眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#49 それぞれの思惑

 カルサナス都市国家連合――。

 カルクサーナス、ペポ・アロ、東ガイツ、西ガイツ、ヴェネリア、大ラスタラン、オークネイス、新オークネイス、グランウィッツ、リー、フラン・クラン、そしてべバード――以上十二の都市国家からなる共同体であり、各都市国家の平均人口は約四十万人、最も多い都市国家で六十万人ほどの連合だ。

 これら各都市国家は当初、数百年前まで遡れば元々巨大な一つの国家であった。その巨大国家の崩壊によって併合と分裂を繰り返し、大議論と呼ばれる討論の末、運命を共にし協力関係を続けて身を寄せ合い合う十二の小国家で連合が構成される現在の形に落ち着いた。

 こうなったことによって今までの怨み恨みがなくなるかと言うと、そうでもない。百年前は短命な種族にとっては過去の話だが、長命種にとってはそれほど昔とも言えない。

 表面上は仲良くやっているが、皆都市国家連合内の覇権を虎視眈々と狙っている。

 

「エル=ニクス様!お久しぶりでございます!」

 一人出迎えたのは今回の主催地ベバードを治めるリ・キスタ・カベリア都市長だ。

 その才覚を認められて若くして都市長の座に就いた彼女はジルクニフと同い年であり、快活で賢く美しい娘だった。

 ジルクニフは彼女が好みの女性だったので希に連絡を取り合っていた。

「あぁ…カベリア殿。お元気なようで何よりです。」

 まるで従者のように一番に馬車からおりた元皇帝はこの後死の神とこの娘を会わせなきゃならんのかと気が重くなる。

 自分は女神に不興を買っているが、あの無垢なる女神が少しでもこの人に優しくしてくれるように心から祈った。

「私、エル=ニクス様が帝国を州へと変え魔導国に名を連ねたと聞いて、やっぱりって思っちゃいましたわ!都市としてひとつを預かり持つというのも良いものでしょう!」

 楽しげにクスクス笑うカベリアにジルクニフは全然良くないと本当のことを言いたくなるが、心臓をあの手で掴み上げられる想像が背筋を凍らせる。

「そ…そうなんです。慈悲深き神王陛下の下で、州としてある程度の自治を認めて頂きながら、時に守られうまく回っておりますよ。」

 慈悲深き神王という以外は嘘ではないのだ。

 

「素晴らしい事です!生きるということは助け合うということですもの。おじい様――いえ、祖父のリ・ベルン・カベリアも英断だったと言っておりましたわ。」

 この人は聡明だが少し世界の善性を信じすぎているところがある。齢八十にもなるべバードの古鳥とまで呼ばれた、彼女の祖父である古強者のリ・ベルン・カベリアは恐らく「死なないための英断」と評価しているだろうが、彼女は――もっと真っ直ぐな意味でその言葉を受け取っているように感じた。

 気を付けてやらねば――とジルクニフが思っていると、守護神が二人降りてきた。

「あなたがリ・キスタ・カベリア様ですね。この度はお招き頂きありがとうございます。私はナザリック守護者統括、皆様の言う所の宰相を預かり持つアルベドでございます。」

 やはりこの天使は優しく丁寧だ。

 女神と双璧を為す魔導国の最後の良心だろう。

「側近のデミウルゴスです。よろしくお願いいたします。」

 こいつはダメだ。邪悪さが溢れ出ている。

 ちらりとカベリアの様子を見るとニコニコと何も疑わない様子だった。

 できれば自分が神王やデミウルゴスと共に過ごし、女神と天使にカベリアを任せようと思った。

 一通り挨拶をすると、デミウルゴスが神々の馬車へ近付きノックしたが、中から返事はなかった。

「…少々お待ちください。」

 中が見えないように扉を開けると、するりと馬車に身を滑らせて行った。

 

「アインズ様、フラミー様、着きましてございます。」

「すまんな。フラミーさんがちょっと馬車に酔ったみたいなんだ。」

「ご、ごめんなさい…。後ろ向きで書類読んでたせいかな…。」

 フラミーはアインズに背中をさすられながら顔を青くしていた。

「な、大丈夫でございますか?ペストーニャをお呼びしましょうか。」

「い、いえ。もうよくなり始めましたから…。それに大治癒(ヒール)は自分でも使えますし…。――こんな事ってあるんだ…。」

 くらくらしているのか視線はぼんやりとし、何も捉えていないようだった。

「ふー…行けます。降ります。」

 人の身になったアインズがフラミーを抱えると目配せし、デミウルゴスは扉を開いた。

「お待たせいたしました。神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下と、フラミー様でございます。」

 

 麗しい王は美しく物憂げな女神を自分の腕に座らせるように片手で抱えて降りてきた。

 もう片方の手には金色の激しい力を感じさせる魔杖が握られている。光を反射して煌めき、迎賓館前の前庭に神話の世界を幻視させる。

「まぁ…なんて…。」

 カベリアは宗教画のような光景に口を開けた。

 あの邪悪さを知っているジルクニフすら、人の身の時の神王はもしや別人なのではと思わされるようだ。神聖な人ならざる存在は思わず頭を下げたくなるような圧倒的な気配を放っている。

「私が神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王、その人である。女神は少しばかり疲れているのでこのような格好で失礼させていただく。」

 カベリアはどうぞお気になさらずと微笑んだ。

 よく手入れされた前庭から迎賓館へ移動しながら、軽く都市国家連合について説明し、今日の予定を語られる。

 今回の舞踏会の会場はこの迎賓館の中でも最も大きい部屋が用意された。

 会場のホールの前に着くと、カベリアがジルクニフとともに先に入っていき、アルベドとデミウルゴスが一瞬こいつと入るのかと言うような顔をし合ってから扉へ進んだ。

「フラミーさん歩けます?」

「もうすっかり良いです!すみませんね、びっくりさせちゃって。」

「いえ…元気のおまじないしてあげますよ。」

 アインズはフラミーを抱えたまま顎を片手で持つとキスした。

 扉の前に立つ衛兵のような二人は割と濃厚なその接触に気まずそうにしている。

 この男は若干感覚が狂ってきていた。

 常にメイドや八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)が視界の端に映りながらフラミーとイチャつく日々に、人前だからなんとかと言う感覚は最早あまりない。

「げ…元気…でました…。」

「蕾はもういらない?」

「い、いります!」

「はは。ダメか。仕方ない、また別の作戦を考えよう。じゃ、いきますよ。」

 衛兵が扉をノックし、向こうにいるドアマンに入室を伝えた。

 

+

 

 その会には都市国家連合の全ての要職に就く者達が来ていた。

 舞踏会は単に踊るだけの会というわけでは無く、それは一つの権力闘争の場であり、縁故を強めるための場所でもある。

 都市長や上院議員といった連合の名だたる面々は、斜陽にあった竜王国を、女王と婚姻を結ぶ約束で大いに栄えさせているという魔導王なる存在にとても期待していた。

 隣接国家として仲良くしておけば、潜在的な外敵である騎馬王が攻めて来た時や、何か困った時に助けてくれるだろうし――何より、誰か一人でも娘を嫁がせることができればその都市国家は繁栄を約束されるようなものだろう。

 魔導王が娘を見初めてくれれば同じ連合に名を連ねる他の都市国家から一つ頭を抜いた存在になり、連合内での力は増し、派閥の勢力図は一気に塗り替えられる事は間違いない。

 

 楽団による演奏の響く会場には人間も亜人も関係なく数えきれない令嬢達が集まり、神秘のベールに包まれたその王の入室を今か今かと待ちわびた。

 皆が華やかな格好で集まり、穏やかな表情で談話をおこなう。天気の移り変わりや、自らの趣味などの穏やかな話から始まり――全ての乙女達は父親にアピールを頼まれている為口々に王の噂をした。

 側室でも召し上げられれば強国の王の縁者として家も国家も大いに繁栄するだろう。

「なんでも神王陛下は強大なお力をお持ちで、死を司る神でもあるそうよ。」

「神の如きお力を持つという事かしら?」

「違うわ。陛下は旧スレイン法国で祀られていた闇の神をかつて自分の代わりに地上に遣わせた程の神で、万年の時を生きると。」

「ではものすごくお年を召してらっしゃるの?」

「聞く話では人であり神であるとか。おじい様の可能性はあるわよね?」

 家のための婚姻を当たり前のものとして受け入れている彼女達は、相手が白い髭を蓄えるような年寄りだとしても構わないというような風だ。

 

「何にしても、どなたが神王陛下に見初められても私達いつまでもお友達でいたいわ。」

 姦しく話していた乙女達は一瞬黙りこくると、皆が力強く頷いた。

「魔導国へ行って寂しくなったら()に泣きつけばきっと一緒に帰って来て下さるから、いつまでもお友達でいられますわ。」

「まぁ!」

 違うでしょと笑い合う声は和やかだった。

 当然夫というのはこれから自分を嫁に貰ってくれるかもしれない神王のことだ。

「ふふ。夫に泣きつけばいいんだものね。」

「じゃあ、皆嫁いでも泣きついてたまには帰って参りましょうね!」

 乙女達の楽しげな笑い声は、都市長と元帝国皇帝の入室を知らせる声で僅かにボリュームが落とされた。

 

 ベバードの都市長と元皇帝が二人で席に向かって進む。

 薄緑色の肌で、頭に花を咲かせる美しい亜人の乙女達も噂していた。

「あの鮮血帝が国を任せたいと思うほどのお方だものね…。」

「属国まで入れると、もうこの大陸のほとんどがその手中にあるそうですわよ。」

「まぁなんと恐ろしい!うふふっ是非とも嫁ぎたいものね!」

 

 元皇帝に続いて、魔導国の貴賓の名が呼ばれた。

「宰相のアルベド様と、側近のデミウルゴス様でございます。」

 階段の上に現れた美しい天使と見たこともない亜人の男性の組は実に優雅だった。

 天使は白いドレスで、腰から生える黒い翼をスカートのように纏い、男性は紺色のタキシードに身を包んでいた。

 タキシードからは尻尾が伸びていて、軽く揺れるその動きすら洗練されている。

 

 ツルツルした滑らかな白い鱗を持つ耳の尖った亜人の乙女達はわずかに黄色い歓声を上げた。

「何て絵になるお二人なの?」

「宰相様であれでは私たち…。」

「あぁ…私はデミウルゴス様に嫁ぐのでもいいわ…。」

 男性達はアルベドの美しさを少しでも目に焼き付けようとただ黙って眺めた。

 

 乙女がうっとりと二人を見送ると、少し間が空いてから王は呼ばれた。

 

「闇の神であらせられる神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下と、光の神フラミー様のご入場です。」

 

 言葉とともに現れたのは、神々しく気品に溢れる美しき王と、この世の美と贅を凝縮したような女神だった。

 王は白いローブに身を包み、女神は黒いエンパイアドレスに美しい白いレースでできたローブを腕を通さずに肩に掛けていた。

 ローブは引き摺られる四対の翼と共に二人が進むたびに軽やかに揺れ、まるで光の痕跡を残していくようだ。

 

 全ての種族の者が圧倒的な美を前に押し黙った。人型の生き物の美醜が解らない種族のものも、その身に付ける物の美しさや、視線の動き、見事な裾捌きなどにゴクリと唾を飲む。

 楽団ですら演奏することを忘れてしまい、静寂の場と変わった会場の中を進む二人は少し目を伏せていて、その静寂こそが自分たちを迎えるに相応しいとでも言うようだ。

 二人が身を包む物で一体何年暮らせるのだろうかと誰もが思う。

 席の前につくと、女神と宰相が神王へ一瞬向けた視線に、男達がうめき声を上げた。

 それは男として誰もが憧れる視線だった。

 自分には決して向けられない、神王のみに向けられる感情をそこに感じ取り、幾人もの男が羨望に胸を抑えた。

 

「都市国家連合の方々よ、今日はお招き感謝する。楽しませていただこう。」

 

 神王の声に我に返り、楽団が曲を奏で始め、静かなざわめきが戻りだすが、殆どの者の目は壇上の席に腰掛ける四人から離れることはなかった。




次回 #50 命の芽吹き
2020.04.26 都市国家連合とカベリア都市長について原作14巻で判明したものを追記、変更しました。
ナザリック勢、どいつもこいつも優雅だな…!!

杠(ユズリハ)様から最高の絵を頂戴しました!!
R18ですm(_ _)m
https://twitter.com/dreamnemri/status/1149558343817580545?s=21

usir様から抱っこちゃんイメージを頂戴しました!!
全年齢です(゚∀゚)
https://twitter.com/dreamnemri/status/1149586470971170816?s=21
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