【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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06.虚空のスキャット

 

 

 気づくとまた僕はソルベとジェラートの隠れ家にいる。

 家具も撤去されてクリーニングされた何もない部屋。二人が過ごした痕跡も、凄惨な処刑の痕跡もすべて拭い去られている。ただ微かに漂うどんよりとした湿度だけあの日と同じだった。

 カーテン越しの日差しはどこか色彩を失っているように感じ、部屋に落ちる影もまた真っ暗な闇というよりかはぼやけた灰色だ。

 

「ブランク、お前は矢を持っていながらどうして積極的に使おうとしない?」

 

 暗がりからあの声がする。チョコラータは多分あの邪悪な笑みで灰色の影の中から僕を見つめている。僕はチョコラータのいる場所を見れない。

 

「強者は弱者を支配する義務がある。気持ちがいいぞ、自分の力を思いっきり使うのは」

「僕の力じゃありませんからね…」

 僕の返答にチョコラータは嗤う。何回も聞いた声色で。

「そうか?お前は見事にそれでボスをぶっ殺し、裏切り者たちを処刑し、能力を奪ってきただろう」

「それが必要なことだったから。僕にしかできない仕事だったから…」

「ははははは!」

 チョコラータはさもおかしそうに笑う。

「『僕にしかできない仕事』?ついさっき自分の力じゃあないと言ったばかりじゃあなかったか?借り物の力で何人陥れたんだ?ん〜〜?ブランク。すごいじゃあないか。人を不幸にする天才だな」

「……やめてくれ」

 ソウルスティーラーで奪ったスタンド能力と、それの本来の持ち主たち。彼らは全員不幸になった。或いは死んだ。もちろん僕だけのせいではない、各々に転がり落ちる理由があった。それでも、背中を押したのは僕だ。

 借り物の力、そう。僕はずっと借り物。名前すら本当に僕のものと言えるのか?

 

「お前は高潔な道を選ぶジョルノのあとを付いていきゃ自分も『正義』になれると思ってんのか?無ゥ理に決まってるだろォォオ〜〜?お前は、薄情な裏切り者で、人殺しだ」

 

 チョコラータの言う通りだ。僕はジョルノに夢や正義を託しきれてない。なぜならば、自分がその光の道に、たとえ彼の影の中でだって立っていられないことがわかっているからだ。居た堪れなくなるんだ。

 

「やめてくれ…」

「お前は弱い。心がな、弱すぎる。…それはなぜだと思う?」

「わからない…」

 

 チョコラータはいつの間にか僕の目の前ににいた。あの十字架を象った上着が視界いっぱいに広がって、チョコラータの手が僕の頭を撫でる。

 

「お前の魂はずっと深い闇へ向かっていくことでしか安寧を得られない、そういう魂だからだ」

「お前に僕の何がわかるんだ…」

「ああ、ブランク。今やおれはお前の一番の理解者だよ。おまえも、オレの一番の理解者だ。おれはお前の一番深い傷跡なんだからな…」

 

 僕はチョコラータを突き飛ばす。

 

「違うッ…!」

 

 僕の泣きそうな顔を見て、チョコラータが破顔するのが見えた。

 

「じゃあなんだ?一番はその腹の傷か?」

 

 気付くとそこは地下室だった。部屋の四辺に走る排水溝と、祭壇。あの日のことが脳みその一番奥から溢れ出しそうになってきて、足がすくむ。

 

「ブランク。忘れるなよ…お前の罪を……」

 

 

 

 

 

「なんか増えてませんか?」

「ん?」

「聞いてたより増えてる、って言ってるんですけど」

 

「ん〜〜そうかもね。でもその車なら問題ないでしょ?」

 空港まで迎えに来たシーラEは見るからに機嫌が悪い。僕とヴェルサス、そしてホル・ホースを睨みつけ、バッカンと大きな音を立てて車のドアを開けた。

「はあ…イタリアはやっぱり湿度が高いな。蒸し暑〜い。クーラーつけちゃお」

「やめてくださいよ、わたしは寒いんですから」

「じゃあちゃんとズボン履きなよ。君ィ、露出が激しいんだよ。脚のさぁ」

「人の服装に特に文句つけないでください。セクハラですよ」

「はー…フーゴはなんも言わないの?」

「言うわけがないでしょ。言ったとしてもぶん殴ってやるわ」

 

 シーラは僕が連れてきた二人を完全に無視することになるらしい。まあ彼女はそういうタイプだ。それに二人も運転手の態度についてはどうでも良さそうだった。ヴェルサスはねむそうにしているし、ホルホースは何本も巻いている腕時計を全部イタリア時間に合わせようとしていた。(どうしてそんなことになっちゃってるの?)

 

 ホル・ホース、彼が僕に付いてくると行ったときは少し驚いた。

 

 

 

 

 

「あれっ…?もしかして僕ら同郷じゃないですか?」

「マジか!え…でもおまえが生まれた頃って…」

「小さい頃大統領が銃殺されたってニュース見たことありますよ!チョー混乱。大混乱」

 

 僕とヴェルサス、ホル・ホースはギアッチョからの電話のあと酒盛りをしていた。イタリア行きの航空便は明日にならなきゃ取れなかったからだ。

 

「うわー大変だったな…じゃあお前も孤児院で育ったクチか?」

「もっと悪かったですよ〜師匠が助けてくれなきゃ僕死んでましたし。ほんとも〜……二度と戻りたくない」

「苦労するよな…故郷がないってのもどこか心に影を落とすわけよ…わかるか?ヴェルサスゥ…そういう人生の中で、確かなもん…つまりだな、愛を見つけた時の気持ちが…」

 

 僕らの故郷最悪トークにずっと苛立ってたヴェルサスがこのマウントでついにキレた。

 

「偉そうによォオーー!ジジイが。昔の話ばっかりしやがって!興味ねえーーッてのがわかんねーのかッ!」

「若者のキレ方だーーッ!あははは」

「逆にやりやすいぜ!ダハハハハ!」

「ムカつくぜ…オレに銃まで突きつけてたくせになんで平気でここで飲んだくれてるんだよ」

「それはおれもお前と同じだ。このブランクに興味がある」

「あら〜僕にもモテ期が来たみたいですねぇ」

「実際このホル・ホースは愛の伝道師でお馴染みだからな。あんたを口説くことも少々考えたぜ?だが、蓋を開けてみりゃギャング組織の№2ときた。こんなの面白すぎるだろ」

「面白いのは認めるけどよ…」

 

 口説かれても困るけどね。僕はちょっと影のある子とか僕のことなんか眼中にないつんけんした人にグッとくる。つまりはホル・ホースとは真逆の人がタイプだ。残念。

 僕はホル・ホースと話してるとなんだか、ムーロロのことが懐かしくなってくる。僕は半分思いつき、半分からかいで提案した。

 

「ホル・ホース。あなたお金で動くプロなんですよね?僕んとこ今ちょっとトラブル中でして。よかったら仕事していきませんか?」

「いいぜ」

「ブランクッ!こんなのを信用するのか?」

「ウチ経験者優遇だから」

「そうだぜ。ヴェルサス、まずお前は自分のスタンドをコントロールできるようにならねぇーとな」

「偉そうに指図するんじゃあねェーよッ!ブランク、あんたもこんな変な格好したヤツ勧誘しないでくれよなッ!」

 

 酔っぱらい同士の冗談だと思ってたら、翌日ホル・ホースはちゃんとバックパック片手に空港に集合していたのだ。

 

 

 

 とまあ、そういうわけで僕はホル・ホースの雇用主になったわけだ。僕としてもこの《転落死》騒ぎが収まったらジョンガリ探しを再開するつもりだし、あわよくばこのままパッショーネに入ってほしいとも思ってる。

 僕が今まで見た中で一番暗殺向きのスタンドだからね。同郷というのもやはりすこし情が湧くというか、嬉しかった。

 

 しかし、だ。この騒ぎそれ自体の雲行きが悪くなってきている。(そもそも人死にが雲行きが悪いのだが)

 

 

 

『てめーならわかるよな?あの屋敷を狙撃するには二キロは先の丘に登るしかない。しかし重要な護衛対象を狙撃可能な場所へ出すわけがねェ…意味、わかるよな』

 

「僕を疑ってんの?!」

 

『アホかァーーッ!ちッげぇーだろォーがッ!!お前のコピー元が、いるかもしれねェってことだろうがッ!』

 

 

 もし本当に狙撃手がジョンガリだった場合…僕はどうすればいいんだろう。考えたくもなかった。

 

『殺す、以外にあるのか?バカ』

『それしかできないだろ。いや、それができるだろ?お前は』

 

「着きましたよォ〜」

 

 シーラがもうほんとにやってられない。と言いたげな声で言った。僕はお礼を言って降りる。場所は富裕層向けマンションの立ち並ぶ小奇麗に整備されたニュータウンの一角、一番古いマンションだった。ここが情報分析チームの本部である。

 

「やっぱり僕の家には帰れないのか…」

「当たり前じゃあないですか。あんな治安が悪くてごちゃごちゃしたとこ、守る側が危険ですよ」

 

 5階建て、3階までは仕事で使う機材やスペースで占めている。4〜5階のスペースには1階に付き4部屋あり、チームの構成員は望めば住むことができる。

 今のところ住んでるのは二人でそのうち一人は職場の方に住み着いている状態だ。つまり空きは十分ある。

 

「じゃあすみませんが落ち着くまではここに住んでもらう感じで…えーっと…4階ね。4が苦手とかある?」

「ねーよそんなの」

 

 家電や生活必需品は揃っているし近くにちょっと高めの食料雑貨店もある。まあ苦労しないだろう。それにこのニュータウンのいいところはパッショーネが開発に噛んでいて、余所者を見つけやすいことだ。監視カメラも唸るほどある。

 

 

「それじゃあそこの二人は別のが引き継ぐから。ブランクさま、あんたはこっち」

「えっ。なななななんで…」

 シーラは青筋を立てながら言った。

「フーゴをまいたの許されると思ってるの?」

「僕は参謀だから許されるよね。叱る人いないだろ」

「残念、ジョジョが怒ってるからね」

「まじか…」

 

 僕はがっくりと肩を落として車に乗る。ジョルノが怒ってるなんて相当だ。完全にやりすぎた。どういう叱られが発生するのか考えただけで恐ろしい。

 

 ヴェルサスとホル・ホースには悪いが、とっとと禊を済ませてこなきゃ。

 車の窓から手を振る僕を見送るホル・ホースが小さな声で言った。

 

「ジョジョだァ…?」

 

 

 

 

 

 ネアポリス大学、ヨーロッパ初の設立大学という歴史ある国立大学らしい。当然建物も荘厳な作りで大学というより美術館や宮殿みたいな趣がある。

 学生たちもみなその品位にふさわしいものであるようで騒がしかったり散らかってたりということがまずない。

 僕も年齢的には大学に通っていてもおかしくない。だが通おうとも思わなかった。一時間以上椅子に座って人の話を聞くなんて退屈すぎる。

 

 その大学の理事長室でジョルノは待っていた。

 

「お……怒ってる……?」

「え?どうしてだい。怒ってなんかいないよ」

 

 僕は安心してソファーになだれ込む。

 

「シーラEにいっぱい食わされたよ。ここに来るまで生きた心地がしなかった!」

「ああ、たしかに彼女はめちゃくちゃ怒っていたよ。フーゴもね」

「いやー、そういう動きを期待されてると思ったんだけどね。やりすぎちゃったみたいだ」

 僕の笑みにジョルノも笑う。共犯者みたいに。いつも君は僕を対等みたいに扱ってくれる。

「今日はただゆっくり話したかったんだ。アメリカでの話もちゃんと聞けてなかったしね。エジプトはどうだった?」

「ああ。お土産買ってきたんだよね。はい、ちぃちゃいピラミッドの文鎮」

「ちょうどいいね」

 ジョルノは机の上の書類の上にクフ王のピラミッドを置く。そしてポットからお湯をつぎ紅茶を入れてくれた。茶菓子も出して僕の向かいに座る。本当に優雅だ。

 

「君の師匠はみつかったのか?」

「いーや。師匠の昔なじみの神父はろくなヒントもくれなくてね。ただエジプトで収穫はあったよ。師匠が昔仕えてた…でいいのかなぁ。まあ、その人に関していろいろとね」

「君がスカウトした新入り…ヴェルサスだったか。彼が役に立ったのかな」

「うん。彼のスタンドめちゃくちゃ便利だよ。過去の記憶を掘り出すんだ。それで…まあ…何があったかだいたいわかった」

「過去の記憶を…?それはすごい。今回の騒ぎの解決に力を貸してくれるといいんだが」

「どうかな〜。ここでやってくのやだなってなっちゃうかもしれないし。まあ危険が及ばない程度には協力してほしいけど…」

 僕がむにゃむにゃ言ってるとジョルノは頬に指を這わせ、僕を覗き込むようにかがむ。深い色の瞳に僕が映る。何だか見透かされてる気分になって、多分僕はぎこちなく微笑んだと思う。

 僕はいつからジョルノの前でちゃんと笑えてないんだっけ。

 

「君が誰かを誘うなんてこれまでなかったから、本当にびっくりしたよ。なにか感じるものがあったのか?」

 

 なんかジョルノって少しだけヴェルサスに似てる気がする。ヴェルサスが荒まずに高潔に育ったら案外そっくりかもしれない。

 そう、ヴェルサスは哀れなほどに荒みきっている。

 

「彼、幸せになりたいんだって」

「人はみんな幸福になるために生きていると思うが」

「それ…それなんだよ。でもそんなの意識しないだろ。当たり前の欲求すぎて」

「まあそうだね」

「でも彼、それしかないんだ。いい女を抱くとかいいものを食うとか、そういうのよりも強く思ってる。でも彼は幸せが何かわかってない。ただそこに幸せへの欲望だけがあるんだ。……それってなんだか…」

 

 絶頂という言葉を思い出した。それは僕の欲望ではないけれど、痛烈に刻まれた感情の一つ。永遠の絶頂のために奔走するディアボロの欲望は、ヴェルサスの幸せになりたいという欲望とよく似ていた。

 永遠などという存在しないものを求めるのは、ゴールのない迷路を永遠に彷徨うようなものだ。ケツに火のついたまま、その火が全身を焼き尽くさないように全力で。

 幸福の形がわからないのもそれと同じだ。ゴールがどこかわからないのに、全身が焼けるように欲しがっている。

 その先にあるのは灰だけだ。

 

「なんだか…悲しい、よね」

「そうだね」

「うん。とにかく放っておくのも冷淡すぎると思ってね」

「なるほど…。君はやっぱり情に厚い」

 そうかなあ。と肩をすくめて紅茶をすする。美味しかったけど全然茶葉のこととかわからないな。花っぽいってことしかわからない。

 

「君たちならマンハッタンでもうまくやっていける。ぼくはそう確信しているよ」

「僕は正直ちょっと無理かもとか思ってるんだけど。なんで君は信頼してくれてるわけ?」

「それは君たちが清濁併せのむことができるからだ。ぼくにはない柔軟さと……これは悪い意味ではないよ、冷酷さを持っている」

 

 たしかにメローネは柔軟で、ギアッチョは冷酷だ。でも僕はどっちでもない。清濁併せのむなんてできない。

 ブチャラティという人こそが清濁合わせ飲みながらも光の中へ堂々と歩いていける人だった。彼が生きていればきっと僕なんかよりよっぽどジョルノの力になっていたのに。

 僕は気づけばどんどん落ちてく。闇へ?虚空へ?あるいは死。

 僕が死んでりゃ矢だってジョルノが持ってた。そっちの方が良かったんじゃあないか?メローネとギアッチョも僕がいなくたって…

 

 

「まあね〜。僕らもともと汚れ仕事出身だし」

「自分を卑下しないでくれ。組織の人間は大なり小なり()()()()()よ。ぼくだって」

「何言ってるのさ。君が汚れちゃみんながっかりだよ。真実がどうであれ、僕らはついた嘘の上でそれぞれ役目を演じてるんだがら…弱気なこと言うなよ」

「ブランク。……本当にそれでよかったんだろうか」

「どういう意味…?」

「ぼくも暗がりに進むべきだったのではないかと時々思うんだ」

 そんなことを言って、僕が慰められると思ってるのか。それとも本心?僕と同じところに落ちてくれるのか?そんなつもりないくせに。期待しちゃって惨めになる。

 僕は予想外の言葉に思わずポカンと口を開けてしまった。

「何言ってんのさ。影の中を歩くのは誰だってできる。だけど光の中を堂々と突き進むことができる人間はそういないんだよ。君はそれができるんだからやらなきゃ」

 君が僕と一緒に転がり落ちてくれる人ならよかったのに。だったらきっと僕は世界が残酷で、どうしようもなくて、そこで生きる僕がしょーもなくても全然平気だったのに。

 でも君はそんな世界でもずっと美しいだろ。そんなのずるい。僕もそうなりたいって思ってしまうよ。僕は何にでもなれる。でも、君にはなれない。そんなの知りたくなかった。こんな身勝手な自分を知りたくなかった。

 僕は光に進む勇気はない。僕の手は汚れているから、闇へ向かうほうが楽なんだ。闇を見つめるほうが気持ちが落ち着くんだ。こんなのずるいよね。

 

「そう…君は美しいんだ。絶対に汚れちゃいけない、それが……みんなの希望なんだから。一度その道を歩いたら、降りちゃだめだよ」

 

 

 僕は、自分に言い聞かせてるような気分になる。僕も同じだ。一度この道を歩いたら降りてはいけない。でも、僕は美しくなんてない…。

 君は美しい。君は、本当に美しい。君の隣に立ちたくない。君といると世界が美しく見えてくる。こんな世界は僕のいるべき場所じゃない。僕が選んだ世界じゃない。…こんなの、拗ねてるだけだ。

「たしかにね、最近の僕はちょびーっと落ち込んでたけどもう大丈夫。楽しい新天地での仕事も待ってるし。師匠探しもあるからね」

 ジョルノは遠慮気味に言った。

「その師匠だが」

「ちがうッ…!」

 

 僕は思わず大きな声を出してしまい、ハッとなる。そんなつもりなかったのに。僕は取り繕うように笑って見せるけど、こんな小手先君には通じないよね、ジョルノ。

 冷静に、冷静に。僕は小さく息を吸って吐く。僕は大丈夫。

 

 

「……まあ、可能性はあるよね。少し引っかかるけど」

「引っかかる?」

「うん。わざわざ標的の車椅子のタイヤを撃ち抜くなんて回りくどくないか?僕だったら普通にドタマぶち抜くけど」

「転落死のスタンドの条件に関わるものだったんじゃあないのか?」

「まあそっか。そうだな…」

 少し引っかかることもあるけど、師匠は雇われの身が基本で依頼主の注文に忠実だった。熱烈な依頼でピストルで足を撃ち抜き続けて切断したこともある。

 じゃあ、今回の依頼も雇い主の注文?そのリストに僕の名前はあるのか?あったらいいな。どうせ殺されるなら知り合いの方がいいだろ。

 

「君はどうする?もし本当に君の師匠が今回の狙撃手だったら」

「……正直あんまり考えたくないね。でもそうだとしたら僕ら全員狙われた瞬間にどこへ逃げても意味がなくなる。迅速に捕まえなくちゃ」

「君の新しく連れてきた二人も協力してくれるね」

「もちろんさ」

 

 と言ったけどどうかなぁ。もしかしたら放ったらかしにされて怒ってるかもしれない。

 

 

 

 僕とジョルノはそれからなんてことない雑談をしてから別れた。ジョルノは本部へ。僕は車待ちだ。

 シーラは居なくなっていた。なぜ?

 大学生たちの楽しそうな後ろ姿を眺めながら校門にもたれているとクラクションの音が鳴った。音のした方を見るとギアッチョがこれまたいかつい車に乗って僕を迎えに来ていた。

 

「よくもそんなまったりと帰ってこれたもんだな、ブランク」

「まあまあ。ギアッチョにもお土産買ってきたよ」

 僕はビニール袋を手渡す。ギアッチョはとりあえずそれを開ける。可愛い白猫がスフィンクスの格好をしたキーホルダーが入ってる。

 

「アホかテメーはッ!なんなんだよこの白いスフィンクスはッ」

「おっとぉ…ギアッチョ。スフィンクスは英語読みですよ。元々の言葉じゃスピンクスっていうんです。ヴェニスに死すと同じですね」

「ブッッッ殺すッ!」

 

 ぶん殴られた。ちなみにこれはキティちゃんとかいう日本のキャラクターのコラボ商品らしく、空港に売っていたものだ。ギアッチョのスタンド、ホワイト・アルバムっぽいなと思って買ってきたんだがちょっと外しちゃったようだな。

 

「なんで君が来てくれたの?」

「あァ?テメーなんか文句あんのか…?」

「いやいや…ありがとうございます、ほんと…。メローネは?」

「家で仕事だ。オレはメローネの警護だが家にいるぶんならオレがいなくても問題はない」

「ふーん…ねえところで僕の警護って誰なんです?」

「ついてねーよ」

「ガッデム…」

「いらねーだろ。お前のスタンドなら」

「そう、それだよね。スタンドが強いから誰も僕を心配しない。僕のことも守ってよ〜ギアッチョ〜」

「突発的にエジプトに行くようなアホに付き合いたくもねーよ」

「じゃあ今度は一緒に行こうよ。イルーゾォ先輩とホルマジオ先輩とは一度海外旅行したなー。楽しかったなー」

「仕事を旅行扱いしてんじゃあねーッ!…それにオレは暑いところは嫌いなんだよ。なんで好き好んでそんなところに行かなきゃならねーんだ?」

「全力拒否の構えだね…。まあいいや。僕明日本部で現場検証するつもりなんだけど君もどう?」

「だからメローネの警護だと言ってるだろーが」

「はあ…じゃあ一人で行くよ」

「テメーは単独行動するな」

「二律背反ッ…」

 

 

 

 車は情報分析チームのマンションに回してくれるとのことなので、つく前にヴェルサスとホル・ホースがなにか必要なものがないか聞くために情報分析チームの本部に電話をかけた。

 電話は一コールで繋がった。

 

『どうされましたー?』

「あー、僕だけど。二人の様子はどう?」

『んーー……?二人って誰スか?』

「僕が連れてきた二人だけど」

『僕って誰っスか?』

「ブランクだけど」

『ブランクさま?あーーどうもお疲れ様でーす。二人って…あのおじさんとあんちゃんかア。揉めてましたねー。まあ大丈夫じゃないスか?知らんけど…』

「んー、どっちかに繋げてくれる?」

『うぃーーす』

 

 今のは情報分析チームのサイバー担当のくだんという男で国内屈指の腕を誇るハッカーだ。今はパッショーネの契約社員をやってる。ちなみに縁故採用。

 

『もしもし?もしもォーーし!』

「あ、聞こえてるよ。ヴェルサスだよね?ブランクだけど今何してんの」

『ブランクッ!あんた何してんだよ。オレはイタリア語なんてわからねーんだぜッ!あんたの部下の言ってることもわかんねーし買い物すらできねー!』

「ホル・ホースと行けばいいじゃん」

『あのジジイに頼るのは癪に障るんだよ』

「もうちょっと気軽に人を頼ればいいのに。…まあいいや、僕これから帰るからなんかピザとか頼んどいてよ。一緒に食べよ」

『だから言葉がわからないってッ…』

 

 電話を切った。ヴェルサスはだいぶ苛ついてるみたいだが、思い返すとしおらしかったのは最初の方だけで基本的にああいう性格であるようだった。

 不幸な幼少期とかひょっとしたら関係ないんじゃあないか?とうっすら思いつつ、結局言うことは聞いてくれるし良しとしよう。

 

「ピザか。芸のない飯」

「二人ともアメリカが長いっぽかったので、まあ本場の味をわからせてやろうかとね…!アメリカのピザってなんかすごいモソモソするんですよ」

「オレもいくぜ」

「え?!意外…」

「ヴェルサス?ホル・ホース?そいつらが信用できるやつなのか確かめなくっちゃあなんねーだろ」

「触れた感じ話した感じ敵のスパイとは思えないけど?」

「お前の特技は嘘発見器とかじゃあねーだろーがッ!」

「そうだけどさ……もっと僕を信用してくれよー」

「まずはテメーの振る舞いからだろ、直してけ」

「それはどうかなー。ギアッチョがもう少し穏やかになるのと同じくらい難しいと思うよ」

「喧嘩したいのかテメーは」

「うそうそ!」

 

 マンションについた。エントランスに入りカードキーを開け、これまたカードキー認証式のエレベーターを動かす。

 

 4階につくとエレベーター前にホル・ホースが腕を組んで待っていた。

「よォ。用事はすんだのか?」

「ええ、そっちはどうです?」

「そうだな。インテリアが気にくわねェから今度家具屋に行かねーとな」

「それ経費で落ちませんよ」

「マジか。福利厚生なんじゃあねーの?…それでそちらさんは?」

 

 ホル・ホースがギアッチョを顎でさす。ギアッチョはいつも通り不機嫌そうにホル・ホースを睨んでいる。

「こちらはギアッチョ。僕の〜…先輩?」

「イタリア南部統括幹部だ」

「それはそれは。…ここのギャングはみなお若い」

()()()()()があったからな」

「入れ替わりねぇ…」

 ホル・ホースは帽子をクイッとかぶり直した。僕はとりあえずヴェルサスがちゃんとピザを頼めたか知りたい。

 

「こっちがホル・ホースの部屋で…ヴェルサスは?」

「一番奥だとよ」

 僕はヴェルサスの部屋の前まで歩いてノックする。

「ヴェルサス〜ピザは?ぴざぴざぴざ」

 しかし返事がなかった。出かけているのかもしれない。僕はくだんにもう一度コールする。

 

『もしもし?もしもォオオーーし!』

「ヴェルサスって外出た?」

『……え?ヴェ……?』

「僕ことブランクが来る前に誰かこの建物から出た?」

『あ〜〜?ああ。ブランクさまぁ?どうもお疲れ様ですぅ〜…。えー、カウボーイハットは出て帰ってきて…金髪は出ていきましたねぇ。ピザ屋の場所を聞かれたので〜教えときました』

「あ、そう。ありがとう」

『あとなんか…くすり?の流通の……貿易の……を預かってますので、忘れないうちにとってくださーい』

「ああ、わかった。じゃあねー」

 

 ヴェルサス、まさかピザのお使いに行ったのか?電話じゃわからないから店頭で買ってこようと…?なんて涙ぐましい…!やっぱり彼は根がいい子なんだな。と僕は感心した。

 

「お出かけしちゃったみたいだね」

「みたいだね、じゃあねーだろ。殺されるかもな」

「え?ふふ…まさかぁ」

「てめーは未知のスタンド使いと狙撃手に狙われてるのを忘れてんのか」

「ヴェルサスなんて僕が気まぐれで連れてきた子だよ?わざわざ狙うかな」

「あいつを足がかりにあんたを釣るってーのはまああるんじゃあねーの?」

「えっ。そんな、僕に恨みがあるみたいなやり口を…」

「オレたち元暗殺チームは恨みは死ぬほどかってるだろーからな。…仕方がねぇからブランク、テメーはここで待ってろ」

「そうだね。無事帰ってくるよね」

「オレが見てくる。テメーに出歩かれるよりマシだからな」

「優しッ」

「優しさじゃあねぇ。万が一敵が出たら仕留めるチャンスだからな。確度の高い方が殺る。忘れたか?」

「ああ…そういうこと」

「オレも行くか?」

「知らねェやつと行くよりオレは一人でいい。待機してろ」

 

 ギアッチョはそういってエレベーターを降りていってしまった。

 まさかはじめてのおつかいごときでそんな大げさなことになるとは思えないが、まあギアッチョの判断は意外と概ね正しいことが多いので任せておくべきだろう。

 

「じゃあ僕らはゆっくり映画でも見ましょうか」

「いやいやいや…説明してくれよ。この組織についてとか今あんたらを狙ってるスタンド使いってのをよォ〜」

「ああ、それもそうか」

「それに……」

 ホル・ホースは少しだけ嫌そうに、そして少しだけ何かを期待するような声で僕にたずねた。

 

「ジョジョ……ってのは誰なんだ?」

 

 

 

 

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