか?あァ?!』

「ギアッチョ、なんかあったの?」

『足の裏を見ろ』

「え?……特になんもないよ」

『そうか…。いいか、あの護衛が《落ちた》ぞ。軽傷だ。つまりはあのカウントは段数だったってわけだが…。まあいい、車椅子のタイヤを撃たれた』

「撃たれたァ?本部から出たの?」

『違う。本部内で、だ。ライフルの弾がみつかった』

「……ほぉー…」

『てめーならわかるよな?あの屋敷を狙撃するには二キロは先の丘に登るしかない。しかし重要な護衛対象を狙撃可能な場所へ出すわけがねェ…意味、わかるよな』

「僕を疑ってんの?!」

『アホかァーーッ!ちッげぇーだろォーがッ!!お前のコピー元が、いるかもしれねェってことだろうがッ!』

「………まさかぁ…」

『とにかく、お前の力が必要だ。すぐに帰国しろ、いいな?』

 

 僕の返事を待たずに電話が切れた。

 僕はまだこれが現実かよくわからず、とりあえずデザートのマハラベイヤを食べた。トロトロで美味しい。シナモンがかかってて、それが甘さに深みとコクを与えているね。

 

 

「…………食っとる場合かーッ!」

 

 僕の自ツッコミに誰もリアクションをとってくれなかった。そりゃそうか。

 はあ。至急帰らなくては、イタリアへ。

 

 

 

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