けものフレンズR くびわちほー   作:禁煙ライター

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けものフレンズR くびわちほー 第07話「せるりあんくいーん」B・Cパート

フレンズ紹介~オオアルマジロ~

 

 アルマーちゃんはひこー目クラミホリ科オオアルマジロ属の哺乳類、オオアルマジロのフレンズだよ!

 アルマジロって言葉の意味は、武装したもの、って意味なんだって! その名前の通り、体中がウロコで覆われていて、鎧を着てるみたいなんだよ!

 

 アルマジロはセンザンコウと同じように、丸まって身を守るイメージがあるけど、丸くなれるのは一部のお仲間さんだけなんだって!

 オオアルマジロは丸くなれないんだけど、そのかわりに穴を掘って隠れたりとかして身を守ったりするよ!

 

 今、穴を掘るって言ったけど、オオアルマジロの面白いところは、その穴をたくさん作ることなんだ!

 2日にひとつのペースで深い穴を掘って、寝床にしたり、虫とかのエサを取る場所にしたりするよ!

 ひとつの穴の深さは5メートルにもなるんだって! すっごいよね!

 

 オオアルマジロの掘った穴は他の動物が使うこともあって、みんなもそこに隠れて休んだり、エサを取るために使うんだって!

 こういうの、いんふらせいび、っていうんだよね!

 他の動物の役に立つことを毎日せっせとこなしてるなんて、オオアルマジロって、すっごくがんばりやさんかも!

 すっごい、えらいね!

 

 ― ― ―

 

 バスが『らぼ』に着いたときには、もう日も沈んで、辺りはすっかり真っ暗になっていた。

 らぼはとても頑丈そうな外壁に囲われていて、通用門らしいところの前でバスがいったん停車すると、ぴぴ、という電子音と共に門が開いた。そのまま通り抜けると、バスの後方で再び、門が自動で閉まった。

 その門ももちろん、そうなんだけど、外壁も、それから車窓から見える建物も、明らかに人工物と見て取れるものだった。

 コンクリートで出来ているそれらの建造物は、ひょっとすると、ヒトにとってはぶんめいの温かみを感じさせるものだったかもしれないけど、どうしてか、冷たい印象を受けてしまう。

 ・・・ううん。どうしてかは、分かっている。

『わたしは、あのヒト、あまりしんようできません。』

 そう言ったイエイヌちゃんの声と表情に、不安を感じていたから、だった。

 あの後、「どうして?」と何度も聞いたのだけど、イエイヌちゃんは答えてはくれなかった。

 ただ、ひとことだけ。

「だいじょうぶです。なにがあっても、わたしがまもりますから。」

 とだけ、答えになっていないことを言って、そのまま黙ってしまった。

 そうこうしている内にバスはらぼに辿り着き、けっきょく、どうしてイエイヌちゃんがかばんちゃんをそんなに警戒しているのか、わからないままだ。

 

「着いたよ。みんな、お疲れ様。」

 バスを大きな建物の横に停めて、かばんちゃんが運転席からこちらを振り返って言う。

 その顔に浮かんでいるのは、とても優しげな微笑みだ。

 こんな優しそうな子なのに、イエイヌちゃんはどうして、信用できない、なんていうのだろう。

 それはたしかに、かばんちゃんは今日はじめて会ったばかりの子で、いきなり何もかも信じられるかと聞かれれば、そう答えるかもしれないけど。

 でも、それを言うなら今まで会ってきたフレンズさんだって同じことなのに・・・。

 うーん。

 ・・・まあ、考えても仕方ないか。

 今はイエイヌちゃんも理由を答えてくれなさそうだし、まずはやるべきことをやらないと。

「みんな、着いたみたいだよ! ほら、起きて起きて!」

 わたしは、ぱんぱん、と手を叩きながら、みんなを起こして回った。

 

 それから、みんなで建物の中に入って、広いリビングでだいぶ遅めの夕食をとった。

 もちろんメニューはジャパリまん。みんなのぶんのジャパリまんはぜんぶ、かばんちゃんが提供してくれた。

「時間があれば、料理をごちそうすることもできたんだけど・・・、」

 なんて言っていたけど、ホントかな?

 かばんちゃん、どんな料理つくるんだろう。あとで食べてみたいかも。

 そんなことを思ったけど、ジャパリまんを一口頬張ると、すぐに頭から抜けて行ってしまった。

 やっぱりジャパリまんはおいしい。あいかわらずの幸せな味に、みんなの顔もほころんでいた。

 それにしても、こんなにたくさんいるのに、気前よくふるまって平気なんだろうか?

 そう思ってかばんちゃんに聞いてみたのだけど、なんでもシーラさんの治療に使うのに集めたのだとかで、だいぶ余ってしまっているらしかった。

 手持ちのジャパリまんの数が心もとないことを伝えると、かばんちゃんは、いくらでも持って行って、と笑顔で言ってくれた。

 やっぱり、かばんちゃんはとっても優しい、いい子だった。

 

 ・・・いい子、なんだけどなぁ。

 ごはんの間もイエイヌちゃんの表情は険しくて、警戒するような視線をかばんちゃんに向けていた。

 表情が険しい、と言えばくびわちゃんもまたそうかもしれない。

 もっとも、くびわちゃんの場合は、警戒しているというより、不安そうな表情だったけど。

 センちゃんとアルマーちゃんは、らぼの中を興味しんしん、といった感じに眺めていて、ときどき「あれはなんですか!?」とかばんちゃんに質問しては、その答えをふんふんと聞いていた。

 わたしもいろいろ聞きたいことがあったのだけど、イエイヌちゃんとくびわちゃん、ふたりのことを気にしていると、ついつい無言になってしまって、結果、ただただ食べるのに集中してしまった。

 ロードランナーちゃんはもとより、山のようなジャパリまんに夢中だった。

 そうして、すっかりお腹いっぱいになったところで、

「今日はもう遅いから、話は明日にしようか。部屋はいっぱいあるから、自由に使っていいよ。」

 と、かばんちゃんが言って、その場はお開きになった。

 

 ― ― ―

 

 翌朝。

「ふんふんふんふん、ふんふんふんふん、ふんふーん♪ ふんふん、ふんふんふん・・・、」

 上機嫌に鼻歌を歌いながら、わたしはリビングのおそうじをしている。

 ごちそうしてもらった上に泊まる場所も提供してもらったのに、何もしないでいるのが申し訳なくてはじめたのだけど、やってる内にちょっと楽しくなってきてしまったのだ。

 それに、上機嫌な理由はもうひとつある。

 えへへ。何だと思う?

 ヒントは、あたしのにおい!

 ・・・、ぶっぶー、じかんぎれー。

 正解は、『シャワーを借りれた』でした!

 

 昨日、なんだか気苦労を感じる夕食を終えた後で、かばんちゃんが、そう言えば、とシャワーの存在を教えてくれたのだ。

 目が覚めてこれまで、水浴びも満足にできなかったわたしにとっては、その話は天から降り注ぐ恵みの雨のようなものだった。シャワーだけに。

 浴槽があるともっとうれしかったのだけど、ぜいたくは言えないよね。

 それに、温かいお湯を浴びているだけで、とっても気持ちよかったし。

 備え付けられてたのは石鹸だけだったから、洗ったばかりのときは髪がきしきしするのが気になったけど、朝になったらしっとり感が戻ってたから問題なしだ。

 お借りしたベッドも、すっごく寝心地が良かったし。

 というわけで、すっかりリフレッシュしたわたしは、みんなよりちょっと早起きして、リビングのおそうじをしていたのだった。

 

「ふーんふーんふーん、でれれれ、じゃーっじゃっ、じゃーん♪ でれれれ!」

「しっしっし、やけに楽しそうなフレンズがいるねえ。」

 鼻歌が歌に変わったあたりで聞こえてきた声に、急にげんじつに引き戻される。

 声のした方を見ると、はじめて見るフレンズさんがにやにやした顔でこちらを眺めているところだった。

 わたしは顔が真っ赤になっていくのを感じながら、あはは、と乾いた笑いでその声に答える。

 うーん。ぜんぜん気づかなかった。

 歌とおそうじに、集中しすぎちゃってのたかも。

 それにしても・・・、足音とかぜんぜん、聞こえなかったような。

「おやあ? キミはあ・・・、もしかして、フレンズじゃあないのかなあ?」

「う、うん。あたしは、ヒトのともえだよ。よろしくね!」

 恥ずかしさをまぎらわすように元気よく自己紹介をすると、そのフレンズさんはにやにやした顔のまま、

「ししし・・・。ヒト、ヒトねえ。まあ、キミがそう言うんならあ? そうなんだろうねえ。」

 そんな、てつがく的な言葉を返してくる。

 なんだか不思議な子かも。

 

 つやつやした髪は灰色で、すっごく長い。それこそ、青みがかった毛先が床に着きそうなくらいだ。青っぽい紫の前髪は横にまとめていて、つるっとしたおでこがとってもキュートな感じ。

 フレンズさんも音楽を聴くのだろうか? 頭にかぶっているヘッドホンには、「PPP」と文字が書いてある。飾り気のない意匠のはずなのに、なんだかおしゃれだ。

 襟元の青いフードがセーラー服っぽくも見える白いパーカーは、ふりふりのミニスカートと一体になっていて、ちょっと変わったワンピースみたい。

 変わっている点はもうひとつあって、肩から先は灰色と白のモノトーンカラーなんだけど、その袖口がぴったり、閉じていること。

 まるで大きなミトンみたいな袖に、すっぽりとその腕を収めていた。

 ・・・なんだろう。

 久しぶりにムズムズする感じが、するような。

 あの、とりの羽っぽい腕とか、

 髪とか肌とか、やけにつやつやしてて、りゅうせんけいなフォルムとか、

 すっごく見たことのあるどうぶつのフレンズさん、な気がするんだけど・・・。

 

 湧き上がってきたきゅんきゅんをなんとか抑えながら、わたしはお名前をたずねることにした。

「えっと、あなたのお名前は?」

「ワタシ? ワタシはねえ・・・、」

「ジャイアントペンギンさん。戻ってきてたんですね。」

 答えたのは、リビングに入ってきたかばんちゃんだった。

 その答えに、やっぱり、と思う。

 そして、じょそうたいせいにはいる。こころのなかで。

「やあやあ、かばんちゃん。キミも、戻ってきてたんだねえ?」

「ええ。ゆうべ遅くに。」

「なるほどなるほどお。それならあ、お目当てのものは見つかったのかなあ?」

「はい。おかげさまで。」

「しっしっし。そいつは良かったねえ?」

 何やらかばんちゃんとおはなししているようだけど、耳に入らない。

 そして、かばんちゃんに気を取られている今が、絶好のチャンス!

 

 わたしは内なるきゅんきゅんの指し示すがまま、がばりと手を広げて走り出す。

「ぺんぎんさんだぁっ!」

「おっとお。」

 そんな、気の抜けた掛け声とともに、ひらりとかわすジャイアントペンギンちゃん。

 ええ? うそ!

 きゅんきゅんのはどうに支配されたわたしの渾身のタックル・・・、

 じゃなくて、心からの愛情表現を難なくかわすなんて・・・!

 本気を出したらあれだけ機敏な動きができるトンちゃんでさえ、かわせなかったのに。

「ええ? ともえちゃん、一体なにを・・・。」

 いきなりの行動にびっくりした表情のかばんちゃんが声をかけてくるけど、今はそれどころじゃない。

「なんで!? なんでよけるの!?」

 わたしはあまりのくやしさに膝をつきながら声を上げる。

 ひとめがなければ泣いているところだ。

 せっかく、ぺんぎんさんにさわれるのに・・・。すりすりできるのに・・・!

 

「そりゃあ避けるよお。ワタシは体温が低いからねえ。ヒトが触れると火傷しちゃうんだよお。」

 けれど、にやにや顔のまま発したジャイアントペンギンちゃんの言葉に、頭から冷水をかけられたような気持ちになった。

「ええ!? そうなの!? ごめんなさい!」

 あわてて謝ると、ジャイアントペンギンちゃんはまたにやにやと笑って、

「ししし。別にいいよお? ウソだしさあ?」

「・・・へ?」

「もう、ジャイアントペンギンさん、あんまりからかわないであげて下さい。」

 かばんちゃんが困ったような顔で言うのを聞いて、からかわれたのだと理解した。

 暴走して、おまけにからかわれて、

 なんだかあまりに自分が情けなくて、さっきまでのきゅんきゅんも、なんだかすっかり落ち着いてしまった。

「えっと・・・、ごめんなさい。あたし、かわいいものとか見ると、興奮しちゃって。」

「いいよいいよお? それだけワタシが魅力的ってことだからねえ? しっしっし。それでも勿論? おさわりは禁止だけどねえ?」

 立ち上がりながらのわたしの言葉に、ジャイアントペンギンちゃんは釘を刺すようにそう言った。

 

「改めましてえ、ワタシはジャイアントペンギン。まあ、気軽にジャイアント先輩と、呼んでくれたまえよお。」

「あはは。よろしくね。ジャイアント先輩。」

 わたしが言葉通りに呼び返すと、ジャイアントペンギンちゃん・・・、じゃなくて、ジャイアント先輩はまた、ししし、と笑って、

「キミは素直ないい子だねえ。今度後輩のペンギンを連れてきてやるからあ、おさわりするのは、そいつらにしなさいなあ?」

「ホントに!? 楽しみにしてるね!」

 そんな、うれしい提案をしてくれた。

「いいんですか? そんな約束勝手にして。ペパプのみんな、怒りませんか?」

「いいのいいの。アイドルやってんだからあ、おさわりも仕事の内だよお。」

「それ聞いたら、みんな怒ると思いますよ? マーゲイさんも。」

 かばんちゃんとジャイアント先輩が何やら話しているけれど、わたしはまだ見ぬペンギンさんたちとのふれあいを想像するのに夢中で、やっぱり耳に入らなかった。

 

 ― ― ―

 

 それから、起きてきたみんながリビングに集まると、昨日の話の続きとなった。

 思い思いにソファーに座ったり、カーペットに寝そべったりしながら、みんなの前に立っているかばんちゃんの口が開くのを待っている。

 かばんちゃんは、何かタブレットみたいなものを持っている。たぶん、あれで資料か何かを見せて、説明を補足するつもりなんだろう。

 わりとほんかく的なその様子に、わたしは心の準備をする。

 ゆうべは勝手に雰囲気にのまれて黙っちゃっていたけど、今日はちゃんとしよう。

 これでようやく、聞きたいことをいろいろ聞けるわけだし。

 シャワーも浴びれてベッドで寝れて、心機一転、すこぶる快調といった感じだし。

 ・・・まあ、ついさっき、快調すぎて大きな失態を見せたばかりではあるんだけどさ。

 

「じゃあ、昨日の続きを、始めますね。」

 かばんちゃんが話をはじめると、リビングの照明が少し、薄暗くなった。

「セルリアンクイーンは、文字通りセルリアンの女王で、セルリアンを自由に操れる能力を持っています。そして普通のセルリアンと同様に、フレンズさんを襲います。」

 そこで言葉を区切り、持っていたタブレットを操作すると、リビングの中央、かばんちゃんのとなりに立体映像が映し出された。

 あ・・・、タブレットで見せるんじゃ、ないんだね。

 かばんちゃんのぷれぜんは、考えてたより、もっとほんかく的だった。

 立体映像をはじめて見たのだろう、センちゃんとアルマーちゃんは「おお!」「なになにー?」と興味深げにその映像を見る。

 暗くなって眠気を誘われたのか、カーペットに寝そべるロードランナーちゃんは興味なさそうな顔であくびをしていた。

 ジャイアント先輩はくびわちゃんの方を眺めながら、またにやにやとした笑みを見せている。

 そのくびわちゃんと、イエイヌちゃんの表情は、やっぱり暗いままだ。

 うーん・・・。

 かばんちゃんの説明で、ちゃんと誤解が解けるといいのだけど。

 

 みんなの反応を眺めつつ、改めて、わたしはその立体映像を見る。

 そこに映し出されていたのは、半透明の緑色をした、ヒトのような形をしたものだった。

「これは、かつてこの『らぼ』で研究されていた、セルリアンクイーンの映像です。見ての通り、ヒト型のセルリアン、といった形態です。」

 これが、かばんちゃんの言っていたセルリアンクイーン・・・。

 でも、これって・・・、

「みなさんもお察しの通り、くびわちゃんとは姿形は全く似ていません。ですが、」

 わたしが思いついた疑問をそのまま口にするように、かばんちゃんは言う。そしてまたタブレットを操作すると、浮かんでいた映像に変化が生じた。

 映像の中のセルリアンクイーンに、大きな耳としっぽが生える。

 かと思うと、その耳が小さくなったり、あるいは全くなくなって、フードみたいなものをかぶってみせたり、しっぽも太さや長さが変わったりしていた。

「このように、セルリアンクイーンはその姿形を変化させます。」

「ちょっと待って。これ、みんな、フレンズさんの形なんじゃないの?」

 わたしが思いついたことをそのまま言うと、かばんちゃんはわたしの方に向き直り、

「うん。その通りだよ。」

 すごく真面目な顔でわたしの言葉を肯定した。

 

「セルリアンはフレンズさんを取り込んで、サンドスターを奪いますが、セルリアンクイーンは取り込んだものの輝きを奪うとされています。」

「輝き・・・、」

 聞こえてきた新しい単語に、思わずオウム返しをしてしまう。それを質問ととらえたのか、それとも、もとより説明するつもりだったのか、かばんちゃんは補足説明をしてくれる。

「輝き、というのは、生き物を生き物たらしめる、根っこの部分です。心とか、魂と言うのが近いかも知れません。」

 心とか、魂。

 それが、輝き。

 それを・・・、奪うの?

 それって、すっごく危険なんじゃ・・・。

 改めて、かばんちゃんがどれだけ危険なものに向き合おうとしてたかがわかった。

 かばんちゃんは、昨日は気を張っていたと言っていたけど、話を聞いた今、それも無理もないことだと思う。

 

「輝きを取り込んだセルリアンクイーンは、取り込んだ相手の姿形を模倣すると言われています。その為、このようにいくつもの形態を持つわけです。」

 かばんちゃんはそう言って、タブレットを持っていない方の手で目まぐるしく姿を変えるセルリアンクイーンを指し示す。

「この映像は、かつてこのえりあで発見された、セルリアンクイーンの幼体を映したもの、なのだそうです。他にもらぼには色々な資料が残されていたのですが、内容が難しくて・・・、」

 言いながら、かばんちゃんがタブレットを操作すると、映像の中のセルリアンクイーンが、はじめに見た耳もしっぽもない形に変化して、止まった。

「ボクにわかったのは、このセルリアンクイーンの幼体が、リトルクイーンと呼ばれていたこと。そしてそれは、今もこのえりあにいるかも知れない、ということだけでした。」

 リトル、クイーン。

 それが、あのセルリアンの、名前。

 口には出さずその名前を繰り返していると、立体映像が消え、薄暗くなっていたリビングの照明が元に戻る。

 

 えっと・・・、これで説明は、終わりってこと?

 かんじんなことをまだ、聞けてないような・・・。

 そわそわと質問をしたそうにしているわたしに気づいて、かばんちゃんが手のひらを向けてそれを促してくれた。

「えっと・・・、」

 口に出しながら、質問を頭の中でまとめる。

「かばんちゃんはどうして、くびわちゃんがその、リトルクイーンだって、思ったの?」

「うん。それなんだけど、」

 かばんちゃんはそこで一度区切り、視線をくびわちゃんの方に向けて、その先の言葉を続けた。

「ボクは、前に一度、くびわちゃんに会ってるんだ。」

 

 ― ― ―

 

 それは、何週間か前のことです。

 知り合いのフレンズさんやラッキーさんから、最近、セルリアンが以前よりたくさん、見かけられるようになったと聞いたボクは、気になって調査を始めることにしました。

 セルリアンの活動が活発になるのには、必ず原因があります。それは、かつて別のえりあで経験したことから学んでいたことです。

 それに、ボクは既に、らぼに残された資料からリトルクイーンのことを知っていました。

 そして、リトルクイーンはまだこのえりあにいるかも知れない、ということも。

 あくまで想像ですけど、リトルクイーンは何かの理由で休眠状態になっていて、それが最近になって目覚めたんじゃないか、そう思って、急いで調査を始めました。

 色々なちほーを回ってみたのですが、あまり有力な情報は得られなくて、一度戻ろうと思ってらぼの近くまで来たときに、くびわちゃんに出会ったんです。

 

 くびわちゃんはらぼの近くで、倒れているフレンズさんと一緒にいました。

 フレンズさんは大ケガをしているみたいで、くびわちゃんはその周りをうろうろしながら、きょろきょろと辺りを見渡していました。

 ボクはそのとき、とっさに、助けなきゃ、と思いました。

 もう少し詳しく、誰から、誰を、と言えば、

 くびわちゃんから、そのフレンズさんを、ですね。

 くびわちゃんがどういう子なのか、少しだけど分かった今となっては、勘違いだったんだって、分かるんですけど。

 きっと、くびわちゃんはそのフレンズさん、シーラさんを、何とか助けようとしてたんだよね?

 辺りをきょろきょろ見ていたのは、たぶん、ラッキーさん、ラッキービーストが通りがからないか、探していたんだと思います。

 けれどそのときのボクには、そう思えなかった。

 だって、そこにはくびわちゃんとシーラさんの他に、大きなセルリアンがいたんだから。

 

 くびわちゃんは、そのセルリアンとおはなしをしているみたいでした。

 声を出していたわけじゃないから、本当にそうだったかは分かりませんが、少なくとも、セルリアンがくびわちゃんに襲いかかる素振りすら見せなかったのは事実です。

 状況がつかめなくて、とっさにくびわちゃんに声をかけちゃったのがいけなかったんでしょうね。

 くびわちゃんは急に声をかけられてびっくりしたみたいで、そのままセルリアンと一緒に、走って逃げてしまいました。

 そして、大ケガをしているシーラさんを抱えて、らぼに戻る途中で、ボクは思いました。

 あれが、リトルクイーンなんじゃないか、って。

 

 シーラさんの治療をはじめたボクは、勿論調査になんて行ってる場合じゃなくて、オオセンザンコウさんとオオアルマジロさんのふたりに、代わりに調査をお願いしたんです。

 調査の内容は、小さい体で、大きな耳と尻尾があって、緑色で、ぶかぶかの首輪をつけたフレンズさんを探して、観察すること。

 危険なことにならないよう、絶対に接触しないよう、念を押してね。

 それから、もしその子がヒトと接触するようなら、すぐにボクに知らせて欲しいとお願いしました。これは保険というか、あり得ないこととは思ったんですが、一応ね。

 セルリアンクイーンがヒトの輝きを奪うと、本当に大変なことになるみたいなので。

 それも全部考え過ぎだったって、今なら分かるんですが。

 くびわちゃんが危険な存在じゃないってことは、一緒にいるともえちゃんや、イエイヌさん、ロードランナーさんが証明してくれましたから。

 

 ただ・・・、それでも、ひとつだけ確かなことがあります。

 くびわちゃんは、セルリアンと意思疎通をする、ちからを持っているということ。

 ボクが見たことと、こうやで、ともえちゃんたちが体験したこと、

 それは、そうじゃないと説明がつかないんです。

 

 ― ― ―

 

 長い話を終えて、かばんちゃんは、すぅ、と深呼吸をする。

「これは、あくまでボクの想像でしかないんですが、」

 そして、くびわちゃんを真っすぐに見つめた。

 

「くびわちゃん。キミは、ラッキーさん、ラッキービーストがセルリアン化して生まれた・・・。そうじゃないかな。」

 

 ボスの、ラッキービーストの、セルリアン?

 その言葉に、わたしの理解は追いつかない。

 たしかに、かばんちゃんが言ったように、くびわちゃんがセルリアンとおはなしができるのは、本当かもしれない。

 それでいろいろなことに説明がつくことは、じじつだ。

 でも、くびわちゃんがセルリアンだなんて・・・、そんなの・・・、

 ぐるぐると回る思考に、めまいさえ感じる。

「なるほどねえ。道理で、似てるわけだねえ。スタービーストに。」

 独り言のような誰かの声も、耳に入ってこない。

 

 たしかに、わたしも思ったことはある。

 くびわちゃんはいろんなことを知っていて、いろんな道具も使えたり、直せたりする。

 まるで、ボスみたいに。

 ひょっとしたら、ボスがフレンズになったらこんな感じなのかも、なんて思ったこともあるくらいだ。

 そうだよ。フレンズさん。

 ラッキービーストのフレンズさんなら、説明がつくんじゃないかな?

 セルリアンとおはなしができるのだって・・・、

 何か事情が・・・、

 あって、その・・・、

 けれど、そんな事情は、どれだけ考えても思い付かない。

 ぐるぐると頭をフル回転させて、つじつまが合う答えを探すのだけど、けっきょく、かばんちゃんの示したものより全てを上手く説明できる答えは、見つからなかった。

 

 そして、くびわちゃんは、

 かばんちゃんの問いかけに、こくり、頷いた。

 

 くびわちゃんは、かばんちゃんの説明を引き継ぐように、たどたどしく言葉を紡ぎはじめる。

「・・・さんどすたーが、どうぶつや、どうぶつだったものにあたると、ふれんずや、びーすとになる。いしとか、むきぶつにあたると、せるりあんになる。」

 それは昨日、みつりんでくびわちゃんに教えてもらったことだ。

「・・・ぼくたち、らっきーびーすとは、むきぶつだけど、こーてぃんぐがされていて、さんどすたーの、えいきょうを、うけないようになっている。」

 その説明を、そしてかばんちゃんの言葉を、補足するように、くびわちゃんは続ける。

「・・・ぼくは、そのこーてぃんぐが、なくなったじょうたいで、さんどすたーにふれた。だから、せるりあんになった。」

 ふぅ、と小さく息をはくと、座っていたソファから立ち上がり、わたしとイエイヌちゃんの前に立った。

 

「・・・ともえ、いえいぬ。」

 その声は、いつものように、淡々とした声で。

 けれどその表情は、いつもの無表情じゃない。

 すごくつらそうで、とても心細そうで、

 今にも泣きだしてしまいそうな表情で、くびわちゃんは口を開いて、

「・・・いままで、だまってて、ごめんなさい。ぼくは、ふれんずじゃ、」

 言いかけた言葉は、けれど、最後まで言い切られることはない。

 ううん。

 そんな言葉は、最後まで絶対に言わせない。

 わたしは立ち上がった勢いのままくびわちゃんに抱き着いて、その顔を自分の胸に埋めていた。

 

「そんなこと、言わないでよ。」

 ごめんなさいだなんて、

 セルリアンで、フレンズじゃなくて、ごめんなさいだなんて、

 そんな悲しいことを言わせるために、あたしたちは一緒に過ごしていたわけじゃない。

 そうだ。あたしが悩む必要なんて、はじめからなかった。

 たとえくびわちゃんがフレンズさんじゃないのだとしても。

 

「くびわちゃんは、くびわちゃんだもん。あたしたちのたいせつな、おともだちだもん。」

 

 そのじじつが変わることなど、ありえないのだから。

 

 抱きしめていたくびわちゃんを離して、その顔を真っすぐに見る。

「だから、謝らないで? 勇気を出して話してくれて、ありがとう。」

 わたしがそう言うと、くびわちゃんの瞳がうるうると揺らぎはじめる。

 となりに立っていたイエイヌちゃんが、そんなくびわちゃんの頭を優しくなでた。

「わたしもおなじきもちです。たとえなんであっても、くびわちゃんはわたしたちの、たいせつなおともだちですよ?」

「・・・ともえ、いえいぬ。」

 いつものような、淡々とした声。

 けれどそこには、いつもの無表情じゃない、泣き出しそうな笑顔があった。

「へっ、だからいったろーが。そいつらはそんなの、きにしねーってよ。」

 ロードランナーちゃんが寝そべったままの体勢で、やれやれという感じに言った。

 やっぱり、ロードランナーちゃんはくびわちゃんのこと、知ってたみたいだね。

 ロードランナーちゃんは、心配でついてきた、って言ってたけど、

 それって、あたしたちみんなが、じゃなくて、

 くびわちゃんのことが、ってことだったのかな。

 

「・・・みんな。ありがと。」

 

 震えながら発せられた言葉と共に、くびわちゃんの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

 

 ― ― ―

 

 そうして、誤解からはじまった一連の出来事は、収まるところに収まった。

 これでまた、みんなで旅を続けることができそうだ。

 旅の支度を整えて、わたしたちはらぼの通用門の前にいる。

 わたしたち、というのはわたしとイエイヌちゃんと、くびわちゃん、そしてロードランナーちゃんのよにんだ。

 やっぱりというか、ロードランナーちゃんも一緒に来てくれることになった。

 もちろん断る理由もないし、むしろ一緒にいろいろおはなししたいから、うれしいことなのだけど、またくびわちゃんとケンカしないかだけが気がかりだ。

 この一連の出来事で、くびわちゃんが何者か、というじじつが明らかになったわけだけど、それで何かが変わるわけでもなく、過ぎてみれば、いつも通りの日常だった。

 

「みんな、気をつけてね。」

 横並びになるわたしたちの前には、かばんちゃんがいる。

 せっかくだからとお見送りに出てきてくれていた。

「ぐぬぬ・・・、おおきななぞが、めのまえでとかれてしまいました・・・。これではたんていのながすたります・・・。」

「まーまー、そういうこともあるさー。」

 かばんちゃんの後ろの方では、何故か悔しそうにしているセンちゃんを、アルマーちゃんがなだめている。

 ふたりはわたしたち・・・というか、くびわちゃんを追いかけていたんだっけ?

 そうなると、ふたりの旅はこれで終わり、ということなのかな。

 くびわちゃんがその、リトルクイーンとかいうものじゃないってことは、わかったわけだし。

 ちなみにジャイアント先輩は昨日あんまり寝ていないらしく、

「ワタシは眠いから寝るよお。」

 とのことで、この場にはいない。

 もっといろいろおはなししてみたかったけど、仕方ないかな。

 それに、後輩のペンギンさんたちと会わせてもらう約束もしたし、おはなしはそのときにすればいい。

 

「かばんちゃん。いろいろ、ありがとね?」

「気にしないで。ジャパリまんは余ってるし、バギーだって、ずっと使ってなかったから。」

 かばんちゃんが言うバギーというのは、今、わたしたちの後ろでエンジン音を立てている車のことだ。正しくはジャパリバギーといって、動くように整備はしていたらしいのだけど、ずっと使わずに保管していたものらしい。

 運転に不安を感じて、たいよをじたい、しようと思ったのだけど、くびわちゃんが、

「・・・まかせて。」

 と手を上げたので、ためしに運転させてみると、らぼの狭い敷地内をすいすいと、見事に乗りこなしていた。

 こういうところは、さすがはボス、ということだろうか。

 

 でも、今わたしが言ったのは、そういうことではなくて。

 もちろん、しょくりょうのほきゅうや、旅の足ができるのは、非常にありがたいのだけど。

「えっと、それだけじゃなくて。かばんちゃんのおかげで、くびわちゃんが自分のこと、教えてくれる機会ができたわけだし。だから、ありがと。」

 わたしが改めてお礼を口にすると、かばんちゃんは少し困ったような顔になって、

「それこそ、気にしないでいいよ。むしろ余計な心配をさせるようなことを言っちゃったから・・・。本当に、ごめんなさい。」

 そう言って、帽子が落ちてしまいそうになるくらい、深々と頭を下げた。

「・・・ぼくも、にげちゃって、ごめんなさい。」

「わたしも、しつれいなたいどをとってしまって、もうしわけありませんでした。」

 くびわちゃんとイエイヌちゃんも、同じように深く頭を下げる。

 そうして顔を上げた後、小さく微笑み合う。

 お互いに誤解していたことは、これで全部解消できた、ということだろうか。

 うーん、と思う。

 わたしには、あとひとつだけ、まだ気になることがあるのだけれど・・・、

 

「ひとつ、ともえちゃんに聞いておきたいことがあるんだけど。」

「へ? あたしに?」

 どうしたものかと考えを巡らせていたわたしの耳に、かばんちゃんの声が届く。

 なんだろう、と思っていると、かばんちゃんはとても真剣な顔で、こう言った。

「ともえちゃんは、旅をはじめる前は、どこにいたの?」

 ああ、そう言えば、話してなかったっけ。

「んー、と、そうげんのはしっこの方の・・・、なんだか建物の中、かな? ここの建物とちょっと似てる感じ、なんだけど。」

「そこで暮らしてたの? ひとりで?」

「えっと、そうじゃなくて・・・、」

 わたしはそうげんの建物で目覚めたこと、目覚める前の記憶がないことを簡単に説明する。

「だから、それまでどこで何してたヒトなのか、わかんないんだ。」

「そう・・・、なんだね。・・・ごめんね、答えづらいこと聞いて。」

 かばんちゃんは表情を暗くして、またごめんなさいを言ってきた。

 

 うーん。

 やっぱりそういう反応になっちゃうよね。

 あたし自身、みつりんでシーラさんにヒトのことを聞いたときとか、

 勘違いだったけど、かばんちゃんにセルリアンクイーンと言われたときとか、

 すっごく不安になっちゃってどうしようもなかったわけだし。

 

 でも、何故だか今は、自分の記憶がないことに、何の不安もない。

 ううん。何故だか、じゃないかな。

 そこには明確な理由がある。

「ぜんぜん! 気にしないでいいよ! イエイヌちゃんのおうちに行くのも、はじめは手掛かりがないかなって気持ちだったけど、今は単純に遊びに行きたいだけだもん。」

 言いながら、その理由をくれた存在を、まっすぐに見る。

 思えば、そうげんでひとり不安だったわたしを救ってくれたのも、やっぱりこの子だった。

「ね! 楽しみだよね!」

 その子はいきなりおはなしを振られて、わふ、とびっくりした顔をして、けれどすぐにぱたぱたとしっぽを振り、笑顔で答えてくれた。

「はい! たのしみです!」

 

 ― ― ―

 

 バギーの後部座席に座りながら、スケッチブックを開きつつクレヨンをくるくる回していると、前の方からぴゅいぴゅいという音がするのに気付いた。

 どうやら、助手席に座っているロードランナーちゃんが可愛らしい寝息を立てながら寝てしまっているようだ。

「ロードランナーちゃん、また寝てる・・・、」

「いろいろ、むずかしいはなしばかりでしたから。つかれてしまったのでしょう。」

 イエイヌちゃんはそう言うのだけど、この子、さっきのかばんちゃんの説明のとき、めっちゃばくすいしてたと思うんだけど。

 まあ、いっか。

 運転中のくびわちゃんとケンカして、事故でも起こされた日には、かばんちゃんに合わす顔がないし。

「イエイヌちゃんは眠くない? 大丈夫?」

「だいじょうぶです! むしろおそとにでられて、げんきになってきたくらいです!」

 たしかに、イエイヌちゃんは言葉通りに元気そうだ。

 なんだかこうして元気なイエイヌちゃんの姿を見るのも、しばらくぶりな気がする。

「あはは、たしかにそうかも。ラボの中でやけに静かだったもんね。イエイヌちゃん、狭いところはにがてなの?」

「いえ、そういうわけではなく・・・、」

 イエイヌちゃんはちょっとだけ困ったような表情になって、その先を続けた。

 

「やっぱり、わたし、あのかばんというかた、どうもにがてで・・・、」

 うーん。やっぱり、そっか。

 あえてはぐらかしてみたけど、やっぱりイエイヌちゃんは、らぼにいる間ずっと、警戒していたということ、なんだよね。

 まあ、それでも。

 昨日は『しんようできない』なんて強い言葉だったのが、『にがて』程度に落ち着いたのは、かばんちゃんのヒトとなりが、ちょっとだけでもわかったからだろう。

「昨日も聞いたけど、どうして?」

 その問いは、昨日は答えてくれなかったことだけれど、イエイヌちゃんが自分から話してくれた今なら、答えが聞けそうだと思った。

 その予想は裏切られず、イエイヌちゃんはくぅん、と小さく声を漏らして、答えてくれる。

「なにか、その、こわいかんじがして。」

「怖い? なんで? ぜんぜん、優しいヒトだったと思うけど。」

「わたしもそうおもうのですけど・・・、あのかたのにおいをかぐと、まえにみた、こわいゆめをおもいだしてしまうのです。」

 こわいゆめ、かぁ。

 ゆめって、たしか頭が記憶を整理しているときに見るんだっけ。

 こわいゆめ、なんだったら、過去に経験した怖い体験とかが、その原因だったりするわけだけど・・・、

 

「怖い夢って? どんなの?」

 夢の内容を知ることができれば、イエイヌちゃんの、かばんちゃんに対する苦手意識が、何にきいんしてるのか、分かりそうな気がする。そう思って聞いてみると、

「おさえつけられて、みうごきのできないわたしに、なにものかが、とがったものをさしてくるのです。とってもいたくてにげようとするのですが、にげられなくて。」

 え・・・、

 それって・・・、

「そのなにものかは、とがったものをぬくと、にっこりわらいかけてくるのです。ひどいめにあわせておきながら、そのひょうじょう・・・、そこしれぬきょうき、をかんじました。」

「ひょっとして、その何者かに、かばんちゃんが似てるの?」

「くぅん・・・、すがたかたちは、ちがうのですが、においがそっくりで。こんな、ゆめのことでこわがってしまって、いいだせなかったのですが・・・。」

 おはずかしいかぎりです、と結びの言葉を口にして、イエイヌちゃんはしゅんとしてしまった。

 うーん・・・、と、

 なるほど。

 あはは。

 そういことか。

 

「あー、そっか。あたし、なんとなくそれ、わかっちゃったかも。」

「ええ!? どういうことですか!? わたしのゆめとあのかたと、どんなかんけいが!?」

「ええと、あんまりうまく説明できないかもだけど、」

 そう前置きをして、わたしはたどたどしい説明をはじめる。

 イエイヌちゃんはときおり、ふむふむと相槌を打ちながら、わたしの話を黙って聞いてくれていた。

 そして、わたしが話を終えると、ぽん、と手を打ちながら、

「なるほど、わたしがフレンズになるまえのきおく、ということですか。」

 と、まとめるように言ってくれた。

 さすがイエイヌちゃん、りかいがはやい。

「そうだと思う。たぶん、病気にならないように、注射を打ってもらった時の記憶、なんじゃないかな? 予防注射、ってやつ。」

「よぼう、ちゅうしゃ。」

 はじめて聞く言葉なんだろう、オウム返しをするイエイヌちゃんに、わたしはそのまま話を続ける。

 

「姿かたちが違うのは・・・、ひょっとしたら、かばんちゃんもフレンズになる前、だったのかな。かばんちゃん、ヒトのフレンズだって、言ってたし。」

「なるほど・・・、たしかに、そうかもしれません。・・・ということは、」

 ハッとしたような顔を見せるイエイヌちゃんに、わたしは小さく笑みを見せながら、

「そうだね。それは怖い夢じゃなくて、優しいヒトに会った思い出、なんだと思うよ。」

 そのことを、教えてあげた。

 イエイヌちゃんはまた、くぅんとおはなを鳴らしながら、申し訳なさそうな顔で、来た道の方、らぼの方を眺める。

 そこに映る景色には、すでにらぼの外壁すらないけれど、何を思って視線を向けているのかは、痛いほどにわかった。

「・・・あとで、また会いに行こうね。」

「はい!」

 元気よくお返事をくれたイエイヌちゃんに、今度こそ気になっていたことをぜんぶ吐き出し終えたわたしは、すっきりとした気持ちでスケッチブックの7ページ目にクレヨンを走らせはじめた。

 

 ― ― ―

 

 ― ―

 

 ―

 

 ここは、ジャパリパーク。

 今日もたくさんのフレンズさんたちが、のんびり幸せに暮らしています。

 

 とっても頑丈な外壁に囲まれたラボの中で、

 フレンズさんたちがおはなしをしていました。

 

「えっとー。ひとつ、きになることがあるんだけどー。」

 

 そう言ったのはアルマーちゃん。

 何が気になるのかな?

 みんなにも教えてあげて?

 

「けっきょく、くびわさんは、リトルクイーンってものじゃ、なかったんだよねー?」

「そうですね。ヒトやフレンズさんとおともだちになれている時点で、それは間違いないことだと思います。」

「でもー、セルリアンのかつどうがかっぱつかしてるのはー、じじつなんだよねー?」

「・・・はい。その通りです。」

 

 ふたりとも、暗い顔をしちゃってる。

 セルリアンがいっぱいいるのは、怖いものね。

 なんとかならないかしら?

 

「・・・オオアルマジロさん。ひとつ、お願いを聞いてくれますか?」

「もちろんだよー。こまっているフレンズをたすけるのがー、『たんてい』のしごとだからねー。」

「うぅ・・・、すんすん・・・、」

「ほらほらセンちゃん、いつまでもおちこんでないでー。またあたらしい『いらい』だよー?」

 

 あらあら。

 センちゃんはふたりよりずっと暗い顔をしてるのね。

 さっきのことが、とっても悔しかったみたい。

 

「・・・、おちこんでなどいません。いま、つぎなるなぞをかぎあてるために、はなのちょうしをととのえていたところです。」

「あははー。さすがだね、センちゃん。」

「あたりまえです! たんていはこのていどでへこたれてはいられないのです!」

「それってー、あんにみとめてるきもするけどー。」

 

 よかった。

 センちゃん、元気になったみたいね?

 

「それで、いらいのないようと、ほうしゅうは?」

「詳しくは後で説明しますが、とあるフレンズさんを探して欲しいんです。報酬は・・・、」

「ほうしゅうはー、パークのへいわ、かなー?」

「いいでしょう! パークのききをすくうのも、たんていのつとめ! そうとなれば、すぐにでもいきますよ! アルマーさん!」

「センちゃーん。まだくわしいはなし、きいてないよー?」

 

 うふふ。

 ふたりの旅は、まだ終わりじゃないみたい。

 

 ふたりのフレンズさんたちの、楽しい旅は続きます。

 

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