好き嫌いは分かれると思います
少女は暗い部屋の中、いつもの夢を見ていた。
「 」
声が聞こえた。
遠く
遠く
よんでいるような声が聞こえた
届かない
音に触れることはできずそれでもそれに触れようと手を伸ばす
呼ばれていたのか
呼ばれていてほしかったのか
けれどやはりそれに届くことはなく、そのまま遠くへといってしまった
「ああ」
息が洩れる
どれだけ叫んでもそれは言葉になることはない
真空の中を叫ぶように音にはならず、伝わることはなく、届くことはない。
体の力が抜ける。
四肢が崩れ落ちる。
震えるほど寒く、しかし臓腑を焼かれるような熱が入ってくる
動かない
動かない
動かない
動かない
感覚はない
麻酔でも打ったように動くことも感じることもない
痛みはなくまるで動かしていた糸を切られたような
最初から自分のものではなかったような
自分の体はすでに誰かの物へと渡ったようにただの人形のよう
煙のような焼け据えた匂い
動くことはできず
叫ぶことは叶わず
そこにただあるのみ
「 」
それでもまだ叫んでいた
自分の言葉すら耳に届く音はない
何を叫んでいるのか
何を叫んでいたのか
其れすらも分からない
ただ
喉が枯れるほど
声が失せて尚
まだ何かが叫んでいる
叫ばずにはいられない何かがいる
もうないなにかが
そんな気がした。
「リツカっ」
耳元で叫ばれた。
「うううぇっへ、ってぇ」
飛び上がって起きる。勢いよく起きるとベッドのはしでしたたかに手を打ち付けた。
「気をつけなさいよ。それじゃ、お母さんもう出るから、あんた出る前お兄ちゃん起こしといてね」
「あれ、まだ六時前じゃん」
「昨日の夜に今日は母さんは早くいくって言ってたでしょ」
「そうだっけ」
「そうよ、じゃ後のことはよろしく」
「へいへい」
部屋を出ていく の姿を目をこすりながら眺めた。
小さな欠伸をする。
目がすでにさえてしまったらしく、再び寝ようにも落ち着きが悪い。
寝跡のついた腕を書きながら起き上がると、いつもの部屋が見える。
教科書と漫画と雑誌の詰まった本棚と小物の入っているカラーボックス、机の上には何やら無数の紙の束が奇妙なバランスで山のように積まれ本来の役目を成そうとはしていない。部屋の中央に置かれた小さなテーブルの上には携帯の充電器やお菓子の空き箱と昨日買ったカプセルトイの殻が置きっぱなしになっている。
「しまった。蟻は、たかって、はないな」
お菓子の空き箱を手に部屋を出た。一階へとつながる階段を下りる。微かな軋む音とお菓子のビニールがこすれ鳴る音が聞こえた。
一階、リビングへとつながる扉を開けるといつもの部屋が広がっている。朝のキャスターが何やら昨日会った事故だかなんだかのニュースを読んでいた。
「じゃあ、朝ごはん作っといたから、お兄ちゃん起こしてあんたたち二人で食べなさい。それとお母さん、今日は帰り遅くなるから」
「なんでぇ」
「寝ぼけてんじゃないの、今日お父さん帰ってくるでしょ、仕事終わったら空港まで迎えに行ってくるから」
「そうだったっけ」
「そうだったっけじゃないわよ。それじゃお母さんもう行くから、戸締りして出なさいよ」
「へいへい、いってらっさーい」
「いってきます」
インスタントコーヒーを飲みながら を送り出す。
砂糖を入れようとする、けれどどうやらスティックシュガーは品切れらしく、仕方なく台所から上白糖を取り出し二杯ほど入れた。
「あっま」
それでも飲み切ると小さくあくびを噛み殺し、テーブルの上に置いてあるハエ除けネットを開ける。オムレツというよりも卵焼きといえるそれ、ウィンナーと二本の野菜ジュースが置かれていた。
「牛乳牛乳」
元々はクッキーの入れ物だった缶の中から大きなグラノーラの袋を取り出す。ざらざらと二つのさらに取り出すと残り少ない牛乳を注ぐ。片方に入れ、もう片方に半ばまで入れたところで牛乳が尽きてしまった。買い置きはない。仕方なく多いほうを引き寄せ、少ないほうを少しばかり水で薄めた。
お湯が沸いた音がする
冷蔵庫から取り出した二つの味噌玉をお椀に落とし、お湯をかけた。いつものうちのみそ汁の匂いがする。
「起きろー朝飯だぞー」
部屋から二階へと向かってそう呼びかけるも物音一つ聞こえない。
「あれが院生とは世も末かねぇ」
仕方なく二階へと上がると階段突き当りの部屋をノックすることもなく開ける。ようやく上ってきた朝日を入れるようにカーテンを開け放つ。明るくなった部屋の中、きれいに整理整頓されたその部屋と自分の部屋との差は歴然だった。
「起きろっつってんだろうが阿呆」
「あと五分、あと五分」
「寝るのはいいけど起こしてやんないよ」
「久しぶりに帰って来たんだから少しくらい丁寧に扱ってくれてもよかろうて」
「超丁寧じゃん、わざわざ妹が起こしに来てくれてるってだけでもうお金取れるレベル、小遣いくれ」
「あっちに置いてた漫画勝手に読んでいいからもう少し寝かせろ、妹アラームよ」
「朝ごはんできたっつってんだろうが」
「グラノーラはひたひたにする派なの」
「あっ、そういえば、小橋さんから大学で停電あったって」
「えっ」
その一言に彼は枕を抱えたまま飛び起きた。彼はそのまま数秒フリーズし、こちらを向くと小さく舌打ちをし持っていた枕を投げつけてきた。
「め、覚めた」
「肝が冷えた」
あくびをしながら彼は眠そうに問いかけてきた
「帰りに俺がケーキ買ってくるけどリクエストはなにかあるか」
「なんでケーキ、甘いものにがてじゃなかったっけ」
「なんでってそりゃ、今日は
「あれ、今日は戦闘訓練の日じゃなかったっけ」
その声に飛び起きる。
「なんだJBじゃん、びっくりさせないでよ」
寝転がった逆さの視界には人懐っこそうな顔をした黒人の青年の姿があった。手には二つほどのコンテナを抱えている。
「なんだとは何だよ、寝るなら仮眠室使うか自室まで戻れよすぐそこなんだから、寝るにしてもせめて毛布くらい着ろよ。風邪ひくぞ。今日も外吹雪いてんだから」
「ママぁ」
「誰がお前のママだ」
「閉鎖空間でインフルどころか風邪すらひかない状態なのに風邪をひく心配をしてくれるJBママぁ」
「細かく説明するな、せっかく人の好意で言ってやってんのに、人の気遣いを分かれよ。和を以て貴しとなす日本人だろうが」
「国際化の時代にもう出身国にこだわるのとかもうナンセンスだよね」
「これはカレーじゃないって言ったハリシャとガチの殴り合いをしたのはどこの誰だったかな」
「なに、カレーを馬鹿にするの、許されないよ、教育しようか」
「やめろやめろ、目が怖い怖い、その怪しい魔本をしまえよ、なんでそんな大辞典がポケットに入ってるんだよ。まったくカレーに関しては冗談が通じないんだから」
彼はそういうと手にもっていたコンテナから茶の入ったペットボトルと小さな羊羹を一本渡してくると私の座っていた椅子の横に腰を下ろす。
「ロマニはまたこんなの隠し持ってたのか、糖尿になるぞ。」
「あんまりお菓子食べ過ぎるなよ。夕飯とかいろいろ入らなくなっても知らんぞ」
「なに、なんか今日デザートでも出るの」
「あ、あぁ冷凍ミカンが出る。それにしてもこんなところでさぼってていいのか」
彼は少しうろたえるとあからさまに話を反らす。じっと見つめても、それ以上のことは出てこない変に頑固な彼に仕方なく、聞き流すだけにしておいた。
「今は休憩時間だよ、レオニダス先生とマシュはヒートアップしてるみたいだけど、一般人にはつらいのさ、そっちは」
「俺も似たようなものさ、第五特異点へのレイシフトの準備やらなんやらかんやらまだしばらくは時間がかかるからお前の出番はまだ随分先だよ」
「それはそれでまだこの戦闘訓練とロードエルメロイの魔術講義が随分続くわけでしょ、なんて言うか複雑な気分」
「お前はそうかもしれないけどロードから直々に講義してもらえるなんてすごいことなんだぜ。俺なんてまだ魔術師になって浅い家系だから時計塔から仕方なしにここに来たけどこんなところでロードの講義が受けられるんだからそういった意味では僥倖なんだぞ」
「ただゲーム好きな偏屈な人にも見えるけどねぇ」
「まぁ確かにロードエルメロイはそういった意味でも少し特異らしくてな。魔術師自体の格は高くはないらしいのだがその分彼の教室からは杯術された生徒はみんなブランド以上になるとか言われているんだ」
「分かりやすく言うと」
「卒業生みんなベンチャー社長、その上東証一部上場」
「なにそれ怖い」
「それよりもやばいっていわれているのがな、卒業生がみんなロードのことを狙っているらしいってことだ」
「それはポストをってこと」
「いいや貞操」
「JB、お前はいいやつだったよ、お前がどうあっても私たちは友達だからな」
「違うって俺じゃねぇよ。でもそれもあながち間違いじゃなくてな、卒業生は男女問わず彼の貞操を狙っている。時計塔抱かれたいロード11年連続一位、彼が一言命じれば弟子たちによって勢力図は簡単に変わる、ないすばでーな内弟子をかこっているなどなどうわさが絶えんのだ」
得意げに語る彼へと向けるのは疑いの視線。
「事実、カルデアス担当のメリッサ室長とか、技術部のアンリエッタさんとかもエルメロイ教室の出身でな。ロードとしゃべるときは声が1オクターブくらい高くなるだろう」
「言われてみれば確かに」
「ロードは座に記録されたわけでもないから何とも言えないし、この世界のロードエルメロイとは言えないのかもしれないが、世界の窮地に現れた愛した男、何ともロマンチックじゃないの」
「人の好みにどうこういうつもりはないけど、くたびれたゲーム廃人にも見えるけどねえl」
「さらにはロードは義妹にまで手を出したといううわさもあってな」
「なにそれ詳しく」
身を乗り出してそう言おうとして体が宙に浮かぶ感覚を得た。
「サーヴァントをこの身におろすとはなかなかに度し難い経験だとは思っていたが、こういうろくでもないででばがめを簡単に拘束できるのは益と考えるべきかな」
聞こえてきたのは耳馴染みのある疲れたような声。そして新たな視界に映るのはすでにぼこぼこにされた友人の姿。
「メリッサ、アンリエッタ、そちらの少年は任せてもいいだろうか」
「もちろんですわロード、この仕事をさぼっていった阿呆にはいろいろと教えてあげなければいけませんので」
最後に見た友人の顔は大きく膨れ心なしか笑っているようにも見えた
「生きて帰って来いよ」
「果たして彼の心配をしている場合だろうかな」
羊羹の最後の一口は少ししょっぱかった。
「リツカ」
肩を大きく揺さぶられた。
「おうっ、しまった寝てたか」
「一限だしね」
「本当に一限に必修持ってくるなよ」
あたりに固まって座っていた友人たちが声をかけてくる。時計を確認すればちょうど一限の終了の時間、大講義室からは学生が三々五々散っていく。
「どうするリツカ、早いけど学食にでも行ってみる」
「朝ごはん食べてないからなんか食べたい」
「じゃあ学食でいいか」
彼女たちとともに教室を出る。秋めいた学内を歩く。
「そういえば三限なんだっけ」
「哲学」
「さえちゃん、頼むレポート見せて」
「この前代返してくれたし、まぁいいよ」
ショートカットの彼女は資料をまとめたファイルを渡してくれた。
「それで結局、代返したときのデートは上手くいったので」
「その顔がなんか親父臭いから言いたくない」
「横暴だー、圧政だー。代返に協力したのだからその結果くらい聞いて面白おかしく話題にするくらい許されてしかるべきだー」
「何がしかるべきよ阿呆、普通にごはんをおごられてきただけよ。食事をおごってくれるのならちょうどいいじゃない」
「哀れなるメッシーに黙とうをささげよう」
「私よりあんたのほうがどうなのよ。化粧っ気もない癖に整ってるからもう腹立たしいったりゃありゃしない。なんでこんな肌プルンプルンなのよ」
「牛乳石鹸のおかげさ」
「こ憎たらしいこの阿呆は」
「男より仕事って感じだもんね、リツカは」
「それは褒められていると取っていいのかい」
「褒めてる褒めてる半分褒めてるよ」
彼女の言葉はけなしているというよりもあきれているそんな風だった。
「高校と中学までは分かるけどこいつ小学校教諭の免許まで取ろうとしてるし。もう何がしたいのよ、先生か」
「そんなんなら教育学部行けばいいのに」
彼女たちの視線を受けながらなれた風に言った。
「どうせ取れるならちょうどいいじゃん授業料は変わらないんだから多く単位とか資格とかとったほうがお得じゃない」
彼女たちのため息が聞こえる。
「なんというかあんた観てると頭がいいと馬鹿って両立するんだってよく分かるわ」
「確かに天は二物を与えなかったんだねぇ」
「なにヨその言い方、それじゃまるであたしが賢いって言われてるみたいじゃない。もっと褒め称えるといい。社くらい作ってくれたら年に一個くらいミルキーを下賜しよう、菓子だけに」
彼女たちのまたしてものため息を聞きながたどり着いた学食にはまだ人は少なかった。
「じゃあ先にテーブル言ってるから」
彼女たちの声を背に受け見慣れた券売機の前に立つ。
「そういえばリツカ、今日の夜大丈夫でしょうね」
「まきちんの家で鍋でしょ、キムチとトマトがいいな」
「二つも作らんわい、ちゃんと来なさいよ、いろいろと準備が無駄になるんだから、絶対来なさいよ、来ないと折る」
「どこをっ」
350円から揚げ定食のボタンをいつものように押した。
窓の外は暗い
虚数の海には何の光が浮かぶこともなく、ただ誰もいないように、暗い。
毛布を手繰り寄せる。
最低限の空調が効いた部屋。
夏も冬もなく、そして朝も夜もない船の中。
さして寒くも、熱くもない。
最低限の装備を外した黒いインナーだけの体に巻き付けるように毛布をかぶる。
寒くはない。
けれどまるで冬の外のように息をする。
音が聞こえる。
簡素なベッドから聞こえるのはこの船のエンジン音だろう。今私たちの命をつないでいてくれているこの船の鼓動。振動の音と船体の軋み上げる音が代わりに耳鳴りを受けてくれる。
耐えることのないその叫びを打ち消すように鳴る。
漏れ聞こえるのは自分の吐息、小さく、そして意図することのない小さな吐息。搾り上げられたような小さな音が聞こえる。
声が聞こえる
『どうして』
きこえない
『どうして』
聞こえない
『どうして』
聞きたくない
『どうして』
聞いていたくない
声はやまない。
ただその言葉だけが頭の中を反響していく。
耳を塞いでも聞こえるその声は、暗い部屋の中によく響く。鉄の箱の中を跳ね返り、響き、揺らし、崩していく。
だんだんと大きくなるその声。
その声をかき消していたはずの振動は聞こえなくなっていた。
暗い部屋の中に音はなく、ただその声だけが響いていく。
ただその声だけが聞こえる。
『どうして』
どうしようもなかった
『どうして』
そうするしかなかった
『どうして』
何もできなかった
『何もできなかったのにどうしてあなたがそこにいる』
私以外には誰もいなかった
『なぜおまえだけが生き残った』
運がよかった
『運が良ければ、奪ってもいいのか』
みんなあの爆発で焼けてしまった、誰もいなかった。仕方なかった
『仕方なければ、他の全ては優先されるのか』
なら何でみんな生き残ってくれなかった
『これまでの力も、能力も、成績も、信念も、矜持も、願いも、意思も、夢も』
そして命も
『お前じゃなければもっとうまくやれた』
そんなのは誰よりわかってる
『お前がいなければ、もっと上手く人理修復ができていた。もっと被害も少なく、もっと早く、誰もいなくなることなんてなかった』
それでも人理を修復した、世界を救った。
『その結果がこれか』
うるさい
『地表は漂白された、人類史は消え去った、新たな敵が飛来した、カルデアを失った、そして』
みんな死んだ
『お母さんも
お父さんも
兄ちゃんも
ばあちゃんも
雪も
さえちゃんも
健司君も
みっちーも
島さんも
田山先生も
西先輩も
こうちゃんも
吉岡も
さとしも
千秋ちゃんも
桜も
茉奈も
花美も
ダストンさんも
キークも
JBも
アナンダも
チョウも
ラティファも
チョンヒも
ペトロさんも
マリーダちゃんも
鮮宇も
トットも
ノエルも
アマンダも
ベンテおじさんも
翔も
エルモさんも
フェリベールも
ロランも
メリッサさんも
アンリエッタさんも
慶一さんも
オスカルも
雨桐も
みんな、みんな死んだ』
みんな死んだ。
『
マックスはようやく帰れるって言ってた
ララはこれで生まれた子の顔見れるって
ジョンソンは嫁さんと同い年だったのに俺のほうが老けちゃったって苦い顔してて
いい加減帰ってやらないとアレルギーで彼氏が死んじゃうってハリシャはのろけて
セルゲイさんは滅んでいた世界が戻ったんだから、多少カルデアに残されてもまだ待てるって
家のベランダを作りかけ出来ちゃったから嫁が怒ってるんだっておびえながらジュニアは笑った
ダヴィンチちゃんとかから推薦貰えて今度からまた時計塔で勉強できるってネルソン坊は意気込んでた
デレーロは家に帰っていい加減お母さんのグラタンが食べたいんだって
キーシャなんてもう二度と来るかって言いながら仕事は終わりまでするってツンデレみたいだった
ロウはいい経験になったって笑ってた。
ミランダ姐とキケロさんは二人で帰って結婚するって、結婚式では友人代表スピーチしてくれって
キキはこれで故郷に戻って自分の研究ができるって、ようやくお金がたまったんだって誇らしげで
ブラックさん、もう二度とこんなこと起こさないぞってまだカルデアスの調整してて
シウパはいい加減アラサーになっちゃったから婚活しなきゃって
ウェスタリアさんは世界平和を解決したんだからこれで家督が継げる拍が付いたって
ジフンは楽しみにしてたゲームがようやく発売されるって
言ってた
カルデアが解体されたあとにまた会おうって言ってた。
連絡先もみんなの教えてもらって、
そこの国行っても案内してやるって
おいしいもの食べさせてやるって
家族を紹介したいんだって
私たちは旅をしたんだぞって
過去をさかのぼって
伝説と英雄と出会って戦って
そして
こいつと世界を救ったんだぞっていうんだって』
みんな言ってたんだよ
『願いのために戦って、祈りのために駆け抜けて、そして明日のために生き残った』
じゃあ
『なんでみんなは死んだ』
『カルデアの中で、仲間たちだったクリプターの手で、無残に死んだ』
『なんで血にまみれて死んだ』
『なんで苦しみながら死んだ』
『なんで助けられなかった』
『なんで救えなかった』
『なんで無力なお前が生き残った』
『なんでお前が死ななかった』
『何のためにあの人は消えた』
『何のためにあの人はいなくなった』
『みんなを死なせるために行ったのか、苦痛の中で事切れさせるために消えたのか』
『そのためにあの人は、自分を消してでも守ろうとした』
『その結末がこれだ』
『お前じゃなければよかった』
『お前が生き残ったことが間違いだった』
『お前があの人を無駄にした』
お前がロマニを殺した
『死ねよ 私』
シャドウボーダーに朝日はなくただ時計が朝を知らせるだけ。
換気することもできないシャドウボーダーの中、生き、そして腐ったような人間の匂いがした。
少女は暗い部屋の中、いつもの夢を見ていた。
「おなかへったな」