陽だまりに似ているあなたは朝日を知らず
陽だまりに似ているあなたは夕陽を知らず
陽だまりに似ているあなたは夜を知っている
―・―・―・―
「よく来てくれたね、ウルキオラ」
「藍染様のお呼びとあらば」
フリードが現世へ向かってから一週間後。第4十刃、ウルキオラ・シファーは玉座に座している藍染に呼び出されていた。
「少し前に、君に話した計画があるだろう。それを実行に移してもらいたい」
「……質問をしてもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「対象には現在、フリード・マルクが接触しています。そのまま計画を実行してもよろしいのですか?」
「なるほど」
藍染がほんの少しだけ目を見開いてウルキオラを見つめる。質問をされるとは思っていなかったのか、少し面白そうに微笑んだ後に言葉を紡ぎだす。
「確かに、私が当初渡した作戦に従えば矛盾が生じてしまうだろうね。私のミスだ。すまなかった」
「藍染様が謝罪をすることではございません」
心なしか、藍染から見れば若干驚いているように見えなくもないウルキオラを眺めながら、藍染はしゃべり続ける。
「大方の筋書きはこちらで決めて伝えよう。もちろん、現世にいるフリードにもね。それに従って動いてくれ」
「承知しました」
「用件はそれだけだ。下がってくれて構わない」
「はっ」
ウルキオラが、藍染に背を向けて歩き出し、玉座の間を出て行った。すると、それと入れ替わるように、玉座の間にギンが入ってきた。
「意地悪やなぁ隊長」
「何がかな?」
「そんなに遊んで、大丈夫なん?」
「遊んでいるつもりはないさ。これも計画の一環だよ」
ギンの追及に対し、藍染はいつもと変わらない笑みを浮かべてしゃべり続ける。
「その結果があのウルキオラにお芝居の真似事?」
「……楽しんでいる気持ちがあるのは否定しないよ」
「まぁ、ええんやないの。ボクも試したいもんがあったし」
そんな2人の会話を聞いているものは、この場にはいなかった。
―・―・―・―
それは、初日の夜の事だった。
居候の身だからと頑なに布団で寝ることを拒んだマリエルを無理やり同じ布団に入れさせて眠りについた数十分後、織姫はマリエルが動く気配を感じて起きた。
どれだけ布団で寝るのが嫌なのだろうかと、ほんの少し呆れたあとに苦笑いを浮かべた織姫はマリエルを探し始めた。
結論から言えば、マリエルはすぐに見つかった。しかし、織姫はマリエルに声をかけることができなかった。
(……綺麗)
マリエルは、ベランダで両手を組んで何かに祈っていた。許しを請うかのように、何かを願うかのように、どことも知れない方角へと向けてただ祈っているだけのはずのその光景が、織姫にはひどく美しいもののように思われた。
マリエル自身の容姿も手伝ってか、月明かりに照らされるその光景はまさに絵画のようで、美しさを感じると同時にマリエルがどうしようもなく遠い存在のように感じられた。
「ん? ……すまない、起こしてしまったか?」
「う、ううん、目が覚めちゃっただけだよ」
すると、織姫の気配に気づいたのか、祈るのをやめたマリエルが少しだけ申し訳なさそうな様子で謝罪した。織姫は謎の罪悪感を感じてしまい、思わず問いかけた。
「何をやっていたの?」
「見ればわかるだろう、神様に祈っていたんだ」
「何を?」
「神様の統治が末永く続きますようにとな」
今一つ理解できていない織姫だったが無理はない。今現在の日本において宗教というものの立場は非常に弱くなっている。織姫も今はなき兄の為にお祈りはするが、具体的にどうしてそういう風にお祈りをささげているかなど考えたこともない。
「その神様ってどんな人なの?」
「話せば長くなるぞ? もう一回夜が来て次の朝になるくらいには」
「ま、また今度にしようかな……」
乾いた笑いを浮かべた織姫が、マリエルの隣で両手を組んでみせた。
「……織姫まで祈る必要はないんだぞ?」
「マリィちゃんが信じてるんだもん、きっといい神様だよ。それに……」
「それに?」
「もしも本当にこの世界を創ってくれた神様がいるなら、お礼をしたいなぁって」
「……そうか」
その後、二人はしばらくの間、祈りを捧げた。
次の日、織姫はばっちり遅刻した。
―・―・―・―
「へぇ、じゃあマリィちゃんって結構いい所のお嬢様だったり?」
「そんな大した家柄じゃないよ。ただ少し父の身分が高かっただけさ」
マリエルが織姫の家に居候を始めてから1週間が経過した。この日はマリエルが本来こちらへ来る予定日の前日であり、今はマリエルの引っ越しの為にこの一週間の感謝も込めてマリエルが織姫の家の掃除をしている所だった。
「そっかー、でもマリィちゃんって何ていうか非凡が服を着て歩いているような感じだったから納得かも」
「それは誉め言葉なのかい……?」
私がやることだからとソファで強制的にくつろがされている織姫とマリエルが他愛ない雑談に花を咲かせている時間がしばらく続いた後、
地面がほんの少し揺れた。
それと同時に、織姫の表情が緊迫感のあるものになった。
「……マリィちゃん、少し留守番していてくれる?」
「……虚か?」
「……うん」
そして、マリエルの返事を待つことなく、織姫はアパートを飛び出した。
「さて、と……もう潮時か」
織姫が去ったアパートでマリエルが呟いた言葉を聞く者はいなかった。
―・―・―・―
それは唐突にやってきた。
破面。
破面を剥がした虚が、死神と虚両方の力を備えた存在。
巨漢の破面、ヤミーと不気味なほどに白い痩躯の破面、ウルキオラの二人は突如隕石のように空座町の森に飛来し、周囲に人が集まるや否や、周囲にいた人間の魂魄をまとめて吸い尽くした。
「ぐっ…………」
「茶渡君!!」
そして、圧倒的な霊圧を感知して駆けつけた茶渡と織姫も無事では済まなかった。茶渡は右腕を、織姫は椿鬼を。それぞれの唯一の攻撃手段を完膚なきまでに粉砕され、万事休すかと思われた次の瞬間。
「月牙……天衝!!」
「うおっと!?」
織姫に向かう拳を迎え撃つ形で卍解状態の一護が割って入り、大きく斬月を振るった。莫大な霊圧の衝撃波は油断しきっていたヤミーの一撃を弾き返すには十分な威力を持っていた。
まさか自分の攻撃を阻まれるとは思っていなかったヤミーは舌打ちをした。
「ウルキオラ! こいつかぁ!?」
「ああ、オレンジ色の髪の死神。そいつが標的だ」
「
その顔に浮かべた凶暴な笑みを深めたヤミーが一護へ向けて拳を振るう。
「おせえよ!!」
「ああ!?」
ヤミーの拳は再び空を切り、背後に回った一護の斬撃がヤミーに命中する。
「何……だと……!?」
しかし、一護の斬撃を受けてなお、ヤミーの身体には傷1つついていなかった。
「切ったつもりかぁ? 甘いんだよボケが!!」
「くっ……!」
そこから先は、千日手の様相を示した。確かに、一護はヤミーよりも速く動けている。だが、それだけだった。
しかし、相手にダメージを与えられないという点ではヤミーも同じだった。元よりスピードという面においては十刃の中でも大きく劣るヤミーにとって、スピードに特化した卍解である一護の天鎖斬月との相性は悪かった。
当たりはするもののダメージは与えられない一護と、ダメージは喰らわないものの攻撃は当てられないヤミー。両者の均衡は永遠に続くかと思われたが、
「ぐっ!?」
「そこだぁ!!」
突如、一護が頭を押さえ苦しみ始めた。その隙を見逃すヤミーではなく、ヤミーの剛腕によって放たれる拳が初めて一護に突き刺さった。
「っがぁ!!?」
「黒崎くん!!」
一撃命中しただけにもかかわらず、近くの木に激突してそれをへし折る形で止まった一護が起き上がる気配はなかった。否、起き上がろうと必死にもがいてはいたものの、起き上がれないでいた。
「チッ、もう終わりかよ。つまんねぇな」
「無駄口を叩くなヤミー。さっさと終わらせろ」
「わぁってるよ」
先ほどまでの荒々しい様子からは一転して、まるで面倒くさい作業でもこなすかのような調子でヤミーが一護に歩み寄る。たとえ無駄だと分かっていても織姫が一護の元へ駆け寄ろうとするが。
「待て」
それよりも先に、ヤミーの前に立ち塞がるマリエルの姿があった。
「マリィ、ちゃん……?」
起き上がることのできない一護と、一護にとどめを刺そうとするヤミーがなぜか霊感が一切ないはずのマリエルにも見えている。そんな疑問を打ち消して余りあるほどの衝撃を織姫は受けていた。
「マリ、エル……よせ……!」
「マリィちゃん、逃げて!」
「逃げるものか、貴様が誰かは知らんが、茶渡も、一護も、織姫もやらせはしない!」
一護と織姫が必死に呼びかけるが、マリエルが引き下がる様子はなく、ヤミーをにらみつけていた。ヤミーはそんなマリエルをどうでもよさそうな様子で一瞥した後にウルキオラの方を見た。
「あーーっと……こういう時どうすんだウルキオラ」
「……消せ、そいつもゴミだ」
何故か若干の苛立ちが籠っているように感じるウルキオラの返事でヤミーは豪快な笑みを深めてマリエルの方に向き直った。
「だ、そうだ。わかったらてめぇもとっとと死ねぇ!」
「マリエル!!」
「マリィちゃん!!」
ヤミーの拳がマリエルへと振り下ろされる。マリエルはその場から一歩も動くことなく、意志の強い目つきでヤミーを睨みつけ続け。
ヤミーの拳を真っ正面から受け止めた。
「何……だと……?」
「マリィ……ちゃん?」
「ぐっ……か弱い美少女相手に容赦ないなお前は」
「ほざけ」
一護と織姫の表情が驚愕に染まるが、なぜかヤミーだけはそこまで驚いておらず、むしろ当然とでも言いたげな、それでいて面倒くさそうな表情を浮かべていた。
そして、渦中にあるマリエルの顔にはヒビが入っていた。しかし、そんなこと知ったことではないと言わんばかりにマリエルはため息をついた。
「全く、もう少し隠していたかったんだが、宿の恩もあるからな」
顔のヒビに手をかけ、思いっきり引きはがす。グロテスクな音を立てながらはがれる表皮に織姫が思わず顔を覆うが、それも気にせずにマリエルはそれまで自分の外見を偽っていた表皮を剝いでいく。
「やらせないさ。織姫も、一護も、茶渡も、この街も」
中から現れたのは、不自然に黒い炭のような肌と、血で無理矢理染め上げたかのような赤黒い髪。フリード・マルクが、ヤミーを見据えて佇んでいた。
―・―・―・―
「何のつもりだ、フリード」
「何のつもりも糞もあるか。誰もやらせないといったんだ」
その時、何の前触れもなくその場に現れたのは、マリエルだった。ヤミーの拳を真っ正面から受け止め、それでもなお平然とその場に佇む姿に、織姫も一護もただ唖然とした様子でマリエルを見つめるばかりだった。
「マリィ、ちゃん?」
「織姫、一護。すまなかったな」
「ま、待て! マリエル!」
一護の制止を振り切り、マリエルはヤミーを見据えた。
マリエルはヤミーの拳を受け止めていた右手に力を込め、ヤミーの拳をはじき返し、ヤミーの懐へともぐりこんだ。一護には見えない程の速度で突き出されたマリエルの掌底がヤミーの腹部へ突き刺さる。
「ぐっ!? てっめぇ……!!」
「どうした? 随分余裕が無いように見えるが」
「ほざきやがれぇ!!」
怒りと苦痛で顔をゆがめたヤミーが続けざまに拳を振り下ろすが、それらすべてがマリエルによって受け止められ、受け流され、躱される。逆にマリエルの拳は的確にヤミーの身体に突き刺さる。
「ごがっ!!」
「そら、次行くぞ」
「っなめるなぁ!!」
それは、まさしく一方的な戦いだった。
ヤミーの拳は悉く空を切り、距離をとってはなった虚閃もマリエルに受け止められる。しかしマリエルの攻撃はその真逆で全ての攻撃が悉く命中し、ヤミーの身体を表面上は傷だらけにしていく。
「く……そが……!!」
怒りで顔を赤くし、身体を震わせるヤミーが腰に差した斬魄刀に手をかけた。
「私程度に刀剣解放とは、随分と余裕がないんだな」
「ほざけええええ!!!!」
ヤミーが腰に差された刀を引き抜き、解号を口にしようとした瞬間。
「よせ、見るに堪えない」
ウルキオラが割って入り、マリエルと向かい合った。ウルキオラは生気の感じられない目でマリエルを観察しているが、それに対してマリエルは何を考えているのかわからない笑みをうっすらと浮かべながらウルキオラを見据えているだけだった。
「貴様……本気なのか?」
「本気だとも。私が一度でも手を抜いたところを見たことがあるかい?」
「ふむ、愚問だったな」
どこかおどけたようにしゃべるマリエルに対し、ウルキオラは何処までも平坦な口調でしゃべり、腰に差してあった刀を抜き、マリエルに突き付けた。
「藍染様の邪魔となるようなら、そこの塵諸共切り捨てるだけのことだ」
「できるとでも思っているのか?」
ウルキオラの霊圧とマリエルの霊圧のような何かがぶつかる。ヤミーによって深手を負っていた一護は、同じくヤミーによって重傷を負った織姫を庇うような立ち位置に何とか移動したものの、それ以上の事はできず、ただウルキオラとマリエルを見ていることしかできなかった。
(何……だ……? マリエルのあれは……霊圧じゃねぇのか?)
一護は、マリエルの放つ霊圧のような何かによる違和感を強く感じていた。表面上は霊圧のように見える。だが、一護は言葉にし難い違和感を覚えていた。まるで、表面上は霊圧であるにも関わらず中身は全く別のものであるかのような違和感を。
「フッ……」
「っ……」
次の瞬間、一護の目に全く留まらない速さでマリエルの拳とウルキオラの刀がぶつかり合った。おおよそ金属と皮膚が衝突することによって発生するそれではない音を響かせ、周囲の木々をなぎ倒し、それでもなお両者の表情に変化は見られなかった。
「良いのかい? ここでむやみやたらと暴れれば、巻き添えを喰らう魂魄の数も馬鹿にはならないぞ?」
「この周辺の魂魄はヤミーが魂吸で一掃してある。貴様が心配する必要はない。二言目に脅しとは、随分と弱気になったなマリエル」
「そういう君こそ、良くしゃべるようになったね」
まるで世間話のように一護からしてみればとんでもない内容の話を2人がしている間も、戦闘は絶え間なく続いていた。ウルキオラが一撃加えればマリエルがそれを凌ぎ、マリエルが一撃加えればウルキオラがそれを受け止める。
「す、げぇ……」
それは、卍解状態の一護であっても追いきれるものではなく、辛うじて残像のようなものが目に映るだけだった。両者の攻撃はそのいずれもが互いに届かず、戦闘音や周囲への被害に反して、両者ともに傷1つ負ってはいなかった。
「どうしたというんだウルキオラ。お前はこんな無駄な争いは好まない気性だったと思うんだが?」
「貴様が藍染様の敵となった。理由などそれで十分だ」
おちょくるような口調のマリエルに対して、ウルキオラは何処までも平坦で、棒読みとすら思える口調だった。
一見すれば演舞とすら思えるようなその攻防は唐突に打ち切られることとなった。
「やー、急いで来てみれば面白そうなことになってるっスねー」
「浦原さん……」
「お待たせしました、黒崎サン」
戦闘に水を差すかのように現れたのは、浦原喜助と四楓院夜一だった。浦原はこの場の雰囲気には似合わない緊張感のない口調で一護に話しかけるものの、その視線は鋭くマリエルとウルキオラとヤミーを射抜いていた。
「あれは……」
「っ……」
「おっと、少し肝が冷えたぞ」
その視線に気づいたマリエルが浦原の方へと一瞬視線を向けるが、その隙を見逃すウルキオラではなかった。一気に間合いを詰めたウルキオラの斬撃が放たれ、ほんの少しではあるが表情に焦りを浮かべたマリエルが飛び退って大きく間合いを取った。
「さて、これで私は一護達を気にせず、存分に戦えるという訳だ。どうする? ウルキオラ、ヤミー」
悪戯めいた笑みを浮かべながら挑発して見せるマリエルに対し、ヤミーは僅かながら怒りを見せるが、ウルキオラは眉一つ動かさないまま言葉を紡ぎだした。
「退くぞ、ヤミー」
「はぁ!? ちょっと待てよウルキオラ! まだ俺の――」
ヤミーが何かを言いかけた次の瞬間、ウルキオラの視線がヤミーを射抜いた。
「俺の、何だ?」
「……あ、何でもねぇ」
その後、何かに気付いたようなヤミーが緊張感のない声で答えると同時に黒腔が開き、ウルキオラはマリエル達に背を向けた。
「何だ、逃げるのか? お前があれだけ息巻いていたというのに意外だな」
「あくまで俺が藍染様から下された指示はそこで這いつくばってる死神の抹殺だ。貴様などついでに過ぎん」
「その死神も殺せていないようだが?」
「殺す価値もない塵だった。それだけのことだ」
マリエルの挑発にも眉一つ動かすことなく、ウルキオラとヤミーは黒腔の中へと消えていった。
「ふぅ、全くままならないものだ――」
ため息を1つついたマリエルが倒れている一護の下へ駆け寄ろうとするが、
「ちょーっと待ってもらって良いっスか?」
この場にはあまり似合わない緊張感のない声に言われるがままに立ち止まったマリエルが声の聞こえたほうを向くと、そこには商売人特有の人懐っこい笑みを浮かべながらも目は一切笑っていない浦原がいた。
「話、聞かせてもらっても?」
マリエルはため息をついた後に言葉を紡ぎだす。
「断る、と言ったら?」
「それなりに力ずくになりますかねぇ」
「それじゃあ仕方ないな」
ため息をついて微笑んだマリエルは浦原についていくことにした。
投稿ペースが上がった時は感想を読んだか「神なる座に列し伝わる救世主」を1周したかのどっちかです。
自作他作問わず感想を読むのがすごい好きなので執筆の励みとなっております。