唯一無事だった頭部がうらめしげにねめつける。
「あんたのせいよ、さっさと直しなさいよ!!」
その日から石炭売りの少女人形の災難が始まった。
蒸気街下層、石炭売りの
「ど、どうしよう……」
あたりには粉塵が立ち上り爆発跡が地面に穿たれていた。
そこにはガレキのほかに、元は真鍮人形の部品だったと思われる破片も散乱していた。
「スーベニアさんをばらばらにしちゃいました……」
彼女の知人であるスーベニア=マニバス、その特徴的な鉤爪つきの両手をつかみとってつなぎ直そうとする。しかし、機械技師がみたら無言で首を振るほどの状態となっていた。
「おいこら、石炭売り、はやくなんとかしなさいよ」
「そんなこといっても……」
地面に転がる中で唯一無事だった首だけがゴロンと転がって、石炭売りの少女をねめつける。
オブスキュールは思い出す。
どうしてこんなことになってしまったのかと……。
その日はいつも通り道行く
彼らのエネルギー源となる石炭を毎日売ってまわるのが、彼女の日常であった。
その日の売り上げはいつもより多く、ほくほく顔だったがすぐに硬直する。
「いいところにいたわね、石炭売り! ちょうど小腹がすいていたのよ」
以前、出会って以来知り合いとなった真鍮人形の少女がにやにやといやらしい笑顔を浮かべながら近づいてくる。
咄嗟に逃げようとするオブスキュールを、スーベニアの手が巨大な獣の顎のようにつかみとる。
「……あの、この前とその前の代金ももらっていないのですけどぉ」
「大丈夫、ちゃんと払うから、今は財布忘れてきたからしょうがないよね? ね?」
肩に置かれた手に力がこめられるのを感じながらオブスキュールの表情が強張る。
「そろそろうちの工場で新しいジャンクパーツを入荷しないといけないんだけどさぁ」
「わ、わかりました!!」
「そう、ありがとね」
観念したように肩を落とすオブスキュール。
スーベニアは上機嫌で彼女が提げていたバスケットから、石炭をひょいとつまみとる。
しかし、無作法につまみとるたびにバスケットの中身がばらばらと地面に散らばる。
オブスキュールは泣きたい気持ちになりながら、地面に転がった石炭を拾い集めた。
その間にもスーベニアは、バスケットの中からどんどんと石炭をつまみ上げていった。
そして、底の方に残された大ぶりの石炭をつまみ上げたところで、オブスキュールの表情が一変する。
「だめです! それは!?」
「なあに? とっておきってやつ?」
にやりと口の端を持ち上げながらスーベニアは、手に持った石炭を口に運びこんだ。
石炭が内蔵された蒸気炉の中に入った途端、スーベニアの体が一瞬大きく膨らんだ。
慌てて地面に体を伏せるオブスキュール。
数瞬後、あたりに響く爆発音。
突然の爆発に慌てふためく群集たち。
―――
――――――
―――――――――
そうして、これまでの事を思い出したオブスキュールは、再び地面に転がるスーベニアの頭部を見つめる。
「なによさっきのは! わたしの体が台無しじゃないの!」
「……護身用にしのばせていた爆発性石炭です」
自分にまったく非がなく、さきほどから早くなんとかしろとわめきちらすチンピラまがいの真鍮人形をこのまま放置して逃げようとも考える。
しかし、もしも逃げたら犯人としてオブスキュールの名前を警察に教えると脅され、仕方なくスーベニアの修理に向かうことになった。
たどりついたのは蒸気塔中層の一角に立てられた工場。
庭先には雑然とつまれたスクラップと化した真鍮機械などの残骸がつまれている。
それらは雨ざらしになり、表面に錆がういていた。
商品のずさんな管理に、いやな予感がしながらも工場内にはいった。
そこは、まるで夢の島。
混沌とした空間が広がっていた。
「ほらほら、はやくしてよ。首だけとか不便でしょうがないじゃない」
こいつもこのスクラップの山の一部にしてやろうかと思いながらも、オブスキュールは部品の選別にとりかかる。
しかし、どれもこれもが、正しい解体手順に沿ったものではなく、力任せにねじきったようなものばかりであった。
「あの、他の従業員の方はいないのですか?」
「この工場にいるのはわたしとマスターだけよ。まだマスターは帰ってきてないみたいね」
このまま、スーベニアのマスターが帰ってくるまで待たないといけないのだろうか、と頭を抱えたい気分のまま、スーベニアの頭を抱えて途方に暮れた。
「スーベニアー、冷やかしにきてやったわよー」
オブスキュールが目をむけると、そこには日傘をさしたドレス姿の女性が立っていた。
しかし、彼女の顔の半分以上が
彼女の姿を目にして、オブスキュールは期待した。この真鍮人形がスーベニアのマスターの知り合いかもしれない。
「げっ、あの女……、なんでこんなときに来るのよ。ほら、さっさと隠れなさい」
「えっ? どうしてです?」
「いいから、はやくしなさい」
はやくはやくと急き立てられるまま、オブスキュールはスーベニアの頭部を抱えて、こそこそとスクラップの山に隠れようとした。
しかし、その姿を追って赤いレンズがきらりと光を放つ。
「だめよー、私の優秀なセンサーの前でかくれんぼなんて、無駄無駄。ほら、みーつけた」
二人を見つけたヒエロドルテの視線は頭部だけになったスーベニアに固定される。驚いたように口元を手でおおったあと、大笑いを始めた。
「あらあらあらあらぁ、ずいぶんと楽しいことになっているじゃないの~」
「うるさい、うるさい!! 後でおぼえておきなさいよ!! マスターさえ帰ってくればあんたなんて」
「あらあ、そんな格好ですごんでも全然迫力がないわよ~。それに、ディシー博士は当分もどってこないんじゃないかしら?」
ヒエロドルテが指差す先には一枚の書置き。
『しばらくさがさないでください。ディシー』
涙のあとで滲んだ筆跡を見ながらスーベニアは、今朝のできごとを思い出していた。
「なにかあったのですか?」
「あんまりうっとうしく絡んでくるものだから、いいかげんにしてって言って飛び出してきたのよ」
「それだけ……ですか?」
「どうせ、すぐに戻ってくるでしょ。それまではあんたがわたしの手足の代わりね!」
「えぇーー!! わたしには石炭売りの仕事が……」
「いいじゃない、ここなら中層ではたらけてあんたもハッピーでしょ」
押し切られたオブスキュールはスーベニアの代わりにスクラップ工場の店長代理して働き始めた。
空いた時間にスーベニアの新しい身体をつくっては、気に入らないとダメ出しされた。
スクラップ工場にやって来た客の相手をすると、スーベニアよりも愛想もよくて計算も間違えないと褒められた。
それを聞いてむくれたスーベニアに八つ当たりをされる毎日を送るのであった。
「……あのスーベニアさん、マスターさんはいつ帰ってくるのですか?」
オブスキュールの質問には「さあ? そのうち?」という答えしか返ってこなかった。
二面がクリアできないトラウマをこめて書きました。