峯麒、そして海客   作:カラミナト

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次の目的地

 爍繃(シャクホウ)は血の臭いを漂わせながら柊弥と中林の二人の元へとまるで空中を滑るように向かってくる。

 

『主、得物は捕えましたがその全てをこちらに持ってくることは叶わず。

申し訳ありません』

 

 思っていた以上の収穫だったようだ。

 柊弥はともかく彩斗は爍繃のその言葉に満面の笑みで爍繃を迎えた。

 

「構わない。

それで、その獲物はどうしたんだ?」

『近くの川の近くに置いてきました』

「そうか、ありがとう」

 

 そうして柊弥が彩斗の方を見るとどうにも空腹が我慢ならなくなってきたようですぐそばでウズウズとしている。

 

「なあ、早く行こうぜ!

ああ、久し振りの飯だ!

肉かな?魚かな?

いや、どっちでもいいけど白飯が食べたいな。

ああもう、楽しみだな。

なあ、柊弥!」

「ああ、まあな……」

 

 柊弥だってここ数日は全く何も食べてないのだ。

 あったとしても今日配浪の町に訪れる前に身を清めた川の水を飲んだくらいだ。

 

 確かに最初の頃は意識を失っていたとしても大したものである。

 

 だからこそ柊弥は白米が食べたいのだがこのまま空腹のまま行き倒れるわけにもいかないから肉や魚を食べるのは致し方ないだろうとは考えている。

 

 配浪の町の時と同じように柊弥と彩斗は爍繃の背に跨って、それを確認した爍繃は二人を連れ立って目的地の川へと向かう。

 

 目的の川はすぐ近くにあった。

 決して大きくはないけれども日本の街中の川のように汚れてなどおらず澄んだ水が流れているのが月明かりの下でもよく分かる。

 そして、爍繃がとってきてくれたのだろう目的の獲物はすぐそこにというかその川の中に入っていた。

 

 その獲物は川の流れに流されることなく、そして他のこの周囲の獣に荒らさることもなくドンと確かな存在感を放っていた。

 

「なあ、俺にはこれが何なのか分からないのだが……」

「何って魚だろう?

何言ってんだよ柊弥。

さて、さっさと捌くぞ」

「いや、どう見てもおかしいでしょこの大きさ。

こんなの何処にいたんだよ」

「いいじゃねえか大きくって。

食べ応えあるぞ。

あ、そうだ。

柊弥の短剣を貸してくれないか?

この剣じゃ流石に大きすぎて」

 

 目の前には一般的なマグロほどもある大きな魚が僅か1メートルほどしかない川底に横たわっていた。

 マグロのようなとはいっても見た目は全然マグロには似ていない。

 その大きすぎる巨体にはヒトの手と同じくらいに大きな鱗が付いている。

 目の前で一生懸命その鱗をはがそうとしているが思いっきり力を入れてどうにか鱗を取れているような感じでその鱗がどれだけ頑丈かというのを物語っているだろう。

 そして、その魚の鱗は銀色で月の光を鏡のように反射してキラキラと輝いている。

 

「爍繃、これはどうしたんだ?」

『虚海から獲って来ました』

 

 なるほどそう言うことかと理解するも柊弥は呆れかえる。

 

 ――普通、わざわざ獲物取りに虚海の魚を獲るだろうか?

 

 それでも食材を取ってきたことは事実なので柊弥が口を出すことはない。

 

 そうやって柊弥が物思いに耽っている間にも目の前では彩斗が豪快にそして雑にその奇怪な魚を捌いていく。

 集中している彩斗を前に何か手伝えることはないだろうかと近づいたが陸の動物とはまた違った水分の多そうな血が出ているのを見て離れた。

 

「ああ、柊弥はそこで待ってていいよ。

お前は血が嫌いだもんな。

俺は小さい魚だけだけど一応魚を捌いたことはあるからさ」

 

 柊弥の事を知っている彩斗は彼を慮ってそう声をかけた。

 

 それでも彼一人に任せるのは悪いと思って柊弥は一人果物でも探しに行こうかと思った。

 

「なあ爍繃、この近くに果物とか実ってないだろうか?」

『それなら近くにございました。

案内しましょう』

 

 そう言うや否や爍繃は柊弥が背に乗りやすいようにと伏せの態勢になった。

 それを見て柊弥は爍繃に飛び乗った。

 

「中林、俺は近くの果物でも取ってくるから」

「おう、任せた。

上手いものたっぷり頼むぜ」

「善処するよ」

 

 魚を捌きながら肩越しに話しかけてきた彩斗に対して答えると爍繃は柊弥を乗せて空を駆けていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 柊弥は三十分もかからずに数十もの同じ果物を抱えて魚を捌いている彩斗のいる川の側へと戻ってきた。

 

「おお、戻って来たか。

うん?

これが果物か?

何か枇杷に似ているな」

「似ているんじゃなくてそのまんま枇杷だけどな」

「何!?

お前もしかしてもう食べたのか?」

「もちろん。

収穫者の特権ってやつさ」

 

 そう言って魚のあった方を見ると雑だがそれなりに多くの肉の塊がそこにはあった。

 やはり微かに臭う魚の血の臭いが柊弥を不快にする。

 

「ところで今更だけど火はあるのか?

こんなに頑張って捌いたってのにライターもマッチもないじゃ心折れるぞ、俺」

 

 さっきとは打って変わって苦い顔を浮かべる彩斗の事が面白くて少し笑ってしまったが柊弥はそれは問題ないと答えた。

 

「へえ、柊弥ってライターとか持ってたんだな。

なんか驚きだな。

もしかしてタバコでも知っていたか?」

「いや、タバコなんて吸ってないから。

それに俺はライターもマッチもないよ」

「ん?

じゃあ、どうするんだ?」

 

 柊弥の言ったことを不思議がった彩斗だったが、柊弥が焚火の準備をしておいたところへと向かっていくものだから彩斗も彼についていく。

 その後ろを巨体の爍繃もついてくる。

 

「じゃあ、爍繃頼む。

せっかく作ったんだから消し炭にはしてくれるなよ」

『御意』

 

 爍繃の口から吐き出された炎は昨日狼をその形も残さず消し炭にしてしまった炎とは思えないほどの勢いで枯れた枝葉を焼いた。

 

「なるほどな。

こいつってこんなことも出来たんだな。

じゃあ、火の準備も出来たことだし早速焼いていこうか!」

 

 なんとも元気よくしかしよだれを垂らしながら手際よく彩斗はあらかじめ洗っておいた枝で大きめのブロック状に切られた魚の肉を串刺しにしていき炙っていく。

 一仕事終えた爍繃はいつの間にかいらなくなった魚の内臓とちょうどよく身のついた骨をバリバリと食べている。

 

「おお、これは美味そうだな。

こんな大きな魚のブロックを焼いて食べるなんてことはあまりないからな。

刺身用の魚を焼いているみたいだ。

な、柊弥?」

「いや、刺身は食べたことないしそもそも肉とか魚はあまり好きじゃないからな」

「そうなのか。

いや、でもこれは絶対うまいぞ。

なんかサバイバルしているみたいで面白いしな」

「この状況はみたいじゃなくて紛れもないサバイバルだけどな

 

 しっかり炙られた魚を見て彩斗は日本とって片方を柊弥に渡した。

 柊弥は多少の抵抗があるが彩斗は遠慮なくかぶりついている。

 どうやら普通の魚と違って焼いてもあまりパサパサにならずそれどころか肉汁のように魚の油があってみずみずしい。

 隣の中林は声にならない嬉しい悲鳴をあげながら二本目に手を出していた。

 

 ――塩なしでもそんなにおいしいのなら俺でも大丈夫かもしれない

 

 そう思って口にした焼き魚は確かにいつも食べてる魚よりもおいしかった。

 しかし、一口食べてそれ以降が続かなかった。

 まるで身体が嫌がっているかのようだった。

 

「どうしたんだ?

やっぱり魚は駄目だったか?」

 

 申し訳なさそうに問い掛けてくる彩斗にどう言えばいいか分からなかった。

 

「違うんだ。

その、食欲がないというか、腹は減っているけど食べたくないんだ。

ごめん」

「そうか、出来れば食べて欲しかったんだけど仕方ないな。

だったらその枇杷でも食べててくれ。

でも、2つくらいは残しておいてくれよ」

「悪いな。

ありがとう」

 

 柊弥は食べかけの焼き魚を彩斗に渡して枇杷を食べ進めた。

 

「そういえば今地図あるか?」

「ああ、それだったらそこに」

 

 お互いに食事をしながら話しをする。

 取り敢えず今はこうして食事をするためにもここにいるわけだが明日から何処に行こうかと考えたのである。

 柊弥はA4二枚分くらいの大きさの地図を広げて見てみる。

 

「どうだ?

もしかしてお前ならその文字が分かったりするのか?」

「いや、文字は全くだ。

でも現在地は分かる気がする」

「え?

本当か?

一体どこなんだ?」

 

 柊弥は彩斗に促されてある一点を指し示す。

 

「この海の沿岸に港みたいなところがある。

ここは俺が見た港だと思う。

それでこの近くにある街が多分今日いた配浪の町でそれで今はここだ。

距離的にも方角的にもこの雨戒という街で間違いないと思う」

「なるほどな。

じゃあ、明日は何処に行こうかな?」

「この町とかどうだろうか。

他よりも幾分大きそうだし、それに海から離れるよりも沿岸を進んだ方がもしかしたら俺たちと同じようにあの機内にいた人がいるかもしれない」

 

 そう言って柊弥が指し示した場所は垓洶(ガイキョウ)

 淳州符楊郡盧江郷槇県に位置する巧国虚海沿岸で最北端にある県だ。

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