【完結】ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

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13.輪転

 僕はナポレオンとスクィーラが揃って射殺されたホテルの部屋をぐるっと見渡す。2人の心臓を撃ち抜いた弾丸の軌道を読むために。

 だが窓ガラスはおろか部屋には何一つ傷などなく、どう考えても誰かが痕跡を一切残さず部屋に侵入し射殺したか、空中から突然弾が出現したとしか思えない。

 次に2人の遺体を確認した。2人とも1発で撃ち抜かれている。ちょうどスーツの左襟のボタンの位置、確か2人ともパッショーネのバッジをつけていた。しかし、情報分析チームのビルで死んでいたハイ・ファイの死体は胸のど真ん中をぶち抜かれていた。その違和感の正体がやっとわかった。

 

 僕は情報分析チームのビルに向かう。組織の何人かは僕がうろちょろしてるのに驚きはしたが、とにかく急いでくだんに以前出してもらった貨物データの輸出分を出してもらうように頼んだ。そうこうしている間にネアポリス中央病院での騒ぎがひと段落したらしい。ミスタから電話がかかってきた。

 僕は30分後に戻ると言って電話を切り、1時間後に本部に戻った。だってデータを揃えるのに時間がかかったから…。

 

 

「おっせェーんだよッ!!」

 

 案の定ギアッチョはキレていた。

 書斎にはジョルノ、ミスタ、メローネ、ギアッチョがいて、僕が印刷してきたデータを机の上に広げるとみんなで頭を突き合わすハメになった。

「データで共有しろよ…」

 ミスタには至極真っ当なことを言われた。僕は誤魔化すように書類を並べてマーカーで数値を塗りつぶす。

「まあほら、これ見てくださいよ」

 

 僕はある港の『輸出』記録を示した。ここはヨーロッパへの陸上輸送の中継点としても機能する港であり、『輸入』データのチェックは厳しく行われ、異常はなかった。

 しかし輸出に関しては少し妙な点がある。

 

「ほら、このオレンジの項目。輸出量が輸入量に比べてガクって変化してる時期がある」

「これは…麻薬チームが潰された時期に一気に減ってまた戻ってるな。最近また減っている」

「本当だ。…なんで気がつかなかったんだ?」

「僕らは麻薬が入ってくるものだと思って輸入量の増減に気を配ってた。だけどこの港は輸入量はずっと一定。入ってきたものをそのまま流すだけだった。ディアボロの支配下からずっと」

 

 ジョルノは僕が言いたいことがわかったらしい。ふむ、と頷いて言葉を続けた。

 

「国内の麻薬はヴォルペのスタンドで賄ってた。故に輸入は必要ない。この港では国外から輸入した麻薬を()()()()海外に流していたのか」

「かなり儲かっただろうな」

「今回出回ってるのは海外にそのまま流してたはずの薬なんだ」

 

 ギアッチョはそんなのどうでもよさそうな顔で僕に促した。

 

「で、その港はどこだよ」

「ヴェネツィアだよ」

 

 次は幹部3人とハイ・ファイの死体の写真をテーブルに並べる。

 全員が胸を撃ち抜かれており、その弾痕をアップにした写真だ。メイジャーの死体は黒焦げだが、一応それらしき穴はあるが詳しく検死しなければはっきりとは言えない。

「3人は左胸を撃ち抜いてる。だがハイ・ファイは胸のど真ん中だ。もしこれが僕の師匠の仕業ならこんな風にはしない。それにどの現場も弾が跳ねた形跡が一つもない。…もちろん師匠ならそれもできるだろうけど、窓すら開いてない密室では物理的に不可能だ」

 

 ここでジョルノがハッとしたように呟いた。

「『ラウンド・アンド・アラウンド』…?」

 

「そう。メイジャーのスタンド能力。()()()()を入れ替える能力」

「それでパッショーネのバッジと弾丸を入れ替えた…なるほど。ハイ・ファイの場合はシャツのボタンか?」

「たぶん」

「射程距離が長すぎる。シンプルで入れ替える対象も小さいから…?それにしてもだな」

「隠してやがったんだな。…賢いヤローだぜ」

 ミスタがため息をつく。幹部のスタンド能力は全員把握していた。しかし物を入れ替えるという『くだらない』能力に危険性を感じるものはいなかった。草葉の陰でホルマジオ先輩がくだる、くだらねぇーについて説教してきそうだ。

 

「彼のスタンドの発動条件は触れることだったはずだ。全員メイジャーと接触は?」

「ない…よな?バッジは念の為外しておくか」

「それがいい」

 僕らはパッショーネのバッジを外し机の上に置いた。

 

「メイジャーは死を偽装している。国外に逃げたか?」

「いや、狙いは僕だろ?だったら潜伏して殺すチャンスを狙ってるはずだ」

「全然わけわかんねーぜ。ブランクをぶっ殺したいならなんでこんな回りくどいことしてるんだ?」

「嫌がらせじゃねーの」

「とにかく、僕は行くよ」

「どこにだよ」

「ヴェネツィア。乗り込んで直接ぶっ倒す!」

「いる確証は?」

「……ない…けど…僕を殺しに来るんだろ?じゃああっちから来るよ」

「だったらより自分たちに有利なところで戦うべきだ。それに君が戦う必要もない」

「なんでさ」

「動機はどうあれ、メイジャーはパッショーネに牙を剥いた。我々の敵だ」

 

 ジョルノは強い語気でそういった。確かにおっしゃる通り。ミスタはそれを受けてすぐさま携帯を取り出しながら次にどう動くか段取りを考え始める。

 

「護衛チームを招集する。それとメイジャーの暗殺司令を全支部へ出すぜ。情報分析チームも全員集合で…えぇと…?ヴェネツィアの組織メンバーは一時的に捕縛でいいか?」

「わかった。ぼくも動こう」

「メイジャーの血液サンプルがあればいいんだが…」

「ねーだろ」

 それぞれ席を立ち始めて、僕もとりあえず席を勢い良く立って、ミスタに尋ねる。

「僕の仕事は?」

 

「待機」

 


 

 

 僕はパソコンをいじるメローネと2人でゲストルームに寝っ転がっていた。出口には護衛が見張りについているらしい。僕を守るためっていうより勝手に出かけさせないためなんじゃないかと勘繰ってしまう。

 

「ここにきて待機とか…」

「おまえな、一応護衛対象なの忘れてるだろ」

「僕っつーか『矢』だろ。護るべきなのは」

「メージャーの狙いはお前の命だろ?」

「まあ多分ね。矢を狙ってるにしてはなんていうかこう…師匠を連想させるような手口にあえてしてる点からも怨みみたいなのを感じる。…なんでメイジャーはこんなことしでかしたんだろう?」

「心当たりは?」

「…ありすぎる。だって彼はディアボロ支配下の時からずっとヴェネツィアの幹部だし…仲良い人とか1人くらい殺しちゃってそう」

「…それならなぜジョルノではなくてブランクなんだ?」

「僕が手を下した人の身内だったとか?…それならすぐに裏切り懸念リストに入ってるはずなんだけどな…」

 うーん、と僕は唸る。いくら考えてもメイジャーとの接点が思い浮かばなかった。

 

「それにしても…ヴェネツィアか。そういえばディアボロと初めて交戦したのもそこだったな」

「…うん。リゾットが…死んだのも」

 僕は当時のことを思い出してしまった。まだ生々しく痛む、傷。

 メローネは僕の胸中を知ってか知らずか、淡々と続ける。

「メイジャーはディアボロに随分信用されてたんだろうな。ヤクの横流しに関しても任せて、シマも使った。おれたちがブチャラティたちと橋でやり合ってたのも把握してたに違いない。そんなオレたちが手を組んで名乗り出て…絶対にオレたちの話を信じてないだろろうな」

「ま…元々カッソーニに見切りをつけてパッショーネに入ったくらいだし、そっちの方が賢明だと思ったんじゃないっすかね〜」

「賢明な男がこんなことをしでかすか?」

「あーーもう考えてもわからん!」

 

 僕は起き上がる。

 

「出ていくつもりか?」

「ああ」

 

 メローネは呆れ顔をする。そんな顔を見て僕は微笑む。

 

「メイジャーの動機はわからない。けど僕に言いたいことはなんとなくわかった。罪には、(punizione)だ」

 

 メローネは僕の笑みを皮肉るような笑みで返した。

「罪、ね。おれにはその言葉は全く響かない。オレたち無法者にとっての罪ってモノは、支配者が都合よく作ったルールか、さもなきゃ自分の中にあるものだ。お前にメイジャーの言う罪をわざわざ償う義理はない」

「そうだね。でも最近の僕はずっと罪悪感ってやつに苦しめられてたんだと思うんだ…。もしそれを精算できるとしたら、なんか今なんじゃないかって気がするんだよ」

 

 僕は首に巻いていたチョーカーを外す。その下の首筋には無数の切り傷。チョーカーの内側にはあの鏃が縫い付けてある。ソウルスティーラーを発動させるために肌身離さず持っていた。

 

「これ、メローネが持っててよ」

「…なんでおれが?」

「僕にはもう相応しくないから」

「組織を抜けるつもりか?」

「……かもね」

 

 メローネはチョーカーを手に取り、その鏃と僕を交互に見た。そして深くため息をついてチョーカーを僕に突き返した。

 

「え、預かってよ!!」

「アメリカから帰ってジョルノと会った時、お前とジョルノの話していた内容を覚えているか」

「な…なんだっけ?」

「お前は矢を担保に今の地位を手に入れている。おれたちを『守る』…とかジョルノは言ってたよな?覚えているか?」

「ああ…そんなことも言ってたような」

「気に食わない」

「はい?」

「おれとギアッチョがお前に『守られる』なんてのはプライドが許さない。ましてやおまえがおれたちを守ってるつもりでこれまで過ごしてたって事実はこのメローネの誇りにかけて…許せねぇ瑕疵ってやつだぜ」

「な、なに?なに?なんだよ!だって2人とも責任取るの嫌がってたじゃん!」

「ああ、だからおれは後悔してる。おれたちは安定を手に入たが、それはゴールではなかった。思うに、ゴールなんてものは無いんじゃあないか?」

「何が言いたいんだよッ!」

「おれはな、ブランク。他人に対しては薄情だが自分の欲望に対しては解消しなきゃ気が済まない性癖なんだ」

「最悪じゃん…え?だからつまり…?」

「お前に恩を一方的に売られてるのが気に食わないから付いていく」

「…はぁ?!」

「だからその矢は預かれない」

「メローネ…」

「まったく…しょうがねぇーなぁー…こういうのはおれの役目じゃないっていうのに…」

 

 

 僕は突き返されたチョーカーと頭を掻いてあーあとため息をつくメローネを交互に見た。あの時べこべこにへこんだ僕を奮い立たせてくれたのはメローネだった。そして今は、僕と一緒に来てくれようとしてくれている。

 

「なんで君は…」

「お前こそなんなんだ?そんなに1人でいきたかったのか?」

「……ちがうよ」

 

 メローネは僕の手の中からチョーカーを拾い上げ、また僕の首に巻く。メローネのマスク越しの瞳は留め金を見ていた。でもその綺麗なトルコブルーは3年前に見たのと同じ輝きで、僕は何だかその時みたいに泣きたくなってしまう。

 

「おれはお前にいてほしい。どんなにバカでもな」

 

 僕はここでやっと気がついた。僕が思う彼の幸せ。みんなの幸せ。僕の贖罪。何かを差し出す代わりに何かを赦される。そんな押し付けがましい儀式なんて誰も欲しがっていない。

 僕はただいえばよかったんだ。

 

 一緒にいてくれと。

 

 

「僕もだよ…」

 

 

 

 

「で、出ていくとしてメイジャーのいる場所なんて見当つくのか?」

「……君と話してて少し思ったことがある。これは完全に僕の勘だけど、メイジャーは僕らがボスを殺すために辿った旅路を全て知っていると思うんだ」

「ああ」

「僕は人を殺しまくった。殺人への罰はやはり自らの死だと思う。そんな僕が死ぬはずなのに生き返った場所がある。だから僕に罰を与えるのだとしたら…コロッセオだ」

「お前の勘はそんなに当てにならないが、今回は信じてやろう。どっちにしろお前のいるところに奴は来るんだろうしな」

「まあ結局そういうこと」

 

 僕はメローネと堂々とゲストルームを出た。護衛にいたのはホル・ホースだった。

「大体事情は聞かせてもらったぜ」

「盗み聞きとは趣味が悪いな」

「雇用主の身の振り方は気になっちまうもんでね」

「あー、ごめん。ちゃんとミスタとかに引き継ぐから…」

「ちげーよ、そういうことじゃあねーぜ。オレはこの組織に興味があってきたんじゃあねー。あんたに興味あるんだって言っただろ」

「マ…」

「それに余計なお世話かとも思ったが…ギアッチョにも連絡しておいたぜ」

「マ〜〜…聞きました?やっぱり色男の絶対条件は気遣いですよ、メローネ」

「いいや違うね。これはお節介だ」

「失敬な」

 

 僕たちは屋敷を出ていく。本部の連中は戸惑っているが、当然って顔をしていれば誰も引き止めようとはしなかった。ここからローマまで車でおよそ2時間半。飛ばせば2時間。夜になるまでに着く。

 

 僕は車の中で急遽持ち出した銃の点検をした。ホル・ホースは助手席でメローネといろいろと話をしていた。女の人に関する話だったのだがどうやら2人には深い溝があるように思えた。

 僕は師匠のことを思い出しながらシリンダーを掃除した。砂漠の風、刺すような日差し。時にものすごい湿度と虫。死臭にまみれた床の感触。断片的な思い出は時々噛み合い、折り重なり、一つの情景ができあがりかけては千々に消えていく。

 

 やはり一番覚えているのはあの硬い手の温度だった。

 冷たい床と凶器と体から流れ出た体液、それしか知らなかった僕は何度もその感触をなぞってた。嬉しくて。

 今はその時と同じように嬉しい。

 

 夜闇に浮かび上がるコロッセオは周りの歴史的建造物たちと比べてもなお古く、どこか異質な雰囲気を漂わせている。

 メイジャーがいるにせよいないにせよ、とにかく僕は彼と話さねばならなかった。彼がなぜ僕を殺そうとするのか?僕の罪がなんなのか聞かなければならない。

 

 

 

 コロッセオも目前というところまで来て、急にブレーキを踏んだ。

 

「なんだ?猫でも通ったか?」

 

 ホル・ホースはそう呟き、前を見る。メローネは『バッ』と上を見上げた。それと同時にホル・ホースは車の進路上に男が1人立っているのを見つけた。

 

()だ」

 

 車のフロントに何かが落ちてきた。小さな石、そして遅れてひらひらとファックス用紙が行手を白く染め上げた。

 

「…ニュースアットイレブン…」

「ヴェルサスのいうところの瓦礫ヤローのおでましか」

 ホル・ホースは皇帝を構え、外に出ようとする。メローネも続いておりようとするが僕が止める。

「今のスタンドの標的はメローネ、君なんだろ?あのスタンドは近づけば近づくほど危険だ。君はこのまま車で戻れ」

「ブランクのくせにオレをアッシー扱いするとはな」

「ま、現にあんたは自衛できるタイプのスタンドじゃあねェーんだろう?ここはオレに任せろ。ブランク、あいつはオレが止めてやる」

「メローネが射程外に出たら次はあなたか僕を狙うことになりますよ」

「承知の上。まかせな、オレは確かに暗殺向きのスタンドだが、正面対決に弱いとは言っちゃあいねーぜ」

 

「わかった。では行こう」

 

 

 ホル・ホースが出た。

 

 向こうから悠々と体格のいい男が歩いてくる。全身包帯まみれだがその足取りに迷いはなく、まっすぐこちらを見ていた。

 

 メローネは僕を乗せたままバックでそのまま遠ざかっていく。

 銃声は聞こえなかった。ただ、何かが落ちて砕ける音がした。

 

 

 回り道をしてコロッセオにつく。

 僕だけが降りた。

 

 

 横にバイクが止まった。ヘルメットのみホワイトアルバムを纏ったギアッチョだった。

 

「本当に最後まで付き合ってくれるつもりなんだ」

「くどいぞブランク」

 

 マンハッタントランスファーはすでにコロッセオに侵入している。風がとらえたのは2人、よかった。ここで外していたらちょっと恥ずかしいもんな。別に今撃ち殺しちゃってもいいんだけれどな。そうやって全部をめちゃくちゃにしてもいいやって気持ちが少しある。はは。

 

 僕は横を歩くギアッチョをみる。

 僕がまっすぐ歩くのを止めようとしてるのわかってるのかな。

 ギアッチョは僕と違ってどんな旅路も行ける足を持ってる。どんなに険しい道もまっすぐ歩ける人だ。一方僕はふらふらふらふら。歌うみたいに彷徨っている。こんな僕が君の隣にいるのが恥ずかしいけど、君が隣にいるのが嬉しいんだ。変だよね。

 

 ギアッチョは外壁の手前で別れた。

 僕はコロッセオの中に入る。そこには誰もいなかった。しかし明確な殺気は感じる。

 

「いるんだろ、メイジャー」

 

「ヴォート・ブランク、私のメッセージが伝わったようで何よりだ」

 

 外苑三階部、ちょうど僕がディアボロを殺した位置から声がした。ギアッチョはゆっくり後退する。冷気が足元に広がってきて僕は鳥肌が立つ。

 メイジャーはいつも通り、高そうなスーツに白髪をなでつけたいかにも紳士風の格好をしていた。

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