「完璧幼馴染と冴えない俺と」
のリメイク版です。
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今、端から見たらどんな状況になっているのだろうか。自身の身に起きていることを、どこか他人事のように考えながら、俺…大槻蒼空は一人思案していた。簡潔に、今の状況を口語化するのなら、こうなる。
独り暮らしの大槻家に、いわゆる幼馴染の女子が来訪した。本来、俺を起こしに来たはずの彼女があろうことか俺の布団に潜り込み、俺の背中に抱きつく形で寝息をたてている。
こうである。簡単だネ!とは言えない状況に、やれやれとため息をつきつつも、すやすやと寝息をたてる彼女を起こさないように体を起こした。
くぅくぅと規則的な寝息は整ったくちびるから溢れている。端正で大人びていると思われがちな顔立ちが、眠るときだけは幼げで年相応な感じになる。さらさらとした黒髪を撫で付けるように親指で擦ると、彼女は小さな吐息を漏らした。寝返りをうち、少しだけもぞもぞと動いたら再びくぅくぅと寝息をたててしまう。
起こすのが忍びないと、そう思ってしまうほどにあまりにも心地良さそうに眠る彼女は、隣にあった抱き枕擬きがなくなったことに気がついたのか、ゆっくりと体を起こした。かしかしとまぶたを頻りに擦り、それを数度繰り返す。意識が覚醒したらしい彼女は、真っ白な淡雪のような頬を上気させていた。
「…もしかして、寝ちゃってた?」
「おう。それはもう、ばっちりと。」
「寝顔、見た?」
「おう。かわいい寝顔だったぞ。」
二言、三言。短い会話を重ねると、彼女…東雲紅葉は小さく唸って小さくなってしまった。自分のあられもない姿を見られてしまったからか、じたばたと小さく布団の上であばれている。
「ところで、何の用だよ。」
祝日の、それも今は朝の七時過ぎである。普段は早起きな俺や彼女でも、さすがに土日、祝日に早起きすることは殆どない。それどころか、彼女は休みの日はゆったりと眠っているはずだった。だから余計に、今回のこの行動は意外だったのだ。
「えぇ…」
心底呆れるように声を出す彼女。それどころか、信じられない、と言うようにやれやれと首を振っており、なにか約束でもあったっけ…と思考を巡らせていくと、ふと机の上のカレンダーが目に入った。ああ、そういえば。
「誕生日か、俺と、紅葉の。」
すっかり忘れていた。そういえば、今日は二人の行きたいところを延々と巡る、という計画を立てていたように思う。
「忘れてたでしょ。」
「いや、ちゃんと覚えていたさ。」
「本当?」
「…本当。」
「…嘘つき。」
「嘘じゃない」
「それが嘘でしょ。」
…なぜバレたし。
「何年幼馴染やってると思ってるの。あ、忘れてたばつとしてお昼ごはん奢りね。」
「…りょーかい。」
たんたんとした会話を続け、着替えるから出てけ、と彼女を部屋からつまみ出す。朝飯は買い置きのパンで十分だから、と手頃な服に着替える。秋も深く、冷え込みが強くなってきていた。そういえばたしか、モールの服屋が冬物のバーゲンをやっていた筈である。最早毎年恒例となったプレゼント交換を楽しみにしながら俺は、階段を降りていった。
電車、行っちゃうよ。早くいこう。玄関でそう急かすのは、幼馴染の東雲紅葉である。スキニーにニット、赤々とした薄手のコートを羽織っている。いい服をチョイスした、とおよそ一年前の自分におよそ最大限の賛美の拍手を送りたい。臙脂色は彼女の雰囲気にうまく調和していた。
今行く、と返してから、キッチンなどの火元を確認し、窓の戸締まりをしてから玄関に向かう。玄関に腰を下ろし、彼女はショートブーツを履いている。
「いいね、その服。似合ってる。」
「そう?ありがと。」
気に入ってるんだ、これ。君は服のセンス、あるもんね。
くすりと笑って、彼女は立ち上がった。
「ほらほら、行こうよ。誕生日はもう始まってるよ。」
急かす君はどこか幼げで、しかしその姿は大人びて見えて。
「はいはい、急ぎすぎるとけがするぞ。」
急ぎすぎて躓きそうになる彼女を見て、思わずくすりと笑う。晴れ渡る空が、爽やかな風が、二人を祝うかのように撫で付けた。
いつもと何ら変わらない、きっとこれからも変わらない。
これは、奇跡的にであった二人が歩む、その軌跡の物語である。