峯麒、そして海客   作:カラミナト

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妖魔とサン猊

 未だに日暮れからは程遠い時間帯でありながら深い松の林の中を進んでいるということもあってか柊弥の進む道はまるで日暮れごろのように暗くそして不気味だった。

 辺りは雨に降られたせいか水たまりも多く、台風に見舞われたせいか風に折られた木々の枝葉が辺りに散らばっていることもあってなおのこと雰囲気がある。

 

 柊弥はこの不気味な林の中を歩いている中で物思いに耽った。

 

 それは、無くなってしまった沖縄への修学旅行や来週あるはずだった部活の練習試合のことそして、同じクラスの同級生たちや同学年の剣道部の皆や担任、副担任の先生たちだった。

 

 柊弥は今回のこれは恐らくただの飛行機の墜落事故なんかじゃないと思っている。

 

 特に夜明けの中で見たあの不思議な海中の星々がそう思わせるのだが、それとは別にここは別の世界なんじゃないかとまるでそれが正解なのだと告げる直感みたいなものがあった。

 直感だから誰も信じないし荒唐無稽なその仮説に柊弥自身も混乱した。

 

 しかし、どことなく納得する自分がいることを柊弥は知った。

 

 柊弥は昔から他の子どもたちとは違うというような疎外感のようなものを感じていた。

 別に他の同級生たちからいじめられていたというわけではない。

 単純に、自分はこの世界の皆とは違うみたいだと漠然と思っていたのだ。

 特に普通の子供とは違って血を恐れ、肉や魚が食べられないなどといった小さな物事が当時の柊弥をそう思わせていたのかもしれないが。

 

 高校生になった柊弥からしてみればそんな馬鹿馬鹿しい話はないというようなものだが、今でもまだそう思う時があるのだ。

 まるで世間で言うところの“中二病”なるもののようなそれはあと数か月で高校三年生になろうというのに抜けきらなかった。

 

 そして、今柊弥の中にはこの日本とは違う別の世界こそが自分の世界なのかもしれないという感覚が馬鹿馬鹿しいが少しばかりあるのだ。

 

 現実味のないことを思い返していたからだろうか。

 柊弥はその場で立ち止まった。

 疲れたわけでもましてや道を間違えたわけでもない。

 

 ただ、嫌な感じがしたのだ。

 

 第六感。

 いわゆる直感がこの先に何か危ない、いけないものがあるのだと言っていることに気が付いた。

 

「変なことを考えてたからかな?

どうやらよく知らない場所にいるということで神経質になってたみたいだ」

 

 柊弥は今まで直感に頼ったことはあまりない。

 彼は別にこの科学技術の世界で非科学的だとか選ぶっていうつもりはない。

 ただその機会がなかっただけだ。

 

 それに、本当に危険があるからと言って直感が働くというのなら彼自身の人生で一番の災難である航空機ハイジャックからの知らない土地への漂流という危機を直感で予見していてもおかしくないはずだとなんやらかんやらを言い訳にして柊弥はこの直感を無視して先に進んだ。

 

「それに、昨晩は思わず疲れてそのまま眠ったらしいけど流石に今晩は人里でゆっくり過ごしたいからな。

早いとこ夕暮れ前に泊れるところを見つけよう」

 

 そう言って柊弥はまた先へと歩き出したが、再び直感によって歩を止めてしまった。

 

 さっきと同じように気にせず進めばいいものの今回ばかりは違った。

 

 突然身体がビクリと震えて無意識のうちに後ずさってしまったのだ。

 

 今回ばかりは流石に柊弥も無視できなかった。

 この先に一体何があるのだろうかと不気味に思えてきて遂に彼は別の方向へと進路を向けた。

 

 と言っても少しばかり斜めに進むことにしただけで海岸の右方に戻ろうとは考えなかったのだが。

 

 その後先へと進み続けたが、さっきの二回のようなことは起こらずに順調に進んでいった。

 

「一体何だったんだろうか?

ここまできたらあの先に何があったのか気になるのだがそれは仕方ないか」

 

 柊弥は何かがあるかもしれない場所を直感を頼りに迂回するようにして海岸の西部へと向かっていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 もう既に日も傾きかけている中を柊弥は未だに林の中を歩き続けている。

 

 

「……なんだろうか。

何やら見られているような気がするんだが」

 

 この林の中を海とは正反対の方向に歩き続けてもう二時間以上は経っただろうという頃。

 日は傾きかけているせいで林の中は酷く暗くてどうにか林の中に入り込む少しばかりの日の光で先に進んでいるようなものだ。

 

「このままじゃマズイな。

灯りなんて持ってないし……ってあれ?

もしかしてスマホが使えるんじゃ……」

 

 気付いた柊弥はズボンのポケットに入れていたスマートフォンを取り出す。

 見た目的にはガラス製の少し液晶保護フィルムが割れてしまっているがどうやら中身は大丈夫らしい。

 柊弥はいつものように電源を入れてみると何と言うこともなくいつも通りに簡単に電源が入ってしまった。

 

 それを見た柊弥は思わずにやけてしまうもそのままスマホのライト機能を使って正面を照らした。

 

「よし。

これで幾分マシになるな。

今はバッテリーがどうのこうのと言ってられないが先に進もう」

 

 さて気を取り直して行こうかというところで不意に柊弥の耳に赤ん坊のような泣き声が聞こえてきた。

 

 柊弥はその場で足を止めて辺りを見回す。

 こんな夜中のように暗い林の中で赤ん坊の泣き声が聞こえるのだ。

 不気味以外の何物でもないとばかりに周囲の気配に気を配る。

 

 しばらくするとこちらに近付いてきていることを柊弥はようやく分かった。

 

 さっき電源を入れたばかりのスマホの電源を切って素早くポケットの中に入れる。

 

「これはまずいかもしれない。

変な泣き声だけどなんかの動物の鳴き声なのかもな。

赤ん坊の泣き声が四方から聞こえるなんてどう考えてもおかしい」

 

 この泣き声の正体が何なのかは柊弥には皆目分からない。

 しかし、このまま幾重にも響くこの泣き声の主たちに囲まれてしまうのは非常にまずいことだけは十分に理解できた。

 そして、ここで柊弥がとった行動はとにかく前の方に進むことだった。

 左右、後ろの声の主を置き去りにするかのように柊弥はとことん走った。

 

「……はあ、はあ。

駄目だ。

まだ追ってきている」

 

 後ろの鳴き声の主からは離れることが出来ない。

 柊弥がどうしようかと思っているところにいきなり右の木々の幹の間から細い体をした狼のような動物が現れた。

 

「う、うわっ!」

 

 まずいと分かっていなが柊弥はつい目を瞑ってしまった。

 それでも、予想したような犬に噛みつかれたようなひどい痛みが柊弥を襲うことはなかった。

 右腕に噛みついている狼はどうやら柊弥の皮膚を突き破ることなく歯型を残すだけだった。

 

「な、何が何やら分からないが、今はまずこいつらから逃げることが最優先だ」

 

 柊弥が狼を恐れてボサッとそこに突っ立てるうちにどうやら周囲には同じような狼たちがおよそ十数匹ほど集まっていた。

 ここにいる狼は何故か柊弥に怪我を負わせることは出来ないようである。

 しかし、柊弥だって黙ってこの場でこの狼たちの玩具になるつもりはなかった。

 

 柊弥はそこからなりふり構わず狼の集団から逃げようとした。

 

 時に飛び蹴りを狼に食らわせて、時にそこらで拾った木の枝でけん制しながら柊弥はあっちこっちに逃げながら林の中をさまよっていた。

 

 そして、しばらくして狼たちの数も少しばかり減ってきたところで我に返ってハタと気付いてしまった。

 

 柊弥の身体は知らぬうちに硬直していく。

 なぜこんなことになっているのかは分からない。

 でも、それはそこらにいる狼たちも同じようだった。

 

 右手の方に獣の気配があることに気付いた柊弥はそっとそちらの方に向き直った。

 

 そこにいたのは柊弥とさっきまで取っ組み合いをしていたような小物などでは決してなかった。

 

 全体的に獅子の形をしているが、体高が柊弥の身長以上であり、二本の角があったり、蜥蜴ではなく龍のような雄大な尻尾を持っていたり、足が鱗で覆われていたりと明らかに地球の生き物のどれでもないことを柊弥に示している。

 

 この妖魔の名は、サン(ゲイ)

 竜生九子の一匹でその力量は饕餮(トウテツ)には劣るものの実力は確か。

 

 その妖魔が今、柊弥の目の前にいる。

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