地底の星   作:PSβ


原作:東方project
タグ:東方
その日勇儀は、酒を飲んでいなかった。

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地底の星

 

 

 

「ふぅ...一人で温泉ってのも、良いもんだなぁ。」

地底には温泉がいくつもあり、運が良ければ広い浴槽を一人占め出来る。

特に夜はほとんどの鬼が朝まで飲み明かすので、空いていることが多いらしい。

かく言う勇儀も夜に温泉に入ることは今まで一度も無かったが、ふらっと立ち寄ったそこは、地底の入り口にポツンと存在する温泉。

恐らく唯一、空を拝みながら入れる温泉だろう。誰が管理しているのかも分からない。

あるのは一応外から見えないようにする仕切りと、ちょっとした更衣所だけ。

少し興味を引かれたので、入ってみたのだ。

いつもの賑やかなのも良いが、静かな地底もまた別の良さがある。

上を見上げると、空に浮かぶ満月が顔を見せた。

偶然にも、完全な満月。これは運が良い。

 

「~♪」

 

気分が良くなって、鼻歌を歌う。

この歌は確か、私がまだ小さい時、地上にいた時に聞いた歌だ。

誰が教えてくれたのか、どんな歌詞だったかも覚えていなかったが、メロディーだけは記憶にこびりついていた。

あの頃は...

 

「ヤマメちゃんアターック!!!」

 

突然、喧しい声と共に何かが私の近くへと勢い良く着水した。

「わっ!?...ヤマメ?どうしたんだ、こんなところで。」

「それはこっちのセリフだよ。あたしの特等席に先客がいるんだもん。そりゃあテンションも上がるよ。」

そうか、ここはヤマメのお気に入りの場所なんだな。

考えてみれば、地底の入り口といえばヤマメの住処だ。

ヤマメがいることは何もおかしくない。

 

「それにしても、今日は本当に良い夜だねぇ。雲一つない夜空に浮かぶ満月を、勇儀と一緒に見れるなんて。しかも、その勇儀の鼻歌まで聞けるんだからさぁ!」

思わず立ち上がってしまった。

「なっ、なななっ、何でそれを!?」

「そりゃ聞こえるよ~、こんなに静かなんだもん。むしろ地上にも聞こえてないか心配なくらいだね。」

「うぅ...」

恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。

普段の私とは違う私だ。

 

「勇儀、顔真っ赤だよ。そんなに恥ずかしかった?」

「違っ...えっと...ちょっとのぼせただけだ!」

反射的に嘘をついてしまったが...

「そう?それならお風呂上がった方がいいと思うけど、どうする?」

「...まだ入る。」

流石に通用しない。

 

「ぷっ、あははははっ!!」

突然ヤマメが声を出して笑い始めた。

「...そんなに可笑しかったか?」

「いやあ、勇儀は可愛いなあって思ってさ。」

「はあ!?そんなこと...」

「勇儀は可愛いよ。多分あたしだけじゃなくて、みんな思ってることだ。可愛くて格好良くて、強くて頼れる。そんな勇儀のことが、みんな好きなんだよ。」

「そ、そうか...?」

真面目なトーンで言われると、どう返していいか分からなくなる。

 

「どうせ空見上げて、『あの頃は良かった』なんて懐古厨みたいなこと思ってたんでしょ?」

うっ...

図星だった。

「今に限らず、勇儀って最近よく考え事してるよね。そんなに今の暮らしが不満?」

 

今日のヤマメはやけにグイグイ来るな。

それに、一々鋭い。

そんなヤマメに根負けしたのか、それとも単に反論したくなったのか。

私の口から、自然と本音が漏れ出し始めた。

 

「不満は、ないさ。ただ...」

「ただ?」

 

「私が指導者になって不満なのは、みんなの方じゃないかと思ってさ。」

「あたしたちが?まさか。」

「私が指導者に向いてないことくらい、私が一番分かってる。」

 

「まあ確かに、勇儀は頭悪いし」

グサッ

「天然なことも多いけど」

グササッ

「そんなことは関係ないよ。いやむしろ、だからこそみんなついていくのかな。」

...?どういうことだろう。

 

「ねぇ勇儀、あたしがどうしてここに住み着くことにしたのか、覚えてる?」

「確か、空が見える場所が良いって...」

「そういう細かい場所の話じゃなくて。地底っていうくくりでさ。」

 

...人間に嫌われた妖怪の末路。

あまり私の口から言いたくは無かった。

 

「地上に居場所がなくなったのは、場所に嫌われたからじゃない。人に嫌われたから。妖怪に嫌われたから。同じように、あたしが地底に居られるのも、地底という場所が許したからじゃない。受け入れてくれる...勇儀のような奴がいたからさ。あたしみたいなはぐれ者をみんな受け入れようとするなんて、頭の悪いことだと思わないかい?でも勇儀は天然だから、それがどれだけ途方もないことなのか気付きもしない。気付かないまま、やり遂げる。やり遂げられるだけの力を持ってる。こんなに分かりやすい指導者が、他にいる?」

 

...

圧倒された。

何か言おうにも、気持ちの籠もったヤマメの言葉に、見合う言葉は出てこなかった。

 

「ねえ勇儀。勇儀のことを世界で一番好きなのは、誰だと思う?」

「え?」

突拍子もない質問に面食らっている間に、ヤマメが顔を近づけてきた。

 

そして、耳元で一言、

 

「大好き」

 

そう言った。

 

「勇儀は、どうかな?私のこと...好き?」

 

これは、ただの好きではない。

 

「わ、私は...」

 

私の、好きな人は...

 

「...なーんて、冗談だよ、冗談!あたしが一番なんて柄でもないし。勇儀もそんな簡単に真に受けちゃ駄目だよ?そんなことしてたら、『本当に』勇儀のことが好きな奴に嫉妬されちゃうよ?あー妬ましい妬ましい、両想いなんて本当妬ましいねぇ。」

「えっと、ヤマメ...?」

また突然話の雰囲気が変わって困惑する。

それに、両想いって...?

 

「それじゃ、あたしそろそろ上がるから。月も勇儀も、存分に楽しんだしね。」

「あっ、おい!」

ヤマメは足早に温泉を後にする。

そして更衣所の扉を閉める...直前。

 

「ああそうだった。お風呂空いたからもう入っていいよ、パルスィ。」

...えっ?

「パルスィ?」

「なっ、なななっ!?気付いてた...の?」

更衣所の方から焦ったような声が聞こえてくる。

「こんなところに住んでるもんだから、耳は良いんだよね。じゃ、頑張ってね~♪」

つまり、パルスィがいることを承知で話をしていたのか...

本当に、ヤマメは...

何処まで見えているんだろう。

 

入れ替わりに、パルスィが入ってきた。

 

「勇儀...話があるの。」

 

「ああ。多分、私もだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パルスィが入っていくのを見送って、温泉を後にする。

出てすぐに、大きく息を吐いた。

 

冗談、かぁ...

あたしはどれのことを言ったのだろう。

どれもこれも、冗談で済まされないような私の本音だったというのに。

 

いや、違うか。

 

今、冗談になったんだ。

あたしが冗談にしたんだ。

 

空にはまだ満月が浮かんでいる。

今のあたしには、一つの満月ではなく、二つの半月のように感じられた。

二つの半月がぴったりくっついて、完璧な満月を形づくっているような。

 

きっと地底にも、そんな満月が完成する。

私の付け入る隙がないくらい、完璧な満月が。

 

 

 

夜空の満月のすぐ近くに、一際強く輝く星を見つけて、少し安心した。

 

 

 

 

 




一か所だけヤマメちゃんの一人称が違いますが仕様です。

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