【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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08.幻の翼②


 

 

 

「う……」

 

 ヴェルサスはゆっくり身を起こした。あちこちが痛い。だが、なんとか無事だ。体をかばった腕にはガラス片や鋭い破片や金属がブッ刺さっている。服の下は青タンでいっぱいだろう。結局瓦礫を防ぎきれてないおかげで頭からも血が出ている。だが、生きていた。

 

 ヴェルサスがニュースアットイレブンに殴りかかったとき、特段大きな瓦礫がワンサカ上空から降ってくるのがわかった。

 ヤバい、と思ったヴェルサスはすぐに殴るのではなく、地面に向けて拳を下ろした。自分の見つめる地面に瓦礫の影がうつったときはもう死ぬと思った。だが、諦めなかった。

 ヴェルサスはそのまま『穴』を掘り、ついさっき記録された『自分』を盾にした。

 ニュースアットイレブンは記録のヴェルサスが瓦礫に押しつぶされているのを見てスタンドを解いたのだ。

 

 ぼんやりとした意識の中、誰かがニュースアットイレブンへ立ち向かう光景を見た。ブランクの仲間だろうか。

 あたりを見回すと大災害の跡のようだ。散々ニュースで見た光景と酷似している。嫌な気分だ。

 

 逃げるべきか?まず頭によぎる。マンションに戻って助けを呼ぶ、十分アリな選択肢だ。だがそれはこれからこういう世界でやっていくにはあんまりに弱腰ではないだろうか。

 

「チッ……ありえねえ。マジでありえないぜ、以前のオレならよォー…」

 

 ヴェルサスは轟音のする方を見つめた。そしてよろけながらも立ち上がった。

 

 


 

 

 大きな瓦礫が落ちてくる。はじめのときより遥かに大きく、時には炎を纏った瓦礫が。

 

 先程『全力』なんて言ったが要するに、『ニュースアットイレブン』に近づけば近づくほど大きな破片が降り注ぐというだけのことだ。

 つまりこいつの射程距離はそこまで長くない。一度離れれば降ってくる瓦礫もたかが知れているし、おそらくは解除される。

 しかしそこで逃げたところで『ハイ・ファイ』。あの転落死のスタンドがいる。おそらくニュースアットイレブンは寄ってくる。適切な距離で、ギアッチョが転ぶまで延々と。

 ならばまずニュースアットイレブンを叩き潰すしかない。

 

 焼けた鉄骨がいくつも降り注ぐ。ギアッチョはそれを何度もギリギリでかわす。しかし地面がひび割れ、ついにブレードが引っかかった。

 

 体が宙に投げ出される。

 

 ハイ・ファイのダメージはこのホワイトアルバムを貫通するのだろうか?いや、おそらく貫通という考え方自体が違う。ダメージはそのまま自分の体に入るはずだ。装甲は意味ない。

 

 瓦礫、建物の天井部分と思しき焼けた鉄筋がちょうど自分の横を掠めて落ちる。

 ギアッチョはそれに掴まった。腕が外れそうなくらい遠心力が加わるが、関係ない。体がぐるんと回転し、地面スレスレをエッジがかすめた。そのまま壁のようにそり立つ天井に足をつけ、跳躍する。

 

 

「おっもしれーェじゃんッ!」

「面白くねェーよッ!」

 

 ニュースアットイレブンは笑いながらも内心冷や汗をかいた。

 ギアッチョは『ハイ・ファイ』を『転倒』をトリガーに『ダメージを食らう』スタンドだと思っていた。

 しかし実際のところこのスタンドは『飛び降り』のスタンドだ。

 落下するという感覚、その恐怖なしにスタンドは発動しない。この恐怖を感じず滑走し障害物をものともしないギアッチョ相手は分が悪い。

 

 もう『何段』も登ってヤツは息切れ寸前のはずだッつーのに、ピンピンしてやがるじゃねーか!

 

 

 何年も活動しているスタンド使い、それも暗殺者相手というのは数年前までごくごく一般的な市民だったニュースアットイレブンにはやや荷が重かったかもしれない。

 それでも雇われた以上は()()なのだ。仕事はこなす、確実に。それが『恩人』への礼儀だ。

 

 ギアッチョは跳躍し、そのままニュースアットイレブンめがけて蹴りを入れた。

 

 一撃、重く鋭い蹴りがニュースアットイレブンに入る。

 蹴りを受けたニュースアットイレブンの下腕が折れ、骨が飛び出すのが見えた。しかし同時にギアッチョに瓦礫が降り注ぐ。もちろんホワイトアルバムの装甲を破ることはできない。しかしニュースアットイレブンは違う、顔面のヤケドの痕にガラス片をもろに喰らい、血が飛ぶ。

 やはり。ニュースアットイレブンは空から瓦礫を降らせる。しかし、自分に当たらないというわけではない。

 

 しかし血はまずいッ…!

 ギアッチョは回避のため体を捻じ曲げ、背を向ける。ニュースアットイレブンはそのギアッチョの背中に渾身の力で蹴りを返した。

 

「落ちろッ!」

 

 次こそは転ぶ、ギアッチョがそう思った瞬間視界が()()()

 

 

 

 

()だとォ…ッ?!」

 

 ニュースアットイレブンは2メートルはあろう穴を前に困惑する。こんな穴が道路に放置されてるはずがない。だが…だとしたら一体何なのだ?ギアッチョは落ちたのか?

 

「おい、『ハイ・ファイ』!ターゲットはどうなってるんだ?」

 ニュースアットイレブンは無線のスイッチを入れた。すぐに返事がくる。

『スタンドは解除されていない。…トラブルか?』

「ああ。穴に落ちやがったくせに死んでねぇ…この穴…敵のスタンド能力か?」

『穴だと?何を言ってるんだ…?』

「とにかくオレは敵を追跡する。あんたは引き続きよろしく頼むぜ…」

『了解』

 

 

 

 ハイ・ファイは無線を切ってからピザ屋への道を振り返った。

 平凡なビジネスマン。イタリアでは浮くブリティッシュスタイルのスーツを着て、クラシックなメガネをかけたつまらない男、それがハイ・ファイだ。一つだけ特徴があるとしたら額に走る大きな傷跡で、それを隠すことなく堂々と髪を上げていることくらいだろうか。

 

 念の為戻るべきか?

 ハイ・ファイは立ち止まる。しかしニュースアットイレブンからはやつは転ばず立ち向かってきたと聞いた。順調に歩数は嵩んでいるはずだ。ならば自分にできることはなるべくここから離れ、本体迎撃のリスクを下げることだ。

 

 ハイ・ファイとニュースアットイレブンは3年前に出会った。スタンド能力に目覚めたのも同じ時だった。それからずっと互いの能力を持て余していたが、ようやく『師』と呼べるような人物と出会い、今ここで()()をしているわけだが…。

 『引き続きよろしく』と言われても、彼のスタンドは完全自律型、というか対象者を選ぶことくらいしかできない。ゆえにやれることと言えば、ただ待つことだけだ。

 

 『ハイ・ファイ』は人を殺すと言うにはあまりに実感のない能力だ。勝手に登って勝手に落ちるだけ。ハイ・ファイ自身、自分が手にかけた人間が目の前で死んだのを見たことすらなかった。

 前回は落ちるには物足りない高さでスタンド能力に気づかれ余計な手を煩わせてしまった。しかし今回はニュースアットイレブンがうまくやってくれる。彼の能力はハイ・ファイよりはるかに鮮烈だ。

 ハイ・ファイにとってニュースアットイレブンは『ヒーロー』だった。どんな能力だろうとどんな傷があろうと、彼は命の恩人。だから絶対に大丈夫。

 

 サイレンの音が聞こえ始めて、ニュースアットイレブンの瓦礫による被害がいよいよ甚大なものになったことを感じ取る。彼のあの瓦礫は本当に一体どこから落ちてくるのやら。

 その場にあるはずのないものが降り注ぐ、いわゆるファフロツキーズ現象と呼ばれるものに近いのだろう。だとしたらあの悪夢のような日の残骸が何年も空に巻き上げられ、漂っていることになる。

 ずっとずっと、私達の頭の上に。

 

 馬鹿げた妄想を振り払おうとメガネのブリッジを持ち上げようとしたとき、真っ赤な虫が指をつたいぬっと視界いっぱいに出てきた。

 

「うわッ……」

 

 ハイ・ファイは思わず腕を這う虫をはたきおとした。それがメガネに当たり、地面におっことしてしまう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 知らない女が気遣わしげに声をかけてきた。英語だった。メガネがないと何も見えないハイ・ファイは慌てて地面にしゃがみ探す。しかし見つからない。相当遠くへ飛ばしてしまったのだろうか。

 

「ああ、大丈夫だ」

「虫…ですか?なにかいましたよね?」

「え…ええ。袖に入ってこようとしたもので…」

「うわ。それはゾッとしますね。……はい」

 と、目の前にメガネが差し出された。親切に拾ってくれたらしい。ハイ・ファイはそれを受け取りすぐにかける。やっと視界がもとに戻る。

「ありがとうござい……」

 

 と女の顔を見て礼を言いかけて気づいた。この女は…いや、この顔は。

 

「ソウル・スティーラー…」

 

「はじめまして」

 

 ブランクの首筋からはつう、と赤い血が垂れていた。そしてハイ・ファイの背筋に悪寒が走り、そして急に心の底が抜け落ちたかのような喪失感に襲われた。

 

「…あ……あれ?」

 

 そして呆然としたハイ・ファイに背後から強い一撃。ホル・ホースが皇帝の銃底で彼の頭部を思いっきり殴りつけた。

 

「こいつで間違いないんだよな?」

 

 ホル・ホースは独り言のように呟くと、拳銃(スタンド)をくるりと回した。ブランクの耳元にぞろり、と先ほどハイ・ファイの腕を這っていた赤い虫が入っていく。ブランクはちょっと不快そうに眉根を顰めながら答える。

 

「…そうみたいだね。くだんもまあ…多分そうって言ってる」

「多分だぁ?多分じゃああのギアッチョって奴も困るんじゃあねーのか?」

「ギアッチョはあんな敵には負けないよ」

 この赤い蟲は情報分析チームのくだんという男のもので、彼は体を無数の小さな蟲にして放つことができる。ただしあまりにバラけすぎると蟲の統率が取れなくなるのでこれが限界だ。

 マンションから出るとき彼の身体は両足と左腕がバラけ、なんだかすでに眠そうだった。

 

「さて…こいつは拷問という名の処刑……じゃなかった。尋問を受けてもらわなきゃね」

「そう簡単に吐くかね」

「僕はそういうの、得意なんだよ」

 

 ブランクはチョーカーの下から流れる首元の血を拭う。

 ソウル・スティーラー。ブランクのスタンド能力の名らしいが、ホル・ホースには先ほどブランクがハイ・ファイに一体何をしたのかよくわからなかった。

 スタンドを使っていないと言われればそれまでだが、ハイ・ファイは逃げ出しもせず呆然とブランクを見つめていた。なにか精神攻撃系のスタンド能力なのだろうか?

 そういえば初めて会った時も、骨のヴィジョンと全く違うスタンドを使って捕縛された。

 

『せんとうが…みえない…』

 

 気づくと、赤い虫が口の部位を模するように固まり声を発していた。

「さて。じゃあどっちが運ぶ?」

 ホル・ホースは尋常ならざる気配と音と悲鳴のする方角と倒れたハイ・ファイを交互に見た。ブランクは黙って拳をグーチョキパーの形にする。ホル・ホースも笑って拳を突き出す。振りかぶり、ブランクとの『運命』についての会話を思い出し苦笑いした。

 

 

 

 

 穴の中にあったのは建設現場だった。マジックアワーの中、鉄骨だけの建物の中でヘルメットをかぶった作業員がクレーンで吊り下げられた鉄骨の上にひょいと乗り、下へ降ろされている。

 

 ニュースアットイレブンは呆然とあたりを見回してから下を見た。すぐ下の階層にギアッチョと、もう一人が立っていた。ピザ屋で殺したはずのヴェルサスだった。

 

「っ……ンで生きてんだよォ〜…!」

 

 ニュースアットイレブンは元消防士であり、その前は5年間陸軍に所属していた。フィジカルも強靭であり実践経験もあった。しかしながら、スタンド使いとの戦いにおいては圧倒的な経験不足だった。

 この瞬間ニュースアットイレブンが犯した過ちは3つ。ヴェルサスの能力の詳細を確かめることを怠った点。『ハイ・ファイ』の能力が解除されている可能性を考慮しなかった点。そして最も致命的だったのが撤退を選択しなかった点だった。

 

 瓦礫がニュースアットイレブンの目の前を落ちていく。スタンドはこの穴の中の世界でも有効だ。

 それさえわかればいいと言わんばかりにニュースアットイレブンは鉄骨に飛び乗る。作業員たちはちらりとニュースアットイレブンを見るが咎めはしない。彼らは自身が地面の記憶だということを理解している。これから起きる悲劇をわかっている。

 

 クレーンのワイヤーから嫌な音がした。聞き覚えがある、鉄線が千切れる音だ。だがそんなのは関係ない。クレーンのワイヤーが千切れるのと同時だった。ニュースアットイレブンはギアッチョめがけ、鉄骨が落ちるとともに飛んだ。

 鉄骨の枠組みを突き抜けるように巨大な瓦礫が降り注ぐ。ギアッチョはホワイトアルバムの装甲でニュースアットイレブンの打撃を無効化する。そして冷却でニュースアットイレブンを捉えた。

 これまで適切な距離を保ち転ばすことに注力していたニュースアットイレブンが自ら飛び込んできた。決着をつけるつもりならばギアッチョも応じるまでだ。降り注ぐ破片もろとも凍らせて砕く。全力のホワイトアルバムジェントリーウィープスがニュースアットイレブンの脚を凍らせた。

「単調な攻撃だな」

「そうでもねーよ」

 ニュースアットイレブンはニヤリと笑った。

 轟音がニュースアットイレブンの頭の中に木霊する。ガンガンと響く建物がブッ壊れていくあの不気味な音。そしてニュースアットイレブンはそのままギアッチョに絡みついた。

 

 『ニュースアットイレブン』はスタンド使い本体に近づけば近づくほど巨大な瓦礫にさらされる。ではスタンド使い本人がスタンド能力の対象となった場合は?

 答えは瓦礫と燃えたぎるジェット燃料、より破滅的な落下物。

 

 当然ニュースアットイレブンも死のリスクは格段にあがる。だが、だからなんだ?とニュースアットイレブンは心の片隅で思う。

 

 

 冷却は燃焼の数倍エネルギーを使う。燃焼が激しい原子の運動だとしたら冷却とは完全な静止。燃料のように激しく燃え盛るものを完全に、即座に冷却するのは困難だ。

 防ぎきれない。

 絡みついたニュースアットイレブンに気を取られ、上から降り注ぐ熱にほんの一瞬気づくのが遅れた。

 

「危ねえ!」

 

 叫んだのはヴェルサスだった。アンダーワールドがぼんやりと立ちすくんでいた作業員をギアッチョめがけて投げた。ギアッチョはニュースアットイレブンもろとも()()。ニュースアットイレブンは衝撃で放り出され、落ちそうになる。なんとかビルの鉄骨に捕まった。

 

 原形をとどめているギアッチョを見てニュースアットイレブンは『ハイ・ファイ』の敗北を理解した。あの日助けたたった一人の命。なんて、誰かの救世主気取りかよ。馬鹿馬鹿しい。

 

 そして、今までで一番巨大な瓦礫が頭の上から降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おっと…」

 

 穴から出てくる二人を見てホル・ホースは銃を下げた。ボロボロのヴェルサスとギアッチョだった。

 

「敵スタンド使いは?」

「自分のスタンド能力にやられて死んだ…と思う」

「思うってなんだよ」

「穴の中で瓦礫に潰された。死体は確認できねぇ。…生きてたとしてもこのままスタンド能力を解除すれば生き埋めだ。助からねーよ」

「へぇ?ならこれで片付いたってことだな。あんたらの言う《転落死》のスタンド使いは捕縛した…の」

「ハァ〜〜……散々だぜ…」

 ヴェルサスはそう言って地面に座り込んだ。ホル・ホースはヴェルサスは死んでると思ってたので安心したと同時に、どうやらヴェルサスがギアッチョを助けたらしいことにどこか親心のようなものが芽生えるのを感じた。

「ヴェルサス、頑張ったんじゃあねーの」

「っせーな…」

 当のヴェルサスは自分の怪我が気になってそれどころではなかった。先程から思い出したように体中が痛んできたのだ。

「詳しいことはアジトに戻ってからだな」

「病院行かせてくれよ」

「ダメだ。テメーは狙われてる。病院で襲われたら何人巻き込まれるかわからん」

「ハァッ?!じゃあオレの怪我はどーすんだよッ!」

 

 


 

 

 

 僕は傷だらけのヴェルサスを前にちょっとしかめっ面をして怪我の具合を見た。大きめの破片なんかは抜いたら血が止まらなくなりそうだし、小さい切り傷は別につばつけとけばよくないって感じだし、打撲は冷やすしかないだろ。僕にはなんもできないぞ。

 

「応急処置だ。あのカビで傷口を保護しておけ」

「えー……僕あのスタンド苦手っていうかあんま好きじゃないからちょっとミスるかもなんだけど…」

「いいからとにかくやれ」

 

 ヴェルサスはマンションの三階、コンピューターやらサーバーやらがたくさん入ったメインフロアのソファーに寝かせられている。すぐそばの一番大きなパソコンの前にはくだんがぼーっと座っている。まだ足が膝までしか揃ってないとこを見ると周囲の警戒は継続中らしい。

 ギアッチョもめちゃくちゃ疲れて寝てるし、ホル・ホースは喫煙所に行ってしまった。

 

「ヴェルサス、大変だったね」

「とんだとばっちりだぜ…あんた一体どういう恨みを買ってるんだ…?あって一週間のオレまで狙うなんて」

「さあ。ありすぎてわかんない」

「散々だぜ…ギアッチョが来る道なんてわかんねーから穴掘りまくって…スタンドを使いすぎると結構疲れるんだぜ…?」

「墓穴にならなくてよかったね!!」

「アァ?!」

 ありゃ。冗談を言ったつもりだったのに怒らせちゃった。

「辞めたくなった?」

「……だから、やめるつもりはないって言ってるじゃねーッすか…」

「でも痛かったでしょ?これからこういう事はしょっちゅうだよ。打たれ弱い現代っ子のガリヒョロアメリカ人には辛いんじゃないかな」

「慰めてーのか煽りたいのかどっちかにしろよッ!」

「ごめんごめん」

 ヴェルサスは叫ぶとどっかが痛んだらしく唸ってまた寝っ転がった。僕は現場でなにがあったか実はよくわかってない。

 ただ一つだけわかるのは、ヴェルサスがここにいたいと望んでくれていることだ。

 それだけで嬉しかった。

 

「転落死のスタンド…ハイ・ファイだっけ?そいつの拷問…じゃなかった。尋問はどうしようか?」

 僕のつぶやきに寝てると思っていたギアッチョが返事をした。

「立ち会う」

「疲れてるのにいいんですか?」

「いーからいくぞ」

 

 

 ギアッチョは疲れからかブチギレることはないが会話可能ターン数も激減してしまったみたいだ。気怠そうに立ち上がり、ハイ・ファイを監禁している部屋に向かって歩き出した。

 

 ドアを開ける前に気がつく。

 

 血の匂いだ。

 

 僕はギアッチョの方を見る。ギアッチョも僕を見ていた。僕がノブを撚ると、その匂いが気のせいじゃなかったことを確信する。

 扉の方へ向いた縛られたハイ・ファイ。項垂れてきれいにセットされていたブロンドの髪が垂れている。そしてその胸のど真ん中が血で濡れていた。

 


 

 

 

 瓦礫が空から降ってきて大騒ぎになった街には早くも工事車両が山ほどやってきて、ボコボコに空いた穴や倒壊しかけた建物を補修しはじめていた。

 作業員はどこからやってきたのかわからない瓦礫をどこに片付ければいいのかわからず、とにかくすべてをトラックに乗せていた。

 瓦礫の山の片付けは一日ではとても終わらず、翌日ようやく道路の穴を埋めるためのコンクリ車を呼べるようになった。

 そこで一人の作業員が違和感に気づいた。穴が増えている。その穴は他の穴と違っていた。まるで地下からなにか這い出てきたかのような穴だった。

 

 

 

 

 

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