峯麒、そして海客   作:カラミナト

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巧国の空

 月明かりの中、一匹の妖魔が空をゆく。

 その妖魔の背には二人の制服をきた青年が跨っている。

 

 柊弥の眼下には朧げに蝋燭の灯りが灯る城壁に囲まれたこの町の役所が見える。

 何故か人がほとんどいない城壁の内側の町並みが月明かりに照らされている。

 

 さっきの逃亡劇の最中誰も怪我をしていないことは不幸中の幸いといったところだろうか。

 

 それでもやはり気分が晴れないがこんなところでボサッとしていることもないだろう。

 

「それでどうする?

……取り敢えず俺としてはまずは飯が食いたいんだが」

 

 そういう彩斗の言葉を聞いて柊弥はこの数日間そもそも何も食べていないことに気が付いた。

 

「確かに。

そう言えばあの飛行機に乗ってからずっと何も食べてないや」

「それ、マズいだろ。

よく今までもったもんだな

俺は一応この町の牢屋に入れられてから食事を一度だけ分けてもらったけどそれでも相当腹が減ってるからな」

 

 恐らく腹が減りすぎてとうに限界を突破してどうということもなくなってしまったんだろうかと柊弥は思ったが、それこそもっとマズイのではないだろうかと思い直す。

 

「そうだな。

まずは腹ごしらえといこうか。

それでも俺ら金も食べ物も何もないんだけど……

そこのところはどうするんだ?」

「いや、それは……

あ!

飛行機の非常食が海にプカプカと」

「いや、浮いてないでしょ。

もう何日経ってると思ってるんだ」

 

 柊弥は彩斗の冗談、いや半分本気の冗談にさらりと突っ込んで気を取り直す。

 

 八方塞がりなこの状況をどうしようか。

 

「そもそももう日が暮れているのにまだ今日の寝床も決まっていないんだ。

本当にこのままじゃマズイな」

「でも、食事に関して言えばそこら辺で獣や魚を取って食えばどうにかなるだろ?」

「まあ、そうだな。

……正直肉とか魚とか好きじゃないけどこの際しょうがないか。

でも、こんな暗闇の中でどうやって食材を手に入れようってんだ?

こんな暗かったら魚もまともに取れないだろ?」

「そこはほら。

お前がこいつに頼んでくれたら、な?」

 

 柊弥は状況が改善した途端いつものペースに戻ってきた彩斗の遠慮のなさに若干呆れながらも言っていることは正しいので了承する。

 

「ということなんだが。

頼まれてくれるか、爍繃(シャクホウ)?」

『御意、主とその友人のためならば』

「うわ!

こいつ喋るのかよ!

だから、先に言えと言っているだろう、柊弥!」

「悪い悪い」

 

 またも柊弥に驚かされた彩斗は前に座る柊弥に対して少し背中を小突いたりするも柊弥は平謝りするだけで済ませる。

 まるで今までの緊張から解放されたような心地の良い雰囲気の中、下は騒がしい。

 

 未だに行き先の決まっていない彼らは配浪の町の上空に佇んでいるままなのだ。

 下の方ではさっきは爍繃のことを恐れてそそくさと一人逃げ出した奴が威勢よく弓を構えながら降りてこいとわめいているのが聞こえる。

 

「なあ、柊弥。

流石に下も騒がしくなってきたことだし早いとここの場を離れないと」

「分かってる。

でも、何処に行けばいいのかなんてこの場所の地理に疎い俺たちじゃ何も分からない」

 

 柊弥も彩斗もつい数日前にこの世界とは違う場所から蝕という異常現象によって流されてやって来たただの海客である。

 この後海の方へ行けばいいのかそれとも逆なのかどっちに行けばいいのか分からなかったのだ。

 

 舌の方では矢が放たれているようだがそれらすべては爍繃の身まで届いていない。

 

『主、この近くに数年前に誰もいなくなった里があるのですが、そこまでご案内しましょうか』

「おお、流石柊弥の従僕!

元とは言え里ならきっと川もあるはずだ。

それに今晩の寝床にもなるはずだ」

「じゃあ、早速そこまで案内してくれ」

『御意』

 

 主である柊弥の命を受けた爍繃は針路をこの町の人が虚海と言っていた海の方へと向けた。

 

 柊弥たちは下の騒動を無視して爍繃の背に乗って目的地へと向かう。

 

「それにしてもそんな都合のいい場所をよく知っていたな」

 

 柊弥の爍繃の功をたたえるような声にこたえた爍繃の言葉に爍繃の背に跨る二人の表情が凍り付いた。

 

『主の元に下る前は私の寝床としていましたので』

 

 柊弥と彩斗は爍繃の背の上で顔を合わせる。

 

「それって、まさか……」

「いうな、柊弥。

御霊のためにも大事に使わせてもらおう」

「な!

それって爍繃がまるでその集落の人たちを殺したとでもいうみたいじゃないか!」

「どう考えても俺はそうとしか思えないんだがな」

 

 柊弥と彩斗の二人は笑い話にもならない笑い話をしながら目的地へと向かっていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 辿り着いたそこは柊弥が爍繃と出会った林のすぐ近くにあるさっきの配浪の町ともよく似た城壁に囲まれた町だった。

 暗くてよくは見えないが近くには中林の予想通り川が流れている。

 

 爍繃が城壁に囲まれたこの町のちょうど中央の広場に降り立つと柊弥と彩斗の二人をそこに降ろして自らは再び宙に浮かび上がった。

 

『主、私は食料を探してきます』

「ああ、よろしく頼む」

 

 爍繃はそのまま林のある方へと飛び去って行った。

 

「よし、じゃあ俺たちはこの町を散策するとしよう。

焚火のための枝拾いもしながらな。

俺は左の方の屋敷を見て回るから柊弥は右端の方を見に行ってくれ」

 

 彩斗はそう言うとさっきの配浪の町の役所のような場所に入っていった。

 

 そして柊弥は寺のような神社のような場所は素通りして右端の門を潜っていった。

 

 門を抜けたその先にあったのは、ところどころ壁が剥がれ落ちて不気味な屋敷のような場所だった。

 

 その屋敷の中を取り出したスマホのライトの灯りを頼りに何か使えるモノがないかを探していく。

 しかし、そこにあるのはこの屋敷の外装と同じようにボロボロの調度品くらいで特に有用なものは見当たらない。

 

 しばらく中を探し回って目ぼしいものを見つけられなかった柊弥は唯一の戦利品であるこの世界の男ものだろう服を彩斗の分も合わせて二人分である。

 門を出たところで右端の門から出た彩斗の姿を見つける。

 

 柊弥は服装を改め、彩斗の分の服装をもっている状態である。

 

「柊弥、なんだそれは……

ぜ、全然似合ってない……」

「わ、笑うことはないだろう」

 

 柊弥の姿を見た中林は笑いをこらえきれずに遂には吹き出してしまった。

 

「一応、お前の分もあるんだがな」

「ああ、悪い悪い。

悪気があったわけじゃないんだ。

柊弥のその髪が派手でどうしても地味な服装とじゃミスマッチでな」

「なら俺は豪華絢爛な服装でもしてろってのか?」

「まあ、冗談さ」

 

 そう言って柊弥から衣服を受け取った彩斗は衆目がないこともあってその場で着替え始める。

 

「それで、中林は何を見つけたんだ?」

「別に大したものじゃないが、この世界の金と地図だな」

「何が大したことがないだ!

大収穫じゃないか!」

「そうか?

まあ、そうかもな。

もっと褒めろ」

「なるほどこれがこの世界の金なのか」

 

 調子に乗り出した中林はを置いて柊弥は近くに置いてあった袋の中身を見て確かめる。

 中には五円玉のような中央に穴の開いた円形のものと長方形の形をしたものとがあった。

 

「無視かよ。

まあ、良いけどな……

俺らじゃその金の価値なんてわからないから大切に使わないとな」

 

 そこらに置いてあったんだからはした金だろうぜと言っていた中林だったが柊弥にしてみれば全くないより断然ましである。

 

「それでその紙がここの地図か?」

「ああ。

といっても近くに海のようなものがあって後は漢字っぽいが読めない字で地名が書いてあるだけなんだがな」

 

 彩斗は腰に巻き付けた帯にさっき手に入れた剣を差しながらそう言った。

 

「そう言えばその剣って……」

「もちろん本物だろうよ。

こんなよく分からん世界じゃ武器もないよりはあったほうがいいと思ってな。

……俺が持ってて良かったか?」

「もちろん。

うちの部長は全国レベルの強さを誇るんだ。

誰も文句を言いやしないさ」

「まあ、竹刀と真剣とじゃ違うだろうけどな……

ああ、そうだ。

お前はこれな」

 

 そう言って彩斗が投げたそれを柊弥は受け取った。

 それは片刃の狩猟刀のようなものだった。

 

「それだって武器になる。

ないよりはましだから一応持っとけよ」

 

 そうこうしているうちに何か音がして上を見上げるとそこには爍繃がいた。

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