大安吉日一粒万倍日、お日柄も良いハレの日に遠くは南極、カルデアまでやってまいりました。
人理の最前線とはいえ、週休二日制の土曜日、のんべんだらりとオヤスミを満喫する女の子がいました。最初は初めて出会うことばかりで教えて貰うこともたくさん、先輩やマスターたちに頼りっぱなしでしたがカルデアに来てもう三年、後輩たちも多く増えて彼女もいっぱしのお姉さん、最近では新しく来た衛星の男の子を連れてお姉さん風をビューびゅふかせている沖田オルタちゃんです。
仲良しの煉獄くんと一緒に出かけることもしばしば。今日も茶々さんのお手伝いです。
「よし、それじゃあ伯母上も夕方には戻ってこられそうだし、沖田ちゃんは晩御飯は何が食べたい」
「今日はおでんがいい、がんもどきがいい。あのぼそぼそりがいい」
「それをいうなら今日は、じゃなくて、今日も、でしょう。もう仕方ないなぁ。じゃあ今日もお茶々が腕によりをかけて作って進ぜよう」
「うれしい、うれしみ」
嬉しさでアホ毛まで揺れています。一番好きなおでん、それが食べられると聞いて上機嫌です。
「あれ、しまったっ」
そこで茶々さんの悲鳴が響き渡ります。
「どうかしたのかっ」
「沖田ちゃんたいへん、昨日の敦盛パーティーのせいで今日のおでんに入れる具材がないっ」
開けた冷蔵庫の中身は空っぽ、昨日の信長さんたちの宴会のせいで冷蔵庫の中身はすっからかん、こんにゃく一つ残っていません。
「昨日ののっぶが貰ってきた油揚げは残ってないのか」
「もう全部いなり寿司になってたべちゃった」
「そうか、かなしみ」
「じゃあ茶々はおでんの出汁をとらなきゃいけないから沖田ちゃん、代わりにお使いに行ってきてくれない」
「承った、煉獄行こうか」
いつも一緒に出掛ける煉獄君に声をかける沖田ちゃん、こうなることは予想済みです。
「あ、煉獄ちゃんはおでんに入れる昆布を結んでくれないかな」
おでんに入れる結び昆布、カルデアという大所帯ではその仕込みだけで一苦労、そのお手伝いをしなければいけない煉獄君は今日は一緒には行けません。
「じゃあ以蔵は」
「昨日の二日酔いでまだトイレからかえってきてない」
「じゃあ待っていよう」
言葉にはしませんが一人では行きたくない、そう聞こえるようです。梃子でも動かなそうな沖田ちゃんに茶々さんは投げかけます。
「でもそれだと味が染みる時間が無くなっちゃうよ」
おいしいおでんは食べたい、でも一人で行くのは嫌、沖田ちゃんの心が揺れます。
「じゃあ、沖田ちゃんにはお茶々特製お守りを進呈しよう」
茶々さんはこんな事態も予測済み。ここで茶々さん特製、沖田ちゃんの大好きなおでん型の大きなぬいぐるみのお守り、具材は上から三角こんにゃく、丸形大根、四角い油揚げ。もちろん中にはマイクが入っています。
「沖田ちゃん、これでおつかい行ける」
大好きなおでんのぬいぐるみお守り、首からかけて貰った沖田ちゃんはすっかり上機嫌です。
「お使い、いく」
「ありがとう、沖田ちゃんのおかげで茶々すっごい助かる」
もちろん、褒めることも忘れません。
「それじゃあ、一つ目に、パラぴーのところからこんにゃくを一つ、普通のやつって言わなきゃダメ」
よくいくパラケルスス先生の工房、いつもお散歩で横を行っているから場所は間違いません。
「おでんの具材で一番大事な大根を藤太農園から一本貰ってきて」
「大根」
おでんに欠かせない大根、知り合いの藤太お兄さんも顔なじみです。
「あと最後に厚揚げを二枚」
「厚揚げ」
そんなにいっぱい覚えられるかな、既に困り顔の沖田ちゃん。でも茶々さんに抜かりはありません
「分からなくなったらお守りの順番って覚えればいいかも」
茶々さんは両手を頭の上に広げて狐のよう。沖田ちゃんもつられて真似をします。
「上からこんにゃく、大根、厚揚げこんこん」
「こんにゃく、大根、厚揚げこんこん」
念仏の様に沖田ちゃんは繰り返します。
「行ける」
大きく頷きました。
「いってきます」
ソドレミ、ソドレミ、ソソソドレミ
みんなに秘密のお使いなのさ
どこにも行けるのね
カモン! ネバギバ!
「なんだね、このどこかで聞いたような音楽は」
「シッ、うるさい、気づかれたらどうするのですかっ」
歩き始めた沖田ちゃんの後ろ五十メートル、何やら言い争う老夫婦に変装した二人。手押し車に似せたカメラとマイクを沖田ちゃんはにバレてはいけません。
「わざわざシミュレーターまでつかって一体何がお使いなのだ。そして何故私が老婆なのだ、逆ではないか」
おばあさんの格好をした新所長が手押し車に手を着いたままぼやきます。けれど大声をあげないその様、おばあさんはいつものように空気を読んでいます。
「初めてのお使いなんて一生に一度ですよっ一大イベントにしなくてどうしますか」
帽子の中に潜ませたカメラからも沖田ちゃんを逃すまいとするおじいさん姿のマスター、流石おきたちゃんの鼻歌もばっちり取れています。
「確かに思い出を残すのは大切なことだが一応いま白紙化中なのよ、流石に町一つ作ってまでのイベントって、もう少し小ぶりに出来んものか」
「姿形は大人でもまだ生まれたばっかりみたいなサーヴァントも多いからのう、こういうイベントは大切なんじゃなぁ婆さん」
「これ付き合わなきゃいけないの私。必要かね、あそこに髭にサングラスに変装した東方の弓兵、梁山泊の侠客とかいるんだけど」
子供は日に日に大きくなるもの、目を離すことは出来ません。
「そしてなにこの謎のナレーション、怖いんだけど、どこから聞こえるの、だれなのこれ」
この番組はオヤスミからオハヨウまでを見守る巌窟王、目の付け所がシープだねシープとゴランノスポンサーの提供でお送りします。
「誰かあの夢魔から千里眼を取り上げてくれないだろうか、あと巌窟王も何を巻き込まれているのだ、貴方まで止まらなくなったら誰があの阿呆を止めるというのかねっ」
「うだうだ言ってないでホラはやく行きますのじゃ、もう沖田ちゃんが言ってしまいそうじゃ」
おじいさんに引きずられるおばあさんの前方百メートル、沖田ちゃんはもう初めのお店についています。
「ごめんください」
「おや、魔神沖田総司さん、これはこれはいらっしゃいませ、今日は一人ですか」
「うん、お使いなんだ」
胸を張る沖田ちゃんにパラケルススさんも笑い返します。
「それで今日は何をお求めですか。今なら出来立てのホムンクルスもありますよ」
店の奥でうぞうぞと動き始めた白い塊が見えます。おもしろそうなそれに沖田ちゃんも興味津々。
「いいやあれはどちらかといえば正気度が削れるタイプではないか」
「キモカワといえなくもないのじゃ」
「どちらかといえば肝と皮だがな」
後ろの二人には目もくれず沖田ちゃんは首を振ります。
「普通のこんにゃくを一つくださいな」
「おお、分かりましたではこちらを」
沖田ちゃん、お竜さんからもらった蛙のがま口からお金を取り出してお釣りをもらいます。つつんでもらったこんにゃくは茶々さんから借りた籐の籠の中へとしっかりと修めます。
「案外普通の買い物ではないか、わざわざここまでする必要はあったのか」
順調な滑り出し、でも待ちにはいろんな誘惑も待っているものです。
「そうですじゃ、台本はないけれどもだからこそのドラマが生まれることもあるのじゃ、もちろんトラブルもな」
「もはや何役なんだ、お前は」
パラケルススのお店から橋を渡ってすぐ、広がっているのは藤太さんの畑です。そのすぐ隣の小さなお店が直売所、お米やお野菜、お豆腐も売っています。
「おお、沖田の小さいほうか、今日はお使いか」
「うん」
声の大きな藤太お兄さん、いつものように大きな声で沖田ちゃんに話しかけます。
「今日は何を買いに来た、おお、丁度がんもどきも揚げたてだぞ」
「がんもどきっをみっつほしい」
いつもならば茶々さんに止められるところ、けれど今日は茶々さんはいません。元気のいい沖田ちゃんに藤太さんは大きく笑いながら大きいがんもどきを詰めてくれます。
「ほら、王道の買い間違いですよ、自分の好きなものを買ってしまって本当に買いに来たものを忘れてしまう。手に汗握りますね」
「気持ちは分かるがなぁ」
店を飛び出していった沖田ちゃん一目散に家へと向かいます。
「沖田ちゃん、もう買って来たの」
「茶々様、いいがんもどきがある、おでんに入れてほしい」
「沖田ちゃん、今日はがんもどきは頼んでないってばっ」
茶々さんの言葉に沖田ちゃんは思い出したように籠を落としてしまいます。
「でもこれじゃあ、おでんは作れないかもっ」
「こ、こんにゃくはあるぞ」
「沖田ちゃん、こんにゃくとがんもどきだけのおでんでいいの」
沖田ちゃん大きく首を振ります。
「じゃあ、もう一回おつかいいってきてくれる」
首を立てには振りません。今行って来たもん、もう一回一人では嫌、顔がそう言っています。今度は部屋の隅で座り込んで小さくなってしまいました。
「よしきた、予想通りっ所長、例の仕掛けゴー」
「なんで分かるんだ、お前はどれだけ見てきたんだ」
「今の私は多くの英霊たちのマスターつまり、使い魔マスター言い換えればお使いマスターです」
「時計塔の連中が激怒しそうだがな」
「ほらいいからいいから早く呼んでくる」
「上司を顎で使うな、まったくもう、あとで覚えてなさいよ」
しばらくして沖田ちゃんの前に現れたのは小さな星の王子様、最近いつも沖田ちゃんと一緒にいる仲良しさんです。
「沖田ちゃん、みてみて」
王子様の手に握られているのは 奇妙な形の鉄のわっか。
「星の形をしてるんだぁ、型抜きっていうんだって、料理とかを星の形にできるなんて素敵だねぇ」
興味を引かれたように沖田ちゃんも顔を上げます。
「クッキーとかもだけどニンジンとかダイコンとかもするといいってさ」
「大根」
「今日のおでんの大根は星型にしようよ」
泣かないでお嬢さん
明日には忘れてる
オカンのおせっかい
気に留めもしないで
沖田ちゃん大きく頷きました。
「もう一回お使いにいってくる」
さっきまでの泣き顔はもうどこかへと去っています。また元気に飛び出していきました。
「よし、あとは速いですよ」
「ほんとに速すぎてついていけないんだがっ」
風の様に走る沖田ちゃん、先ほどまでのうつむきなんてどこに行ったのか。もう間違えません。だって友達との楽しいおでんが待っているんだから。
「大根ください」
「おお、また来たか、良いよい、一番大きくいい大根をやろう」
丸々と太った大根、籠に入りきらないので背中に結わえてもらいました。
「こんにゃく大根厚揚げこんこん」
沖田ちゃん、最後の厚揚げへまっすぐ走っていきます。
「思ったのだが、厚揚げはどこから買ってくるんだ。他は誰のどこって言っていた気がするのだが」
「そういえば藤太のところには無かったでしたっけ」
「なぜかなかったな、取り扱いが無いではないようだがいつもすぐ売り切れるという話だったな」
「廃棄が少ないのはいいことですけど、直ぐになくなるくらい少ししか作ってないんですか」
「なんでも大量に買っていく奴がいるとか」
「というかもうこの先に店らしい店は無いですね、あるのは神社くらい」
上機嫌に歌う沖田ちゃん、茶々さんに教わった歌を謡います。
「こんにゃく、大根、厚揚げこんこん」
「こんこんか」
「こんこんですね」
「そういえば、今日信長公たちはいないのかね」
「それが新選組にちょっと折檻されてました」
「罪状は」
「窃盗だそうですね。献品の不当横領だそうで」
「品目は」
「お供えの油揚げだそうで」
「親の背を見て子は育つかぁ」
「カルデアって少年法あるんですか」
「さあなぁ」
「無邪気とは邪気が無いのですからどうして罰を与えられましょうかね。マスター」
「そうねぇ」
「しかし、その子供たちの保護者には監督責任が発生するとは考えませんこと。所長様」
「まったくだな、教育に悪いな」
青い衣の狐は笑いながら二人の背後に現れます。その手にはぼろ雑巾の様になった第六天魔王の姿がありました。
「一度ならず二度までも、仏の顔も三度までとは申しますが生憎と私の尾っぽは一つだけ。四の五の言わず眺めてみれば無下にはできぬ七転八倒、お揚げ一つとおっしゃりますれば積み重なれば十重二十重、ならば誰に少しばかりの灸をすえねば私の気もおさまりませんのですよ、マスター」
「「ですよねぇ」」
むんずとつかまれたおばあさんたちを背に、沖田ちゃんは家路へと急ぎます。広いこんにゃくと大きな大根、そして籠いっぱいの油揚げをてに扉を開けます
「ただいま」
「わぁ、すごい。こんなにいっぱい買って来たの」
「皆で食べれるように」
よく頑張った沖田ちゃんの背中は一回りも二回りも大きく見えます。
「それじゃあ沖田ちゃん、皆で食べるおでんの準備一緒にしようか」
「うん」
その日の星型のおでんはいつもよりずっと美味しかったとさ。
「白紙化した地球だというのに何故私たちは油揚げに酢飯を詰めているのだろうな」
「ノッブなんてエプロン一枚で油揚げ揚げてるんですから。私たちはまだましなほうなのでは」
「アッツ」
「是非もないな」
「それわしのセリフっアッツ」
ギャグのつもり