ABOUT THE BLANK   作:ようぐそうとほうとふ

7 / 36
俺たちに明日はない

「オレたちは仲間を殺され、屈辱の日々を送っていた。それでもただ黙って耐えていた。それはなんのためだ?オレたちはいつかボスのすべてを奪う。その好機が今やって来た。…ボスに娘がいることがわかった。オレたちはそいつを奪取し、ボスの情報を搾り取る」

 

リゾットの言葉に全員が重たい沈黙を返した。最初に発言したのはイルーゾォだった。

 

「娘ってのは確かか?」

「確かだ」

「どうせ情報源はムーロロだろ?信用していいのか?」

「あいつだけじゃない。カラブリアにシマを持ってる幹部もすでに娘の存在は知っていた」

「お、オレら以外に根性あるやついたんだ」

「あいつはオートアサシノフィリアだから殺されるのを期待してる」

「嘔吐朝死のうフライ?なんだそれ」

「オートアサシノフィリアってのは自分が死んだり殺されたりする妄想で興奮する変態のことだ」

「さすがメローネ」

ペッシの疑問にメローネが即答し、ホルマジオがそれにひいていた。

 

「話を続けるぞ。先月カラブリアである女が死んだ。その女は死ぬ一月ばかり前に突然ソリッド・ナーゾを探していた。シングルマザーが今際の際に呼びたい人物ったら…相場は決まってる」

 それもそうだな、と言いたげなメローネ。ギアッチョはよく分かってなさそうだった。

「その娘を手に入れれば…ボスの影をふむことができる。いや、本人にすら手が届くかもしれん」

 プロシュートが口を開く。

「やれそうじゃねーか。娘はどこにいんだ?」

「まだ故郷のカラブリアにいるはずだ」

「じゃあまずオレたちはその娘を捕まえりゃーいいってわけだな」

 リゾットは頷き、再び全員を見回して言った。

「ああ。ただこれまでのように本部に集合して話し合うのは無理だ。今はまだオレたちの裏切りはボスに知られないだろうが、娘を探り始めたらすぐにバレる。したがって、今日からすべての連絡はパソコンや電話で。滅多なことがない限り互いに会うな」

 

「えぇ。そんな!オレ…オレ一人じゃやれる気がしないよ兄貴イ〜」

「ペッシ、ペッシペッシ、ペッシよォ…だからお前はマンモーニなんだよ、リゾット、オレはペッシと行動する。いいか?」

「わかった。ブランク、お前は?」

「僕は一人で大丈夫です!」

「生意気いってんじゃねーよ、かわいげねーなァ〜おい」

「よし、ではチャットの使い方はギアッチョ、教えてやれ」

「だ〜〜か〜〜ら〜〜なんで教えんのオレなんだよッ!ムカつくぜ!」

「今端末持ってるのお前だけだろ?」

「持ち歩けてめーら!!」

「…これからは必ず持ち歩け」 

 

 

2001年3月16日

 

 ブランクはローマに身を隠すことにした。観光地なら人に紛れて見つかりにくいし、交通の便がいいからだ。市街のボロホテルの一室を借り、拠点になるように私物コンピューターや地図を貼り付け、鍵を付け替えた。万が一のときスイッチ一つで証拠が消せるように細工したりして一日を終え、服を買いに行った。

 

 洗面所で顔を洗ってメガネを外したとき、しばらく演技する必要がないことに気づいた。なぜか頭に不安が過ぎった。

 数日は誰からも連絡がなく、ブランクはぼーっとしてみたりローマ観光してみたりしたがいつもどこかに不安があった。そんなのははじめての事だった。

 チーム支給のパソコンには一日に何度か全体チャットで情報が投下されていた。ドナテラがカラブリアのどこに暮らしていたか。近隣に何があるか。別のスタンド使いがいるか、などリゾットが一人で調べているらしい。

 どんな能力なのか知らないがあの人も建物も少ない田舎町で隠密行動ができるということはステルス性能でもあるんだろうか。

 なかなか行動に移らないのは娘が見当たらないからか、確証がないからか。少なくともチームで一番用心深いリゾットらしい。

 

 ブランクは現在ムーロロのオール・アロング・ウォッチ・タワーを使える。だが本人から「絶対使うな」と言われているので偵察や調査に協力できなかった。

 他のメンバーも暇なのかわからないが、たまに突然電話がかかってくる。ペッシから「尾行されてるかもって思ったとき自然に確かめる方法ある?」と聞かれたので「靴紐を結ぶふりをする?」と答えたり。ホルマジオからBSアンテナの不正利用の方法を聞いたりした。

 チャットには親衛隊メンバーについての情報や他のチームのスタンド使いの情報も多く共有され、部屋でそれを読んたりする時間も長かった。

 ブランクが親衛隊で知ってるのはチョコラータとセッコとドッピオだけだが、他にも3名ほどいるらしい。昔はあと三人いたようだが全員鬼籍に入っている。

 万が一自分の名前があったらやばいなと思ったが見当たらなくて安心した。

 

 

2001年3月20日

 

とぅるるるるるるるん……

 

「はい。ブランクです」

『オレだ』

 声の主はムーロロだった。電話なのにかなり小声で話している。

『もう限界だ。怪しまれる前にボスに報告しろ』

「わかりました」

 ブランクの返事のあと電話はすぐ切れた。ブランクはすぐに別の番号をプッシュし、ワンコールで切る。二分後すぐに折り返しで電話がかかってきた。ドッピオはボス同様用心深い。

『ドッピオです。ブランク、何かあったんですか?』

「リゾットが消えました。同時にチームに散開の命令が出ました。なにかするつもりです」

『……わかりました。指示を待ってください』

 電話が切れ、きっかり二分後また電話がかかってきた。

『ボスからの命令です。リゾット・ネエロを暗殺してください』

「…わかりました」

 

 リゾットの場所は不明だった。ボスの娘を探しているというのなら少なくともカラブリア州にはいるのだろうが、彼は常時端末の電源を切っているらしく位置情報は全く送られてこない。

 まさかスパイウェアが入れられてるのに気づいているのだろうか?だとしたらブランクはとっくに殺されてるか尋問されてるはずだからその線は薄い。だとすれば彼の能力に関係あるのだろう。

 どちらにせよムーロロの指示は依然“ボスを倒せ”だ。ローマから動く必要はないのだ。

 

 

2001年3月27日

 

 リゾットから全員に「娘の場所と行動パターンを掴んだ」と連絡があった。なかなか場所をつかめないと思っていたが、すでに組織の他のチームがうろつき始めていたのと、娘が友達の家を泊まり歩いたりしたせいでさらえるという確証が得られなかったようだ。

 

 近日中に娘を奪う。

 

 それはつまり狼煙を上げるってことだ。

 

 ブランクは頭の中で素数を数える。久々にやった緊張緩和方法だ。97まで数えたとき、電話が鳴った。

 

とぅるるるるるるるん……

とぅるるるるるるるん……

 

「……はい」

 

『ブランクか。午後七時、トレビの泉に来い』

 

 それだけ言って、電話相手は回線を切ってしまった。今の声は聞き間違いようがない。チョコラータだ。とてつもなく身の危険を感じる。

 だが行かないというわけにもいかない。自分にはやましいことは何もない…という体でいなければならないのだから。

 だが午後七時という時間設定は気になった。現在六時。もしブランクがいつもどおりナポリにいたとしたら絶対に間に合わない。ローマにいることを知ってての時間設定であることは間違いなかった。

 ローマにいる理由はいくらでもでっち上げられる。だが問題はなぜチョコラータがそれを知っているかだ。

 

 トレビの泉はローマで一番人気と言っていい観光スポットでいつ行っても人がひっきりなしに記念写真を撮っている。その巨大な噴水を囲む柵に保たれるようにしているチョコラータを見つけ、ブランクは声をかけた。

 

「おそいよ」

 

 そう言ってチョコラータはスタスタ歩いていってしまう。人気のあるところからどんどん離れ、小さな川にかかる橋まで来た。チョコラータは橋脚部分に降り、サビだらけの鉄門をあけ地下へ降りていった。ローマの地下には発掘が追いつかないほど古い墓が多い。ちょっと掘ればローマ時代のコインが出で来るとまで言われている。

 

 暗い通路の先にあったのは人一人が立ってるくらいの空間と椅子に縛り付けられた裸の男だった。

「……誰ですか?これは」

 ブランクの疑問を無視してチョコラータはぺらぺらと話し始めた。

 

「ブランクくん、わたしは君にとてもよくしてたと思うんだがどう思う?四肢は揃ってるし、どこも病気してないし…なにより生きてる」

「そうですね…」

「それは君がどう変わってくか興味があったからだ。予想通り君は見事に自分というものを見つけた。故に、最近つまらなくなっていたわけだ。こういうのをマンネリっていうんだが」

「……」

「一週間だな。一週間、君はずっとローマにいたね?リゾット・ネエロをぶっ殺さなきゃいけないのにずいぶん悠長じゃないか」

「…どうしてそれを?」

 

 チョコラータはブランクを無視して話し続ける。

 

「わかるさ。暗殺チームを束ねてるんだからこちらから探して殺すのは難しい。それよりかは連絡を待ったほうが怪しまれないし、効率がいい。わかるよ、理屈としてはね」

「……」

「だが、ね。どうもわたしは気になるんだよ。空っぽで、自意識が希薄だった君ならその判断をし、ただローマでぼうっとしてたって納得した。だが今の君が、チームのおかげですとか抜かしやがった君が合理的な行動をするはずがないんだ」

「……そうですか?チョコラータ先生、さすがに妄想が甚だしッ…」

 

 チョコラータはそれ以上言わせないようにブランクの口に指を突っ込んだ。そのまま指を曲げ、頬を上にひっぱった。噛むわけにも行かないブランクはつま先立ちになるしかない。

 

「すっとぼけてんじゃねーぞ。このオレが、二年間も生かしてやってんだぜ?なあ、なんでかわかってんのかよッ!おい」

 チョコラータは遠慮なく爪先立ちのブランクの腹を殴った。ブランクの思考が真っ白に染まり、気が遠くなりかける。だが突っ込まれた指の爪が頬に深く刺さって嫌でも痛みと向き合わせられる。

 

「無表情を作ってるな?どんな気持ちだ、いつもみたいに言ってみろよ」

 指を突っ込まれてちゃ母音しか喋れないのに。チョコラータは指をグリグリ捻って口の内側の肉をどんどんえぐってく。

 

「オレのスタンドは知ってるよな?口の中の傷からストロー用の穴を開けることだってできるんたぜ。せっかく見栄えのいい顔してんだ。ネズミの食ったチーズみたいになんのは偲びねーよな。むしろオレはそうしたいが…スタンド能力をコピーされるのはムカつくからな」

おうあ…おういいんおうあええあいおあ(ぼくは…ぼすにしんようされてないのか?)

「ボスの考えは知らん。だがリゾットを本気で殺せると思ってるかは怪しいね。失敗したら殺されるんじゃないか」

えお、いおっおおおおえうおぁ…(でも、りぞっとをころせるのは…)あうんおういあいあい(たぶんぼくしかいない)おうあ…おうあんあええるあお(ぼすは…そうかんがえてるだろ)?」

「ブランク、オレはおまえが見かけより馬鹿じゃねーから疑ってんだ」

 

 チョコラータはまだブランクを殴った。体がよろめき、爪が頬の中を抉った。血とよだれが口からダラダラ溢れてきてI♡ROMAのシャツを汚した。思わずチョコラータの腕を掴もうと手が出てしまうが、チョコラータは右手でブランクの首にチョップを叩き込んだ。

 咳き込むブランクを眺めながらチョコラータは話し続ける。

「リゾットを殺せる可能性が減るのと、ひょっとしたら裏切りそうなおまえをぶっ殺すの、ボスがどっち取るかはしんねーが…わたしだったらおまえをぶっ殺す方を選ぶね」

 

 チョコラータは口から指を引っこ抜き、よろめくブランクを蹴り飛ばした。石がゴロゴロ転がっている地面に背中が激突する。

 チョコラータはポケットからクロスボウの矢を取り出した。通常の矢と違い、ポイントに4ヶ所切れ込みのようなものがある。

 

 そしてあっというまに矢をブランクの腹部に3箇所、首に一本深く突き刺した。貫通した矢先でジャコンというバネの音がした。

「うッ…!」

「内臓も動脈も傷つけてない。後遺症になるような位置じゃあない。だが、背中側には鈎がでているから引き抜くのはかなり勇気がいるだろうね」

「これ…ほんとに死なないやつですか……超痛い!」

「そこは保証するよ。で、ほら。矢はケブラーの糸で…別の矢とつながってる!見てろ」

 チョコラータはニコニコ笑って対になってる矢を見せびらかし、裸で椅子に縛り付けられた男に突き刺した。男の方は猿轡ごしにくぐもった悲鳴を上げた。

「彼の方は引き抜いたら確実に死ぬ。引き抜いても、放っておいても身体の中のカビが肉を食い散らかしてどっちみち死ぬがね。でもわたしたちがお前の宿を調べてここに帰ってくるまでは保つさ」

「こんなことしてなんの意味が…」

「趣味だよ」

「あ、そっか…」

「ちなみに彼はただそのへんを歩いてた旅行者らしい。家族写真を財布に入れて観光マップをだいーじに胸にしまって…心温まるな。では失礼。そこで待っていろよ」

 チョコラータはブランクの上着のポケットから財布と鍵を抜き、地中から出てきたセッコのカメラを三脚に固定してから地下室を出ていった。

 

「クソチョコラータ…」

 

 ブランクは起き上がった。地面にまで刺さった首の矢がひっぱられ、血がどろっと口に溢れてきた。死なない位置なんて嘘なんじゃないかってくらいの量だ。腹もとんでもなく痛む。何より口の中がズタズタだ。これじゃしばらく辛いものは食べられない。

 

 だが痛みと引き換えにチョコラータの能力までもコピーできた。(生きて帰れた場合)最大の功績だ。

 さらに、これは脱走の好機でもある。チョコラータの好物は最後まで残しとく性格が今回はチャンスに変わった。

 

 ブランクはチョコラータが指を突っ込んだのが右の頬で良かったと心から神に感謝した。

 左の奥歯に本人内緒でパクったリトル・フィートで縮めたパソコン、着替え一式が仕込んであるからだ。

 

 この矢を縮めて脱出…というのは無理だろう。ここから宿まで車で十分。家探しには五分とかかるまい。

 ブランクのコピーしたリトル・フィートだと縮めるのにものすごく時間がかかる。おおよそ30分たってようやく縮みはじめ、任意の大きさになるまでさらに10分はかかる。

 そして矢を繋いでいる糸だが、ケブラーというと防弾チョッキにも使われている繊維の名前だ。触った感じもとてもじゃないが切ったりちぎったり出来そうじゃない。たとえタングステンだろうと今のブランクに切ることはできないだろうが…。

 

「……」

 

 となると、矢で繋がれた男を殺す他ない。

 

 フランクは立ち上がり、男の様子を見た。まさかブランクが自分のために命を奪うことを良しとしないと思ったんだろうか。

 いや、奪うこと前提でここに置いていったのだろう。

 チョコラータはボスから与えられた仕事としてブランクを襲ったのではなく、疑惑と個人的趣味で襲ったのだから。故に家探しが主目的で、あとのこれは前戯みたいなものだ。

 家探しして何も出なくても、チョコラータは個人的に自分を殺しに来るだろう。絶望から引き出されたその次を見るために。

 とんだ変態に目をつけられたものだ。

 

 ブランクは無言で自分と男を繋ぐ糸を引っ張り、男の首に巻いた。気道を潰すと苦しんで暴れる。血の流れを止めてしまえば死ぬまで10秒、天にも登る気持ちらしい。

 こういうとき言葉をかけるのはむしろ残酷だ。

 後ろから輪にした糸を手のひらの上でまとめ、そのまま握る。そしてそれを90度捻りながらまっすぐ上へ素早く持ち上げる。

 これにはあまり力はいらない。だが少しの抵抗と糸の細さのせいで手に糸が食い込み切れて血が出た。10秒カウントすると男はもう動かなかった。男の体に刺さった矢をむりやり引き抜き、抉れ取れた肉を取り除いて糸といっしょに巻いてズボンのベルト部分に無理やり差し込んだ。

 ビデオは一応ぶっ壊したが、どうせ隠しカメラがたくさんあるんだろう。ブランクは虚空に向けてファックユーのポーズだけして地下から脱出した。街はまだ人気があって、体から矢の突き出たブランクはかなり目立ってしまう。

「クソ…なんかクラクラしてきた…」

 ブランクはなんとかタクシーを捕まえた。だが運転手は四本突き出た矢を見て悲鳴を上げ降りるように懇願してきた。

「ピーピー喚くなッ!金ならいくらでもくれてやるからとっとと市外に向けて走りやがれ!殺されてーのか」

 ブランクは怒鳴る口から血が飛び散るわ、矢をブラブラさせてるわではたからみればイッちゃつてる人そのものだった。

 誰かを恫喝するのは久々だったので怒鳴ってサツビラ投げたあとに赤面したが、運転手は車を急発進させ爆速で街を抜けていった。

 ブランクはもとの大きさに戻した携帯電話である番号をプッシュした。

 

とぅるるるるるるるん……

 

「……あ、もしもし。ブランクです」

『どうした。お前から電話なんて珍しーな』

「あのー、ちょっと教えてほしいんですが。お腹にあいた穴ってお医者さんに行かなくても治りますか?」

『は?』

「なんか…もしかしたら毒とかあるかも。…すげー喉乾いたんですが。なんだかわかります?目が霞むし…寒」

『お前今どこにいるんだ?』

「タクシー」

『はぁ…しょォーがねーーーなぁ…運転手にカゼルタの水道橋のバス停まで行くようにいえ』

「あー、ヴァンヴイッテリ?あのすげーでかい…バカ…バカでかい」

『そうだ。それまでに生きてたら助けてやるよ』

「わかりました」

 

 電話を切ってからよくよく自分の体を見てみると、首からかなり出血していた。何が動脈は無事だ、あのヤブ医者は。それとも変に情けをかけて首を絞めたせいでどこか引っ張ってしまったのだろうか?

 腹の方からもじわじわ血が出て、座席はどうしようもないくらい汚れている。だがそんなことかまってられないくらい意識が朦朧としてきた。

 ブランクは運転手に行き先を告げると座席に寝転んでそのまま寝てしまった。

 

 

2001年3月29日

 

 カンノーロ・ムーロロは収集したデータを丁寧に編集していた。組織構成員の個人情報とスタンド能力をまとめたファイル。ボスにすら見せない完全版は生きてる人間だけでなく死んだ人間も網羅してあるいわばパッショーネ大全だ。

 暗殺チームのプロフィールもブランクのおかげでだいぶ溜まった。地元をウロウロしてる下っ端のは簡単に集まるが、幹部クラスや特殊任務を受けてるチームは秘密主義だからだ。

 

 ムーロロは何人かの幹部のファイルを呼び出した。もしボスが娘を保護するなら誰に頼むだろう。リゾットが行方をくらましたと聞いた以上スタンド使いに任せたいはずだ。

 ナポリ地区で一番スタンド使いを抱えているのはポルポだ。あのデブは絶対に買収できない。現状に満足しているからだ。

 他だとローマ、シチリアの幹部がスタンド使いだったはずだ。シチリアのやつが一番可能性が高い。

 ムーロロはポルポとシチリアの幹部の情報をリゾットに送った。リゾットはここのところこちらからの連絡に出ない。

 ブランクも位置情報特定不可と報告してきた。あいつはリゾット暗殺司令をもらったくせにのほほんとしていたが大丈夫なんだろうか?

 

 反響みたいだったあいつが自分を持ち始めたのはいい事だが、同時にあいつの一番いいところ、つまり冷静で公平な判断力と合理的な思考がなくなりつつあるのは残念だった。

 万が一になったら切り捨てることも考えなければならない。

 

 でも、どんなに変わってもあいつはずっと命令を出すオレに従順だ。そこは今も昔も変わらずやつの美点だ。

 

 

 

 

とぅるるるるるるるん……

とぅるるるるるるるん……

 

 電話だ。

「はい」

『ムーロロさん。ブランクです』

「おう。どうした?」

『あのー、今一人ですか?』

「おう」

『実はチョコラータに疑われて襲われました』

「何?ボスは知ってるのか?」

『知らないはずです。チョコラータは…なんというか、趣味で僕を殺したがってて…』

「お前の裏切りはバレてねーんだな?」

『ええ。定時報告もいつも通りでした。あ、でも…』

「なんだ?」

『チョコラータのスタンドをコピーしました』

「でかしたな。お前、怪我は?」

『超しました。でも問題なく動けます』

「よし。任務は続行だ。リゾットの暗殺の件については情報部と連携するとボスに伝えておけ。こっちになんか来たらメールで送る」

『わかりました。では』

 

 暗殺対象がリゾットで本当に良かった。あいつを見つけるっていうこと自体UFOをみつけろっていってるようなもんだから時間がかかったって不思議じゃない。チームが散開しているのはブランクを送り込んだ当初の狙いから外れている。ボスにとっては不都合な展開だろう。

 チョコラータがブランクを追ってくるのだとしたらかなり危険だ。だが追跡能力に乏しい二人ならやり過ごせないこともないだろう。待ち伏せされない限りは。

 

 神の視点を得たような気分だ。

 

 

 

 

 だが、神は決してプレイヤー席には座らないのだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。