魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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気づけば投稿初めてから一年過ぎてました。
相変わらず忘れてる自分に呆れを通り越して笑いが込み上げてきそうですw

一周年迎えた「魔法少女オレガ☆ヤンノ!?」
よろしくお願いします!


92話 パンドラの箱・・?

「ですから何度も申し上げておりますようにトモっちとはただの幼馴染でして、決してお二人が邪推するような仲ではありません。天(邪神除く)に誓って潔白を証明致します。なので、そろそろお怒りをお鎮めいただけないでしょうか・・?正直殺気が洒落にならなく気を抜いたら気絶しそうです俺」

 

「「・・・・・・」」

 

 

凄まじい威圧感を放つ二体の仁王像の前に俺は成す術なく首を垂れて正座し、必死に弁解を試みる。無表情に見下ろされるのって、背筋が凍る程怖いなんて知りたくなかったよ・・。

 

何故こんな事に?

俺はただ自分宛ての荷物を受け取っただけだなのに・・。

 

もしかしなしくても送り主がまずかったのだろうか?いや、そんな事はない。

・・と言いたいところだが送り主はなんといってもあの変態の化身「トモっち」。

あまりの変態ぶりに前の学校では一部の女の子から毛嫌いされてたから無理もないのかもしれない。

 

しかしそれでもおかしい。

マミちゃんと杏子はトモっちに実害を受けていない所か会ったことすらないというのにどうしてここまで怒っているのだろうか?

まさかとは思うがもはや奴の名前が出る事自体が害なんてそんな哀れな話はない・・よな?

それはないと信じたい。だって名前だけで変態性が滲み出てるとか救いようがないわ。

 

 

「・・トモっちだって、俺の事ただの幼馴染としか思ってないって・・」

 

 

二人が怒ってる原因は分からないがとにかくここは謝った方が良い。そんな事は分かっている。

でも俺何も悪くないのに謝るのも癪なのでせめて身の潔白ぐらいは証明させてくれ。

 

苦し紛れに放つ言い訳はただ虚しく宙を漂う。

 

 

「アンタはそう思ってても向こうは違うかもしれないじゃん。・・ここに引っ越してから随分経ったよな。普通は疎遠になるはずなのに今でも頻繁に連絡してるし、こうやって贈り物までくる。優依が好きだからこんな事するんじゃないのか?それ以外どう説明する気だ?あぁ?」

 

「えー・・それは一番ないと思うけど・・」

 

 

杏子から最もありえない妄想が飛び出てきて内心ドン引きを通り越して呆れてしまう。

どうしてそんな妄想が出来るのか非常に理解しがたい。

まあ、無理はないのかもしれない。杏子はトモっちと会った事がないからどんな奴か知らないもんな。知ってたら絶対そんな妄想なんて出てこないはずだ。

 

あの変態が好きなのは二次元とアイドルだけ。

堂々と嫁と公言しており、三次元の女の子は眼中にないとまで言い切っている。

顔はイケメンなのに性格と発言のせいでプラマイゼロどころかマイナスにまで到達してしまっているのだ。黙ってればモテるのに・・きっとああいうのが残念なイケメンと呼ぶんだろう。

だから本来リア充に対して殺意を覚える俺が仲良くやっていけるってのもあるんだけど。

 

 

そう説明してやったのに杏子は納得しない。

未だに不機嫌そうに眉を顰めて俺を睨んでいる。

 

ホントに君トモっちが嫌いなのね。うん、知ってた。

普段はともかく根は純粋な杏子が去年の冬くらいに百合漫画&百合動画なんて未知の不審物に触れてしまったもんね。そうなるよね。その後ずっと挙動不審だったし。

ちゃんと処分しなかった俺も悪いんだけど元凶は間違いなくあの変態だ。

恨んでも仕方ないか。

 

 

 

「ねえ優依ちゃん」

 

 

「? どうしたのマミちゃん?」

 

 

ご機嫌斜めな杏子に呆れてたら、ずっと黙っていたマミちゃんがようやく口を開いた。

杏子がこんな感じだからこっちもどうなるか分かったもんじゃない。

内心戦々恐々していたが、予想外にマミちゃんは穏やかな表情で微笑んでいるので拍子抜けしてしまいそうだ。

 

ひょっとしたら俺の勘違いで怒っているのは杏子だけでマミちゃんはそうじゃないのかもしれない。是非そうであってほしい。怒っているのは杏子でお腹いっぱいだ。

 

 

「確か優依ちゃんの幼馴染の彼は私のファンなのよね?」

 

「え?うん、そうだよ」

 

 

俺の目をじっと見つめながら、確認するように聞いてくるので肯定する。

 

何を隠そうトモっちは真正のアイドル(キモ)オタク。

それもこれからブレイク必須のダイヤの原石のような娘が好みというコアな嗜好性(変態性)を持ち主だ。そんな奴の現在の推しは何を隠そう目の前にいる「Ribbon」ことマミちゃん。

自称「Ribbon」様一番のファンとかほざいていたな。たしか。

 

しかしこの場でそれを確認するなんてマミちゃんはどうしたんだろう?

疑問に覚えて頭に?マークを浮かべているとマミちゃんは何故かにっこり微笑んでいた。

 

 

「あのね優依ちゃん・・私、貴女の幼馴染とお話してみたいわ」

 

 

「え!?いいの!?ありがとう!泣いて喜ぶよアイツ!」

 

 

思わぬ申し出に前のめりになる。

 

これは思わぬ吉報だ。

前々から「Ribbon様にお会いしたい!」ってトモっちの奴、泣き喚いてたからこれは狂喜するだろうな。

下手すりゃそのまま尊死しそうな気もするけど幸せのまま死ねるならそれはそれで本望かもしれない。

 

 

「マミちゃん、本当にいいの?トモっちきっと喜びのあまりハイテンションで暴走しまくると思うけど・・」

 

「大丈夫よ。それは優依ちゃんで慣れてるから。それに私一度彼に会ってみたかったの」

 

「・・そっか、分かった」

 

 

なんかさり気なく貶された気がするがこの際気にしないでおこう。

喜ばしい事に変わりないんだから余計な事言って水を差すなんて無粋だ。

 

 

「ホントにありがとねマミちゃん。でもなんで急に会いたいって言ったの?」

 

「急にじゃないわ。優依ちゃんの口から貴女の幼馴染君の名前が出てくるたびに気になってたの」

 

「え?俺ってそんなにトモっちの名前出してたっけ?」

 

「ええ、二日に一回は出てたわ。だからいつも考えてしまうの。一体どんな人がここまで優依ちゃんと仲良くなれたのか、とか。私の知らない過去の優依ちゃんと一緒に過ごしてたと思うと、うらやましくて仕方がなかったわ」

 

「・・・・ん?」

 

「今から彼に会うのが楽しみだわ。きっとすごく素敵な男の子なんでしょうね。だって優依ちゃんはいつも楽しそうに彼の話をするんですもの」

 

「・・あの、マミちゃん?」

 

「大丈夫。ただお話するだけよ。優依ちゃんがいつもお世話になってますって」

 

「お話?お話って何?それだけで済まなさそうにない気がするんですけど・・?」

 

 

ニコニコ笑いながら語るマミちゃんに心なしかうすら寒いものを感じる。

 

・・これ会わせていいやつかな?なんかダメな気がしてきた。

会ったら最後、トモっち無事では済まない気がする。いろんな意味で。

 

 

マミちゃんの視線がじっと背中に注がれている。

いや、違う。正確に言えば俺の背中に隠してあるトモっちから贈られた荷物に注がれている。

 

 

「少しその荷物を見せてちょうだい。宅配便の送り主は必ず住所が書いてあるはずだから」

 

「はあ!?何言ってんのマミちゃん!?」

 

 

ゆらりと身じろぎしたマミちゃんを見て何をしようとしているのか察した俺はすぐさま両手を広げて荷物を守る。

俺の素早い対応が功を成して荷物の方に伸ばしていたマミちゃんの手は所在なさげに宙を掴んでいた。

 

 

コイツ・・!俺の許可なしにトモっちの住所確認しようとしやがった!

 

 

すぐさま警戒心全開でぐるると唸って威嚇する。気分は毛が逆立った猫。

荷物には絶対に触れさせない!

 

しかし荷物を狙っているのは黄色だけではなかった。

途中から空気と化していた赤がゆらりと立ち上がりこっちに近づいてくる。

その顔には獰猛な笑みが張り付いていた。

 

 

「そりゃいいなマミ。アタシもソイツに話があるんだ。色々と世話になったからな。一緒に行くぜ。・・ちょっとお礼しにいかねえとなあ?」

 

 

コイツに至っては話をするんじゃなくてお礼参りする気だよ!

やめろ!ゴキゴキ指の関節鳴らすの!怖いから!

 

 

「協力してくれるの佐倉さん?頼りになるわ。・・さ、優依ちゃん。荷物を渡してちょうだい」

 

 

再び俺にむかって差し伸べられるマミちゃんの手。

口調はとても穏やかだが所詮表面上のものだ。笑顔では隠しきれない威圧感が溢れている。

そしてその隣には好戦的に笑う杏子がいる。こっちはいつの間にか槍を取り出しいつでも準備OKと言いたげな感じだ。

 

これはどう考えても荷物寄こせの図だ。ありがとうございます!

 

 

ヤバい。このままではトチ狂った魔法少女共の殴り込みがトモっちの家に!

いくらアイツが救いようのない変態でも、さすがに無事で済まないと分かっていて見逃すわけにはいかない!

正直奴の自業自得な気がして仕方ないけどここは幼馴染のよしみだ!

殴り込みは回避させてみせる!

 

 

背中に隠してあった箱をマミちゃんと杏子の前に取り出すと二人は目の色を変えてそれに釘付けになる。

 

 

今がチャンスだ!

 

 

「うおりゃ!」

 

 

「「!?」」

 

 

二人の目の前で住所が書かれた部分、つまりは伝票を力いっぱい引きちぎった。

突然の俺の行動に二人は目を見開いて固まっている。その間に読解不可能になるまで細かくビリビリに破いていく。小さな紙片と化した伝票はひらひらと花びらのように舞って床に落ちた。そんな光景をマミちゃんと杏子は茫然と見つめている。

 

 

俺はゼエゼエと荒い呼吸を繰り返し、二人は固まったまま。

気まずい沈黙が周辺に漂った。

 

 

 

「・・そうまでしてソイツの事庇うのかよ?」

 

 

沈黙を破ったのは杏子だった。

ムスッとした表情で俺を睨んできたので負けじとこちらも睨み返す。

 

 

「庇うも何も君らをこのまま行かせたらトモっちがどうなるか分かったもんじゃないからね。先手は打たせてもらったよ」

 

「お話するだけよ?」

 

「その割にはどうしてソウルジェムを光らせてんのかなマミちゃん?お話って何のお話するの?まさかとは思うけどお話の時に武器を取り出すつもりじゃないよね?それお話じゃなくて脅しだから。ましてやお話(物理)とか論外だから!」

 

 

俺の妨害に不平不満を口にする二人に青筋が立ちそうだ。

 

 

伝票を破いてしまって正解だったようだ。

だって二人ともソウルジェム片手にして今にも殴り込みに行きそうな勢いだったからな。

 

トモっち、とうとうお前に殺意を持った女の子が現れたぞ。

今回は未然に阻止出来たけどしばらく夜道と背後に気を付けろよ。

さもないとあっという間に死ぬぞ。

 

 

「ただお話するだけだって言ってるのに・・冗談のつもりで伝票に触ろうとしただけなのに・・やっぱり優依ちゃんは彼の事が好きなのね・・」

 

「だから!誤解だって何度も言ってるじゃん!トモっちとはただの幼馴染だって!それ以下でもそれ以上でもないっつうの!そもそもお前らガチで殴り込みしようとしてたよね!?目がガチだったもの!てか、いい加減にしろ!お前ら魔法少女の自覚をちゃんと持て!一般人に危害を加えたなんてそれこそ目も当てらんねえぞ!」

 

 

イライラした雰囲気の赤と目をうるうるさせる黄色がいい加減腹立ってきたのでつい怒鳴ってしまうも仕方ないと思う。

 

そもそもさっき伝票を奪おうとした二人が放つ殺気はたとえド変態で変質者だろうとあくまで一般人に向けて良いものじゃなかった。

直接関係ない俺でさえ震えあがる程なのだから当事者に当たればどうなる事やら。考えてだけでもぞっとするわ。

 

 

「とにかく!この話はこれでおしまい!そういえばご飯途中だったしさっさと・・・って杏子何してんの!?」

 

 

まさかの光景に思わず目を見開いた。

慌てて手元を確認し愕然とする。

 

 

あれええええええええ!?

いつの間にか荷物が杏子の手に渡ってるううううううううううう!?

 

 

杏子の手には俺が持っていたはずのトモっちからの未知の不審物があった。いつの間にか掠め取られていたらしい。それをさも親の仇のように睨みつける杏子さん、マジおっかない。

 

てか、お前つい先ほどの俺の携帯もそうだけど、ホント犯罪スキル高過ぎ。勘弁してくんない?

地獄にいる君のお父さんこれ見たら詰る通り越してガチ泣きしてそうなんだけど。

 

杏子は奪い取った荷物をしばらく観察していたが、やがて箱を開こうとゆっくり手をかけた。

 

 

「え?ちょ、杏子さん?何してんの?」

 

「なんでもないんだろ?だったら今ここで開けても大丈夫だよね?アタシらの目の前でさ」

 

 

さっと顔の血の気が引いていくのが分かる。

 

まずい!中身は何か分からないがトモっちからだ。ロクでもないものに決まってる。

もしこれがいつかの百合グッズだったらそれこそ目も当てられない。

ただでさえ杏子の怒りが爆発するのに今度はマミちゃんもいるんだ。惨劇しか待っていない!!

 

 

「ふざけんな!返せ!」

 

 

「おっと」

 

 

慌てて奪い返そうとするもあっさり躱されてしまった。

めげずに何度かトライしてみるも荷物どころか杏子にさえ掠りもしなくて腹立たしい。

そうこうしている内に俺は息が上がってしゃがみこんでしまう。そんな俺を杏子は冷たく見下ろしている。

 

 

「今から中身を確認させてもらう。もしアンタの言う通り、あの変態とはなんでもないんだったら、変なものは入ってないはずだ。その時は大人しく引き下がってやるよ」

 

「は、はあ・・?」

 

 

訳も分からずマヌケな声が漏れてしまう。

理解出来るように努めようと必死に頭の中で言った事を反芻するがそれを遮るように「・・だけど」とドスのきいた声が響く。

 

 

「中に入ってるのがあの時みたいなやつだったら・・覚悟しな」

 

「ひい!?どういう事!?」

 

 

本日一番の殺気の籠った目が俺を射抜く。

その瞬間俺は悟った。

 

 

これは賭けだ。杏子は荷物の中身で俺と賭けをしようとしてるんだ。

 

真っ当な物なら俺の勝ちでそうじゃなかったら杏子の勝ち。

 

 

・・・・・冗談じゃねえ!ほぼ俺の負け確定してんじゃん!

だってあのトモっちだぞ!まともな物送ってくる訳ねえじゃん!

杏子め!それを見越して言ってきてるな!なんて奴だ!

てかお前の言う「あの時」って絶対百合事件の事言ってるよね!

ホントに根に持ってるなおい!

 

これ俺負けたらどうなんの?覚悟しろとか言ってたけど・・だめだ、考えるな。

 

背に腹はかえられない!何が何でも奪い返さなければ!

さもないと俺(&トモっち)に明日はない!

 

 

「何で俺がそんな賭けにのると思ってんだ?誰がやるか!良いから返s「だめよ」え!?」

 

 

もう一度荷物を奪い返そうと試みるも突如金縛りを受けたように身体が動かなくなる。

一体なんだと自身の身体に目を向けると信じられない事になっていた。

 

何と俺の身体が毎度お馴染み黄色いリボンによって縛りあげられているではないか!

俺はすぐさま犯人の方に顔を向けてみると、当の本人はそれはそれは楽しそうな笑顔で俺を見ているではないか!

 

 

「だめよ優依ちゃん。佐倉さんの邪魔しちゃだめ」

 

「マミちゃん・・?どうして邪魔するのかな?てか、なんて事してくれてんの?早く外してくんない?」

 

「それは出来ないわ。いい?いくら貴女の幼馴染といえど相手は男の子なのよ?この年頃の男の子は思春期真っ盛り。エッチな事に興味深々なの。からかい半分でどんな卑猥なものを送って来てるか分かったものじゃないわ。世の中には相手を不快にさせて悦ぶ変質者だっているくらいだもの。もし彼が変質者だった場合、この荷物を優依ちゃんに見せるわけにはいかない。だから佐倉さんが確かめようとしてくれてるのよ。分かった?」

 

「いやあんた、トモっちなんだと思ってんの!?流石にそれはな・・」

 

 

ないと言いたかった。でも言えず途中で口ごもってしまう。

 

悲しいかな。あの変態の化身であるトモっちだからこそないと言い切れない。

バリバリ変質者だもの。相手を不快にさせて悦ぶド変態だもの。

 

てか、むしろそんなド変態からの荷物を君らに見せるわけにはいかないんだけど!

訴えられても文句言えないぞトモっち!

 

 

「前みたいな趣味の悪い本じゃなさそうだな」

 

 

そうこうしてる内に杏子が包装を解いていく。

贈られた荷物の大きさはいつかの百合グッズに比べれば小さく、お菓子の詰め合わせセットくらいの大きさだ。深い緑色の包装紙に包まれた箱。

 

 

ベリッ

 

 

「ああ!」

 

 

それを杏子が無造作に剥がしていく。

あまりに雑に剥がしていくので包装紙が見るも無残な残骸となっている。

このままだと中身が判明するのも時間の問題だろう。

 

 

「やめてえええええええええええ!!」

 

 

「大人しくして!暴れたら危ないわ!」

 

 

どんなに暴れてもマミちゃんの施したリボンはガチガチに絡まっていて動けない。

このままじゃ二人が変態の不審物によって穢されてしまう!阻止したいのに成す術がない。

 

ああ!嘆いている内に杏子が箱の中身を開いている・・!

 

 

「いやああああああああああああ!!」

 

 

これからやって来るであろう惨劇に思い浮かべ、口から絶叫を吐き散らし現実から背くべき目を閉じるも来るべき怒声や罵声は聞こえずただシンと静まり返っていた。

 

 

「何だこれ?・・チョコ?」

 

「?」

 

 

杏子の戸惑った声を不思議に思い、目を開けると彼女の手には俺の大好きな銘柄のチョコレートの箱が目に入った。何故か身体を縛るリボンの拘束が緩んだのでその隙に杏子の方に近寄り箱の中身を覗き込む。その中身は美味しそうにデコレーションされたチョコレートがぎっしりと入っていた。

 

 

「ん?何だこれ?」

 

 

そう呟いて杏子が取り出したのはチョコの箱と一緒に同封されていたカード。そこには手書きでこう書かれていた。

 

 

“優依へ

たまたまお前の好きなチョコ専門店の新作が手に入ったからお前にやるよ。

どうやら女性に人気の味らしいから女の子の友達と一緒に仲良く食べてくれ。 

心の友トモっちより“

 

 

ト、トモっちいいいいいいいいいいいい!!

お前という奴は!なんて友達思いなんだ!

 

 

ジーンと心に感動が響き渡っていく。

 

救いようがない変態だけどこんな優しい所があるから憎めない。

ここ最近ずっと心が折れそうな展開ばかりだったから余計に心に沁みる。

 

ありがとう!心の友よ!

最近の俺愚痴ばっかだったからきっと気を遣ってくれていたんだね!

もちろん、味わっていただくよ!俺一人で!

 

 

「ほら!特に何もなかったろ!?」

 

 

感動と憂いがなくなった俺は実に爽やかな笑みを浮かべて二人を見やる。

二人ともアテが外れたからかむすっとした表情をしていたけど文句は言わせない。

賭けは俺の勝ちだから言えないというのが本音なんだろうけど小さい事だ。

 

 

「トモっちの話はこれでお終いだ。食事の最中だったし早く戻ろう。食べたら早く帰ってくれよな」

 

「・・帰るわけねえだろ」

 

「え?」

 

 

晴れやかな気分に水を差す不機嫌な赤の声。

 

 

「そうよ。ちゃんとお泊り出来るようにおば様から許可は取ってあるんだから」

 

「・・・・・え?」

 

 

ちゃっかりお泊りの許可を取った黄色に俺の顔は引き攣った。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・疲れた。何なんだ一体?」

 

 

湯気の中で響く俺の疲労の声。現在俺は入浴中だ。

結局あの後マミちゃんと杏子は泊まるの一点張りで話にならず、結局俺が折れる形で二人のお泊りが決定してしまったのだ。

 

ただでさえ問題児&険悪な関係の二人の相手はキツイというのに再開した食事で不機嫌を隠そうともせず、殺気立ってて精神が削られていく。

 

どちらかがお風呂に入ってもそうだった。

二人きりになってジト目でこっち睨んでくるしキツイのなんの。

そしてようやく回ってきた入浴タイム。ちなみに俺が最後だ。

どうしてこの家の住人である俺が最後なのかは聞かなくても分かると思う。

だって奴らを二人っきりにさせるの不安なんだよ。

 

しかしそうも言ってられない。

疲れを取りたいし、何より今は一人っきりになりたい。

それが出来るのは風呂だけだから一抹の不安を覚えつつ二人を残してきたのだ。

 

一応忠告はしたけど大丈夫だろうか?

 

 

「あー・・やだな。ここから出るとまた尋問が待ってそうで怖いんだよなぁ」

 

 

憂鬱な気分でドアを開け、そして閉める。

 

 

「・・・・・・」

 

 

余程疲れているのか、それとも湯あたりでも起こしたかは分からないがついに錯覚が見えるようになってしまったようだ。

 

脱衣所に杏子とマミちゃんがいるなんてきっと何かの間違いだ。

そうだ!きっとそうに違いない!

 

 

「・・・・・」

 

 

錯覚だと自分に言い聞かせ再度扉を開けるも錯覚にしてはやけにくっきりと見えるマミちゃんと杏子の姿。二人は既にパジャマに着替えて髪を下ろしているので普段とは雰囲気が異なるがよくお泊りする奴らなので見慣れたもんだ。しかし、どこか様子がおかしい気がする・・?

 

俺はそっと扉の隙間から二人を伺う。

しばらくそんな状態でお互い無言で見つめるも二人は出ていく様子は一切ないので、仕方なく俺から口を開いた。

 

 

「・・あの、取り敢えず出て行ってもらえます?」

 

「はあ?何でだよ?」

 

「何でって・・俺は露出狂じゃないんだ。女の子に裸を晒して悦ぶ性癖なんて持ち合わせてないんだよ。だからここから出て行ってくれ」

 

「グダグダ言ってねえで、さっさと出てこい!」

 

「! ちょっ!?」

 

 

突如キレた杏子に無理やり手を引っ張られ脱衣所に引きずりこまれる。

悲鳴を上げるよりも先に何か白いものに包まれるそれはバスタオルだった。

優しい手つきでマミちゃんが俺の身体を拭いている。それを杏子がじっと見つめていたりする。

 

はっきり言おう。超恥ずかしい!死ぬほど恥ずかしい!

何で俺はこんな事になってんの!?何してんの君ら!?

 

 

「優依ちゃん・・キレイよ」

 

「は?」

 

「とってもキレイ。見とれちゃうわ」

 

 

トロンとした目で俺の髪を拭くマミちゃん。どこか様子が可笑しい。

 

誰コイツ?頭おかしくなったとしか思えない。

マミちゃんをこんな風にした心当たりは一人しかいない。

 

杏子に向かって横目で睨みつける。

 

 

「杏子、マミちゃんどうした・・って、え?」

 

「優依は可愛いなぁ。いつも可愛いけど今日は一段と可愛い。食っちまいたい・・」

 

 

俺の首に腕を回して頬擦りしてくる杏子。

こちらもマミちゃんと同様、トロンとした目で様子が可笑しい。

 

 

先ほどの様子とは百八十度違ってかなりご機嫌な様子の二人。

さっきまでお風呂に入っていたから全身濡れているがそんな事そっちのけで二人はベタベタと俺にくっついてくる。

 

何だこれ?コイツ等どうしたんだ?

 

 

トロンとした目

蒸気した頬

浮ついたような口調

上機嫌な様子

 

 

二人の様子ははまるで酔っているみたいに見えるけど。

 

冷蔵庫に入っていた母さんの酒でも飲んだか?

いやそれはありえない。

酒豪の母さんが家にある酒を飲み残していったことなんて今まで一度も・・まさか・・!

 

 

ある結論にたどり着いた俺は顔が引き攣るのが隠せなかった。

 

 

「・・ねえ二人とも、ひょっとしてトモっちからのチョコ食べなかった?」

 

「ええ、ちょっとだけ。ごめんなさい。佐倉さんが無理やり口に入れてきたから・・つい。でもこれを食べてから頭の中がふわふわしてとっても気持ち良いのよ」

 

「だってさぁ嫌じゃん。アイツからのチョコ見て笑顔になる優依を見るのが嫌で嫌で仕方なかったんだ。・・だから」

 

 

最後まで聞かず俺は纏わりつく二人を振り払いすぐさま着替えチョコが置いてある自室へ向かう。背後から「優依(ちゃん)!!」と呼ぶ声が聞こえるが気にしてられなかった。

 

 

 

 

 

 

「あのドクサレ変態くそ野郎・・!」

 

 

 

 

部屋に戻った俺はすぐさまチョコのパッケージを確認する。

そこには、

 

 

“リキュールが入った大人な女性の味。お酒が入っているので20歳未満の方はご遠慮ください”

 

 

と書かれてあった。

 

 

女性って大人のほうかい!

つまりこのチョコを食べた二人は酔っぱらっていると・・!?

 

チョコの中身は空っぽ。

二人で完食してしまってるという事はそれだけアルコールも摂取してしまっているという事で・・。

 

俺に黙って食べた二人には怒りを覚える。

しかしそれ以上に怒りを覚えるのはこれを送ったあのド変態トモっちだ。

 

あの野郎!”何が仲良く食べろ”だ!確信犯じゃねえか!

これ俺食べてたらどうなってたのよ!?黒歴史確定するじゃん!

最悪あってはならない展開になってもおかしくなかった!

 

俺自身は回避出来たけどとんでもない問題を残してくれたな!

よりもよって魔法少女酔わすとは・・何てことしてくれたんだ!

ただでさえ不安定なこいつらに理性なくす事させやがって・・!

 

そもそもどうやって手に入れた!?

お前未成年だろ!?

 

 

「ゆい~」

 

「ゆいちゃ~ん」

 

 

追いかけてきたであろう赤と黄色が怒りに震える身体に纏わりつきながら俺は思った。

 

 

トモっちマジぶっ殺す・・!




俺のコネをなめるんじゃない!
たとえマグマの中だろうが氷山の中だろうがそこに百合があるなら天国さ!
byトモっち

※トモっち実はボンボンw
なので金には困りませんw


理性を失った魔法少女たちに果たして優依ちゃんは貞操を守り抜けるか!?

泣いてもいいんだよ優依ちゃん・・。

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