ヒヨリミによる同人誌「冬物語」に掲載されている「雪狐らぷそでぃ」の続編的な立ち位置です。
(同人誌発表前に続編を発表する外道の行いをお許しください)
拝啓。天国のお母さん。
僕は元気です。オヤジも死の淵から化け物どもの力で持ち直しました。
それだけならよかったのですが……
「人を化け物呼ばわりするでない」と、オヤジの左手を離さない雪女。
「いい加減認めてくれんかの? 私がお前さんの母親じゃ」と、オヤジの右手を離さないロリ妖狐。
導入だけでも情報過多で大変です。
「ええ、離れんか、このケダモノがっ」
「お前こそ離れんか。私とこの人は、夫婦なんじゃぞ。め・お・と!!」
「あらあらー、妖術で騙されていたのねー。お可哀そうに。
今晩は私が温めて差し上げますからね。初めて出会ったあの晩のように!! この狐とあなたが出会う前のあの冬の晩のように!!」
「やめるのじゃ、低体温症で殺す気か!!」
ふたりの妖怪に挟まれて、当のオヤジは「はっはっはー」と笑うばかりで、大してふたりを止めるわけでもない。
いい加減うるさいのでやめて欲しいんだが……。
もとはと言えば一人に絞らないオヤジが悪い。
だというのに「惚れた側の弱み」などとわけのわからないことを言って結論を先送りにしているから手に負えない。
あぁ、はやくこの家とオサラバしたい……。
半ば諦観の境地に達しながら、現実的な策を練っていると
ぴんぽーん
と来訪者を告げる電子音が響いた。
「はーい、今行きます」
逃げ出すチャンス、とばかりにオヤジがすっと立ち上がりふたりを引き剥がした。
未練がましく縋り付こうとする妖怪ふたりを振り払い、玄関にたどりつき、扉を開ける。
こっちの角度からだとよく見えないが、どうやら女性のお客さんらしい。
「あの……先日罠にかかっていたところを助けていただいたアザラシです」
そう言ったかと思うと、女性はオヤジに抱き着いた。
「あなたの赤ちゃんが欲しい」
消え入るような声で告げる可憐なアザラシの声。
対して
「*+!”#%」
とても書き記せないような呪詛を吐くふたりの妖。
少なくとも片方の血が俺に流れてるとか考えたくない。
「なんなんですの、あなた!! ちょっと非常識じゃありません?」
ビシィっと狐娘がアザラシ娘を指さす。
そーよそーよ、と雪女が援護射撃をしている。
「だって……一目惚れだったんだもん」
とアザラシ娘が涙目でつぶやく。
(こと妖怪に関して見た目では判断できないのだが)歳の頃は15歳くらいだろうか。
ロリ狐と雪女のちょうど中間ぐらいの年齢に見える。
ゴスロリというやつだろうか……黒のフリフリしたワンピースを身に着けている。
我が家に居候しているふたり(着物)よりは大分現代的な服装ということになる。
さて、アザラシ娘は大きな過ちを犯していた。
見た目で判断できない妖界隈においては、貫禄が全てを物語るのだ。
彼女の気弱さから、格下の相手だと確信したのか、雪女とロリ狐が更に語気を強めていく。
「泥棒猫!! 泥棒アザラシ!!」
「鍋にして食っちまうぞ。やったな、息子よ。今晩はアザラシ鍋よ!!」
げへへ、と笑う二人。さっきまでケンカしてたのはどこへやら、今ではアザラシ鍋を連呼して仲良さそうに踊っている。
涙目でぷるぷる震えながら、アザラシ娘はオヤジにしがみつく手を強めた。
「あの……今日は海の幸をふんだんに使った鍋をご用意させていただきます。
私を食べるのだけは……勘弁してください」
「まぁ、こう言ってることだし……」
なおもアザラシ鍋を連呼するふたりを制止したのはオヤジであった。
これが新しい火種になる予感しかしなくて、俺は大きくため息を吐いた。
「さぁ、出来ましたよ」
アザラシ娘がエプロンを身に着けて、食卓に鍋を置く。
なまじっか(見た目の)年齢が近いだけに、女の子のエプロン姿はちょっとドキドキしてしまう。
「おやおや、息子が思春期じゃのぉ」
「こんな娘がお好みかい? わからないもんだねぇ」
おっほっほ、と声を合わせて笑うふたり。
そうかそうか、とオヤジまで笑顔になって、
うぅ、こんなにやりずらいのは初めてだ……。
「おぉ、なかなかの美味だの」
「身体の芯まで温まって、溶けてしまいそうじゃ」
宴もたけなわ、雪女ジョーク(?)が出てきたところで、本題に入ろう。
「それで、オヤジが君を助けたって?」
「はい。海で縄に引っかかっているところを、助けていただきました」
あざらし娘が熱い視線をオヤジに向ける。
別の意味で熱い2つの視線が彼女を射殺そうとしていることには気付いていない。
……いや、気付かない方が幸せだろう。
「ふむ。申し訳ないがそんなこと、記憶に……」
オヤジはというと、どうも思い出せないようで、今にも泣き出しそうな彼女の目をのぞき込んでいた。
「あっ!! あの時の!!」
どうやら思い出せたらしい。
アザラシ娘の顔に可愛らしい笑顔が咲いた。
オヤジ曰く。
雪女&化け狐の秘薬で驚異の回復をしたのち、自分の限界が知りたくなったのだという。(病人は大人しくしてろ)
そこで寒中水泳という選択をしたらしいんだが、どうにも身体が疲れを教えてくれず、結局島を一周泳ぎ切ったのだという。
その際に網に引っかかったアザラシを助けたような気がしなくもないらしい。
「病み上がりでなんてことしてんだ」
アザラシ助けたとかどうでもいい。とりあえずこの馬鹿オヤジを殴らねばなるまい。
「いやぁ、あそこまで元気になってるとは思わなかったよ」
ありがとうな、ふたりとも。とオヤジが雪女と妖狐に礼を言う。
頬を赤らめながら「お前を殺すのはこの私だからな」と、ふたりしてどこぞの星の王子のようなことをのたまった。
「まぁ、そういうわけなんでお礼とかいいのでお引き取りください」
どういうわけかわからないけど、勢いで押し通してしまおう。
これ以上面倒くさいのが増えるのは、俺としても本望ではない。
そりゃ……確かに、可愛いとは思うけど。
オヤジに惚れているのであれば、多分俺に勝ち目はない。
(……あいつ、人外に対しては歩くフラグ製造機だからな)
今わの際に人外ふたり召喚するとは思わないもんなぁ。
はぁ、と俺は大きくため息をつく。
対してアザラシ娘の反応は思ったものと違うものであった。
俺は彼女が泣きながら海へ帰る未来を想像していた。
この場の誰もがそうだっただろう。
正直この娘を舐めていたと先に謝罪しておく。
「そろそろ効いてくる頃ですね」
アザラシ娘がそう言った時、狐娘が倒れた。
続いて雪女、オヤジ……
「何が起きて……」
突然襲ってくる眩暈、そして体の痺れ。
上体を支えていられず、俺もその場に倒れるのであった。
「おやすみなさい。次に起きる時は、義母(ママ)と呼んでくださいね」
さすがにそれは背徳的すぎて、勘弁願いたい。
そう思いながら、意識が暗闇に閉ざされて……。
*****
目を覚ます。
……朝だ。昨晩あったことを思い出すように頭を振る。
なにか、大変なことがあったような……。
そうだ!!
慌てて周囲を見回す。
鍋を囲むように寝転がる俺、雪女、狐娘、オヤジ……そしてアザラシ娘。
……は?
なんで全員仲良く昏倒してるんだ?
話の流れ的に、食事に薬物を混ぜたアザラシ娘がオヤジを攫って行くか、既成事実を作ってるかと思ったんだが……。
「おい、起きろ」
話がややこしくなるのを恐れ、まずはアザラシ娘の身体をゆさぶる。
女の子の柔らかい身体を触るのに妙な罪悪感を覚えるが、そんなことは言ってられない。
「ふぇ?」
アザラシ娘が目を開く。どうやらまだ寝ぼけているらしい。
「やだ、ごめんなさい。私には心に決めた人がいるの」
身体に触り続けていたせいか、妙な誤解を与えてしまった。
あと何もしてないのにフラれた。マジヤミ。ちょっと消えたい。
いや、そうじゃなくて……。
「どういうことか、説明してもらおうか」
「あぁ……うん」
観念したのか、彼女は己の所業を白状し始めた。
鍋に薬物を混ぜたところまでは順調だったらしい。
問題はその鍋が美味しく作れすぎてしまったところだった。
味見がしたい衝動を抑えきれず、みんなで一緒に食卓を……。
「あぁ、そういえばみんなで食べたもんね」
結果はこのざま。
オヤジを寝取るどころか、みんなで仲良く眠ってしまったと。
「まだチャンスはあるわ。この精力剤を……」
ぬぅっとふたつの影が彼女の後ろに浮かび上がる。
言わずもがな、雪女と狐娘だ。
ふたりは手にしたロープでアザラシ娘を縛り上げると……
「さぁ、その精力剤を出しなさい」
「出さないと鍋にするわよ」
ぺちぺちと、彼女の頬を叩き始めた。
いや、絵面的にちょっとまずいんじゃ……。
「知らないの? アザラシの作る精力剤は、やばいくらいの効き目があるのよ」
はい。そんな情報知りたくなかったです。
「弟と妹、どっちが欲しい? そんな……両方だなんて///」
いいえ、何も言ってないです。というか、このロリ妖狐が子供産める身体なのが、謎すぎです。
「これは我が同胞たちの命の結晶……けっして他の種族に渡すなど……」
ぺちぺちと顔を叩かれながらも、必死の抵抗を続けるアザラシ娘。
自業自得なんだけど、なんか可愛そうなんだよなぁ。
「いいわ。身体に聞くまでよ」
「え?」
雪女と狐娘の手が、彼女の身体をまさぐる。
「くはっ、うひっ、くすぐった……」
問答無用で全身をわきわきするふたり。
いや、まぁ、真剣に探しているんだろうけど……それだとくすぐってるようにしか見えないんだよなぁ。
平和的手段に越したことはないんだけど……。
「だめっ、だめなのぉ/// くひぃ、ふっふぅ、ひゃん///」
ちょっとドキドキしてしまう。
さすがに……
「その辺にしておきなさい」
オヤジが妖怪ふたりの手を掴み、アザラシ娘から放した。
その後ロープを解いて彼女を解放した。
「もういいだろう。すまなかったね、君」
オヤジに助けられて、うっとりした目を向けるアザラシ娘。
頬が上気しているのは先ほどまでの乱痴気騒ぎのせいだろう。
「私には、あなたしか居ないんです」
なぜか切実に、オヤジに告げる。
「何か理由があるのかね?」
アザラシ娘は目を伏せて、
「アザラシが精力剤を作るのに必要なものを知っていますか?」
そう言って胸元に入った小瓶を取り出した。
「おい、まさか……」
狐娘が驚きの声を上げる。
「はい。これを作るのに必要なものは、アザラシの雄の性器です」
「おいおい」
小瓶には、溢れんばかりの丸薬が詰め込まれている。
「これだけの量を作るのに、どれだけの同胞を犠牲にしたことか……」
「大分イカれてんぞ」
「ですから、私は、あなたと子供を作らなければいけないんです!!」
狂っている。
狂気を孕んだ娘の告白に、誰もが気圧されていた。
「私にはあなたしかいないんです。さぁ、存分にまぐわいましょう?」
そう告げて、アザラシ娘がオヤジの頬に手を当て……キスを……
させてくれるような妖怪ふたりではなかった。
その口に昨晩の鍋の残りをぶちこむと、回れ右をさせる。
「はーい、おかえりくださーい」
「ちょ、ちょっと……私また倒れちゃうんですけどぉ」
「種族を滅亡させるデストロイヤーは、どこぞで勝手に行き倒れてくださいねー」
「一晩だけ!! 一晩だけでいいから!!」
「はーい、帰ってくださーい」
「じゃあ、一緒に帰ろ?」(媚び
「一晩だけなら」
「オヤジ!!!!」」
「据え膳喰わないのも可哀そうだろ」
「知らん!!」
「冷たい人間に育ったな、お前……」
「人としては正解だよ!! オヤジより真っ当だよ!!」
「じゃあ息子くんでもいいよ」
「……えっ」(ドキッ)
「はーい、ダメですぅ。息子をそんな悪の権化には渡せませんぅ」
「ちょっと、勝手に」
「さすがに局部カッターと息子を付き合せられないわぁ。母さん、反対だわぁ」
「わかった。妥協します。みんなで、ってのはどう?」
「…………」
「…………」
「考えるのかよ!!」
「アリ……ね」
「考えてやらんでもない」
「仲良きことはいいことかな」
もういやだ。はやく家を出たい……