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@ssWhiteMoth
風がごう、と音をたてて、小さな喫茶店の窓をカタカタと揺らす。今朝早くから家を出たときは晴れ間だったのにも関わらず、空はどんよりと暗い雲に覆われていた。先程まではゆったりとしていた風模様は、ほんの数分前、俺と紅葉が店に入った頃から荒れている。それがあまりにも強いものだから、俺たちはここを動かずにいた。携帯で調べてみたところ、モールの専門店街が開くのは九時頃かららしい。ならば問題はないから、と、俺と紅葉は、足りなかった食事量を補うためにピザトーストセットと小倉トーストをそれぞれ注文していた。
「お待たせしました、ピザトーストセットと小倉トーストセットです。」
店員がにこやかに微笑み、卓上に皿を並べていく。それぞれの目の前に料理が並べられ、最後に紅茶とコーヒーを置いた。
「どうぞごゆるりと」
そう言って、店員は他のテーブルの注文を受けるために小走りで駆けていった。
「ほら、食べよう。」
俺は斜め前の席でふてくされた様にファッション雑誌を読む紅葉に声を掛けた。緋色の双眸は真っ直ぐにこちらを見据え、不満をぶつけてくる。それが無言なものだから、なおのことたちが悪い。俺には彼女が不満げな理由は知らない。幼馴染の男女ではあるけれど、それこそ以心伝心だとか、ツーカーとか、そんなものとはかけ離れていると思う。彼女を 誰より知る自信はあるけれど、彼女を誰よりも理解しているとは言いがたい。まぁ、俺と彼女は違う人間なので、当然ではあるのだが。
「そんな顔しても、風は止まないと思うぞ。」
「…知ってる。」
「なら、止めろよ。」
「…うん。」
「食べようぜ。せっかくの出来立てなんだ、冷めたらもったいない。」
そう言って、がぶりと目の前のピザトーストにかぶりつく。出来立てなので、無論熱い。けれど、そんなのお構いなしである。
「…いただきます。」
俺の怒濤の食いつきに若干引いたような紅葉が、おずおずと小倉トーストを持ち上げ、口を控えめにあけてかじりつく。もぐ、もぐ、と十数回、噛みしめるように咀嚼してから飲み込み、ほうっと息を吐く。吐息と共に吐き出された「おいしい」の一言に安堵し、紅茶を少し口に含んだ。
「ね、蒼空。ピザトーストも、食べてみたい。」
少し遠慮がちに、彼女はそう言った。横目でこちらをちらちらと見てくるその仕草は、幼い頃からなんら変わっていないらしい。
「いいよ。かわりに、後で俺にもそれ、食べさせてくれ。」
うん、と答えた彼女は、微妙に緩んだ口元にトーストを運び、ふぅ、ふぅ、と息をかけた。ああ、そう言えば猫舌だったか。手持ち無沙汰になったので、と先程まで読んでいた少年誌に意識を向け、読んでいた漫画のページを探すために捲る。少年誌にありがちな、異能系バトル漫画である。単行本は買おうと思わないけれど、しかし微妙に気になる展開のその漫画を、ペラペラと捲って、ピザトーストが帰ってくるのを待つことにした。
流し読みすること数分、いまだに帰ってこないピザトーストに思いを馳せながら顔をあげると、そこには無惨な姿になり果てたピザトーストもどきが。半分ほどの大きさまで齧りとられたまではまだ良い。いや、よくはないけど許容範囲。しかし、しかし…なんと業の深い女か、東雲紅葉。二口、三口だけならばまだ許せる。しかし、まさか上の具材を全て持っていくとは、これではただのケチャップトーストではないか。
ぐったりと項垂れた俺に、え、えっと…と、小さな声が聞こえてきた。斜め前。彼女である。
「なんだよ…」
がっくりとうなだれる俺を二、三度目を泳がせながら、彼女は、こう言った。
「その…ごめん、美味しくって、止まらなかった…」
いや、それは全然構わない。でも、チーズだけじゃなくて全部食べてしまって欲しかった。そんな思いでじろりと彼女を睨み付けると、彼女は、しゅんと肩を落とした。
「いいよ、ったくもう…」
そんな風にされたら、責める気なんて消えてしまう。ああもう、なんでこんなに心地いいのだろう。
君の斜め前。この、微妙な距離感が俺は好きだ。