第264話 次元の狭間 その6
ベーオウルフ……いや、あちら側のキョウスケ・ナンブはアインストに寄生され、正常な思考を失っているが馬鹿ではなかった。脅威と考える者達を分散し、それを倒しうる力を持った同胞を敵として配置した。そして倒しても倒さなくとも隔離した空間で押し潰し確殺を目論んでいた。そして本来ならば、それは成功していたのだ。この場にラウルとエクサランスたちさえいなければ……。
「そこだぁッ!!!」
【ギ、ギッシャアアアアアアッ!?!?】
クラッシャーアームが虚空に突き刺さり、エクサランスが勢いよく半回転する事で姿を隠していたアインストがその姿を見せる。
「また隠れる前に早くッ!!」
『分かっている! 主砲てぇッ!!!』
クロガネの主砲が姿を隠していたアインストの全身を飲み込み、その身体を構成していた青紫色の装甲がエクサランスの前に落下する。
「ぜぇ……ぜぇ……」
その姿を見届けたラウルは額から滴り落ちる汗を拭い、必死に呼吸を整えようとしていたが蓄積した疲労のせいで、呼吸を整えようとしてもその呼吸がととのう事は無かった。
『大丈夫かラウル! 少し下がるか!』
『貴方が倒れたら全てが終わってしまうわ、少し休んだほうが』
ラウルが限界だと気付いたLB隊、そしてトロイエ隊のメンバーから休むように声が掛かるがラウルはいいえとその言葉を遮った。
「時間がないんです。ここで俺が休んでいたらそれこそ終わってしまうッ」
エクサランスの時流エンジンは時空間の乱れを感知していた。時空間の集束、それは別の世界に隔離されている誰かが空間に押し潰される事を意味していた。そしてこの空間に隠れているアインストを見つけることが出来るのはラウルだけであり、ラウルが休むという事はベーオウルフによって隔離されている仲間全員を見捨てる事を意味していた。
『ラウル! あと2体です! 急いでッ!』
「分かってる!」
ラージの言葉に分かっていると返事をしたラウルはエクサランスのモニターを注意深く見つめる。姿を消したアインストに戦闘能力はない、ベーオウルフが空間をコントロールする為に作り出した固体であり仮に見つけ出しても逃亡し、この時空間を維持することを優先する。ほんの僅かなセンサーの反応それを頼りにラウルは姿を隠しているアインストを探していた。
「そこだッ! 行け!」
クラッシャーアームの爪が展開し、クリスタル状のパーツからビーム砲が放たれ虚空を貫いた。
【ギィッ!】
インクが滲み出るように空間を維持しているアインストがその姿を見せる。上半身は青紫の生体装甲を身に纏ったゲシュペンストに見えるが、下半身はアインストグリートの触手が束ねられ、背部にはクノッヘンの頭部が4つ触手によって繋がれていた。
【……ッ!】
「逃がすかよッ!」
クノッヘンの目が輝きその姿が再び消えていくが、それを黙って見ているラウルではなかった。ブースターを蒸かし姿を隠そうとしていたアインストへと突進する。
「いっけえッ!!」
足の甲のブレードを展開しながら飛び蹴りで姿を隠そうとしたアインストの胸部に強烈な蹴りを叩き込む。
【ギイイッ!?】
「これで極めてやるッ!! おりゃあッ!」
頭を振り上げ頭部のブレードでアインストを切り裂き、上空に跳ね上げると共にエクサランスは胸部の装甲を展開する。
「チェストスマッシャーッ!!!」
対アインスト、インベーダー用に調整された特殊なビームがアインストのバリアを突き破りアインストを消滅させる。
「残り1ッ! どこだッ! どこにいるッ!!」
クロガネとラウル達が隔離されている空間は決して広くはない、だが最後の1体の反応がどうしても見つけられないラウルは強い焦りを覚える。
(反応がない、だけどどこかにいる……どこだ、どこに……ッ! っそうかッ!)
姿を隠し異空間を作り出すアインストの反応は微弱だ。移動しなければエクサランスでも感知は出来ない、だが動いても見つけ出すことが出来ないポイントが存在する。
『どうした!? 何をするつもりだラウルッ!?』
「最後の一体はクロガネだッ! チェストスマッシャーッ!!」
クロガネに向かってチェストスマッシャーが放たれ、クロガネの艦首をチェストスマッシャーが掠めた次の瞬間浮かび出るようにアインストが姿を見せた。
『なっ!?』
「やっぱりなッ!」
クロガネはゲッター線で稼働している。ゲッター線の膨大なエネルギーは逃げを打っているアインストを覆い隠すには十分だった。寄生する訳でもない、空間を維持するためだけにこのアインストはクロガネに組み付いていたのだ。
「これで終わりだッ!! クラッシャー……アアァァムッ!!!」
【!?!?】
残りのエネルギーをつぎ込んで加速したエクサランス・ストライカーフレームのクラッシャーアームがクロガネからはなれて逃げようとしていたアインストを背部から貫きそのコアを打ち砕き、それと同時にクロガネのブリッジが外部の通信を傍受した。
『信じろッ! 我々の仲間は必ず生きているッ! 疑うな、信じ続けろッ! 進むんだッ!』
「リーッ!? リーが近くまで来ているのか!?」
それは地球に残っていたリーの味方を激励する力強い鼓舞の叫びなのだった……。
宇宙の闇の中に無数の光の花が咲き、凄まじい振動がハガネの艦首モジュールに換装したシロガネを大きく揺らす。
「ペレグリン級4番艦から8番艦およびグレイストーク3番から伝達! 我操舵不能、我操舵不能! この場に残りアインストとインベーダーを食い止める」
オペレーターの報告にリーは顔を歪めた。この場に残る、それは残ると宣言した5隻の舟の轟沈を意味していた。
「……武勲を祈ると返信してくれッ!」
「りょ、了解ッ!」
誰もがそれを理解していた、だが考え直せとも止まれとも、助けに行くとも言えなかった。残ると死を覚悟した仲間の英断を、自分の命を引き換えに自分達を前に進ませることを選んだ仲間の意思を無碍にすることは出来なかった。SRアルタードを輸送しているシロガネ、そしてそのシロガネを護衛している連邦軍、元統合軍、元ノイエDC、そしてビアン派の軍人達……その全てがシロガネを前に進ませる為の捨て駒として志願した者達だった。
「……ペレグリン級……全機……轟沈……ッ」
「ッ! ……彼らの思いを無駄にするなッ! 進め! 我々に退路はないッ!!」
轟沈したペレグリン級から零れる光は翡翠色の輝きに満たされていた。それは武装を使い切ると同時に自爆する為にテスラ研から運び込まれていた。ゲッター炉心として起動することは出来なくとも戦艦級の動力の爆発に巻き込めばそれはゲッター線の爆弾と同意儀だった。
「しかし、艦長。クロガネの反応は」
「疑うなッ! 信じろッ! 我々の仲間は必ず生きているッ! 疑うな、信じ続けろッ! 進むんだッ!」
クロガネの反応はもう何分も確認されていない、だがそれでも生きている、必ず今も戦い続けている。それを信じてリー達には前に進むしかないのだ。その為に何百人も死んだ、ホワイトスターを埋め尽くすインベーダーとアインストが地球に降下するのを防ぐ為に決して戻る事の出来ない戦いに身を投じたのだ。それを嘆き悲しみ足を止める事はこの場にいる者には許されていない、それは命を掛けた仲間達への侮辱に他ならないからだ。
「アインスト、インベーダー数……な、700ッ!?」
「ッ!! それほどまでに増殖しているのか!?」
視界を埋めつくすインベーダー、アインストの群れ、壁のように何重にも立ち塞がる地球を自分達の住処とする為に地球へと向かう醜悪な化物の群れに流石のリーも顔を一瞬歪めるがすぐに指示を飛ばす。
「全砲門開けッ! 各艦へ通達! 我に続けッ!」
残された艦隊は10にも満たず、各艦に搭載されているPTやAMはその殆どが最早旧式となったフライトアーマー装備のゲシュペンスト・MK-Ⅱにガーリオン、そして僅かなゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲのみ。アインストとインベーダーだらけの宙域にそれだけの戦力で来たのは理由があった。テスラ研で幾つも建造されたプロトタイプのゲッター炉心による自爆によりシロガネの道を作る。それだけの為に彼らはここに来たのだ。かつてオペレーションSRWでハガネの道を作る為に死んでいた者達と同じ様に……。
『シロガネを前へ進ませろ! それが我々の役目だッ!』
『覚悟は決めて来た! 希望を託す相手もいる! 恐れることは何もないッ!』
『後は頼みますよ、リー中佐。SRXチームにアルタードをッ!』
ゲッター合金、そして出力が弱くともゲッター炉心はシロガネを無視して後方の艦隊へとアインストとインベーダーが殺到する。
「……忘れん、私は忘れんぞ……この場で散っていた……全てを私は忘れんぞッ」
背後で繰り返される爆発は全て志を共にする仲間達の命が散っていく音だ。それに後髪を引かれても、リー達シロガネクルーには前に進む以外の道はなかった。だがシロガネの進む先には凄まじい数のインベーダーとアインストが待ち構えているのだった……。
L5宙域へ向かうシロガネの反応をL5宙域付近で戦いの顛末を見ていた風蘭達が感知していた。
「龍王鬼様」
「んん? なんだあ?」
「シロガネです。L5宙域に向かっているようですが……いかがしますか?」
クロガネがアインストの空間に引きずりこまれていたのは龍王鬼達も知っていた。そしてシロガネがL5宙域に今向かってもそこにいるアインストとインベーダーによって轟沈されるのは目に見えていた。だがそれはシロガネを守る物がいなかった場合だ。
「行くか」
仲間の死を乗り越え、勇敢な魂を持つ者の戦いを見ていた龍王鬼は本来は敵である筈のシロガネを守る為に立ち上がった。
「あら? 行くの?」
「おう。暇だしよ、それに仲間を信じて絶望的な場所に向かうっていう心意気が気に入ったッ!」
シロガネがL5……いやホワイトスターへ向かうのは仲間を救うためだ。その為に絶望的な戦いへ挑むリー達は龍王鬼は琴線を強く刺激し、傍観者となっていた龍王鬼を動かした。そして動き出す者は龍王鬼達だけではなかった。
「ここ……は、俺は……何故……生きて……」
白く清潔感に溢れた部屋に困惑した男の声が響いた。自分は死んだのに、生きている事に混乱する男の下へ1人の女性が訪れた。
「起きたのですね。ウォーダン」
「メイガ……いや、ソフィア・ネート……お前が俺を生かしたのか……」
ゼンガーとの戦いに敗れ、そしてゼンガーの進む道を作る為に散った筈のウォーダンは自分にしか見えない翡翠の部屋に満たされた部屋の中でソフィアと顔を合わせるのだった……。
第265話 次元の狭間 その7へ続く
今回は少し別のサイドでの話を書いて見ました。キョウスケ達が亜空間で戦う中、外と中ではこんな戦いがあったのだというところですね。ウォーダン蘇生はゲッターポイントが高かったのでエンペラー様の仕業となっておりますのであしからず、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い